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傾斜農地における土壌の空間変動に関する研究 学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 柏 木 淳 一

学 位 論 文 題 名

傾斜農地における土壌の空間変動に関する研究 学位論文内容の要旨

  一般に土壌生成は鉛直方向に進行する。その結果、累層構造(層序)が発達し、鉛直方向において土 壌の性質が大きく変化する。また水平方向においても、生物相の遷移や地形の変化など様々な因子が複 合的に作用するため、場所ごとに土壌の性質が異なることが認識されてきた。特に傾斜地では、斜面に 沿った水や土砂の移動が加わるために、地点間での土壌の差異が顕著となる傾向にある。さらに農地に おいては、耕耘による土壌のかく乱や裸地状態におかれることで土壌の安定性が失われ、土壌侵食が加 速的に進行し、土壌劣化や生態系への影響あるいは作物生育のバラツキの問題が顕在化してきた。土壌 侵食やそれに続く堆積によって拡大する農地土壌の空間変動性に関しては、実際の営農に反映されるよ うな調査研究は限られている。そこで本研究では、傾斜農地である畑、放牧草地、採草地を対象に、土 壌特性の空間変動の実態を明らかにする。土壌の空間変動の解析に用いられるGeostatisticsや、勾配や 凹凸を定量的に評価した地形特徴量、斜面の形態的な特徴や相対的な位置関係によって区分したモデル 斜面を取り入れて評価するとともに、土壌のバラツキの解消に向けた局所的な土壌管理方法の可能性と 課題について検証した。

  傾 斜畑とし て、平 均勾配が0.24mm‑lであり 、圃場 全体の80%を0.20mmIl以上の急斜面が占め、80 年以上耕作を続けている傾斜農地を対象とした。137Csをトレーサとして推定した年平均土壌侵食速度 は、最大でAp層厚の11.5%(29 mm y・1冫と見積もられた。激しい侵食状況を反映し、上位斜面の土壌 断面形態はApノくニの層序を示し、下位斜面では、Ap/Amの層序を示していた。このことは、斜面上の位 置に応じて侵食や堆積作用の優劣が変化することに加え、耕耘により下層土を補うことで一定のAp層 厚を維持してきたことの影響を受けていると考えられた。このように構成する素材の由来が異なるAp 層の土壌理化学性は、大きな変動を示した。全炭素含量の平均は2.50kgkgllで変動係数は39.O%と大 きく、14%のデータが3.5kgkgIl以上であり、対照的に1.5kgkgIl以下のデータも12%含まれていた。

またpHにおいては変動係数が5.9%と比較的小さいが、5.75以下と酸性を示した地点は32%で、6.50 以上の中性は14%の地点で測定された。このように土壌の変動が著しいため、それらの空聞分布に基 づぃた局所的な土壌管理が必要であると考えられた。そこで地形特徴量とモデル斜面の概念を導入する ことにより、局所管理を前提とした2〜4の区画に分級でき、そして各区画の代表値の抽出には15地点 以下の土壌サンプルが必要となることを提示した。一方、実データを用いたセミバリオグラムは異方性 やトレンドの存在を示し、GostatiSticsの応用は困難であった。

    ―l17―

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  傾斜草地は、森林黒ボク土で蹄耕法により造成され放牧草地として利用されてきた。前述の傾斜畑以 上に起伏に富んでいたが、勾配が最大、最小となる地点において137Cs含有量を測定したところ、その 差は小さく、土壌表面が牧草によって継続的に被覆されたことで土壌侵食が抑制された効果が確認され た。 層厚やA層の 理化学性の変動係数は、おおむね既存の報告の範囲内であったが、シルトや粘土な どの細粒分や乾燥密度に関しては傾斜畑の算出値を上回っていた。土壌特性と地形特徴量について相関 分析を行ったところ、有意な関係は土壌水分の移動に関連するような性質に限定され、凹型地形ほど高 水分状態で透水性が悪い土壌が分布することを示唆した。またpHは標高と負な関係にあり、上位斜面 ほど洗脱による酸性化が進行していることが示された。モデル斜面を用いた場合でも、体積水分率、飽 和透水係数、pH(一部の区画)にっいて領域間で有意な差が認められただけで、地形から土壌特性の 空間分布を評価することが困難であった。

