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【研究論文】読解速度から見る日本語多読の効果—読解ソフトミュームを用いた検証—

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Academic year: 2021

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『言語習得と日本語教育』第 1 号(2021) 〔研究論文〕. 読解速度から見る日本語多読の効果. -読解ソフトミュームを用いた検証-. 朝 倉 郁 子. 1.はじめに. 国際多読学会(2011)では、多読を「辞書なしでも十分に理解できる易しい. 本を楽しく、速く読むこと」と定義している。日本語多読においては、粟野他. (2012)による「読み方の 4 つのルール」が主流となっている。「読み方の 4. つのルール」として、1.やさしいレベルから読む、2.辞書を引かないで読む、. 3.わからないところは飛ばして読む、4.進まなくなったら他の本を読む と. し、教師は支援者に徹するとしている。多読授業は 2000 年代に入り日本語教育. の現場に少しずつ広がり、多読活動の実践記録も見られるようになった(粟野. 他 , 2012; 二宮・川上 , 2012)。しかし、これまでの日本語多読では楽しく読むこ. とに重点が置かれ、多読による学習効果についてはあまり調査されてこなかっ. た。粟野他(2012)の中に「多読授業 QA」があり、多読活動に関する教師の. 疑問が載せられている。疑問の中に「学習者が理解したかどうかテストをしな. ければわからないのでは」という教師の声があり、答えとして「学習者の視線. の動きや表情といった様子の観察から判断するとよい」と述べられている。こ. れは多読の理念が、定義にもある「楽しく」読むことにあるため、テストなど. のアセスメントは必要ないと主張する研究(梅村 , 2003)と一致する。つまり、. 日本語多読の学習効果は、現時点では実際に授業を行った教師の肌で感じる印. 象によるところが大きい。しかし、多読の有効性を示すためにも、学習効果を. 明らかにする必要性があると考えられる。渡部他(2015)によると、英語多読. 研究においてはアセスメントによる読解力や読み書き、語彙力の伸びなどの学. 習効果の報告も多いが、日本語多読においては、量的に学習効果を測った研究. や、多読アセスメントを明確に定義した先行研究は少なく、主に動機付け、達. 成感、意識変化に関する報告が多く見られるとしている。さらに、英語多読研. 究ではすでに言語面での学習効果を様々なテストを用いて測定しているのに対. 77. し、日本語多読研究では限られたテストのみであり、特に多読の定義である「速. く読むこと」への扱いが不十分であると指摘している。粟野(2012)でも「速. く読めるようになった」という学生のコメントはあるものの、実践報告にとど. まり、読みの速度の測定は行っていない。 . そこで、本研究では多読の効果を「速く読むこと」つまり読解速度から調査. し、目に目える形で効果を測定することとする。そして、日本語多読ではあま. り実践されることのないアセスメントを行うことで、もたらされる学習効果を. 測ることとする。 . 2.先行研究. 2.1 多読の言語面に関する効果. 英語教育においては、英語学習者向けの多読教材である Graded Readers が. 2000 冊以上出版されている。主なものには、Oxford University Press や Penguin. Readers がある。これらの Graded Readers は各社ごとに基準が設けられレベル分. けがされており、レベルによって語彙や文法が調整され、リライトされている。. 門田(2014)では、多読によって特定の単語や表現を様々な場面で繰り返し処. 理することで、「語彙処理の自動化」という学習効果が得られると述べられてお. り、これにより読み手の流暢さが得られるとしている。城一(2015)は多読の. 繰り返し効果により身につく自動性が、ワーキングメモリ 1の統語処理資源の負. 荷を軽くし内容理解を促し、それにより読みの流暢さが増すとしている。 . 日本語教育における多読研究は 1990 年代になって始まるが、多読教材の不足. により多読研究の進みは遅く、日本語多読の実践をサポートする研究が進んで. いる(渡部他,2015)。アセスメントから効果を図る研究は少ないが、その中で. 江田他(2005)は、読解能力の変化をテストの結果から検討している。多読で. 未知語に遭遇した際に行われるストラテジーは、未知語の前後の文から意味を. 推測して読み進めるという読解ストラテジーであり、これにより読みの流暢さ. が促進されると報告している。では、このような語彙の処理能力はどのように. して行われ、習得されるのだろうか。 . 認知言語学では言語習得における語彙の役割を重視しており、習得には表現. 形式としてある程度のまとまり(チャンク)で記憶されるという言語観を持っ. ているとしている。このような習得モデル「用法基盤モデル」(トマセロ,2008. 等)では、豊富な用例や共通点、パターンを抽出し分解し、スキーマとして積. み重ねることで習得にいたるとしている。城一(2015)によると、多読による. 1 既有の知識を探索しつつ推測しながら処理する機能。 . 78. インプットの中には文法を含む多くのチャンクが含まれており、読み手はその. 中から言語形式パターンを発見するとされている。そして、理解可能なインプ. ットが「意味的処理」にとどまらず「統語的な処理」に向かうプロセスである. ことを、「用法基盤モデル」の観点からも支持することができると説明している。. 2.2 多読の読解速度に関する研究. 英語多読研究では鬼田(2013)が、授業内多読活動の効果について、読解速. 度(Word Per Minutes、以下 WPM)の変化と多読活動に関する自由記述アンケ. ートから分析を行っている。実践の結果 WPM は増加し、多読の効果が示され. たとしている。さらに、授業内多読に関する態度を確認するために自由記述ア. ンケートでは、アンケートデータの回答内容を頻度の高い語で分類し、それを. 共起する頻度が高い語同士ほど近くに配置されるネットワーク図、共起ネット. ワークを作成し分析している。その結果、「理解-以前-速い」などの共起が確. 認でき、継続した授業内多読活動により、英文を理解しながら読むスピードが. 速くなった様子がわかったと報告している。 . また、千葉(2017)は多読語数と WPM、読解の正確さの向上に着目し、速. 度だけでなく読解効率という観点でも検証した。読解効率は WPM に理解度を. 加味して算出したものである。その結果、多読語数が増えれば読解の速度と内. 容理解の正確さが有意に向上することが確認されたと報告している。 . Nuttall(1996:128)は“The best way to improve your knowledge of a foreign. language is to go and live among its speakers. The next best way is to read. extensively in it.” と述べ、外国語学習における多読の重要性を示している。多. 読活動初期の段階からスピードを高める指導を入れることで、多くの本を読み. 言葉を処理していくという「読むことの指導」ができるとしている。図 1 は. Nuttall(1996:127)による、良い読み手の読書の循環図である。 . 図1 良い読み手の読書の循環図(Nuttall,1996:127). 79. この図では、「読み手が外国語の読書を楽しむことで、速く読むようになる」、. 「速く読むようになるから、より多く読むようになる」、「より多く読むから、. より理解できるようになる」、「よりよく理解できるようになるから、読書を. 楽しめるようになる」、という循環を示している。 . 門田他(2010)はこの循環図について、多読によって英語で読書をするとい. う楽しみを経験し、それにより読書量が増え読解スピードが上がり、読解力が. 高まるという好循環であるとし、この循環図の繰り返しによって、単語認知力. や統語解析力の自動化が促進され読み手の流暢さが高められると説明している。. 英語多読、日本語多読の先行研究から、多読学習によって未知語の意味的処. 理が行われ、多読活動を継続的に繰り返し行うことで自動性が身につき、言語. 知識の自動化が進むことが窺える。自動化とは自動的に語彙や文法の処理を行. い、使いこなせるようになることであり、言語知識の自動化によって母語話者. のような流暢さで読み進めることができると考えられる。本研究では、この母. 語話者のように流暢に読むことができる能力を「読み通しスキル」と呼ぶこと. とする。 . 3.研究目的. 前述したように日本語多読では、アセスメントを用いた「読み通しスキル」. や読解速度を測定した研究はまだ見られない。しかし、アセスメントによる多. 読の効果が明らかとなれば、教師は効果的な支援ができるのではないかと考え. る。そこで本研究では、日本語多読によって得られると考えられる「読み通し. スキル」が学習者の与える効果を、Nuttall(1996)が示した「良い読み手の読. 書の循環図」にある「 reads faster – reads more – understand better」を基にアセス. メントを用いて明らかにすることを目的とする。 . 4.研究方法. 4.1 調査対象. 本研究では、日本語学校に 2018 年 4 月から 2019 年 9 月までの間に在籍した. 日本語学習者計 30 名を対象とした。