• 検索結果がありません。

欲望のエネルギー論 (その7)

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "欲望のエネルギー論 (その7)"

Copied!
15
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

欲望 のエ ネルギー論

(その 7)

11口商人機械(3)一 一 販 路の神経 回路網 一― 軸索 を切断すると、残 された軸索の長 さが他の樹状突起 より長い 場合 には切断 された軸索が再び軸索 となる。 しか しなが ら、切断 によって残 された軸索が樹状突起 より短い場合 にはもっとも長い 樹状突起が軸索 となって伸長するのである。… このような現象は 神経突起のうちのどれかが偶然に軸索 となる可能性 を示 していると 0 日序 かつて ドゥルーズ =ガ タリの社会理論 を紹介 し,「ニュー ・アカデ ミズム」 のブームをひ きお こ した浅田彰氏 は,彼 らの理論の中核 をなす概念,す なわち 〈リゾーム〉の性格 について次の ように表現 した : ・… 『リゾーム』を読めば,誰 しも脳の内部の錯綜 した神経回路を想起せずに はいられない。 ド ゥルーズ=ガ タリ自身も,… 脳のリゾーム的性格に触れて いる・・・。 (浅 田彰 『構造 と力』,勁 草書房 p.171n.) と。 これは,く リゾーム 〉の着想が生物の脳 を中心 とす る神経系の構成 ときわ めて近類の ものであることを示唆 している。そこで,神 経系 とリゾーム との形 式的同型性 を一度徹底 的に吟味 してみ ようとい うのが本節の眼 日である。 工 石 里 ヽ 1)御 子柴克彦編 F神経系の形成 と統合』岩波書店, pp.46-47。

(2)

9 6 彦 根論叢 第 320号 その ため に生物学パ ラダイムの立場 に立つ我 々が本稿 で手がか りとす る生物 学 の分 野 は,い わゆる 〈神経生物 学 Neurobiology〉であ り, と りわけ,そ の 分野 に属 す る諸現象 を “分子 の レベルで" 理 解 しようとす る く分子神経生物学 〉 で あ る。神経生物学 とは,生 物体 に張 り巡 らされ る神経系 の形成 とそのメカニ ズ ム を扱 う生物 学 の一分 野 で あ る。神 経 は,生 物 の 中で イカニ形成 され イカ ニ振 舞 うのか。その生成機序 を考察 し,こ れによって くリゾーム 〉とい うシス テ ム を よ り深 く理 解 し,そ の知 見 を も とに社 会 を見 直 してみ よ う とい うわ け で あ る 。 した が っ て本 節 で行 お う と して い るの は,い わ ば 「神 経 社 会 学 Neuro―sociology」とで もい うべ きもので,神 経生物学の発想 を,貨 幣 と商人 によるヒ トとヒ トとの結合関係の伸長 した形態 として,具 体的には商人たちに よる 「販路形成」 に適用 してみ ようとす るものなのである。前稿で,わ れわれ は く商人機械 〉の構造 を くポ リマー〉とい う形で理解することを試みたと これ に対 し本稿 でのわれわれの試みは,く商人機械 〉の生成 を くリゾーム〉とい う 形で理解す ることなのである。 以下, I.に おいて 「リゾーム」概念の復習整理 を行い, H.で 視点 を変 え て神経系の生成 メカニズムについて見,田 .で この知見 をリゾームに応用 しつ つ統合 し社会現象 に適用 を試みる,と い う順で考察 を進めよう。 正.リ ゾーム とは 社会機械の実体 としての リジーム まず ドゥルーズ=ガ タリのい う 〈リゾームrhizome〉とい う概念 について, 復習 を兼ねなが ら筆者の立場で簡単 に整理確認するところか ら出発 しようと くリゾーム 〉の概念それ 自体 は様 々なシステムに適用可能である。ここで社 会の システムに限 つていえば,〈 リゾーム 〉とは,欲 望 をエネルギー として作 2)拙 稿 「欲望のエネルギー論 (その 6)」 「彦根論叢』第313号。

3)Gllles Deleuze et F61ix Guattari,あム物けあOθαのθ.Minuit,1972.市 倉宏祐訳 『アン チ 。オイディプス』(河出書房新社)。この難解な概念への筆者の解釈について,詳 しくは 拙著 「システム社会学』(ハーベス ト社)第 3章 を参照されたい。

