博 士 ( 工 学 ) 匡 春 香
学 位 論 文題 名
Highly Efficient and Stereoselective Synthesis of Vinyl Halides and Unsaturated Carboxylic Acids by Utilizing Clean Processes
( ク リ ーン プロ セス を用 いる ハロ ゲン 化ビ ニル及 び 不 飽 和 カ ルボ ン酸 の高 効率 かつ 高立 体選 択的 な合成 )
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
ハロゲン化ピこル及び不飽和カルポン酸はさまざまな天然化合物、医薬品、液晶材 料あるいは高分子材料などを合成する際の中間体として重要な化合物である。一方、
有機合成反応において、反応が高効率かつ高立体選択的に進行することは必要不可欠 であるが、クリーンな反応手法、反応溶媒あるいは反応試薬を用い、また試薬や溶媒 の少量化あるいは反応時間の短縮などを行って、できるたけ環境調和的な合成反応を 達成することが重要である。
本論文では、ハ口ゲン化ピニル及び不飽和カルポン酸の高効率かつ高立体選択的な 合成を目的として、マイクロ波反応及び電極反応などのクリーンな反応手法を用い、
官能基を有する旧―あるいは(Z)一ハロゲン化ピニル及び不飽和カルポン酸の高効率か つ高立体選択的合成について研究を行った。
本論文は7章から構成されている。
第 1章 は 序 論 で あ り 、 本 研 究 の 背 景 及 び 目 的 に つ い て 述 べ た 。 第2章では、アルデヒドとWittig試薬から容易に得られる1,1‐ジブロモアルケンを ェタノール中亜りん酸ジェチルとナ卜リウム工卜キシドを加え、家庭用の電子レンジ を 用 い て マ イ ク 口 波(MW)を1分 間 照 射 す る こ と に よっ て 、 相 当す る(E)‑臭 化ピ ニ ルが高収率かつ高立体選択的に得られることについて述べた。1,1‐ジプロモアルケン から臭化ピニルを合成する反応については、すでにいくつかの報告があるが適用例が 少なく、また、アルキル置換の化合物の場合は低収率である、反応時間が長い、ある い は 大 量 の 試 薬 が 必 要で あ る な どの 欠点 がある 。し かし なが ら、 本反 応はMWを 照 射することによって、1,1‐ジブ口モアルケンから高収率かつ高立体選択的に相当する
(め‐臭化ピニル類を合成することができた。本方法によって、電子供与性基や電子吸 引性基の置換したロ‐プ口モスチレンを高収率、高立体選択に合成することができ、従
来の反応よ り極めて 優れた合 成反応あ ることを 明らかに した。本合成法は環境に優し い試薬や溶 媒を使用 し、短時 間の反応 で合成が 達成でき るので、大量合成への応用も 可能であり 、環境調 和的な合 成法であ る。また 、反応経 路についても考察を行った。
第3章では、(E) ‑B一アリー―ルプロペン酸をN−ハ口スクシンイミド(NXS、X=Br,Cl,I) と少量の酢 酸リチウ ムの存在 下、マイ クロ波を1―2分間照 射することによって、相当 する(E)‑B一 アリール ハ口ゲン 化ピニル が高収率か つ高立体 選択的に 合成され ること につ い て述 べた 。カルボ キシル基 をハロゲン に変換す る反応、 いわゆるHunsdiecker 反応につい てはこれ までに様 々な改良 法が報告 されてい るが、ハ口ゲン化ピニルの生 成は い ずれ も低 収率であ った。本 手法は、マ イク口波 をHunsdiecker反応に 適用した 最初の例で あり、従 来法に比 べて反応 時間を大 幅に短縮 でき、収率ならび立体選択性 も極 め て高 い 。 溶媒 量 も10分 の1以下 に 減ら す こ とが で き 、環 境 に優 しい 合成法で ある。アル デヒドか らワンポ ット反応 で臭化ピ ニルを合 成することも可能である。ま た、CIS‑ケイ皮酸を用いることによって、cis‑3‑Lactoneを経由する反応経路があること を初めて明らかとした。