学習者は日本語能力試験 N2 レベルを習得. または、N2レベルの学習を修了している学生で、在日歴は半年~1年半である。. 国籍は母語による漢字や文法構造が調査に影響しないよう分散させ、中国、台. 湾、韓国、ベトナム、タイ、フィリピンの 6 つの国と地域から対象者を選抜し. た。30 名の内訳は、授業内多読実施(実験群)15 名を A 群、多授業内多読未. 実施(統制群)を B 群とした。A 群 B 群共に漢字圏、非漢字圏が含まれていた。. 80. 表 2 は調査対象者の国籍と人数の内訳である。 . 表2 調査対象者内訳. 国籍 実験群(A 群) 統制群(B 群) . 中国 5 名 5 名 . 台湾 2 名 1 名 . ベトナム 4 名 6 名 . 韓国 3 名 2 名 . タイ 1 名 0 名 . フィリピン 0 名 1 名 . 実験群(A 群)は日本語学校の中級レベルクラスで授業内多読を 6 カ月実施. した学生であった。1 回の多読実施時間は 90 分程で週に 1 回行われた。今回は、. 6 カ月の間に 15 回実施された多読授業を対象にした。統制群(B 群)は、調査. 校での授業内多読を経験していない学生である。 . 4.2 予備調査. 課題研究に入る前に対象者 30 名にアンケートを行い、多読に関する予備調査. を行った。表 1 はアンケートの内容と結果である。 . 2 テレビや映画のアニメを絵本にしたもの。映像の一部やセリフがそのまま使われ . ている。 . 表1 調査前アンケートの内容と結果(数字は回答人数). 1.本を読みますか . たくさん読む(0) 読む(6) 時々読む(11) 少し読む(10) 全然読まない(3). 2.どのくらい読みますか 1 か月平均 1.2 冊 . 3.日本語の本を読みますか . たくさん読む(0) 読む(2) 時々読む(1) 少し読む(11) 全然読まない(16) . 4.どのくらい読みますか 1 か月平均 1.1 冊 . 5. 日本語の本を読みたいですか . とても読みたい(6) 読みたい(16) どちらでもない(8) 読みたくない(0) . 全く読みたくない(0) . 6.どんな本が読みたいですか まんが(19) えほん(6) 小説(17). アニメ絵本 2(8) エッセイ(3) 歴史(6) その他(5) . 81. 表 1 の結果を見ると、3.の「日本語の本を読みますか」という問いに対し結. 果は「少し読む」と答えた学生は 11 名、「全然読まない」は 16 名であり、授業. 以外で日本語の本を読む頻度が低い学生が多かった。この結果を受け、本研究. で授業内多読を調査する際に、授業外多読経験の有無はあまり調査に影響を与. えないと判断した。 . 4.3 実験装置. 本研究ではテキスト表示法をそろえ、また正確さを高める為に、読解ソフト. ミューム(プロ)MEWM を使用しパソコンで調査を行った。読解ソフトミュー. ム(プロ)MEWM は、ミントアプリケーションズ株式会社によって開発された. 英語読解テスト実施ソフトである。調査実施者が内容を作成できる機能を用い、. 本研究ではこれを日本語仕様に変更し、本文と設問を作成した。本文は多読の. 定義にもあるように、対象者がやさしいと感じるレベルであり、かつ楽しく読. めることを鑑み、「わらしべ長者」『楽しく読もうⅡ 文化初級中級日本語読解. 教材』を使用した。また、使用教材は読解教材であるため本調査用に空欄等を. 追記した。本文中の文字数は 1,466 文字で全 5 段落の構成である。漢字は制限. をしないでルビをつけることで自然と読めるようになる(粟野他,2012)こと. から、漢字には振り仮名を明記した。設問は全部で 5 問作成し、一段落が終わ. ると設問が提示される。設問は簡単な内容理解であり 4 選択の設問とした。表. 3 は内容理解のための設問である。 . 表3 「わらしべ長者」内容理解の設問 . 設問1 太郎は観音様になにをおいのりしましたか。 . 1.お金がほしい 2.いいことがありますように . 3.いい夢がみられますように 4.歩けますように . 設問2 太郎はわらとなにを赤ん坊にあげましたか。 . 1.お金 2.みかん 3.虫 4.うた . 設問3 女の人はどうして元気になりましたか。 . 1.みかんを食べた 2.水をのんだ 3.虫を見た 4.わらであそんだ . 設問4 今,太郎は何を持っていますか。 . 1.布 2.馬と布 3.馬 4.みかん . 82. 4.4 調査方法. 4.4.1 読解ソフトミュームによる調査. 4.3 で説明した読解ソフトミューム(プロ)MEWM を使用し、読解速度(1. 分間に読める文字数)を測定した。本研究では、読解速度は教材の文字数に対. して、読解に要した時間(秒)で割り、60 を掛けて算出した。また、英語多読. で行われた WPM の単位は文字数を単語で算出されていたが、本調査では WPM. の単位を用いず「文字/分」を単位とする。 . 