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カルドア法人税論再論

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カルドア法人税論再論

森 俊 一

1.はじめに

イギリスでは所得税の初期の段階から,会 社利潤には所得税が標準税率で課せられ,所 得税とは別の税が課せられることはなかっ た。会社利潤は会社の所有者(株主)の所得 と見なされ,当時支配的であった所得源泉説 に従い会社段階で課税されたのである。その 後,個人段階では累進付加税が課せられて所 得課税が累進課税となると,会社利潤への所 得税の課税だけでは利潤を源泉とする所得へ の課税が完了せず,配当については個人段階 で追加課税あるいは税の還付が行われること となった。しかし,未分配利潤については,

標準税率で所得税が課せられるだけであっ た。

会社利潤に所得税の他に追加の税が課せら れることとなったのは,1937 年の国防税(the National Defence Contribution)の創設から である。会社利潤に対し所得税の他に特別の 税を課税することは戦時税として始まり,戦 争中は超過利潤税も創設された。1946 年,戦 時税である両税は廃止され,国防税の代わり に利潤税が設けられた。戦後の利潤税は留保 利潤に対して優遇措置がとられ,分配利潤重 課,留保利潤軽課の差別課税であった。こう して,会社利潤には所得税とともに差別的利

潤税が課せられたのであるが,1958 年からは 会社利潤には分配利潤と留保利潤との間で課 税上の差別をすることなしに利潤税が課せら れることとなった。

利潤税は所得税と一体となって会社利潤に 課税されてきたが,イギリスにおける会社課 税の沿革上大きな変化が,1965 年に生じた。

この年,利潤税が廃止され,法人税が導入さ れた。会社利潤にはもはや所得税は課され ず,法人税のみが課されることになった。そ の結果,留保利潤には法人税だけが課される が,配当には株主に分配される以前に会社段 階で法人税が,分配された配当にはさらに個 人段階で所得税が課されることとなり,発足 時の法人税は,配当に対するいわゆる二重課 税を調整しない古典的システムによるも のであった。なお,1962 年に短期キャピタ ル・ゲインへの課税が導入されたのを受けて,

1965 年には,より包括的なキャピタル・ゲイ ン税が実施されることになった。

1973 年には,イギリスの法人税は古典的 システムから離脱し,インピュテーション・

システムが導入された(1)。カルドア(1971)

は,まさに法人税の古典的システムの代 わりに,二重課税を何らかの形で調整する方 式が模索されていた状況下で,古典的シス テムを擁護するために書かれたものである。

(2)

本稿の課題は,そこで展開されたカルドアの 議論を検討し,それとともにカルドア法人税 論の意義を明らかにすることである。

2.カルドアの法人税論

本稿で検討するカルドア(1971)は,法人 税の古典的システムに代わる法人税改革 案,すなわち配当軽課の2税率システムある いはインピュテーション・システムが経済に 及ぼす効果を明らかにすることで,これらの 改革案を批判することを狙いとしている。し たがって,カルドア(1971)においては,法 人税の根拠をめぐるカルドアの主張は改革案 に対する批判の前提とされ,わずかに示唆さ れているにすぎない。そこで,改革案を批判 するカルドアの議論を検討するにさきだっ て,カルドア(1955a),(1955b),(1956)に みられるカルドア法人税論を整理しその骨子 を確認しておくことが必要である。

分配重課・留保軽課の差別的利潤税 戦後の利潤税は,分配利潤に 22.5%,未分 配利潤に 2.5%の分配利潤重課,留保利潤軽 課の差別的利潤税であった。会社利潤には所 得税の標準税率 45%の他に,このような利潤 税が課せられたのである。戦後の復興期にお いて企業利潤の増加とともに,配当が増大す れば株価も増大するが,分配利潤重課の差別 的利潤税は配当増大を抑制することによっ て,株価の上昇を抑える効果を持った。配当 の抑制によって留保利潤が増えるとしても,

