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『ブラックバイトの 驚くべき実態とその対処法』

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2018 年度春季人権週間プログラム講演会

日時:2018年6月29日(金) 18:30~20:30 会場:立教大学 池袋キャンパス 8号館 8202教室

『ブラックバイトの

驚くべき実態とその対処法』

講師 渡辺 寛人 氏 (NPO 法人 POSSE 事務局長、 ブラックバイトユニオン共同代表)

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○渡辺 私たちは 2006 年からずっと NPO として活動してきましたが、2014 年には色々な課 題に応じて労働組合をつくっています。例えば、エステ・ユニオンは、エステ業界の問題に 取り組んでいるユニオンです。ブラックバイトユニオンについては今日、お話しします。あ とは個別指導塾ユニオン、介護・保育ユニオン、最近では私学教員ユニオンという形で、私 立の主に高校ですが、中高の学校の教員の問題にも取り組もうということで、幅を広げて業 界の改善に取り組む活動をしています。

【意外と知らない労働法 -あなたのバイト先は大丈夫?-】

それでは、今の若者の働き方、特に大学生の働き方を、ブラックバイトの問題を通して考 えていきたいと思います。まず、学生の皆さんにとって労働法というのは、自分から学ぼう としない限り勉強する機会が実はほとんどありません。今、高校生でも結構働いていて、大 学生は当たり前のようにアルバイトをしていますし、その後、就職して働くのですが、意外 とルールを知らないまま働いているケース

が多いですね。ですので、皆さんがどれだけ 知識があるかというのを事例を出しながら 質問していきますので、一緒に考えていただ けたらと思います。まず、時給についてです。

アルバイトの多くは時給で働いていますが、

では、この時給は一体、何分単位で支払われ るべきものでしょうか。これは「1分単位」

が正解です。ただ、多くのアルバイト先で 15 分単位、30 分単位が当たり前になっていま

す。特に高校生や大学生で初めてアルバイトをする人が、最初に「うち、時給計算 30 分単 位だからね。20 分まで働いても、30 分を超えなければ切り捨てだからね」と言われると、

「ああ、そうですか」と言って特に何の疑問も抱かずに、「そういうものなんですね」と納 得してしまって、実は違法行為に巻き込まれていくということが多々あります。意外と知ら ないところですね。

2つ目も、これも皆さんご存じの方が多いかと思いますが、例えば飲食店でアルバイトを していて夕方5時からシフトに入っている場合、だいたいこう言われます。「シフトどおり 5時から働き始められるように、10 分前にはお店に来て制服に着替えて、準備をしてくだ さいね」。では、その早く来た 10 分の給料は出るか、出ないかというのが2つ目の質問で す。これも「出る」が正解です。仕事に必要な準備の時間というのは、給料を支払わないと いけないというのが基本的な労働法の考え方になっています。実はこれが大問題になって いるのが個別指導塾業界です。個別指導塾業界というのは、「コマ給」といって、90 分1コ マ 1,500 円、1,600 円といったようにコマに対して給料を支払うという仕組みが蔓延してい るのですが、これを時給に直すと 1,200 円ぐらいになるので、割がいいと思って多くの学生 が講師として働いています。でも実際は、そのコマの授業のために 20 分、30 分の予習が必 要で、「早く来てください」と言われます。授業が終わった後は、「生徒のための書類を記入 してくださいね」「ミーティングに参加してくださいね」、あるいは「生徒に対応してくださ

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いね」と言われて、これがまた 20 分、30 分あるので、授業の前後に1時間ぐらいただ働き をする必要がでてきます。これを含めて時給換算すると、実は 500 円とか 600 円ぐらいで 働いている人たちがすごくたくさんいます。当然違法なのです。ちゃんと請求すれば支払わ れるのですが、みんな「そういうものなんだ。コマにしか支払われないんだ」ということを 受け入れてしまっているので、そのような働き方が蔓延してしまっているのです。

では、次は有給休暇についての質問です。何か用事ができたりして休みたい時に、「この 日、有休で休みます」と言えば給料をもらいながら休めるというのが有給休暇ですが、これ はアルバイトでも取れますかというのが3つ目の質問です。正解は、「アルバイトでも取れ ます」。有給休暇は雇用形態に関係なく取ることができます。アルバイトでもパートでも契 約社員でも派遣社員でも正社員でも、誰でもどのような雇用形態でも有給休暇は必ず取れ ます。どういう条件で取れるかというと、半年以上働いている場合です。何日もらえるかは 労働日数に応じて変わりますが、週に1回以上シフトに入って半年以上働いている人は、何 日分かの有給休暇を取得する権利が必ず発生しています。これを取るのは簡単で、「この日、

有休で休みます」と言うだけです。理由を言う必要はありません。ちなみに、経営者側は、

有給休暇を取りたいという申し出を断ってはいけないことになっています。ただし、忙しい 時期は休みをずらしてもらうよう依頼することは経営者側に認められています。だから、

「この日はどうしても人が足りなくて忙しいから、その次の週にしてほしい」というのは OK ですが、「有休取っちゃだめ」というのは違法行為ということになります。

最後の質問はやや応用問題ですが、例えば夕方5時から夜の 10 時まで飲食店で働いてい て、夜8時ぐらいに「今日は雨が降っているし、お客さんあまり来ないから帰っていいよ、

お疲れさま。8時で上がりでいいよ」と言われたとします。では、もともと 10 時まで働く つもりだったのに8時で上がった場合、残りの2時間分の給料はもらえるか、もらえないか というのが最後の質問です。これは「もらえる」が正解です。会社の都合で一方的にシフト が短くなった、あるいは、シフトが急になくなったという場合は、経営者側は働く人に対し て、働くはずだった分の6割を補償しなければいけないと決められています。これが経営者 側の最低の補償で、一方、労働者側は、働けばもらえるはずだった全額分を請求する権利が 生じます。ですので、「早く終わったから、今日の給料減っちゃったな」と思ってあきらめ てしまうケースも多いのですが、請求すれば支払われるのです。このように、働く上でのル ールや権利は意外と細かく決まっているのですが、それを知らないといつの間にか違法行 為に巻き込まれてしまったり、また、何かを要求することもできなくなってしまうというこ とです。

【社会問題化するブラックバイト -留年や退学にまで至るケースも-】

では、ブラックバイトとは何なのかということを改めて確認していきたいと思います。私 たちは、「学生であることを尊重しないアルバイト」をブラックバイトと呼んでいます。で すので、フリーターとは区別して、学生のアルバイト問題をブラックバイトと言っています。

学生であることを尊重しないというのはどういうことかというと、例えば、テスト期間で勉 強したいから休みたいなと思っても、「いやいや、そんな甘いこと言っちゃだめだよ。きみ、

