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営業職における中途採用者の組織適応の研究 A study on organizational adaptation for mid-career of sales

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1 研究の背景と目的

企業は環境の不確実性に対応しながら,成 長・発展し続けなければならない。そのため,

企業内で育てられない人材については外部から 採用しようという傾向が,これまで以上に強ま る可能性が指摘されている(樋口,2001)。こ のような状況において,個人がひとつの組織の 中でキャリア形成を行う前提はすでに崩れ始め ており,転職を通じてキャリアアップを図ると いった,キャリアの選択の幅が広がってきてい る(長谷川,2003)。しかしながら,中途採用 者が新しい組織にうまく適応し,パフォーマン スを発揮することは容易ではない。株式会社リ クルートキャリア(2014)が実施した「第 26 回転職世論調査」によれば,「前の会社との社 内文化の違い」,「前と今の会社の仕事の進め方 等やり方の違い」,「社内用語がわからない」,

「転職者=即戦力として期待されすぎた」,「社 内派閥などの人間関係」など,中途採用者は転 職後の組織において様々な戸惑いを経験してい る。

新規参入者が組織に適応していく過程は,組 織社会化と呼ばれ,多くの研究が蓄積されてき た。高橋(1993)は,先行研究をレビューした 上で,組織社会化を「組織への参入者が組織の 一員となるために,組織の規範・価値・行動様 式を受け入れ,職務遂行に必要な技能を習得 し,組織に適応していく過程」と定義した。こ の過程について Ashforth et al(2007)は,そ れまでの組織社会化研究を包括的にレビューし た上で,組織社会化の統合モデルの方向性を示 している。これは,制度化された組織からの働 きかけ(社会化戦術)と,意味形成や関係構築 など自ら主体的に行動する(プロアクティブ行 動)ことで組織に適応していく必要事項を学習

営業職における中途採用者の組織適応の研究 A study on organizational adaptation for mid-career of sales

米井 隆

YONEI, Takashi

本研究は,営業職の中途採用者が新組織に参入するにあたり,どのような働きかけが組織適応 に寄与するのかを明らかにすることを目的として,組織社会化統合モデルを中途採用者に援用 し,そのメカニズムを考察することを通じて,組織適応を促進する方策を検討した。調査は,新 しい会社に転職後の経験が半年以上 3 年未満の営業職から営業職へ転職したビジネスパーソンを 対象とし,305 名の有効サンプルにて分析を行った。階層的重回帰分析の結果,組織側が役割や 今後のキャリアの展望を明示することは,営業職における中途採用者の主体的行動を促すと同時 に,新しい組織で必要な事項(業務遂行知識,組織構造,社内政治)を学習することに対して有 効であることが示唆された。また,中途採用者に対し,周囲からの指導的関与が希薄であること で,主体的行動が生まれることが明らかとなった一方,コミュニケーション機会が希薄になる と,戸惑いを覚えてしまうことが示唆された。以上の結果は,既存の組織社会化研究に新たな知 見を加えることにつながったと同時に,営業職の中途採用者に対する組織側の支援の在り方を示 す端緒を開くことができた。

キーワード: 中途採用者(Mid-Career),組織適応(Organizational Adaptation),組織社会化(Or- ganizational socialization)

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し,適応していくといったプロセスで捉えてい く研究である。

制度化された組織からの働きかけ(社会化 戦術)とは,具体的には(1)文脈的要素(例 えば新人向け集合研修),(2)内容的要素(例 えば社内の主要なキャリア・パスの明示),(3)

社会的要素(例えば人間の接触の仕方)に整理 される。また,自ら主体的に行動する(プロア クティブ行動)とは,新人が自ら職場の人間 関係構築に励んだり,必要な情報を収集した り,制度などに体現された組織からのメッセー ジを解釈することで,組織環境への適応に向け た主体的な役割を発揮しようとする行動全般を 捉えた概念である。学習とは,組織社会化プロ セスにおいて,適応していくために必要な事項 を学習することを指し,具体的には新規参入す る組織において必要とされる知識,技術,能力 の獲得や役割認識がそれにあたる。最後の適応 とは,新人が何をもって新しい組織に適応した とみなすのか,結果変数として捉える概念であ る。高橋(1993)は,過去の先行研究のレビュー を通じて,組織社会化の結果変数として,職務 満足・組織コミットメント・職務関与・動機づ け・離転職などを挙げている。

