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Vol.37 , No.2(1989)067前谷 彰「『法華経』における〈eka〉の概念」

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(1)

印度學佛教學研究第37巻 第2號 平成 元年3月

法 華 経 』に お け る<eka>の

概 念

§0『 法 華 経 』 の一 乗 思 想 に つ い て は, 様 々な 観 点 か ら再 三 に わ た り論 ぜ られ, 拙 稿 は蛇 足 の感 あ りと思 わ れ る。 しか し, 今 回敢 えて 持 論 の一 部 を 述 べ させ て 頂 く理 由 は次 の如 くで あ る。 「方 便 品 」 を主 とす る 『法 華 経 』 前 半 部 は 周 知 の 如 く, 一乗 思 想 を 中心 に 展 開 され てい る とされ, そ の一 乗 思 想 は常 に 二 乗 も し くは 三 乗 との対 比 に お い て理 解 され て来 た。 しか しなが ら, 今 一 度 蔵 訳 ・漢 訳 を 照 合 しな が ら細 部 にわ た って そ の 内容 を検 討 してみ た と ころ, 二 乗 ・三 乗 との 対 比 に お い て理 解 され る べ き箇 所 と, そ うで は な い箇 所 とが 複 雑 に混 入 して い るめ を 認 め る こ とが で きる の で あ る。 又 この用 例 は主 と し て 「方 便 品 」 の 偶 頸 に お い て, 梵 本 と漢 訳(特 に羅什訳)と の相 違 箇 所 に特 徴 的 に見 出 さ る もの で あ るが, 以 下 限 られ た紙 面 故, 簡 略 に論 旨 をす す め て行 きた い と思 う。 §1『 法 華 経 』 全 体 に お い て, ekaとyanaの 語 の連 結 を 追 っ て, そ の 語 義 解 釈 を試 る と, 我 々が 通 常 用 い て い る と ころ の〈 一 乗 〉 とい う漢 語 だ け で は 表 現 し得 な い意 味 が 内包 され てい る。 悉 くそ の 用 例 を 列 挙 す る余 裕 を 持 た な い が, そ の 語 義 解 釈 をtypicalな 型 と し て のeka-yanaと い う複 合 語 の 解 釈 と して 分 類 す る と 次 の よ うに な る。

1類eka(one, only one)のyana, II類eka(unification)のyana1), III類eka (one, only one)へ と到 るyana, IV類eka(unification)へ と到 るyana2)

以上 の4類 で あ り, この よ うな解 釈 の一 端 は先 学 に よっ て若 干 の指 摘 あ る と こ ろ の もの で あ るが, そ れ を よ り明確 に3)附加 整 理 した まで で あ る。 尚 この 解 釈 は eka-yanaと い う複 合 語 の み な らず, 梵 本 に お い て, ekarp eva yanarp, ekarp yanalp, ekayanaya等 の形 で あ らわ れ る もの に も, そ れ らに包 含 され てい る 意 味 と して適 応 し得 る もの で あ る, とい うこ とを 述 べ, 主 眼 とす る と ころ の 「方 便 品」 を 中心 と した 内容 へ と入 っ て行 きた い と思 う。 §II『 法 華 経』 に お い て 「方 便 品 」 第 二 か ら 「授 学 無 学 入 記 品 」 第 九 まで の八 品 の 主 題 とす る と ころ は 一 乗 の教 え を説 き 明か す こ とに あ る の は周 知 の如 くで あ る。 しか しな が ら, これ らの各 品 に おい て, 偶 頬 と長 行 の間 に は多 くの差 違 を 認 め る こ とが で き る。 従 って 本 来 な らば各 品 を通 して, 偶 頸 と長 行 の新 旧 の問 題 及

(2)

