博 士 ( 歯 学 ) 南 部 聡
学 位 論 文 題 名
インプラント体周囲の早期骨変化量と粘膜の TNF ーnmRNA の発現
学位論文内容の要旨
【緒 言 】 歯を喪失 した歯列 に対する 補綴治療 である歯 科インプ ラント治療 は,現在 広く臨 床で 行 わ れるよう になった .近年で は、ブロ ーネンマ ルクイン プラントシ ステムの コンセ プト を 基 盤として ,ハイド ロキシア パタイト をチタン 表面にコ ーティング する技術 的改良 も加 え ら れている .しかし 、さまざ まな改良 が加えら れた現在 に至っても 、予後不 良とな る症例がみられる,
Tumor necrosis factor (TNF)‑a,、活性化マクロファージが産生する代表的なサイトカインで ある.単 球やりン パ球もさ まざまな刺 激により このTNF‑Qの産 生が誘導 され,生理作用は,
炎 症 , 免 疫 反 応 , 細 胞 増 殖 や 分 化 の 促 進 な ど 多 岐 に わ た る こ と が 知 ら れ て い る . 本 研 究で は ,イ ン プ ラン ト 治療 の2次 手術時 に採取し たインプ ラント体直 上粘膜組 織中 のTNF‑a mRNA発現 とインプラ ント体周 囲の骨変 化量を調 べた.イ ンプラン ト患者の性 差,
上下 顎 差 ,喫煙の 有無なら びに粘膜 裂開の有 無と早期 骨変化量 及びインプ ラント体 直上粘 膜 組 織 のTNF‐amRNA量 の 関 係 を 調 べ 、 そ れ ら の関 係 に っい て 明ら か に する こ と を目 的 とした.
【方 法 】 研究 対 象と し た イン プ ラン ト 症 例は 、2004年3月か ら2005年7月 までの期間 に,
るも い 南 歯科クリ ニックお よび上士 幌歯科ク リニック において ,インプラ ント治療 の適応 があ る と 診断し, スプライ ンインプ ラントを 埋入した 患者のイ ンプラント 上顎48本, 下顎 70本 、 合 計118本 を 研究 対 象と し た .研 究 対象 と し た患 者 は 男性13名 、 女 性41名 ,イ ン プラ ン ト 埋入 時 にお け る 年齢 は21歳 か ら75歳で 平均年齢 は55.1歳で あった,問 診にて代 謝性 疾 患 を有する 患者及び 埋入手術 時に歯槽 骨の著し い吸収や 萎縮のため 骨移植術 もしく は骨造成 術を行っ た症例は ,治療機転 の平均化が難しいと判断し本研究対象から除外した・
使用 し た インプラ ント体は ,ハイド ロキシア パタイト コーティ ングされた チタン製 フィク スチ ャ ー であ り ,2回法 に よ って 行 った .埋 入手術は スライド に示す様に 通法に従 い実施 した・
イ ン プラ ン ト埋 入 手 術時 と2次 手術 時 に,イ ンプラン トの近心 ,遠心,頬 側及び舌 側の 4点 にっ い て, イ ン プラ ン ト 上縁 か ら骨 頂上 縁までの 距離をイ シプラント 頂間距離 を測定 し、 早 期 骨変化量 を算出し た.また 、2次手術 時にイン プラント 体直上粘膜 を採取しTNF− amRNA発 現 量 をRTIPCR法 に よ っ て DNA断 片 を 増 幅 し2% ア ガ ロ ー ス ゲ ル に て 電 気 泳
動,エチ ジウムブ ロマイド で30分染色 後,紫外線 イルミネ ーター上 で写真撮 影した.TNF‑
の の 増 幅 さ れ たDNAの バ ン ド の 濃 度 を 定 量 化 し た . 早 期 骨 変 化 量 ,TNF‑のRNA量 の 測 定値及ぴ両者の関係は,Student st‑ testにて検定し、Pく0.05を有意水準とし統計処理した・
【結果】 早期骨変 化量は、 男女差、 上下顎差に 有意な差 は認めな かったが 、粘膜裂開部に おいて粘 膜非裂開 部と比べ て値が大 きく,その 差は有意 であった .早期骨 吸収量がプラス で あ っ た 粘 膜 のTNF‑a mRNA量 は , 早 期 骨 吸 収 量 が0以 下 であ っ た粘 膜 に 比べ 高 い値 で あり , 両 者の 間 には 有 意 な差 が 認め ら れ た.TNF_ のRNA量は,粘 膜裂開の 有無,喫 煙習 慣の有無 において 差が認め られたが ,性差や患 者の年齢 の年代別 による差 は認められなか った.