お金もらって仕事しているんでしょ。ちゃんと責任感を持ってシフトに入らないと」みたい

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なことを言われたり、授業中に電話がかかってきて「ちょっと今から入れないかな」と呼び 出されたりするようなことです。本来、大学生にとっては自由であることが一番の特権であ って、それを活用して専門的な知識や論文を書く力を身につけたり、あるいは留学に行った り、色々な社会経験をしたりといったような、

自由な時間がなければできないようなことを きちんと身につけて社会に出ていくというの が大学生活であるべきだと思うのですが、今 はみんなアルバイト一色で、授業よりバイト、

放課後は遊びよりバイトで、そういうところ にどんどん、どんどん絡み取られていって、

もう何しに大学へ来ているかわからないよう な状況に巻き込まれてしまっています。それ

がひどくなってくると、単位を落としたり、人によっては留年してしまったり、退学にまで 追い込まれてしまう人たちが実際に出てきています。それが社会問題としてブラックバイ トという言葉で表されている状況です。

【ブラックバイトに絡み取られていく学生たち -その広がりと実情について-】

では、このブラックバイトがどのくらい広がっているのか。私たちは学生 5,000 人に対し て、これまでのアルバイト経験でどれだけ不当な扱いを受けたかについて、アンケート調査 を行いました。すると、不当な扱いを受

けたことがあると答えた学生の割合は 66.9%で、アルバイト経験のある学生の 3人に2人がアルバイト先で何らかの不 当な扱い、違法な扱いを受けているとい う結果が出ました。

では、どういう扱いを受けているかと いうと、一番多いのは、希望していない シフトに入れられるということでした。

「今日ちょっと人が足りないから入って くれないかな」というのはよくあること で、それを受けているうちに、気づけば連 日シフト入っているような状況になるこ ともあります。あと、意外と多いのが、労 働条件を書面で渡されないということで す。これも実は違法行為です。労働条件と いうのは、働く時間、シフト、場所、時給、

それから仕事内容について書面できちん と働く人に明示しなければいけないとい うことが、労働基準法で定められていま

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す。ですので、厳密に言うとこれをもらっていないと違法なのですが、実際はアルバイト先 の2割でこれをもらっていません。相談を受けていて時々びっくりするのですが、「あなた 今、時給幾らで働いているんですか」と聞くと、「いや、時給が幾らかちょっとよくわから ないんですけど」と言われることがあります。「ああそう、時給幾らで働いているか知らな いんだ」というようなやりとりが実際にあります。

それから、募集の際に提示されていた労働条件と違う、これも多いですね。時給 1,100 円 で、「結構割がいいな、ここでやろう」と思って行ってみたら、契約の段階で「最初の研修 期間は、最賃(最低賃金)だから」と言われて、そんなの求人票には書いてなかったのに、

というようなことがよくあります。あるいは、高校生の場合だと、「高校生は最賃だから」

と言われて、断れずに入ってしまうケースも多いです。あとは、準備と片付けの時間は賃金 が払われない、シフトを無理やり入れられる、逆に一方的に減らされるということもありま す。それと、休憩が取れないというのも結構多かったです。6時間を超えて働く場合は 45 分以上、8時間を超える場合は1時間以上休憩を取れることになっています。休憩時間とい うのは労働しなくていい時間なので、お店の外に出てもいいし、何をしてもいいというのが 休憩時間の概念なのですが、それが取れないというのも残念ながら結構多いという結果で した。

【不当な扱いへの対処 -実際に起こした行動とは-】

そこで、私たちは、その不当な扱いに対して皆さんはどのように対応していますかという ことも聞いてみました。こちらのグラフをご覧いただきたいのですが、一番多いのが「何も しなかった」で、これが半分を

占めます。あとの半分の何か アクション起こした人たちの 中で、誰かに相談したという 人たちを見てみると、その相 談相手は友人、親、職場の上司 や同僚ということで、身近な 人がほとんどです。ただ、その 身近な人が弁護士とか労働組 合の専従者とか、労働基準監 督署の職員とかでない限りは なかなか解決しないというの が労働問題の基本なので、実 質あまり何もできていない状 況だと思います。

もう1つとっているアクションで多いのが、「そのアルバイトを辞める」という選択肢で す。3人に2人は不当な扱いを受けているという状態の中で、実際には、アルバイトを辞め るか、我慢して働き続けるかという二つの選択肢しか与えられていないというのが、今のア ルバイトの状況になっています。

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【一番多い相談は「辞めたいのに辞められない」】

では、これから事例を見ていきたいと思いますが、ブラックバイト問題に取り組んでいる とよく言われるのが、「アルバイトでしょ。そんなにきついんだったら辞めればいいのに」

というようなことです。確かに、辞めればいいのですが、むしろどうして辞められないのか ということをぜひ考えていただきたいと思います。私たちは 2014 年から相談を受けていて、

高校生、大学生の相談はもう 4,000 件を超えているのですが、一番多い相談は「辞められま せん」という相談です。ですので、「辞めればいいのに」と言ってしまうのは簡単なのです が、どうして辞められないのかということを考えていくと、ブラックバイトとはどういう問 題なのかということが色々と見えてきます。ちなみに、このあいだ別の大学で講義したとき には、「店長が怖すぎる」とか「同僚が大変そうで辞められません」という意見が結構多か ったのですが、やはりそこには色々な事情がありますので、「なぜ辞められないのか」とい う問いを念頭に置きながら聞いていただきたいと思います。

【「しゃぶしゃぶ温野菜」の事例 -過酷すぎるアルバイトの末に-】

これからお話するのは、私たちが取り組んでいた「しゃぶしゃぶ温野菜」というチェーン 店で起きた事件で、これは当時わりとニュースで取り上げられていましたので、耳にしたこ とがあるという人もいるかもしれません。まずは、アルバイトをするまでの経緯についてで す。被害者の学生をAさんとしておきます。最初はよくあるパターンで、Aさんが大学1年 生の5月頃、そろそろアルバイトをしようかなという感じで、求人誌で「しゃぶしゃぶ温野 菜」の記事を見つけて、有名なお店だからということで応募しました。週3日か4日、月に 5万円ぐらい稼げればいいかなと思ってアルバイトを始めて、最初は希望どおり働けてい たのですが、10 月頃からまわりのアルバイトがどんどん辞めていくということが起きまし た。そこはしゃぶしゃぶのお店なので秋から冬が繁忙期なのですが、お客さんが大勢来る時 期に人手が足りなくなってしまったので、ここから相当、過密スケジュールになっていきま す。

一番過酷だったのは、Aさんが大学2年生になった時、4カ月間連続で働いたことでした。

4月 12 日から8月 11 日までの超連続勤務です。これは、皆さんご存じのとおり、大学でい うと前期の期間にすっかりかぶっています。Aさんは、最初は頑張って授業に出ていたので すが、だんだん疲れて授業に行けなくなって、最終的にはテストを1つも受けることができ ずに、大学2年生の前期の単位をすべて落としてしまいます。Aさんは地方から出てきて一 人暮らしをしていたので、親にも言えないし、学校に相談できる人もいないし、もうどうし たらいいんだろうという状況に追い込まれてしまいました。

