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1

都心床面積の供給拡大のための特例容積率適用地区の活用方法に関する研究

-東京都区部における容積移転のニーズと影響の分析を通じて-

政策研究大学院大学 まちづくりプログラム

MJU18708 竹之内 優

1.はじめに

首都圏においては、通勤時間が長時間に及ぶ傾向にある。近年、

専業主婦世帯から共働き世帯にシフトしている状況にあり、父母と もに都心に通勤するような共働き世帯も増加すると考えられる。父 母ともに都心でフルタイムの勤務をするためには、都心部に住むこ とにより通勤時間を削減する効用が高まることとなる。

一方、都心に近く通勤利便性の高い土地は限られており、そのよ うなエリアにおける空間的な有効活用が重要となってくる。都心に おけるマンションやビルの開発においては、指定容積率を使い切る 開発が当然となっており、規制の範囲内で有効活用が図られている。

一方で、寺社や戸建て住宅など、容積率を使い切らない敷地も多く 存在する。そこで本稿では、隣接敷地以外の土地の間で広く容積を 移転できる現行制度である「特例容積率適用地区」制度の導入促進 により、都心における床面積の供給を増やし、職住近接の推進に資 することを目的とした。

先行研究において、容積移転制度の導入による混雑の発生の可能 性については研究が行われてきたが、建物の高さによる負の外部性 については、これまで十分に分析されてきたとは言い難い。そこで、

本稿においては、特例容積率適用地区の導入を検討する際に考慮す べき、建物の高さによる負の外部性の及ぶ範囲及びその程度を実証 分析によって明らかにするとともに、容積移転の移転元・移転先そ れぞれの需要量を把握することにより、特例容積率適用地区の導入 が効果的である条件を明らかにする。

2.容積率及び容積移転制度の運用状況

本稿においては、容積率規制の主眼は一定エリア内の床面積のコ ントロールによるインフラ負荷の調整であるという前提に立つ。そ の前提のもとでは、現在のように各敷地に割り振られた指定容積率 は、エリア内で移転が行われてもインフラ容量を超過しないため問 題が発生しない。

次に、他の容積移転制度との比較をすると、特定街区制度ではイ ンフラ負荷への配慮はされるが1件ごとの審査が必要であり、一団 地の総合的設計等は、街区間の容積移転が不可能である。特例容積 率適用地区制度は、インフラ負荷に配慮した上で、機動的に、街区 間を含めて容積移転が可能な制度として優れていると考えられる。

表 1 容積移転制度のまとめ

特定街区、容積適

正配分型地区計画

一団地の総合的設計、

連担建築物設計

特例容積率適用地区

主たる根拠法 都市計画法 建築基準法 都市計画法 都市計画決定 必要 不要 地区全体としては必要 1件ごとの審査 時間がかかる 比較的早い 比較的早い

エリア限定 なし なし 1低等は不可

街区間容積移転 可能 不可 可能

東京都では、東京駅周辺の、大丸有エリアを特例容積率適用地区 に指定している。指定の際に、特例容積率適用地区導入の目的の一 つとして「歴史的建造物の保存・復元や街並みの再生」を挙げ、容 積の移転元を以下のいずれかに適合するものに限定している。

○保存、復元を図るべき歴史的な建造物

○地区計画で建築物の高さの最高限度が定められている区域

○社会教育施設、文化施設等

3.容積移転に関する理論的考察

(1)容積移転による社会厚生の向上(図1)

指定容積率 600%の区域内に同面積の土地を保有し、容積率を使 い切るニーズがある A と、容積を使い切るニーズがない B がいる

とする。容積率規制が存在しなければ、A は R(>600%)まで建てる こととなるが、容積率規制の上限があると、容積率の上限 600%ま でしか建てられない。一方のB は、容積率規制の上限に届かないR’

(<600%)までしか使わない。容積移転制度が導入されると、容積 率が両者の限界効用、限界費用に基づき取引され、最終的に両者の

(限界費用-限界効用)が一致する点まで容積移転が行われる。こ れにより、容積移転制度が使えなかった場合と比較して、総余剰が 網掛部分だけ増加し、社会厚生が改善されるものである。

図 1 容積移転による社会厚生の改善

(2)容積移転による床供給増加がもたらす効果

都心部において容積移転が可能となると、エリア全体の供給可能 な床面積が増加し、物件価格が下落することとなる。増大した床面 積の一部は住宅用途としても使われ、都心に住める人数が増えたり、

