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エジプトにおける新しい企業家像 -- ナギーブ・サウィリス (特集 経済・政治・社会の発展における企業家・経営者の役割)

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(1)

エジプトにおける新しい企業家像 -- ナギーブ・サ

ウィリス (特集 経済・政治・社会の発展における

企業家・経営者の役割)

著者

土屋 一樹

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

201

ページ

18-19

発行年

2012-06

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00003952

(2)

  ムバーラク政権期のエジプトで は、成功した企業家は尊敬の対象 ではなかった。大きなビジネスを 成功させる必須条件は政権との緊 密な関係であり、企業家としての 能力ではないと考えられていたか らである。実際、二〇一一年に勃 発した一・二五革命でムバーラク 政権が崩壊すると、政治権力と癒 着して不正な利益を得ていたとし て、複数の有力企業家が訴追され た。   他方、一部の企業家は、政治権 力と距離を置き、自由な経済活動 を積極的に支持した。 その代表が、 二〇〇〇年代にエジプト最大の民 間企業となったオラスコム・テレ コム社を率いたナギーブ・サウィ リスである。本稿では、現在のエ ジプトで最も有名な企業家であ り、また一・二五革命後の政治へ の関与も注目されているナギー ブ・サウィリスを取り上げ、その 特異性と一・二五革命後の企業家 像について考える。

オラ

  ナギーブ・サウィリス︵一九五 四年生︶は、現在のエジプトで最 大の企業グループであるオラスコ ム・グループの創業者オンシ・サ ウィリスの長男である 。チュー リッヒ工科大学を卒業した後、一 九七九年にオラスコム社に入社し た。当時のオラスコム社は土木事 業を中心とする建設企業であった が、ナギーブ・サウィリスはIT 機器の輸入販売など主に通信関連 事業を手がけた。   オラスコム社の通信関連事業 は、通信産業の規制緩和が始まっ た一九九〇年代に拡大し 、イン ターネット・プロバイダや、民間 部門による公衆電話網構築の中心 的な担い手として発展した。その 後、一九九八年に実施されたエジ プト初の携帯電話通信事業の入札 に外資系企業と企業連合を結成し て参加し、同事業への参入を果た した。それを機に、オラスコム社 は、通信、建設、不動産開発の三 つに分社化され、オンシ・サウィ リスの三人の息子が各社を率いる こととなった 。以来 、ナギーブ ・ サウィリスが率いるオラスコム ・ テレコムは、携帯電話事業を中核 とする通信企業として発展した。   オラスコム・テレコム社の特徴 は、設立直後から積極的に海外に 進出したことである。企業設立翌 年のヨルダン進出を皮切りに、数 年で周辺国を中心に一九カ国で携 帯電話通信事業に参入した。その 後、二〇〇二年のITバブル崩壊 で資金繰りが悪化し、海外事業の 多くの売却を余儀なくされるな ど、一時は経営難に陥った。しか しながら、その一方で新規海外進 出を継続するなど、海外重視の事 業方針は変わらなかった。近年で は、北朝鮮やカナダの携帯電話事 業にも参入した。   二〇一〇年末時点でのオラスコ ム ・テレコムの携帯電話事業は 、 エジプトを含めて 11カ国で展開さ れ 、 契約数は 1億回線を越えた 。 同年の携帯電話事業の収入をみる と、本国の割合は全体の約二〇% であり、海外事業からの収入が大 部分を占めた。   オラスコム・テレコムは、二〇 一〇年末に携帯電話事業の大部分 について、ロシアの携帯電話通信 会社との合併を公表した。ナギー ブ・サウィリスが自らの持ち株を 売却することに合意したのであ る。その結果、ナギーブ・サウィ リスは、合併会社の大株主の一人 となり、 また合併対象外の事業を、 新たに設立したOTMT社に集約 し、その会長に就任した。

企業

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ギー

  ナギーブ・サウィリスは創業者 の二代目としてオラスコム社に入 社しており、恵まれた環境だった と言えるだろう。とは言え、 彼 は、 主力事業であった土木部門ではな く、主に通信関連部門を担ってお り、二代目経営者というよりも新 規事業を開拓した企業家として捉 えることができる。   企業家としてのナギーブ ・サ ウィリスは、エジプトでは特異な 存在である。エジプトでは、先に 述べたように、多くの有力企業家 は政治権力と緊密な関係を築くこ とで有利な事業機会を得たと見な されていたが、ナギーブ・サウィ リスは政治権力への接近に慎重で 済・政 治・社 家・経

