博 士 ( 医 学 ) 青 山 剛
学位論文題名
Edaravone (MCI ー186) Scavenges Reactive Oxygen Species and Ameliorates Tissue Damage in the IVIice Spinal Cord Injury Model
(マウスの脊髄損傷モデルにおけるエダラボン(MCI ―186) による活性酸素 種の減量およぴ組織障害の減少効果の研究)
学位論文内容の要旨
【 背 景 と 目 的 】 脊 髄損 傷時 の 急性 期に おい ては , スー パー オキ シド , 過酸 化水 素, ヒ ドロ キシ ル ラ ジ カ ル な ど の 活 性 酸 素 が 脂 質 過 酸 化 反 応, タン パク 質 酸化 ,DNA損 傷を 通し て二 次 的な 組織 損 傷 を 引 き 起 こ す と され てい る .そ のた め, 脊髄 損 傷時 の二 次損 傷を 防 ぐた めに 薬剤 で の治 療が 試 み られ てい る, そ して 現在 では メ チル プレ ドニ ゾロ ン 大量 投与 療法が臨床的に認可 されているが,
その効果は 十分であるとは言えない.
一方,エダ ラボン (MCI‑ 186;3^methyl‑l‑phenyl‑2 ‑pyrazolin‑5 ‑one)はフリーラジカルスカベンジ ヤ ー で あ り , 急 性 期の 脳梗 塞 に対 して 臨床 的に 使 用さ れて いる .動 物 モデ ルで は, 全 脳ま たは 局 所 脳 虚 血 モ デ ル , 頭部 外傷 モ デル での 神経 保護 作 用を 有し ,脳 虚血 , 頭部 外傷 後の 浮 腫を 著明 に 減 少 さ せ る こ と が 報告 され て いる .さ らに 脊髄 虚 血モ デル と脊 髄損 傷 モデ ルで も組 織 障害 を有 意 に軽減させ るとの報告もあるが,その機 序ははっきりしていない.
本 研 究 で は 、 脊 髄 損傷 にお い てエ ダラ ボン が活 性 酸素 の産 生を 減少 さ せ組 織障 害を 改 善さ せる か を明らかに することを目的とする,
【材料と方法】
雌 性C57BL/6マ ウ ス ( 生 後5−10週 , 体 重 は15‑20g)を 用い て 不完 全脊 髄損 傷モ デ ルを 作成 した , 麻 酔 は4.0% イ ソ フ ル レ ン 、 笑 気 で 行 な い , 直腸 温を34.5℃ から36.0℃に 維持 し た, 皮膚 の正 中 切 開 後 , 手 術 頭 微 鏡 下 でTl0の 椎 弓 切 除 を 行 な っ た .Pneumatic impact deviceの設 定条 件は , 速 度2m′sec, 深 さ はO.25mmと し た .T10レ ベル で不 完全 脊 髄損 傷作 製後 ,術 直 後の 神経 学的 評 価を行った,
動物は,vehicle投 与群(n.:10)とエダラボ ン投与群(n 10)の2グループに分けた.前者はvehicle を , 後 者 は エ ダ ラ ボ ン3mg′kgを 脊 髄 損 傷 の30分 前 に 腹 腔 内 投 与 し た . 神 経 学 的 評 価 は ,Kuhn ら の behavioralfunctiontestを 用 い , 脊 髄 損 傷 作 成 後O,1, 4,7日 目 に 行 な っ た , 脊髄 損 傷の 体積 測定 のた め ,脊 髄損 傷後7日 目に 脊髄 を 採取 した .採 取時 ,4.0%イ ソフ ルレンで 麻酔 し ,上 行大 動脈 から へ パリ ン加 生理 食塩 水 を灌 流後 に4%パ ラホ ルム ア ルデ ヒド 溶液 で灌流し た . 採 取 し た 脊 髄 は パ ラ フ イ ン 包 埋 し ,7肛mの 矢 状 断 の 切 片 と し ,Luxolfa8tblue染 色 を 行 な った,体積はDohrmannのtwo‐cone法で算出した .
