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ボランティア行動の予測とメンタルヘルスへの影響ー健康行動としてのボランティアの確立を目指してー [ PDF

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Academic year: 2021

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ボランティア行動の予測とメンタルヘルスへの影響

-健康行動としてのボランティアの確立を目指して-

キーワード:ボランティア行動,トランスセオレティカル・モデル,計画的行動理論,高齢者,メンタルヘルス 人間環境学府 行動システム専攻 健康行動学コース 2HE09047N 小松 智子 1.緒言 内閣府が行っている「平成 22 年版高齢社会白書」に よると,我が国の 65 歳以上の高齢者人口が総人口に占め る割合(高齢化率)は,22.7%であり,5 人に 1 人が高齢 者という状況である.また,欧米・アジア諸国の健康寿 命(心身ともに自立して健康に生活できる期間)を比較 調査した「World Health Statistics 2009」(World Health Organization)および主観的健康観を国際比較調査した 「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査(平成 18 年)」(内閣府)によると,健康寿命と主観的健康観は, 我が国が最も高い.諸外国と比較すると,客観的にも主 観的にも,生活の質を維持しながら有意義に歳を重ねて いる者の割合は高いと捉えることができる. このように,質の高い有意義な生活を送るための方法 の一つとして,ボランティア活動がある.田中ら(2006) は,65 歳以上の 1,600 人を対象に,社会参加(仕事,趣 味・稽古事,ボランティア活動)と健康寿命との関係を 追跡調査している.その結果,社会参加を続けることで, 介護が必要になるリスクを 33%から 40%抑制できること, ボランティア活動が健康寿命の促進には一番良いことを 明らかにした. このボランティアの力を健康づくりに活かそうとす る 戦 略 の 一 つ が ポ ピ ュ レ ー シ ョ ン ス ト ラ テ ジ ー (Population Strategy)である.地域住民の健康を維持・ 増進させる予防医学の戦略として,Geoffrey(1992)が 提唱しもので,我が国においてもこの戦略が平成 20 年 4 月から,メタボリックシンドロームに着目した特定健 診・特定保健指導において取り入れられている.ポピュ レーションストラテジーは,対象を集団全体とし,地域 住民全体の健康度を底上げしようとする戦略である.こ の戦略においては,「ヘルスボランティア」とよばれる一 般住民が戦略推進の鍵を握っており,地域で健康に関す るボランティア活動を行っている(畷,2009).ポピュレ ーションストラテジーとボランティア活動は,個人だけ ではなく地域住民全体の健康度を底上げする,個人の時 間や労力を地域や社会のために提供する,という他者を 利する「利他」という理念・目的の部分で共通している. つまり,これまで奉仕活動や社会貢献活動と捉えられて きたボランティア活動を,「健康行動(Health Behavior)」 のひとつとして位置づけることができる.Kasl and Cobb (1966)は,健康行動を①健康予防行動(健康的な食事, 十分な睡眠など病気予防のためのあらゆる行動),②病気 行動(けがや心身不調のために治療や適切な手段を求め る行動),③病者役割行動(医学的診断後に,服薬や休養 など病気回復を目指して行う行動)の 3 つに分類してい る.従来の健康行動は,自分を利する行動であり,他を 利して健康になるという概念は含まれていない.ボラン ティア活動を「健康行動」として捉え,ボランティア活 動のメンタルヘルス効果を明らかにすることは,「健康行 動」の内容を発展させる試みでもあり,心の豊かさやメ ンタルヘルス対策が重要視されている今日の社会や,質 の高い充実した生活を送るべき高齢者一人ひとりにとっ ても意義がある. 2.本研究の目的 ボランティアを自他の心身の健康や生きがいを高め る「健康行動」として捉え,ボランティア活動を遂行す ることを「ボランティア行動」と定義する.まずボラン ティア行動に対する意識を調べ(第 1 章),つぎにボラン ティア行動意図の予測を行い(第 2 章),最後にボランテ ィアのメンタルヘルスへの影響を明らかにする(第 3 章). 図 1. 研究の構成 3.ボランティア実践者と非実践者のボランティア行動 に対する意識と行動(第 1 章) 目的 ボランティア実践者と非実践者のボランティア行動 ボランティア 意識 ボランティア 行動意図 ボランティア 行動 メンタル ヘルス 計画的行動理論 トランスセオレ ティカル・モデル 第1章 第2章 第3章