Ashforth et al(2007)が指摘するように,

多くの組織社会化研究は学生から社会人への移 行を研究対象としているが,学生だけが組織へ の新規参入者ではない。前述の中途採用者も組 織への新規参入者である。近年,中途採用者の 組織社会化研究についても,組織再社会化とい う概念を用いた研究が広がりつつある。例えば

国内では,中途採用者の抱える学習課題に焦点 を当てた研究(中原,2012)や Ashforth et al

(2007)の組織社会化研究を踏まえた上で,新 卒者と中途採用者の比較を行った研究(鴻巣,

2011)などが散見されるが,中途採用者を対象 とした研究は未だ少ない。特に Ashforth et al

(2007)の統合モデルを組織再社会化の文脈で,

かつ職種を限定し,検証した論文は見当たらな い。組織再社会化における統合モデル,すなわ ち中途採用者が組織に適応するプロセスにおい て,どのような働きかけがどのような学習を生 起し,結果としてどのような適応をなすのかに ついては,明らかにされていないと思われる。

以上のことから本研究では,Ashforth et al

(2007)の統合モデルを援用し,営業職から営 業職へ転職した中途採用者が,いかにして新し い組織に適応していくか,そのメカニズムを明 らかにし,組織再社会化を促進する方策を検討 する(図 1)。

具体的には以下のリサーチクエスチョン(以 下 RQ と省略)を考察する。

RQ1: どのような組織からの働きかけ(社会 化戦術)が中途採用者のどのような主 体的行動(プロアクティブ行動)と関 係しているか

RQ2: どのような「社会化戦術」,「プロアク ティブ行動」が中途採用者の学習と関 係しているか

RQ3: 「学習」と「適応」の間にはどのよう な関係があるのか

図 1 本研究の概念モデル

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2 研究方法

(1)調査内容

1) 「社会化戦術」,「プロアクティブ行動」の 質問項目

先行研究を確認したところ,中途採用者を対 象として設計された質問項目が見当たらなかっ たため,学卒新人を対象とした研究ではある が,小川(2011)の質問項目を採用し,「あて はまる」から「あてはまらない」に至る 4 段階 尺度で回答を求めた。

2)「学習」の質問項目

「学習」を測定する質問項目には,多くの 先行研究(例えば Chao et al, 1994;Haueter,  Macan & Winter, 2003)があるが,中原(2012)

は中途採用者に対応したオリジナル質問項目を 設計しており,これを採用し,「あてはまる」

から「あてはまらない」に至る 4 段階尺度で回 答を求めた。

3)「適応」の質問項目

「適応」は先行研究によって様々な指標が用 いられている。小川(2005)は,適応指標とし て「業績」,「職務満足」,「離職意図」を採用し ており,本研究においてもこの 3 つは適応指標 として採用した。しかしながら,中途採用者が 何をもって組織に適応したのか,を把握する にあたりこの 3 つの指標だけでは十分ではな いと考える。「組織にいることを意味があるこ と,幸せだと感じていること」も組織に適応し たとみなすこともできるのではないだろうか。

この概念は「情緒的コミットメント」として捉 えることができ,質問項目は高橋(1999)を採 用する。さらに,「自分だけではなく,進んで 周囲を支援する働きかけを行えるようになるこ と」を組織に適応したとみなすことも可能であ ろう。この概念は「組織市民行動」として捉え ることができ,質問項目は田中(2004)の質問 項目のうち,対人的援助因子として抽出された 質問項目(8 項目)を採用する。以上のことか ら「適応」は,小川(2005)で使用されていた