-871-『法 華 経 』 に お け る<eka>の 概 念(前 谷) (155) び, 相 互 の増 広 ・改 変 等 につ い て検 討 を 要 す るわ け で あ る。 しか し 『法 華 経 』 の fecensionsは 各 々 相 互 に混 入 して お り, そ の基 本 型 を 想 定 す る こ とは 不 可 能 で あ る, とい う視 点 に立 つ な らば, 上 記 の 如 き操 作 は 極 め て 困 難 な もの と言わ ざ る を 得 ない。 そ こで, 現 段 階 で な し得 る操 作 は, まず, 偶 頬 と長 行 との 内 容 を 分 け, 蔵 訳 ・漢 訳 との 照合 を通 し, それ ぞれ のrecensionの 差 違 を整 理 しな が ら全 体 の 内 容 を 把 握 して 行 く, とい うもの で あ ろ う。従 っ て今 回 は この よ うな操 作 の第 一 段 階 と して,「 方 便 品 」 の偶 頬 の 内容 を 中心 に検 討 して行 きたい と思 う。 「方 便 品 」 偶 頬 に おい て, まず 次 の21偶 を紹 介す る こ とにす る。(以下 梵本はToda 本 をそのま ま引用 させて頂 く)

upayakausalya mam' etad agram yenuha bhasam' iha dharma loke (tahim) tahim lagaa pramocayami trayas ca yanany upadarAayamiti 21 ("soda. p. 21; KN. p. 33. 3-4; w. p. 22. 20-23) KN, W=trini

gan phyir hjig rten du ni chos man ba sad 11 de dan shags pa rab dgrol shin theg pa gsum dag ne bar bstan pa ni 11 de dag na yi thabs mkhas mchog yin no I (D. 14a6-7, P. 16a6-7) 諸求三乗人 若 有疑悔 者 仏当為除断 令尽無有余(Ch. A. 5a=Ch. C. 133b) 志懐狐疑 而 有猶予 若 有菩薩 求斯道意 今当鎧除(Ch. B. 67 c) こ の21偶 は, 先 行 す る20偶 に お け る 「苦 悩 か ら解 放 され た 声 聞 た ち に対 して 仏 が説 法 す る」 とい う内容 を うけ, あれ これ と執 わ れ てい る者 を 解 放 す るた め に 「3つ の乗 」 を 説 く, とい う内容 で あ る。 しか し, こ の偶 の直 後 の長 行 の 内容 と の関 係 は極 め て複 雑 な意 味 を 呈 し てお り至 論 を 持 た ない た め, 紹 介 の み に 留 め て お くこ とに す る。 た だ この 「方 便 品 」 の 偶 頬 の 特 徴 に つ い て 述 べ る な ら ば, tri とyanaの 語 の 結 合 が 認 め られ るの は, この21偶 と69偶 りの二 偶 で あ る。 しか しtri-yanaと あ る のみ で, そ のtri-yanaと は い った い 何 で あ る のか, とい う具 体 的 記 述 は, この 「方 便 品 」 の偶 順 を見 る 限 り5)では 全 く認 め られ な い。 限 られ た 紙 面 故, 結 論 を 急 ぐこ とに す るが, 上 記 の 如 くtriとyanaの 語 の連 結 が認 め られ 得 なが ら も何 ら詳 述 され る こ とな く, この 記述 か らだ け で は二 乗 ・も し くは 三 乗 との 対 比 とい った 概 念 を 見 出す こ とは極 め て 困難 で あ る。 しか しなが ら当品 の偶 頬 に は極 め て重 要 な概 念 を 有 す る次 の よ うな偶 頬 が存 在 す る。

upayakosalya prakanti vividhani yanany upadarsaya ti ekarp ca yanam paridipayamti buddhva imam uttamasantabhumim G 105 (Toda, p. 30; KN. p. 30. 13-14; WB. p. 196. 11-14) shi bahi sa mchog bdi ni sans rgyas nas) thabs la mkha, s pa rab to ston mdsad cin 11 theg pa rnams pa tha dad mnon par hchad 11 theg pa gcig po

(3)

-870-(156) 『法 華 経 』 に お け る<eka>の 概 念(前 谷)

yons su ston mdsad do 11 (D. 22b6, P. 25b7-8)