【考 察 】 本研 究 では ,2回法イ ンプラン トシステ ムにおいて ,埋入か ら補綴物 による荷 重 負荷 前 の2次 手術 時 まで の 期 間に お ける イ ン プラ ン ト体周囲 の骨の変 化を調べ た.118本 のイ ン プ ラン ト のう ち ,83本す なわち7013% のインプ ラントでは 早期骨吸 収量が0よ り大 きく,イ ンプラン ト体周囲 での歯槽 骨が吸収き れた結果 と考えら れた.他 方,骨吸収量が 0も しく は マ イナ ス を示 し,歯 槽骨が増 加したか のような症 例もあり ,必ずし もこの期 間 に歯槽骨 吸収が生 じるとは 限らず, 何らかの要 因がこれ ら骨吸収 に関与す るものと考えら れた.
インプラ ント治療 では,一 般にイン プラント体 を埋入す る骨が緻 密である 程,その予後 は良好で あると考 えられて いる.早 期骨吸収量 が下顎に 比べて上 顎で大き な値を示したの は,韜そ らくこの 骨の性状 の違いに よるのでは ないかと 考えられ た.患者 の性別により早 期骨吸収 量に違い が認めら れなかっ たことから ,性差に よる骨の 性状の違 いの程度はイン プラント 体に与え る影響が 小さいで あろうと考 えられた.粘膜の裂開の有無によるI早期骨 吸収量の 差は,粘 膜の裂開 により裂 開部位に生 じた炎症 によって 骨吸収が 促進された可能 性が考えられた.
早 期 骨吸 収 量が プ ラ スで あ っ たイ ン プラ ン ト 体の 直上粘膜 組織では ,TNF‐amRNAの発 現量が, マイナス であった 粘膜より も高い値を 示したの は,早期 に骨吸収 が生じたインプ ラント症 例の粘膜 には炎症 が生じて いた可能性 が考えら れた.本 研究では ,粘膜組織中の どの 細 胞 がこ のmRNAを発 現 し てい る か, ま た サイ ト カインとし て活性を 有するタ ンパク 質を産生 している か明らか にはできなかったが,これらイ.ンプラント症例では,何らかの 刺激 に よ り粘 膜 組織 に 炎 症が 生 じ,TNF.QmRNAの 産生が 上昇した可 能性が考 えられた . 粘 膜 裂 開 を 起 こ し た イ ン プ ラ ント 症 例で , 直 上粘 膜 組織 のTNFニamRNA量が 多 かっ た のは,お そらく裂 開部位の 炎症によ る可能性が 考えられ た.喫煙 は,歯周 疾患やインプラ ント周囲 炎の発症 や進行を 促進する と一般に言 われ,イ ンプラン トの臨床 成績との相関性 が報 告 さ れて い る. 本 研 究で 粘 膜組 織 のTNF‐QmRNA量が 喫煙経験者 の方が非 喫煙経験 者 より多か ったとい う結果は ,おそら く喫煙のよ る炎症の 程度など を反映し ている可能性が 考えられた.
【結 論 】 イン プ ラン ト 治 療2次手 術 時の 粘 膜 組織 中 のTNF‐ のRNA量 を 測 定し た とこ ろ,
早期骨吸 収量と関 係がある ことが明 らかになっ た.粘膜 組織中のTNF‐aの産生 が早期骨吸 収量をあ る程度反 映してい る可能性 も考えられ ,インプ ラント治 療の予後 を推測しうるー
っの指標となりうる可能性を示唆したと考えられた.
