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経済学における企業家像の研究

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Academic year: 2021

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博 士 ( 経 済 学 ) 吉 田 昌 幸 学 位 論 文 題 名

経済学における企業家像の研究

:市場経済における動態的調整と革新の推進者

学位論文内容の要旨

本 論 文 で は , 企 業 家 像 の 多 様 性 に 関 す る 様 々 な 議 論 を 参 照 し な が ら , 経 済 学 に お け る 企 業家 像 を 研 究 する 。 第1章 で は, 本 論 文 で 採用 す る 方 法 に つい て 見 て い く。 具 体 的 に は, 第 一 に , 企業 家 像 を探求 する上 でそれ を取り 巻 く 経 済 社会 像 ま で 議 論 を広 げ て い か なけ れ ば な ら ない 理 由 に ついて 考察し ,第二 にな ぜ企業 家とい う存在 が現在 で は 主 流 の新 古 典 派経 済学の 枠組 みに入 りえな いのか ,そし て企 業家性 と経済 システ ムと の関係 性を見 ていく 上で,

な ぜ 新 古 典派 市 場 理 論 の 部分 的 修 正 で はな く 抜 本 的 見直 し が 必 要なの かにっ いて考 察す る。そ の上で ,検討 してい か なけれ ぱなら ない 議論の 論点整 理を行 う。

2章 と 第3章 で は ,企業 家性 なしに は機能 しない 経済 システ ムとは どのよ うなも ので あるの かとい う視点 から ,企業 家 競争と いう競 争的 経済秩 序のミ クロ的 分析を 行う 。

2章 で は, 市 場 論 を 基に し て 企 業 家 競争 と い う 競 争的 経 済 秩 序 の形 成 と そ こ での 経 済 活動に ついて 見てい く。第 1節 に お いて は 新 古 典 派市 場 理 論 に お ける 企 業 家 性 の不 在 を , 第2節 に お い て は企 業 家 競 争 とい う 競 争 的 経 済秩序 像 をいく っかの 事例 を用い て示し ,第3節に おいて は企業 家競 争論の 原型と しての オー ストリ ア学派 の議論 を紹介 し,

4節 に おい て 企 業 家 競争 を 通 じ た 市 場調 整 過 程 を カー ズ ナ ー の議論 を基 にして 見てい く。そ して 第5節 にお いては 企 業 家 競 争に お け る不 確実性 の問 題を見 ていく 。企業 家活動 は, それま で依拠 してき た知 識や情 報を顕 在化さ せ,そ れ ら を 新 たな 活 動 に 適 用 させ る 上 で 不 可欠 な 試 行 錯 誤を 促 進 さ せる企 業家競 争とい う経 済秩序 の形成 を通じ て,経 済 資源の 配分調 整を 行う。

市 場 に お ける 企 業 家性 は,顕 在化 された 知識や 情報を 多様な 形で 活用し ていく ことを 促し ,活性 化させ るが, それら の 知識や 情報を 貯蔵 したり ,それ らに基 づいて 新た な知識 や情報 を開発 した りする という 特性はない。これは,組織と し ての企 業にお ける 企業家 性によ っても たらさ れる 。第3章で は,企 業を企 業家活 動の 母体と して位 置づけ ,企業 組織 と 企 業 家 性と の 関 係 性 に っい て 見 て い く。 第1節にお いて企 業の 競争的 環境と して企 業家 競争の 特徴を クリス テンセ ン が 提 示 した 事 例 を 用 い て見 て い き , 第2節に おいて は企業 家活 動の母 体とい う企業 像の 原型と してペ ンロー ズの議 論 を見て いく。 そし て,第3節 におい て企業 家活動 の母体 とし ての企 業につ いて見 てい く。そ こでは ,企業 が組織 とし て 行 う 知 識や 情 報 の開 発・貯 蔵過 程が企 業組織 の成長 の原動 カと してだ けでは なく, 新た な企業 を創業 ・起業 する上 で も 不 可 欠 な も の で あ る こ と を 野 中 ・ 竹 内 や オ ル ド リ ッ チ ら の 議 論 を 基 に し て 論 じ て い く 。 企 業 は 内 部資 源 を 活 用 す る成 長 組 織 で あり , 創 業 ・ 起業 は 成 長 過程で 生じる スピン オフ である 。企業 家活動 は,企 業 の成長 と創業 ・起 業の双 方に関 わる活 動であ り, この活 動は, 企業家 競争 という 競争的 環境をさらに活性化させるこ と に な る 。第4節 に おいて は,第2章 の内容 とも合 わせ て,企 業家競 争とい う競争 的経 済秩序 像をミ クロ的 視点 から提 示 してい く。