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に対する意識を比較し,ボランティア行動に関連する要 因を検討する. 1)方法 (1) 対象および調査時期 対象者は,福岡県 C 市,M 市,O 町,K 町が行うウォ ーキング事業,健康教室,健康講座に参加した地域住民 98 名(男性 36 名,女性 62 名:65.0±0.77 歳).調査時期 は,平成 22 年 11 月上旬から中旬に実施した. (2) 調査項目 ボランティア行動に対する意識を,トランスセオレテ ィカル・モデルの 4 変数(恩恵,負担,意思決定バラン ス,エフィカシー)と計画的行動理論の 4 変数(行動意 図,態度,主観的規範,行動の統制感),参加動機および 参加しない理由について調査した. トランスセオレティカル・モデルの変数 下記の①②④の変数については 5 段階で測定した. ①恩恵 妹尾・高木(2003)が作成した援助成果尺度を参考に, ボランティア行動をする恩恵 10 項目. ②負担感 ボランティア行動をする負担感 10 項目. ③意思決定バランス 恩恵の得点計から負担感の得点計を減算して算出した. ④エフィカシー ボランティア行動に対するエフィカシー4 項目. 計画的行動理論の変数 下記の 4 変数について 5 段階で測定した. ①行動意図 3 ヶ月以内のボランティア活動に対する意図. ②態度 3 カ月以上継続的にボランティアをする際の気持ち 6 項目に対する好意度. ③主観的規範 ボランティアを行うに対する家族や周囲の人々の期待 3 項目. ④行動の統制感 週 1 回以上のボランティア活動を遂行する難易度・自 己決定感・確信度についての 3 項目. 2)結果 トランスセオレティカル・モデルでは,ボランティア 実践者のほうが,恩恵と意思決定バランス,エフィカシ ーが有意に高く,負担感が有意に低かった.計画的行動 理論では,ボランティア実践者のほうが,すべての構成 概念において有意に高いことが明らかとなった.また, ボランティア参加動機で最も多かったのは「自分の自発 的な意思で(18.7%)」,つぎに多かったのは「友人や知 人に勧められて(13.2%)」であった.ボランティアに参加 しない理由で最も多かったのは,「いったん始めるといい 加減なことはできない(34.6%)」,つぎに多かったのは 「他にもしたい余暇活動がある(29.6%)」であった. 3)考察 ボランティア実践者において,トランスセオレティカ ル・モデルの構成概念であるエフィカシーと計画的行動 理論の構成概念である行動の統制感が高かったことは, 「ボランティアができる」という自信の高さを表してい ると考えられる.トランスセオレティカル・モデルの構 成概念である恩恵と計画的行動理論の構成概念である態 度が高かったことは,ボランティアの効果に対する認知 が高いことを表していると考えられる.参加動機理由「友 人や知人に勧められて」は計画的行動理論の構成概念で ある主観的規範の高さとも関連している可能性がある. 4.ボランティア行動の予測(第 2 章) 目的 ボランティアの行動意図について,トランスセオレテ ィカル・モデルと計画的行動理論を比較検討し,どちら の理論が行動意図を予測するか検証する. 1)方法 (1) 対象および調査時期 第 1 章と同様. (2) 調査項目 第 1 章と同様(参加動機と参加しない理由を除く). 2)結果 ボランティアの行動意図の説明力はトランスセオレ ティカル・モデルでは 46.1 パーセント,計画的行動理論 では 50.5%であった.計画的行動理論のほうが説明力が 高く,理論的な優位性が示された. 図 2.行動意図に対する トランスセオレティカル・モデルのパス図 意思決定 バランス エフィカシー ボランティア 行動意図 .233* .500** R2=.461 * *P<.01, P<.05