ー670一
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
インプラント体周囲の早期骨変化量と粘膜の TNF‑amRNA の発現
審 査 は , 全 審 査 委 員 出 席 の も と , 学 位 申 請 者 に 対 し て 提 出 論 文 の 内 容 の 説 明 を 求 め た . 学 位 申 請 者 か ら は 以 下 の 内 容 の 論 述 が な さ れ た .
歯 を 喪 失 し た 歯 列 に 対 す る 補 綴 治 療 で あ る 歯 科 イ ン プ ラ ン ト 治 療 は , 現 在 広 く 臨 床 で 行 わ れ る よ う に な っ た . し か し 、 さ ま ざ ま な 改 良 が 加 え ら れ た 現 在 に 至 っ ても 、予 後不良となる症例がみられる. Tumor necrosis factor (TNF)‑aは,活性化マ ク ロ フ ァ ー ジ が 産 生 す る 代 表 的 な サ イ ト カ イ ン で あ る . 単 球 や り ン パ 球 に お い て も さ ま ざ ま な 刺 激 に よ り こ のTNF‑aの 産 生 が 誘 導 さ れ , 炎 症 , 免 疫 反 応 , 細 胞 増 殖 や 分 化 の 促 進 な ど 生 理 作 用 は 多 岐 に わ た る こ と が 知 ら れ て い る . 本 研 究 で は , イ ン プ ラ ン ト 治 療 後 の 早 期 骨 変 化 量 と イ ン プ ラ ン ト 治 療 の2次 手 術 時 に 採 取 し た イ ン プ ラ ン ト 体 直 上 歯 肉 組 織 のTNF‑a mRNA量 の 関 係 を 調 べ 、 イ ン プ ラ ン ト 患 者 の 性 差 , 上 下 顎 差 , 喫 煙 の 有 無 な ら び に 歯 肉 裂 開 の 有 無 と そ れ ら の 関 係 に っ い て 明ら かに する こと を目 的と した .
研 究 対 象 と し た イ ン プ ラ ン ト 症 例 は 、2004年3月 か ら2005年7月 ま で の 期 間 に , る も い 南 歯 科 ク リ ニ ッ ク お よ び 上 士 幌 歯 科 ク リ ニ ッ ク に お い て , イ ン プ ラ ン ト 治 療 の 適 応 が あ る と 診 断 し , ス プ ラ イ ン イ ン プ ラ ン ト を 埋 入 し た 患 者 例 で , イ ン プ ラ ン ト 数 は 上 顎48本 , 下 顎70本 、 合 計118本 で あ る . 対 象 患 者 は 男 性13名 , 女 性41名 , イ ン プ ラ ン ト 埋 入 時 に お け る 年 齢 は21歳 か ら75歳 で 平 均 は55.1歳 で あ っ た . 使 用 し た イ ン プ ラ ン ト 体 は , ハ イ ド ロ キ シ ア パ タ イ ト コ ー テ ィ ン グ さ れ た チ タ ン 製 フ ア ク ス チ ャ ー で あ り , 埋 入 手 術 は 通 法 に 従 い2回 法 に よ っ て 行 っ た , イ ン プ ラ ン ト 埋 入 手 術 時 と2次 手 術 時 に , イ ン プ ラ ン ト の 近 心 , 遠 心 , 頬 側 及 び 舌 側 の4点 に つ い て , イ ン プ ラ ン ト 上 縁 か ら 骨 頂 上 縁 ま で の 距 離 ( イ ン プ ラ ン ト 頂 問 距 離 ) を 測 定 し , 早 期 骨 変 化 量 を 算 出 し た . ま た 、2次 手 術 時 に イ ン プ ラ ン ト 体 直 上 歯 肉 を 採 取 し ,Rl、 ・ .PCR法 に よ っ てDNA断 片 を増 幅し ,2%ア ガロ ース ゲ ル に て 電 気 泳 動 , エ チ ジ ウ ム ブ ロ マ イ ド で30分 染 色 後 , 紫 外 線 イ ル ミ ネ ー タ ー 上
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人則 郎 正靖 敦 村塚 山 田戸 横 授, 授授 教教 教 査査 査 主副 副
で写真撮影した. TNF‑a mRNAの増幅されたI)NAのバンドの濃度を定量化した.
