博 士 ( 農 学 ) 土 屋 雄 一 朗 学 位 論 文 題 名
種子形成を制御する因子に関する研究 学位論文内容の要旨
種子形成は植物の生活環の始点である。それゆえ、植物の生涯で起こりうる様々 な生命現象は、種子形成の過程で起こる現象と深く関わっていると考えられる。種 子形成を理解することは、植物の発生を理解する上で最も重要なことのーつであろ う。植物ホルモンABA (ahscisic acid) 、シ口イヌナズナABI3 遺伝子(ahScisicacid msensitive3 )、及びシ口イヌナズナFu 鉛遺伝子(n ぬca3 )に欠損を生じた突然変異 株では種子を形成する過程に様々な欠損を生じていることから、この3 つの因子は 種子形成に重要な因子だと考えられる。本研究ではこの3 つの因子に焦点を当て、
その機能を主に植物体を使って解析した。
fus3 突然変異株では、通常は発芽後に見られる現象が種子形成の段階ですでに見
られる。この突然変異株では、通常は本葉に形成されるトライコームが子葉で観察
され、子葉の細胞の形態も本葉の葉肉細胞に近く、乾燥耐性も獲得しない。このこ
とは、この突然変異株では通常は発芽後の段階で起こる発生プ口グラムが、種子形
成の段階に移行して起こっていることを示唆している。っまり、FUS3 遺伝子は、発
芽後の段階で起こる発生プ口グラムが、種子形成の段階で起こらないように、発生
プ□グラムを時間的に制御する機能を持っていると考えられる。一方、fus3 突然変
異株の種子での形質は、表皮細胞の発生に多面的な欠損を生じた皓突然変異によっ
て抑制されることがわかり、FUS3 遺伝子が制御する現象と表皮細胞の分化が何らか
の関わりを持っていることが考えられる。まず、種子形成の過程でのFUS3 遺伝子
のmRNA の局在を調べたところ、この遺伝子のmRNA は胚の表皮に局在しているこ
とがわかった。このことから、表皮で発現することがFUS3 遺伝子の機能発現に重
要であると考えられた。そこで、表皮で発現することがFUS3 遺伝子の機能発現に
十分であるかを検証するために、FU53 遺伝子をfus3 突然変異株の表皮細胞で強制
発 現 させ 、 ん鉛 突 然 変異 の 形 質を 抑圧す るかを解 析した。 子葉にト ライコー ムが形 成 さ れる 、 乾燥 耐 性 を獲 得 し ない 、とい った形質 を含め、 さまざま なfus3突然変 異 形 質 は、FUS3遺 伝子 を 表 皮細 胞 で強 制発現さ せること で抑圧さ れること がわかり 、 FUS3遺 伝 子 が表 皮 細 胞で 発 現す る こ とがFUS3遺 伝子 の 機 能発 現 に十 分 で ある と 考 え ら れ た 。 さ ら に、 表 皮でFU53遺 伝 子を 過 剰発 現 す るこ の 植 物は 、 植物 体 で も興 味 深 い表 現 型を 示 し た。 花 が 葉の 形態を 持った器 官に変化 し、カウ レン葉が 口ゼッ ト 葉 の形 態 を持 っ た 器官 へ と 変化 した。 機能欠損 夕イプのfus3突然変異 株では発 芽 丶
後の 発生プ口 グラムが 種子形成 の段階へと移行(juvenile transition)しており、機能 獲 得 夕 イ プ のFUS3遺 伝子 の 過剰 発 現 株で は 本葉 の 発 生プ □ グ ラム が 花へ 、 口 ゼッ ト葉 の発生プ口グラムがカウレン葉へ(adult transition)と移行していると考えられ、
FUS3遺 伝子は植 物の発生 プログラム を遅らせ る(juvenile transition)機能が あると 考 え ら れ る 。 ま た、 こ れら の 全 ての 現 象 が表 皮 で発 現 す るFUS3遺 伝 子に 起 因 する と 考 えら れ るた め 、FUS3遺伝 子 は表 皮細胞か ら器官全 体へと細 胞間を移 行する何 ら か の 因 子 の 発 現 を制 御 して 、 あ るい はFUS3夕ン パ ク 質自 身 が 細胞 間 を移 行 し て植 物の発生プ口グラムを制御している可能性が考えられる。