脊 髄 損 傷 急 性 期 の スー パ ーオ キシ ドに 対 する エダ ラボ ンの 効 果の 時間 的, 空間 的 な分 析を 行な う ため,別にvehide投 与群(n 6),エダラボン 投与群(nニ6)を作成した,それぞれ脊髄損傷作成から 1時 間 後 ,3時 間 後 に4% イ ソ フ ル レ ン 麻 酔 下 に脊 髄を 採取 し た. 採取 した 脊髄 は 直ち に液 体窒 素 で 凍 結 し , 包 埋 し た ,10pmの 厚 さ の 切 片 と し ,5mmoMdi11ydroethidium(DHE) リ ン 酸 緩 衝 液 溶 液 を 暗 室 , 加 湿 チ ャ ン バ ー 内 で30℃ ,30分 間 イ ン キ ュ ベ ー ト し た ,DHEは ス ー パ ー オ キ シ
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ド で 酸 化 さ れ る とethidium bromideと な り 細 胞 核 内 のDNAと結 合 する こと で赤 の 蛍光 を発 する . 赤 の 螢 光 は580mgロ ン グ パ ス フ イ ル タ ー を 介 し て 螢 光 顕 微 鏡 で 観 察 し ,CCDカ メ ラで 記録 した , そ れ ぞ れ の 切 片 で 脊 髄 損 傷 の 中 心 部 か らImmと2mm離 れ た 部 位 にROIを 設 定 し , 輝 度 を 測 定 し た . ( Immの ROIの 輝 度 ) / (2mmの ROIの 輝 度 ) の 比 を 算 出 し 比 較 し た . DHE陽 性 細 胞 が 神 経 細 胞 か 否 か を 評 価 す る た め , 螢 光 免疫 染色 を 行な った .上 述 の通 りの 凍結 切 片 作製 後, マウ スIgGで 標 識し た抗MAP2モノ ク ロナ ール 抗体 で染 色 した (n二ニ ニ3).螢 光顕 微鏡 で 観 察 し , デ ジ タ ル 記 録 を 行 な っ た .
統 計 処 理 は , 連 続 デ ー タ は 対 応 の な いt. 検 定 , ノ ン パ ラ メ ト リ ッ ク デ ー タ はMann‑WhitneyUテ ス ト で 行 な っ た ,
【結果】
vehicle投与 群, エダ ラボ ン 投与 群と も脊 髄 損傷 作製 直後 は強 度 の後 肢機 能障 害を 呈 し,その後は 徐々 に改 善し た , Motor scoreはvehicle投与群,エダ ラボン投与群が0日目でそれ ぞれ0.2土0.6. 0.2土0.4で有 意 差は なか った が,7日 目で は それ ぞれ3.3土1.1,4.2土1.2であ り, エ ダラボン投与 群 で 有 意 に 良 好 な 改 善 が 得 ら れ た(p=0.0146). Hindfootbargrabscoreで は4日 目 でvehicle投 与群,エダラボン投与群が それぞれ1.7土O.7,2.3土O.8であり,エダラボン投与群で有意に良好で あった,その他の項目では 両群間に有意差は認めなか った.
脊髄 損傷 の体 積 測定 の結 果は ,veMcle投 与群 が2.43土0.48mm3に対し,エダラボン 投与群は3.82 土1.7lmm3で あ り , エ ダ ラ ボ ン 投 与 に よ り 優 位 に 体 積 は 減 少 し て い た (p〓0.0412) . DHE染 色 に よ る 輝 度 測 定 の 結 果 は ,vehicle投 与 群 で は 損 傷1時 間 後 ,3時 間 ご と も 損 傷 中 心 の 周 辺 部 で 螢 光 輝度 の上 昇を 認 めて いた が, エダ ラ ボン 投与 群で は顕 著 では なか った . 輝度 の比 は 損傷1時間後ではvekcle投 与群,エダラボン投与群で1.45士O.20,0.87土0.07(pく0.0001),損傷 3時間後では1.29土0.18,0.82土O.07くpく0.0001)であり,いずれもエダラボン投与群で有意に低値 で あ っ た ,DHEとMAP2の 二 重 免 疫 染 色 で は ,DHE陽 性 細 胞 の90% 以 上 はMAP2陽 性 で あ っ た.