適応指標(業績・職務満足・離職意図)に情緒 的コミットメントと組織市民行動を加えた 5 つ を使用した。なお,全ての質問は「あてはまる」

から「あてはまらない」に至る 4 段階尺度で回 答を求めた。

4)個人属性の質問項目

営業職における中途採用者に対して調査を行 うにあたり,性別,年代,前職の勤務期間,転 職後の勤務歴,前職および現職の営業形態につ いても回答を求めた。性別は男性,女性の選択 式で設計した。年齢,前職の勤務期間,転職 後の勤務歴は具体的な数値で回答してもらっ た。その際,前職の勤務期間および転職後の勤 務歴は月単位で回答してもらった。前職および 現職の営業形態は,(1)前職:BtoB → 現職:

BtoB,(2) 前 職:BtoB → 現 職:BtoC,(3)

前職:BtoC → 現職:BtoC,(4)前職:BtoC 

→ 現職:BtoB,(5)それ以外,の 5 つから選 択型で回答してもらった。

(2)調査方法および対象者の属性

転職後,年数が経過すると記憶も薄れてしま う可能性を考慮し,新しい会社に転職後の経験 が半年以上から 3 年未満の中途採用者に限定し た。また,「社会化戦術」,「プロアクティブ行 動」のそれぞれの質問項目にあたっては,転職 直後の状況について聞き,「学習」,「適応」の それぞれの質問項目にあたっては,最近のこと を聞くように設計した。調査は,楽天リサー チ株式会社に依頼した。2014 年 8 月下旬に 5 日間をかけて,登録しているモニターに対し,

メールによる調査依頼を行った。回答数は 429 名(男性 383 名,女性 46 名)であった。設問 の中にトラップ設問(「この質問には必ず 4.あ てはまらない」をお選びください)を設定し,

いい加減に答える回答者を排除する仕掛けを設 けた。正確に回答できていなかった 124 名を除 外し,305 名を分析対象者とした(表 1)。

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(3)分析方法

まず,回答項目の分布の偏りを調べるため,

平均と標準偏差を用いて,天井効果および床効 果が確認されたものを除外した上で,質問項目 間に過度の相関がないことを確認した。その 後,各概念の因子構造を確認するため,因子分 析を行った。因子の抽出にあたっては,最尤 法,プロマックス回転を採用し,各項目のうち,

(1)2 つの因子に .30 以上となる項目と,(2).40 に満たなかった項目を除外し,因子分析を繰り 返した。その際,(1)の条件に当てはまるもの を優先して除外した。また,複数の項目に(2)

の条件が当てはまった場合は,因子負荷の絶対 値の低い方を除外した。次に,本研究の概念モ デルに基づき,(1)「社会化戦術」が「プロア

クティブ行動」に及ぼす影響,(2)「社会化戦 術」,「プロアクティブ行動」が学習に及ぼす影 響,(3)学習が適応に及ぼす影響について,そ れぞれ階層的重回帰分析を行い,変数間の関係 について検討した。

3 結 果

(1)各概念の因子構造の確認

「社会化戦術」については,4 因子構造が 妥当であると判断した(表 2)。第 1 因子は 4 項目で構成され,「学習経験機会の提供(α

= .817)」と命名した。第 2 因子は 5 項目で構 成され,「役割・キャリアの明示(α= .797)」

と命名した。第 3 因子は 2 項目から構成され,

「指導的関与の希薄(α= .772)」と命名した。

最後に,第 4 因子は 3 項目から構成され,「コ ミュニケーション機会の希薄(α= .660)」と 命名した。なお,第 1 因子から第 4 因子の各下 位尺度について算出したクロンバックのα 数は,若干低い値も一部あるが,問題ない範囲 であると判断した。

次に「プロアクティブ行動」については,3 因子構造が妥当であると判断した(表 3)。第 1 因子は5項目で構成され,「部門外コミュニケー ション(α= .867)」と命名した。第 2 因子は 4 項目で構成され,「意味形成(α= .877)」と 命名した。最後に第 3 因子は 5 項目で構成され,

「部門内コミュニケーション(α= .900)」と命 名した。

「学習」は 4 因子構造が妥当であると判断し た(表 4)。第 1 因子は 8 項目で構成され,「業 務遂行知識(α= .922)」と命名した。第 2 因 子は 4 項目で構成され,「学習棄却(α= .878)」

