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数学マジックを用いた授業実践について

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Academic year: 2021

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立教大学教職課程 2016 年 4 月

数学マジックを用いた授業実践について

-選択教科における実践の検討として-

砂井 博光

1.はじめに

 私の本務校は立教池袋中学校・高等学校で、

数学を担当し、2015 年度で 11 年目を迎える。

数学の授業をする上で心掛けている事は、“ 解 き方のテクニックを暗記する数学 ” でなく、“論 理的に考えながら解くことのできる数学 ” を伝 えられるようにする事である。何故ならば、世 間で “ 数学的な考え方 ” が重要視されているに も関わらず、現場で見る生徒たちには “ 数学嫌 い ” が多く見られるからである。数学的な考え 方とは論理的に考える事であり、その有用性は 今更言うまでもない。しかし、その論理的に考 える学問である数学に嫌悪感を示すというの は、難しい定理や公式を暗記して解いていくと 言うことに重点が置かれ、数学本来の面白さが 損なわれてしまっているのではないかと考えて いる。どうすれば論理的な思考を受け入れる事 ができ、楽しんでもらえるかを考えたとき、2 つのポイントがあると思った。1 つ目は能動的 に取り組める題材である事。2 つ目は論理的に 考える事の有用性を実感できる事である。

 正課の授業ではカリキュラムに従って進めて いくので、各分野が定義を教える事から入り、

どのような性質があるかを考え、どのような問 題に適用できるのかを知り、問題解いていく、

というような流れで進んでいる。しかし、本来 論理的に考えるというのは、先に問題があり、

どのように解決していくかを考える事が多い。

そして、論理的に考える過程で、根拠がしっか りとしている性質やどの様な約束事(定義)が あるのかを検証していく。そこで、ある程度内 容が自由に設定できる選修教科の授業で、先に 問題があり、論理的に考える事のできる題材か つ、生徒が楽しんで取り組める題材を模索した 結果、数学マジックを用いた授業をする事にた どり着いた。

 数学マジックとはマジックの種に数学的な根 拠が用いられており、通常のマジックのように 手先の器用さや特殊なテクニックを必要としな いマジックである。表面上は不思議に見えるが、

マジックの手順を注意深く観察し考えていく事 で、どのような仕掛けが隠されているかを知る ことができ、誰にでも実践できる。

 数学マジックを用いようと思った根拠は、マ ジックを見ると最初はその不思議さに驚かされ るが、「何故そうなるのだろう?」と種を知り たくなる気持ちが出てくるので、能動的に取り 組めるのではないかと考えたからである。また、

表面の手順をなぞっただけではマジックが成功 しないので、論理的に考え、しっかりとした根 拠を知る事で、自分も同じマジックができるよ うになり、論理的に考える事の有用性や数学的 な根拠に興味を持ってくれるのではないかと考 えたからである。

 以下、数学マジックを用いた授業実践と生徒 の反応から見える成果の報告である。

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2.生徒・授業の概要

 対象は中学 1 年生の数学選修教科 B。中学 1 年生の数学のカリキュラムよりも発展した内容 を取り扱う授業である事を前提に、生徒が選択 して参加している。よって、算数や数学が得意 で考える事が好きな生徒が、全部で 18 名集まっ ている。また、この授業の実施は 5 月上旬なの で、正課では『正負の数』を履修している時期。

3.数学マジックの手順と内容

 授業で使用したのは『数学マジック辞典』の

『ジェルゴンのマジック(P.19 ~ 21)』である。

以下、その手順と内容を記載する。

i. 27 枚のトランプから好きなカードを 1 枚、手に取らずに選ばせ、記憶させる。

(生徒が大勢いる場合は教師が後ろを 向き、選んだ生徒以外の生徒が選ばれ たカードを認識できるように確認をさ せておく。)

ii. 生徒がカードを選んだ事(または他の 生徒が選ばれたカードが分かったか)

