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九州大学学術情報リポジトリ

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

デントウテキ ケイカン ヲ ケイショウスル チ イキ ノ ケイカン カンリ ノウリョク ニ カ ンスル ケンキュウ

高口, 愛

八女市役所

https://doi.org/10.15017/18256

出版情報:Kyushu University, 2009, 博士(芸術工学), 論文博士 バージョン:

権利関係:

(2)

序 章

1. 研究の背景

現在、都市部とそれ以外の地方の経済格差が拡大し、地方は経済的、文化的に衰退 傾向にある。こうした厳しい状況の中で、地域文化と伝統的景観の継承は、文化の多 様性と地域住民の地元への誇りと愛着の保持、定住人口や交流人口の増加にとって、

今後さらに重要性を増していくことは必至であるといえる。

昭和

50

年(1975)の文化財保護法改正により、伝統的建造物群保存地区(以下、

伝建地区)の制度ができた。そのため伝建地区であれば、伝統的景観の継承の多くが 可能となっている。この制度を成り立たせているのが景観管理の概念(後述)である と言え、同じ建造物でも単体の指定文化財とは保存の思想と方法論が大きく異なる。

伝統的な町並みには、その文化財的価値そのものである地域空間のなかに活きたコミ ュニティが存在し、その住人が現代人として当然の生活向上や経済的発展を遂げなが ら、取りまく生活環境の文化財としての価値をも維持・継承するという無理難題を解 決しなければならない。

かつてそれらを形成し育んできた社会経済状況や物的条件等の環境条件が大きく 変容した現代において、伝統的建造物群を維持、継承していくには、自治体を含めた 地域社会がその対象とする価値を明確に把握し、その価値を再生産し高めていくため のシステムを構築し運用していく能力(=capacity)を新たに獲得しなければならな い。前述の無理難題を解く鍵は、地域社会がこうした能力を備えうるかどうかにかか っていると言え、伝建地区制度もまたこうした地域社会の存在に依存して成り立って いる制度であると言えよう。本研究では、こうした能力を景観管理能力と呼び、地域 社会が如何にしてその能力を獲得し発展させる(=capacity building)かに視点を見 出した。

伝建地区に限らず、広く近年の景観まちづくりにおいては、居住者が自らの地域景 観の特性や固有性を理解、認識し、その保存・保全や形成を担う能力、すなわち景観 管理能力を備えることが求められるようになっている。このことは、景観法が、住民・

市民と行政を含めた地域社会による主体的な景観形成を前提としていることに如実に 現れている。

当然ながらこの景観管理能力の担い手である地域コミュニティと自治体が果たす 役割は、地区の性質によって異なる。

例えば伝建地区において個人が建造物の修理や修景を行う際、中山間地域の小さな 自治体の中にあって村落共同体的なコミュニティが今も残るような地区では、現代に おいてもなお資材調達や屋根葺き等の作業において地域固有のシステムが部分的にせ

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よ継承され機能している例も少なくないが、伝建地区における修理修景という特殊な 行為には、近代的な建築生産システムでは資材調達や技術、経済性において対応でき ない側面がある。一方で都市部の自治体の中にあってかつての地域を支えたコミュニ ティが完全に解体したような伝建地区においては、市場経済下における近代的な建築 生産システムに頼る他はない。

また、制度運用における住民組織と行政の関係において、前者のような地区では、

住民組織が主体となって伝建制度を運用しそれを行政が支援する形態をとる方が自然 でありふさわしく、後者の場合には実質的には個々の市民対自治体という近代的な関 係を基本として制度が運用されるであろう。

このように、伝建制度により伝建地区で伝統的景観の多くが継承されているが、先 述のような問題を現代において如何に解決するかが景観管理の重要課題となる。

また、歴史的資源をいかしたまちづくり制度が拡充しつつある中で、より多くの地 域で、これまで伝建地区で培われた経験が伝統的景観を継承していくための取り組み の導入モデルとして求められている。

2. 研究の目的と方法

伝統的景観の保全をおこなうには、地域社会が意識的、制度的に取り組む必要があ るため、その主体となる地域社会には、高度な景観管理のための能力が求められる。

本研究では、まずより原型的な伝統的景観管理の形態が残る農村集落の伝建地区に おける伝統的景観管理のシステムを明かにし、伝統的景観の継承のために地域社会に 必要な景観管理能力とこれを発展させるための条件を明らかにした上で、都市部の伝 建地区における現実的解を示す。さらにこれをもとに一般化し、伝建地区に限らず、

地域が伝統的景観の継承に取り組む際に指針となる枠組みを試論として示すことを目 的とする。

方法として、まず

1

章で岐阜県大野郡白川村の荻町伝建地区(以下、荻町)、

2

章で 沖縄県八重山郡竹富町の竹富島伝建地区(以下、竹富島)における伝統的な景観管理 の実態と現在に至る経緯を明らかにし、

3

章では、

2

地区のその後の町並み保存運動の 展開と重伝建地区への選定の経緯、そして観光振興を原動力として景観管理能力を発 展させたプロセスとその成果を分析することで、地域が備えるべき能力としての景観 管理能力の内容、およびその能力が発展する条件を明らかにし、この枠組みを仮説と して提示した。さらに