ABAはFUS3遺 伝 子 と 同 様 、 種 子 形 成 に 重 要 な 因子 で あ ると 同 時に 、 植 物体 で は 乾 燥 や塩と いったス トレスに対 する耐性 の獲得に 重要な因 子である 。そのた め、ABA の生合成に欠損を生じたaba2 (abscisic acid deficient2)突然変異株の植物体はこうい っ た ス卜 レ スに 弱 く 、萎 れ や すい 。abi3突然 変 異 株はABAに対 す る感受性 が低下し て お り、fus3突 然変 異 株 と同 様 に種 子を形成 する過程 に様々な 欠損を生 じている 一 方 で 、aba2突然 変異株と は異なり、 植物体は 萎れやす くはない 。このこ とから、ABA を 認 識して 作用を示 すまでの過 程に欠損 を生じたabi突然変異 株の中で も、種子 に特 異 性 の高 い 因子 に 欠 損を 生 じ たも のだと 考えられ る。aba2突然 変異株の 植物体で 見 ら れ る萎 れ やす い と いう 形 質 を抑 圧する サプレッ サー突然 変異株を スクリー ニング し た 結 果 、 形 態 的な 欠 損を 伴 っ た突 然 変 異株 に 加え 、ABI3あ るい はFUS3遺伝 子 を 植 物 体 で 過 剰 発 現 し た 時 に 見 ら れ る 形 質 を 示 す も の が 分 離 さ れ た 。
種子 形 成 を制 御 するFUS3遺 伝 子は 植 物体 で も 機能 す るこ と が でき 、 その機能は 種 子 形成 に おけるこ の遺伝子 の機能と 深く関わ っている と考えら れた。また 、乾燥 耐 性 と い う 形 質 を 通 して 、ABA、ABI3遺 伝 子、FUS3遺 伝 子は 植 物体 で も 何ら か の
関わりを持っていると考えられた。種子形成を制御する因子の機能を通して、種子
形 成 で 起 こ る 現 象 と 植 物 体 で 起 こ る 現 象 の 関 係 に つ い て 考 察 し た 。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
種子形成を制御する因子に関する研究
種子 形成 は植物の生活環の始点であり、植物の 生涯で起こりうる様々な生命現象は種子形 成 の過 程で 起こる現象と深く関わっていると考え られる。植物ホルモンのーつであるアブシ ジン酸の生合成に欠損を生じた変異株や、シ口イヌナズナのABI3 (abscisic acけ!恥en釘dyeg 遺伝子およびFひ1)3(′U・卿9遺伝子に欠 損を生じた変異株では種子を形成する過程に様々 な 欠損 を生 じる こと から 、こ れ ら3つの因子は種 子形成に重要な役割を担っていると考えら れ る。 本論 文は この3つの 因子 に焦 点を当て、そ の機能を植物体レベルで解析したものであ る。
′U53変異株では、通常は発芽後に見られ る現象が種子形成の段階ですでに見られる。この 変 異株 では 通常は本葉に形成される毛であるトラ イコームが子葉で観察され、子葉の細胞の 丶
形 態も 本葉 の葉肉細胞に近く、乾燥耐性も獲得し ない。このことは、この変異株では通常は 発 芽後 の段 階で起こる発生プログラムが、種子形 成の段階に移行して起こっていることを示 唆 して いる 。っ まり 、Fu鉛遺 伝 子は 、発 芽後 の段 階で 起こ る発 生プ口グラムが種子形成の 段 階で 起こ らないように、発生プ口グラムを時間 的に制御する機能を持っていると考えられ る。′u53変異株の種子が示す形質は、表皮細胞の発生に多面的な欠損を生じた略(鰤叩册・nr 螂fa呂W)ra)変異によって抑制されること がわかり、Fめ3遺伝子が制御する現象と表皮細胞 の 分化 が何 らか の関 わり を持 っ てい ることが考えられた。種子形成の過程で のFひ弼遺伝子 のmRNAの 局 在 を 調 べ た 結 果 、 こ の遺 伝子 のmRNAは 胚の 表皮 に局 在し てい るこ とが わか っ た 。こ のこ とか ら、 表皮 で発 現 する ことがFひ野 遺伝子の機能発現に重要であると考えられ た 。そ こで 、表 皮で 発現 する こ とがFu鉛 遺伝 子の 機能 発現 に十 分であるかを検証するため に、Fu弼遺伝子 をんs3変異株の表皮細胞で強制発現させ、′Us3変異の形質を抑圧するかを解 析した。子葉に トライコームが形成される、および乾燥耐性を獲得しないという形質を含め、
