原 著
臨騎58魏喬62選言〕
高齢者破裂脳動脈瘤の外科治療
一65歳以上200症例の検討一
東京女子医科大学 脳神経外科学教室(主任 アサ ヒ シゲ キ朝 日 茂 樹
喜多村孝一教授) (受付 昭和62年8月19日)Surgical Treatment for Cerebral Aneurysms in Aged Patients −AReport of 200 Ruptured Aneurysmal Cases Over 65 Years of Age一
Shigeki ASAHI
Department of Neurosurgery(Director:Prof. K6ichi KITAMURA) Tokyo Women’s Medical College
In a series of 1094 patients with surgically treated intracranial saccular aneurysms during 1969∼1986,200patients were more than 65 years of age. They were devided in two groups, the elderly group(65∼69 years:120 cases)and the aged group(over 70 years:80 cases). Comparing to 200 ruptured aneurysmal cases under 65 years of age, the outcome of aged patients with intracranial aneurysms and their characteristics were discussed.
1.Female dominancy was noted in both groups.
2.The anterior part of Willis’ring was dom.inant site of aneurysms and less than 7%in the posterior circulation. Multiplicity was 20%.
3.Mortality in early operation was 33%,which was higher than the control group(6%). 4.In delayed surgery, mortality showed no signi丘cant difference among three groups. 5。Favorable outcome depended upon preoperative neurological“Grade”. As we重l as Grade I, II, Grade III under 70 years of age were preferable.
6,All over operative mortality was 15%in the control,28%in elderly, and 36%in aged group. 7,Symptomatic vasospasm occured equally among three groups.
8.Symptomatic hydrocephalus was more frequent sequella in older patients than the control 9「oup.
9.Risk factors of fatal outcome in geriatric cases were unexpected complications, symptomatic vasospasm, and intracerebral hematoma,
緒 言 高齢者のクモ膜下出血の治療,なかでも,その 80%以上を占める破裂脳動脈瘤に対する治療は, 重要な課題である.高齢者脳動脈瘤(65歳以上) の手術成績は,若年者(65歳以下)に比べて悪い とする成績と1)∼3),慎重であれば,さほど悪くない という成績がある4)5). 東京女子医大脳神経センター脳神経外科では, 1969年の開設以来,1986年12月までに,1,094例の 脳動脈瘤を経験してきた.単独施設で1,000例を超 す脳動脈瘤治療の報告は,欧米では,Fox(1983)6), Yasargil(1984)7),国内ではSuzuki(1971)8),溝 井(1983)9)など極めて少なく,その分析は価値あ るものと考えられる.今回,65歳以上の破裂脳動 脈瘤200例を65歳以下の例と対比し,高齢者破裂脳 動脈瘤の特徴と,外科治療の適応をあきらかにし
たい.
対象および方法
1969年から1986年12月までに経験した破裂脳動 脈瘤症例は,男性487例,女性607例の計1,094例で ある.その性別と年齢別分布を表1に示す.1,094 例中,多発脳動脈瘤が149例(13.6%)あり,脳動 脈瘤は,総数1,233個で,その発生部位を図1に示 す. 対象は,このうち65歳以上の200例である.これ を65歳∼69歳の120例(A群)と,70歳以上の80例 (B群)の2群に分けた. 高齢者の特徴を知り,外科治療の適応を明らか 表1 破裂脳動脈瘤1094例の年齢別分布 (1969年∼1986年12月) 男 性 女 性 0∼10歳 1 0 11∼20 13 1 21∼30 18 9 31∼40 85 46 41∼50 148 144 51∼60 123 196 61∼70 94 154 71∼80 14 51 81歳∼ 1 6 計 487 607 男女比 1: 1.25 図1 破裂脳動脈瘤1,233個の発生部位(1969年∼1986 年12月)にするために,1984年以後の3年間に扱った65歳
以下の200例を患者対照群(コントロール群)とし,以下の6項目について,3群間で比較検討した.