4

章では、福岡県八女市の八女福島伝建地区(以下、八女福島)

においてこの枠組みを検証し、結章において枠組みを一般化し結論としている。

(4)

3. 対象事例の選定理由

本研究が対象事例とする地区は、いずれも国選定の重要伝統的建造物群保存地区で あり、荻町と竹富島は、背景において述べた中山間地区における景観管理の問題が最 も顕著にあらわれている山間と離島の集落であり、伝統的景観管理が相互扶助の形態 を始めとして比較的よく継承されており、伝統的集落景観の形成後に引き起こされた 大きな社会状況の変化を経て、町並み保存という意図的でかつ近代的な取り組みが成 功し、その伝統的な集落景観が継承されている先進事例として位置づけられる。

また八女福島は、先の

2

地区と比べて保存の取り組みの経験が浅く、市場経済下に おける近代的な建築生産システムの中にある平野部に位置し、地方の小規模な自治体 であって、まだそれほど町並み観光に特化していないという点で一般的事例といえ、

かつ住民組織と行政、NPO 法人等の民間組織が協働して伝統的景観の継承にあたって の現代的課題に取り組んでいる点が先進的である。

4. 用語の定義

本研究における「景観管理」とは、景観が具現する文化や環境の快適さや美しさに 対する愛着や誇りを根底とし、地域景観の特性を自覚した住民や自治体、民間企業等 からなる地域社会が主体となって、専門家や外部支援者とともに、地域景観の将来目 標像に対する合意を形成しつつ、その実現を目指すための行為を指す。この実現のた めには、組織やルールをつくって運営し、資金や技術を調達する必要がある。

「景観管理能力」とは、この合意された将来景観の創出を実現するために地域に必 要な能力であり、法的規制や公的事業制度、外部からの支援・交流によって補われる 部分もある。「能力」であるため、必要に応じて新たに獲得し発展させることができる ものととらえられる。

当然ながら、多くの伝統的町並みが形成された近世から戦前にかけての時代におい ては、町並み保存運動に見られるような地域社会の目的意識や将来像に対する合意は なかった。しかし当時の自然環境や資材調達、建築技術、社会的制約といった環境条 件下で最善の環境を得ようとする努力が、景観を修練させる制約条件=見えざる手と して働いていたとみなすことができ、本研究ではそれを「伝統的景観管理」と呼ぶこ ととした。

さらには、地域が景観管理能力を獲得するため、あるいはそれを発展させるために は、それに必要な条件があると考え、これを「景観管理能力の発展条件」とした。

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5. 研究の位置づけ

本研究は、伝統的景観の継承のための景観管理を、伝統的景観の保全を目的とした 新たな行為の総体ととらえ、地域が伝統的景観を継承していくために必要な能力と発 展条件を先進事例の取り組みから抽出して一般化することで、それを伝統的景観保全 の導入プログラムとして活用するための枠組みを示すものである。

伝統的景観の継承に関する既往研究としては、まちづくりのための住民組織に関す るもの、町並みにおける観光に関するもの、町並み保存に対する住民意識に関するも の、伝統的景観の維持管理の支援体制に関するものがある。

まちづくりの住民組織に関するものとして、松本ら1)は、自治会などの既存組織や 町並み保存組織などのまちづくり団体による「市民組織の活動」と、行政による河川 整備や街路整備、伝建事業等の「まちづくり事業」、補助金を受けないものも含む伝統 的建造物の修理・修景による「街並み景観形成」の三者が相互に関連しながら継続的 に展開することが地域社会の活力につながるという視点から、市民組織の発足要因と まちづくり事業の契機の把握、三者の時系列分析によって、相互に影響を与えながら 展開していったプロセスと要因を明らかにしている。

本研究では、住民組織に関しては、景観管理主体のひとつとして、コミュニティと の関係、相互の協力関係や役割分担という視点から分析している。

町並みにおける観光に関する研究として、大森ら2)は、「観光客を受け入れる地域 が主体的に取り組む観光地形成のための」行為を、「観光活動設計」と位置づけ、町並 みが重伝建地区に選定されるまでの観光活動の経緯分析と住民および観光客へのアン ケート調査をもとに、観光資源整備である「空間設計」、観光客にたいして資源の魅力 を伝える「演出設計」、意図する客層を誘致する「誘致設計」の相互関係から「観光活 動設計」の分析を行い、「各設計は設計全体に対する独自の目的と役割を持ちながらも 相互補完的でありまちづくりでは各設計がバランスよく繰り返されることが重要であ る」ことを証明している。