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図 3.行動意図に対する計画的行動理論のパス図 3)考察 トランスセオレティカル・モデルでは意思決定バラン スよりもエフィカシーの規定力のほうが高かった.この ことから,ボランティア行動に対する効力感・自信を高 めることにより,ボランティアへの行動意図が高まる可 能性が考えられる.また,ボランティアへの行動意図は, 計画的行動理論のほうが高い説明力であり,特に計画的 行動理論の主観的規範の説明力が高かった.つまり,ボ ランティア行動に対して,周囲の人々や家族,親友の期 待という他者の期待をより感じているということが明ら かとなった.この結果は欧米の先行研究の結果とは異な り,橋本(2004a,2004c)の大学生の運動行動を対象に 行った先行研究の結果を支持している.我が国の人々が 欧米諸国の人々よりも,他者の期待を感じて運動行動す る傾向がある,ということがボランティア行動において も該当する可能性を示唆したものであり,非常に興味深 い.また,今後ボランティア行動の促進を検討していく うえで計画的行動理論を用いることは有効と考える. 5.ボランティア実践者と非実践者のメンタルヘルス(第 3 章) 一次研究 目的 ボランティア実践者と非実践者のメンタルヘルス状 態を横断的に比較検討する. 1)方法 (1) 対象および調査時期 第 1 章と同様. (2) 測度・調査項目 精神的健康パターン診断検査(橋本,1999).これは, ストレス尺度として「こだわり」「注意散漫」「対人回避」 「対人緊張」「疲労」「睡眠起床」,生きがい尺度として「生 活満足」「生活意欲」の 8 つの下位尺度から構成されてお り,4 段階評定尺度法で測定される.また、ストレス度と 生きがい度から、「はつらつ型」「ゆうゆう・だらだら型」 「ふうふう型」「へとへと型」の 4 つのパターンに分類さ れる。 図 4.メンタルヘルスパターン 2)結果 ボランティア実践・非実践別に平均得点の比較を行っ た結果,因子ごとでは,「社会的ストレス」において 1% 水準の有意差が認められ,「ストレス度(SCL)」におい て 5%水準の有意差が認められた.下位尺度ごとでは, 「対人回避」において 1%水準の有意差が認められ,「対 人緊張」「生活意欲」において 5%水準の有意差が認めら れた. 3)考察 ボランティア実践者のほうが非実践者よりもメンタ ルヘルス状態は高く,特に「社会的ストレス」「対人回避」 で有意差が認められた.このことから,ボランティアを 通して他者と関わる機会が増え,相互交流によるストレ ス軽減効果が高まった可能性が推察される. 二次研究 目的 ボランティアの実践がメンタルヘルス状態の改善に 寄与するか明らかにするため,ボランティアの実施・非 実施を要因とする群と調査の事前・事後における時間を 要因とする群を縦断的に比較検討する. 1)方法 (1) 対象および調査時期 対象者は,福岡県 C 市ウォーキング事業の参加者.平 成 21 年度は 64 名(男性 17 名,女性 47 名:65.0±0.77 歳).平成 22 年度は 56 名(男性 20 名,女性 36 名:65.8 ±0.67 歳).調査時期は,平成 21 年度と平成 22 年度と もに 5 月中旬および 11 月中旬に実施した. (2) 測度・調査項目 ボランティア 行動意図 .449** .386** R2=.505 **P<.01 態度 主観的 規範 行動の 統制感 だらだら・ ゆうゆう型 (ストレス準適応型) はつらつ型 (ストレス適応型) へとへと型 (ストレス不適応型) ふうふう型 (ストレス抵抗型) 生きがい(QOL) 高い 生きがい(QOL) 低い ストレス(SCL) 低い ストレス(SCL) 高い

