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ICTを活用した地域活性化の取り組み ─「まちの豊かさ」再生の支援─

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Academic year: 2021

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「まちの顔」である中心市街地の衰退に示されるように,地 方の活力が低下している。モータリゼーションの進展,住宅 や公共機関の郊外化,中心市街地でのコミュニティ機能の 低下など,地域内部のさまざまな要因に加えて,高速交通網 の整備進展に伴う大都市への一極集中という全国規模の要 因もあり,「地域格差」問題が深刻化しつつある。政府は「地 域活性化」に向けた多様な取り組みを本格化させており,ICT 活用による持続的な事業モデルの構築が求められている。 日立グループにおいても,地元有力企業や自治体,NPO (非営利団体)などの公益団体といった地域関係者との「協 創」を通じてuVALUEを創出し,地域活性化に貢献する新た なアプローチ手法を探っている。さらに幅広い事業領域と技 術,経験,ノウハウなどの総合力を生かした業種横断的なア プローチによる「ソーシャルビジネスモデル」の確立をめざして いる。 1.はじめに 新幹線や飛行機に代表される高速交通網の整備は,人々 のよりダイナミックな移動を可能にした。これにより,経済効率 の向上や,広域観光の実現といった効果がもたらされた反面, いわゆるストロー現象による,人口や経済の一極集中と,その 結果としての「地域格差」の拡大といった影が目立ち始めて いる。自動車を最大限に活用する郊外型生活様式の定着に 伴い,「シャッター通り」と化した中心市街地の商店街の姿は, もはや目新しいものではなくなりつつあり,若年労働人口の流 出に悩む地方都市は,急激に進展する高齢化にいかに対応 し,市民生活を守っていくかという課題に直面している。 こうした状況を踏まえ,政府は地域活性化に向けた取り組 みを強化している。内閣府は,従来の地域活性化に向けた 四つの施策を統合した地域活性化統合本部会合を開き,地 方の再生に対する一元的な取り組みの推進を図っている。省

ICT

を活用した地域活性化の取り組み

―「まちの豊かさ」再生の支援―

Regenerating “Town's Affluence” by Regional Information and Communication Technology

三科 雄介

Yusuke Mishina

瀬戸 宏一

Koichi Seto

紺野 篤志

Atsushi Konno

大和田 一義

Kazuyoshi Owada

地域住民 「賑(にぎ)わう」 まちを行き交う多様なユーザーに向けた ワンソース, マルチユースの情報受配信 「安らぐ」 人やまちの安全・安心, 健康を支える サービスバリューチェーン 「縁(むすぶ)」 人とコミュニティ, 地域社会をつなげる コミュニケーションプラットフォーム 就業者 来訪者 (観光・ビジネス)

地域の持続的発展

サービス 融合・創生 インフラ融合・形成 ICT×社会インフラ 公益団体 行政 住民 企業 住宅 ICT×設備 エリア ICT×設備 ビル ICT×設備 地域パートナー協創

注:略語説明 ICT(Information and Communication Technology)

図1 地域活性化に寄与するuVALUE創出モデル ICTインフラと地域パートナーとが連携して,多様な価値を持つICTサービスを実現し,地域の持続的発展に貢献する。 66 Vol.90 No.03 276-277 2008.03 地域に貢献する日立グループの公共ソリューション

