特集にあたって (特集 経済・政治・社会の発展に
おける企業家・経営者の役割)
著者
佐藤 幸人
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジ研ワールド・トレンド
巻
201
ページ
2-3
発行年
2012-06
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00003944
経済発展を推進するのは企業で ある。国家による経済発展を目指 した社会主義モデルが否定されて 久しい。国家が一時的に企業を先 導することはなおありえるが、持 続的な経済発展のためには、いず れはリーダーシップを企業に委ね ざるを得ない。 途上国や新興国の企業経営にお いて、多くの場合、企業家あるい はトップマネジメントのパワーは 絶大である。彼らがどのような背 景を持ち、どのように思考し、ど のような選択をするのかは、彼ら が経営する企業の活動を決定す る。その企業が一国を代表する大 企業であれば、あるいは非常に革 新的な試みに挑むならば、彼らの 意思決定はその国の経済発展の方 向にも影響を及ぼす。確かに一面 において、企業家・経営者は置か れた環境に拘束され、通常、彼ら の選択の範囲には限りがある。し かし、彼らは環境をも変え、選択 の範囲を拡張する主体性を持って いる。そこに彼らに注目する理由 がある。 企業家や経営者の影響力は経済 に限られるものではない。彼らは 経済的なパワーを持つばかりでな く、 そ の サク セ ス ス トーリーは往 々 にして政治的、社会的な尊敬の対 象ともなる。彼らはそれらの資源 を使って、政治や社会の変革にも 作用することができる。そして実 際に影響力を行使するのか、そし てどのように行使するのかは、彼 らの思想や価値観に依存する。企 業家・経営者とその考え方に注目 するもうひとつの理由である。 もちろん、企業家や経営者は経 済や政治・社会に対して、常に進 歩的な役割を担うわけではない 。 レントシーキングに走り経済の健 全な発展を脅かしかねないこと も、政治家と癒着し政治を腐敗さ せうることも、正義を破壊し社会 を荒廃させてしまうかもしれない ことも、企業家や経営者のもうひ とつの側面であることは忘れては ならない。 アジア経済研究所ではこれま で、途上国や新興国の経済発展に おける企業の役割を研究し、企業 家や経営者の重要性を明らかにし てきた。このような研究は現在も 継続している 。今回の特集では 、 新興国の成長が注目されると同時 に、貧困と格差の深刻化が指摘さ れるなか、多くの国で政治に変動 が生じ、社会の仕組みが揺れ動く なか、わたしたちの日頃の研究に 基づきながら、 企業家 ・ 経営者とい う視点から後発国の今にアプロー チすることを狙いとしている。 もとよりこの特集は、複雑で錯 綜した途上国や新興国のごく一部 の断面を切り取ったにすぎない 。 それでも、そこから浮かび上がる 企業家 ・ 経営者と経済 ・ 政 治 ・ 社会 の相互作用は示唆的である。以下 では一二の報告から得られたイン プリケー シ ョ ン を 整 理 し て みた い 。
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既存の資源の結合と新しい
能力の創造
企業の重要な役割のひとつは 、 企業内外の資源を結合し、新しい 価値を生み出すことである。とり わけ後発国の場合、結合による価 値創造のチャンスは次から次へと 沸き出てくる。企業家や経営者は それを嗅ぎ取り、現実のものとす るコーディネーターなのである 。 事業の買収と売却を繰り返すチリ のホセ・ジュラセックはその典型 と い え よ う 。 ま た 、 ロ バ ー ト ・ クォックはアジア大でチャンスを 発掘していったとみることができ る。彼はマレーシアでの貿易会社 からスタートし、シンガポールを 拠点にアジア各地に進出し、ホテ ルや不動産事業を展開した。一九 七〇年代後半には香港に本拠地を 移し、中国の改革開放が始まると いち早く参入している。 このように、企業家・経営者が ビジネスチャンスをみつけ、既存 の資源を結びつけることは企業に 利益をもたらし、経済の発展を促 す。しかし、経済の持続的な発展 経 済・政 治・社 会 の 発 展 に お け る 企 業 家・経 営 者 の 役 割特集
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アジ研ワールド・トレンド No.201 (2012. 6)という観点からは、企業が新しい 能力を創造するという役割を果た すことも必要である。企業家や経 営者はそれを積極的に推し進める ことが期待される。今回の特集で は複数の国について、そのような 企業家 ・ 経営者が報告されている。 韓国のオンラインゲーム産業で は、キムジョンジュら若き企業家 たちは新しいゲームを創作するだ けではなく、ゲームを営利事業と して成り立たせる革新的なビジネ スモデルを創出してきた。台湾の ジャイアントの創業者、劉金標は OEM事業が危機に陥ると、自社 ブランド事業に進出し、海外の販 売網を構築し、製品開発の能力を 高めることによって、さらなる発 展の途を切り開いた。中国では大 部分の企業は出来合いの資源の結 合でよしとしているが、それでも 大長江集団の王大威のように、地 道に製造や品質管理の能力の蓄積 を進める企業家がいる。ベトナム のビナミルクのマイ・キュウ・リ エンは資源の結合の段階から、新 しい資源の創造に向かいつつある ようにみえる。