博 士 ( 医 学 ) 佐 藤 学 位 論 文 題 名
不妊症症例における腹腔鏡および 卵管鏡を用いた卵管の評価
学位論文内容の要旨
修
造言
不妊症の原因として卵管因子の占める割合は約40〜45%といわれており、卵管の癒着・閉塞などを 認める症例に対して開腹下のマイクロサージャリー、腹腔鏡下の卵管形成術あるいは近年では卵管鏡 下卵管形成術が行われる。しかし、癒着を剥離し、卵管采を形成し卵管内腔の閉塞を解除しても術後 の妊娠成立に関する成績は必ずしも良好とはいえない。本研究では、腹腔鏡・卵管鏡を同時併用し観 察される卵管所見と従来から不妊の原因に関与すると考えられている腹膜因子との関連を明らかにす るとともに、術後の妊娠症例と非妊娠症例とを比較検討し、妊娠に至るための条件の分析を試みた。
丑究材魁と友法
研究1卵管所見と各因子との相関についての解析
1997年9月より1999年9月 までに、 北海道 大学医学 部附属 病院産婦 人科にお いて腹 腔鏡およ び卵 管鏡 を同時に 施行し 、腹腔内所見、卵管所見を確認し得た163例(不妊症例95例、非不妊症例68例、
平均 年齢32.0土4.2歳、mean土SD)を対象とし、骨盤内開腹手術、子宮外妊娠での保存手術などの既 往を 調べた。 また血 清Chlamydia Trachomatis(CT) lgA.lgG抗体価、子宮頚管からのCT抗原、腹腔 内CT抗原(腹水または腹腔内洗浄液)を測定した。腹腔鏡を行い、卵管周囲癒着(peritubal adhesions;
PTA)、卵管采周囲癒着(penfImbnaladheSionS;PF・A)、卵管采の形態師mb「ia)を観察した。また子宮内 膜症病変の有無を観察し、改定米国不妊学会(R.AFS)分類に従って臨床進行期を分類した。卵管・卵管 采に癒着があれぱ、これを可及的に剥離し、卵管采の形成術を腹腔鏡下に行った。同時に卵管鏡(テル モ社製FTシステム)を用いて卵管内腔(cauMを観察した。骨盤内開腹手術既往、子宮外妊娠保存手術 既 往 、 子 宮 頚 管CT抗 原 、 腹 腔内CT抗原 、 血 清CTlgA抗 体 、 血清CTlgG抗 体、 子 宮 内膜 症R−AFS 分類(0〜4期の5段階)の7種類の項目を独立変数とし、PTA、PFA、罰mb「ia、cavityのそれぞれの所見 に対しておよぼす影響の強さを検討した。統計解析にはLogistic解析(categ0「icaImodeling)を用いたが、
その際、子宮内膜症は0〜3期と4期の2段階にカテゴリーを分割した。
研究2卵管所見が妊娠成立におよぼす影響の検討
研究1において 検討し た全163例のう ち不妊症 例95例の中で、無排卵周期症・早発閉経を除外し、
夫 の 精液 所見が1987年 のWH○の 基準に照 らし正 常である ことを 確認し得 た81症例 (原発性 不妊56 例 、 続発 性不妊25例 、平均 年齢31.7士4.2歳、 不妊期間42.0土32.1月、mean土SD)を対象と した。
観察期間内に体外受精一胚移植に移行した症例ならぴに卵管采〜卵管膨大部の癒着が手術的に解除で き なかっ た症例は 除外し た。この81例について、上記のfimbria、cavrtyの所見、CT抗体の有無、な らびに子宮内膜症の進行度が術後の妊娠成立のための予後因子として有用か否かを検討した。術後全 症 例を2000年3月ま で観察 し、IVF‑ETに よらない 妊娠の 成立をエ ンドポイ ントに設定し解析を行っ た。統計解析には比例ハザードモデルによる生存分析を用いた。
93―
處 績 研 究1
(1)PTAに対 する りス ク 因子
子宮 内膜 症4期症 例で は 、O〜3期 症例 と比 較 してfilmy adhesionが7.4倍(pく0.01)、dense adhesion は15.8倍 (pく0.01) の 頻度 で観 察さ れた 。 骨盤 内開 腹手 術 既往 、子 宮外 妊娠 保 存手 術既 往、CT抗 原 の 有 無 は 影 響 を 及 ぼ さ な か っ た 。 血 清CTlgA抗 体 陽 性 例 で は 、 陰 性 例 に 比 較 し てfilmy adhesionが3.2 倍 (pく0.01) 、 血清CTlgG抗 体 陽性 例で は陰 性例 に 比較 してdense adhesionが3.5倍 (pく0.05)の 頻 度 で それ ぞれ 観察 さ れた 。
(2) PFAに対 する りス ク 因子
子宮 内膜 症4期症 例で は 、0〜3期 症例 と比 較 してfilmy adhesionが2.6倍(pく0.05)、dense adhesion は5.8倍 (pく0.01)の 頻度 で観 察さ れ た。 骨盤 内開 腹 手術 既往 、子 宮外 妊 娠保 存手 術既 往は 影 響を及ぼ さ な か っ た 。 血 清CTlgA抗 体 陽 性 例 は 陰 性 例 に 比 較 し てfilmy adhesionが3.3倍 (pく0.05)、dense adhesionが7.7倍(pく0.01)の 頻度 で 観察 され た。
(3)卵 管 采の 変形 に対 す るり スク 因子