早期骨変化量,TNF‐qmRNA量の測定値及び両者の関係は,Student st‐testにて検 定し、PくO.05を有意水準とし統計処理した.
本研 究で は,2回法 イン プラ ント シス テム におい て, 埋入 から 補綴 物による荷 重 負荷 前の2次手 術時 まで の期 間に おけ るイ ンプラ ント 体周 囲の 骨の 変化を調べ た .早 期骨 変化 量は、 男女 間な らび に上 下顎間で有意な差は認めなかったが、歯 肉 裂開 部で は歯 肉非裂 開部 に比 べて 値が 大きく,有意差を認めた.早期骨吸収量 が プ ラ ス で あ っ た 歯 肉 のTNF‐amRNA量は , 早 期 骨 吸 収量がO以 下で あっ た歯 肉 に 比 べ 高 い 値 で あ り ,両 者の間 に有 意差 が認 めら れた .TNF‐amRNA量は ,歯 肉 裂 開の 有無 ,喫 煙習慣 の有 無と の差 がみ られたが,性ならびに患者の年代間では 差は認められなかった.
インプラント治療では,一般にインプラント体を埋入する骨が緻密であるほど,
そ の予 後は 良好 である と考 えら れて いる .早期骨吸収量が下顎に比べて上顎で大 き な値 を示 した のは, 骨の 性状 の違 いに よるものと考えられた.歯肉裂開の有無 に よる 早期 骨吸 収量の 差は ,裂 開部 に生 じた炎症によって骨吸収が促進されたも のと推測された・
早 期 骨吸 収 量 が プ ラ ス で あ っ た イ ン プ ラ ン ト 体 の 直 上 歯 肉 組 織で ,TNF‐a mRNAの 発 現 量 が 高 い 値を 示した のは ,早 期に 骨吸 収を 生じ た症 例の 歯肉 では 炎 症 が生 じて いた ことを 示す もの と考 えら れた.歯肉裂開を起こしたインプラント 症 例 でTNF‐amRNA量 が多 かった のは ,裂 開部 の炎 症に よる もの と考 えら れた . 本 研究 より ,歯 肉組織 中のTNF‐aの 産生 が早期骨吸収量をある程度反映している と 考え られ ,イ ンプラ ント 治療 の予 後を 推測しうるーつの指標となりうる可能性 を示唆したと考えられた.
以 上の 論述 に引 き続 き, 各審 査委 員よ り提 出論文の内容にっいて口頭により質 疑が 行わ れた .主 な質 疑項 目は ,TNF‑aに 注目 した 理由 ,歯 肉試 料の 採取 方法に っい て, 統計 処理 の妥 当性 につ いて ,早 期骨 変化量の測定方法について,創傷治 癒の 観点 から 考察 した イン プラ ント の予 後と 本研究の位置付けについて,喫煙に よる 歯肉 に対 する 影響 とニ コチ ンの 薬理 作用 について,上顎で骨吸収の大きい原 因に 関す る考 察に っい て, 早期 骨変 化量 と炎 症との関連性等であった。また,本 研究 の背 景と なる 骨吸 収の 機構 につ いて など 多岐にわたる関連事項の試問も行っ た. 学位 申請 者か らは ,い ずれ の質 問に 対し ても適切な回答が得られ,今後の研 究の 方向 性に つい ても 展望 が示 され た.
本 論 文 は , イ ン プ ラ ント 埋入 後の 早期 骨吸 収量 と歯 肉のTNF‑a mRNAの発 現量 との 間に 関連 があ るこ とを 見出 した 点が 評価 され,この業績は,今後の歯学研究 の発 展に 寄与 する もの と考 えら れた .加 えて ,試問の結果より学位申請者は十分 な学 識を 有し てい るこ とが 認め られ た. 従っ て,学位申請者は,博士(歯学)の 学位 を授 与さ れる にふ さわ しい と認 めら れた .