多読経験者である実験群(A 群)の測定は 6 カ月の多読授業終了後に授業内. で行った。多読未経験者である統制群(B 群)の測定は多読経験者の測定前後. に行った。 . 本文中の文の提示方法は 1 文ずつ行った。提示方法について湯舟他(2007). は、意味・文単位(チャンク)の提示法の異なりによる読解効率の差を明らか. にしており、速度を促進すると考えられる「消えていく」提示法よりも「現れ. る」提示法にスピードアップの効果が見られる説明している。多読は、前後か. ら推測するストラテジーによって未知語を処理し、語彙や文法処理の自動化が. 行われることから、前の文は消えずにエンターキーにより次の文が提示される. よう設定した。対象者は、提示された 1 文を理解した時点でエンターキーによ. り次の文を提示し読み進めていく。 . 図 2-1、図 2-2 に読解ソフトミュームによる本文の提示法を示す。図 2-3 は設. 問の提示法である。設問は一段落ごとに表示され、設問に答えエンターを押す. と第二段落の 1 文が提示される。 . 図2-1 ミュームによる本文提示法. 設問5 話の内容にあっているものを選びなさい。 . 1.太郎は観音様にわらをもらいました。 . 2.太郎がみかんを持って歩いていると,道におじいさんが座っていて,苦し. んでいました。 . 3.侍がくれた馬は元気がありませんでしたが,すばらしい馬でした。 . 4.太郎は最後にお金をもらいました。 . 83. 図2-2 ミュームによる本文提示法(2 文目). 図2-3 ミュームによる設問提示法. 4.4.2 アンケートによる調査 . 速度測定終了後に、測定方法と多読に関するアンケートを行った。アンケー. トは 7 項目設定し、{そうは思わない・あまりそうは思わない・どちらとも言. えない・ややそう思う・そう思う}の 5 段階評価で回答してもらった。アンケ. ートは今回の調査法の印象を判断するための「手法」、「読み通しスキル」の. 向上を測るための「スキル」、多読実施による意識の変化を測るための「モチベ. ーション」の 3 つに注目し内容を作成した。アンケートには自由記述を設け、. 回答の理由を述べてもらった。アンケートの最後に読んだ多読のストーリーを. 簡単に記述するように指示した。表 4 は実施したアンケート内容である。 . 表4 読解速度後アンケート項目. 手法 スキル モチベーション . このクイズのやり方は読 . みやすい。 . わからない漢字は気にな. らない . 楽しかった。 . 速く読むことは慣れてい. る。 . 速く読むことは慣れてい. る。 . 今まで日本語の本をたく. さん読んだ。 . 知らない単語は辞書で調. べたい。 . 日本語の本を読みたい。 . 5.分析結果と考察. 5.1 読解速度と正答率の結果. 表 5-1、5-2 は実験群(A 群)と統制群(B 群)の読解速度と正当数である。. 84. 表5-1 実験群(A 群)の読解速度と正当数. 国籍 総時間(秒) 読解速度(文字/分) クイズの正当数 . A-1 韓国 532 165 5. A-2 タイ 352 245 5. A-3 台湾 341 258 5. A-4 中国 289 304 5. A-5 中国 279 315 4. A-6 台湾 261 337 5. A-7 ベトナム 258 340 4. A-8 中国 246 357 4. A-9 ベトナム 244 360 4. A-10 韓国 240 367 5. A-11 韓国 327 369 5. A-12 中国 200 439 5. A-13 ベトナム 383 230 4. A-14 中国 340 259 5. A-15 ベトナム 296 297 5. 平均値 305.9 309.5 4.7. 表5-2 統制群(B 群)の読解速度と正当数. 国籍 総時間(秒) 読解速度(文字/分) クイズの正当数 . B-1 ベトナム 966 91 2. B-2 フィリピン 474 186 3. B-3 ベトナム 423 208 3. B-4 韓国 404 218 3. B-5 ベトナム 795 111 3. B-6 中国 248 355 4. B-7 中国 298 295 4. B-8 ベトナム 473 186 4. B-9 ベトナム 502 175 4. B-10 ベトナム 568 155 3. B-11 台湾 307 289 4. B-12 中国 300 293 5. 85. 表 5-1、5-2 を見ると、実験群(A 群)の読解速度は平均 309.5 文字/分で統. 制群(B 群)は平均 213.4 文字/分であった。また正答率は実験群(A 群)が. 平均 4.7 であり 93%であるのに対し、統制群(B 群)の正答率は平均 3.7 で 75%. だった。 . 図 3 の散布図は A 群と B 群の読解速度と正答の関係を表したものである。