より広い面積の住宅に住むことができることとなる。

(3)移転元の制限による影響

図 2 は移転元の制限を行う影響 を示したものである。制限された 移転元の絶対量には限度があるた め、一定の供給面積に達すると供 給量の増大は止まると考えられ る。また、移転元の制限が行われ なければ、戸建て住宅の敷地など も容積移転市場に参入し、価格の 上昇に応じて容積の供給が増加す ることとなる。

移転元の用途の制限により、取引価格は上昇し、容積取引量が減 少し、死荷重が発生することから、原則として移転元の制限は行う べきでない。特例容積率適用地区制度においては、土地の高度利用 を目的とし、歴史的建造物の保存等については目的とはなっておら ず、そのための規定もない。歴史的建造物の保全については、重要 文化財等として保全の指定を行い、正当な補償をすることで対応が 可能であることから、地方公共団体は自主的な基準を作成して移転 元を制限することで、経済合理性を損ねていると言える。

(4)容積移転に伴う費用及び便益について

容積移転制度導入の検討に当たっては、当事者以外の費用便益も 考慮する必要がある。そこで、容積の移転元と移転先に分けて、表 2、表 3 の通り費用・便益を整理した。容積移転により発生しうる、

建物高さによる負の外部性と、混雑による負の外部性を、地区の指 定方法や運用方法の工夫によりコントロールすることが望ましい。

表 2 容積の移転先において発生する費用・便益

符号 項目名 備考

正 床面積増大による地権者の利

潤上昇 容積移転対価よりも高い場合に取引が行われる 負 容積移転対価の支出 (移転元の便益と相殺される)

負 建物高さによる負の外部性 隣接建物までの距離と高さによると考えられる

0% 0%

Aの限界効用 -限界費用

Bの限界効用 -限界費用

600%

総余剰の増加 R R’

図 2 移転元の制限が与える影響

需要

価格

死荷重

供給面積 供給(制限なし)

供給

(歴史的建造物等に制限)

P P’

(2)

2

負 局所的混雑による負の外部性

指定容積率が交通容量の限度を超えて指定されて いる場合や、1つの駅に容積が集中する場合は局 所的な混雑を助長する可能性

正 都心居住による郊外通勤路線 の混雑緩和

住居が郊外から都心に引っ越した者がいる場合、そ の者が与えていた混雑の負の外部性が減少 正 商業施設による利便性の向上 当該用途の床面積が増えた場合に発生 正 オフィスによる利便性の向上 当該用途の床面積が増えた場合に発生

表 3 容積の移転元において発生する費用・便益

符号 項目名 備考

正 容積移転対価の受取 (移転先の費用と相殺される)

負 高容積開発オプションの放棄 容積移転対価よりも低い場合に取引が行われる 正 歴史的建造物・文化財の保全

容積移転制度がない場合、取り壊されて高層ビル に建て替えられる可能性がある。その場合にはそ れまで歴史的建造物が周囲に与えていた正の外 部性が失われてしまうため、政策の便益が存在 正 木造密集市街地の改善 危険な木造密集市街地から容積が移転した場合、

移転元の空地化、改築等が進む

4.建物高さが周辺住宅の賃料に及ぼす影響の実証分析

(1)仮説

周辺建物による負の外部性は、周辺建物から受ける圧迫感の大き さを考えると、「周辺建物からの距離が近いほど」「周辺建物の高さ が高いほど」「当該住戸から見える周辺建物の幅が大きいほど」高 まると考えられる。なお、住戸から見える周辺建物の幅の代理変数 として「周辺建物の建築面積」を使うこととした(分析①)。

また、都心に近い区ほど、利便性向上のためには周辺建物による 負の外部性を感じない住民が集まる傾向があるため、都心ほど建物 高さによる負の外部性が生じにくいと考えた(分析②)。

さらに、住環境が守られにくい用途地域(商業地域、近隣商業地 域)については、上記と同様に、利便性を重視する住民が集まる傾 向にあるため、商業地域や近隣商業地域においては建物高さによる 負の外部性が生じにくいと考えた(分析③)。

(2)実証分析の方法

日照や採光、眺望が価格や賃料に大きく影響すると考えられる住 宅において、最も大きな負の外部性が発生するものと考えられるた め、住宅の成約賃料を対象に負の外部性を分析した。