(3)

欲望のエネルギー論 97 動 す る社 会機械 の実体 であ り, 人 間 と人 間 とが接続 してで きる きわめて柔軟 か つ強靭 な社 会構造 である。それは前稿 の言葉 でいえば ヒ トとヒ トとを結ぶ長 く

て複雑な 「

社会の糸」(ポリマー)で あり,社 会の中を複雑かつ縦横無尽に巡っ

てい る。 必 然性 の ない繋 が り

しかもこの接続 (ヒトとヒトとの結合)に は接続の必然性がなく,「そうつ

ながってもよいが,そ うつながらなくともよい」という論理によってなおも繋

が っている点 に特徴がある。 この結果,リ ゾームは必然性 によって繋がってい る接続 よりも柔軟 なシステムを形成することがで きるようになる。 必然性 によって接続 している人間関係 は,そ の接続が切断 されれば,も う接 続 を再生す ることがで きない。その接続 こそ,か けがえのない唯一無二の もの だか らである。社会のケースでいえば,実 の親子の関係 などはこれに近いとい えよう。 一方,非 ・必然性 によって接続 している人間関係は,そ の接続が切断されて も,別 の接続 を探 しだ して結合再生することがで きる強みがある。資本主義 に おける商人たちの売買関係 などはその典型であろう。ある売買契約が破棄 され て も,別 の売買契約で代替で きるか らだ。この ような結びつ きか らなるシステ ムは,い ったん成立すると,少 々のダメージを受けても全体 として修復 しうる, きわめて しぶ とい,ダ イナ ミックなシステムを形成する。そ して ドゥルーズ= ガタリによれば,現 代 の社会 システムはかかる 〈リゾーム〉の様相 を呈 してい る とい う。 リゾームの 自由 と拘束 一― 偶然 と必然 一― ドゥルーズ=ガ タリの 「リゾーム」 とい う概念の原義は, もともと地下を縦 横無尽 に走 る植物の “地下茎"の ことである。た とえば竹や蓮の地下茎がそ う で,こ れは ドコヘ伸 びるか決定論的に定め られていない。 ド コヘで も自由に伸 びて よ く,石 などの障害物があればこれを回避 して伸 びつづけることがで きる。

(4)

98 彦 根論叢 第 320号 それ は, 自 由で ク リエ イテ イヴな秩序 である とい える。 しか しむろん, 地 下茎 は ドコカヘ は伸 びなければな らない。 この限 りでは, 地 下茎 は拘 束 を帯 びてい るということがで きる。自由と拘束,偶 然 と必然 ―一 リゾームとは,こ の 「地下茎」のイメージが,社 会のシステムを表現する上で転用 されたものなの である。 リジーム形成の機序 このようなリゾームの秩序は,い かなるメカニズムによって可能 となるの か ?本 稿の試みは,神 経生物学における神経回路網の生成に関する知見を踏ま え,こ れを社会経済システムにおける 〈リゾーム〉の生成機序の理解に適用 し よう, というものである。 工.神 経の伸長 とそのメカニズム 神経回路網形成の 2過 程 一一 神経ダーウィエズム ーー 神経生物学 (Neuroblology), とくに生物個体 の発生時 における神経 回路網 の形成 を解明する分野では,発 生過程で神経細胞がいかに して自己の結合相手 ( 標的細胞) を 間違いな く見 出 しこれに結合するか,と い う問題 を古 くか ら主 4 ) 題化 してきた。そ して今 日一般に,神 経回路網の生成過程は,経 験的知見から 次の 2つ の過程 に区分 ・把握 されることが多 くなっていると ①分化 した神経細胞の軸索が,あ る範囲内で適切な通路に沿って標的細胞 ま で伸長 し,神 経回路網の大まかな枠組みを作 り出す過程。 この過程で確かなのは,“大まかなプログラム"が 存在することだけであ り,細 部においては偶然によって経路が決まると考えられている。この意 味で,第 一の過程は偶然性を手がか りとして神経回路に関する情報をまず 御子柴編, 前 掲書, p 。4 5 。 同上書, p . 5 2 。

(5)

