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眼球運動測定装置を用いた

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Academic year: 2021

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博 士 ( 文 学 ) 谷 田 林 士

学 位 論 文 題 名

眼球運動測定装置を用いた 1 回限りの囚人のジレンマ研究 学位論文内容の要旨

  本 論文は囚 人のジ レンマ 、特に 繰り返 しのな い1回限 りの囚 人のジレンマにおける協力行動の 基盤 にある 心理メ カニズ ムの解 明を目 指して 申請者が 実施し た、計3回の視線測定実験の結果を まとめたものである。申請者は囚人のジレンマの利得表をコンピュータ画面上に提示し、協力・非 協カ の選択 にあた ってプ レイヤ ーが利 得表の どの部分 に注目 するか を眼球 運動測 定装置 を用い て詳 細に測 定した 。利得表上のプレイヤーの視線の動きの分析を通して、これまで1回限りの囚人 のジ レンマ におけ る協力 行動を 説明す るために提案されてきたニつの理論である、効用変換仮説 と社 会的交 換ヒュ ーリス ティッ ク仮説 の妥当性を検討することが、本論文の主たる目的である。

  囚人のジレンマで、同じプレイヤーの間でゲームが繰り返される場合(繰り返しゲーム)に相互協 力状態が達成されやすくなることはよく知られており、そうした状況での協力行動は長期的な戦略 行動という観点から説明されている。しかし、囚人のジレンマ・ゲームが特定の相手との間で1回だ けプレイされる場合には、長期的な戦略行動の観点から説明することはできない。これまでの囚人 のジレンマ研究では、そうした1回限りのゲームでもかなりの率(多くの場合、20%から60%程度)で 協力 行動が 観察さ れてい るが、 そうし た協力行動は、人間は自己利益を合理的に追求するという 合理 的人間 モデル の観点 からも 、人間 を含む 有機体は 包括適 応度を 増やす 行動傾 向を進 化させ るという進化モデルの観点からも説明できなぃ。

  1回 限りの 囚人のジ レンマにおける協力行動を説明するためには、これまで大きく分けてニっの モデ ルが提 案され ている 。一っ は、人 間は自己利益以外の目標に対する選好を持っているという モデルである。っまり、囚人のジレンマのプレイヤーが、自分の利益だけではなく相手の利益から も主 観的な 満足を 得てい るので あれば 、協カの手を選択した場合の満足度が、非協カの手を選択 した場合の満足度を上回る可能性が生まれる。要するに、自分のことだけではなく相手のことも思 いや る心を 持って いれば、1回限りの囚人のジレンマでも協力行動を選択するはずだというのが、

この モデル 、っま り「効 用変換 モデル 」の主張である。ニつ目の説明は、協力行動の説明を選好

(達 成すべ き目標 )によ ってで はなく 、社会的交換状況で自動的に活性化される行動規則である

「社会的交換ヒューリスティック」によって行う説明である。社会的交換は人類の進化の過程で大き な役 割を果 たして おり、 人間は 血縁関 係になぃ他個体と協力関係を形成することで包括適応度を 高めてきた。そのため、相互協カが可能な社会的交換状況にいることを示唆する手掛かりが与えら れると、その場での損得勘定を考えることなくつい協カする気になってしまうという、社会的交換場 面でのデフオルトの行動決定規則である「社会的交換ヒューリスティック」が働くのだという説明であ る。

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  本論文 で紹介 されて いる3つ の実験 研究の 目的は 、1回限 りの囚 人のジ レンマで の協力行動の 説明として、効用変換仮説と社会的交換ヒューリスティック仮説のいずれがより妥当性が高いかを 比較検討することにある。そのために、協カの手を選択したプレイヤーと非協カの手を選択したプ レイヤ ーが囚 人のジ レンマ の利得 表上のどの部分に着目しているかを、眼球測定装置を用いて測 定する 方法を 申請者 は採用 した。 効用変 換仮説に よれば 、1回限りの囚人のジレンマでの協力者