を確認し、カードを選んだ生徒(もし くは他の生徒)に 1 から 27 までの数 の中で好きな数字を言ってもらう。そ の言われた数に先程の選んだカードが 移動する事を宣言する。

iii. 教師側は言われた数字から 1 引いたも のを 3 進数に変換し、3 の位(2 桁目)

が 0 だった場合は 2 に、2 だった場合 は 0 に変換する。そして、各桁の数を 0 が上、1 が中、2 が下と読み替える。

これは後に、3 つの山を 1 つにまとめ る時に、選ばれたカードがある山をど

の位置に入れるかを示した情報であ る。

iv. 上から1枚ずつ3か所に、裏のままカー ドを配り、9 枚ずつの山にする。

v. 1 山ずつ生徒に見せ、選んだカードが その山の中に入っているかを聞く。生 徒にはカードが見えるが、教師は一切 カードの表を見ない。

vi. 選んだカードがあるといわれた山をⅲ で変換した情報(この時は 1 桁目の情 報)の位置にして 1 まとめにする。

vii. ⅳからⅵを 2 回繰り返す。ⅵで使う情 報は 2 回目が 2 桁目、3 回目が 3 桁目 を使用する。

viii. 1 まとめになったカードを上から順番 に数えながら机に置き、ⅱで宣告され た数の順番になったらそのカードを表 にして開く。そのカードが生徒の選ん だカードになる。

 このマジックはただ、手法を真似ただけでは 成功せず、手順のⅲにある “ 位置の情報 ” を知 らなければ成功しない。手順やカードの動きを 注意深く観察し、それを解明する事が種明かし に直結する。

4.数学マジックの補題的なマジック

 上記のマジックだけでは種(位置の情報)を 解明するのに困難なので、補題的なマジックを 事前に生徒に見せて、その種を考えさせ、説明 させている。以下、補題的なマジックの手順と 内容を記載する。

i. 15 枚のトランプから好きなカードを

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手に取らずに選ばせ、記憶させる。(生 徒が大勢いる場合は教師が後ろを向 き、選んだ生徒以外の生徒が選ばれた カードを認識できるように確認をさせ ておく。)

ii. 上から1枚ずつ3か所に、裏のままカー ドを配り、5 枚ずつの山にする。

iii. 1 山ずつ生徒に見せ、選んだカードが その山の中に入っているかを聞く。生 徒にはカードが見えるが、教師は一切 カードの表を見ない。

iv. 選んだカードがあるといわれた山を真 ん中の位置にしてひとまとめにする。

v. ⅱからⅳを 2 回繰り返す。

vi. 1 まとめになったカードの真ん中(上 から 8 番目)のカードが生徒の選んだ カードになる。

 このマジックは『2.数学マジックの手順と 内容』で挙げたマジックよりも簡単で、手法を 真似ただけでも成功する。また、選んだカード が必ず真ん中に来るという位置の情報が確定し ているので、どの様な動きをするか観察しやす く、生徒が種を説明する上でどの様に考えれば 良いかを補ってくれるマジックである。大半の 生徒はカードがどうやって動くかを把握し、説 明ができるようになる。

5.補題的なマジックの解答

 補題的なマジックの解答は以下の通りであ る。生徒も考えさせる時間を与えれば、同様の 考え方や解説をする。

1回目の手順ⅱ~ⅳで生徒が選んだ カードはひとまとめにされたカードの 上から 6 枚目から 10 枚目のいずれか になる。[図1・2]

② 2 回目の手順ⅱによって、生徒が選ん だカードは各山(5 枚ずつの山)の上 から 2 枚目から 4 枚目のいずれかにな る。[図3]

③ 2 回目の手順ⅲ~ⅳで生徒が選んだ カードはひとまとめにされたカードの 上から 7 枚目から 9 枚目のいずれかに なる。[図4]

④ 3 回目の手順ⅱによって、生徒が選ん だカードは各山(5 枚ずつの山)の上 から 3 枚目(真ん中)になる。[図5]

⑤ 3 回目の手順ⅲ~ⅳで生徒が選んだ カードはひとまとめにされたカードの 上から 8 枚目(真ん中)になる。[図6]