投資に有効に使用される以上の過度の内部蓄 積は株価の上昇をもたらすとはいえない。

カルドア(1955a)は,このような差別的利

潤税を肯定的に評価するに際して,企業利潤 の増大する中で,差別的利潤税が株価の上昇 を抑えるという経済効果を重視する。それは 配当増加とそれに伴う株主の富の増大がイン フレーションを引き起こす要因になることを 防ぐ必要があったことと,当時のイギリスに おいて,キャピタル・ゲインは非課税であっ たからである。

この点を踏まえて,株価の上昇に伴い巨額 のキャピタル・ゲインが発生し,社会の限ら れた集団の富が非課税のまま大きく増大する ことは,社会的な公平という観点からみて看 過することはできないとし,配当増加抑制策 は不可避のものと判断されたのである。こう して,会社利潤が増大するという戦後の状況 下で,キャピタル・ゲインは非課税であるこ とを考えると,公平のためには分配利潤重課 の差別的利潤税を会社利潤に課すことによっ て配当の増加を抑制し,キャピタル・ゲイン の発生を抑えることが必要であるとして,カ ルドアは差別的利潤税を擁護するのである。

ここで注目すべきは,カルドアは会社課税 のあり方を,会社課税の経済効果とともに,

個人課税のあり方,とくにキャピタル・ゲイ ンに対する課税の有無に関連付けて考察して いるという点である。

もし,キャピタル・ゲインが課税されるな らば,配当重課の差別的利潤税は望ましいと はいえない。それは内部蓄積を必要以上に過 度に促進し,資本市場の機能を損なうからで ある。カルドア(1955a)で示唆される会社課 税の改革の方向は,個人課税を改革してキャ ピタル・ゲインに課税し,会社利潤には,所 得税を課すことを廃止して,分配利潤と留保 利潤を差別しない法人利潤税のみを課すとい

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うことであった。キャピタル・ゲイン課税を 前提として,所得税と直接の関係を持たない

(所得税とリンクしない)利潤税,会社利潤 全体に対する独立の利潤税の主張である(2) カルドアのこの主張については,キャピタ ル・ゲイン課税が実施されるとき,会社利潤 への課税の根拠はどこにあるのか,未分配利 潤への課税ではなく,利潤全体に対する課税 では配当に対しては二重課税が生じるのでは ないか等の疑問が生じるであろう。これらの 疑問に対するカルドアの見解をみるには,イ ンドの税制改革を論じたカルドア(1956)が 参考になる。そこでは,会社課税にかかわる 諸問題が手際よく整理され,議論されている からである(3)

カルドアは,会社利潤は株主の所得であり,

所得源泉説に従って所得税が課せられるべき であるという考えを古い考えとして退け,会 社利潤については,そこから利益を得る株主 に対する個人課税と会社課税を截然と分離す ることを主張する。個人課税と直接リンクし ない会社課税の主張である。

しかし,会社それ自身に担税力はないとす ると,会社課税は個人課税のあり方から離れ ては存在理由を考えることはできない。所得 の定義として包括的所得が認められ,現実の 個人所得税が包括的所得にもとづく課税の原 理に忠実であるならば,とくにキャピタル・

ゲインについて発生時に課税されるならば,

後で検討するように,未分配利潤には直接に は課税が及ばなくとも,会社課税の存在理由 はない。会社課税が必要とされるのは,個人 課税が包括的所得税の原理に忠実ではない,

あるいはその原理に忠実であることが不可能 な場合である。このときには,個人課税を補

足し補完するために,そのような補足・補完 にふさわしい会社課税が求められる。すなわ ち,カルドアは,会社課税の存在理由がある とすれば,それは個人課税を補足・補完する 必要性にあると考える。キャピタル・ゲイン 非課税のときの分配利潤重課の差別的利潤税 に対するカルドアの擁護論は,このようなカ ルドアの考えによるものである。