また、労働時間も非常に長かったです。最初はそれほどでもなかったのですが、辞める直 前の約1カ月は毎日 12 時間ぐらい働いていました。しゃぶしゃぶのお店に行くとたくさん の種類の野菜がずらっと並んでいますが、まずはその仕込みから始まります。このお店は夕 方5時にオープンして深夜の 24 時にクローズするお店なのですが、その仕込み作業がある ので、午後1時、2時には出勤していました。そして5時からは接客をして、クローズした ら片づけ、掃除をして、お店を出るのが深夜の1時、2時でした。非常に長時間労働です。

学生とは思えない働き方でした。

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それから、自腹購入の強要もありました。私たちがレシートなどを調べてわかっただけで、

Aさんは総額 20 万円以上の自腹購入をさせられていました。しゃぶしゃぶのお店でどうい う理屈で自腹購入をさせられるのかという話なのですが、こういうところはだいたい2時 間 3,000 円の食べ放題が多いのですが、2時間でお客さんが帰らないことがあります。そう すると、居座った時間の 15 分、30 分で次の組のお客さんが入れていたかもしれないという ことで、その「機会ロス」といわれる損失分を払わされていたのです。「おまえの接客が悪 かったから、お客さん帰らなかったでしょ。どう責任取るの。ふざけるな、おまえのせいで 機会ロスが発生しただろ。この機会ロスどうするんだ!」みたいなことを言われて、「わか りました、じゃあ 10 人分払います」というようなことがたびたびあったのです。このほか にも、ここは暴力がひどい職場で、ちょっとミスをしただけで殴る蹴るの暴行を受けたり、

首を絞められる、罵倒される、そういうことが日常茶飯事の職場環境でした。そういうとこ ろでずっと働いていると、正常な判断力がなくなっていきます。それと、辞めさせないとい う圧力もありました。Aさんもさすがに、1月頃の超連続勤務が始まる直前に辞めたいとい うことを実は店長に伝えています。そのときに言われたのが、「いいよ、辞めても。ただ、

辞めるんだったら懲戒解雇にするからね。おまえ、わかる? 懲戒解雇になったら、履歴書 にも残るから、普通に正社員として就職できなくなるけど、それでもいいの? それでもい いんだったら辞めな」。これは言っていることがめちゃくちゃです。そう簡単に懲戒解雇に はできないし、仮に懲戒解雇にされたとしても、別に履歴書に書く必要がないので、就職活 動に不利になるようなことは決してありません。要するに、単なる脅しなのです。ただ、A さんは初めてのアルバイトで、知識もない中でそんなことを言われて、「ああそうなんだ。

正社員として就職できないのはまずい、辞められない」とこの時に思ってしまいました。

その後、Aさんが超連続勤務をしてしまう最大の理由がこれで、「おまえ、もうミスが多 過ぎるから、おまえのミスのせいでうちの会社は潰れるよ。会社が弁護士と相談して、4 千 万円の損害賠償請求を準備しているから。逃げても無駄だよ。おまえの実家に請求するから」

と言われていたのです。Aさんは、日々暴力を浴びせられていて、「自分が悪い、自分が悪 い、自分がだめだ」という状況の中で、さらに追い打ちをかけるようにこういうことを言わ れて、「自分のせいでお店が潰れちゃう。何とかしてミスを取りもどさないと。挽回しない と」という思いで、4カ月連続という過酷な働き方をするところまで追い詰められてしまい ました。

ということで、ブラックバイトの中でもこれは極端にひどい例ですが、でも、本当にひど いところまでいくと、こういうことになってしまうということです。単なるアルバイトなの にここまでいってしまうという状況が今、出てきています。

【ブラックバイトの広がり -戦力化される学生アルバイト-】

では、なぜブラックバイトが広がっているのかということですが、これもよく言われるの が、「ブラックバイトなんて昔からあったよ。昔からバイト大変だったよ。何を言っている の。別に新しい問題でも何でもないよ」。しかし私たちは、一世代前のアルバイトとは全く 違う状況が、今の大学生のアルバイトの中に広がっていると思っています。どう違うのか、

どう構造化されているのかというのを見ていきたいと思います。

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最初は、企業の労務管理の変化という点から考えてみたいと思います。「戦力化されるア ルバイト」という視点です。まず1つは、非正規雇用の基幹化で、これは特にサービス産業 に多くなっています。私たちのところに相談に来るアルバイトで多いのが、飲食、小売、塾 の3つの業界なのですが、ここは非正規雇用が圧倒的に多い業界です。なぜかというと、サ ービス産業は生産力を上げられないので、利益を上げようとすると人件費割合をいかに圧 縮するかが非常に重要な戦略になってきます。そのために非正規を活用するということが 一般化しています。かつてのア

ルバイトでは、責任のある仕事 と い う のは 正 社 員が や って い て、アルバイトはあくまで補助 として職場に入るから、賃金も 安いし、気軽にやれるし、気軽に 辞められる。それがいわゆる昔 のアルバイトだったのですが、

今 の ア ルバ イ ト は全 く 違い ま す。まず戦力として職場に組み 込まれます。サービス業のアル バイトをされている方は自分の

職場を想像していただきたいのですが、正社員が何人いますか。1人でしょう。店長1人。

2人いれば相当いい職場ですね。これの究極形態が飲食チェーン S 社というところで、ワン オペです。正社員はいないです。アルバイト1人がお店を回している、それが究極形態です が、サービス産業では店舗に正社員はほとんどいないのが現状です。

だから、2番目の「過剰な組み込み」という問題が起きてきます。正社員がいないので、

アルバイトがきちんと戦力として責任を持ってお店で働いてくれないとお店が回らないの です。それは、観念的に責任を持てという話ではなくて、現実的にアルバイトが責任を持っ て働かないとどうしようもない状況で、アルバイト自身もそれを自覚しています。自分がい ないとこの職場は回らない、自分はこの職場にとって重要な存在なのだということを自覚 しながら、参加しています。非常に重い責任を負って働いています。ある 100 円ショップの 事例だと、アルバイトが鍵の開け閉めをやって、金銭管理をやって、クレーム対応や商品の 発注をやって、アルバイトなのにアルバイトの採用面接や指導をやって、アルバイトなのに アルバイトのシフトを組む。まるで正社員じゃないかという働き方をしています。それだけ 重い責任を負っているので、授業に出ていても電話がかかってくるわけです。「これはどこ にあるの?」「このクレームどう対応したらいいの?」「これどうやればいいの?」というよ うな電話がひっきりなしにかかってきて、もう授業どころじゃありませんという状況にな っている人もいます。こうしてどんどん過剰に組み込まれていってしまうのです。