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哲
士 之
哲
雅
藤 原
川
内 田
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授 授
授
教
教 教
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査 査
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主 副
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さ まざ まなfus3変異 株の 形質 は、FU53遺伝 子を 表皮細胞で強制発現させるこ とで抑圧され る こと がわ かり 、FUS3遺 伝子 が表 皮細 胞で 発現 することがFU53遺伝子の機能 発現に十分で あると考えられた。さら に、表皮でFUS3遺伝子を過剰発現するトランスジェニッ ク植物は、
種子以外でも興味深い表 現型を示した。即ち、花が葉の形態を持った器宮に変化 し、カウレ ン葉がロゼッ卜葉の形態 を持った器官へと変化した。機能欠損型のfus3変異株で は発芽後の 発 生プ ログ ラム が種 子形成の段階へと移行してお り(juvenile transition)、 機能獲得型の F U53jg伝 子の 過剰 発 現株では本葉の発生プ口グラムが花ヘ、口ゼット葉の発 生プ口グラム がカウレン葉へとそれぞ れ移行している(adult transition)と考えられ、FUS3遺 伝子は植物 の発生プ口グラムを遅らせる(juvenile transition)機能があると考えられる。また、これらの 全 ての 現象 が表 皮で 発現 するFUS3遺伝 子に 起因 すると考えられるため、FUS3遺伝子は表皮 細 胞か ら器 官全 体へ と細 胞間 を移 行す る何 らか の因子の発現を制御して、あ るいはFUS3夕 ン バ ク 質 自 身 が細 胞問 を移 行し て 植物 の発 生プ 口グ ラム を制 御し てい ると 考え られ る。
アブ シジ ン酸 はFUS3遺 伝子 と同 様、 種子 形成 に重要な因子であると同時に 、植物体では 乾燥や塩などのストレス に対する耐性の獲得に重要な因子である。そのため、ア ブシジン酸 の生合成に欠損を生じたaba2 (abscisic a̲cfdde触ぬm酋変異株の植物体はこれらのス卜レスに 弱く、萎れやすい。また 、a6ロ変異株はアブシジン酸に対する感受性が低下しており、′ 鉛 変異株と同様に種子を形 成する過程に様々な欠損を生じている一方で、aぬ2突然 変異株とは 異なり、植物体は萎れや すくはない。このことから、アブシジン酸を認識して作 用を示すま での過程に欠損を生じたa汾変異株の中でも、aHヨ変 異株は種子に特異性の高い因子に欠損を 生じたものだと考えられ る。aぬ2突然変異株の植物体で見られる萎れやすいとい う形質を抑 圧する変異株をスクルー ニングした結果、形態的な欠損を伴った変異株に加え、AB.f3ある い はFぬ め 童 伝 子 を 植 物 体 で 過 剰 発 現 し た 時に 見ら れる 形質 を示 すも のが 分離 され た。
これらの結果により、 種子形成を制御するFひ沼遺 伝子は植物体でも機能することができ、
その機能は種子形成にお けるこの遺伝子の機能と深く関わっていることを明らか にした。ま た 、乾 燥耐 性と いう 形質 を通 して 、ア ブシ ジン 酸、AB13およびFUS3因子は植 物体において も機能を持つことを示し た。
よっ て審 査員 一同 は、 土屋 雄一 朗が 博士 (農 学)の学位を受けるのに十分 な資格を有す るものと認めた。