また同じく大森ら3)は街環事業、伝建制度を利用した「町並み整備の発展の経緯と 課題を明らかにすること」を目的に、住民および技術者へのアンケート調査、町並み 整備や現状変更行為の調査、観光客へのアンケート調査をもとに、町並みが持つ「文 化財としての価値」「生活環境としての価値」「観光資源としての価値」の三つの価値 を用いた視点から分析することにより、町並み整備の発展の経緯とそれらが住民に与 えた影響および課題を明かにし、「町並み保存型の観光地形成を目指している地区では、

(中略)三つの価値を守りお互いのバランスをはかりながら町並みを維持していくこ とが、良好な町並み景観を形成しまちづくりを進めていく条件になる」ことを示して いる。

本研究では、観光活動により地域が活性化することにより得られる景観管理能力に ついて明かにしている。

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町並み保存に対する住民意識に関する研究について、大島4)は、「地域のアイデン ティティとしての伝統的景観に対する住民意識」や「町並み保存に対する住民意識」

に関する議論がこれまでなされておらず必要であるという視点から、伝建地区内の住 民の町並み保存と個々の住居に対する意識をアンケート調査によって比較し、「生活空 間としての住居と町並みとの共存を図る地区内住民の見解」を検証しており、その中 で、町並み保存を支持する理由は「歴史的財産のPRになる」など「地域への愛着」

を示すものとなっており、「経済的効果」のみを町並み保存に求めているわけではない ことを明らかにしている。

同じく吉田ら5)は、伝建地区とその周辺地区の景観形成において、制度の整合性と 住民の意向を考慮することが求められており、地区内外の住民の「町並み保存に対す る意識を測る指標の更なる検討が求められている」とし、町並み保存意識を「伝建地 区制度(許可申請方式、補助・優遇措置)の認知度」、「保存活動への参加意識」、「地 区指定範囲の拡大への賛意」を指標として、行政担当者へのヒアリングと住民アンケ ートにより、伝建地区内外の住民の意向を明らかにし、伝建地区内外の一体的なまち づくりの手法について検討している。

本研究では住民意識については、ヒアリングや既存報告書等から把握し、それが景 観管理にどう影響を与えているか明らかにしている。

伝統的景観の維持管理の支援体制に関するものとして、辻ら6)は、伝統的な土地利 用によって形成されてきた集落景観の維持管理が困難になっている山間集落において、

景観保全に関する制度や事業は「集落の共同作業や材料の循環システムをかえって衰 退させてしまっている」という問題意識のもと、「集落の景観を形成・維持・管理して きた伝統的な共同のしくみを「伝統的景観維持管理システム」と名付けて、ヒアリン グと参与観察によりこれを明かにし、その機能を生かした支援方策を提案している。

本研究では、伝統的景観管理の実態を明かにした上で、さらに住民のまちづくり 組織と行政の取り組み、観光活動にも着目し、伝統的景観の継承の総体について明ら かにしている。

本研究は、住民が主体となって伝統的景観を継承していくためには、そのための能 力が必要であるとして、その能力には地域が従来持っているものと制度や外部の支援 により新たに獲得したものがあり、能力であるから必要に応じて新たに獲得し発展さ せることができるとしている点に独自性が見いだせる。

また、八女福島の事例においては筆者が実際に町並み保存に携わる行政担当者であ り、その観点から市民組織と行政の協働を中心に景観管理の課題について示す点につ いて本研究の意義と既往研究との差異が見いだせる。

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【参考文献】

1) 松本清吾・野嶋慎二・塚本雅則「持続的なまちづくりと連動した街並み景観形成に関する研究:

滋賀県近江八幡市の事例より」日本建築学会計画系論文集No.565,pp193-200,2003

2) 大森洋子・西山徳明「歴史的町並み地区における観光活動設計に関する研究 〜福岡県吉井町を事 例として」1997年度都市計画学会学術研究論文集,pp277-282,1997

3) 大森洋子・西山徳明「歴史的町並みを観光資源とする地域におけるまちづくりに関する研究 〜筑 後吉井の町並み保存事業を事例として」2000年度都市計画学会学術研究論文集,pp811-816,2000 4) 大島規江「伝統的建造物群保存地区における町並み保存に対する住民意識 〜長野県楢川村奈良井

を事例として」日本建築学会建築計画系論文集No.590,pp81-85,2005

5) 吉田倫子・上村信行・宇高雄志「町並み保存地区内外の住民の町並み保存に対する意識の差異 〜 竹原重要伝統的建造物群保存地区を事例として」日本建築学会計画系論文集 No.618,pp89-96,

2007

6) 辻美沙緒・大富絢子・増井正也「伝統的集落における景観保全の支援体制に関する研究 〜徳島県 三好市東祖谷の山間集落における伝統的建造物を事例として」日本建築学会建築計画系論文集 No.635,pp91-97,2009

参照

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