欲望のエ ネルギー論

付加 し,生 み出す過程と考えられる。

②おおまかに組みあげられた神経回路網が,そ の後,事 後的に部分的な修正

や変更を受け,次 第に精密化する過程。

これは,① で生じた情報を必要に応じて選択する過程といえる。

神経の生成過程を,上 記 2つ の過程に分けて捉える考え方は,① でかなり偶然

にもとづ く大雑把な接続を行い,② でその中から適切なものを選択する, とい

う分担関係になっていることから,ダ ーウィンの く変異〉と く選択〉に因み

神経ダーウイエズム」と呼ばれている告

神経系の伸長 ・発達 と接続 を媒介する分子 さて,分 子神経生物学 (Molecular Neurobiology)は上記の ような生物発生 現象 を分子 レベルで研究する分野であるが,そ の研究の現状 と研究の方向性 に ついて C.U.M.ス ミスは次の ように言己している。 神経突起は,当 然のことであるが伸長するだけでは十分 とはいえない。自分の 進むべ き方向を見いださなければならないのである。こうした活発な進路探査 活動がどのようにして行われているかについては,ま だほとんどわかっていな い。今のところ2つ の機構が働いていると考えられている。すなわち,化 学物 質の勾配に沿つての伸長と接触による誘導である。おそらくどちらか一方ない しはその両方の組合せが,神 経突起の進路探索の基礎にあるのであろう。 (C.U.M.ス ミス 『分子神経生物学』,オ ーム社,p.359)

すなわち,神 経の伸長においては ① 化学物質の濃度勾配に沿っての伸長 と

②接触による誘導 と いう2つの機構が重要であるというのだ。このうち,

6 ) こ の 「神経 ダー ウイニズム」 を論 じた もの と しては,

に よる ハし切陶 ι Daれ υ力材割物 (New York, Basic Books,

エーデルマ ン (G.M.Edelmann) 1987)が よ く知 られている。

(6)

1 0 0 彦 根論叢 第 320号 化学物質の濃度勾配 によって器官の発生 ・分化が誘導 される,と い うアイデア は,神 経発生のみならず胚発生一般 について古 くか ら提唱 されていた仮説で, この仮想物質は くモル フォゲ ン morphogen〉(「形態形成素」の意)と 名づ け られていた。 この物質が実在すること,お よびその働 きが明 らかになって きた のは最近のことである。モルフォゲ ンの濃度分布 は,発 生期の生物 にとって決 定的に重要 な意味 を持つが,こ の濃度分布 (大まかな設計図)を 分子生物学で は 〈形態形成場 〉と呼んでいる。 分子神経生物学 においては,上 記 2つ の機構 (メカニズム)を 担 う分子 とし の て注 目すべ きものに,次 の ようなものが指摘 されている。 ( 1 ) N G F ( n e t t e g r O w t h f a c t o r ; 神経成長因子) N G F と 呼ばれる分子 は,神 経細胞の成長 ・分化 ・生存 を調節す る化学 物質で,イ タリアの女性研究家モ ンタルチーニの研究 によって明 らかにさ れた (1986年ノーベル医学生理学賞)。 〔図 1 〕 N G F に よる神経突起の伸長誘導.交 感神経節 を標的 と組み合わせて培養 し た とき,神 経突起が標的か ら分泌 されるNGFに 誘導 されて標的に向かって伸長する 様子 を示す模式図. 7)御 子柴編,前 掲書,第 2章 。

(7)

欲望のエネルギー論 1 0 1 NGFの 濃度勾配があると,神 経細胞か ら突 き出た神経突起は濃度の高 い側へ伸長 し,結 果 として標的にた どりつ く。神経突起 は,NGFの 濃度 勾配の もとで,あ たか も昆虫の雄が生殖行動の際雌 フェロモ ンの濃度 に誘 引 されるような振舞いをす るのである。この物質がモルフォゲ ンとして作 用 し,神 経細胞の自己組織化 を促すのである。この意味でNGFは 誘導因 子 である。 NGFは また,接 続 した神経の “成長 or衰 退"を 司 る神経栄養因子で もある。神経細胞 は,発 生期 にもともと必要 と考 えられる以上 に逢かに多 くの細胞が生 じ,競 争 し,敗 れた ものが死んでい くとい う形で,マ クロな 個体 にとつて合 目的的なものだけが事後的に選択 され残 るとい う経過 をた どる。 この際,神 経細胞や神経突起の間の奪い合い (compedtion)の対象 となる分子がNGFな のである。それを得 ることがで きた細胞は,い わば 「成功 した」 もの と認め られ,さ らなる繁栄 を約束 され,ま す ます回路 を 太 くし,か つ伸長 してい く。一方,そ れを得 られなかった細胞は衰退 し, やがて破産 し洵汰 される。 これは商人 を誘導 し競争 を起 こさせ る貨幣の働 きとそっ くりではないだ ろ うか。