脳動脈瘤の治療成績に及ぼす因子として,1)年 齢および発生部位,2)治療内容,3)手術時期,4)術前の神経学的重症度,5)術後の
vasospasm,などを検討した.また,6)保存療法 の転帰についても調べた. 結 果 1.年齢および発生部位 全年齢を通じて,破裂脳動脈瘤は,51歳から60 歳までの間に最も多く発生する(表1).対象とし た65歳以上の200例は,全症例の18.3%を占める. 50歳以上では,加齢につれて次第に女性の数が男 性を上回る. コントロール群,A群, B群の各々の男女比と 脳動脈瘤の発生部位を表2に示す.65歳以上では, 男性56例,女性144例,男女比が1:2.57となり, 明らかに女性に多い.多発脳動脈瘤は,コントロール群200例中31例
(15.5%),A群120例中24例(20.0%), B群80例 中16例(20.0%)で,65歳以上では差がない. 脳動脈瘤の最も好発する部位は内需動脈で,次いで,コントP一ル群とA群では前交通動脈,B
群では中大脳動脈である.椎骨・脳底動脈系の発 生率はコントロール群で16例(8.0%),A群8例 (6.7%),B群4例(5.0%)である.65歳以上の 表2 年齢別3群の男女比と脳動脈瘤の発生部位 (400例) コントロール群 A 群 B 群 (65歳以下) (65歳∼69歳) (70歳以上) 男 性 97 39 17 女 性 103 81 63 男 女 1:1.1 1:2.1 1:3.7 ”箭’菱−冨@ 49
@ 23
@ 9
前 大 脳 4 8 2 内 頚 52 31 20 中 大 脳 41 19 11 椎骨・脳底 16 8 4 多 発 31 24 16 不 明 7 7 8 計 200例 120例 80例200例中,全身状態が悪く,脳血管撮:影の適応外の ものや,血栓化などにより,脳動脈瘤が造影され なかったものが,15例(7.5%)あった. 2.治療内容
3群の治療内容を表3に示す.根治術である脳
動脈瘤の頚部クリッピング(以下,単にクリッピ ング)が行おれたのは,コントロール群200例中159 例(79.5%),A群120例中75例(62.5%), B群80 例中33例(41.3%)の計267例である.その他の外科治療は,動脈瘤のtrappingやwrapping,親血
管の結紮などである.保存療法は,コントロール 群15例(7.5%),A群24例(20.0%), B群35例 (43.8%)で,高齢となるほど,根治術を選ぶ率が 低くなり,保存療法となることが多い. 3.手術時期手術時期を発症から5期に分け,クリヅピング
を施行した総数267例について,3群問で,手術死 亡を比較した(表4)。当科では,原則として発症 後48時間以内の早期手術を治療方針としている. この時間内に行われた手術死亡率は,コントロール群101例中21例(20.8%),A群32例中14例
表3 年齢別3群の治療内容(400例) コントロール群A
群 B 群 外科療法 185 96 45 クリッピング 159 75 33 持続脳室 ドレナージ ワたはV−P 13 14 11 シャントのみ その他 13 7 1 保存療法 15 24 35 200 120 8G (43.8%),B群15例中6例(40.0%)である.特 に,24時間以内の急性期手術に死亡数が多いのは, この中に,脳内血腫,脳室内血腫などを合併し, 救命を目的とした手術例が,コントロール群で23 例(このうち16例死亡),A群で10例(7例死亡), B群で6例(3例死亡)含まれているためである. これらの救命手術例を除いた場合の,早期手術 (48時間以内)と,晩期手術(15日以後)の成績を 死亡率で比較した(表5).早期手術では,65歳以 上の手術死亡率が31例中10例(32.3%)でコント ロール群78例中5例(6.4%)より有意に高いが (p<0.005),晩期手術では,両者の問に有意差を 認めなかった. 4.術前神経学的重症度クリッピングを施行した267例の術前の神経学
的重症度を,Hunt and Hessに従って分類した (表6).転帰は,退院後6ヵ月までfollow upし
た結果を,Glasgow outcome scale(以下, G.0,
S.と略す)により,good(G)からdead(D)ま での5段階に区分した(表7),65歳以上では,日 表5 早期手術と晩期手術の比較(救命手術例をの ぞく) ()内死亡数 手術時期 コントロール群 A 群 B 群 48時間以内 78(5) 9(3) 15日以後 21(0) 25(3) 9(0) k_34(3)・一」 *κ2−test, p〈0.005 綿Not signi丘cant 表4 クリッピングを施行した267例の手術時期と 手術死亡 ()内死亡数
表6 Hunt&Hessのgrade
(付帯条件をのぞく) 手術時期 コントロール群 A 群 B 群 0∼24時間 97(21) 27(13) 10(4) 24∼48 4(0) 5(1) 5(2) 3∼7日 31(2) 10(3) 7(5) ’8∼14 6(0) 8(1) 2(1) 15日以後 21(0) 25(3) 9(0) 計 159(23) 75(21) 33(12) 重症度 基 準 徴 候 Grade I Grade II: Grade III: Grade IV: Grade V: 無症状,または軽度の頭痛および項部硬直を 示す. 中等∼高度の頭痛,項部硬直を示すが,脳神 経障害以外の神経症候を有しない. 傾眠,錯乱状態あるいは軽度の局所神経症候 を有する. 昏迷,中等∼高度片マヒ,ときに初期の除脳 硬直,自律神経障害を有する, 深昏睡,除脳硬直,瀕死の状態.常生活の自立を重視し,歩行を目安として,歩行
不可能なものは,severely disabled(S)以下とし
た.