もし会社利潤の全額が株主に配当として配 分されるのであれば,配当に対して個人段階 で適切に課税すればよく,それを補足・補完 するために,株主に配分される前に会社段階 で課税する必要はないことは明白である。問 題が生じるのは,会社が利潤全額を配当に分 配せず,利潤の一部を留保するときである。

会社段階での未分配利潤に対する課税と未分 配利潤から株主がキャピタル・ゲインという 形で引き出す利益に対する個人段階での課税 との関係をどうみるかが,問題の焦点となる。

未分配利潤と会社課税

会社課税がなければ,配当に分配される利 潤は個人段階で課税されるものの,留保され る未分配利潤には課税が及ばなくなる。こう した場合の対処として,未分配利潤に対応す る株式の無償交付を会社に義務付け,それを 個人株主の所得に算入するという仕組みが考 えられる。これは,未分配利潤を各株主に帰 属させて所得に算入するということと考え方 としては同じである。

カルドアは,この株式の無償交付について,

それは未分配利潤から株主が引き出す利益に 応じて課税するものではないと論じる。包括 的所得の考えからも,株式の無償交付を株主 の所得に算入することには問題がある。所得

(4)

の包括的定義では,所得は純資産の増加(価 値の増加)と捉えられる。無償交付された株 式が額面通りの価値を持たず,交付時にその 価値はゼロであるとしてみよう。そのとき,

株式の無償交付によって純資産が増加し,所 得が生じるわけではない。すなわち,未分配 利潤から株主が引き出す利益は交付時にはゼ ロであって,株式の無償交付によって株主に 利益が生じるということはない。逆に,株式 の無償交付がなくとも,既存の株式の価値が 増大すれば,そのとき,株主は未分配利潤か ら利益を引き出すことができる。

株式無償交付の義務化に対するカルドアの 反論は,未分配利潤への課税は未分配利潤か ら株主が引き出す利益に対する課税,すなわ ち,キャピタル・ゲインに対する課税による べきであるという考えにもとづくものであ る。また,このカルドアの反論は,未分配利 潤の各株主への帰属を通じて,未分配利潤に も個人課税を及ぼすという考えに対する批判 をも意味しているということができる。こう したカルドアの考えは,包括的所得の概念に もとづいて発生キャピタル・ゲインに対して 個人課税がなされている限り,株式無償交付 の義務化,未分配利潤の株主への帰属は不必 要であり,会社段階であれ個人段階であれ未 分配利潤そのものに課税することは必要ない という主張であると理解することができる。

個人課税を補足・補完するものとしての会 社課税

キャピタル・ゲインが発生時に課税される のであれば,未分配利潤があるとしても会社 課税の根拠は存在しない。ところが,実際問 題として,キャピタル・ゲイン発生時課税は

ほとんど不可能に近い。したがって,キャピ タル・ゲイン課税は実現時課税とならざるを 得ない。分配利潤は,配当として株主に受け 取られる年に,株主の所得として課税される。

しかし,未分配利潤は,そこからの利益がキャ ピタル・ゲインという形で発生しても,株主 の所得として直ちに課税されるわけではな い。それは,キャピタル・ゲインが実現する 年に課税される。

配当,キャピタル・ゲインといった個人所 得は 45%で課税され,キャピタル・ゲインの 実現は,未分配利潤が留保されてから平均 20 年の時間的遅れがあるとすると,割引率を5

%として,未分配利潤に対する実効税率は 17%にすぎない。未分配利潤は,キャピタ ル・ゲインとして株主の段階で課税されると しても,キャピタル・ゲイン実現時課税によっ て課税は延期され,実効税率は大きく軽減さ れるのである。このような課税の延期を是正 し,配当に対する実効税率と等しくするため には,未分配利潤に対して 28%の課税が必要 となる(4)

未分配利潤への会社段階での課税は,キャ ピタル・ゲイン実現時課税による課税の延期 を是正する手段として,その根拠を持つので ある。このような会社課税は個人課税を補完 するものであり,直接的には個人課税とリン クしない,すなわち個人所得税の前取りとは みなされない独立の課税である。こうして,