また、特例容積率適用地区は東京駅前の1地区しかないことから、

容積移転が行われた建物における住宅賃料への影響を実証するこ とはできない。そのため高層の建物が周辺住戸の賃料に与える負の 外部性を推定することとした。

今回の推定モデルにおいては、成約賃料に大きな影響を与える物 件の建築物属性、地域特性等をコントロールした上で、近隣に高層 建物がある場合の成約賃料単価への影響について、近接高層建物か らの距離帯別、当該高層建物の階数階層別に分析した(分析①)。

分析①の結果、7 階建て以上の建物が 10m以内にあると負の外 部性がもたらされることが確認されたため、その影響が、区別(分 析②)、用途地域別(分析③)で異なるかを追加で分析した。

(3)使用するデータ

レインズ成約賃料データ、国土数値情報(鉄道駅)、東京都の地 域別地震危険度、東京都の都市計画地理情報システム都市計画レイ ヤー、東京都の区部土地利用現況調査建物 GIS データ、商業統計・

経済センサスの各 500m メッシュデータを使用した。対象地域は中 央区、墨田区、江東区、港区、品川区、大田区の6区とした。

また、データの時点としては、建物 GIS データの作成時点(2011 年)に可能な限り近いデータを使った。

成約賃料データのうち、①変数として使用するデータに欠落があ る、②月額賃料が 300 万円超、③㎡あたり賃料単価が1万円超、③ 10 ㎡未満、④定期借家契約、⑤レインズデータの所在地データか らアドレスマッチングを行った際に、建物レベルの精度とならなか

ったものを除外した。サンプルサイズは 12,095 となった。

(ⅰ)トリートメント変数

<分析①(基本ケース)>

トリートメント変数として、「成約賃料データからの距離帯別・

階数帯別の中高層建物の建築面積」を用いる。これにより、距離帯 別、階数帯別の推定された係数の違いによって、距離帯ごと、階数 帯ごとの負の外部性の大きさを捉えることが可能となる。距離帯、

階数帯としては、表 4 に示す区分を採用している。

表 4 トリートメント変数とした階数・距離帯

成約賃料データから周辺建物までの距離帯 0-10m 10-20m 20-50m 50-

100m 100- 150m

150- 200m

200- 300m

辺建 物 階数

4-6F ○ ○ ○ ○

7-14F ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

15F- ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

<分析②:区による影響の違いの分析>

分析①のトリートメント変数のうち、「周辺 10m 以内の 7-14F 建 物面積」及び「周辺 10m 以内の 15F 以上建物面積」について、区ダ ミーとの交差項を作成した。

<分析③-1:用途地域による影響の違いの分析>

「周辺 10m 以内の 7-14F 建物面積」と「周辺 10m 以内の 15F 以上 建物面積」を合計することにより作成される「周辺 10m 以内の 7F 以上建物面積」について、用途地域ダミーのうち、商業地域ダミー 及び近隣商業地域ダミーとの交差項を作成した。

<分析③-2:区及び用途地域による影響の違いの分析>

品川区及び墨田区の商業地域、近隣商業地域における影響を調べ ることとし、分析③-1で使用した「周辺 10m 以内の 7F 以上建物 面積」と「品川区ダミー、墨田区ダミー」と「近隣商業地域ダミー、

商業地域ダミー」の交差項を作成した。

(ⅱ)建築物属性のコントロール

当該住戸の所在階によって日照、採光、眺望等の環境が変化する と考えられることから、「ln(所在階)」をコントロール変数に加え た。また、建物の全体階数が高いほど賃料単価が上がると考えられ ることから、「建物全体階数」をコントロール変数に加えた。さら に、超高層マンションの場合はさらに 20 階以上の場合は1をとり、

19 階以下の場合は 0 をとる「超高層ダミー」を加えた。その他、

「使用部分面積」「成約時築年数」「新築ダミー」「構造ダミー」「角 部屋ダミー」により、建築物属性のコントロールを行った。

(ⅲ)地域属性のコントロール

最寄り駅までの距離や、都心部までの距離、用途地域など、地域 特性が家賃・価格に与える影響が大きいと思われることから、「都 心4駅からの距離」、「最寄り駅からの距離」、「区ダミー」、「用途地 域ダミー」、「指定容積率」、「周辺の売り場面積」、「周辺の全産業従 業者数」、「地震危険度ダミー」をコントロール変数に加えた。また、