子宮内膜症4期症例では、0〜3期症例に 比較してpoo「所見、カミ10.4倍(pく0.01)、obstruction所見が 12.4倍 (pく0.05)の 頻度 で観 察 され た。 骨盤 内開 腹 手術 既往 、子 宮外 妊 娠保 存手 術既 往 、CTlgA抗 体 価 は 変 形 に 対 し て 影 響 を 及 ば さ な か っ た 。CT抗 原 陽 性 例 は 、 陰 性 例 に 比 較し てobstruction所 見が10.9 倍 (pく0.01) の頻 度で 観 察さ れた 。血 清CTlgG抗体 陽 性例 は、 陰性 例に 比 較し て、fair所見 が2.5倍(p く0.05)、poor所見 が3.5倍 (pく0.05)の頻 度で 観察 さ れた 。
(4)卵 管 内腔 の変 化に 対 する りス ク因 子
子 宮 内 膜 症4期 症例 で は、0〜3期症 例に 比 較し て、poor所 見が3.1倍 (pく0.05)、obstruction所 見 が 4.5倍(pく0.01)の 頻度 で 観察 され た。 骨盤 内 開腹 手術 既往 、子 宮 外妊 娠保存手術既往、CT抗 原の有無、
血 清CTlgA抗 体 価 は 内 腔 変 化 に 対 し て 影 響 を 及 ぼ さ な か っ た 。 血 清CTlgG抗 体 陽 性 例 は 、 陰 性例 に 比 較 し てpoor所 見 が3.1倍 (pく0.05)、obstruction所 見 が3.5倍 (pく0.05)の 頻 度 で 観 察 さ れ た 。 研究2
観 察 期 間 内 に25例 の 妊 娠 が 成 立 し た 。 血清CTlgG抗 体陽 性例 は陰 性 例に 比較 して 術 後妊 娠率 が0.47 倍(pく0.001)と低 かった。また、卵管内腔所 見goodに対し、fair例では妊娠率が0.58倍(pく0.01)、poor 例で は0.43倍(pく0.005)と 低下 し た。 子宮 内膜 症4期症 例で は 、0〜3期 に比 較し て 妊娠 率は0.52倍(p く0.05)に低 下し た 。術 後の 累積 妊 娠率 は少 なく とも 一 方の 卵管 内腔 が良 好 に保 たれ てい れぱ約40%で あった。
蓋 一塞
卵管 やそ の周 囲 に癒 着を もた ら す因 子と して 、近 年 では クラ ミジ ア感 染、子宮内膜 症、骨盤内の開 腹 手術 の既 往な ど が知 られ てい る が、 卵管 鏡に よる 卵 管内 腔所 見と これ らの因子との 関連について比 較 検討 した 成績 は ない 。本 研究 で は、 腹腔 鏡な らぴ に 卵管 鏡を 同時 併用 して得られた 卵管所見とこれ ら の因 子と の関 連 を明 らか にし 、 さら に妊 娠例 、非 妊 娠例 にお ける これ らの因子や卵 管所見との関連 を 検討 した 。
クラ ミジ アは ウ サギ を用 いた 実 験で は卵 管炎 を引 き 起こ し、 卵管 周囲 癒着や内腔の 著明な線維化を き た す こ と が 報 告 さ れ て いる 。 血清 クラ ミジ ア抗 体 、特 にlgG抗 体が 陽性 の症 例 にお いて はlgA抗 体 陽 性症 例や いず れ も陰 性の 症例 に 比べ て重 症例 が多 い 結果 とな った 。ク ラミジアの持 続感染によって 卵 管 が 障 害 さ れ た と 推 測 さ れ 、lgG抗 体 陽 性 例 は 卵 管 精 査 の 適 応 と 考 え ら れ た 。 子宮 内膜 症で 不 妊と なる 機序 に つい ては 、癒 着発 生 によ る機 械的 障害 、腹水中のマ クロファージや 子 宮内 膜細 胞が 産 生す るサ イト カ イン によ る配 偶子 の 受精 障害 など が考 えられる。ま た子宮内膜症と 内 分泌 異常 との 関 連も 推察 され て いる 。子 宮内 膜症 に よる 不妊 の機 序は 卵管外部の環 境の変化であっ て 卵管 内に 内膜 症 が関 与す るた め では ない と考 えら れ てい るが 本研 究で は子宮内膜症 によると考えら れ る血 管拡 張、 上 皮の 瘢痕 化、 線 毛の 減少 など が観 察 され た。 すな わち 、子宮内膜症 は卵管内腔に悪 影 響 を 及 ば す 可 能 性 が あ る が 、R‑AFS4期 の 重 症 内 膜 症 で の み 有 意 に そ の 変 化 が 認 め ら れ た 。
‑ 94−
子宮外妊娠における卵管膨大部の線状切開、他の開腹手術既往歴などは、個々の症例では強い癒着 を形成していることもあるが、有意な因子としては認められなかった。これは症例数が少なかったた めか、手術操作の工夫や癒着防止剤などの使用によって卵管への障害が軽減されていることによるの かもしれない。
術後妊娠については、血清クラミジアlgG抗体陰性、卵管内腔の良好所見および子宮内膜症が重症 でないことが待機すべき症例の選択基準になりうると考えられた。本研究において、いずれか一方の 卵管内腔所見が良好に保たれた症例、重症子宮内膜症でも病変の完全な焼灼、切除が可能であった症 例などは術後妊娠も多く、したがって卵管内腔の所見が良好に保たれている場合には、術後の妊娠を 期待して可及的に病巣切除ならびに焼灼を施行すべきであると考えられた。このことから、卵管性不 妊症症例の治療方針を決定するうえで、腹腔鏡と卵管鏡を同時併用した卵管に対する詳細な評価が重 要であることが示唆された。
ー95一