カルドアの主張する独立の会社課税が導き出 される。

資本償却引き当てと会社課税

会社貯蓄(未分配利潤)に対する課税は,

キャピタル・ゲインが実現時に課税され,発

(5)

生時に課税されないということによる課税の 延期に対処するための手段であった。キャピ タル・ゲインの実現時課税を補うことに未分 配利潤への課税の役割があり,そこに会社課 税の存在理由があるとされたのである。

ところで,その一部であれ会社利潤が課税 されるとき,課税されるべき利潤の算定のた めに,資本資産の取り扱い,すなわち資本償 却引き当てのあり方が問題となる。キャピタ ル・ゲインが発生時に課税されるならば,課 税にあたり,資本償却引き当ても資本資産の キャピタル・ロスの発生(実際の資本減耗)

に従って認められるべきである。もちろん,

年々の資本減耗を正確に捉えることは容易で はない。しかし,そもそも,キャピタル・ゲ インが発生時に課税されるならば,未分配利 潤への課税の根拠はなく,利潤を算定するた めに資本減耗を捉える必要もないであろう。

キャピタル・ゲインは発生時ではなく実現 時に課税されざるを得ないとすると,会社課 税が課税の延期に対処するために必要とさ れ,そのとき,資本償却引き当ても資本資産 の売却や破棄あるいは会社の清算の際に実現 する資本資産のキャピタル・ロスに応じて認 められるべきであるということになろう。

キャピタル・ロスが実現される以前に,資本 資産には課税上の規定によって年々の償却引 き当てが認められるというのは,キャピタ ル・ゲインの実現時課税と論理整合的ではな い。資本資産の償却引き当てをキャピタル・

ロスの実現に先立って課税上認めることは,

会社の税負担を実質的に軽減し,キャピタ ル・ゲイン実現時課税による課税の延期を一 層強めるものであり,キャピタル・ゲイン実 現時課税による課税の延期の是正手段として

の会社課税にとっては適切とはいえない。し たがって,課税の延期に対処するための会社 課税にあっては,資本資産について,キャピ タル・ロスが実現する以前には,年々の償却 引き当てを認めないというのが本来のあり方 であると考えられる。

しかしながら,カルドアは,年々の償却引 き当てを認め,その代わりにそれによる会社 の税負担の軽減を相殺するために会社課税の 税率を高めるということを主張する。投資を 促進するという観点からは,そうすることが 望ましいと考えるからである。資本資産の 年々の償却引き当てを認めつつ,会社の未分 配利潤に課税することは,会社貯蓄の投資を 強く促すことになる。会社貯蓄を投資しなけ れば,資本の償却引き当てはなく,そのよう な会社は余分の税負担を強いられるからであ る。カルドアは,会社課税のあり方を考える うえで,企業投資の促進という経済的観点を 重視し,年々の資本償却引き当てを認めるの である。

利潤全額に対する会社課税

会社課税は,個人課税を補完するものであ る。キャピタル・ゲイン以外の所得は発生時 で課税されるのに,キャピタル・ゲインは実 現時で課税される。このことから生じる課税 の不公平を是正するのが会社課税の存在理由 である。公平の観点からいえば,会社課税は 未分配利潤に対する課税でなければならな い。会社利潤の全額を配当する会社の場合,

会社課税の根拠はない。利潤全額課税ではこ のような会社にも税負担が強いられる。利潤 全額課税は,公平の観点からは,未分配利潤 課税よりも劣っているのである。

(6)

しかし,カルドアは会社課税として利潤全 額課税を主張する。その主張は,経済的観点,

企業投資重視の観点によるものである。未分 配利潤課税は,利潤の分配・留保に中立的で はなく,留保に対する税負担の割合は一定で あるが,利潤の多くを留保する会社ほど税負 担は大きい。利潤全額課税の場合には,利潤 の分配・留保の割合にかかわらず,税負担の 大きさは変わらない。しかし,より多く分配 する会社ほど,留保に対する税負担の割合は 大きくなる。逆に,より多くを留保する会社 ほど,その割合は小さい。このことから,企 業投資の重要な源泉である内部留保に対する 課税の抑圧を回避するために,利潤全額課税 が主張されたのである。