(2)CAM(cel adhesion molecule;細抱接着分子)

細胞 と細胞 とを繋 ぎ止める働 きをす る分子 を一般 に細胞接着分子 といい, 現在 ,次 の 3グ ループに分類 されている。

(a)L― CAM(liver cell adheslon molecule) 肝細胞接 着分子 。

(b)N― CAM(newral cell adhesion molecule) 神 経細 胞接 着分子 。

(C)Ng― CAM(newron一 glial cell adhesion molecule) 脳 内の ニ ュー ロ ンとグ リア細胞 を接 着 す る分子 。

(8)

T,

102 彦 根論叢 第 320号 神 経 生物 学 で は と りわけ発 生期 に神経細胞 間の接続 を司 る分子 ,す なわち (b)と(C)が重要である。 これ らは神経細胞の伸長 を促 し,接 続すべ き標的細 胞へ誘導 し接着する作用 を持つ,い わば誘導接着因子である。そ してこれ らの分子 は,遺 伝子解析の結果,い くつかの系統 (ファミリー)に 分類 さ れること力半U明 している。 例)免 疫 グロブリンスーパーフアミリー (分子の識別 に長 じた分子), カ ドヘ リンファミリー な ど こういつた神経回路の形成過程は,社 会―経済システムの分析に非常に有益 な示唆を与えるものである。とりわけ,① で指摘 したNGF(神 経成長因子) の濃度勾配の働 きは,商 人たちがいかなる環境の中で販路を伸ばしていくのか を考察する上で非常に示唆的なものといえよう。所与の地理的環境の中で利益 の機会が勾配をなして分布 していれば,販 路は利益の高い方へ向かって伸びる であろうし,そ れはまた他の商人たちとの間の競争 となることが半ば自明のこ とだからである。 Ⅲ.販 路の形成 販路形成の神経社会学 さて,以 上の ような神経生物学の概念整理 を前提 として,社 会 ・経済システ ムの中を伸長 してい く販路網の “神経社会学 neurO―sociologyルを試みてみ よ う。我 々は,神 の 「見 えざる手」 とい う形而上学 を信仰 しない。 したがって神 の 「見 えざる手」 はすべ て商人達の 「見 える手」 (塩沢 由典)人 と置 き換 えね ばならないのである。 そ こで,神 経生物学の発想 に倣い,基 本的に次のように考える。商人 と商人 とが,欲 望 と欲望 とが,結 合 しあい,前 稿│こおける くポリマー〉あるいは くリ 8)塩 沢由典 「市場の秩序学J筑 摩書房,第 2章 。

(9)

欲望のエネルギー論 103 ゾーム 〉を形成 してい くうちに,ま ず大 まかな く販路 〉が形成 され,そ れが選 択/洵 汰 を繰 り返 されることによって結果的にある種の合 目的的な販路網が成 立す る, と (神経 ダーウイエズム)。そ してその合 目的性 とは,欲 望の付加で あ り,そ の結果 としての貨幣の付加である,と 。この結果 として生ずる商人た ちの結 びつ き,こ れこそが く商人機械 〉にほかならない。 販路形成の原理 神経系 に して も,商 人たちの販路 に して も,お そ らく共通の原理 (リゾーム の原理)に 支 えられている。けだ しそれは,次 の 3原 理か らなる。 * ① 第一の現象,第 一原理 :自在結合,偶 必然の原理 商人たちの販路 に して も,神 経突起の伸長 に して も, ドコニ繋がるかは予め 決 まっていない。その限 りでは ドコニ繋がるかは勝手であ り偶然 といえる。 ところで この際,商 人は, ドコニが決 まっていないか ら途方に暮れるのでは な く,あ る範囲 を予め大 まかに想定 してかかる。 この予想が “f e e d f O r w a r d "