そして、それだけ責任の重い仕事をしているにもかかわらず、コストは徹底的に低く抑え られています。3つ目の「徹底的な低コスト」ということで、アルバイトの皆さんはほとん ど最低賃金です。最賃すれすれの給料で、そのうえノルマがあるわけです。売上に責任を負 わされるのです。「クリスマスケーキを1人 10 個売ってください。売れなかったら、自分で

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責任を取って買ってくださいね」。これがよくブラックバイトの例で挙げられますが、最低 賃金ぐらいの給料なのに、さらにそこから自腹で結果責任も負わされるのです。先程少しお 話ししたコマ給でも最賃で働かせているところが多いです。責任はすごく重いのに、コスト は安い。不合理ですよね。ただし、これを合理化する都合のいいワナというか、ちまたにあ ふれている言葉がたくさんあります。例えば、「アルバイトはあなたの成長につながるよ」

とか、「アルバイトというのは、社会経験につながるんです」。あと、これは私が大学時代に 塾でアルバイトをしていた時に社長に言われたのですが、「いや、きみたちがこんなに社会 のことを学べて、こんなにすばらしいことを学びながらお金をもらえるなんて、うらやまし い」。ふざけるなという感じです。当時時給 900 円ぐらいで働いていたので、それを言われ たときに、「もっと高くしてよ」と思いましたけど。それと、結構強力なのは、「アルバイト を頑張っていると就職活動に有利になるよ」というのもよく言われます。だから、責任は重 いのに賃金は安いという、この不合理な状況を別の目的にすり替えて合理化する都合のい い言葉がこのように世の中に溢れています。学生の中には、このようなことを言われると

「これは意味のあることなんだ」と思い込んでしまう人もけっこういて、どんどん、どんど んアルバイトにのめり込んでいくというようなことが起きています。

ただ、やはりこれは明らかに不合理なので、学生の中の一定割合は、もう辞めようと考え る人たちが当然出てくるわけです。そうなってきたときに出てくるのが4つ目で、「辞めさ せない」という労務管理です。これが、必然的に出てきます。一番多い辞めさせないパター ンが「代わりを見つけてこないと辞められないよ」という話です。以前、コンビニでアルバ イトをしていたある高校3年生の女子学生の人から相談がありました。高校3年生の終わ り頃のあまり授業がない時期に、彼女は朝6時から9時までの3時間アルバイトをしてい たのですが、大学に進学したらもうこの時間は無理だから、店長に「すみません、もう辞め たいんですけど」と言ったら、「何言っているの。きみがこの時間入らなかったら、他にこ の時間にシフトに入れる人いないでしょ。無責任でしょ。代わりを見つけてこないと辞めら れないよ」と言われて、どうしたらいいでしょうかという相談でした。彼女も、確かに自分 がいないとお店が回らないということは自覚しています。しかし、人を雇って配置するとい うことは、本来アルバイトの責任ではないですね。これは経営者の責任なのですが、経営者 の責任までもアルバイトが負わされて、しかもそれを内面化させられてしまって辞められ ないし、そこをうまく突いて「無責任でしょ、そういうのは」と言って職場に縛りつけてい くという構造になっているのです。

それから、損害賠償を請求するというのも、実はとても多くなっています。先程の 4 千万 円は極端ですが、もっとリアリティがあるものだと、「辞めてもいいけど、きみが辞めたら 求人広告出さなきゃいけなくなるよね。求人広告1回出すのに幾らかかるか知ってる?5 万円だよ。辞めてもいいけど、この5万円を払ってから辞めてね」というのは、しょっちゅ うあります。塾だと、「生徒に対しての責任があるでしょ。おまえが担当している生徒どう するの。損害が発生する。損害賠償を請求する」というのがよくあります。あと、暴力的、

威圧的というのは、「おまえはもうこのまちで就職できないようにしてやるからな。おれの 知り合い何人もいるから」というような、脅しですね。実際、こういう人は結構多いです。

倫理的な恫喝というのは、先程も言ったように塾に多くみられるのですが、「この生徒どう

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するの。きみが辞めちゃったらかわいそうでしょ」という感じで、生徒を人質に取ったかの ような恫喝をかけて辞めさせない。こういう労務管理が、この構造の中で必然的に出てきま す。だから、アルバイトなんて気軽にやって気軽に辞めればいいじゃない、と思うかもしれ ませんが、実態は全然違っていて、過剰に組み込まれて、賃金が安い中で暴力とか脅迫に支 配されながら奴隷のように働いているという状況が、ある種構造的に生み出される傾向に あるのです。だから、もうアルバイトは全然気軽なものではなくなってきました。

【アルバイトをしなければならない学生の増加 -その背景となる時代の変化-】

今度は学生の側の変化を見てみましょう。アルバイトをしないといけない学生が増えて いるということです。まず、学費という点から見ていきましょう。国立大学の授業料は 1972 年は、年間1万 2,000 円でした。

月 1,000 円ですので、すごく安 いです。これだったらちょっと アルバイトをすれば学費が払え ますし、生活費のためにそんな にアルバイトをする必要はあり ません。ところが、2017 年の国 公立大学の年間の授業料は 53 万 5,800 円です。初年度は入学 金も入りますから、さらに 20~

30 万円かかります。その他諸々 かかって、100 万円ぐらい。これ

は国公立ですが、私立大学だったらもっと高いですし、理系だったらさらに高くなります。

これを負担しないといけないという状況に皆さんはあります。

では、この学費を誰が払っていますか。自分で払っている学生はほとんどいないのが現状 でしょう。払っているのは、学生の親ですよね。親が、自分たちの給料や貯金からこの学費 を支払うという形で、皆さんは大学に通っているのではないかと思います。その親世帯の収 入はどうなっているかというと、減っているというのが結論です。ですので、学費を払わな いといけない、でも収入は減っている、貯金も減っている。そうなると当然仕送り額も減っ ていきます。ですので、家賃や生活費をアルバイトで賄う必要が出てきますし、人によって は、学費もアルバイトで何とかせざるを得なくなってきます。仕送り額が家賃込みで 7 万 2,000 円で、例えば池袋で一人暮らしをしたら、ほとんど家賃でなくなっちゃうでしょう。

そうなったら、もうアルバイトをしないと大学生活が送れないですよね。

【不充分な日本の「奨学金制度」 -国際比較でもその問題点が浮き彫りに-】

本来は、そういう人たちを支えるために奨学金という仕組みがあるはずなのですが、日本 の奨学金は非常に不備があります。英語で言うと scholarship になりますが、日本のスカラ シップはスカラシップじゃないですね。スカラシップの前提は給付です。返す必要がないの がスカラシップ、奨学金なのですが、日本の場合は奨学金といいながら、基本的にローンで

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す。最近、給付型ができましたが、あれはごくごく一部の人しか使えないので、やはり今で もベースは借金です。最近は、返済免除もありません。教員になったら、研究職についたら 返済免除というのはないです。今、返済免除されるのは、亡くなった場合か重度の心身障害 を負った場合のみです。それ以外は一切免除されません。

