集団スポーツ活動と子どもの精神的健康の関連性について
学 校 教 育 専 攻 生徒指導コース 大 嶋 隆 志
1 .問題と目的
近年
r
生涯スポーツj という言葉に代表さ れるように,メンタルヘルスの改善やストレス 対処のための予防措置として,運動やスポーツ などの身体活動が注目されている。実際に,多くの先行研究において,身体活 動と健康に正の相関があることが報告されてい
る。特に,発育・発達途上である子どもには,
身体活動が心身の発達に効用をもたらすとされ ている。
指 導 教 官 田 中 雄 三
集団スポーツ活動に所属している。そのうち,
小学生の 76%,中学生の 92%が一つの集団に のみ所属している。また,小学生の 31%,中 学生の 34%が活動をやめたいと考えることが あると回答している。
②大人の存在…小学生の 33%,中学生の 14%
が活動での悩みの相談相手に親を挙げている。
また,小学生の 80%,中学生の 75%が家族の サポートを実感しているu 一方で,活動の指導 者を相談相手に挙げたのは,小学生の 4%,中 しかし,その一方で、,子どものスポーツは 学生の 2%だった。しかし,小学生の 74%,中 活動過多や勝利至上主義などが指摘されるなど, 学生の 59%が指導者とは会話をすると回答し 問題も顕在化している。また,中学校の運動部 ている。
活動は,先行研究において,心理的ストレッサ ーの一つに挙げられている。
そこで,本研究では,小中学生の集団スポ ーツ活動の実施状況と精神的健康度に関する調 査を行い,その両者の関連性を明らかにし,考 察を行うことを目的とした。
2.対象と方法
Z県 Y君sX町内の中学校1校の生徒490名, 4小学校高学年の児童 705名を対象に, Wスポ ーツ活動の実施状況調査
J
とWGHQ
改訂版』を用いて質問紙調査を行った (X年 5月 同年 6月)。
3.結果
(1)スポーツ活動の実施状況
①所属状況…小学生の 52%,中学生の 71%が
③友だちの存在…小学生の90%,中学生の91%
が同学年のメンバ}との仲が良いと回答してい る。また,友だちの誘いで入部したのは,小学 生の 25%,中学生の 20%だった。さらに,悩 みの相談相手としても,小学生の 28%,中学 生の43%が同じ部の友だちと回答している。
④活動量…小学生の 21%,中学生の 31%が活 動に追われて時聞がないことを悩みに挙げてい る。また,小学生の 25%,中学生の 70%が活 動過多であると言える。さらに,小学生の約弘
中学生の 60%がスポーツ障害をおこす危険性 が高い活動量を行っているO しかし,小学生の 79%,中学生の 70%が練習内容にはある程度 満足している。
⑤活動に求めること…小学生の 29%,中学生
の 25%が活動の目標に試合での勝利を挙げて いる。また,試合で勝利を求めることについて は,小学生の 73%,中学生の 80%がその必要 性を認めている。その一方で,小学生の20%, 中学生の 29%が活動の目標に活動を楽しむこ とを挙げている。
(2)精神的健康度
小中学生ともに,男子が女子よりも精神的健 康度が有意に高い (pく.05,p<.01) 0 また,小 中学生ともに,学年間比較で有意差が見られ (p<.01, p<.01),小学生では 5年生が 6年生 よりも精神的健康度が有意に高く (p<.01),
中学生では1年生は2年生 3年生よりも精神 的健康度が有意に高い (p<.05,p<.01)。
(3)スポーツ活動の実施状況と精神的健康度と の関連
①所属状況と精神的健康度…小中学生ともに,
スポーツ活動群は非活動群よりも精神的健康度 が有意に高い (p<.01,p<.01)。また,活動群 では,小学5年生は6年生よりも,中学1年生 は3年 生 よ り も 精 神 的 健 康 度 が 有 意 に 高 い (p<.01, p<.05)。一方,非活動群では学年間 で有意差は見られなかった。また,小中学生と もに,活動をやめたいと思う頻度による有意差 が見られ (p<.01,p<.01),やめたいと思う頻 度が高い児童生徒ほど精神的健康度が低い。
②大人の存在と精神的健康度…小中学生とも に,指導者との会話の頻度による有意差が見ら れ (p<.01,pく.01),会話をする児童生徒ほど 精神的健康度が高い。また,小中学生ともに,
家族のサポートによる有意差が見られ (p<.01,
pく.01),サポートを受けている児童生徒ほど 精神的健康度が高い。
③友だちの存在と精神的健康度…小中学生と もに,活動のメンバーとの仲による有意差が見
られ (p<.01,p<.01),仲が良い左感じる児童 生徒ほど精神的健康度が高い。
④活動量と精神的健康度…活動期間,活動日 数,活動時間,試合出場の頻度などの運動強度 に関する項目では,小中学生ともに,精神的健 康度に有意差は見られなかった。しかし,小中 学生ともに,活動日数に対する思いによる有意 差が見られ (p<.01,p<.01),練習内容への満 足度にも有意差が見られた (p<.01,p<.01)。
ともに,活動に満足している児童生徒の精神的 健康度が高い。
⑤活動に求めることと精神的健康度…小中学 生ともに,活動での目標による有意差は見られ なかったが,目標達成感による有意差が見られ (p<.01, p<.01),達成感が強い児童生徒ほど 精神的健康度が高い。また,小中学生ともに,
勝利を求めることについての思いによる有意差 が見られ (p<.05,p<.05),勝利を必要と思う 児童生徒ほど精神的健康度が有意に高い。
4.考察
本研究では,スポーツ活動において,精神的 健康度に影響を与える要因は,運動強度ではな く,活動をどう捉えるかという認知的側面と集 団内の人間関係であることが明らかになった。
また,小中学生ともに,スポーツ活動に楽しさ や友だちとの交流を求め,現代の小中学生のf居 場所J として機能していると考えられ,存在意 義は大きいと言える。しかし,問題視されてき た活動過多や勝利至上主義は依然見られ,スポ ーツ障害の危険性も高いと言える。また,精神 的健康度が高いものだけが活動に適応し,低い ものは不適応を起こすという「切り捨て効果j
が働いている感もある。今後は,複数の競技を 経験できたり,やめてもすぐに復帰できるよう な,柔軟な参加システムが求められるであろう。