と呼ばれるものである。そして彼らは,そ の範囲内で, ドコカニは繋がら 〔売

ら〕ねばならない (必然)。

このように

ドコニ起こるかは不確定であるが, ドコカニは必ず起こる"と

いう範囲を指定できるとき,こ の現象を筆者は前著で 「

不確定性原理」と呼び,

また今回高俊は同じ条件を 「

偶必然性の原理」と呼んでいるとこれは,本 論考

9)拙 稿 「欲望のエネルギー論 (その 6)」 「彦根論叢』第313号。 10)こ こで言つている 「合 目的性」 とは,「結果 として欲望が付加を得るような」 という意 味であ り,欲 望が目的を持っているという意味ではない。欲望に目的は存在 しない。その 成立機序は 「事前の目的」ではな く,あ くまで も 「事後の選択」である。「目的」 と 「選 択」 との関係 については,拙 稿 「目的と選択 (その 1)」 (「彦根論叢』第298号所収)を 参 照 されたい。 11)拙 著 「システム社会学J(ハ ーベス ト社),pp.85f.,今 回高俊 「混沌の力」(講談社), pp.28f.。塩沢由典 『市場の秩序学J(筑 摩書房),pp.34f.にもすでに同主旨の主張が見 られる。 さらに西山賢一のいう 「即果性」 も,偶 然性 をとりこんだ実践を意味 し,こ の発 想 に近い もの といえるか もしれない。西山 「免疫ネッ トワークの時代J(日 本放送出版協 会),pp.188f.。「不確定性」あるいは 「偶必然性」 とは,次 のような状況を指す。たとえ ば原子核の周囲を回る電子は,原 子的スケールの ‖ある範囲‖内で,「ドヨにあるかは/

(10)

欲望のエネルギー論 103 ゾーム 〉を形成 してい くうちに,ま ず大 まかな く販路 〉が形成 され,そ れが選 択/洵 汰 を繰 り返 されることによって結果的にある種の合 目的的な販路網が成 立す る, と (神経 ダーウイエズム)。そ してその合 目的性 とは,欲 望の付加で あ り,そ の結果 としての貨幣の付加である,と 。この結果 として生ずる商人た ちの結 びつ き,こ れこそが く商人機械 〉にほかならない。 販路形成の原理 神経系 に して も,商 人たちの販路 に して も,お そ らく共通の原理 (リゾーム の原理)に 支 えられている。けだ しそれは,次 の 3原 理か らなる。 * ① 第一の現象,第 一原理 :自在結合,偶 必然の原理 商人たちの販路 に して も,神 経突起の伸長 に して も, ドコニ繋がるかは予め 決 まっていない。その限 りでは ドコニ繋がるかは勝手であ り偶然 といえる。 ところで この際,商 人は, ドコニが決 まっていないか ら途方に暮れるのでは な く,あ る範囲 を予め大 まかに想定 してかかる。 この予想が “f e e d f O r w a r d "

と呼ばれるものである。そして彼らは,そ の範囲内で, ドコカニは繋がら 〔売

ら〕ねばならない (必然)。

このように

ドコニ起こるかは不確定であるが, ドコカニは必ず起こる"と

いう範囲を指定できるとき,こ の現象を筆者は前著で 「

不確定性原理」と呼び,

また今回高俊は同じ条件を 「

偶必然性の原理」と呼んでいるとこれは,本 論考

9)拙 稿 「欲望のエネルギー論 (その 6)」 「彦根論叢』第313号。 10)こ こで言つている 「合 目的性」 とは,「結果 として欲望が付加を得るような」 という意 味であ り,欲 望が目的を持っているという意味ではない。欲望に目的は存在 しない。その 成立機序は 「事前の目的」ではな く,あ くまで も 「事後の選択」である。「目的」 と 「選 択」 との関係 については,拙 稿 「目的と選択 (その 1)」 (「彦根論叢』第298号所収)を 参 照 されたい。 11)拙 著 「システム社会学J(ハ ーベス ト社),pp.85f.,今 回高俊 「混沌の力」(講談社), pp.28f.。塩沢由典 『市場の秩序学J(筑 摩書房),pp.34f.にもすでに同主旨の主張が見 られる。 さらに西山賢一のいう 「即果性」 も,偶 然性 をとりこんだ実践を意味 し,こ の発 想 に近い もの といえるか もしれない。西山 「免疫ネッ トワークの時代J(日 本放送出版協 会),pp.188f.。「不確定性」あるいは 「偶必然性」 とは,次 のような状況を指す。たとえ ば原子核の周囲を回る電子は,原 子的スケールの ‖ある範囲‖内で,「ドヨにあるかは/