(協カの手を選択したプレイヤー)と非協力者(非協カの手を選択したプレイヤー)とでは、利得表 上の相 手が獲 得する 利得に 注目す る程度が異なると予測される。効用変換仮説が正しければ、非 協力者 は自分 が獲得 する利 益だけ を追求する人間であり、そのため自分の決定によって相手の利 得がどう変化するかを気にしない人間だと考えられる。これに対して協力者は、自分の決定が自分 の利益にどのように影響するかだけではなく、相手の利益に対してもどのように影響するかを考え る人間である。そのため、協力者は非協力者にくらべ相手の得る利得により大きな注意を払うはず である 。従っ て、利 得表上 の自分 の利益を表している部分と相手の利益を表している部分に対す る注視 時間の 比率を 測定し 、協力 者と非 協力者の 間で相 手の利 得に対 する注 視時間の比率が異 な る か ど う か を 調 べ れ ば 、 効 用 変 換 仮 説 の 妥 当 性 を 検 討す る こ と がで き る は ずで あ る 。   申 請 者 は 本論文の 第1章で 、上述 のニつ の仮説 につい ての概 説を行 い、本 論文の構 成につ い て説明したのち、第2章において、これまでの囚人のジレンマ研究、特に1回限りの囚人のジレンマ 研究のレビューを行っている。そしてその中で、上述のニっの仮説についてのより詳しい説明を行 ってい る。第3章では 、まず 、1回限りの囚人のジレンマにおける協力行動を説明する上述のニつ の仮説 が想定 する認 知プロ セスが 、利得表の各部分に対する注視とどのように関連しているかに ついて の、申 請者の 議論を 紹介し ている 。効用変 換仮説 に従え ば、協 力者は 非協力者に比べ対 戦相手が得る利得に対する注視が多くなると考えられるのに対して、社会的交換ヒューリスティック 仮説で は、囚 人のジ レンマ の客観 的利得が主観的には安心ゲームとして理解され、そのため利得 表の非 対角要 素(一 人が協 カの手 を選択し、もう一人が非協カの手を選択する場合)に注意が向 かなくなると考えられる。これらの基本的仮説を紹介したのち、第3章では、以後の3つの実験で用 いられ る基本 的た実 験デザ インが 説明されている。いずれの実験においても、実験参加者は個室 で実験に参加した。まず、コンピュータ画面上に表示される点を注視する課題を行ってもらい、非 接触型 の眼球 運動測 定装置 の調整 をする。その後、コンピュータ画面上で囚人のジレンマについ ての説 明を受 け、利 得表の 枠組の みを提示された上で、利得表の見方についての説明を受ける。

その後 、利得 表の枠 の中に 本人と 相手がそれぞれ獲得する金額が表示され、実験が開始される。

その後、実験参加者が「協力」なぃし「非協力」の決定を行うまで、画面上での視線の動きが測定さ れる。 第1実験では、これらの基本デザインに加え、ゲームでの相互依存関係の理解を妨害するた めに利 得に端 数を加 えた「 複雑利 得条件」を用いたが、単純利得条件と複雑利得条件の問に、協 力選択 に違い は見ら れなか った。 第1実験 の結果 は、効用 変換仮説による予測に反し、協力者と 非協力 者の問 に他者 利得に 対する 注視度に差が見られないことを示していた。また、協力者は非 協力者 に比べ 、相互 協カの 利得に 注視す る程度が 高いこ とも明らかにされた。第2実験では、対 戦相手を人間ではなくコンピュータとしたゲームを実施したが、この実験においても、協力者と非協 力 者の 間 に 他 者利 得 に 対 する 注 視 度に 差は見 られな かった 。第3実 験は基本 的には 第1実験 の 追試で あるが 、利得 表の行 と列の すべての組み合わせを用いた点、またより精度の高い眼球測定 装置を 用いた 点で、 第1実験 の結果 を更に 詳細に 分析可能 にしている。その結果、協力者と非協     一83―

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力者の間に他者利得に対する注視度に差が見られなぃという第1実験の結果が確認されると同時 に、いくっかの興味深い結果が得られた。