第4章では、Q,B一不飽 和カルポ ン酸の臭素付加で得られる2,3―ジブロモアルカン 酸を酢酸中 酢酸銀を 加え、電 子レンジ を用いて マイクロ 波を1―2分間照射することに よって、相 当する旧 ー体の臭 化ピニル が高収率 かつ高立 体選択的に得られることを述 べた。本方 法は、2,3−ジブロモアルカン酸からの‑B一アリール臭化ピニルを合成する 新規ルート である。ケロns‑p‑Lactoneを経由する反応経路も初めて確認することができ た。また、 ケイ皮酸 からのワ ンポット による( 日―臭化 ピニルの合成にも成功した。
第5章では、a,B―不飽 和カルボ ン酸の臭素付加で得られる2,3‐ジブロモアルカン 酸をDMF中ト リ エ チル ア ミン を 加 え、 マ イクロ波 を10秒ー1分 間照射す ることに よっ て相当する(Z)‑体の臭化 ピニルが 高収率か つ高立体 選択的に 得られることについて述 べた。2,3―ジブ口モアルカン酸の脱臭素―脱炭酸を経る臭化ピニルの合成は以前から知 られていた が、一般 的に収率 や立体選 択性が低 く、満足 できるものではなかった。本 手法は、極 めて短時 間で反応 が終了し 、生成物 の収率な らびに立体選択性も極めて高 く、適応範 囲の広い 優れた合 成法であ る。無溶 媒で臭化 ピニルを合成することもでき た。また、 マイクロ波照射によって、2,3←ジブロモアルカン酸からのワンポットでア セ チ レ ン を 高 収 率 で 合 成 で き る こ と を 見 出 し 、 そ の 結 果 に つ し ゝ て も 述 べ た 。 第6章では、1,2−ジブ口モアルカン及び1,1−ジブロモアルケンに酢酸中亜鉛金属を 加え、マイクロ波を照射することによって、それぞれ(日一アルケン及び(日‑臭化ピニル 類が高収率 かつ高立 体選択的 に合成さ れること について 述べた。本法は従来の反応よ り極めて優れた方法である。
第7章 では 、二酸 化炭素を 電気化学 的な手法に より有機 基質へ固 定化し、 有用なカ ルボン酸を合成することについて述べた。(日ーあるいは(Z)一臭化ピニルの電解カルボ キシル化で は、いず れから出 発しても 熱力学的に不安定な(勾‑体のケイ皮酸が優先的 に生成する ことをす でに見出 している が、二ッ ケル触媒 を添加することによって立体 化学を保持 してカル ポキシル 化を行う ことがで きた。一 方、臭化ピニルから、Ni陽極
をもちいてHomoーcoupling反応を行い、
エ
ボン酸を合成する反応も見出したので、
得られる ジェンを カルポキ シル化してジカル 結果を併 せて報告 する。
学 位論文 審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授
徳 田 昌 生 宮 浦 憲 夫 原 正 治 折 登 一 彦
学位論文題名
Highly Efficient and Stereoselective Synthesis of Vinyl Halides and Unsaturated Carboxylic Acids by Utilizing Clean Processes
(クリーンプロセスを用いるハロゲン化ビニル及び 不飽和カルボン酸の高効率かつ高立体選択的な合成)
ハ ロ ゲ ン 化 ピ ニ ル 及 び 不 飽 和 カ ル ポ ン 酸 は 、 さ ま ざ ま な 医 薬 品 や 液 晶 材料 ある い は 高 分 子 材 料 な ど の 合 成 中 間 体 と し て 重 要 な 化 合 物 群 で あ る 。 一 方 、 有 機合 成反 応 に お い て 高 効 率 か つ 高 立 体 選 択 的 に 合 成 反 応 を 行 う こ と は 重 要 な こ と で あ る が 、 21世 紀 の 化 学 工 業 を 考 え た 場 合 、 こ れ ら に 加 え て で き る だ け 環 境 調 和 的 に 合 成 反 応を達成することが強 く求められている。
本 論 文 は 、 ハ 口 ゲ ン 化 ピ ニ ル 及 び 不 飽 和 カ ル ポ ン 酸 の 高 効 率 、 高 立 体 選択 的か つ 環 境 調 和 的 な 合 成 を 目 的 と し て 、 ク リ ー ン な 反 応 手 法 で あ る マ イ ク ロ 波 反応 ある い は電極反応などを用い 、(D−あるいは(乃一ハ口 ゲン化ピニル及び(め―あるいは(乃一 a,pー 不 飽 和 カ ル ポ ン 酸 を 高 効 率 か つ 高 立 体 選 択 的 に 合 成 す る 方 法 を 開 発し た成 果 についてまとめたもの である。