少し話がそれますが、JASSO(日本学生支援機構)はむしろ債務取り立てを強化しようと いうことで、返済が3カ月滞ると債権回収会社に債権の回収が委託されて、家や就職先に連 絡や取り立てが来たり、9カ月を過ぎると裁判所から訴えられるというしくみになってい ます。

学費と奨学金を国際比較で見てみたのがこの図です。縦軸が奨学金です。上に行けば行く ほど奨学金が充実している国。横軸が授業料です。左に行けば行くほど低額、あるいは無料 の国で、右に行けば行くほど高い国。一番いいのは、北欧諸国です。①のところで、授業料 が安く奨学金も充実しています。

例えば、デンマークだと、大学の授 業料は無料です。大学生であれば、

無条件で月8万円の給付を受ける ことができます。これならアルバ イトをせずに学業に集中できます よね。なので、皆さん留学したほう がいいんじゃないかなと私は思い ます。日本はこの右下、授業料も高 ければ、奨学金も全然充実してい ない。この国は人材を育てる気が あ る の かと い う ふう に 思い ま す が、実際このようになっています。

ちなみに、韓国もチリも、実は今、奨学金をどんどん充実させたり、授業料に関しても変 えていこうという動きがあるので、あと5年か 10 年ぐらいしたら、右下は日本だけになる かもしれないという状況です。これも、ブラックバイトが増えている、せざるを得ない人た ちがたくさん出てくる要因の一つになっています。

【若者を中心にブラック企業が拡大】

これまでブラックバイトについて見てきましたが、今日は少しブラック企業についても お話をしていきたいと思っています。要するに、ブラックバイトで大変だけど、大学を出て 正社員になれれば OK と考えている人も多いと思いますが、もう OK ではなくなってきてい るというのが、まさにこのブラック企業という言葉の意味するところです。

正社員にどのようなイメージを持っていますか、というのを皆さんにお聞きしたいとこ ろですが、多分こういうイメージを持っているのではないかなというのが、「安定している」

「福利厚生がしっかりしている」というプラスのイメージと、反面ネガティブなものだと

「責任が重い」「長時間労働できつそう、大変そう」といった感じでしょうか。ただ、大学 生でこれから就活される方は、だいたい正社員を目指します。最初から非正規になろうと思

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う人はあまりいないと思います。正社員になりたいと思ってみんな就職活動をします。それ はやはり非正規は不安定だし、正社員になったほうが安定しているというイメージが強い からだと思いますが、実はこの正社員がもう崩れてきているというのが、このブラック企業 という言葉が表しているところなのです。

ブラック企業というのはどういう企業かというと、「新興産業において、若者を大量に採 用し、過重労働、違法労働によって若者を使いつぶし、次々と離職に追い込む成長大企業」

と定義しています。ですので、ブラック企業というのは、中小企業でのいじめや賃金未払い といった話ではなくて、大きな企業、成長している企業なのです。2000 年代、デフレが日 本の中でどんどん進んでいく中で、これはすばらしい企業だ、これからの新しいビジネスモ デルだといわれてもてはやされた企業が、実はどうやって成長してきたのかというと、若者 を使いつぶすことによって成長してきたという実情があります。先ほど、非正規雇用が増え てきたという話をしましたが、やはりそういった中で正社員になりたい若者が増加してい ますから、そういう若者をある種逆手に取って使いつぶしていくということが広がってい ます。

【ブラック企業の手口① 「選別型」】

では、どういう手口、労務管理を行っているのかということを、具体的に見ていきたいと 思います。大きく2つに分けられるのですが、1つが、選別型と呼ばれるような企業です。

これは大量に採用して、使える人材だけを選別するというやり方です。新宿のある IT 企業 は 1,000 人規模の会社なのですが、毎年、新卒を 200 人採用します。そして、その新卒は1 年で 100 人が辞めていきます。そういう企業が選別型と呼ばれる企業です。では、どうやっ て辞めさせるのかということですが、労働法では解雇というのは合理的な理由がなければ してはいけないという規制がかかっています。200 人のうち 100 人を辞めさせる合理的な理 由は絶対にないですから、その方法が問題になるのですが、手っ取り早く言ってしまうと、

いじめて辞めさせるということなのです。これは私たちのところにもたくさん相談が来た のですが、具体的には、辞めさせるための専門部署というのがあって、辞めさせると決めた 人に対して、まず仕事を与えないということをします。会社に行ったら、やることがない。

「やることないな」と手持ち無沙汰にしていると上司から、「おまえ何しに来ているんだ。

仕事ぐらい自分で見つけてこい。ボーッとしているんじゃない。おまえは何も生み出してい ないクズだ。おまえは、先輩みんなが頑張って働いて生み出した利益で飯食ってる給料泥棒 なんだ。自分で仕事を見つけてこい!」という感じで、ひたすらパワハラを受けるわけです。

それで多くの新入社員が嫌になって辞めていきます。でも、せっかく正社員になれたのだか らとそれでも頑張って会社に残っていると、今度は、カウンセリングというものが始まりま す。「おまえ、この会社に残り続けたいの?じゃあ、カウンセリングしてやるよ」というふ うにカウンセリングが始まります。その会社ではカウンセリングのことを「リボーン計画」

と呼んでいました。具体的に何をやるかというと、まず「おまえの生まれてから今までの人 生の反省文を書いてこい」という指示をされます。頑張って書くわけですね。高校生のとき 母親に甘えてしまって、だから今でもだめなままなんですとか、大学受験を頑張れなかった とか、無理やり色々な反省文を書いていくと、それをもとに上司がカウンセリングをします。

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「おまえはここで甘えてきたから、だめなんだ。大学受験のときに頑張らなかったから、今 負け組なんだ。おまえはだから今だめなんだ」ということを延々やられるわけです。これを やられ続けるとどうなるかというと、うつ病になります。精神疾患を発症します。適応障害 になります。それで最後は、「自分が悪かったです。無能なまま会社にいて申し訳ありませ んでした。辞めさせてください」と自分から辞めていくように追い込んでいって、使える人 材だけを選別していくのです。

ほかにも、ニュースになっている企業でいうと、気象情報会社 W 社という気象情報を配信 している会社がありますが、ここも実は過労死事件が起きています。気象予報士の人たちが 就職する会社なのですが、子供の頃からずっと気象予報士になりたかったある青年が、何と か気象予報士の国家資格を取って、念願の気象予報士として働けると思って気象情報会社 W 社に就職したら、最初に「入社後、半年間は予選です。この予選に勝ち抜いた人だけが本当 の正社員になれます。皆さん頑張ってください」と言われるんですね。彼は、何とか夢をか なえようということで、その半年間、猛烈に働きました。月の残業時間が 200 時間を超えて いて、これは月の残業 80 時間が過労死ラインといわれていますから、その3倍近い働き方 をしたことになります。半年後、上司から、「お疲れさん。きみは予選落ちだよ」と肩をた たかれて、その翌日に練炭自殺をしてしまいました。のちに遺族が裁判を起こしたのですが、