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

眼球運動測定装置を用いた 1 回限りの囚人のジレンマ研究

  本論文で 紹介されている3つの実験は 、囚人のジレンマ実験の参加 者が利得マトリックスのどの 部 分に 注目 して い るか を眼 球運 動 測定 装置 を用 いて測定した世界 初の研究であり、人間の利他 行動、協力 行動の研究に対する新しい研 究法を開発した画期的な研 究として高く評価される。申 請 者が この 研究 方 法を 用い て実 施 した3つの 実 験研究の結果は、以 下の4つの主要な知見を生み だしている 。@協力者と非協力者の間に 、他者の利得への注視度に差が見られなぃ。この結果は、

1回限りの囚 人のジレンマで協カする人間は、自分のことだけではなく他人のことも考える思いやり の心を持っ ている人間だとする効用変換 仮説に反する結果だと言え る。◎協力者は利得表上の相 互協カのセ ルに選別的に注意を払い、共 貧のセルから選択的に注意 をそらす。この結果は、相互 協カのセル が利得表上の位置が変わって も常に観察された。これに 対して非協力者は、特定のセ ルに選別的 に注意を払うことをせず、常 に左上のセルに注目してい た。この結果は、協力者が囚 人のジレン マ・ゲームを相互協カが可能 な社会的交換状況として理 解していたのに対して、非協 力者はそう したゲーム状況の主観的理解 を持たなかったことを示唆している。◎協力者も非協力者 も、自分の 選択を固定させた場合に、相 手の選択に応じて利得がどのように決まるかというかたち で利得表を 見ていた。この結果は、自分 の選択が利得表上の行として表示された場合にも、列とし て表示され た場合にも同様に観察されて おり、自分が協カの手を選 択した場合の結果と非協カを 選択した場 合の結果を比較するという、 合理的選択モデルで想定さ れる情報処理を、実験参加者 たちが実際には行っていなかったことを示唆しており、囚人のジレンマ・ゲーム研究の枠を超えて、

ゲーム理論 の基本的前提に対して疑問を 投げかけるものであり、き わめて興味深い結果であると 言える。@ 協力者は利得表を提示された 直後にすでに相互協カのセ ルに着目していた。この結果 は 、協 力者 は、 利 得表 に示される2者間 の関係を相互協カが可能な 社会的交換状況だと認識する 傾向が強いことを示唆するものと考えられる。これらの知見はこれまで数多く行われた囚人のジレン マ研究では じめて得られた知見であり、 人間の協力行動についての 理解を進めるにあたって重要 な意味を持 つことになると考えられる。 申請者はこれらの知見を総合的に考慮し、ゲーム状況を相 互 協カ が可 能な 社 会的 交換 状況 と して 理解 する ことで、相互協カ への目標の変換が生じる可能 性を検討し ている。もちろんこうした目 標の変換が生ずれば、当然の帰結としてCCのセルの望まし さがDCのセルの望ましさを凌駕することになり、社会的交換ヒューリスティック仮説で想定されてい るマトリッ クスの主観的構造変換が帰結 することになる。

  本論 文で 報告 さ れて いる4っの主要な 知見は、眼球測定装置を用 いた研究によってはじめて明

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岸 橋

山 高

授 授

   

   

教 准

査 査

主 副

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らかにすることができた知見であり、利得表上の視線の動きを分析する研究を世界で初めて実施し た申請 者の貢 献は大き い。こ れらの知見が示唆する理論上の意味は、それ自身で理論の検証とは なっていない部分も多いが、今後の研究の方向に対して大きな示唆を与えるものである。特に、こ れまで社会的交換ヒューリスティックとして理解されてきた認知プロセスが、囚人のジレンマの利得 表を理 解する 過程で働 き、そ の結果として生じた目標の変換を介して利得表の主観的理解が生じ た可能 性を明 らかにし た点は 、人間の利他行動の理解に対して大きな示唆を与えるものだと評価 される。

  本審査 委員会 は、博 士学位 論文の査 読及ぴ 口述試 験にお いて明 らかに されたこれらの貢献を 評価し、全員一致で、本論文を博士(文学)の学位を授与されるにふさわしいものであるとの結論 に達した。

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参照

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