と命名した。第 3 因子は 2 項目から構成され,

「組織構造(α= .838)」と命名した。最後に第 4 因子は 2 項目から構成され,「社内政治(α

= .793)」とした。

「適応」の因子構造は,すでに先行研究によっ て把握されており,本研究では各先行研究の 因子ごとに信頼性の検討のため,クロンバッ 表 1 調査対象者の属性

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クのα係数を算出した。その結果,「業績(α

= .862)」,「職務満足(α= .862)」,「離職意図(α

= .764)」,「情緒的コミットメント(α= .804)」,

「組織市民行動(α= .928)」であった。

続いて各因子に含まれる質問項目の得点を単 純加算し,質問項目数で割り,各因子の尺度得 点を算出した。重回帰分析を行うにあたり,尺 度得点の相関分析を行い過度な相関の有無を確 認したところ,最も高い相関係数が .771 であ

り,問題ない範囲であると判断した。

(2) 「社会化戦術」が「プロアクティブ行動」

に及ぼす影響

「社会化戦術」が「プロアクティブ行動」に 及ぼす影響を階層的重回帰分析により検討し た(表 5)。Step1 では個人属性のダミー変数を 投入し,Step2 で「社会化戦術」の各因子を投 入した。なお個人属性については,性別は男性 表 2 「社会化戦術」の因子分析結果

表 3 「プロアクティブ行動」の因子分析結果

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を基準に,年代は 20 代を基準に,前職の勤務 期間は 1 年未満を基準に,転職後の勤務歴は 半年以上 1 年未満を基準に,営業形態は BtoB 

→ BtoB を基準にそれぞれダミー変数化して 投入した。また,多重共線性の診断には VIF

(Variance Inflation Factor)を参照した。一般 表 4 「学習」の因子分析結果

表 5 階層的重回帰分析|「社会化戦術」が「プロアクティブ行動」に及ぼす影響

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に VIF が 10 以上であれば,多重共線性がある ことを意味する(対馬,2007)が,全て 10 以 下であり,問題ない範囲であると判断した。

「部門外コミュニケーション」には,「役割・

キャリアの明示」(β= .208, p < .01),「指導的 関与の希薄」(β= .201, p < .01)が正の影響を 及ぼしていた。続いて「意味形成」には,「役 割・キャリアの明示」β = .303, p < .001),「指 導的関与の希薄」(β= .157, p < .01),「コミュ ニケーション機会の希薄」(β= .128, p < .05)

が正の影響を及ぼしていた。最後に「部門内コ ミュニケーション」に及ぼす影響では,「役割・

キャリアの明示」β = .329, p < .001),「コミュ ニケーション機会の希薄」(β= .185, p < .01)

が正の影響を及ぼしていた。

(3) 「社会化戦術」,「プロアクティブ行動」が 学習に及ぼす影響

「社会化戦術」,「プロアクティブ行動」が学 習に及ぼす影響を階層的重回帰により検討した

(表 6)。Step1 では前出のダミー変数を同様に 投入し,Step2 で「社会化戦術」の各因子を,

Step3 では「プロアクティブ行動」の各因子を 投入した。VIF は全て 10 以下であった。

「業務遂行知識」には,「役割・キャリアの 明示」(β= .466, p < .001),「指導的関与の希 薄 」(β = .349, p < .001) が 正 の 影 響 を 及 ぼ し,「コミュニケーション機会の希薄」(β -.153, p < .01)が負の影響を及ぼしていた。ま た,「部門外コミュニケーション」(β = .162, p

< .01),「部門内コミュニケーション」β= .228,  p < .01)が正の影響を及ぼしていた。「学習棄 却」には,「学習経験機会の提供」(β = .198, p

< .01),「コミュニケーション機会の希薄」(β

= .499, p < .001),「 意 味 形 成 」(β = .251, p

< .01)が正の影響を及ぼしていた。「組織構 造」には,「役割・キャリアの明示」(β= .417,  p < .001),「指導的関与の希薄」(β= .202, p