図. から言えることは、実験群(A 群)は、速度に関係なく正答率が高く、統制群. (B 群)は読解速度最小値が 91 文字/分であり、最高が 355 文字/分であり、. 読解速度が高くなるにつれて正答率も上がっていることがわかる。つまり、統. 制群(B 群)は若干であるが速度が速いほど正答率も上がっていることが窺え. る。統制群(B 群)の正答率 100%は 3 名だった。 . 5.2 アンケートの結果. アンケートの結果を{そう思う}を 5 とし、1 から 5 で表し、実験群(A 群). と統制群(B 群)で分類し分析した。図 4 はアンケート結果の平均値を群ごと. に示したグラフである。 . B-13 中国 422 208 5. B-14 韓国 434 207 5. B-15 中国 393 224 4. 平均値 467.1 213.4 3.7. A 群 B 群 A 群 B 群. 読解速度(文字数/. 分). 正. 当. 数. 図3 読解速度と正当数の比較散. 布図. 86. 実験群(A 群)では項目 2「わからない漢字が出ても気にならない」、3「速. く読むことに慣れている」に関し、{ややそう思う・そう思う}の回答が多く見. られている。また、4 の「知らない単語は辞書で調べたい」では{あまりそう. 思わない}の回答が多く見られた。統制群(B 群)では、項目 3「速く読むこ. とに慣れている」の回答に{あまりそうは思わない}が集中していた。4 の「楽. しく読めた」は{どちらでもない}が多く、5 の「知らない言葉は辞書で調べ. たい」は{ややそう思う・そう思う}の回答が多く見られ、実験群(A 群)と. の回答に違いが出ていることがわかる。 . 次に、自由記述での回答を各項目で肯定的、否定的に分類したものを表 6 に. 示し、傾向を見ることとする。 . 表6 アンケート自由記述 . 項. 目 群 肯定的コメント 否定的コメント . 1. A. ・読みやすい・おもしろい . ・集中できる . ・ボタンを押すのが面倒 . B. ・1文ずつ出てくるのが読みやす. い . ・やり方が簡単 . ・漢字が少なく把握しにくい . 2. A. ・漢字で想像できる . ・ひらがながあったからだいたい. ・わからない漢字で少し止まった . 図4 読解速度アンケートの結果. A 群 B 群 【アンケート項目】 . 1「今回の読解・クイズは読みや. すい」(手法) . 2「わからない漢字がでても気に. ならない」(スキル) . 3「速く読むことに慣れている」 . (スキル・手法) . 4「楽しく読めた」 . (モチベーション) . 5「知らない言葉は辞書で調べた. い」(スキル) . 6「今までに日本語の本をたくさ. ん読んだ」(モチベーション). 7「日本語の本を読みたい」 . (モチベーション) . 87. わかる . B. ・ひらがなで覚える . ・予測する . ・内容に支障はない . ・意味が分からなかったら時間が. かかる . ・動詞が気になる . 3. . A. ・(学校の本は)慣れている . ・もっと知りたいと思う気持ちで. どんどんエンターをして読み続. ける . ・わからない漢字がたくさんある. と速く読めない . B. ・慣れている ・知っている言葉が少ないのでま. だ遅い . ・速く読むと理解できない . ・日本語がまだ下手・速く読む練. 習をしていない . 4. . A. ・結果が面白い . ・おもしろい . ・もっと知りたい . ・初めて読んだからおもしろい . B ・結果がすぐわかって面白い . ・レベルが簡単だったから楽しい . 5. . A. ・使わない単語は調べても忘れる . ・知らない単語の前後で正確では. ないかもしれないけどなんとな. く意味が分かる気がする . ・全文を読んで内容を知ったら、. 単語を調べる意欲が低くなる . ・単語量は日本語が上手になるた. めには大切 . B. ・100%の内容を理解したい . ・調べたい . ・知りたい . ・一つの文に2~3個知らない単. 語があったら調べたい . 6. A ・資料をたくさん読んだ . ・小説を読んでいる . ・今から読みたくなった . ・自分に合う本を選ぶのが難しい . B ・あまり読まない . ・参考書・教科書と新聞だけ . ・いろいろな本を買ったが読まな. い . 7. A ・読みたい . B ・今から読みたい . 表 6 からわかることは、実験群(A 群)では「読むことに慣れて」おり、「段. 落で大体の意味が分かればいい」と肯定している。統制群(B 群)でも肯定的. な意見はみられるが、一方で「わからない漢字があると前に進めない」や、「速. く読むと理解できない」「100%理解したい」といった否定的な意見も多く見ら. れた。 . 88. 5.3 内容記述の結果. 読解速度測定後に行ったアンケートの最後に、読んだ多読のストーリーを簡. 単に記述してもらい、多読経験によって内容理解に違いがあるかを分析した。. ここでは、多読経験者である実験群(A 群)と多読未経験者の統制群(B 群). の記述内容例を紹介する。