修士論文要旨
法学研究科 法律学専攻
学籍番号:LM18003
氏 名:須田 拓馬
指導教授:肥後 治樹
論 文 題 目
和
文
不動産等の貸付けによる所得の不動産所得該当性
─所得区分を中心として-
英
文
What kind of rent is categorized as real estate income?
-Focusing on classification of income-
1 1. 研究の目的 近年、三大都市圏において、地価上昇が継続し、投資目的のマンション売買行為などの不 動産の移動が大きく、また民泊サービス等も広く普及し、個人における所得も多種多様な形 をとるようになってきた。 その中で、所得税法における所得区分・経費性の問題が度々起こり、訴訟にもなっている が、所得税法における所得区分において、不動産所得の所得概念の不明確さによる所得区分 の裁判も数多く見られている。 不動産所得については、所得税法 26 条で「不動産、不動産の上に存する権利、船舶又は 航空機(以下この項において「不動産等」という。)の貸付け(地上権又は永小作権の設定 その他他人に不動産等を使用させることを含む。)による所得(事業所得又は譲渡所得に該 当するものを除く。)」としか規定されておらず、概念自体が不明確なことにより、他の所得 との所得区分の判断が難しく、とりわけ事業所得、譲渡所得、一時所得及び雑所得との間に おいてその所得区分等を巡り訴訟となることが多い。 所得税法では、所得がどの所得に該当するかによって最終の課税所得金額が大きく変わ り、最終税額が大きく変わるため、不動産所得の概念の不明確な部分があるなかでは、不動 産所得という所得区分が存続する限り、不動産所得に係る所得区分についての裁判はこれ からも絶えないものと見込まれる。 このような意味から不動産所得の所得概念をより明らかにするため、本論は、裁判例をも とに不動産所得と他の所得との判断基準、違いを収入面、経費面から探り、不動産所得の所 得概念における見解を述べることを目的としている。 2. 研究の概要 (1) 不動産所得と他の所得 イ.不動産所得の沿革 不動産所得に係る沿革を見ると、昭和 15 年に分類所得税の 1 つの所得として「不動産所 得」という所得区分が設けられ、昭和 22 年には分類所得税が廃止され、「世帯合算制度」が 導入されたことに伴い、不動産取得は「事業等所得」に統合され、その後昭和 25 年におい て「世帯合算制度」及び「事業等所得」が廃止され、「資産所得を合算する制度」が創設さ れたなか、この合算課税の対象となる資産所得の範囲に関連し、不動産所得の所得区分が新 たに定義された。その後「資産所得を合算する制度」は廃止、復活を繰り返し、最終的に昭 和 63 年の税制改正で廃止され、不動産所得についてはその後の改正はあるものの、現在ま で独立した所得区分として存続している。 ロ.意義と所得分類 所得税法においては、所得を 10 の所得区分に分類し、担税力に応じて負担を強いている。 10 の所得区分はそれぞれ別個の性格を有し、所得計算も異なるが、不動産所得については、
2 上述のとおり事業所得、譲渡所得、一時所得及び雑所得の 4 つの所得区分の該当性について 問題となることが多く、不動産所得を含めた 5 つの所得は、意義、所得計算はもちろんのこ と、控除制度等でも相違があり、どの所得に該当するかによって計算される所得金額が異な り、税額も異なる。 また、これら 5 つの所得区分における違いの中でも、特に、不動産所得と一時所得、ある いは、不動産所得と譲渡所得の所得区分の間において、課税所得の金額が大きく変わり、そ の結果、最終税額も大きく変わることになる。 そこで、本論においては、不動産所得と一時所得、不動産所得と譲渡所得の所得区分の判 断要素について、裁判例を検証し、考察を行った。 (2) 不動産等の貸付けによる所得の範囲 イ.不動産所得と一時所得 不動産所得と一時所得の所得区分の裁判例として、住宅金融公庫利子補給事件、航空機リ ース業債務免除事件、宅地転用債務免除事件の 3 つの裁判例を取り上げ、これら 3 つの裁 判例から不動産所得と一時所得の所得区分の判断について検証を行った。 この 3 つの裁判例の比較から、不動産所得と一時所得の所得区分の判断においては、不動 産賃貸業に付随する第三者からの収入の不動産所得該当性について、不動産所得が所得税 法 26 条 2 項で「総収入金額」という語を使用していることは、同条1項の不動産等の貸付 けによる所得には、付随収入が含まれると考えられ、また不動産所得に係る収入を不動産の 借主から得られたものに限っているとまではいえないため、不動産の貸付けによる収入と 不可分一体のものであれば、第三者からのものでも不動産収入として不動産所得に含まれ ると考えられる。 また、不動産所得の必要経費に算入されていることと不動産所得の収入との相関関係に ついて、「ある費用が必要経費に該当するか否かという判断と、当該費用に係る所得がどの 所得区分に該当するかという判断は、本来、別々に行われるべきものであり、ある所得が不 動産所得の必要経費とされていた費用に係るものによって発生したものであることをもっ て直ちに発生した当該所得が、目的物を使用収益する対価又はこれに代わる性質を有する ものであるとはいえない」として、相関関係が必ずしもあるとはいえないとする裁判例があ るが、その相関関係がすべて否定されるものではないと考える。 