【 考察 】
本 研 究 で は , 脊 髄 損 傷 前 の エ ダ ラ ボ ン3mg/kgの 投 与 に よ り 有 意 に 脊髄 損傷 の 体積 を減 少さ せ , 運 動 機 能 の 回 復 を 良 好 に し て い る こ と を示 した . さら に,DHE染色 によ ルス ー パー オキ シド 産 生 の 時 間 的 , 空 間 的 な 分 析 を 行 な い , 二 次 損 傷 の 保 護 の 機 序 を 検 討 し た . ス ー パ ー オ キ シ ド は 受 傷 か ら1時 間 ,3時 間 後 に 損 傷 の 周 辺 部 で 増 加し てお り ,ま た, 主に 神 経 細 胞 で 産 生 され てい る こと が示 され た .こ れま でに もス ー パー オキ シド の産 生 は24時間 まで 続 く と い う 報 告 も あ る 一 方 , 水 酸 化 ラ ジ カ ル は3時 間 ま で は 産 生 さ れ るが5時間 後 には 増加 して い な い と の 報 告 もあ る, 本 研究 の結 果も 併 せ, スー パー オキ シ ドは 損傷 周辺 部で 水 酸化 ラジ カル よ り は 長時 間 産生 が継 続す る 可能 性が 示唆 され た .
エ ダ ラ ボ ン は脊 髄損 傷 周辺 部の スー パ ーオ キシ ドの 増加 を 有意 に減 少さ せる こ とが 示さ れ, そ の 結 果は 活 性酸 素を 除去 す るこ とが 脊髄 損傷 の 体積 を有 意に 減少 させることを示唆している .また,
今 回 の 結 果 およ び過 去 の報 告か らは , エダ ラボ ンが 脊髄 損 傷時 にス ーパ ーオ キ シド と水 酸化 ラ ジ カ ル の 濃 度 を低 下さ せ るこ とと とも に 脂質 過酸 化も 抑制 す るこ とが 知ら れて い る, そし て虚 血 再 還 流 モ デ ル で は , 再 還 流 時 の 活 性 酸 素 産 生 も 抑 制 す る こ と が 知 ら れ て い る . 本 研 究 で は エ ダ ラ ボ ン が ス ー パ ー オ キ シド の濃 度 を低 下さ せ組 織 障害 を防 止し ,7日目 の運 動 機 能 を 改 善 す る こ と が 示 さ れ た , 臨 床 応 用さ れる た めに は, 受傷 後 投与 のtime windowを 解明 す る こ とが 今 後は 必要 であ る .
【 結 論 】
本 研 究で は, エ ダラ ボン が損 傷部 周 辺の スー パー オキ シ ド濃 度を 低下 さ せ脊 髄損 傷の 体積 を 減少 さ せ る こ と で 運 動 機 能 の 改 善 が 得 ら れ る こ と を 示 し た ,
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学位論文審査の要旨 主査 教授 佐々木秀直 副査 教 授 吉岡 充弘 副査 教 授 岩崎 喜信
学位論文題名
Edaravone (MCI ―186) Scavenges Reactive Oxygen Species and Ameliorates Tissue Damage in the Mice Spinal Cord Injury Model
(マウスの脊髄損傷モデルにおけるエダラボン(MCI‑186) による活性酸素 種の減量および組織障害の減少効果の研究)
脊髄損傷急性期では,スーパーオキシドなどの活性酸素種がDNA損傷などを通して二次 的な組織損傷を引き起こすとされている。二次損傷を防ぐために様カな薬剤が試みられて いるが,臨床使用されているメチルプレドニゾロンの効果は十分であるとは言えない。一 方,エダラボンはフリーラジカルスカベンジャーであり,急性期の脳梗塞に対して臨床的 に使用されている。脳虚血モデル,頭部外傷モデルでの神経保護作用,抗浮腫が報告され ている。さらに脊髄虚血モデルと脊髄損傷モデルでも組織障害を軽減させるとの報告もあ るが,その機序は解明されていない。本研究は,脊髄損傷においてエダラボンがもたらす 活 性 酸 素 種 の 減 量 お よ び 組 織 障 害 の 改 善 効 果 の 機 序 解 明 を 目 的 と し た 。 方 法は,C57BL/6マウスに空気圧損傷装置を用いてTl0レベルに不完全脊髄損傷モデル を作成した。vehicle治療群(n 10)とエダラボン3mg/kg治療群(n 10)の2グループに分 け ,それぞ れ脊髄 損傷の30分前に腹腔内投与した。神経学的評価は,Kuhnらの評価法を 用い,脊髄損傷作成後0,1,4,7日目に行った。損傷体積測定のため脊髄損傷後7日目に 灌 流固定し 脊髄を 採取した。7pmの矢状断の切片とし,Luxol fast blue染色を行った。