(11)

104 彦 根論叢 第 320号 で繰 り返 し論 じてい る く何 が欲 しいか は分 か らない,だ が何 かは必 ず欲 しい 〉 とい う く欲 望 〉の未分化 な特 質 をあ らわ しているの だ。 そ して,こ の仕組みによってまず,「神経 ダーウイニズム」の前半部分,販 路接続の,ポ リマーの く侯補 〉が大まかに与えられる古

第一の現象〕 自 在結合

第一の原理〕 不 確定性原理,偶 必然性の原理

* ②第二の現象,第 二原理 :事後決定,許 容化原理 次の段階として考えられることは, ともか く販路 をまず接続 してみて (実践 してみて), う まくいけば “結果オーライルでそのまま続行 し,う まくいかな ければ,そ の接続はやめればよい (淘汰され消滅する),と いうことである。 つまり事前には何 も分からず,す べては事後の評価待ちということである。こ のような原則 を 「事後決定」あるいは 「事後選択」 という。 事後決定のシステムにおいては,一 般にシステム維持に必要な数の商人 (神 経細胞)よ りも多数の商人および交易が発生 し,不 適切なものが事後的に淘汰 される (破産する)。この試行錯誤によって,適 切な販路が確率的に発見 され てい くわけである。結果的にはもちろん合理的な販路 ・優れた販路が残つてい くわけで,あ たかも合理的判断が作用 したかのように見えるかもしれない。だ が実際のところ,こ こには,事 前の合理的判断は一切介在 していない。この認 識が重要である。 なお,こ の場合の 「うまくいったかどうか」の評価基準は,事 後決定である から,事 前の合理的 「最適化」や 「満足化」ではなく,吉 田民人のいう 「許容 \確定できないがドコカには存在する」という 「範囲」を確率分布として指定できる。これ が不確定性であ り偶必然性である。またカオス理論で 「ア トラクタ」 と呼ばれる軌跡の集 合は, 「系がその中の ドレをたどるかは分からないが, ドレカは必ずたどる」 という範囲 をいう。そ して系はその範囲内で行動の自由をもち,冗 長度 (redundancy)をもつ。こ れ も不確定性であ り, 偶 必然である。このような不確定性,偶 必然性は,因 果的決定論 を す りぬけて世界のいたるところに存在する。

(12)

化原理」 に従 うことになるだろう。「うまくい く や 「満足」である必要はないのである。「不満」 ( 「破産する」) の よりはましなのだから。

欲望のエネルギー論 lo5

」というのは,何 も 「

最適」

であっても,「許容されない」

第二の現象〕 事 後決定,事 後選択

第二の原理〕 許 容化原理

* ③第三の現象,第 三原理 :ルーティン化,費 用逓減の原理 販路にしても,神 経にしても,一 般にルー トは使えば使 うほど合理化 ・効率 化が進み,発 達するものである。神経線維の発達 も交易の販路 も同様である。 この現象 を 「ルーティン化」 といザ告良 く使われるルー トは,そ れだけ合目的 性が高いということである。 条F螢 景寧古雰唇Rど 尋雷禄炉畳言云達撮督君千1、:ど '曇 言景各婦撃ぶ曾 子 なると,そ この効率がますます良 くなる」 という正のフィー ドバ ック関係を意 味する (それが ドコであるかは不確定である。ただし, ドコカには起こるのだ。 この点で第一原理が作用する)の で,系 は不安定 となり均衡解が得 られないの である。村上が “反古典"と称するゆえんである。 なお,こ の 「正のフィー ドバ ック」は自己組織理論において形態形成の原理 としてすでに受容 されている。