本 論 文 は7章 か ら 構 成 さ れ て お り 、 第1章 で は 本 研 究 の 背 景 と 目 的 が 述 べ ら れ て い る 。 以 下 に 著 者 が 開 発 し た 新 規 合 成 法 お よ び 評 価 で き る 点 な ど を 述 べ る 。 1) マ イ ク 口 波 反 応 を 用 い る 有 機 合 成 反 応 は 近 年 世 界 各 国 で も 研 究 さ れ る よ う に な っ た が 、 著 者 が 見 出 し た ハ 口 ゲ ン 化 ピ ニ ル の 合 成 手 法 は 新 規 性 が 高 く 、 環境 に優 し い 合 成 反 応 で あ る 。 本 合 成 法 は 、 家 庭 用 の 電 子 レ ン ジ を 用 い て1−2分 間 の 短 時 間 で 反応 が終 了す るこ と、 収率 およ び(Dーあ るい は( 乃ー 体の 立体 選択 性 が極めて高い こ と 、 溶 媒 の 少 量 化 が 可 能 で あ る こ と 、 お よ び 反 応 処 理 が 簡 単 で あ る こ とな どの 優
れた特長を有している。将来的には工業化も可能と思われ、非常に有用な合成法と して高く評価できる。
2)アルデヒドから容易に得られる1,1―ジプロモアルケンを出発原料とし、エタノ ー ル中 亜り ん酸 ジエ チル とナ トリウ ムエ トキ シド を加 え電子レンジを用いてマイ ク 口波 を照 射す る方 法を 開発し、相当する(D一臭化ピニルを高収率かつ高立体選 択 的に 合成 して いる 。本 合成 反応は 従来 の合 成法 より 格段に優れた方法である。
3)(め ―ロ ーア リー ルプ ロベン酸を出発原料とし、N‑ハ口スクシンイミド(NXS; X=Br,Cl,I)と少量の酢酸リチウムの存在下マイクロ波をト2分間照射することに よって相当する(めーローアリールハ口ゲン化ピニルを高収率かつ高立体選択的に合 成 する 方法 を開 発し た。Nーハ口スクシンイミドのハ口ゲン部を変えることによっ て相当する臭化、塩化およびョウ化ピニルを簡便かつ高収率で合成できる点に特長 があり、高く評価できる。
4)a,ロ一不飽和カルポン酸の臭素付加で得られる2,3一ジブ口モアルカン酸のマイ クロ波反応において、反応溶媒と添加物を変化させることによって(めーあるいは (Z)‑臭化ピニルを高立体選択的にっくり分ける合成法を新規に開発しており、合成 化学的に非常に興味深く、また有用な合成法である。具体的には、酢酸中酢酸銀を 加 えて マイ ク口 波を 照射 する 場合に は(D一 体の 臭化 ピニルが、一方、DMF中トリ エチルアミンを加えるマイクロ波反応では相当する(勿一臭化ピニルが、それぞれ高 収率かつ高立体選択的に合成できることを明らかにした。
5)1,2一ジプ口モアルカン及び1,1一一ジプロモアルケンに酢酸中亜鉛金属を加えてマ イクロ波を照射することによって、(D―アルケン及び(め―臭化ピこル類がそれぞれ 高収率かつ高立体選択的に合成できることを明らかにした。
6)ニッケル触媒を用いる二酸化炭素の電気化学的固定化によって、(めーあるいは
(乃嗅化ピニルから(めーあるいは(Z)‑or,,p一不飽和カルポン酸を高い立体選択性で合 成 する 手法 を開 発し た。 また 、Ni陽 極を 用い る臭 化ピ こルの電解カップルングに よってジェンを合成し、さらにその電解カルボキシル化によってジカルボン酸を合 成する方法も開発した。連続したニつの反応をone・potで行う手法も開発している。
これを要するに、著者は、クリーンな反応手法であるマイクロ波反応あるいは電 極反応などを用いて(めーあるいは(乃一ハロゲン化ピニル、及び(め―あるいは(あ−
Q,6一不飽和カルポン酸などを高効率かつ高立体選択的に合成する新規手法を開発 したものであり、有機工業化学ならびに有機合成化学の発展に寄与するところ大な るものがある。
よって著者は、北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認め る。