床面積の需要が大きく、賃料も高いエリアについては、低層建物で はなく中高層建物が多くなると考えられることから、「成約賃料デ ータから 300m 以内の 4-6F 建物面積」についてもコントロール変 数に加えた。

(4)推定モデル

分析①の推定式は以下のとおりである。それぞれ OLS(最小二乗 法)モデルで推定を行う。分析②、③-1、③-2についても交差 項の追加以外は推定式は大きく変わらないため、省略する。

成約賃料単価=定数項+β

1

(ln 所在階)+β

2

(建物全体階数)+β

3

(超高層ダミ

ー)+β

4

(使用部分面積)+β

5

(成約時築年数)+β

6

(新築ダミー)+β

7-13

(構造ダ

ミー)+β

14

(角部屋ダミー)+β

15

(都心4駅からの距離)+β

16

(最寄り駅からの

(3)

3

距離)+β

17-21

(区ダミー)+β

22-31

(用途地域ダミー)+β

32

(指定容積率)+β

33

(周 辺の売り場面積)+β

34

(周辺の全産業従業者数)+β

35-38

(地震危険度ダミ ー)+β

39

(周辺 300m 以内の 4-6F 建物面積)+β

40-58

(成約賃料データからの距 離帯別・階数帯別の中高層建物の建築面積)+ε(誤差項)

(5)実証分析の結果と考察

<分析①(基本ケース)>

トリートメント変数の効果の推定結果は表 5 のとおりである。

説明変数ごとに求めた係数(β)を 50×1,000=50,000 倍すること で、50 ㎡の住戸の周囲に 1,000 ㎡の建物が建った場合の周辺建物 の賃料に与える効果(円/月)を示している。以下、効果を表示し た際は同様の処理をしている。

表 5 分析①(基本ケース)の結果

効果(4-6F) 95%信頼区間効果(7-14F) 95%信頼区間 効果(15F-) 95%信頼区間 0-10m -1,115 -3,481 1,251 -3,788 *** -5,717 -1,859 -22,670 ** -43,480 -1,859 10-20m 1,289 * -187 2,765 179 -1,203 1,560 1,297 -394 2,987 20-50m -104 -638 431 439 * -73 951 1,575 *** 789 2,360

50-100m 190 -104 483 -274 * -575 27 106 -333 544

100-150m 185 -40 411 -101 -422 219

150-200m 27 -161 215 -322 ** -585 -59

200-300m -13 -102 76 160 ** 10 311

***、**、*はそれぞれ有意水準1%、5%、10%を示す。以下同じ

7-14F、15F 以上の建物が 10m 以内にある場合はともに有意に賃 料が下落する結果となっている。また、7-14F よりも 15F 以上の方 が負の外部性が大きいことが確認され、周辺建物が高いほど、また 近いほど負の外部性が大きいことが確認された。

一方、15F 以上の 20-50m帯において有意なプラスの効果が発生 している。これは、敷地周囲に空地を取った開発を行った場合に、

近接建物にプラスの効果をもたらしているものと考えられる。実際 に、東京 23 区全体における階数区分別・建物からの距離帯別空地 率を計測したところ、図 3 に示すように、20F 以上建物の周囲 10~

50m では、他の階数帯よりも空地率が 5-10%程度高い結果となった。

図 3 階数区分別・建物からの距離帯別空地率(東京 23 区全域) (%)

<分析②(区による影響の違い)>

分析①において、7階以上の建物が 10m 以内に存在すると有意 に賃料が下落する結果となったことから、区ごとの影響の程度の違 いを交差項の導入により分析した。分析結果を表 6 に示す。

表 6 分析②(区による違い)の結果

効果(7-14F) 95%信頼区間 効果(15F-) 95%信頼区間 港区 -12,210 *** -16,463 -7,956 -23,942 -94,189 46,305 中央区 -7,477 ** -12,831 -2,124 -61,462 ** -114,219 -8,704 墨田区 4,278 -2,168 10,725 47,366 -288,295 383,028 品川区 8,124 *** 3,780 12,468 -29,212 * -62,786 4,361 江東区 -5,659 ** -9,177 -2,141 3,435 -30,705 37,575 大田区 -6,343 ** -12,027 -658 データなし