この主張の背後には,次節でみるように,

株式や社債の発行による投資資金の調達とい う外部金融は,内部留保による資金調達であ る内部金融と代替的ではなく,内部金融に支 えられ,それと相互補完の関係にあるという カルドアの認識がある。このような認識か ら,公平の観点からは望ましくないが,企業 投資を促進するという観点から利潤全額課税 の会社課税が主張されるのである。

ところで,留保利潤に応じる株式無償交付 の義務化に関するカルドアの考えはすでにふ れたが,それを株主の所得に算入するとして も,株式が売却されたとき,額面を基準にし てキャピタル・ゲイン,キャピタル・ロスを 算定して,あるいは実際に実現したキャピタ ル・ゲインから無償交付額を差し引いた額を 算定して,売却時の株主の所得に付け加える という調整をするならば,それは未分配利潤 から生じるキャピタル・ゲインへの課税を発 生時課税に近づける工夫といえる。

同様に,株主への留保利潤帰属方式におい て,実現時のキャピタル・ゲイン,キャピタ ル・ロスの算定にあたり,実際のキャピタル・

ゲイン,キャピタル・ロスから株式保有期間 における帰属利潤の総計を差し引くことが認 められるならば,それも実現時課税を発生時 課税に近づけるもう一つの(本質的には同じ)

工夫であるとみることができる。

カルドアが何故これらのうち一つを選択し なかったかというと,これらの工夫は未分配 利潤への課税を会社段階ではなく,個人段階 で行おうとするものであり,その場合には,

独立の会社課税の余地はないからである。そ うであるならば,政府は企業の投資をコント ロールする手段を失うであろう。政府が経済 政策の手段として会社課税を利用しうること をカルドアが重視していることは,経済的観 点による年々の資本償却引き当ての容認,利 潤全額課税方式の採用という点からみて明ら かである。

カルドアが主張する法人税は古典的シス テムの法人税である。それは,個人段階で のキャピタル・ゲイン課税を補足・補完する という役割を中心としつつ,企業投資の促進 という経済政策上の目的をあわせもった法人 税である。したがって,経済政策上の目的を 重視した結果,租税論の立場から論理一貫し た考えにもとづく法人税という面が希薄に なったことは否めないであろう。古典的シ ステムの法人税を正当化する論理は,単純 明快なものではないのである。古典的シス テムに対する批判がなくならない理由は,

ここにあるといってよいだろう。

(7)

3.法人税改革案について

1965 年に利潤税に代わって法人税が導入 されたとき,それは配当の二重課税を調整し

ない古典的システムによるものであった。

このような法人税は,課税において分配利潤 よりも留保利潤を有利にするように差別して おり,留保依存の投資は経済全体からみて投 資の効率的な配分を阻害するものであるとい う考えから,改革の必要性が唱えられるよう になり,下院の法人税特別委員会は,二つの 代替的な改革案,いわゆる2税率システム

(the so-called “two-rate system”)と イ ン ピュテーション・システムのうち一つを検討 することとなった。

1971 年,カルドアは,下院の法人税特別委 員会に覚書を提出し,その中で法人税の現行 システムは,これら二つの改革案のいずれよ りも,投資と資源の効率的配分に資するもの であり,現行システムすなわち古典的シス テムを維持すべきであるとの考えを表明し た。本稿で取り上げるのは,この覚書(カル ドア(1971))の中で展開されているカルドア の議論である。

カルドアは,提案されている改革案と現行 システムの法人税を,経済効果という点から 比較する。比較において主として念頭に置い ている改革案は,50%の法人税率と 30%の配 当税額控除(法人段階での法人税からの控除)

