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暴対法の改正が犯罪に与える影響に関する研究

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Academic year: 2021

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暴対法の改正が犯罪に与える影響に関する研究

-威力利用資金獲得行為に係る代表者等の損害賠償責任が犯罪に与える影響の分析-

政策研究大学院大学 まちづくりプログラム MJU12608 坂井 康二

1. はじめに

我が国における,平成14年から平成23 年までの刑法犯の検挙件数は,平成16年の

66万 7,620 件をピークに減少傾向にある.

しかしながら,暴力団犯罪における刑法犯 の検挙件数については,若干の増減を繰り 返しながら,4 万件前後でほぼ横ばいの傾 向にある.

暴力団犯罪に対しては,平成3年5月に,

「暴力団員による不当な行為の防止等に関 する法律(以下「暴対法」という.)が制定 され,それ以降も,改正が繰り返されてき ているところであるが,その影響について 十分に実証的な分析がなされているとは言 い難く,法改正の意図しない影響が生じて いる可能性がある.

そこで,本稿では,平成20年の暴対法の 改正に係る代表者等の損害賠償責任が犯罪 に及ぼす影響について実証分析する.

実証分析においては,威力利用資金獲得 行為になりうる強盗罪・恐喝罪の検挙件数 が,法改正により,減少したこと及び威力 を利用しない資金獲得行為である窃盗罪・

詐欺罪が,法改正の結果,増加したことを,

統計的に有意に明らかにする.

結論を先に述べると,恐喝罪については 減少したことが 1%の水準で統計的に有意 に示された.詐欺罪については増加したこ

とが 10%の水準で統計的に有意に示され

た.強盗罪と窃盗罪については,統計的に 有意な結果を得られなかった.

2. 暴力団犯罪の現状と法改正の概要 2.1 暴力団犯罪の現状について

平成14年から平成23年までの暴力団犯 罪における強盗・恐喝・窃盗・詐欺の各犯 罪の検挙件数については,強盗罪は平成15 年の483件をピークに,減少している.恐 喝罪は平成15年の2,313件をピークに減少 している.窃盗罪は平成19年の27,914件 をピークに減少傾向にあったが,平成23年 には増加に転じている.詐欺罪は平成16年

の3,148件を底に増加傾向にある.

2.2 法改正の概要について

暴対法31条の2は,威力利用資金獲得行 為に係る代表者等の損害賠償責任を規定し た.

暴力団犯罪における直接の加害者は,末 端の構成員であることが大半で,資力に乏 しい場合が多く,本条の制定以前より,代 表者等に対する損害賠償請求がなされてお り,民法715条のいわゆる使用者責任の規 定に基づいて,責任を追及してきた.

しかし,使用者責任の規定による場合に は,立証が困難であるという問題があった.

そこで,被害者の立証責任を軽減し,損害 賠償を請求しやすくしたものである.

なお、威力利用資金獲得行為とは,恐喝 などであり,暴力団に典型的にみられる資 金獲得行為である.

本条を利用した組長訴訟については,警

(2)

2 察庁の資料1によると,損害賠償請求を提起 した事例が2件,損害賠償請求を提起した 後に和解が成立し和解金が支払われた事例 が3件あるほか,本条の適用を視野に準備 を進めた結果,和解が成立し和解金が支払 われた事例が1件ある.現在,係争中のも のを除くと,本条を利用して損害賠償を請 求した事例では,いずれも和解により解決 しており,判決に至った事案はない.

3. 理論分析

3.1 一般的な犯罪モデルについて

本稿では,合理的な意思決定者である犯 罪者について考える.犯罪者は,犯罪の費 用と,犯罪から得られる便益を比較して,

犯罪を実行するかどうか決定する.ここで,

犯罪の費用とは,期待刑罰であるが,期待 刑罰の引上げにより,人々の犯罪行動も変 化する可能性がある.たとえば,A罪の期 待刑罰が引上げられたとする.A罪を行う 費用が高くなったので,人々はA罪を犯す のを止め,B罪を犯すようになる.

このように,期待刑罰の引上げは,犯罪 行動を変化させ,犯罪の発生に影響を与え るものと考えられる.

3.2 強盗罪・恐喝罪に対する影響

強盗・恐喝の限界便益曲線を右下がりの 直線MB1とし,限界費用曲線を一定のM C1と仮定すると,強盗罪・恐喝罪の件数に ついては,次の図のように考えられる.

合理的意思決定者である潜在的犯罪者は,

限界便益が限界費用を上回る場合,すなわ ち,犯罪からの限界便益曲線と限界費用曲

―――――――――――――――――――

1 警察庁組織犯罪対策部暴力団対策課・企画分析課「平 21年の暴力団情勢」「平成22年の暴力団情勢」平成 23年の暴力団情勢」

線が交わるX1点まで,犯罪を実行する.

ここで,強盗罪・恐喝罪について,損害 賠償が請求しやすくなったことで,限界費 用曲線がMC1からMC2へ引き上げられる と,他の条件を一定とすれば,強盗罪・恐 喝罪の件数は限界費用曲線の上昇に伴い X1点からX2点へ減少する.

以上の分析より,強盗罪・詐欺罪につい て損害賠償を請求しやすくする法改正は,

強盗罪・恐喝罪の件数を減少させると考え られる.

3.3 窃盗罪・詐欺罪に対する影響

次に,窃盗罪・詐欺罪の件数に対する影 響について分析する.

前節で強盗罪・恐喝罪について考えたの と同様に,窃盗罪・詐欺罪について考える.