第三の現象〕 販路の固定化,ル ーティン化

第三の原理〕 費 用逓減の原理

12)吉 田民人 F自己組織性の情報科学』(新曜社),pp.160f.。 13)塩 沢由典 『市場の秩序学』(筑摩書房),第 2章 ,特 にpp.57釘. 14)村 上泰亮 ・西山賢一 ・田中辰雄 『マニフェス ト新 しい経済学』(中央公論社),pp.17r. なお,い うまでもないが,「費用の近減」,あ るいは (同じことだが)「収穫の逓増」「正 のフィー ドバ ック」等々の作用を持つ経済系の挙動については,サ ンタ=フ ェ研究所の/

(13)

彦根論叢 第 320号 *

ここに示した3つ の原理 (リゾームの原理)の うち,上 記①は神経回路網に

おける 「

大まかな構成」を形成する過程に相当し,② はそれを事後選択する過

程に相当する。したがって本項の①②は前項の①②とパラレルであり,あ いまっ

て社会の 「

神経ダーウイエズム」を構成する原理である。また③は

よく使わ

れる神経は,そ れだけいっそう発達する

"と いうこれまた馴染みの現象に相当

し,選 択されたものの存続 ・強化の原理である。

ここで,② ③の選択洵汰を評価する基準は,成 立する販路網全体の機能とい

うよりも,む しろ販路の局所局所における

貨幣の得られ具合

"つ

まり

儲け

具合

に置かれるべきであろう。商人がルー トを開いて先方の商人と取引関係

を結んでも,結 果としてそれぞれの箇所でそれぞれの商人が存続を許容される

に足る量の貨幣を得られなければ,商 人は倒産するか,ま たは別の接続を探す

ことにならざるをえないか らである。 この意味では,社 会 ・経済システムにお いて貨幣は神経 システムにおけるNGF分 子 (それをめ ぐって競争が起 こ り, それを得 られなかった者が洵汰 されてい く分子)の 役割 を兼ねているとい うこ とがで きる。 形態形成 と濃度勾配 上記のようなメカニズムは,実 際の社会においてどのように作動するのだろ うか。とりわけ① において商人は, ドコニ売るかが決まっていないから途方に 暮れるのではなく,あ る範囲を予め大まかに想定 してかかるというのだが,い かにしてそれが可能 となるのだろうか。 たとえば一例 として,世 界史における金銀比価の分布,そ してその歴史的推 移を考えてみよう。金に対する銀の相対価格,そ してその世界的分布 とは,こ れ を化学的な比喩 を用いて表現すればまさに 「“金へ の欲望"に 対す る “銀ヘ の欲望"の 濃度分布」 とい うことになるが,こ の相対価格 (濃度)が ヨーロッ パか らアジアヘ (あるいはアフリカヘ)向 けて高 くなっていて,か つ,金 本位 \ Brian Arthurの 研究が先駆 となっている。

(14)

欲望のエネルギー論 107 の も とで欧州 商 人 が銀 を安価 な支払手段 とす る こ とがで きるな らば ―一― 欧 州 人 は新 大 陸で勝 手 に銀 を増 産 した 一―― , 彼 らの販路 は当然 にアジアヘ (あるいはアフリカヘ)向 かって伸長することとなろう (リカー ド理論)。ヨー ロッパ人にとって安い銀が,東 へいくほど高 く評価 されるようになり,中 国人 ・日本人にもっとも高 く評価されるからである。逆に,西 の人間にとって貴重 な金が,東 へい くほど安 く手に入るからである。この 「銀の濃度勾配」は,神 経の伸長を促す因子 (NGF)の 濃度勾配 〔図 1〕 と同 じ作用であ り,そ の濃 度勾配の中を,欲 望するヨーロッパ商人たちがアジアヘ販路を 一―― リゾー ムを,ポ リマーを 一一― 伸長 してい く,と いうことを帰結する。これはまさ に,上 記① の原理 を社会 的 に具現化す る ものである。金 ・銀 といった貨幣 ―一― 欲望の一般媒体 ―一一 の “濃度勾配"が いわば く形態形成場 〉とし て大 まかな道標 を与 えるのだ。そ してそうだ とすれば,こ の販路はたとえ中途 で切断 された として も,早 晩修復 されさらに伸長を続けるだろう。このメカニ ズムは 〈リゾーム〉の強靭 さ, しぶ とさを根拠づける。 そ して,そ れ らの大 まかな販路の中でそれぞれが競争 しあい,ヨ リ優れた販 路 が選択洵汰 されなが ら定着 し (神経 ダーウィエズム),か つ発達 してい くの である。結果 として,世 界 を覆 う合 目的的な販路網,つ まリリゾームが形成 さ れる。 以上の 「金銀比価」 の事例 は,史 家 にはすでによく知 られた史実であるが, 官[ぞ 岳そ豊 を得歌 名讐 号5iた め,稿 を改めて世界史的な 「ケース ・スタディ」 販路系の全体構造 と機能 ところで,個 別の神経細胞の活動が,全 体の神経系 としていかなる構造 ・機 能 を形成す るのか,個 別の神経細胞 は関知 していない。彼 らは,そ の場その場 でその都度そこそこ適当 と思われる途 を試行錯誤で局所的に見つけ出 している だけである。 15)F彦 根論叢』第323号を予定 している。

