Title Studies on the Oxidative Effects of High Concentration Oxygenon Dogs under General Anesthesia( 内容と審査の要旨 (Summary) )
Author(s) Patarakit, CHONGPHAIBULPATANA
Report No.(Doctoral Degree) 博士(獣医学) 甲第548号 Issue Date 2019-09-20 Type 博士論文 Version ETD URL http://hdl.handle.net/20.500.12099/79047 ※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。
氏名(本(国)籍) Patarakit CHONGPHAIBULPATANA(タイ王国) 主 指 導 教 員 氏 名 岩手大学 教授 宇 塚 雄 次 学 位 の 種 類 博士(獣医学) 学 位 記 番 号 獣医博甲第548号 学 位 授 与 年 月 日 令和元年9月20日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 研 究 科 及 び 専 攻 連合獣医学研究科 獣医学専攻 研究指導を受けた大学 岩手大学
学 位 論 文 題 目 Studies on the Oxidative Effects of High Concentration Oxygen on Dogs under General Anesthesia (全身吸入麻酔下における犬への高濃度酸素の影響に 関する研究) 審 査 委 員 主査 岩 手 大 学 教 授 佐 藤 洋 副査 帯広畜産大学 教 授 石 井 利 明 副査 岩 手 大 学 教 授 宇 塚 雄 次 副査 東京農工大学 教 授 田 中 綾 副査 岐 阜 大 学 教 授 森 崇 学位論文の内容の要旨 酸素はヒト医学および臨床獣医学において一般的に利用される治療薬で, 吸入麻酔には 必要不可欠である。酸素療法の有用性は多くの研究で証明されているが,と同時に過剰酸素 化の危険性が時おり軽視されている。過度の酸素化は酸化ストレスを増加させると広く疑 われており, とくに肺と気道への損傷が危惧される。しかし,犬における全身麻酔中の 100%酸素の不利益に関する研究は不足している。そこで,本研究では犬の全身吸入麻酔に おける高濃度の酸素吸入の使用による酸化ストレスレベルを調査した。 第1章では,全身麻酔下での犬の動脈血酸素分圧に及ぼす酸素濃度の影響を調べた。6 頭の健康なビーグル犬を, セボフルランによる 3 時間の全身麻酔で,3 つの麻酔プロトコー ル, 100%O 2, 60%O 2および 40%O 2の酸素供与を受けるように無作為に試験した。セボフ ルラン吸入麻酔の前に, 動脈採血を行い,同様に麻酔後に PaO2値を検査した。麻酔前は, 平均 PaO2±平均値の標準誤差(SEM)は全ての群で 59.65±1.99 mmHg であったのに対し, 麻酔後, 100%, 60%, および 40%酸素供与群の平均 PaO2は, それぞれ 535.8±24.01, 374 ±17.19, および 239±8.78 mmHg であった。ANOVA 法によってこれらの値は統計的に有意 差(P <0.05)を示した。この研究の結果から, 100%および 60%の酸素濃度が酸化ストレ スを増加させる可能性があることを示した。 第2章では,全身麻酔下での犬への酸化ストレスレベルに対する酸素濃度の影響を調べ た。6 頭の犬をセボフルレンによる 3 時間の全身麻酔を 3 つの麻酔プロトコール, 100%O2, 60%O2, 40%O2 の吸入麻酔を受けるように無作為に交差割り当てを行った。その後血液を 導入前(ベースライン), 3,6,および 24 時間で採取し, 酸化ストレス値(d−ROMs), 抗酸化力値(BAP), スーパーオキサイドディスムターゼ(SOD),および 8−ヒドロキシー (10)
デオキシグアノシン(8−OHdG)を測定し, 犬の血漿中酸化ストレスについて酸素濃度の影 響を調べた。その結果,ベースラインと任意の時点との間ではいかなる酸化ストレスのバ イオマーカーも有意な変化を示すことが無かった。これは 3 時間の高濃度酸素の暴露でも 低濃度の酸素と比較しても酸化ストレスにあまり影響を与えないということが明らかとな った。 第3章では,全身麻酔下における犬の高濃度酸素による気管ならびに肺への危険性につ いて調べた。4 頭の犬を用いて肺の酸化ストレスレベルに対する 100%と 40%酸素濃度の 違いについて気管肺胞洗浄液(BALF)を採取し,BALF の細胞診および SOD, インターロイキ ン−18 ならびにマロンジアルデヒドを検査することによって調べた。