7-14F の結果からは、墨田区、品川区では有意な賃料低下が起こ らない結果となった。港区や中央区に居住する住民は、他の対象4 区に比べ所得階層が高い者が多く、通勤利便性だけでなく住環境も 求めて居住地選択を行う傾向があるのではないかと考えられる。一 方で、墨田区、品川区のような、都心からは近いが下町的な文化の あるエリアに居住する住民は、通勤利便性を重視する住民が多いの

ではないかと考えられる。大田区のように都心からは少し離れたエ リアにおいては、通勤利便性よりも住環境を重視する住民が多いの ではないかと考えられる。なお、15F-は結果が有意に出なかった。

<分析③(用途地域による違い)>

分析①において、7階以上の建物が 10m 以内に存在すると有意 に賃料が下落する結果となった。住環境が守られにくい用途地域に おいては、賃料が下落しにくいのではないかと考え、商業地域ダミ ー及び近隣商業地域ダミーとの交差項の導入により分析した。分析 の結果を表 7 に示す。商業地域、近隣商業地域であっても、対象6 区全体では、他の用途地域と比べて賃料が有意に低下することはな いことが示された。

表 7 分析③-1(用途地域による違い)の結果

トリートメント変数 効果 (95%信頼区間)

7F以上の建物から10m以内 -4,330 *** -6,935 -1,725 7F以上の建物から10m以内×商業地域 929 -2,981 4,838 7F以上の建物から10m以内×近隣商業地域 -1,454 -10,305 7,397

5.容積移転ニーズの分析

(1)分析の目的

容積移転制度の導入地区の選定にあたっては、容積移転のニーズ がどれほどあるものなのかを分析する必要がある。そこで、本章に おいては、都心における容積移転制度の導入可能性の検討に資する よう、実際の市街地を対象に、容積の移転元・移転先のニーズ及び、

移転元の限定が与える影響について分析・考察した。なお、対象範 囲は千代田区、中央区、港区、台東区、墨田区、江東区とした。

(2)推計方法

<容積充足率、余剰容積率>

移転先、移転元の容積移転需要を計算するためには、各敷地にお ける容積充足率を計算する必要がある。容積充足率及び余剰容積率 は、以下の式により算出した。

容積充足率(%)=建物の延床面積(㎡)/各敷地の最大延床面積(㎡)×100 余剰容積率(%)=100-容積充足率(%)

<容積の移転先需要>

各町丁目において、過去の建築動態において指定容積率を使い切 っている建物と同等の建築面積が建築され、指定容積率の 1.5 倍 が使われるという想定で、容積需要量を推計した。

今後15年間の移転先の容積需要量(㎡)=容積を使い切る建築の見込み建 築面積(㎡)×容積を使い切る建築の平均階数

=(建築見込み面積(㎡)×容積を使い切る確率)

×(容積使い切った建築物の平均階数×追加容積ニーズ率)

・建築見込み面積:2001~2016年までの建築面積と同面積

・容積を使い切る確率:2001~2016年に建築された建物の建築面積のうち、容積を使い切 ったものの建築面積の比

・容積使い切った建築物の平均階数:2001~2016年に建築された建物のうち容積を使い切 ったものの平均階数(建築面積ベース)

・追加容積ニーズ率:0.5(これによって、指定容積率の1.5倍が使われる想定とした)

<容積の移転元における余剰容積率>

建て替えを行った場合も同用途かつ低容積の開発が見込まれる 用途と、建て替えが行われた場合に現在よりも高容積率で開発され る可能性が高い用途を表 8 のとおり分類し、低容積の開発しか見 込まれないものは移転元と想定した。また、高容積で開発される可 能性が高い用途についても、築年数が浅い場合は当面の間は建て替 えが行われないと考えられることから、移転元の対象とした。具体 的には、木造の場合は 2006 年以降に建築されたもの、非木造の場 合は 1996 年以降に建築されたものを容積移転元と想定した。これ らの条件により容積移転元候補とした敷地のうち、容積充足率が 25%以下のものに限定した。

80.9

72.3 68.7

65.8 65.0 91.7

82.8

76.4 72.1 70.1

60 70 80 90 100

0-10 -20 -30 -40 -50 -60 -70 -80

10-14F 15-19F 20F-

(4)