  採草地として60年間利用してきた酸性褐色森林土の傾斜草地を対象に、,画一的な土壌改良の是非や、

土壌 特性分布 に基づ ぃた局所的な土壌管理方法について検討した。圃場内における最大勾配は0.20m mI'と傾斜畑や放牧草地と比較して地形変化が緩慢であった。ここではおよそ8年周期で草地更新を行 っており、牧草の更新に加えて経年利用によって酸性化した土壌の改良が実施される。Ap層のpHや全 炭素含量について算出した変動係数は、傾斜畑よりも小さく、地形変化の激しい放牧草地と同程度であ った。地形変化は緩慢であるが、更新時の耕起による土壌のかく乱、土壌改良や通常の施肥を画→的に 行っ てきたこ とが、 土壌の変 動の増 大を助長 したと考えられた。Ap層のpHは平均が5.64で変動係数 が5.7%と小さく、ほとんどの地点で改良目標値である6.50を下回っていた。147地点の分析値の平均 から、酸性改良には2,572 kg ha‑1の炭酸カルシウムが必要であると見積もられたが、500 kg hal以上の 過不足が生じる部分は60%以上に及ぶことが予想された。代表値に基づぃた画一的な土壌改良では、

そのバラツキが解消することは難しく、局所的な対応が必要なレベルであった。pHについて地形特徴 量との相関分析から、低pHの領域は凸型が発達し散水性が強い地形条件に分布することが示されたた め、地形を考慮して領域に分級する方法を検討した。しかし適正な領域面積の増加は7%に過ぎず、大 幅な 改善効果 は見込 まれなか った。pHの空間変 動においては、サンプリング間隔の2倍の20m以内で 自己相関性が見られ、krigingにより推定精度の高いpH分布図を作成することができた。この分布図に 基づぃて4つの領域に分級したところ、500 kg ha"以上の過不足が生じる面積を40%にまで軽減するこ とができた。なおりン酸についても平均値から求めた一定量の施肥では、施肥基準よりも50 kg ha‑l以 上不 足する部 分は50% に及ぶ。圃場を地形条件に基づぃて矩形の領域に3分割することで、この偏り を軽減する効果が見込まれた。

  傾斜農地においては土壌が空間的に変動しており、利用履歴に応じてその変動性の程度は異なってい た。畑地では草地に比べて土壌の空間変動が著しく、土壌侵食による土壌物質移動がその原因であると     デ

推察された。画一的な土壌改良や施肥では圃場内の作物生育のバラツキを軽減することは困難であり、

抜本的な対策として局所的な土壌管理が必要である。そのためには土壌特性の空間分布を把握すること が重要となり、特に畑地では、地形に基づぃた領域の類型化や土壌特性の推定が効果的であったーしか

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し土壌保全効果の高い草地においては、土壌の空間分布と地形の関連性は相対的に弱く、空間分布の推 定や類型化における地形解析の実用性が低下する場合もあった。したがって地形条件とgeostatisticsの 利 用 も 考 慮 し て 、 事 前 の サ ン プ リ ン グ 計 画 を 検 討 す る こ と が 肝 要 で あ る 。

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学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 教授 助教授

長谷川 長澤 波多野 相馬

学 位 論 文 題 名

周一 徹明 隆介 尅之

傾斜農地における土壌の空間変動に関する研究

  本 論 文 は6章 か ら な り , 図57, 表26, 引 用 文 献148を 含 む174頁 の 和 文 論 文 で あ る 。 他に 参考 論文5編が 添え られ てい る。