知 第 一 寂 滅 以 方 便 力 故 難 示 種種 道 -其 実 為仏 乗(Ch. A. 9b=Ch. C. 142b) 善 権 方 便 以 若 干 教 開 化 令 入 皆 共 諮 墜 是 一 乗 道 寂 然 之 地(Ch. B. 72a) こ れ は 仏 達 が 善 巧 方 便 と し て 種 々(vividha)のyanaを 説 くが6), 乗(yana)は 唯 一 つ で あ る と普 く知 ら し め, これ(唯 一 つ の乗)は 最 上 の 寂 静 な る 境 地(bhu mi) で あ る, と説 い て い る の で あ る。 こ の 内 容 か らす る 限 り で は, こ れ ま で は 「一 切 皆 成 仏 」 と い う訳 語 に 代 表 さ れ て 来 た 解 釈 の 如 く, eka-yanaの 語 は 成 仏 へ と 到 ら し め る 動 的 ・ 目的 的 な 意 味 を もつ 語 で あ る と い う見 解 は 妥 当 で は な い よ うに 思 わ れ る。 即 ち こ の 偶 に 示 され る が 如 きeka-yanaは §1で 分 類 し た4類 の うち, 第1類 に 属 し, 悟 り ・成 仏 へ と 向 か う, も し く は 向 か わ し め る 乗 り物 で は な く, uttarantabhumiの 語 に 代 表 され る よ うな 仏 地 も し く は 覚 りそ の も の を 意 味 す る 語 で あ る と 理 解 し 得 る の で あ る7)。 従 っ て, こ の 偶 頒 が 存 在 す る 限 り, triの -yanaの 語 の 結 合 を 認 め 得 る か ら と言 っ て, そ れ を 直 ち に 二 乗 も し くは 三 乗 説 に 結 び つ け る の は 危 険 で あ る と言 わ ね ば な る ま い8)。 但 し こ れ は あ く ま で も 「方 便 品 」 の 偶 碩 を 中 心 に 検 討 し た 見 解 で あ っ て, 長 行 と の 関 連 を 考 え 合 わ せ る と, 容 易 に 結 論 づ け る こ と は で き な い。 従 っ て, 長 行 と の 比 較 対 照 は 先 述 の 操 作 の う ち の, 第 二 段 階 の 操 作 と し て 後 日 に 詳 述 す る こ と に した い。

1)1, II類 と もdviguに 解 す。 但 し狭 義tatpuraのGen. 的 用 法 を も含 む。 2)狭 義tatpuraの うち, Acc. 的 用 法 に解 す。

※ こ こで はekaの 語 をone, only oneと, unificationの 二 義に 大 別 した が, Pali 聖 典 に あ らわ れ るekaの 語 は 『法華 経 』 に お け るが 如 きekaの 語 とは そ の義 を 異 に す る。 参 考 ま で に あ げ て お く と次 の よ うで あ る。

Ekasanassa sikkhetha samanopasanassa ca, ekattam monam akkhatam, eko ce

(ve)abhiramissati, (Sutta-nipata, G. 718, PTS. p. 138)こ こ で 中 村 元 博 士 がeko ce (ve)を 「独 り居 て こ そ 」 と訳 さ れ て お られ る よ う に(「 ブ ッ ダ の こ と ば 」 中 村 元 訳p, 155参 照), こ のekaの 語 は 本 来cariya, nisinna等 と 結 合 し(ex. Vinayapitaka, Vol. 1, PTS. p. 350; Vol. II, p. 36……etc.), 当 時 の 修 行 者 の 理 想 的 な あ り方 を 意 味 す る 語 と し て 「alone」 の 義 が 内 包 され て い る と考 え る べ き で あ ろ う。 尚 こ のekaの 語 に つ い て 後 代 の 註 釈 書 な ど で は 増 意 は 認 め ら れ る も の の 基 本 的 なralone」 と し て の 語 義 は 改 変 さ れ て い な い。ex. Eko bhagava pabbajjasankhtena eko, adutiyattena

eko, tanhaya pahanatthena eko,...ekayanamaggam gato ti eko, anuttaram sammasambodhim abhisambuddho ti eko. (Mahaniddesa, Atthakavagga, PTS. p. 454)