そういう事件が気象情報会社 W 社で起きました。ちなみに、アパレルチェーン U 社も大学 を卒業したばかりの新入社員に「半年間、店長をやってください」ということを求めていて、

それに適応できない人がどんどんうつ病になって、当時、3年離職率5割でみんなうつ病で 休職していくという状況になりました。このように使える人だけをどんどん使って、利益を 上げていくというようなことをやっていくわけです。

【「自己都合退職」と「職場の違法行為」との相関関係が明らかに】

統計で見ると、いじめで辞めさせられているのは自己都合退職ということになるので、

「最近の若者は自分から辞めるよね」と統計だけ見るとそうなるわけです。「好き勝手なこ とをやってるから自衛隊にでも入れ

たほうがいいんじゃないか」みたい なことが平気で議論されたりもしま す。実は私たちは、ハローワーク前 で離職者にアンケート調査をしたこ とがあって、「離職した理由は何です か」「自己都合で辞めた理由は何です か」ということを聞きました。する と、自己都合で離職した人のうち、

3割から4割くらいは、何らかの職 場の違法行為と関連があることがわ

かりました。職場に問題があるから自分で辞めている。これは自己都合ではなく、本来は会 社都合なのではないかというケースが、自己都合退職の中に実は結構含まれているという ことを明らかにしたのがこの調査です。

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【ブラック企業の手口② 「使い捨て型」】

次のパターンが、使い捨て型と呼ばれるブラック企業です。これは、もうとにかく低賃金・

長時間労働をさせて、耐えられなくなって病気になったら辞めてもらうという、本当に電池 が切れるまで使いつぶすという働かせ方をするところです。これは飲食店に特に多いです。

では、どうやってこの低賃金・長時間労働をさせるのか。その方法の一つが、私たちが問題 化した「求人詐欺」というもので、固定残業代制というシステムがこれを可能にしています。

居酒屋チェーン N 社という居酒屋がありますが、ここでは入社3カ月くらいの 20 代の男性 が過労自殺する事件が起きています。彼は求人の段階で居酒屋チェーン N 社を見つけて、月 収 20 万円だったので「これならいいじゃないか」と思って面接を受けました。そして、契 約の段階になったら「この 20 万円のうち、基本給は 12 万円です。その他手当が3万円で す。残りの5万円は時間外労働 80 時間を含む固定残業代です」と、そこで初めて明かされ ました。だから、どれだけ残業しても、残業代がもらえないのです。月 80 時間の残業とい うのは、先ほど申し上げたように過労死ラインです。時間外労働が月 80 時間を超えて、翌 月病気になったり死亡してしまった場合は労働災害と認めるという基準があるのですが、

それは要するに何か、死ぬことを前提にした契約を結ばされているようなものです。給料が 高いと思って入社したら固定残業代制で残業代が全然増えない、でも長時間働かなきゃい けない。この求人詐欺が今、とても問題になっています。

これは余談ですが、昨日、厚生労働委員会で働き方改革関連法案の高度プロフェッショナ ル制度が可決されました。あれで残業代が出なくなると皆さん言っていますが、いや、既に 出ていません。今のブラック企業で働く若者の多くは、実は既に残業代が支払われていない のです。その1つの仕組みが、固定残業代制ですし、管理・監督者の適用です。「管理職」

という肩書きだけをつけられて残業代が支払われない従業員が偽装管理職などといわれて、

少し前に問題になりました。居酒屋でも、店長は管理・監督者で裁量もあるからということ で残業代を支払わなくて OK とみなされて、サービス残業を強いられたりしています。こう いうことが一般的に適用されていますし、他にも裁量労働制や事業場外みなし労働時間制 度など、実は残業代を支払わなくてもいいという色々な仕組みが、もう既にブラック企業の 中に蔓延していて、残業代が支払われないことが当たり前になっているのです。

【ブラック企業問題と若者の精神疾患の割合との関連】

次に、ブラック企業が広がっていることと、若者のうつとか精神疾患の関連を見ていきた いと思います。次ページのグラフ(図-①)を見ていただくと、20 代から 35、40 歳頃の働 き盛りのところで「精神及び行動の障害」の割合がものすごく多くなっています。この「精 神及び行動の障害」とは何かというと、要するに、精神疾患です。20 代、30 代で精神疾患 がものすごく多いということです。これは、やはりブラック企業問題を初めとする労働問題 との因果関係が相当あるのではないかと私たちは思っています。

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もう1つ、下のグラフ(図-②)を見ていただくと、黒い点線が 98 年から 2003 年にかけ て飛躍的に伸びているのがわかるかと思います。これも先程と同じで「精神及び行動の障 害」、つまり精神疾患の割合を表しているのですが、これは 90 年代後半から爆発的に増加し ていて、これもブラック企業の広がりや労働環境の悪化という問題と相当関係があるので はないかと思います。

このように、若者がどんどんうつ病になっていく、精神疾患になっていくということが、

社会を成り立たせなくしていくのです。本来、20 代、30 代の人たちというのは、働いて税 金を納めて、少子高齢化の中で社会保障を支えていく側のはずなのに、むしろ医療の受け手、

福祉の受け手になっていくわけです。そうなったら、この社会は誰が支えていくのかという 状況になってしまいます。

図-①

図-②

図-①、②ともに

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【ブラック企業に順応していく若手社員たち -日本の就活事情が大きな要因に-】

ブラック企業に取り込まれていく背景を箇条書きで挙げてみました。先程言ったように、

やはり非正規雇用が増えているという状況の中で、正社員をめぐる競争が激烈化していま す。ある種、ブラック企業というのは、「かつての正社員は大変だけれども安定しているも の」というイメージを逆手に取りながら、正社員になりたい若者をどんどん取り込んでいっ ているのです。

それから、実は日本の就職活動が、若者 がブラック企業に取り込まれていく、ブラ ック企業で働き続けてしまう非常に大き な要因になっていると私たちは考えてい ます。なぜかというと、日本の就職活動と いうのは、基準がありません。何をしたら 採用されるのかがわからないのです。です ので、就活生は自己 PR のようなことをひ たすら考えます。自分の長所や強みは何 か、大学時代に頑張ったことは何かという

アピールポイントを考えるわけです。挙げ句の果てには、「就活メイク」というものまであ って、いかに良い写真を撮って履歴書に貼っていい印象を与えるか、ということに全身全霊 をかけて就職活動を行っていくのです。

ここで少し欧米の就職活動事情を紹介しておくと、まず欧米の場合には、就職活動に明確 な基準があります。それはジョブという基準で、「あなたはどういう資格を持っていますか」