限界便益曲線を右下がりの直線MB2とし,

限界費用曲線を一定のMC3と仮定すると,

(3)

3 窃盗罪・詐欺罪の件数については,次の図 のように考えられる.

合理的意思決定者である潜在的犯罪者は,

限界便益が限界費用を上回る場合に犯罪を 実行することになる.すなわち,犯罪から の限界便益曲線と限界費用曲線が交わる X3点まで,犯罪を実行する.

ここで,強盗罪・恐喝罪について損害賠 償を請求しやすくすることによる期待刑罰 の引上げは,窃盗罪・詐欺罪により得られ る利益が相対的に大きくなることを意味す るため,窃盗罪・詐欺罪から得られる便益 を次の図のようにMB2からMB3へ増大さ せる結果,窃盗罪・詐欺罪の件数をX3点か らX4点へ増加させる.

以上の分析より,強盗罪・詐欺罪につい て損害賠償を請求しやすくする法改正は,

窃盗罪・詐欺罪の件数を増加させると考え られる.

4. 実証分析 4.1 推計モデル

理論分析により導かれた「威力利用資金 獲得行為に係る代表者等に対する損害賠償 責任が,強盗罪・恐喝罪の検挙件数を減少 させる反面,窃盗罪・詐欺罪の検挙件数を 増加させる」との仮説について実証分析を 行うため,平成14年から平成22年までの 都道府県別パネルデータを用いて推計する.

法改正ダミーによって検挙件数に及ぼす 影響を捉えたいので,被説明変数は,強盗 罪・恐喝罪・窃盗罪・詐欺罪の各犯罪にお ける検挙件数である.推定は最小二乗推定 法 (OLS) により行う.

4.2 推計結果

推計結果を以下に掲げる.

被説明変数

説明変数 係数 標準誤差

人口 0.001*** 0.000

65歳以上人口割合 0.084 0.149

歳出額 1.01E-08*** 9.19E-10

警察費割合 2.407*** 0.375

法改正ダミー -0.140 0.753

定数項 -21.805*** 4.163

決定係数 観測数

***,**,*はそれぞれ1%,5%,10%の水準で統計的に有意であることを示す 暴力団の強盗罪の検挙件数

0.868 423

被説明変数

説明変数 係数 標準誤差

人口 -0.004** 0.001

65歳以上人口割合 -0.480 0.480

歳出額 5.37E-08*** 2.93E-09

警察費割合 10.971*** 1.193

法改正ダミー -9.259*** 2.399

定数項 -58.713*** 13.255

決定係数 観測数

***,**,*はそれぞれ1%,5%,10%の水準で統計的に有意であることを示す 0.889

423 暴力団の恐喝罪の検挙件数

(4)

4 法改正ダミーの符号について,恐喝罪で はマイナスで,1%の水準で統計的に有意で あった.詐欺罪についてはプラスとなり,

10%の水準で統計的に有意であった.強盗 罪と窃盗罪については,統計的に有意な結 果は得られなかった.

4.3 考察

この分析の結果から,暴力団犯罪におけ る恐喝犯・詐欺犯は,予想どおり,代表者 等に対する損害賠償責任に反応しているこ とが示された.一方,強盗犯・窃盗犯につ いては,統計的に有意に反応しているとは いえなかった.

強盗犯については,もともと,組織の威 力を利用した態様の犯行が少なかったため に,損害賠償を請求しやすくなっても,有 意に減少しなかったものと考えられる.

また,窃盗犯については,詐欺犯に比し,

得られる利益が大きくならなかったために,

有意に増加しなかったものと考えられる.

5. 政策提言

以上の分析結果を踏まえて次の2つの政 策提言を行いたい.

まず,第1に,刑事罰と損害賠償責任と は連続しており,犯罪を抑止するための方 策として,損害賠償責任を規定するという 方法も考えられるのではないか,というこ とである.すなわち,犯罪抑止のためには,

刑事罰の引上げのみならず,損害賠償責任 を規定することも,効果的である可能性が 高い.とするならば,損害賠償の目的を被 害の回復だけにとどめるのではなく,一般 予防を目的とした損害賠償も認めてよいの ではないだろうか.

第2に,損害賠償責任による影響に対す る十分な検討の必要性である.すなわち,

損害賠償責任を規定することにより,威力 利用資金獲得行為が減少する可能性がある ことは,理論分析からもわかるとおり十分 に予想できたことである.とすると,代替 的に,他の犯罪が増加する可能性について も,十分に検討する必要があったのではな いだろうか.

6. 今後の課題

本稿の研究は,データ上の制約から,分 析できなかったものもあり,今後の課題と なろう.

法の制定・改正にあたっては,実証的な 分析を積み重ね,犯罪抑止策に反映させて いくことが期待される.

被説明変数

説明変数 係数 標準誤差

人口 0.242*** 0.039

65歳以上人口割合 -17.561 11.897

歳出額 3.32E-08 7.33E-08

警察費割合 -11.399 29.872

法改正ダミー 57.916 60.040

定数項 280.266 331.776

決定係数 観測数

***,**,*はそれぞれ1%,5%,10%の水準で統計的に有意であることを示す 0.639

423 暴力団の窃盗罪の検挙件数

被説明変数

説明変数 係数 標準誤差

人口 0.122*** 0.004

65歳以上人口割合 -0.666 1.280

歳出額 6.31E-08*** 7.89E-09

警察費割合 9.415*** 3.214

法改正ダミー 11.856 6.460

定数項 -65.131 35.699

決定係数 観測数

***,**,*はそれぞれ1%,5%,10%の水準で統計的に有意であることを示す 0.784

423 暴力団の詐欺罪の検挙件数

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