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67 庁レベルでも,総務省の「地域ICT利活用モデル構築事業」, 国土交通省の「イノベーション推進大綱」,経済産業省の中 心市街地活性化に向けた各種施策などが打ち出されている。 政府は,これら施策を通じて各地域が自立的に継続できる事 業モデルの構築と,その実現に向けた官民一体となった取り 組み,さらにその支 援 手 段であるICT(Information and Communication Technology)の利活用を期待している(図1図2参照)。 「地域活性化」を実現するためには,「地域経済の充足」, 「地域文化の充足」,「個人生活の充足」の実現が必須であ る。この三つが充足された豊かな地域には,来訪者(短期滞 在者)の増加,長期滞在者の増加,さらには定住者の増加 が見込まれ,地域活性化実現の可能性が高まると考えられる (図3参照)。地域活性化という包括的な目標に対して,企業 活動や文化的情報の保全,自己実現に向けたネットワーク サービスなどのICTソリューションがすでに提供されている。日 立グループは,この動きを加速させ,より広範囲な地域活動 への情報システムの活用と,地域の多くの関係者が協創す る新たな「ソーシャルビジネスモデル」の構築に取り組んでいる。 ここでは,「ソーシャルビジネスモデル」の確立に向けた日立 グループの取り組みと,今後の方向性について述べる。 2.地域活性化を支援する情報システム 2.1 各地で進められる「コンパクトシティ」への取り組み 青森市や富山市をはじめ,「コンパクトシティ」構想の実現に 向けた取り組みが各地で進められている。コンパクトシティで は,公共交通機関が十分に整備された中心市街地に,住宅 や公共施設といった都市機能が集約されており,「歩いて暮 らせるまちづくり」が実現される。コンパクトシティの最大のメ リットは,コスト削減と生活サービス水準の維持・向上とが両 立できる点にある。日立グループでは,ユビキタス社会の進展 とICT活用により,このメリットを最大化できると考えている。 2.2生活サービス水準を向上する地域情報システム 地域における人々の活動は,「暮らす」,「働く」,「訪れる」 の三つに大別できる。人々は「快適・便利なまち」,「安全・安 心なまち」であることを求め,サービス提供者あるいは享受者 として,上記活動シーンに応じた役割を果たしていると考えら れる。彼らの活動を支える地域情報システムの構成を図4に 示す。 地域情報サービスは基本的に,サービスのクライアントとな るユビキタス情報端末と,サービスの本体処理を実施する サーバとがネットワークで結合される地域情報システムを最小 Feature Article 利用者  提供価値 暮らす 快適・便利 ビル 地域管理センター 街区 安全・安心 働く 訪れる ユビキタス情報端末 アプリケーションサーバ 地域ポータル コールセンター 遠隔設備監視 警備防災拠点 ワイドエリアネットワーク アプリケーションサーバ ユビキタス情報端末 基地局 メトロポリタン エリアネットワーク ローカルエリア ネットワーク 基地局 地 域 情 報 シ ス テ ム 他 の 地 域 情 報 シ ス テ ム 図4 地域情報システムの構成 ビルや街区の基本情報システムがネットワークで結ばれて地域情報システムが 構築され,さらに広域の地域情報システムへと拡張される。 「豊かなまち」の実現 文化的充実 ICT利活用 個人生活充実 経済的充実 事業拡大 事業創出 まちの魅力の増大∼まちに集う人たちの増加 伝統文化保全 新文化創出 自己実現 安心感創出 産業支援ソリューション 「賑わい」の演出 「縁」の再生 「安らぎ」の創出 公共・学校向けソリューション 施設管理ソリューション 地 縁 再 生 セ キ ュ リ テ ィ つ な が り 実 感 知 識 涵 養 ︵ か ん よ う ︶ 人 材 育 成 普 及 促 進 後 継 者 育 成 ア ー カ イ ブ 構 築 経 営 資 源 の マ ッ チ ン グ 新 技 術 開 発 コ ス ト 低 減 売 上 高 拡 大 図3 「豊かなまち」実現に向けたICT利活用のエスカレーション ICTが地域の人や資源を刺激し,外部資金の流入を呼ぶことによって経済的, 精神的充足をもたらし「豊かなまち」を実現する。 都市再生本部 窓口の一元化 地方再生の5原則 補完性 自立 共生 総合性 透明性 出典:内閣府「地域再生戦略(案)の概要」より作成 地方の再生に対する 政府の一体的な支援 地域からの相談の 一元的な対応 地域活性化 応援隊派遣の 調整・実施 地方の元気 再生事業 実施の調整 地域再生本部 構造改革特別区域 推進本部 中心市街地活性化 本部 地 域 活 性 化 統 合 本 部 会 合 地 域 活 性 化 統 合 事 務 局 図2 内閣府の地域活性化戦略 従来の4施策を統合して,一元的に地域再生に取り組む。