術前に,grade I, IIすなわち脳神経以外の局所
神経症状のないものでは,死亡率は,コントロー
ル群で2.7%,A群14.9%, B群22.2%である.65 歳以上のgrade I, IIの患者で,クリッピングの施 行後に,自立した家庭生活が可能な例(G.0.S.で M以上)は,A群で47例中32例(68.1%), B群で 18上中9例(50.0%)である. Grade IIIの状態で,根治術後に自立が可能なも のは,A群で18例中4例(22.2%)に対し, B群 では9例中1例(11.1%)であった. Grade IV, Vの高度の片麻痺を伴う例や,除脳 硬直を示す例は,3群とも死亡率が50%を上回っ ており成績は不良である.65歳以上のgrade IV, Vの計16・例では,自立可能となったのは1例のみ. で,5例(31.3%)が相当の介助を要する状態で あり,10例(62.5%)が死亡した. クリッピング後に死亡したコントロール群の23 表7 クリッピング267例の術前のgradeと転帰 (Glasgow outcome scale)
コソトロ.一ノレ君羊 (159『列) Grade
G
M
SV
D
死亡率(%) 1.II @III hV, V 79 W1 19 U1 751 234 346 3/110(2.7) S/26(15.4) P6/23(69.6) 88 26 13 9 23 23/159(14.5) 例と,65歳以上の33例の死因となった主たる病態を表8に示す.いずれも,初回のクモ膜下出血に
よる脳損傷,脳内血腫合併,症候性脳血管李縮(以下,vasospasmと略す)による脳梗塞などが,予
後不良の原因である.また,65歳以上では,術後 の合併症が重要な死因である.5.術後のvasospasmとシャントを要する水頭
症の発生頻度クモ膜下出血後に生じるvasospasmと水頭症
は,脳動脈瘤の治療成績を左右する.術前に脳内 や脳室内に血腫を伴わず,grade IIIまでの状態で根治術が行われた症例は,コントロール群で130
例,A群56例, B群24例である,65歳以下と65歳以上の問で,vasospasmと水頭症の発生頻度を比
較した(表9).術後のvasospasmは, CTスキャン上,脳内に
新たな低吸収域を生じ,脳虚血による非可逆的な 神経脱落症状(主として片麻痺,失語症)の永続 表8 クリッピング後に死亡に至った56例の主たる病態 主たる原因 65歳以下 65歳以上 初回破裂による ]損傷,脳内出血 ヌ候性脳血管李縮 ト出血,術後出血 ? 併 症 8834 6105!2* 計 23 33 *心,肺野5例,腎不全4例,消化管出血1例,腹部大動脈 瘤破裂1例,髄膜炎1例 A君羊(75例)G
M
SV
D
死亡率(%) 1.II @III hV, V 26 Q0 620 451 422 777 7/47(14.9) V/18(38.9) V/10(70.0) 28 8 10 8 21 21/75〔28.0) B群(33例)G
M, SV
D
死亡率(%) 1.II @HI hV, V 600 311 311 221 453 4/18(222) T/9(55.6) R/6(50.0) 6 5 5 5 12 12/33(36.4) G:Good recovery S:Severely disabled D:Dead M:Moderately disabled V:Vegetative表9 術後のvaSospasmと水頭症の発生頻度 コントロール群 @(130例) A 群i56例) B 群i24例) 脳血管車回 @severe @moderate 45 P8
k,
15 P2 10 S 水頭症 iV−Pシャント) 32k。,
30 12 κ2−test(65歳以下:65歳以上) *Not Significant **吹q0.005したものをsevere vasospaslnとし,その他の可
逆的な例はmoderate vasospasmとした.水頭症
は,CT一スキャン上,脳室の拡大があり,意識障害や尿失禁を伴い,クリッピングの後に,
ventriculo−peritoneal shunt(以下V−Pシャント) を必要としたものである. vasospasmの発生は,コントロール群で,130例 中63例(48.5%),A群56例中27例(48.2%), B群 24例中14例(58,3%),で,コントロール群と65歳 以上の群で,統計的に有意の差を認めなかった. 水頭症の発生は,コントロール群32例(24.6%), A群30例(53.6%),B群12’例(50.0%)で,65歳 以上では,コントロール群より,有意に高い頻度 で発生した(p<0.005). 6.保存療法の転帰コントロール群,A群, B群を合わせた400例