「どういうスキルを持っていますか」「どういう仕事ができますか」ということを基準に採 用します。だから、アメリカの履歴書には、写真を貼る必要はありません。特にアメリカだ と黒人差別の文脈があって、肌の色で差別が起きる可能性もありますので、写真は貼りませ ん。また、フランスの場合は、住所を書かないんですね。というのは、フランスでは郊外の スラムの地、貧困の地域に対する差別があるので、住所を書くとその人がどの地域でどうい う世帯なのかということがわかって、それが差別につながる可能性があるからだというこ とです。要するに、スキル、ジョブという明確な基準以外のものはできるだけ排除して就職 活動を行おう、これが欧米型の就職活動です。日本の場合は、全身全霊をかけて就職活動を 行いますので、これが何をもたらすかというと、落とされたときにどう感じるかということ なのです。落とされると、「自分ってだめなんだ。自分って必要とされていないんだ。自分 の人生って無意味なのかな」というような自己否定に一瞬で結びついてしまいます。それが 1社だったらまだいいかもしれないですが、10 社、20 社、30 社と落とされ続けていくと、

「どこでもいいから雇ってほしい」というメンタリティになっていきます。そんな時にブラ ック企業が「じゃあ、私が正社員として雇ってあげましょう」となると、「この企業は私を 認めてくれた。この企業のために自分は頑張って働こう」というように、ブラック企業に順 応していくメンタリティが日本の就職活動を通じて形成されていく、そういう装置になっ てしまっているのです。

3番目に挙げた求人詐欺というのは、先程お話しした固定残業代という仕組みで、給料を

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水増ししていて、行ってみたら固定残業代制で全然残業代が払われない、というような方法 です。

それから、研修による「洗脳」について1つ例を挙げたいと思います。以前、製薬会社 Z 社という会社の研修で、当時 22 歳の男性が自殺する事件が起きているのですが、その研修 を請け負う会社の人のインタビュー記事を読んでゾッとしました。その人は、「アイデンテ ィティ剥奪型の研修が必要なのです」と言っていました。「これまで大学で培ってきた価値 観というのは、企業で働く上では邪魔です。研修では、これまでの価値観やアイデンティテ ィを一度破壊する必要があります」というようなことを言っているわけです。では、実際の 研修ではどういうことをやっていたかというと、まず1週間、無人島へ行きます。「外部と 連絡を取ってはいけません。朝起きたら 10 キロ走ってください。10 キロ走った後に、昼間 は会社の理念を把握してください。夜はテストがあります。」テストは連帯責任なので、も しチームの誰かが不合格になったら、チーム全体が合格するまでやり直さなければいけま せん。さらに夜には、「チームの中でグループを組んで、お互いに批判し合いましょう」と いうことをやっていくわけです。「僕は大学時代、剣道を頑張っていました。中高大と剣道 をやっていました」と言うと、まわりの人が「それは惰性でやっていただけなんじゃないで すか」という感じでお互いに否定し合うのです。最初は違和感を感じるのですが、そういう ことを続けていくと何かわけがわからなくなってきて、むしろそれに対して順応できてい ない自分がおかしいんじゃないか、というようにだんだんマインドが変化していきます。そ して最後には企業の理念を大声で叫んだりということが平気でできるような人間になって、

ブラック企業、長時間労働の世界に放り込まれて使い捨てになっていく。それを可能にする のが研修による洗脳というものです。

最後に挙げた就職後の「逃げられない世界」というのは、辞められないということです。

先程の奨学金の話ともつながりますが、奨学金は借金なので返さないといけないから辞め られない。それから、日本の場合、雇用保険制度が非常に脆弱なので、特に自己都合で辞め てしまうと、雇用保険は3カ月の受給制限がかかるうえに、その後3カ月しか支給されませ ん。そもそも非常に使いづらい仕組みになっているので、辞めてしまうと、家族に頼らない 限りは生活が成り立たないという社会保障の脆弱さが、ブラック企業からの逃げられなさ という現実をつくる大きな要因の一つになっています。このように、若者がどんどん、どん どん一部の企業の利益のために使いつぶされていく状況が出てきてしまっているのです。

【ブラック企業を生み出す構図

-従来の正社員との違いとは-】

では、ブラック企業は昔の正社員と何が 違うのかということですが、こちらの表を ご覧ください。これは縦軸が雇用保障の充 実度で、上に行けば行くほど給料が高かっ たり、福利厚生が充実していたり、あるい は企業年金があったりと、雇用保障が充実 していて、下に行けば行くほどそれが脆弱

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であるということを表しています。横軸は指揮命令権で、会社の命令をどれだけ受け入れな ければいけないのかを表していて、左に行けば行くほど、それほど会社の命令は聞かなくて いい。右に行けば行くほど、会社の命令が大きくなっています。この軸では従来の正社員は 右上の部分です。先程、正社員のイメージというのは「安定している」、ネガティブなもの としては「大変そう」というイメージがあると言いましたが、従来の日本型雇用といわれる 日本の正社員の働き方というのは、昔からものすごく過酷だったのです。「過労死」という 言葉がありますよね。この言葉は 80 年代から社会問題になっていて、今では世界で通用す る言葉です。だから、日本人というのは 80 年代から、もう死ぬほど働いているのです。で も、なぜそれがブラックだと言われなかったか、なぜ企業は責められなかったかというと、

ものすごく働かせる分、雇用を、そして生活を保障してあげるという取引が成り立っていた からです。ですので、年功賃金がもらえますし、終身雇用で生活が保障されます。福利厚生 もしっかりしています。頑張れば頑張った分だけ見返りがあるというのが昔の正社員の働 き方なのです。

余談ですが、よく「昔はよかった」という人がいますが、実は本当によかったのかという のは考えていただきたいところです。その過労死するほどの働き方はどうやって可能にな っていたのですか。家庭の責任は誰が負うのですか、というと、それは女性ですよね。だか ら、女性の専業主婦というのが前提になっていましたし、女性というのは働きに出るとして も男性に養ってもらう存在だから、パートとかの形で労働市場の周辺として位置づけられ ていました。

そこで、今の正社員、ブラック企業はどう違うかというと、会社の命令権はそのままに、

保障が全くないのです。これが今の若い人たちの置かれている正社員としての働き方です。

先程の図でいうと、右下のところです。だから、この構図が見えていないと、ちょっと上の 世代の方は、「正社員で入ったんだろう、3年は頑張らないと」とか、「正社員で頑張って働 いていれば見返りを得られるんだから、頑張りなさい」というようなことをよかれと思って 言ってしまうのですが、そこで頑張ってしまうと、先程言ったように使い捨てられる、選別 されるということが今の正社員では起きてしまうのです。同じ正社員でも、今は全然違う世 界が広がっているのです。