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68 Vol.90 No.03 278-279 2008.03 地域に貢献する日立グループの公共ソリューション 単位として実現される。このシステム構成単位は,ビルと街区 とで規模は異なるが同質である。これら基本単位が集まって, 各種サービス機能を備えた地域情報システムが構成される。 地域情報システムは,ワイドエリアネットワークで結合され,さら に広域の情報サービスが実現される。 2.3幅広い地域活動を支える街区情報システム 幅広い地域活動を支えるためには,街区情報をより効率的 に収集し,各種サービスに反映させていく街区情報システム が重要である。 街区情報システムは,地中に埋設された光ケーブル,光 ケーブルから引き出された地上街角情報アンテナ,これと通 信するユビキタス情報端末から構成される(図5参照)。ユビ キタス情報端末は,人や構造物,山野に付設される各種の センサーであり,事物の環境や状況を電子情報として検知す る。検知された情報は地域管理センターに集められ,各種 サービスの入力情報として利用され,あらゆる判断の材料と して活用されることによって地域経営の効率化に貢献すると 考えている。 3.地域活性化のための新たな「ソーシャルビジネスモデル」 3.1多様な関係者から成るソーシャルビジネスモデル 地域活性化におけるICT利活用には,社会性と事業性の 両面が求められ,その担い手は地域そのものであることが望 ましい。一方で,地域を取り巻く環境は必ずしも豊穣ではない。 このため,多様な関係者による役割分担を通じて個々の負担 軽減をしつつ,サービスフローの持続可能性を維持し得る 「ソーシャルビジネスモデル」の立案が重要である。 図6は,国などの行政支援に基づき地方自治体が中立性, 公益性の高いNPO(Non-profit Organization)に経営委託, さらに当該NPOなどが地域ICT関連企業などに実施委託を 行う典型例である。住民参加の促進も求められる。また,こう したビジネスモデルは地域特性が強いため,ICTの貢献可能 性も地域や案件によって大きく変動する。 3.2地域活性化における「協創」 当該分野では,多様な地域関係者,地域資産などのバ リューチェーン構築が求められる。これは日立グループの uVALUEコンセプトそのものであり,「協創」の観点は不可欠と なる。そのバリエーションを図7に示す。協創パートナー像の 特色としては,地域密着,実行力,中立性・公益性,の3点 が挙げられる。 日立グループには,従前より社会インフラ分野の長い歴史 があり,その過程で上記特色を兼ね備えた全国企業,地域 有力企業などとの交流を持ってきた。また,各地域の販売 パートナーやシステムパートナーにも恵まれている。こうした無 施設/ 公共インフラ 国 市町村 行政 消防 交通 商工会 商店街 地域 公益団体 地域 CATV 会社  地域ICT   事業者 ・地域ポータル ・コンテンツ 統合配信 市民 ボランティア 公共投資 消費, 利用料 助成 設備投資 依頼 委託 委託 委託 情報 委託 情報 日立ソリューションによる下支え 情報 情報 利用料 情報/コンテンツ 情報/ コンテンツ 情報/コンテンツ 情報 税金 住 民 就 業 者 来 訪 者 , , 注:略語説明 CATV(Cable Television) 図6 持続的な地域ICT利活用を可能とするソーシャルビジネスモデル の例 多様な地域関係者を結ぶ事業スキームと,投資・収益の地域循環が,地域 ICT利活用計画の前提となっている。 道路 交通制御 社会資本管理 災害監視 街角情報アンテナ 道路基準点 電子基準点 街角情報Box 光ファイバ 地域管理 センター 出典:社団法人日本プロジェクト産業協議会(JAPIC) ユニバーサル社会構築研究会資料を参考に作成 キロポスト ICタグ センサー ICタグセンサー ICタグセンサー ICタグセンサー 図5 街区情報システムの構成 街区の事物に敷設された種々のセンサー情報は,地上街角情報アンテナを 介して地中に埋設された光ケーブルへと送られ,地域管理センターに集められる。 市町村・公共機関 地域有力機関 製造業, サービス業 ユーティリティ企業 商工会 NPO 大学 電力 通信 交通 金融 顧 客 協 創 ︵ 見 え な い 価 値 ︶ サ ー ビ ス 提 供 ︵ 見 え る 価 値 ︶ 日 立 グ ル ー プ 地 域 住 民 就 業 者 来 訪 者 , , 地 域 I C T 事 業 者 図7 地域活性化に向けた協創イメージ 日立グループは,地域事情に見合った協創パートナーシップを業際展開していく。