表記は学生が記述したままであり、加筆修正は加え. ていない。 . 【実験群(A 群)】 . A-6 (台湾) . 太郎が観音にいいことを起こるように祈りました。次の日からいろいろな事. 情があって、太郎が最後田を手に入れた。(ママ) . A-7 (ベトナム) . 太郎は 1 本わらを持って、それで他人といろいろ交換して、最後にお金持ち. になった。 . A-10 (韓国) . 男の人がなにかいいことないかをかみさまにおいのりして、ゆめで「あさひ. ろったものをたいせつにして東の方に行きなさい」と言われた。そのとおり. にした男の人は最後にお金持ちになった。 . A-11 (韓国) . たろうという人がいて、何かいいことがあってほしくてこれをかみさまにい. のった。かみさまは道をあるいてひろったものをもって東へ行ってと言った。. だったらいいことがあると言った。たろうはその話とおりにした。そして、. もっているものをたすけが必要な人に会うたびにあげて、かわりにほかのも. のをもらった。それがけっきょくかちが小さなものからかちがたかいものに. なって、たろうはおかねもちになった。 . 次に多読未経験者である統制群(B 群)の内容記述の例を挙げる。 . 【統制群(B 群)】 . B-9(ベトナム) . たろうさんはいっしょうけんめいはたらいていても、なかなか食べものとき. ものがありません。それで、たろうさんはかみさまにおねがいをしました。. 89. たろうさんの旅行はお金もちになりました。わらしべからみかんになりまし. た。みかんからぬのになりました。ぬのからうまになりました。うまから家. になりました。たろうさんはなにも持っていない人からお金もち人になりま. した。(ママ) . B-10(ベトナム) . あるむらにおとこの人がいます。おとこの人はおかねがない。食べものもな. い。きる物もない。こまると思う。お寺へいきました。(かんのん)さんは. 「ひろい物をすてないでたいせつにする」といいました。わらしべがみかん. になって、みかんがぬのになって、ぬのがうまになって、うまがいえになっ. てさいごはおかねもちになった。 . B-11(台湾) . 昔は太郎という人がいました。一生懸命働いているけれど、お金がありませ. ん。おなかがとてもすきましたから、神様に自分の希望を言いました。そし. て神様も返事をしました。あるひ、かれはわらしべを手に入れました。そし. て他の人とみかんや布や馬を交換しました。最後は大きな家を交換しました. けど、太郎の家になりました。みんな「わらしべ長者」と呼んでいました。 . 実験群(A 群)の内容記述の特徴は、内容がかなり短く書かれている点であ. る。内容理解もありながら、文をかみ砕いて自分の言葉に書き換えていること. がわかる。統制群(B 群)は実験群(A 群)より記述が長い。B 群では、スト. ーリーの内容は間違いなく書けているが、要約ではなくストーリーを再生した. だけに過ぎないと思われる。実験群(A 群)は本文中の言葉を別の言葉に置き. 換えている一方で、統制群(B 群)では本文中の言葉をそのまま使用している. 点も特徴として挙げられる。 . 5.4 考察. 読解速度と正答率の結果から言えることは、実験群(A 群)の読解速度が平. 均 309.5 文字/分に対し、統制群(B 群)の読解速度は平均 213.4 文字/分であ. った。実験群と統制群と比べると、大きな差はないものの実験群の方が読解速. 度が高いことがわかる。さらに正答率と比較すると、実験群は読解速度に関係. なく正答率は 93%と高く、一方で統制群は正答率の平均は 75%だが、読解速度. が 200~300 文字/分では正答数は 4~5 となり、読解速度が低くなると正答数. も 2~3 となる。つまり、統制群では読解速度が高いほど正答率は高い結果とな. 90. った。そこから、実験群(A 群)の読解速度と正答率が全体的に高いのは、多. 読活動によってインプットを繰り返し行い、意味的な処理を常に行い、言語知. 識の自動化が行われたことにより、「読み通しスキル」がトレーニングされ向上. した結果ではないかと考えられる。そして「読み通しスキル」の習得が読解速. 度を促進し、内容理解の正確さを促したと思われる。 . アンケート結果からは、実験群(A 群)は 3「速く読むことに慣れている」. が平均 4.2 であるのに対し、統制群(B 群)は 2.1 であった。調査対象者の印象. と測定結果が一致した結果となった。また、速度の向上に役に立つスキルであ. る 2「わからない漢字が出ても気にならない」は実験群(A 群)が 4.4 であるの. に対し、統制群(B 群)は 3.3 であった。5「知らない言葉は辞書で調べたい」. に関して実験群(A 群)は 2.5 であるのに対し統制群(B 群)は 4.8 であり、対. 照的な結果となった。