< .01),「部門外コミュニケーション」β= .190,  p < .05)が正の影響を及ぼしていた。最後に

「社内政治」には,「役割・キャリアの明示」

β= .511, p < .001),「指導的関与の希薄」(β

= .185, p < .01),「部門外コミュニケーション」

β= .199, p < .01)が正の影響を及ぼしていた。

表 6 階層的重回帰分析|「社会化戦術」「プロアクティブ行動」が学習に及ぼす影響

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(4)「学習」が「適応」に及ぼす影響

「学習」が「適応」に及ぼす影響を階層的重 回帰分析により検討した(表 7)。Step1 では,

個人属性は前出のダミー変数を同様に投入し,

Step2 で「学習」の各因子を投入した。VIF は 全て 10 以下であった。

「業績」には,「業務遂行知識」(β= .644, p

< .001),「 社 内 政 治 」(β = .135, p < .05) が 正の影響を,「学習棄却」(β= -.192, p < .001)

が負の影響を及ぼしていた。「職務満足」には,

「業務遂行知識」(β= .515, p < .001)が正の影 響を,「学習棄却」(β = -.172, p < .001)が負 の影響を及ぼしていた。「離職意図」には,「学 習棄却」(β = .316, p < .001)が正の影響を及 ぼしていた。「情緒的コミットメント」には,

「業務遂行知識」(β= .462, p < .001)が正の影 響を及ぼしていた。最後に「組織市民行動」に は,「業務遂行知識」(β= .667, p < .001),「社 内政治」(β= .119, p < .05)が正の影響を及ぼ していた。

4 考 察

(1)リサーチクエスチョン 1 の考察

RQ1 は,「どのような組織からの働きかけ

(社会化戦術)が中途採用者のどのような主体 的行動(プロアクティブ行動)と関係している か」である。まず「役割・キャリアの明示」は,

プロアクティブ行動の全ての因子に対して正の 影響を及ぼしていた。これは,組織における役 割や今後進むべきキャリアの展望を組織側から 明示することが,中途採用者の主体的な行動を 促進すると捉えることができる。特に「部門内 コミュニケーション」に及ぼす影響が最も強く なっている。組織から自身の役割や今後のキャ リアの展望を明示されることによって,上司や 同僚に対して何を聞けば良いのかが明確になる ため,的確なフィードバックをもらう行動につ ながるものと考えられそうだ。「指導的関与の 希薄」は,「部門外コミュニケーション」と「意 味形成」に対して正の影響を及ぼしていた。一 見,指導がなされないと中途採用者は動けない

表 7 階層的重回帰分析|「学習」が「適応」に及ぼす影響

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ようにも考えてしまいがちだが,この結果から 見えるのは,教えてもらえない分,教えを乞 う主体的な行動が生まれるということだろう。

「コミュニケーション機会の希薄」は,「意味形 成」や「部門内コミュニケーション」に対して 弱いながらも正の影響を及ぼしていた。「指導 的関与の希薄」が指導場面の有無であるなら ば,「コミュニケーション機会の希薄」は周囲 の人たちとの接触頻度の少なさである。「指導 的関与の希薄」同様,中途採用者は放っておか れることで,積極的に「意味形成」や「部門内 コミュニケーション」行動を取ろうとすると解 釈できよう。「学習経験機会の提供」は,「プロ アクティブ行動」のいずれの因子にも有意な影 響を及ぼしていなかった。いわゆる入社時導入 研修に該当するものを「学習経験機会の提供」

として捉えているが,組織が入社時導入研修を 行うことは,個人の主体的行動には影響を及ぼ さないということが示唆された。これは,多く の入社時導入研修が「会社の理念や行動基準の 説明」,「組織や仕事内容の説明」といった紹 介・説明型の研修であり,新しい組織における 仕事経験がない中で,「会社の理念や行動基準 の説明」,「組織や仕事内容の説明」といった研 修を提供しても,効果が上がらない可能性があ るのではないだろうか。今回の調査では,入社 時導入時研修の内容には言及しておらず,調査 対象者が受けた研修の内容は明らかになってい ない。どのような研修内容および実施のタイミ ングがプロアクティブ行動に影響を及ぼすの か,より検討していく必要があると思われる。