  土 壌 の 生 成 過 程 に お い て は , 生 物 相 の 遷 移 や 地 形 の 変 化な ど, 様々 な因 子が 複合 的に 作 用 す る た め , 場 所 ご と に 土 壌 の 性 質 が 異 な る こ と が 認 識 され てき た。 特に 傾斜 農地 では , 斜 面 に 沿 っ た 特 有 の 水 や 土 砂 の 移 動 に 加 え て , 耕 耘 に 伴 って 加速 的な 土壌 侵食 が起 こる た め に , 地 点 間 で の 土 壌 の 差 異 が 顕 著 と な る 。 生 産 性 の 向 上に 資す る土 壌改 良や 侵食 対策 に つ い て は , 様 々 な 試 験 研 究 が 行 わ れ て き た が , 農 地 土 壌 の空 間変 動性 を取 り上 げた 調査 研 究 は 限 ら れ て い る 。 そ こ で 本 研 究 で は , 傾 斜 農 地 で あ る 畑, 放牧 草地 ,採 草地 を対 象に , 土 壌 特 性 の 空 間 変 動 の 実 態 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し た 。 土 壌 の 空 間 変 動 は , Geostatistics,勾配や凹凸を 定量化した地形特徴量, 斜面の形態的な特徴や相対的な位置関 係 に よ っ て 区 分 し た モ デ ル 斜 面 を 用 い て 解 析 し , そ の 結 果を 基づ き, 土壌 肥沃 度の バラ ツ キ の 解 消 に 向 け た 局 所 的 な 土 壌 管 理 方 法 の 可 能 性 と 課 題 に つ い て 検 証 し た 。   傾 斜 畑 と し て , 圃 場 全 体 の80% を0.20mm.l以 上 の 急 斜 面 が 占 め ,80年 以 上 耕 作 を 続 け て い る 傾 斜 農 地 を 対 象 と し た 。 凸 型 の 上 位 斜 面 で の 年 平 均土 壌侵 食速 度は ,14 mm y"と 見 積 も ら れ た 。 激 し い 侵 食 状 況 を 反 映 し , 下 位 堆 積 斜 面 で はAp/A/Bの 層 序 を 示 し た の に 対 し , 上 位 侵 食 斜 面 で はAp/Cで あ り , 流 亡 土 壌 を 耕 耘 に よ り 下 層 土 を 補 う こ と で 一 定 のAp 層 厚 を 維 持 し て き た こ と が 明 ら か に さ れ た 。 そ の た め ,Ap層 の土 壌理 化学 性は ,大 きな 変 動 性や 分布 にお ける 特異 性が 観測 され た。 そ こで 地形 特徴 量や モデ ル斜 面を 用い たと ころ , 局 所 管 理 を 前 提 と し た2〜4の 区 画 に 分 級 で き , 各 区 画 の 代 表 値 の 抽 出 に は15地 点 以 下 の 土壌 サン プル が必 要と なる こと を提 示す る こと がで きた 。

  傾 斜 草 地 は , 森 林 黒 ボ ク 土 で 蹄 耕 法 に よ り 造 成 さ れ 放 牧草 地と して 利用 され てき た。 前

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述の傾斜畑以上の急斜面を含んでいたが,土壌表面が牧草によって継続的に被覆されてい る ことで,土壌侵食を抑制した効果が確認された。層厚やA 層の理化学性の変動係数は,

おおむね既存の報告の範囲内であった。地形特徴量を用いることで,凹型地形ほど高水分 献態で透水性が悪い土壌が分布することが示唆されたが,有意な関係は土壌水分に関連す るような性質に限定された。モデル斜面を用いた場合でも,体積水分率,飽和透水係数等 について領域問で有意な差が認められただけで,地形から土壌特性の空間分布を評価する ことは困難であった。

   採草地として60 年間利用してきた酸性褐色森林土の傾斜草地を対象に,土壌特性分布に 基づぃた実践的な土壌の局所管理方法について検討した。およそ8 年ごとの草地更新では,

経 年利 用に よっ て酸 性化 した 土壌の改良やりン酸の補給が実施される。Ap 層のpH や全炭 素含量等の変動係数は,傾斜畑よりも小さかった。更新時の耕起による土壌のかく乱,土 壌改良や施肥を画一的に行ってきたことが,土壌の変動の増大を助長したと考えられた。

147 地点で分析したpH の平均値から,圃場全体として2 ,572 kg ha 一l の炭酸カルシウムが酸 性改良に必要であると見積もられたが,500 kg ha 一l 以上の過不足が生じる部分は60 %以上 に 及ぶことが予想された。地形を考慮して3 領域に分割しても,適正な領域面積の増加は 7 %に過ぎず,大幅な改善効果は見込まれなかった。一方,pH の空間変動においては自己 相 関性が認められ,kriging により推定精度の高いpH 分布図を作成することができた。こ の分布図に基づぃて4 つの領域に分級したところ,500 kg ha 一l 以上の過不足が生じる面積 を40 %にまで軽減することができた。なおりン酸についても平均値に基づく均一施肥では,

50 kg ha'l 以上不足する部分は50 %に及び,地形条件に基づぃて3 領域に分割することに よる偏りの軽減効果は炭酸カルシウムと同程度であった。

   以上のように本論文では,傾斜農地において,詳細な土壌調査から得られた分析データ に基づいて土壌の空間変動の実態を明らかにし,抜本的な対策として局所的な土壌管理が 必要であることを指摘している。そのために不可欠な土壌特性の空間分布は地形特徴量,

モデル斜面,Geostatistics を組み合わせることにより解析できることを明らかにした。さ らに,土壌サンプリングの合理化や施肥管理に必要とされる領域の類型化に貢献する方策 について提案しており,関連学会においても高く評価されている。よって審査員一同は,

柏 木 淳 一 が 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る の に十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 認 め た 。

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参照

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