したがって、所得税法施行令 94 条 1 項 2 号の規定により不動産所得に該当するかどうか の判断基準については、不動産所得の必要経費と収入との相関関係から必要経費の金額を 補填する性質のものは同号に規定する不動産所得に該当する収入として差し支えないと考 える。 ロ.不動産所得と譲渡所得 不動産所得と譲渡所得の所得区分の裁判例として、借地権設定における権利金の所得区 分事件、連担建築物設計制度における余剰容積利用権事件の 2 つの裁判例を取り上げ、これ ら 2 つの裁判例から不動産所得と譲渡所得の所得区分の判断について検証を行った。
3 両判決は、課税の対象となった取引につき、ともに純粋な¨資産の譲渡¨には当たらない ものの、経済的、実質的には当該土地の使用収益権を半永久的に手離す結果となり、所有権 の権能の一部を譲渡した対価としての性質をもつものと認めることができるものであった が、借地権設定における権利金の所得区分事件は、譲渡所得に該当すると判示し、連担建築 物設計制度における余剰容積利用権事件は、所得税法施行令 79 条 1 項に、連担建築物設計 制度における地役権の設定行為は規定されていないため、不動産所得に該当すると判示し た。 両判決における取引は、所有権の実質的な移転と同様に資産の増加分の処分の実体を有 するという点が同じであるなか、連担建築物設計制度における余剰容積利用権事件が上記 施行令 79 条 1 項の規定の該当性の有無により所得区分を判断していることは、租税の法的 安定性、予測可能性という面では優れている一方、租税の公平性の面では疑問が残る。 今後は、租税法律主義に基づく所得税法等の規定の形式的な内容のみならず、実体面から のアプローチも判断要素とすべき余地はあるものと考える。 3. 結論 (1) 不動産所得と他の所得 不動産所得と一時所得について、その所得区分における判断手順は、ある所得が不動産所 得に該当するか否か判断した上で不動産所得に該当しないと判断してはじめて一時所得該 当性の判断が議論されるため、まず不動産所得該当性の判断が必要であり、不動産所得につ いては、不動産所得の「総収入金額」に含まれる副収入や付随収入であるか否か、所得税法 施行令 94 条 1 項の規定に該当するか否かによって不動産所得と一時所得の所得区分の判 断を行うことができる。 不動産所得と譲渡所得について、その所得区分における判断手順は、ある所得が譲渡所得 に該当するか否か判断した上で譲渡所得に該当しないと判断してはじめて不動産所得該当 性の判断が議論される。不動産所得と譲渡所得の所得区分の判断は、不動産等の所有権等の 権利移転の有無により判断することが可能であるが、所得税法 26 条 1 項及び同法 33 条 1 項の規定の関係性により必ずしも容易ではない。 (2) 不動産所得の範囲 不動産所得は、不動産、不動産の上に存する権利、船舶又は航空機の貸付け(地上権又は 永小作権の設定その他他人に不動産等を使用させることを含む。)による所得として、賃貸 料に限らず、付随収入等も含まれると解し、その付随収入等は、不動産の貸付けによる収入 と不可分一体のものであれば二者間における付随収入はもちろんのこと、第三者からのも のでも不動産収入として不動産所得に含まれる。 また、不動産所得における必要経費と収入の関係性については、不動産所得の経費になっ ていることとその経費に係る収入が不動産所得になることは必ずしもイコールではないが、 そのことは、不動産所得の必要経費と収入の相関関係を全て否定するものではないと考え
4 るべきであり、そうであれば、債務免除益などの経済的利益の不動産所得該当性については 個々に判断することになり、その際は、その収入が不動産所得の経費に係るものであること はその判断要素の 1 つともなりえると考える。 さらに、不動産所得等に該当するとして所得税法施行令 94 条 1 項 2 号が規定する収益の 補償として取得する補償金は、その趣旨は、必要経費の金額を補填する性質のものも含むも のと解すべきであり、この点において必要経費と収入の相関関係があると考えられる。 所得区分における不動産所得の範囲については、よりその実質、実態に促した判断により 判別すべきであり、その意味でも、その収益の発生基因など個々の実情、実態等を精査して 判断を行うべきである。 したがって不動産所得の所得概念は、所得税法 26 条、所得税法施行令 94 条 1 項、所得税 法施行令 79 条の形式面による該当性の有無、解釈はもとより実質面、実態面ひいては経済 的実質面による判断も 1 つの大きな判断要素となりうる。 最後に、不動産所得の所得区分の判断については、「不動産の使用目的」を判断要素とす ることも合理的と考え、補償金などの所得区分の取扱いについても判断要素とする検討の 余地はあるのではないかと考える。