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精神的健康パターン診断検査,運動習慣,ボランティ アの恩恵と負担の自由記述. 2)結果 ボランティア実践の有無に関わらず,事後のほうが「ス トレス度(SCL)」の低減が認められた.また,ボランテ ィア実践の有無に関わらず,事後のほうが「生きがい度」 の改善が認められた.運動習慣は,ボランティア実践者 のほうが運動習慣のある者が多く,有意な差が認められ た.ボランティアの恩恵と負担についての自由記述にお いては,恩恵は「ふれ合いができた」「知人が増えた」「ス トレス解消になった」「積極性が育った」などの記述がみ られ,負担は「時間の制約」に関する記述が多かった. 図 5.ウォーキング事業参加前後における メンタルヘルス変化 3)考察 ボランティア実施の有無に関わらず,メンタルヘルス 状態,特にストレスが改善したことから,運動(ウォー キング事業参加)によるストレス低減効果が確認された. また,ボランティア実践者の恩恵の高さは,他者との交 流などソーシャルネットワークの増加,感謝や充実感な どポジティブな感情経験が背景にあると考えられる.そ して,ボランティア実践者の負担感の内容は時間の制約 が多いことから,参加しやすさを考慮することで,非実 践者も含めて,ボランティアに対する意識が好意的にな る可能性が推察される. 6.まとめ 本研究の目的は,ボランティア行動に対する意識を調 べ(第 1 章),ボランティア行動意図の予測を行い(第 2 章),ボランティアのメンタルヘルスへの影響を明らかに する(第 3 章)ことであった.まず,ボランティア行動 に対する意識は,ボランティア実践者のほうが,有意に 高いことが明らかとなった.また,ボランティアへの行 動意図の説明力は,計画的行動理論の理論的な優位性が 示された.そして,ボランティアのメンタルヘルスへの 影響は,横断研究においてはボランティア実践者のほう がメンタルヘルス状態は高かった.縦断研究においては, ウォーキング事業参加後にボランティア実践者も非実践 者もメンタルヘルス状態は改善し,ボランティア活動の メンタルヘルス効果は明らかにできなかった.「健康行動 としてのボランティア」という新たな提案の可能性の根 拠を得るために本研究を進めたが,残念ながら顕著な結 果は見出せなかった.理由の一つに,今回調査対象とし たボランティア実践者がウォーキングという運動をすで に経験していることがあげられる.本研究によってボラ ンティアを行うことによりさまざまな恩恵があるという ことは明らかになったことから,健康行動の一つとして ボランティアを加えることはできるのではないかと考え る.今後は,運動という要素を除外して調査する,ボラ ンティアを初めて行う人を対象にする,調査対象の団体 や人数を増やす,質的研究を行う,精神的健康パターン 診断検査以外のメンタルヘルス測定尺度を用いて検証を 行うことにより,「健康行動としてのボランティア」を検 証していく必要がある. 7.主要引用文献

Ajzen I.(1985)From intention to actions:A theory of planned behavior.In J.Kuhl and J.Beckaman(Eds.), Action-control:From cognition to behavior.Heidelberg, Germany:Springer, 2-39. 橋本公雄(2004a)大学新入生の運動行動への Planned Behavior 理論の適用-過去の運動経験およびソーシャ ルサポートの影響-.平成 15 年度日本体育協会スポ ーツ医・科学研究報告書・No.Ⅰ「身体活動・運動アド ヒアランス強化に関する心理・行動科学的研究」-第 3 報-,財団法人日本体育協会.p117-123.

橋本公雄(2004c)Theory of Planned Behavior は長期的運 動行動を予測するか.九州体育・スポーツ学会第 53 回大会.福岡市. 畷素代(2009)地域ヘルスボランティアの健康統制感・ 自己効力感と健康度自己評価との関係.奈良女子大学 スポーツ科学研究,11:39-47. 内閣府(2010) 平成 22 年度「高齢社会白書」. 妹尾香織・高木修(2003)援助行動経験が援助者自身に 与える効果.社会心理学研究 18(2):106-118. 田中千晶・吉田裕人・天野秀紀・熊谷修・藤原佳典・土 屋由美子・新開省二(2006) 地域高齢者における身 体活動量と身体,心理,社会的要因との関連. 日本 公衆衛生雑誌, 53: 671-680. 30 40 50 前 後 ボランティア実践者 ボランティア非実践者 20 30 40 前 後 ボランティア実践者 ボランティア非実践者 ストレス度 生きがい度

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