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環境トレーサーによる北海道の 地下水流動系の評価に関する研究

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Academic year: 2021

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博 士 ( 工 学 ) 池 田 光 良

学 位 論 文 題 名

環境トレーサーによる北海道の 地下水流動系の評価に関する研究

学位論文内容の要旨

  近 年,環境トレーサーを用いた地下水流動系の解析が注目されている。環境トレーサーに よる 地下水流動解析とは,放射性及び安定同位体,地下水温,地下水水質など地下水が本来 持っ ている情報をトレーサーとして利用する手法である。こ の方法にはTothの提唱した地 下水 流動系や地下水域,地下水が涵養された時間と場所,地下水流速や地下水涵養量を流動 場を 乱さずに知ることができ,広域的,長期的な調査だけでなく,ポーリングが十分に利用 でき ない場合にも有効である,といった利点がある。

  し かしながら,北海道では環境トレーサーが十分に活用されてきたとは言い難い。これは 主 に降 水 のト リチ ウム(3H)濃度や,安定同位体比の高度効果といった 基本データの欠如 によ るものと考えられるが,ー方で地下水流動の議論が地下水のもつ地質的側面にのみ偏っ てき たのも理由のーっである。こうした状況をふまえて,本研究では北海道地域で環境トレ ーサ ーを利用するための基本的な物性の検討を行うとともに,広域的な地下水流動系への適 用 性 を 検 討 し て , 環 境 ト レ ー サ ー 法 の 有 効 性 を 立 証 し よ う と 試 み た 。   本 論文は,序論を含め10章から構成される。

  序 論では,研究の背景および目的と論文の概要を示した。

  第2章 では ,ワ イン 中の3H濃度から,過去の降水の3H濃度の推定を試 みた。その結果,

北海 道の3H濃度は日本の標準値である東京・筑波の値よりも 確実に高かったことが判明し た。 また,降水の3H濃度の広域的分布や経年変化とも概ね対 応していることも示された。

いく っかのモデル計算から,ワイン生産時の蒸発等の影響で若干過大であることは考えられ る も の の , 水 の 年 代 の 近 似 値 を 得 る こ と は 可 能 で あ る と し て い る 。   第3章では,北海道の降水の安 定同位体比の高度効果を調べた。この結果,大雪山系のデ ータ から中部地方や東北地方での値よりやや小さく,6D:―1. 75土O.30%07100m,6180:

‑O.24土0.01%07100mと求められた。この値は十勝平野の河 川水や浅層地下水から推定し た値 とほば一致していることが示されている。さらに,安定同位体比からみて北海道は道南 とそ れ以外の北海道に大別され,前者では東北地方の値に近いこと,また,両者の差は主に 温度 効果によるものであることを明らかにした。以上から,これらのデータを道内の水文学 的考 察に適用できるとしている。

  第4章では,土の熱的性質に関 する情報が不足していることから,新たに開発した三重管

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式不撹乱サンプラーによって石狩低地帯のテフラを採取し,火山灰土の熱的物性値を調べた。

一連の実験結果から,美々川周辺の高透水性である支笏軽石流堆積物1,2(S pfai,2)の熱 伝導率は,地下水に強く影響されること,これらの土の熟容量は3. 4〜3.7(Xl06J/m3.℃)

と高く ,熱伝導 によっ ては温度 変化しづらいことを見出している。さらにIm深地温探査の 解 析 に 用 い る 放 熱 係 数hを と り ま と め て , 地 下 水 脈 の 状 況 と の 関 係 を 示 し た 。   第5章では,環境トレーサーを北海道の地下水流動系に適用する研究対象を検討した。そ の結果,地下水の賦存量が多く帯水層として重要であり,かっ地下水域の設定が困難な地形 として,扇状地,火砕流台地および地下水盆を選びケース・スタディを行うことの意義を論 じた。

  第6章では ,十勝 平野南部 に位置す る複合 扇状地内 の2つの流域 をなして いる札 内川扇 状地と ,それに 隣接す る猿別川 扇状地の地下水を検討の対象としている。従来両扇状地間 の地下水の交流は無視できる程度とされてきたが,調査によって猿別川扇状地の地下に古札 内川と考えられる埋没谷が存在することを明らかにした。また,地下水温,0. 8m深地温測 定,安定同位体比の高度効果,一般水質などの環境トレーサーや流線網解析ならびに最近十 年間の 水収支解 析より ,札内川 から1 r3/sを越える地下水涵養があって,猿別川扇状地の 地 下 水 流 の 挙 動 に 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る こ と を 明 ら か に し た 。   第7章では, 火砕流 台地の地 下水流 を解析し ている。 地下水 温は,移流効果により涵養 域では平均値よりも低温,流出域では高温となる。この原理を用いて,これまで地下水域が 判明していなかった美々川地下水域の範囲を次のように明らかにした。(i)隣接する遠浅川 上流域 のうち,馬追丘陵を除く流域は美々川地下水域に属する。恵庭a下部ローム層の分布 から判断して,ウルムH氷期における美々川地下水域の拡大が示唆されるュ(11)遠浅川中流 域では美々川と遠浅川の地下水分水界が存在する。(Ul)西側の境界は西方火山灰台地の90 mピークであり,漠然と考えられていた支笏湖から美々川地下水域への漏水は考え難い。(如)