企 業 家 競 争と い う 経 済 秩 序は , 知 識 や 情報 の 発 見 ・ 活用 に 関す る試 行錯誤 を自ら 実行す ると いう企 業家性 を活性 化 さ せる。 しかし ,こ れには ,企業 家性を 活性化 しその働きを活かしていくように経済システムを構成する様々な制度の調 整 と い う もう ー つの 調整過 程が伴 って いる。 企業家 性が活 性化さ れる 経済環 境は企 業家性 それ 自体に よって 形成さ れ る 。 第4章 と 第5章 で は , こ の 過 程 を 企 業 家 競 争 の マ ク ロ 的 動 態 と し て 位 置 づ け , そ の 特 徴 を 見 て い く 。 第4章 で は, シ ュ ン ペ ータ ー , ヴ ェ ブ レン, ガルブ レイス らの資 本主 義論を 取り上 げ,彼 らに 共通す る経済 活動の 技 術 へ の 依 存度 の 増 大 と そ れに 伴 う 企 業家 活動の 無用化 論を それぞ れの視 点から 見て いく。 さらに ,第1節で はシュ ン ペ ー タ ー が提 示 し た 景 気 循環 を 企 業 家的 な調整 秩序と して 位置づ け,そ の特徴 を論 じてい く。第2節 では, 規格・ 標 準 化をもたらす機械過程と所有権の拡大という営利原則とのハイブリッド・システムとして資本主義をとらえ,そこでの中

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がもた らされ るとい う過程 をヴ ェブレ ンの議 論から 見て いく。 そして 第3節では ,資本 主義が 次第 に技術 依存度 を高め ていく 中で,企業においてテクノストラクチャが形成され,経済システムそれに適合して変化していくというガルブレイス の議論 を見て いく。

これ ら の 議 論 は, 企 業家 性が技 術と組 み合わ され ること によっ て企業 組織や 経済 システ ムが変 化して いく という 過程 を説 明 す る も ので あ るが ,そこ には大 きな欠 点が ある。 それは ,企業 組織の 変化 に伴う 企業家 性の在 り方 の変化 や経 済シス テムの 変化に 伴う企 業家 性の在 り方の 変化に つい ては論 じられ ていな いとい うこ とである。企業家競争のマクロ 的動態 は企業 家性・ 企業組 織・ 経済シ ステム という 三つ の要素 の関係 性の動 態であ り, 我々はこの動態を論じうる枠組 みが 必 要 と な る。 特 に 必 要 なの が 企 業 家 性の 在り方 の変化 という 問題 である 。第5章で はコー ルの企 業家 的変化 論を 足がか りにし て,こ の問題 に取 り組ん でいく 。

企業 家 活 動 が 企業 家 活 動 た る所 以 は , そ れが 企 業 家 競 争 とい う 経済 秩序を 形成 し,そ こでの 競争を 活性 化させ るこ とで, 企業家 性と企 業組織 畠隆 済シス テムと の関係 性を 変化さ せなが ら経済 資源の 調整 とイノベーションを促進させる ところ にある 。企業 家活動 とは このよ うな意 味での 企業 家性を 帯びた 経済活 動の総 称で あり,その担い手は,程度差こ そあれ ,何ら かの利 益を獲 得す ること になる 。ー方 ,経済システムも企業家性を誰かに担ってもらうことなしには機能し ていか なぃよ うに進 化して しま うため ,企業 家性の 担い 手の存 在はま すます 重要と なっ ていく。経済学における企業家 像を研 究する にあた って最 初に 直面す る「企 業家と は何 か」と いう問 題は, 企業家 競争 という経済秩序の下での企業家 性の在 り方を 探求す ること を意 味する 。

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学 位論文 審査の要旨 主査

副査 副査

教授 教授 准教授

西部 佐々木 橋本

学 位 論 文 題 名

    

忠 憲介

    

経済 学におけ る企業 家像の研究

:市場経済における動態的調整と革新の推進者

[ 概要]