体積はDohrmannのtwo―cone法で算出した。
脊髄損傷急性期のスーパーオキシドに対するエダラボンの効果の時間的,空間的な分析 を行うため,別に動物モデルを作製した。vehicle投与1時間後(n 6),3時間後(n二ニ6),エ ダラボン投与1時間後(n:ニ6),3時間後(n:ニ6)に脊髄を採取,液体窒素で凍結し,包埋した。
10ロmの切片を作製し,DHE (dihydroethidium)で染色を行った。蛍光顕微鏡の画像を記録 し,脊髄損傷の中心部からImm (a)と2mm (b)離れた部位にROIを設定し,(aの輝度)/(b の輝度)の比を比較した。
DHE陽性細胞が神経細胞か否かを評価するため,抗MAP2モノクロナール抗体で螢光免疫 染色を行った。また,統計処理は,連続データは対応のないt―検定,ノンパラメトリック データはMann−WhitneyUテストで行った。
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両群と も脊髄 損傷作製直後は強度の後肢機能障害を呈し,その後は徐々に改善した。
Motor scoreおよびHind foot bar grab scoreではエダラポン治療群で有意に良好であっ た。脊髄損傷の体積測定の結果は,エダラボン投与により有意に体積は減少していた。DHE 染色による輝度測定の結果は,vehicle治療群では損傷1時間後,3時間後とも損傷の周辺 部で螢光輝度の上昇を認めていたが,エダラボン投与群では顕著ではなかった。輝度の比 は損傷1時間 後,損傷3時間後のいずれもエダラボン投与群で有意に低値であった。二重 免疫染色では,DHE陽性細胞の90%以上はMAP2陽性であった。
本研究では,エダラボン3mg/kgの前治療により有意に脊髄損傷の体積を減少させ,運動 機能の回復を良好にしていることを示した。さらにDHE染色により,スーパーオキシドは 受傷か ら1時 間,3時間後に損傷の周辺部で増加しており,エダラボンは脊髄損傷周辺部 のスーパーオキシドの増加を有意に減少させることが示された。その結果は活性酸素を除 去することで脊髄損傷の体積を有意に減少させることを示唆している。また,神経細胞が スーパーオキシドの標的であることが示された。
公開発表において,主査から,スーパーオキシド産生に関して虚血病変のペナンブラ領 域との対比,急性期から慢性期への時系列上の産生細胞の変化に関する質問があった。次 いで副査の岩崎教授から,薬剤投与のタイミング,投与量,神経症状および組織学的な評 価の時期など実験計画の決定に関する質問があった。さらに副査の吉岡教授から,損傷部 の中でのアポトーシス,壊死の割合,出血がスーパーオキシド産生に及ばす影響,病変の 経時変化,薬剤の用量依存性についての質問があった。また,一般聴衆から組織損傷の程 度と神経症状の相関に関する質問があった。約30分に亘り活発な質疑応答が行われ,いず れの質問に対しても申請者は自らの研究に基づく経験や過去の論文の内容を引用し,適切 な回答をした。
この論文は,脊髄損傷の二次障害に対する新たな薬剤応用の可能性を示し,かつフリー ラジカル生成および薬剤で抑制される状態を時間的,空間的に分析し,薬剤効果の発現機 序を初めて証明した点で優れており,臨床応用の際に重要な実験的根拠となりえるもので,
意義のある研究である。
審査員一同は,これらの成果を高く評価し,申請者が博士(医学)の学位を受けるのに 充分な資格を有するものと判定した。
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