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69 形財産を有効活用しつつ,事業性と社会性の両面を兼ね備 えた「ソーシャルビジネスアライアンス」を追求していく。 3.3 PDCAサイクル単位での関与 ICT利活用を通じた地域活性化を具現化するには,多様 なステークホルダーの最適役割分担を意識した「ソーシャルビ ジネスモデル」立案,そして価値協創に向けた地域アライアン スが重要である。 そのため,日立グループは,企画段階から実証,本格運 用までのPDCA(Plan,Do,Check,and Action)サイクルを意 識した地域活性化貢献を強化していく(図8参照)。PDCAス テップに先立つアプローチの原則は,クロスセクター型,マー ケットドリブンの推進体制である。日立グループでは,情報・通 信グループ内に地域活性化対応チームを置き,PDCAサイク ルを意識したコンサルティング活動を実施中である。 4.おわりに ここでは,日立グループの総合力を生かした業種横断的な アプローチによる「ソーシャルビジネスモデル」への取り組みと, 今後の方向性について述べた。 日立グループはこれまで,社会の要請に応え,一貫して技 術を通じた貢献をすべく,製品・サービスを提供してきた。し かし,人や社会の価値観の再構築があらためて問われてい る現代において,自身で保有している土地における新たな価 値の創出や,地域社会を支える人材の育成といった,より幅 広い領域を視野に入れながら,日立グループとしての最適な 貢献を模索していく必要がある。現在,地域有力企業や地 方自治体などとの連携による,地域課題の解決への取り組み を進めているが,今後そこから得られる経験・知見を基に, 「ソーシャルビジネスモデル」創出に向け,新たなアプローチ手 法の確立を図っていく。 「地域」は,地縁,血縁,会社(企業)の社縁などさまざまな 「縁」によって結ばれることによって成立している。今後も,日 立グループ内の技術・知識・ノウハウなどあらゆるものを横断的 に組み合わせ,uVALUEイノベーションを実現することによって, 地域に向けた政策立案から,システム構築までを一貫して支 援していきたいと考えている。 執筆者紹介 三科 雄介 1986年日立製作所入社,情報・通信グループ 経営戦略 室 新事業インキュベーション本部 新事業推進部 所属 現在,都市開発,地域活性化に向けた情報ソリューション の開発に従事 Feature Article 瀬戸 宏一 1991年日立製作所入社,情報・通信グループ 経営戦略 室 新事業インキュベーション本部 新事業推進部 所属 現在,都市開発,地域活性化に向けた情報ソリューション の開発に従事 紺野 篤志 1992年日立製作所入社,情報・通信グループ 経営戦略 室 新事業インキュベーション本部 新事業推進部 所属 現在,都市開発,地域活性化に向けた情報ソリューション の開発に従事 大和田 一義 1991年日立製作所入社,情報・通信グループ 経営戦略 室 新事業インキュベーション本部 新事業推進部 所属 現在,都市開発,地域活性化に向けた情報ソリューション の開発に従事 1)三谷,外:都市商業とまちづくり,税務経理協会(2005.8) 2)内閣府,http://www.cao.go.jp/ 参考文献など

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(1)政策・利用者・地域経済ニーズの分析 (3)サービスモデルの協創(リアル×ICT) (4)ICTインフラ整備 (5)フィールド実証, 持続性検証 (2)経営主体と実施主体の見極め, 地域経営モデ ルの協創 (6)地域ステークホルダーとの役割分担再定義, 一部引き渡し 注:略語説明 PDCA(Plan,Do,Check,and Action) 図8 地域ICT利活用のPDCAステップ 地域活性化の実践に向けたPDCAサイクルに,ICT導入・運用の流れが包含 されることが重要である。

参照

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