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博 士 学 位 論 文 審 査 要 旨

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Academic year: 2021

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(1)

[博士-審査要旨]

博 士 学 位 論 文 審 査 要 旨

学位申請者氏名 佐野 文哉

論 文 題 目 統計的因果推論と医学研究への統計手法の適用 審査委員(職名・氏名・印)

主 査 教 授 岩崎 学

審査委員 教 授 小口喜美夫

教 授 中野有紀子 教 授 山岡 和枝

論文審査結果(合 否) 合 格

論文審査の要旨

ある処置に効果があるか,またあるとすればそれはどの程度の大きさなのかということはすべて の科学研究において非常に重要な問題である.様々な研究において,「処置と結果の間に相関関係が あった」というような文脈を目にすることがあるが,相関関係は必ずしも処置の結果に対する因果 効果を意味しているとは限らない.ある処置に効果があるかどうかを示すためには,単なる相関関 係ではなく,処置と結果の因果関係について推論しなければならない.ある処置の効果を検証する にあたり,データに基づいて定量的に評価するための方法論のことを統計的因果推論と呼ぶ.本論 文は,統計的因果推論における問題について扱ったものである.

本論文は,大きく2部構成となっている.第1部は,統計的因果推論において実験研究と観察研 究の2種類の研究デザインで生じる問題について議論している.各研究デザインにおいて,解決し ていない問題に対する1つの解答と,新たに提案したモデルの有用性を示している.第2部は,医 学研究において統計手法を適用した結果を報告している.多くの医学研究の目的は,治療を含んだ 介入の効果を調べることにある.それぞれの研究では介入の効果を調べており,因果推論の枠組み で考えている.

序章である第1章では,統計的因果推論に関する包括的な説明と研究の動機,および本論文の構 成を述べている.そして最後の第5章では,本論文で得られた知見のまとめと今後の研究課題を示 す章となっている.これら2つの章を除いた第2章から第4章までの3つの章は,本学位申請論文 の中核をなし,申請者の公刊論文5編(うち筆頭著者1編)と査読中論文(筆頭著者)1編のそれ ぞれに対応したものとなっている.以下で各章の内容を簡単に説明する.

第1部は,第2章および第3章からなり,実験研究と観察研究における統計的因果推論の問題に ついてそれぞれ扱っている.前者は,実験研究において,割付けられた処置に従わないようなノン コンプライアーが存在する場合には,通常の解析方法は用いることはできず,操作変数推定量など で処置効果の推定を行うが,さらにこのモデルを拡張して,見かけ上のノンコンプライアーが存在 する場合の定式化を行い,感度分析により処置効果の検討を行っている.後者は,観察研究におい て,傾向スコアマッチングされた個体間の距離を導出し,その後の解析方法について議論している.

(2)

[博士-審査要旨]

論文審査の要旨(続)

第2章は,「見かけ上のノンコンプライアンスが存在する場合の因果効果の感度分析の一例」と称 される章である.ここでは,大学の授業において学科あるいは学部の学生を一定数ごとに複数のク ラスに分け,同一の内容の授業を行ったクラス間での学生の成績のデータを扱っている.一般に,

同一内容の授業を行ってクラス間で成績が違うことは問題であるが,ある2クラス間の授業の成績に は単純に比較を行ったときに差が見られた.学生の学籍番号で1限目のクラスと2限目のクラスに決 められていたので,ある意味ランダム化が行われている.2クラス間の授業内容に差があるわけでは ないため,この結果は直感に反するものである.実は,この授業の裏に別の内容の授業が開講され ており,1限目に割り当てられた学生は2限目に移動し,2限目に割り当てられた学生は1限目に移動 することが可能であった.そのため,ノンコンプライアンスが生じている状況であり,従来から提 案されているような方法を適用できる.しかしそれでも満足のいく結果とならなかったことから,

本論文で提案している見かけ上のノンコンプライアーを考慮したモデルを考えている.

見かけ上はノンコンプライアーであるが,その本質はコンプライアーである個体が存在する場合 の新しいモデルを導入し,その下でのパラメータの推定に関する感度分析の一方法を与え,実際の データに適用した.データの単純な集計のみでは結果の解釈を誤る危険性がある.本論文では,当 初割り当てられた授業に対し,別の授業を受講した学生を見かけ上のノンコンプライアーとして扱 い,その下でのパラメータの推定により,ナイーブな推定結果と異なる結論が得られることを示し た.提案したモデルでの分析の結果は,直感とも合致するような妥当な結果であった.