3)勝 呂信 静博 士は こ こ に お け る1, I類 の解 釈 に つ い て 触 れ て お られ る。(「法 華 経 の 一 乗 思 想 一仏 乗 と菩 薩 乗 との関 係 に つ い て」 『イ ソ ド思 想 と仏 教 』pp. 191-205参 照)

(4)

-869-『法 華経 』 に お け る<eka>の 概 念(前 谷) (157)

4) upayakoalya

mamaited idram yatrini yanany

upadarayami

ekar idam

yana nayas

ca ekameka

iyam desand nayakanam.

(Toda,

p,

28; KN, p,

48.

13-14; WB. p,

192.

11-14)

5)長 行 に お い て も何 ら詳 述 され ない。 6) こ こで はtri-yanaで は な く, vividhaとyanaの 語 が 結合 して い る点 は 留 意 す べ きで あ る。 7) こ こで は 詳説 し得 な い が, eko-yanaの 語 が, 覚 りも し くは 仏 地 と同義 で あ る こ と を 裏 づ け るが 如 き羅 什 の 訳 を 次 に 引 用す る。

vyapanetha kamksa vicikitsd samsaya arocayami aha dharmaraja. samadapemi aham agrabodhau na svavako mahyam ihasti kascit G 139 (Toda. 32; KN. p. 58. 7-8) WS. p. 200. 14-17)

汝 等 勿 有 疑 我 為 諸 法 王 普 告 諸 大 衆 但 以 一 乗 道 教 化 諸 菩 薩 無 聲 聞 弟 子(Ch. A. 10b=Ch. C. 143a)こ の 対 応 に お い て, 蔵 訳 で はagrabodhiの 訳 語 と し て そ の ま

まbyah chub dam pa(D. 24a7-24b1, P. 27b5)と 訳 し, Ch・B『 正 法 華 』(73a)も 君grabodhiの 訳 語 と 目 さ れ る 「尊 仏 道 」の 語 を 語 め る こ と が で き る。 羅 什 がagrabodhi の 語 をeka-y百naの 訳 語 と 同 様 「一 乗 道 」 と 訳 す 用 例 は 「方 便 品 」 以 外 に 「信 解 品 」 に 一 箇 所 見 出 さ れ, [(Toda・p. 61; KN. 124. 122-123; W・P. 54. 21-24)(D. 46b3-4, P. 53b1-2)(Ch A. 19a=Ch'C・151b; Ch. B. 83a)又, agraわodhiを た だ 仏 と の み 訳 し た り, 最 上 乗 と訳 す 用 例 も語 め る こ とが で き る が, こ の こ と に 関 し て は 後 日 に 記 す る こ と に す る。

8)事 実, 偶 順 を 見 る 限 りで は, sravakayanaの 語 もpratyekabuddhaynaの 語 も 全 く 認 め ら れ な い。

Texts and Abbreviations

Toda-Saddharmapndaukasutra, Central Asian Manuscripts, Romanized Texts, ed. by Hi rohumi Toda, 1981.

KN-Bibliotheca Buddhica X, Saddharmapundarikasutra, ed. by H. Kern Bunyiu Nanjio, 1970.

W-Saddharmapundarikasutra, Manuscripts found in Gilgit, et. by Shoko Wat-anabe, 1975.

WB-Gilgit Manuscript Group B of W.

D-デ ル ゲ版, 東 北No. 113 P-北 京 版, No. 781 Ch・A-『 妙 法 蓮 華 経 』 銚 秦 鳩摩 羅 什 訳, 大 正 九 巻 Ch. B-『 正 法 華 経 』西 習竺 法 護 訳, 大 正 九 巻 Ch. Cr-『添 品妙 法蓮 華経 』 閣 那 蠣 多 共 笈 多 訳, 大正 九 巻 <キ ー ワ ー ド>『 法 華 経 』, eka-yana, 二 乗 ・三 乗 対 比, agrabodhi (高 野 山 大 学 大 学 院)

参照

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