2 回目と 3 回目の BALF 中の平均総細胞数は 100%酸素使用時には 1 回目の BALF に対してそれぞれ有意に増加した が,40%酸素使用時には 1 回目と 2 回目の BALF 細胞数の変化だけであった。また, 100%酸 素供与時の 2 回目と 3 回目の平均リンパ球数は 40%酸素群に比べ有意に増加していた。こ れは高濃度酸素による肺や気管の損傷の危険性の可能性を示唆する。しかし, その他のバ イオマーカーには有意な変化が無かったことから,肺の障害は軽微なものと思われた。 本研究は,高濃度と低濃度の酸素による全身麻酔下における犬の酸化ストレスレベルを 調べた初めての報告である。本研究の結果から, 犬の 3 時間程度のセボフルレンによる全 身吸入麻酔では 100%酸素濃度使用時においてもほとんど影響を及ぼさなかった。全身吸 入麻酔による 100%酸素投与の使用には様々な議論があるが, 獣医臨床においては低酸素 症の危険性を回避するという側面もある。本研究によって, 犬における全身麻酔時の 100%酸素の使用は酸化ストレスの観点からはほとんど影響が無く, 獣医臨床における 3 時間前後の麻酔は安全に利用できることが明らかになった。 審 査 結 果 の 要 旨 酸素はヒト医学や獣医学の臨床で一般的に利用されているが,酸素はしばしば誤用され ることもあり,過剰酸素の危険性については軽視されている。過度の酸素暴露は,特に気 管や肺では酸化ストレス増加による組織障害が疑われており,そのため吸入麻酔時にはヒ ト患者において 100%酸素はその危険性が提起されており,低い酸素濃度が使用されてい る。しかし,犬の全身麻酔中の 100%酸素の危険性に関する研究はほとんど行われていな い。そこで,申請者は,犬の一般的な吸入麻酔における高濃度酸素の使用による酸化スト レスレベルの調査を行った。 第1章においては,全身麻酔下の犬の動脈血酸素分圧(PaO2)に及ぼす酸素濃度の影響 を調べるために,吸入麻酔時の酸素濃度の違いによる PaO2の値を確認した。健常ビーグル 犬に対して,3 つの麻酔プロトコール(酸素濃度 100%,60%,40%)を用いて 3 時間吸入 麻酔を実施した。その結果,吸入麻酔前の PaO2の値に比べて,麻酔後には 100%群,60% 群,そして 40%群の順で PaO2は高くなり,統計学的に有意な差を示した。この結果から, 100%および 60%酸素濃度は酸化ストレスを増加させる可能性があることが示唆された。 第2章では,吸入麻酔時の酸素濃度の違いが全身麻酔下での犬の酸化ストレスに与える 影響を調べた。6 頭の犬に 3 時間の全身麻酔を第1章と同様に酸素濃度の異なる 3 つの麻 酔プロトコールを使って実験を行い,吸入麻酔前,および酸素供与後の血清中酸化ストレ ス値(d-ROM),抗酸化力(BAP),スーパーオキサイドディスムターゼ(SOD),および 8−ヒ ドロキシ-デオキシグアノシン(8-OHdG)を経時的に測定した。しかし,任意の時点において 全ての測定値はベースラインの値と統計学的に有意な変化を示さなかった。これらの結果 から少なくとも 3 時間の高酸素暴露では低酸素濃度利用時と比較しても酸化ストレスを増
加させないということが明らかとなった。 第3章では,さらに全身麻酔下での高濃度酸素による犬の気管および肺に対する損傷の 危険性について調べた。犬の気管および肺に対する 100%および 40%酸素の影響を気管洗浄 液(BALF)を収集することによって評価した。BALF 中の平均総細胞数(個/μL)や平均 リンパ球数は 40%酸素群に比べ 100%酸素使用時には軽度な変化が現れたが,その他のバ イオマーカーには有意な変化が無かったことから,肺の障害は軽微なものであると思われ た。 今回の研究は,高酸素濃度と低酸素濃度の犬の全身麻酔下での酸化ストレス の違いを調 べた初めての報告である。本研究の成果は,犬において少なくとも 3 時間での全身吸入麻 酔中の酸化ストレスは 100%酸素濃度を使用しても大きな影響が無く,気管への損傷もほ とんど現れなかった。吸入麻酔における 100%酸素使用は,獣医臨床においては低酸素リス クを防ぐ有用な側面もあり,本研究から,犬における全身麻酔下での 100%酸素濃度の使用 は,3 時間程度であれば安全に麻酔できることが明らかとなった。 以上について,審査委員全員一致で本論文が岐阜大学大学院連合獣医学研究科の学位論 文として十分価値があると認めた。 基礎となる学術論文
1) 題 目 :The effect of oxygen concentration on arterial blood partial pressure of oxygen in dogs under general anesthesia
著 者 名:Chongphaibulpatana, P., Fukui, D., Katayama, M. and Uzuka, Y.
学術雑誌名:Polish Journal of Veterinary Sciences 巻・号・頁・発行年:21(2):635-637,2018