第3章は,「傾向スコアマッチングされた個体間の距離と検出力に関する評価」と称される章であ る.医学分野では観察研究における交絡因子の調整法として,傾向スコアマッチングに注目が集ま っている.傾向スコアマッチングは,処置群と対照群間での比較可能性を高め,適切な因果効果を 推定することが比較的容易にできるため,様々な研究分野で使用されている.傾向スコアマッチン グは非常に強力な統計手法であるが,実際にデータに適用するためには様々な問題がある.問題の1 つとして傾向スコアマッチング標本を作った後の統計的有意検定に用いる解析手法があげられる が,独立な解析と対応のある解析のどちらを用いるかについては多くの議論がなされているものの,

未だに解決されていない.一般に,傾向スコアマッチングは処置群と対照群の間で マッチング標本 の共変量の分布が同じとなることは保証されるが,マッチされた個体間の距離が近くなること,す なわち各共変量が近いかどうかということは保証されない.しかしながら,もし個体間の近さが比 較的近いのであれば,その標本では対応のある解析を用いた方が良いと考えられる.これらのこと から,独立な解析と対応のある解析のどちらを用いるかという議論を行うためには傾向スコアマッ チングされた個体間の距離を評価しなければならない.さらに,個体間の近さのアウトカムの比較 への影響についても考える必要がある.

ここでは,因果パラメータの推測において,マッチングしたという事実を反映させるべきかどう かという問題について議論している.まず,共変量が2値の互いに独立な特別な場合の傾向スコアマ ッチングした個体間の距離の期待値を導出している.この導出されている傾向スコアマッチングさ れた個体間の距離の期待値を共変量が2値の互いに独立な全ての場合に一般化し,さらに共変量が連 続の場合へと拡張した.マッチされた個体間の近さは,マッチした個体間の共変量に関してユーク リッド距離の2乗として定義している.共変量は互いに独立な2値の場合と多変量正規分布に従う場 合の2種類を考えている.独立な解析と対応のある解析のどちらを用いるかという議論のため,傾向

(3)

[博士-審査要旨]

論文審査の要旨(続)

スコアマッチングされた個体間の距離だけでなく,それぞれの解析手法における統計的検出力の観 点から考察することも重要である.本論文では,傾向スコアマッチングされた個体間の距離の評価 と,いくつかの設定の下での,マッチング標本に対する独立な解析と対応のある解析の検出力の比 較を行っている.

第1部では,統計的因果推論における各研究デザインの問題について論じ,第2部では,医学研 究のデータに統計手法を適用した結果を論じている.4.1節は「大腸菌の成長への硬膜外麻酔の影響 – リポカリン2経路の役割」,4.2節は「集中的スタチン療法はC反応性蛋白を安定させるが,エベ ロリムス溶出性ステントを留置した安定冠動脈疾患におけるケモカインは安定しない」,4.3節は「ST 上昇型心筋梗塞に対する経皮的冠動脈形成術後の左室リモデリングの悪化への水素ガスの吸入の効 果」,4.4 節は「慢性血栓塞栓性肺高血圧症患者における肺血潅流の評価に対する lung subtraction iodine mapping CT の診断精度」を議論している.

4.1節では,硬膜外麻酔が炎症性サイトカインおよび抗炎症性サイトカインの発現に影響するかど うかを調べている.硬膜外麻酔が炎症性サイトカインおよび抗炎症性サイトカインの発現に影響を 及ぼすことを期待したが,硬膜外麻酔の有無には有意差は認められなかった.リポカリン-2発現と 硬膜外麻酔の抗炎症効果との関係を明らかにするためにはさらなる研究が必要である.4.2節では,

脂質低下効果に加えて,全身性炎症マーカーの時間経過に対する集中型スタチン療法の効果を検証 している.標準的なスタチン療法と比較して集中的なスタチン療法は,血清LDL-Cとトリグリセリ ドの大幅な低下に加えて,治療後12ヶ月の血清hs-CRPも大幅に低下し,血漿hs-CRPは,集中型 スタチン治療群においてより安定していた.また,本研究の結果は,集中型スタチン療法が1年間

の血清hs-CRPの変動を持続的に安定させることができることも示した.4.3節では,ST上昇型心筋

梗塞に対する経皮的冠動脈形成術後の水素ガス吸入の実現可能性および梗塞サイズや左収縮機能低 下への効果を調べている.経皮的冠動脈形成術中の水素ガス吸入治療が ST 上昇型心筋梗塞患者の ために実行可能かつ安全な治療選択肢であり,経皮的冠動脈形成術後の有害な左収縮機能低下を予 防する可能性があることを示した.4.4節では,慢性血栓塞栓性肺高血圧症の既知または疑いのある 患者の肺動脈灌流のセグメントベース評価に関するLSIM CTの診断性能を評価している.読影者の 経験年数や知識に違いにかかわらず,両方の読影者によるLSIM画像の診断精度は同様に良い結果 であった.本研究では50例の患者しかおらず,これらの所見を確認するためにより大きな規模での 研究が必要とされるが,LSIM は慢性血栓塞栓性肺高血圧症を有する患者における肺動脈灌流のセ グメントベースの評価のための実現可能な技術であることが示された.

本論文は, 統計的因果推論に関する問題に関して,理論的ならびにシミュレーション研究に基づ いた考察から,実際に応用され得る結果と判断できる.また,医学研究において統計的因果推論の 枠組みから考え,新たな知見を得ている.論文内容は統計理論と実用の2つの視点をバランスよく 意識したもので,博士(理工学)の学位にふさわしいものである.

(以 上)

参照

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