【ブラック企業の「見分け方」 -企業情報を「読む」ことの大切さ-】

もしかしたら、皆さんの中にこれから 就活をするという人がいるかもしれま せんし、あるいは、身近な人が就活をし ている、する人がいるかもしれないの で、ブラック企業の見分け方として、気 をつけてもらいたいチェックポイント を挙げてみました。まず1つ目が、新規 学卒者の3年以内の離職率がどれくら いかというのをチェックしましょう。こ れは『四季報』などでデータを出してい

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るので、そこで新入社員がどれだけ離職しているかを見ていただくと1つの目安になりま す。ノーデータ、ノーアンサーのように、書いていないところも多いのですが、ノーアンサ ーのところは、出したくないのかな、とちょっと疑ってかかることが必要だと思います。次 に、過労死、過労自殺を出している企業には気をつけたほうがいいですね。最近、よくニュ ースになっているので、自分が受けるところが過去に過労死、過労自殺を出していないかと いうことをチェックしましょう。あと、「半年で店長になってください」というように短期 間で管理職になることを求めてくるところや残業代が固定されている、また、求人広告とか 説明会の情報がコロコロ変わるというのも要注意です。ブラック企業は売りにする労働環 境がないので、「夢」とか「希望」とか「自己実現」というような言葉を前面に出してくる ことが多いです。居酒屋チェーン W 社が言っていたのは非常にわかりやすいのですが、「皆 さん、W 社は『ありがとう』を集める仕事です」というフレーズで、このようにポエムとい うか抽象的な言葉を使っている会社には気をつけた方がいいということを、説明会の段階 で判断していただきたいと思います。

【不当なルールは変えられる -自分から声を上げて権利の実現を!-】

しかし、見分けるのは実は限界があって、もちろん気をつけるに越したことはないのです が、構造的に広がってきていますので、これに対してどのように対抗して、対処していけば いいのかということを考えていくことが大事だと思います。いつもお話ししているのは、私 たちの世代もそうですが、おかしいことや何か不当なことをされたときに、それを是正でき る、変えられるという感覚が働く側にあまりないんですよね。なぜかというと、私のときも 評定にありましたが、関心、意欲、態度が評価される、つまりひたすら従うことばかりが評 価される社会だからです。先生にどれだけ従順なのかということが数字で評価されますし、

言うことを聞く人は評価が良くて、ちょっと反抗的な人はどんどん排除されていくという 教育環境もあります。だから、何かおかしいなと思っても、そういうのを我慢して従うこと が偉いんだ、というような感覚が非常に強いのだと思います。でも、私がいつも学生の皆さ んにお伝えしているのは、「おかしいことは変えられますよ。なぜなら、おかしいからです。

おかしいんだから、変えられなかったらおかしいでしょう」ということです。「みんながお かしいと思うことをそのまま放っておいていいわけないでしょう、変えなきゃいけないよ」

と。

ただ、大事なことは、それは誰かが解決してくれるわけではないということです。自分で やらなきゃいけない。おかしいと思ったら、「おかしいですよ、変ですよ、変えていきまし ょう」ということを自分がやらなくてはいけないというのが、実は大変なところなのです。

働くときは契約を結ぶわけですが、契約したときに権利が生じます。あるいは、法律で守ら れている権利というものが私たちにはあります。でも、これは権利があるだけで、実現する かどうかはまた別の話です。例えば、今、残業代が支払われていませんという方がこの会場 の中にいらっしゃるとしたら、その方は法律上、残業代を請求する権利を持っています。で も、その方が、残業代を実際に労働基準監督署に行って請求する、会社に直接交渉して請求 する、あるいは、労働組合や弁護士を通じて請求するということをしなければ、その権利は 絶対に実現しません。誰かが、「きみ、残業代払われていないの?僕が代わりに請求してあ

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げよう」と言ってくれることはあり得ません。自分で請求しなければ実現し得ない、これが 権利というものの考え方なのです。だから、自分からアクションを起こしていかないといけ ない、相談していかないといけない。権利というのはそういう能動的なものだということで す。日本国憲法の第 12 条に、『国民の不断の努力によって、この権利を保持しなければなら ない』ということが書いてあったかと思いますが、その精神なんですね。常に自分で実現し よう、守ろうとしていないと、人権とか権利というものは簡単に侵害されます。そういうも のなのです。

ただし、働かれている方はおわかりだと思いますが、職場の中で自分一人が権利を行使す るというのは、結構難しい、大変なことだという状況が多いと思います。残業代を請求して このまま働き続けられるかなとか、まわりの人からどう思われるかなとか、色々なしがらみ があって、一人で声を上げるということは非常に困難です。ですので、権利を行使する第一 歩として、専門家にきちんとつながっていく、相談していくということが非常に重要なステ ップになっていくということをぜひ覚えておいてほしいと思います。

相談する上で大事なことをお伝えしておくと、労働問題を解決する上では、証拠が非常に 重要であるということです。「残業代が支払われていません」「給料が支払われていません」

といった時に、「では、あなたはどれくらい働いていたのですか。それに対してどれだけ支 払われて、どれだけ支払われていないのですか」ということを、残念ながら、今の社会では 自分で証明しないといけないので、労働時間をきちんと記録するということを習慣として 是非やっていただきたいと思っています。最初にお伝えしたように、1分単位で計算して支 払われなければいけないので、きちんと1分単位で、出社した時間、休憩した時間、退社し た時間を記録していくようにしてください。証拠というのは客観性が高ければ高いほど有 効な証拠になります。色々な記録の取り方がありますが、例えば、タイムカードがきちんと 働いたとおりに打刻されているのであれば、そのコピーとか写メを撮っておくということ でもいいですし、そうでない場合、出社してパソコンを立ち上げたときの記録とか、最低限 できることとしては、自分の手帳にメモでも OK です。これは、例えば2、3日分しかメモ していなかったとなると法的な証拠としては弱くなってしまいますが、1カ月、2カ月、3 カ月、あるいは1年、2年と手書きでもずっとつけ続けていたという記録があれば、これは 十分法的に有効な証拠になり得ます。あるいは、身近に長時間労働をしていて、この人大丈 夫かなと心配な人がいたら、その人が何かあったときに、働いていた時間を証明できるかど うかで労災が取れるかどうか、会社にきちんと未払い賃金を請求できるかどうかに大きく 影響してきます。要するに、その後の生活とかキャリアに非常に大きくかかわってくるとこ ろなので、この証拠があるかどうかというのが非常に重要です。ぜひ労働時間の記録はきち んと取っていくということをやっていただきたいですし、まわりにも大変な状態で働いて いる人がいたら、「ちゃんと記録をつけたほうがいいよ」というアドバイスをして頂きたい と思います。

パワハラとかセクハラは、できるだけ言われたその場で記憶が新しいうちに、メモで記録 するようにしてください。誰にどういうことを言われたかというのを後で思い出すのは大 変なので、記録に残しておくことが大事です。一番有効なのは、音声です。これは、後にな って必ず、言った、言わないとなるので、その時に音声で録っておけば言い逃れができなく

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