4

表 8 容積の移転元となる用途の分類

建て替え等を行っても同用途かつ低容積

の開発が見込まれる用途 寺社、墓地、教育文化施設、公園 古いものは取り壊されて高容積で開発さ

れる可能性が高い用途

住宅、商業・住商、事務所、工業・住工、

官公庁、宿泊、医療

なお、東京都の基準に基づいて容積の移転元を限定するケースに ついては、東京都基準に沿って別途作成した。

(3)推計結果

需要の推計結果(図 4)を見ると、都心ほど大きくなっている様 子が見て取れる。一方で、台東区、墨田区、江東区のうち、主要駅 から離れたエリアでは、需要が大きくないことが分かる。一方、供 給の推計結果(図 5)を見ると、都心部では供給量が少なく、主要 駅から離れたエリアにおいて、供給量が多い傾向が分かる。すなわ ち、都心部では需要が多いが供給は少なく、主要駅から離れたエリ アにおいては、供給は多いが需要が少ないことが分かる。これらの 需要供給を踏まえ、容積移転が多く行われるエリアにおいて容積移 転制度を導入すると効果がより高くなると見込まれる。

図 4 容積移転ニーズの町丁目別推計(需要) (%)

図 5 容積移転ニーズの町丁目別推計(供給) (%)

図 6 容積の移転元の制限による影響(万㎡)

次に、容積の移転元を制限する影響を図 6 に示す。区によって容 積供給量の変化は大きく異なるが、限定により少なからず容積移転 元の減少が発生し、死荷重が発生することが示された。港区のよう に需要が大きく、移転元の制限により容積移転の供給が大きく減少 する場合は、容積移転元の制限を行うことの死荷重が特に大きくな ると考えられる。

この他、容積移転を可能とするエリアの範囲については、町丁目 単位で行うよりも、範囲を広げた方が、容積移転を増加させること を確認した。

6.政策提言

①容積移転の需要と供給を踏まえた地域選定及び運用

容積移転制度の導入に当たっては、容積の需要、供給がそれぞれ 一定程度存在するエリアで導入すれば効果が高いため、容積移転の ニーズを把握して導入エリアを決定すべきである。また、移転元の 制限は死荷重を発生させるため、原則として制限を行うべきでない。

②建物高さによる負の外部性への対応の標準化

建物高さによる負の外部性の分析の結果、東京都区部では高層建 物を建築すると、10m 以内の範囲に負の外部性を与えることが確認 された。そのため、容積の移転先で高層建物を建築しようとする場 合は、隣接敷地境界から 10m セットバックさせるなど、周囲に十分 空地を取った建築計画にするよう規制を導入すれば、建物高さによ る負の外部性が発生しにくくなる。なお、品川区や墨田区など、負 の外部性が生じにくいエリアでは、敷地境界からのセットバック規 制は最小限にとどめるべきである。

③駅圏を基本単位とした特例容積率適用地区の指定

広いエリアに特例容積率適用地区を指定した場合は、利便性の高 いエリアに駅圏を超えた容積移転が生じ、想定外のインフラ負荷が かかる。そのため、特例容積率適用地区の指定範囲は最寄り駅が同 一の範囲(駅圏)を基本とするべきである。

④駅施設の改良に応じた容積率上昇と容積移転の併用

駅施設の改良によるインフラ容量の増加に合わせて、駅周辺の指 定容積率を上昇させた場合に、鉄道会社など、駅施設改良者に上昇 分の容積率を与え、容積移転により駅施設改良費用を賄えるように することで、駅施設改良のインセンティブを与える。

⑤都心居住推進のための用途別容積率指定と容積移転の併用 オフィスと住宅では発生・集中交通量のピーク時間がずれる性質 を活用し、オフィス・商業・住宅の用途別の容積率指定と容積移転 の併用により、建物内の用途混在を防ぎつつ、インフラ容量を上限 まで活用することが可能となる。

⑥交通、安全、防火、衛生上の審査手続きの簡素化

容積移転をより円滑に行い、取引費用を最小化することが重要で あることを踏まえ、一定の規模の容積移転までは交通、安全、防火、

衛生上の審査手続きを不要とするか、審査基準を明確にする。

<参考文献>

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pp.337-342 ほか

184 178 235 175 80

336 206 390

575 444

239

1,263

494 510

789

139 210

652

0 500 1,000 1,500

千代田区 中央区 港区 台東区 墨田区 江東区 移転元限定 移転元限定せず (参考)移転先推定容積需要

参照

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黒い、太く示しているところが敷地の区域という形になります。区域としては、中央のほう に A、B 街区、そして北側のほうに C、D、E

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