自由記述の内容を見てみると、実験群(A 群)では辞書. の使用に対する記述がなかったのに対し、統制群(B 群)は「辞書を使いたい」. という記述が見られている。また、実験群(A 群)では早く読むことに対し「慣. れている」「もっと知りたい」といった肯定的な意見があるのに対し、統制群(B. 群)は「速く読むと理解できない」としており、早く読むことへの否定的な気. 持ちが窺えた。さらに統制群(B 群)では「100%理解したい」と感じている一. 方、実験群(A 群)ではわからない言葉も辞書を引かずに飛ばして読むことに. 肯定的である。モチベーションを測る 4「楽しく読めた」は、実験群(A 群). が 4.8 であるのに対し、統制群(B 群)は 3.5 であった。アンケートの結果と自. 由記述から、多読経験が「読み通しスキル」の習得を促進させ、「読み通しスキ. ル」が、Nuttall(1996)の「良い読み手の読書の循環図」の「 reads faster」と. 「understands better」に影響を与えていると言える。そして、「読み通しスキル」. の習得により「 reads faster」と「understands better」が相互に関係し、スキルが. 向上することでストレスなく読むことができ、その結果、読むことの楽しさも. 生まれていると示唆された。 . 内容理解に関しても違いが出た。多読経験者である実験群(A 群)の内容記. 述は、内容をかみ砕いて自分の言葉で再構築していることがわかる。つまり多. 読経験者は、速く読みつつも内容を正確に読み取るスキャニング力が身につい. ていると考えられる。また、わからない言葉でも予測し文を組み立てながら物. 語を把握していることから、文脈を理解し意味のあるものとして読み進める認. 知能力が発揮されているとも考えられる。用法基盤モデル(トマセロ, 2008. 等)では、言語は「慣習的な言語単位の構造化された集合」として位置づけて. いる。多読により物語の文章に潜在する構文に何度も触れることになり、内容. を正確に読み取るスキーマが取得されていることが窺えた。一方多読未経験者. 91. である統制群(B 群)はストーリーを再生したに過ぎず、表現を変えたり大ま. かに把握する能力がついていないことがわかった。以上の結果から、多読経験. によって得られる「読み通しスキル」が内容理解にも影響している可能性があ. ると考えた。 . また、アンケート結果からは、多読経験者はすでに多くの日本語の書物に触. れていることから、読解速度測定の設問に対し抵抗なく取り組んでいたことが. わかった。一方、多読未経験者は設問をテストと感じてしまい、速く読むこと. や設問があることをストレスと感じていることが窺えた。 . 図 5 は今回の調査で得られた結果と Nuttall(1996)の良い読み手の読書の循. 環 図 を 基 に 、 多 読 活 動 で 習 得 さ れ る 「 読 み 通 し ス キ ル 」 が 「 reads. faster-understands better-enjoys reading」にどのように関わっているか表したモデ. ルである。 . このモデルでは、多読を行うことで「読み通しスキルが身につく」、「スキ. ルの向上により速く読む効果が得られる」という関係を表している。読み通し. スキルの向上は、速く読むスキルと内容理解にも影響し、さらに多読活動を楽. しむというモチベーションの促進にも繋がったと考えられる。 . 6.おわりに. 本研究は、「読み通しスキル」の向上が読みの速度、内容理解にどのように関. 多読活動. reads more. 読み通しスキル. reads faster understands better. enjoys reading. 図5 読み通しスキルのモデル. 92. 係するか、読解速度の測定とアセスメントから調査した。読解ソフトミューム. を使用し本文提示、内容理解の設問を用いて読解速度の測定を行った。測定と. アンケートから、多読経験者と未経験者と読みの速さと内容理解の関係に違い. がでた。つまり、多読経験によって「読み通しスキル」が習得されたと考えら. れる。さらに相乗効果として、多読に対するモチベーションも高まるという結. 果が得られた。 . 本調査で使用した読解ソフトは多読の定義にある「楽しく読む」ことを保ち. ながら学習効果を測ることができた。しかし、読解ソフトを用いた調査は多く. の調査を正確に行う上で有効であったが、一方で調査者の中にはパソコンでの. 作業に慣れない学生もいた。提示法や進め方のバリエーションを増やす必要が. あると感じた。今後は調査対象者を変え、さらに調査前、調査後ののように回. 数を増やして実施することにより、多読で得られる効果の全体像を包括的に明. らかにできると考える。 . 〈付記〉 . 本稿は横浜国立大学大学院 2019 年度修士論文「読解速度における日本語多読の影響. ―読解ソフトミュームを用いたアセスメントからの検証―」の一部を加筆修正したも. のである。 . 〈謝辞〉 . 本稿執筆にあたり掲載まで熱心にご指導いただいた横浜国立大学大学院 橋本ゆか. り教授に深く感謝いたします。また、本論文の原稿をお読みいただき適切な助言を頂. きましたことに対して、査読者の皆様に感謝いたします。 . 〈参考文献〉 . 粟野真紀子・川本かず子・松田緑(2012)『日本語教師のための多読授業入門』アスク. 出版 . 梅村修(2003)「日本語教育における読解授業 --extensive reading の試み」『留学生教育』, . 9,173-182.. 門田修平(2014)『英語上達 12 のポイント』コスモピア . 門田修平・野呂忠司・氏木道人(2010)『英語リーディングハンドブック』大修館書店 . 鬼田崇作(2013)「大人数授業において個別学習を実現する授業内多読の実践」『広島. 大学外国語教育研究センター』 , 16, 171-181.. 国際多読学会(2011)『多読指導ガイド』The Extensive Reading Foundation . 93. 江田すみれ・飯島ひとみ・野田佳恵・吉田将之(2005)「中・上級の学習者に対する短. 編小説を使った多読授業の実践」『日本語教育』 , 126, 74-83. . 城一道子(2015)「授業内英語多読の意義- 4 年間の実践をとおして-」『語学教育研. 究紀要』 , 13, 33-48. . 千葉克裕(2017)「多読学習が英文読解速度に与える効果」『文教大学国際学部紀要』, . 28-1, 57-65.. 二宮理佳・川上麻里(2012)「多読授業が情意面に及ぼす影響―動機づけの保持・促進. に焦点をあてて―」『一橋大学国際教育センター紀要』 , 3, 53-65.. 福本亜希(2004)「日本語教育における多読の試み」『日本語・日本文化』 , 30, 41-59. . マイケル・トマセロ(2003)辻幸男・野村益寛・出原健一・菅井三実・鍋島弘治朗・. 森吉直子(訳)『ことばをつくる言語習得の認知言語学的アプローチ』太平出版社 . 湯舟英一・神田明延・田淵龍二(2007)「CALL 教材における英文チャンク提示法の違. いが読解効率に与える効果」『Language Education & Technology』 , 46, 247-262.. 渡部倫子・徐芳芳・山下順子・横山千聖・老平実加(2015)「日本語多読アセスメント. の課題と展望」『第二言語としての日本語の習得研究』 , 18, 32-52.. NPO 法人多言語多読『レベル別日本語ライブラリーにほんごよむよむ文庫』 Level. 0~Level 4.アスク出版 . Nuttall,C.(1996)Teaching Reading Skills in a Foreign Language, Hinemann. . あさくらいくこ(横浜 YMCA 学院専門学校 専任講師) . 94

図 1 良 い 読 み 手 の 読 書 の 循 環 図( Nuttall,1996:127)
表 2 は 調 査 対 象 者 の 国 籍 と 人 数 の 内 訳 で あ る 。 表 2 調 査 対 象 者 内 訳 国 籍 実 験 群 (A 群 ) 統 制 群 ( B 群 ) 中 国 5 名 5 名 台 湾 2 名 1 名 ベ ト ナ ム 4 名 6 名 韓 国 3 名 2 名 タ イ 1 名 0 名 フ ィ リ ピ ン 0 名 1 名 実 験 群 (A 群 ) は 日 本 語 学 校 の 中 級 レ ベ ル ク ラ ス で 授 業 内 多 読 を 6 カ 月 実 施 し た 学 生 で あ っ た
表 1 の 結 果 を 見 る と 、3. の 「 日 本 語 の 本 を 読 み ま す か 」 と い う 問 い に 対 し 結 果 は「 少 し 読 む 」と 答 え た 学 生 は 11 名 、 「 全 然 読 ま な い 」は 16 名 で あ り 、授 業 以 外 で 日 本 語 の 本 を 読 む 頻 度 が 低 い 学 生 が 多 か っ た 。 こ の 結 果 を 受 け 、 本 研 究 で 授 業 内 多 読 を 調 査 す る 際 に 、 授 業 外 多 読 経 験 の 有 無 は
図 2 - 2 ミ ュ ー ム に よ る 本 文 提 示 法 ( 2 文 目 ) 図 2 - 3 ミ ュ ー ム に よ る 設 問 提 示 法 4 . 4 . 2 ア ン ケ ー ト に よ る 調 査 速 度 測 定 終 了 後 に 、 測 定 方 法 と 多 読 に 関 す る ア ン ケ ー ト を 行 っ た 。 ア ン ケ ー ト は 7 項 目 設 定 し 、 { そ う は 思 わ な い ・ あ ま り そ う は 思 わ な い ・ ど ち ら と も 言 え な い ・ や や そ
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