本 論 文 (

A4

版 全

107

頁 , 目 次 , 序章 , 第

1

章 ー 第

5

章 , 終 章, 参 考 文 献, 脚 注 を含 む ) は, シ ユ ンペー ターのイ ノベーシ ョン論 や資本主 義論, オースト リア学 派の市場 過程論,ペン口ーズの 企 業成長 論,ヴェ ブレンや ガルブ レイスら の資本 主義論, さらに コールに よる企業家史,また野 中 ・竹内 やクリス テンセン などの 企業組織 論など ,企業家 に関連 する多様 な議論を参照・検討し な がら, 経済学に おける統 一的な 企業家像 を明確 化しよう とする 試みであ る。企業家とは,競争 的 経済秩 序におい て経済資 源の活 用を促進 し,経 済システ ムの調 整や革新 をも推進する特性であ る 企業家 性

(ent repreneurship)

の担い 手ないし 乗り物であるとされている。まず,本論文の要旨 を 述ベ, 次に,本 論文に関 する評 価と審査 結果を 報告する 。

[本論 文の要旨 ]

  

1

章は,論 文全体 の問題設 定と方法 を論じ ている。「企業家とは何か」という問題に関する従 来の議 論は多様 な企業 家像を提 示するが ,それ は,企業 家のあ り方が経 済環境の差異に大きく依 存して いるから である 。企業家 の統一的 定義を 得るには ,企業 家活動・ 精神といった主体的要因 だけで なく,客 体的な 経済環境 ・制度の 変化を 検討しな ければ ならない 。企業家性の所在やその 在り方 の変化は ,企業 家競争を通して形成される競争的経済秩序のミクロ的動態分析(第2 ,3 章)

と,企 業家競争 に伴う 企業家性 と経済シ ステム との関係 性を扱 う企業家 競争のマク口的動態分析

(第4 ,5 章)の双 方から 検討され る。

  

2

章 は,企業 家競争を 通じた 経済秩序 の形成 とそこで の市場 過程につ いて論じ る。経 済人や 完全競 争を仮定 する新 古典派理 論では「 企業家 性」がモ デルか ら排除さ れている。これに対し,

カーズ ナーの市 場調整 過程論で は,未利 用な利 益機会の 機敏な 発見とそ の後の企業家的参入が競

争的状 況を顕在 化する とともに ,市場秩 序を動 態的に形 成する 。企業家 は,このような企業家競

争の下 で経済資 源の新 たな有用 性を顕在 化させ る,情報 や知識 の発見・ 開発活動の担い手として

位置づ けられる 。

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   第 3 章は,企業を企業家活動の母体として位置づけ,企業組織と企業家性との関係性を論じる。

クリステンセンが提示したように,企業家競争は企業にとっての環境であり,ペンローズが言う ように,企業は企業家活動の母体である。また,野中・竹内やオルドリッチらの議論によれば,

企業が組織として行う知識や情報の開発・貯蔵過程は,企業組織の成長だけでなく創業・起業の 原動カになっている。知識や情報の意義は,企業家競争によって形成される経済秩序の下で初め て 顕 在 化 さ れ る が , そ の 源 泉 は 企 業 組 織 に よ る 知 識 の 貯 蔵 ・ 開 発 に あ る 。    以上の議論により,市場は企業家競争を通して経済秩序を生み出す場であるが,企業はその母 体として存在することがわかる。市場と企業が企業家競争の下でそれぞれ企業家性と補完的な関 係を築きつつ,経済資源の調整を行っていく。これが,ミクロ的視点から見た競争的経済秩序像 である。さらに,企業家競争秩序の下では,企業家性の活性化が経済制度の調整を帰結すること もある。この経済制度の調整には企業家性の在り方の変化も含む。これらは,企業家競争のマク ロ的動態として位置づけられる。

   第 4 章では,シュンベーター,ヴェブレン,ガルプレイスらの資本主義論を取り上げ,経済活 動の技術依存度の増大とそれに伴う企業家機能の退化という,彼らに共通する議論を検討してい る。シュンベーターの景気循環は企業家的調整秩序と位置づけられるが,資本主義の独占化に伴 い企業がイノベーションを組織的に遂行するにっれて,個人企業家の重要性が低下していく。ヴ エプレンによれば,資本主義とは規格・標準化をもたらす機械過程と所有権拡大という営利原則 との混合であり,所有者兼経営者による企業家活動が次第に機械過程のみに代替されると,所有 と経営の分離が進む。また,ガルブレイスは,資本主義が次第に技術依存度を高めていく中で,