(2)リサーチクエスチョン 2 の考察

RQ2 は「どのような「社会化戦術」,「プロ アクティブ行動」が中途採用者の学習と関係し ているか」である。「業務遂行知識」には,「役 割キャリアの明示」,「指導的関与の希薄」,「部 門外コミュニケーション」,「部門内コミュニ ケーション」が正の影響を及ぼしていた。一方,

負の影響を及ぼしていたのが「コミュニケー

ション機会の希薄」であった。組織から役割や 今後のキャリアの展望を明示することで,中途 採用者は仕事を進める上で必要な業務遂行知識 を身につけることや,中途採用者個人が主体的 に部門内外に働きかけを行うことによって,仕 事を進める上での知識を身につけることができ ることも理解しやすい結果といえよう。問題 は「コミュニケーション機会の希薄」が「業務 遂行知識」に負の影響を及ぼすということであ る。前述の通り,職場におけるコミュニケー ション頻度が低いことは,中途採用者個人の意 味形成および部門内コミュニケーションに対し て正の影響を及ぼすことは確認できた。コミュ ニケーション機会が少ないことは,中途採用者 の主体的行動が高まることが明らかになった一 方,学習との直接的な関連では良い影響を及ぼ さないことが確認された。指導的関与の希薄が 業務遂行知識に対して正の影響を及ぼしている ことを含めて考えると,組織は中途採用者に対 して,教える必要はないが関わる必要があると 捉えることができそうである。

さらに,社会化戦術およびプロアクティブ 行動が「学習棄却」に及ぼす影響について考 察する。「学習棄却」には,「学習経験機会の 提供」,「コミュニケーション機会の希薄」,「意 味形成」が正の影響を及ぼしていた。組織が入 社時導入研修など学習経験機会を提供すること で,「前の仕事の経験は通用しない」や「前職 と仕事に対する姿勢が違う」ということに気づ かされることを意味していると捉えることがで きよう。導入時研修が新規参入者の組織社会化 に及ぼす影響のひとつとしてタブラ・ラサ効果 があるといわれている(尾形,2009)。タブラ・

ラサ効果とは,「新人たちの今までの価値観を 一気に打ち壊し,社会人・社員としての新たな 価値観・行動規範を習得させること」である。

「学習経験機会の提供」や「意味形成」は尾形

(2009)の指摘するタブラ・ラサ効果に近い結 果が得られたと解釈してもよさそうである。一 方,「コミュニケーション機会の希薄」が「学

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習棄却」に及ぼす影響が高い値となっているこ とは,「学習経験機会の提供」や「意味形成」

とは意味が異なると考えられる。学習棄却の質 問内容を確認すると「〜が通用しないことを実 感した」といった問いになっており,ここから 読み取れるのは,周囲がコミュニケーションを とらないことによる中途採用者の戸惑いの表れ ではないだろうか。

さらに,「社会化戦術」,「プロアクティブ行 動」が「組織構造」に及ぼす影響について考察 する。「組織構造」には,「役割キャリアの明 示」,「指導的関与の希薄」,「部門外コミュニ ケーション」が正の影響を及ぼしていた。これ は,組織からの働きかけおよび個人の主体的な 職場外への活動を通じて,中途採用者は会社の 構造を学習することができると捉えることがで きそうである。また,中途採用者は過去の経験 を持っており,一から細かく教えられなくと も,仕事を進めていく上で必要な組織構造は学 習する,という結果であろう。RQ1 では,指 導的関与の希薄が部門外コミュニケーション,

意味形成に対して正の影響を及ぼしていた。こ こから考えられるのは,指導的関わりが希薄で あることによって,職場外に対して積極的にコ ミュニケーションの幅を広げようとし,結果と して組織構造を知ることにつながる,というこ とを示唆しているかもしれない。

最後に,「社会化戦術」,「プロアクティブ行 動」が「社内政治」に及ぼす影響について考察 する。「社内政治」に正の影響を及ぼしていた のは,「役割キャリアの明示」,「指導的関与の 希薄」,「部門外コミュニケーション」であった。

これは「組織構造」に及ぼす影響と全く同様の 結果であり,組織から自分の役割や今後のキャ リアの展望を明示されることや,部門外コミュ ニケーションを主体的に行うことは,組織内の 構造だけでなく,社内政治についての理解にも つながることを示唆していると考えられる。