中,保存療法を施行したものは,コントロール群 15例,A群24例, B群35例の計74例であり,保存 療法が行われた理由および転帰を表10に示す.来 院時に,既に深昏睡で保存的療法をとらざるをえ ない症例は,いずれの群でも,全例死亡した.保存療法のみの死亡率は,コントロール群15例中7
例(46.7%),A群24例中16例(66.7%), B群35 例中21例(60.0%)であった. 経過中に,脳1血管撮影上,脳動脈瘤が血栓化の ため造影されなかったり,偶然に未破裂の多発性 脳動脈瘤が発見されたり,根治術が不能であるな どの理由で,クリッピング未施行のまま退院した 例が,A群で4例, B群で13例の計17例あった. これを6ヵ月から10年にわたりfollow upしたところ,4例が退院後3年,7年,8年,10年に再
表10 保存療法と死亡率 ()内死亡数 理 由 コントロール群 A 群 B 群脳血管李縮
0 5(5) 6(5) 多発性(3個以上) 0 2(1) 5(1) または巨大動脈瘤 深 昏 睡 6(6) 6(6) 12(12) 合 併 症 2(1) 7(3) 3(3) レ線上の消失 2(0) 2(1) 5(0) そ の 他 5(0) 2(0) 4(0) 計 15(7) 24(16) 35(21) 破裂により死亡していたが,他の13例中10例が自 立した生活を送っていた.この10例中5例は,V−P シャントのみで退院した例であった. 考 察 1969年に行った鈴木らの破裂脳動脈瘤の全国集 計によると8),男女の比率は,男性54%,女性46% であったが,16年後の1985年のNishimotoら1。)の 4,599例の多施設全国集計では男性49%,女性51% と男女比が逆転している.当科の1,094例では,男 性487例(45%),女性607例(55%)で,やはり女 性に多い(表1).特に50歳以上では,加齢につれ て女性が増加し,高齢者の破裂脳動脈瘤では,女 性が優位となってくる. 多発脳動脈瘤は,全国集計10>で,4,599例中626例 (13.6%),当科では1,094例中149例(13.6%)で あった.65歳以上では,A群, B群とも20.0%で, コントロール群200例中31例(15.5%)と比較する と,高齢者では,多発脳動脈瘤が多い. 脳動脈瘤の好発部位は,全年齢を通じ,内頚動 脈,前交通動脈,中大脳動脈,前大脳動脈と,従 来の報告と変ったところがない(図1). これまで,高齢者の破裂脳動脈瘤根治術を若年 者のそれと比較して論じた報告は少なく,60歳以 上を一括して論じている11)∼14).65歳以上の200例 を対象とした分析は,本邦では未だ見当らない. 30症例以上を対象とした報告11>∼16)に庶ぽ共通し ていることをまとめると,1)術前のgradeが1, IIでは早期手術が可能で成績も良好であり,2) grade IIIでは手術成績にバラつきが見られ,一部 で早期手術が可能とする報告もあるが13),晩期手 術をすすめるものがやや多く12)14)16),3)grade IV, Vでは,血腫除去による救命手術を除き,ク リッピングの手術適応はなく,4)術後の偶発合併 症が多い4)13),などである.新妻らは,70歳以上の 35例を検討し,動脈硬化の少ないgrade IIIまで の症例で,晩期手術群に良好な結果を得ることが あり,根治術の適応拡大が可能であることを示唆 している16). 当科では,破裂脳動脈瘤患者に対しては,可及的早期に,頚部クリッピングを施行する方針を
とっており,以下の条件で高齢者に対しても根治術を施行してきた.1)術前のgradeがIIIより良 好である.2)心,肺,腎に合併症がないか,多少 はあっても全身麻酔に耐えられる,3)胸部レ線や 脳血管撮影上,動脈硬化が著しくない,4)健康生 活が長く,暦年齢より肉体年齢が若い,5)家族や 近親者から強い手術要請がある,以上のような例 である. このような条件で,動脈瘤頚部クリッピングが 可能であったのは,A群75例(62.5%), B群33例 (41.3%)である.コントロール群159例(79.5%) と比較すると,当然ではあるが,年齢が高くなる につれて,根治術が可能な比率は低くなる(表3), 破裂脳動脈瘤の手術時期については,以前から