(15)

108 彦 根論叢 第 320号 この こ ととまった くパ ラ レル に,実 際 に交易 に携 わってい る商人 たちは,自 分 た ちの営 んでい る取 引 く関係 〉が全体 と して どんな く構造 〉を形成す るこ と に な るのか知 らない し,そ れが社 会 一経 済 シス テ ムの全 体 に とってい か な る 〈機 能 〉を発揮 す るこ とになるのか知 りは しない。 このことは,マ リノフスキーがメラネシア調査で報告 した 「クラ」―の場合 と 同様 である。 …彼らは,〔クラ交易の形成する〕社会構造の全体的輪郭について,知 識をもっ てvヽない。自分自身の動機は知っているし,個 々の行為の目的や,そ れに該当 する規則 も知っているが,こ れらからどのように全体的制度が形づ くられるか という問題は,彼 らの知能の範囲を越えている。…総合的な図式は,彼 の頭の なかにない。彼は全体のなかにあるのであって,外 からそっくりそれを見るこ とはできないのである。 (『西大平洋の遠洋航海者』中公 ・世界の名著 p.148) この全体 く構造 〉は,個 別の交易 に携 わっている人々にとって与か り知 らない こと ・関知 しないことである。だが,に もかかわ らず,彼 らが編制 してい く社 会機械 の如何 によって,欲 望エネルギー備給の効率,社 会の動いてゆ く力 には 大 きな差が生 まれる。 この ことは何度 とな く言及 して きた。 イマニュエル ・ウォーラステ インの “資本主義世界経済"に 成立する とされ る,中 核 一半周辺 ―周辺 の 〈三層構造 〉も,上 記のような商人たちの活動の 結果 として生 じた, しか も商人たちの与か り知 らない社会構造 と理解 しうる。 だか らこそ,知 らないか らこそまた,こ の構造は強靭である。 そ して この構造 (社会機械)は ,結 果 として,中 心社会 T半 周辺社会 一周辺 社会 とい うそれぞれの社会 に作動エネルギー (欲望の力)を 不平等 に備給する 結果 をもた らす,典 型的な く商人機械 〉(=リ ゾーム)の 産物 なのである。 (続)

参照

関連したドキュメント

夫婦間のこれらの関係の破綻状態とに比例したかたちで分担額

い︑商人たる顧客の営業範囲に属する取引によるものについては︑それが利息の損失に限定されることになった︒商人たる顧客は

C :はい。榎本先生、てるちゃんって実践神学を教えていたんだけど、授

にちなんでいる。夢の中で考えたことが続いていて、眠気がいつまでも続く。早朝に出かけ

夜真っ暗な中、電気をつけて夜遅くまで かけて片付けた。その時思ったのが、全 体的にボランティアの数がこの震災の規

下山にはいり、ABさんの名案でロープでつ ながれた子供たちには笑ってしまいました。つ

自分ではおかしいと思って も、「自分の体は汚れてい るのではないか」「ひどい ことを周りの人にしたので

のニーズを伝え、そんなにたぶんこうしてほしいねんみたいな話しを具体的にしてるわけではない し、まぁそのあとは