企業内部にテクノストラクチャが組織され,経済システムがそのような企業組織に合わせて変化 していく中で企業家の役割も変化すると論じた。これらの議論は,19 世紀末以降の独占・寡占化 という経済体制の変化を背景としており,個人企業家が担ってきたイノベーションが大企業の経 営管理に取って代わられる傾向を描いたものである。吉田氏は,企業家機能が退化するのではな く,むしろ,企業家活動の母体が個人から企業組織へと移行したと捉え,そこから企業家性その も の が 企 業 組 織 や 経 済 シ ス テ ム の 変 化 に 伴 い 変 化 し て い く と 考 え て い る 。    第 5 章ではAIH .コールの企業家的変化論を基にこの問題を検討している。コールは,企業組織 の創始・維持・拡大を請負う個人あるいはグループを企業家として位置づけ,それを中心とした 経済社会のネットワークを「企業家的構造」と呼ぶ。企業家活動は,企業組織を変化させるだけ でなく,彼のいわゆる「企業家的流れ」という過程において,経済諸制度をも変化させる。企業 家的構造が達成承認欲という企業家の動機に誘因を与え,さらに企業家的構造の成長に伴しゝ,企 業だけではなく経済システム全体においてもイノベーションが生じてしゝく。これは,企業家性と 企業組織,企業家性と経済システム,そして企業家性を内部にもつ経済システムの経済社会にお ける在り方,という三つの視点から企業家競争のマクロ動態像を論じたものと解釈される。企業 家競争のマク口的動態は企業家性・企業組織・経済システムという三つの要素の動的関係性であ り,この中に企業家性の在り方の変化という視点も含まれる。

   終章では,以上の議論より,企業家性は市場にも企業組織にも必要な要素であり,市場論,企 業論,資本主義論という三面から立体的に論じた本論文のアプ口ーチの正当性を確認している。

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[本論文の評価と審査結果]

   本論文は,経済学から経営学に至るまで,幅広い文献を渉猟しっっも,「企業家とは何か」とい う問題に対して,(経営学ではなく)経済学の視点から首尾一貫して接近し,企業家競争を通じて 自発的に形成される経済秩序の中に企業家性の在り方(担い手と担い方)を探求するという方法を 提示している。この点に本論文の積極的な意義と独自性が認められる。吉田氏は,企業家につい て経済学的に考察するため,企業家の人物像ではなく,企業家が経済システムにおいて担ってい る役割を明らかにし,そのような役割を企業家に託す経済システムを解明することを課題として いる。それを果たすべく,企業家性を,企業家個人の活動や精神に還元されるものではなく,む しろミク口とマクロの両面で動態的な市場経済社会が要請するシステム的特性と考え,第 2 章と 第 3 章において企業家と経済システムとの関係性を,第4 章と第5 章においてその関係性の変化 を論じている。

   企業家的競争秩序のマクロ的動態は,企業家競争の下での経済秩序に企業組織や経済社会が適 合すぺく変化していく過程と,その変化に伴って企業家性を担う上での能カや企業組織に対して 提供する企業家的サーピスがイノベーションに特化していくなど,経済システムに対する企業家 性の在り方が変化していく過程の双方を含んでいる。これは,企業家性と経済社会が共進化する 過程を示しているものとして興味深いが,第 2 章と第 3 章におけるミクロ的動態と第4 章と第5 章のマク口的動態を両立させるような市場経済モデルはいかなるものかは論じていない。これは さらに考究すべき論点として残されている。

   本論文は,企業家性・企業組織・経済システムという三つの要素の関係性としてミクロ的・マ クロ的動態が生じることを進化的視点に立って明確に論じている点で全体として成功している。

これは企業家研究に対する経済学独自の貢献であり,ヘバートとりンクが明確に示すことのなか った動態的世界像を示すものとしても高く評価できる。よって,本論文は本経済学研究科の博士

( 経 済 学 ) の 学 位 を 授 与 す る に 値 す る , と 審 査 委 員 会 は 全 会 一 致 で 判 定 し た ,

参照

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