土屋

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︱ナ

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あった。その傾向は、海外事業に おいても同様であった 。例えば 、 二 〇 〇 五 年 の C N N の イ ン タ ビューにおいて、オラスコム・テ レコムがシリアとイエメンから撤 退した理由として、現地政府の恣 意的な干渉を挙げた。   企業家ナギーブ・サウィリスの もうひとつの特徴として、積極的 な海外進出指向が指摘できる。エ ジプト企業の海外進出は二〇〇〇 年代後半から散見されるように なったが、その先駆けとなり、ま た突出した投資残高を持つのがオ ラスコム・テレコムおよびナギー ブ ・ サウィリスの投資会社である。   ナギーブ・サウィリスは、エジ プト国内では携帯電話事業の先行 者であり当初から市場リーダーで あったが、国際的には多くの競争 相手が存在した。そのなかで、オ ラスコム・テレコムは短期間で中 東・北アフリカ地域の主要携帯電 話通信事業者となった。それを可 能としたのは、潜在性のある市場 に早期に参入することで、初期段 階から大きなシェアを確保すると いう方針が成功したためである 。 さらに、複数の市場に過半数所有 権で進出することで、リスクの分 散と主導権の確保を可能とした 。 ナギーブ・サウィリスは、競争相 手に先駆けてリスクを取って途上 国に進出することで、時に経営難 に直面しながらも、短期間でオラ スコム・テレコムをエジプト最大 の企業に成長させたのである。

●社会貢献への取り組み

  企業家として成功する一方で 、 ナギーブ・サウィリスは社会変革 に向けた取り組みも行ってきた 。 サウィリス家の名を冠した社会開 発基金の設立といった慈善事業だ けでなく、ムバーラク政権下にお いて、 新しい独立系新聞に投資し、 また若者向けの衛星放送チャンネ ルを設立した。なかでも独立系新 聞は、それまでの国営新聞による 政府寄りの報道に一石を投じるも のとなり、短期間で主要新聞のひ とつとなった。メディアへの投資 は、ビジネスの一環でもあるだろ うが、それ以上に独裁政権下での 客観的報道や若年層の能力開発を 支援することが目的であったと見 ることができる。   さらに、ムバーラク政権崩壊後 には、政治にも積極的に関与して いる。自身が政治家になる意志は ないことを明言する一方で、政権 移行期の権力を掌握した軍最高評 議会が設置した諮問委員会の委員 就任や、新政党の共同設立者とな るなど、新しい政治体制の構築に 携わっている。   企業家の政治への関与と言え ば、自らのビジネスに資するため というのがこれまでの﹁常識﹂で あったなか、ナギーブ・サウィリ スの行動は、エジプトにおける企 業家のイメージを覆すものであ る。

●一

二五革命後の企業家像

  ナギーブ・サウィリスは、二〇 〇〇年代のエジプト政府が理想と した経済開発方針を体現した企業 家と捉えることができる。市場経 済制度の下で企業家としての能力 を発揮し、国際競争力を獲得した のである。 エジプトの通信産業は、 政府が率先して規制緩和を進めた 産業であった。ナギーブ・サウィ リスは、経済自由化に積極的に適 応することで、二〇〇〇年代のエ ジプトで最も成功した企業家と なった。   それに対し、他の多くの産業で は、行政の介入や煩雑な手続きが 必要とされた。政府の掲げる開発 方針とは異なり、企業の自由な経 済活動は阻害されていたのであ る。そのため、企業家は政治権力 に依存せざるを得ない面があっ た。   しかしながら、一・二五革命は 政治権力と企業家の癒着を否定す るものであり、今後どのような政 権が樹立しようと、企業の経済活 動に政治権力が干渉することは許 されないだろう。従って、 今後は、 政権との親密な関係を構築するこ とではなく、市場競争力を高める ことが成功の要件となる。それは ナギーブ・サウィリスの経営方針 と重なるものである 。企業家ナ ギーブ・サウィリスが特異な存在 でなくなったとき、エジプトでも 成功した企業家が尊敬の対象とな るだろう。それは一・二五革命が 求めた新しいエジプト経済の姿で もある。 ︵つちや   いちき/アジア経済研究 所  中東研究グループ︶ .

エジプトにおける新しい企業家像―ナギーブ・サウィリス―

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参照

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