議論されてきた.早期手術(多くは発症後3日以
内)の利点は,再破裂による出1血を確実に防げる こと,脳血管変縮の原因となるクモ膜下草の血腫を早期に除去できることであるが,反面,脳は
tightな状態で,脳動脈瘤も発症後24時間以内が
もっとも再破裂しやすく17),より高度な顕微鏡手 術手技が必要とされる.これに対し,晩期手術(多 くは15日以後)では,再破裂と脳血管李縮をのり こえた比較的状態のよい症例が対象となるので,手術成績は一般に良好となる.このcontroversy
について,最近3,500例のクモ膜下出血を対象に, 国際共同研究の結果が報告され,以下の点が明ら かになった17).1)再出血が24時間以内に最も多い こと,2)主な死亡原因は,脳血管強縮(34%),初回破裂による脳の直接損傷(26%),再出血
(17%)であること,3)発症後3日以内の手術と, 7日∼14日の間に行われた手術の成績に有意の差 を生じなかったことである. 本シリーズの時期別にみた手術死亡数は,24時 間以内に施行されたものの中に多いが(表4),こ れは,脳内血腫合併例などの重症例に対する救命 手術が含まれているためである. これらを除外した,早期手術と晩期手術の比較 でも(表5),コントロール群で早期手術による死亡が5例(6.4%)であるのに対し,A群では7例
(31.8%),B群3例(33.3%)で,術前状態が比 較的良好であっても,高齢者の早期手術には,か なりのリスクが伴うことがわかる.晩期手術では,A群で3名の手術死亡があったが,コントロール
群とB群では手術死亡が0である.したがって,
高齢者では晩期手術の方が生命予後は良いといえ る. 手術時期に関する国際共同研究における,日本 の脳外科医の成績をまとめた報告18)では,発症から3日以内の早期手術群では,vasospasmと直接
脳障害による死亡率が高いことが指摘されている が,良い回復を示す例も65%あり,わが国全体と して,早期手術を指向する傾向は妥当であるとし ている.術後成績が問題となるのは,術前の状態が
grade IIIの症例である.Amacherら11)は,手術対 象をgrade l, IIまでにとどめており,Hougosson は,grade IIIはクリッピングの禁忌にはならない としている12).Yasargilは941例のシリーズの分 析から7>,grade IIIは,初回破裂から数時間ない し数日で,grade II,1へ回復する例と悪化してい く例とに分かれるが,これの予見は困難であるの で,全例を早期手術すべきでないとしている.特 に高齢者では,合併疾患も多いため,状態がおち ついてからの晩期手術を勧めており,手術適応の決定に,PET(positron emission tolnography) の有用性を示唆している. 本邦では,Ohmotoらが,60歳以上のgrade III
の38例の手術死亡を検討し,14日以内の手術で
34.8%,晩期手術で13。3%であることから,晩期 手術を主張している’4).新妻は,70歳以上のgrade IIIで,晩;期手術により,35例中8例に良い結果を 認めている16).本シリーズのgrade IIIは,原則として3日以
内の早期手術が施行されており,高齢者を2群に
分けてみると,転帰に差を生じた(表7).B群のgrade IIIでは,9例中5例が死亡,3例が相当の
介助を要する結果となっており,早期根治手術は, 69歳以下のgrade IIIまで,というのがひとつの 目安となろう. 65歳以上のgrade IV, Vの計16例に対して行った根治手術では,良好な結果を得たのは1例のみ
で,10例が死亡,5例が歩行できずに全面介助を
要している状態であることから,根治術の適応はないといえる. 根治手術を施行した65歳以上の108例で,手助け なく家庭生活が可能なもの(G.0.S.でM以上)は 47例(43.5%)であった.このうち41例がgrade l,
IIであり,術前のgradeにより転帰が予測可能で
あるといえる.手術死亡の原因(表8)は,コントロール群で