地下水温から推定した地下水分水界は有限要素法による熱移流拡散解析,地下水面の位置及 び水収支結果と整合する。また本地域の地下水流は,地形のみでなく高透水層であるS pfai,2 層の分布に強く依存することを示した。

  第8章では地 下水盆 の検討を 行い, 十勝平野 西部の主 として 深度330mまでの地下水流動 を次の ように明らかにした。(i)50m深地温は,山麓では9℃以下,平野の中心部では12℃ 以上を示しており,それぞれ涵養域と流出域に対応する可能性が高い。また,地下水温から 推定した地下水流速は,水理学的な解析結果と整合する。(五)十勝平野西部の地下水と十勝 川温泉水は天水起源と考えられる。(伍)安定同位体比から推定した地下水流動は,地下水温 から 推定した ものと おおむね 対応して いる。 また,6Dや6180の差も この地 下水流動 と対 応し,帯水層の位置が深いほど,安定同位体比は軽い値を示す。さらに,同位体比の最大差 は1500mの高度効 果に匹 敵し,十 勝平野 で最も軽 い水は 大雪山系または日高山脈で涵養さ れたことが示唆された。(む)十勝中央断層の東側ブロックは十勝地下水盆の東側の境界を形 成 し , 近 似 的 に は 十 勝 中 央 断 層 は 不 透 水 境 界 と 見 な す こ と が で き る 。   第9章では,トンネル掘削が隣接する温泉源に及ぼす影響や,トンネル上の植生を保全す る の に 必 要 な 土 か ぶ り 圧 を , 主 に3Hか ら 推 定 し た ケ ー ス ・ ス タ デ ィ を 行 っ た 。   第10章は 論文全 体の結論 を明らか にするとともに,本研究の残された課題および今後の 展望にっいて概説゛した。

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学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査 副査

教授 教授 教授 教授 助教授

三浦 藤田 石島 三田地 三浦

学 位 論 文 題 名

清一 睦博 洋二 利之 均也

環境トレーサー による北海道の 地下水流動系の評価に関する研究

  地 下 水 温 , 放 射 性 及 び 安 定 同 位 体 , 地 下 水 の 水 質 な ど をト レ ー サー と し て利 用 す る 地 下 水 流 動 系 の 予 測 法 は 、 地 下 水 が 本 来 持 っ て い る 情 報 に 基 づく 方 法 であ る こ とか ら 、 近 年 特 に 注 目 さ れ て い る 。 こ の 方 法 は 、 地 下 水 流 動 系 や 地 下 水域 , 地 下水 が 涵 養さ れ た 時 間 と 場 所 及 び 地 下 水 流 速 や 涵 養 量 を 流 動 場 を 乱 さ ず に 与 え るこ と が でき , か っボ ー リ ン グ デ ー タ が う ま く 利 用 で き な い 場 合 に も 有 効 で あ る と さ れ てい る 。 しか し な がら , 北 海 道 地 域 で の 地 下 水 の 流 動 形 態 の 予 測 の た め に 、 こ の よ う な 環境 ト レ ーサ ー が 十分 に 活 用 さ れ て き た と は 言 い 難 い 。 こ れ は 主 に 降 水 の ト リ チ ウ ム 濃 度や , 安 定同 位 体 比の 高 度 効 果 と い っ た 基 本 デ ー タ の 欠 如 に よ る も の と 考 え ら れ る が , 一方 で 地 下水 流 動 の議 論 が 地 下 水 の も つ 地 質 学 的 側 面 の み に 偏 っ て き た の も 理 由 の ー つ で あ る 。   以 上 の よ う な 背 景 の 下 に 、 本 研 究 で は 、 ま ず 地 下 水 流 動挙 動 の 予測 に 環 境ト レ ー サ ー を 利用 す る ため の 基 本的 な 物 性の 検 討 を 行っ た 。 さら に 実 施し た 丶 一連 の 解 析と 原 位 置調 査 か ら 、 環 境 ト レ ー サ ー に よ る 北 海 道 地 域 の 地 下 水 流 動 系 の評 価 法 が提 案 さ れて い る 。   本 論 文 は10章 か ら 構 成 さ れ る が 、 研 究 の 成 果 を 章 毎 に要 約 す ると 以 下 のよ う で あ る。