(3)リサーチクエスチョン 3 の考察

RQ3 は「学習と適応の間にはどのような関 係があるのか」である。まずは「業績」に及ぼ す影響である。「業績」には,「業務遂行知識」

と「社内政治」が正の影響を及ぼしていた。業 務遂行知識を身につけることが業績に直結する ことは想像に難くない。また自分が有利なポジ ションでいられる社内政治を行うことで,社内 での仕事がしやすくなり,結果として業績に影 響を及ぼしていると考えられる。一方,「学習 棄却」は「業績」に対して負の影響を及ぼして いた。これは前述の通り,「〜が通用しないこ とを実感した」という設問から設計されている ため,中途採用者は戸惑いを学習した結果,業 績に対して負の影響を及ぼしてしまったと考え られる。Hedberg(1981)によれば,学習棄却 とは「時代遅れになったり組織や人を誤った方 向に導く知識を組織が捨て去るプロセス」と定 義されている。捨て去っただけでは,業績に対 してマイナスの影響を及ぼす。むしろ「学習棄 却」後に何を再学習するかが重要である,と捉 えることができそうである。

第二に,「職務満足」に及ぼす影響である。

「職務満足」には,「業務遂行知識」が正の影響 を,「学習棄却」が負の影響を及ぼしていた。

新しい組織に参入し,仕事を進める上で必要な 知識を身につけることで,仕事に対する満足度 が高まることは納得できる結果であるといえよ う。興味深いのは「学習棄却」が「職務満足」

に対し負の影響を及ぼしていることである。な ぜこのような結果になっているのか,「学習棄 却」について,今後さらに研究をしていく必要 がありそうだ。

第三は,「離職意図」に及ぼす影響である。

ここでは「学習棄却」が正の影響を及ぼしてい た。「〜が通用しないことを実感した」状況で は,「私はこの組織に向いていないのでは」と いう思考が働き,結果として離職意図が高まる ものと考えられる。

「情緒的コミットメント」は「組織にいるこ

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とを意味があること,幸せだと感じているこ と」を指す。この「情緒的コミットメント」に 及ぼす影響では,「業務遂行知識」が正の影響 を及ぼしていた。新しい組織に参入し,仕事 を進める上での知識を身につけることは,「業 績」,「職務満足」に影響を及ぼすだけでなく,

組織にいる存在意義にも影響を及ぼすことを示 した結果であるといえよう。

最後に,「組織市民行動」に及ぼす影響であ る。「組織市民行動」には,「業務遂行知識」,「社 内政治」が正の影響を及ぼしていた。仕事を進 める上で必要となる知識を身につけることや,

社内の政治的ふるまいを身につけることは,周 囲が見えることにつながり,結果として周囲を 支援する働きかけ(組織市民行動)を行うこと ができると捉えることができよう。

5 総 括

(1)本研究の意義

本研究を通じて,中途採用者の組織社会化メ カニズムを実証的に検証したことは,既存の組 織社会化研究に,新たな知見を加えることがで きたと考える。これまで組織社会化の実証研究 の多くは学卒から社会人への移行が対象の中心 となっており,中途採用者の組織社会化,いわ ゆる組織再社会化研究については,研究の蓄積 がそれほどなされていなかったように思われ る。本研究が,中途採用者の組織社会化メカニ ズムを実証的に検証したことは,既存の組織社 会化研究に,新たな知見を加えることにつな がったと考える。また,中途採用者という 1 つ のラベルで捉えるのではなく,職種を限定した 研究として,新たな取り組みであったといえよ う。

さらに,本研究は営業職における中途採用者 の組織再社会化を促進する方策の検討につなが るものであると考える。具体的には組織におけ る役割やキャリアの展望の明示が,営業職にお ける中途採用者の学習に大きく影響を及ぼすこ とが明らかになったことで,「社会化戦術」の