も高齢者でも,脳内i血腫,脳血管李縮,再出血(一 部,術後出血)が主なもので,国際共同研究の結 果と一致している.また,コントロール群と比較 して,術後の偶発合併症で不幸な転帰となること が多いのも高齢者の特徴といえる.高齢者のクモ膜下出血後のvasospasmの発生
についてコントロール群と比較したが,有意の差 はみられなかった(表9).vasospasmは,脳内血 腫を伴わないgrade IIIまでの例で,コントロール群130例中63例(48.5%),A群56例中27例
(48.2%),B群241列中14イ列(58.3%)と, 3群と も約半数の症例に生じており,いったん生じると, 非可逆的になる例が多い.特に高齢者では脳梗塞 を生じやすく15),それに伴う全身状態の悪化が致 命的となりやすい. V−Pシャントを必要とする水頭症の発生率は,高齢者では明らかにコントロール群より高い
(p〈0.005).水頭症による尿失禁,知能障害,歩 行障害は,長期臥床や感染症の誘因となりやすく, 家庭復帰の大きな妨げとなる.高齢者では,再出 血の防止と共に水頭症の治療にも留意すべきであ る.根治手術に至らず,V−Pシャントのみで退院した5例をfollow upしたところ,再破裂を免れ
て年齢相応の自立した生活を送っていることが判 明した.平均余命が短い老年者では,考慮されて よい治療方法といえる.高齢者の脳動脈瘤を全く保存的に治療した場
合,59例中37例(62.7%)が死亡した(表10).根 治手術による手術死亡が108例中33例(30.6%)で あることを念頭におき,手術適応を決定すべきで ある. 結 語 65歳以上の破裂脳動脈瘤症例について 1.A群(65歳∼69歳), B群(70歳以上)とも, 女性の方が男性より多い.2.内頚動脈系にもっとも好発し,次いでA群
では前交通動脈,B群では中大脳動脈系に好発す る.椎骨・脳底動脈系には,A群で6.7%, B群で 5%に発生する.高齢者破裂脳動脈瘤の20%が多 発性で,コントロール群(65歳以下)の15.5%よ り多い.3.48時間以内の早期手術による死亡率はA群
31.8%,B群33.3%で,コントロール群6.4%より 高く,特に24時聞以内に施行された例に多い. 4.晩期手術による手術死亡率は,コントロール 群と比較して,有意の差を認めなかった. 5.術前の状態が,grade I, IIならぽ,全年齢 で,grade IIIでは69歳までの例で根治術により良 好な結果を期待できる.6.根治手術後の死亡率は,コントロール群
14。5%,A群28.0%, B群36.4%で,保存療法で は,死亡率は62.7%である.7.vasospasmの発生頻度はコントロール群と
65歳以上との間で有意差を認めなかった. 8.V−Pシャントを要する水頭症の発生が,コ ントロール群と比較して明らかに多かった. 9.予後不良因子は,偶発合併症,vasospasm, 脳内血腫である. 稿を終えるにあたり,御指導と御校閲を賜わりまし た喜多村孝一教授に深甚なる謝意を捧げます,また, 終始御指導,御教示を頂いた加川瑞夫教授に深謝致し ます. 本論文の要旨は,第44回および第46回日本脳神経外 科学会総会シンポジウムで発表した. 文 献1)Mckissock W, Paine KWE, Walsh LS:An
analysis Qf the results of treatment of ruptured
intracranial aneurysms. Report of 772 consecu・ tive cases. J Neurosurg 17:762−776,1960 2)Skultety FM, Nishioka H:The results of intracranial surgery in the treatment of aneuレ ysms.∫ηIntracaranial Aneurysms and Subara− chnoid Hemo汀hage. A cooperative Study,
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−194,Lippincott, Philadelphia(1969) 3)Shephard RH: Ruptured cerebral aneur・ ysrns. Early and late prognosis with surgical
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