  第 1章 で は 研 究 の 背 景 を 示 し 、 本 研 究 の 目 的 を 明 ら か に し て い る 。   第2章 で は , 降 水 の ト リ チ ウ ム(3H)濃 度 に よ る 地 下 水 の 年 代 推 定 の 可 能 性 を ワ イ ン 中 の3H濃 度 を 実 験 的 に 調 べ る こ と に よ り 検 討 し て い る 。 北 海 道 の3H濃 度 は 日 本 の 標 準 値 で あ る 東 京 ・ 筑 波 の 値 よ り も 確 実 に 高 い 値 を と る こ と, ま た その 広 域 的分 布 や 経 年 変 化 の 特 徴 が 具 体 的 に 明 ら か に さ れ て い る 。 さ ら に い く っか の モ デル 計 算 から 、 ワ イ ン 中 の3H濃 度 よ り 地 下 水 の 年 代 の 近 似 値 を 得 る こ と が で き る こ と を 確 認 し て い る 。   第3章 で は , 北 海 道 の 環 境 水 中 の 安 定 同 位 体 比 (6D、6 180)の 高 度 効 果 を 大 雪 山 系 の デ ー タ か ら 詳 細 に 調 べ た 。 求 め ら れ た 値 は 十 勝 平 野 の 河川 水 や 浅層 地 下 水か ら 推 定 し た 値 と ほ ぼ 一 致 し て い る こ と が 注 目 さ れ る 。 さ ら に 安 定 同位 体 比 の分 布 性 状の 考 察 か ら 、 北 海 道 は 道 南 と そ れ 以 外 の 地 域 に 大 別 さ れ , 前 者 で は 東北 地 方 の値 に 近 いこ と , ま

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た両者の差は主に温度効果によってもたらされるものであることを明らかにした。

   第4 章では,新たに開発した三重管式不撹乱サンプラーによって石狩低地帯のテフラ を採取し,火山灰土の熱的物性値を調べた。美々川周辺の支笏軽石流堆積物の熱容量は 非常に高くかっその熱伝導率は地下水に強く依存する値であることが示されている。さ らに、これらの熱的物性値から得られる地下水温は、火山灰地盤の地下水流動系を定量 化するための環境トレーサーとして、極めて有用であることが確かめられている。

   第5 章では、地下水の賦存量が多くかつ帯水層として重要で地下水域の設定が困難な 扇状地,火砕流台地および地下水盆の地下水流動挙動の実態の詳細な説明を行っている。

   第 6 章では,十勝平野南部にある複合扇状地で2 つの流域をなしている札内川扇状地 とそれに隣接する猿別川扇状地の地下水流動解析と予測を行っている。特に、地温探査 デー夕,安定同位体比の高度効果,一般水質などの環境トレーサーや流線網解析ならび に最近十年間の水収支解析から、札内川からの地下水涵養が猿別川扇状地の地下水流の 挙動に重要な役割を果たしていることを明らかにし、両扇状地間の地下水の交流を実証 している。

   第7 章では,主として地下水温からの火砕流台地における地下水流動解析を進め、こ れまで不明であった美々川地下水域の範囲と地下水分水界の存在を明確にしている。さ らに、有限要素法による熱移流拡散解析は地下水温から推定した地下水分水界の存在を 良く説明することが示されている。

   第 8 章では、十勝平野西部の地下水盆の検討を行い,主として深度330m までの地下 水流動の挙動を調ぺている。地下水温から推定した地下水流速は水理学的解析結果とほ ぼ一致すること、十勝平野西部の地下水と十勝川温泉水は天水起源であること、及び十 勝中央断層は不透水境界と見なすことができること、等の事実が明らかにされている。

   第9 章では,トンネル掘削が隣接する温泉源に及ぼす影響やトンネル上の植生を保全 するに必要な土かぶり厚を環境トレーサーから推定した具体例を示し、本手法の工学的 有用性を明らかにしている。

   第 10 章は、本研究の結論であり、得られた知見を総括するとともに、今後の研究課 題を述べている。

   これを要するに、著者は、環境トレーサーを様々な条件にある北海道の地下水流動系 の予測に用いることができることを精密な原位置地盤調査や地下水調査によって明らか にするとともに、地下水流動解析法について多くの新知見を得ており、地盤工学ならび に水文学の発展に寄与するところ大なるものがある。

   よって著者は、北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認める。

参照

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第1条