1 つとして,組織側の支援の在り方を示す端緒 を開くことができたと考える。加えて,職場の 関係者が営業職の中途採用者にいかに関わるか についても示唆を得たと思われる。具体的に は,指導的関与の希薄は中途採用者の学習に正 の影響を及ぼす一方,コミュニケーション機会 の希薄は中途採用者の学習に負の影響を与える ことが明らかになったことである。組織として の支援の在り方について,須東(2014)は,中 途採用者にはまずは自己効力感を高める必要性 があることについて言及をしている。しかしな がら須東(2014)の調査では,職種別の支援の 在り方についてまでは言及されていない。職種 を限定したことにより発見できた事項であり,

営業職の中途採用者に対して組織は,どのよう に支援をしていくことが必要なのかについて,

いくつかの切り口を提供するものになったとい えよう。

(2)本研究の限界

今回の研究における調査対象者は,職種を営 業職に限定し,新しい会社に転職後の経験が半 年以上,3 年未満の中途採用者に限定した。し かしながら,同一企業の調査ではなく,職種を 限定しただけにとどまっているため,(1)転職 後の会社の状況によって結果が異なる可能性が 否定できない点,(2)営業形態の違いによる違 いが発生する点において脆弱性が残ると考えら れる。特に(2)については,階層的重回帰分 析の結果でも営業形態の違いには有意な影響力 が認められるものがあった。可能性として,業 態による中途採用者に対する組織からの働きか けの違いが考えられる。今後は業種・業態も絞 り込んださらなる研究が望まれる。

また,統合モデルにおける因果関係もより 深い考察が必要であろう。能見・水野・小澤

(2010)の研究では,看護職員を対象とした調 査を通じて,情緒的コミットメントを高めるこ とが離職防止につながることを指摘している。

今回の研究では,情緒的コミットメントも離職

(12)

意図も同じ適応指標として設定したが,この 2 つの間にも因果関係が存在しているということ である。単純に学習から適応といったモデルで はなく,より複雑な因果関係が存在している可 能性があるといえよう。

(3)今後の課題

今後は,組織再社会化に即した質問項目の設 計が求められるであろう。本研究では一部,組 織社会化研究において用いられた質問項目を使 用している。学卒新人と中途採用者では,知識 や経験も異なるため,組織再社会化研究に即し た質問項目の設計から行っていく必要がありそ うだ。また,高橋(1993)が「個人の組織化が いつ開始され,いつ終了するかについては,い まだ定説はない」と指摘するように,組織社会 化のプロセスはより広範なプロセスであると捉 える研究も多く存在している。例えば,参入 前の社会化として予期的社会化の重要性に注 目した研究として Porter, Lawler & Hackman

(1975)は,組織に参入してくる個人は既に予 期的社会化の状態にあるものと捉え,参入後の 組織社会化が個人を「構築するのではなく再構 築する」機能を持つと主張し,予期的社会化と 参入後の社会化の連続性を仮定した段階モデル を提示している。これら広範なプロセスとして 捉えた研究も多くが学卒新人を対象とした組織 社会化研究であり,中途採用者の組織再社会化 研究は多くない。今後は,中途採用者の組織社 会化研究においても広範なプロセスとして捉 え,研究を蓄積していく必要がありそうだ。さ らに,実務に即した研究の推進も必要であろ う。近年,学生から社会人への移行を捉える

「組織社会化」研究においても,「迅速な社会化

(Swift socialization)」という概念が注目されて いる(Ashforth, 2012)。「迅速な社会化」とは,

これまで以上に新規参入者が組織に適応するた めの精度を高め,社会化のスピードを速くしよ うとする概念である。企業の競争環境が激化し ている中,成果を出し続けていかなければなら

ないというプレッシャーは増すばかりである。

今後は中途採用者においても「迅速な社会化」

の要因を明らかにしていく必要があるといえよ う。最後に縦断研究の必要性である。今回の研 究は,中途採用者の過去の経験を尋ねて調査を 行った。振り返りデータは過去から現在に至る まで時間が経過しており,縦断データと比較す るとその信頼性に疑問が残る可能性がある。す なわち現在の状況に応じて,過去の回答が影響 を受けてしまう可能性がゼロではないことであ る。今後は,時間と費用と労力をかけ,転職意 思のあるビジネスパーソンを対象に,転職前か ら転職後にかけて縦断的に調査することが望ま しいと考える。

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参照

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