6.生徒の反応と取り組み

 最初に生徒へマジックを見せると、「カード を選んだ生徒がサクラで、先生は最初からカー ドが分かっていた」とか「たまたま当たっただ け」とか様々なことを言い出すが、ここでもう 一度念押しして “ 数学的なマジック ” である事

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を言う。すると「もう一度見せてくれ」と返っ てくるので、何度も見せる。そのうち、用意し ているトランプを自分の机に持っていき、考え た仮説を検証する生徒や、紙に方法を記述して 考える生徒が出てくる。過去 3 回同じ題材で授 業をしているが、毎回、この状態になると教室 にいる生徒は一切私語をせず、黙々と課題の解 決に取り組み始める。種が分かったと言う生徒 には、マジックを実際にやってもらい成功する かを確かめる。また、ただマジックができるよ うになったと言うだけでなく、どのような仕組 みが隠れているのかを考えさせる。ここで実感 できるのは、こちらが「どんな仕組みが隠れて いるかを当ててみよ」と問いを出すまでもなく、

生徒が早い段階で能動的に課題の解決に向かっ てくれる事である。実際に生徒に聞いてみると、

種が特殊なテクニックによるものでなく、論理 的にカードを動かしているだけだという事から

“ 考えればできるかも ” と思わせ、“ マジック の種を知りたい ” と言う知的好奇心から課題に 取り組む姿勢が生まれているようである。

7.生徒の解答例

 ここで、実際の解答例を紹介する。多少の考 え方の違いはあるが、主に以下の 2 種類の解答 が多かった。(実際には以下の様に理路整然と 説明をされるわけではないが、内容は同様なも のである。)

①すべてのパターンを検証して導く方法  手順ⅳからⅵを 3 回繰り返しひとまとめ にする際、選んだカードがあると宣言した 山を入れる位置は “ 上・中・下 ” の 3 箇所 しかないので、実際にカードを動かして選

んだカードが最終的に上から何番目になっ たかを全パターン検証する。[表1]

それらを番号順に整理すると次のようなことが 分かる。[表2]

・ 1 回目に “ 上 ” に入れるのは 3 で割って 1 余 る番号

・ 1 回目に “ 中 ” に入れるのは 3 で割って 2 余 る番号

・ 1 回目に “ 下 ” に入れるのは 3 で割り切れる 番号

・ 3回目に “ 上 ” に入れるのは 1 ~ 9 の番号

・ 3回目に “ 中 ” に入れるのは 10 ~ 18 の番号

・ 3回目に “ 下 ” に入れるのは 19 ~ 27 の番号

・ 2 回目に “ 上 ” に入れるのは 3 回目の位置の 情報で使用した番号の中で後ろから 3 つの番 号(※ 3 回目が 1 ~ 9 ならば 7 ~ 9、10 ~ 18 ならば 16 ~ 18、19 ~ 27 ならば 25 ~ 27)

2 回目に “ 中 ” に入れるのは 3 回目の位置の 情報で使用した番号の中で真ん中の 3 つの番 号(※ 3 回目が 1 ~ 9 ならば 4 ~ 6、10 ~ 18 ならば 13 ~ 15、19 ~ 27 ならば 22 ~ 24)

2 回目に “ 下 ” に入れるのは 3 回目の位置の 情報で使用した番号の中で最初から 3 つの番 号(※ 3 回目が 1 ~ 9 ならば 1 ~ 3、10 ~ 18 ならば 10 ~ 12、19 ~ 27 ならば 19 ~ 21)

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 以上の事から、言われた番号の条件を考えて、

山をひとまとめにする際にその条件で動かせば 選んだカードが言われた番号に来る。

②カードの動きから位置の情報を考える方法  最終的に n 番目へ選んだカードを移動させ るためには、ひとまとめにする際、どの位置に なければならないか、またカードがどのように 山に分けられるかを逆算して考える。以下、最 終的に “10 番目 ” へ選ばれたカードが移動する と仮定して説明を進める。

・ 3 回目のひとまとめにする際、選ばれたカー ドがある山を “ 中 ” の位置に入れる必要があ る。[図7]

・ 3 回目の山に分けられているとき、選ばれた カードは上から 1 番目にある必要がある。[図 8]

・ 2 回目のひとまとめにする際、選ばれたカー ドがある山を “ 下 ” の位置に入れる必要があ る。[図9]

・ 2 回目の山に分けられているとき、選ばれた カードは上から7~9番目にある必要がある。

[図10]

・ 1 回目のひとまとめにする際、選ばれたカー ドがある山を “ 上 ” の位置に入れる必要があ る。[図11]

同様に他の数字も言われた番号から逆算して、

位置の情報を得ることができる。

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10 進数からの変換方法を教えると、それを真 剣に聞きノートに書き留めていた。

9.生徒の理解度と推測される成果

 全体の評価としては、生徒の中には自身で正 解にたどり着いた者も、他の生徒の方法を聞い て正解を知った者もいたが、授業の最後には生 徒全員が 2 人ずつの組になり、マジックをお互 いやり合うことができ、最終的な内容について はどの生徒もしっかりと理解できていた。これ は最初からただ方法を聞くだけでなく、自らが 知りたいという思いから “ 能動的に学習する ” というステップをへて到達したものであると考 えている。また、分かった生徒が分からない生 徒に教える場面があり、分かった生徒は説明の 難しさや、自分の方法の不完全さに気づく場面 も見られた。まさに、論理的に説明をする事の 大事さを実感できたのではないかと思ってい る。

 方法①を思いついた生徒たちは、27 通りと いう有限の事象であることから全パターンを検 証し、正解に辿り着いた。方法②を思いついた 生徒たちは、補題的なマジックの考え方を発展 させ、カードの動きに注目して検証し、正解に 辿り着いた。何も言わずとも両者が “ 数学 ” に 必要な論理的な思考や、似たような課題を基に 考える事を実践しており、直接的に数学を教え ずとも考えられる事に驚いた。また、3 進数の 説明を熱心に聞く生徒を目の当たりにし、知り たいと思っている生徒に対して教える事の効率 性の良さを実感した。

8.数学的な根拠への助言

 どちらの解答例も良く手順や法則を観察し、

答えを導き出している。そして、この根拠に基 づいていけば同様にマジックを行うことができ る。しかし、素早くマジックを行うためには方 法①は 27 種類のパターンを暗記する必要があ るし、方法②は図を用いずに逆算をするのは慣 れれば早いかもしれないが、中々困難な作業で ある。そこで、生徒が考え出した解答を更に改 良し、どうすればスムーズに行えるのかを考え てもらった結果、“ 情報を数値化する ” と言う 方法が出てきた。[表3]

 また、この表を書いているとき、「2 回目の 山に分ける作業は上からカードを配るから上下 を反対にしなければならない」と言う発言もあ り、表の 2 回目を入れ替える事となった。[表4]

 ここまで来ると、上から何番目かと言う数と 1 回目~ 3 回目の数値が連動していることに気 づき、法則性が分かるようになった。中学 1 年 生と言う事で、“3 進数 ” までは辿り着けなかっ たが、授業の最後に 3 進数についての説明や

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10.振り返りと今後の課題

 今回の授業実践において成功した要因の大部 分は、“ 選修教科である事 ” とそこに在籍して いる生徒の “ 数学的な素地が良かった事 ” であ ると思う。しかし、正課の授業でない事や生徒 の質という事を差し引いても、“ 能動的に学習 できる題材 ” と “ 論理的に考える事のできる題 材 ” が生徒の学習意欲を引き出す事については 大いに実感している。今後、その様な題材を正 課の授業で取り上げられるように、教材研究す る事や、生徒のレベルにあった題材選びをする 事が課題である。

11.参考文献等

・ 『数学マジック事典』 上野 富美夫 編東 京堂出版(1995)

・ 『新しい数学1(中学校検定教科書)』 東 京書籍(2015)

・ 同指導書 東京書籍

・ 『たのしくわかる数学 100 時間[新装版]上』

黒田俊郎・西三数学サークル 日本評論社

(2010)

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