を組み合せた法人税,すなわち分配利潤軽課,

留保利潤重課の2税率システムの法人税であ (5)。異なるシステムの法人税を比較する場 合,比較が意味を持つためには,同一の税収 入が前提とされねばならない。30%の配当税 額控除が付いた 50%の法人税から期待され

る税収入は,利潤 100 で配当が 70 のとき 29 となり,それは配当税額控除が付かない 29%

の法人税からの税収入と同じである。もちろ ん,配当がより小さくなると税収入は多くな り,新しい法人税が現行システムで何%の法 人税と等しいかは一概にいうことはできない が,新しい法人税が 50%の税率で導入される ならば,それは差別的であるといわれる現行 システムの法人税で税率が 50%のものでは なくて,30%∼35%の税率を持つ法人税と比 較して,経済効果の点での優劣を検討しなけ ればならないということになる。カルドア は,改革案は現行システムの法人税よりかな り高い税率を伴うという想定にもとづいて,

議論を展開している。

法人税改革案の三つの欠点

カルドアは,新しい法人税の提案に対して,

それが持つであろう経済的な効果を考える と,三つの欠点を持っていると論じる。第一 は,法人税の限界税率が新しい法人税ではよ り高くなることに伴い,この高い限界税率が 企業投資に与える直接的な効果である。第二 は,内部留保と新株発行による会社の資金調 達に及ぼす影響を通じての,企業投資に与え る効果である。そして,第三は,新しい法人 税が消費と貯蓄に与える効果と,インフレー ションなき完全雇用の維持のために必要とな る全般的な増税が経済に及ぼす効果である。

これらについて,順を追ってカルドアの議論 をみていこう。

企業投資に与ええる直接の効果

投資誘因の観点にとって問題になるのは限 界税率である。改革案を現行税制と比較する

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ならば,税収入が同一という前提に立つ限り,

改革案は現行税制よりもかなり高い税率を伴 う と み な け れ ば な ら な い。投 資 の 臨 界 点

(cut-off point)の決定にあたって,会社がど のような基準を採用しようとも,それは税引 き後の収益にもとづいていなければならな い。例えば,会社が法人税引き収益率 10%を 目標収益率としたとき,投資が満たさねばな らない課税前の期待収益率は,限界税率 50%

のときには 20%となるが,限界税率が 1/3 の ときは,15%でよい。限界税率が高いほど,

期待収益率がより高い投資計画しか実行され ず,新しい法人税制は投資誘因を大きく損 なってしまう。カルドアによるこうした第一 の批判は,改革案では限界税率が高くなると いうことの直接の帰結である。

会社の資金調達に与える影響

提案された新しい法人税制は,会社間での 租税負担の再配分をもたらす。留保利潤の割 合の高い会社はこれまでよりもより重く課税 され,利潤のうち大きな割合を配当として分 配する会社への課税はより軽くなる。すなわ ち,提案された法人税制は,会社の留保利潤 の蓄積を抑制する。このことから,カルドア は,改革案で示される税制のもとでは,会社 の企業投資は減退せざるを得ないと主張す る。

ただし,留保利潤蓄積の抑制が直ちに投資 の減退につながることを,カルドアは主張し ているわけではない。会社が投資資金を調達 するのは,蓄積された留保利潤からだけでは ない。このような内部金融の他に,借り入れ や,資本市場が発達していれば新株発行に よって,会社は投資に必要な資金を調達する

ことができる。内部金融が困難になったとし ても,会社は外部金融に頼ることができると すると,新しい税制が利潤の内部留保の増大 を抑えるとしても,それが直ちに企業投資の 減退につながるとはいえない。

しかし,カルドアは,成長する会社にとっ て内部金融と外部金融はお互いに補い合うも のであって,代替的なものではないことを強 調する。銀行借り入れであれ,社債の発行で あれ,また株式の新規発行であれ,会社が外 部金融で調達しうる資金の大きさは,会社の 内部留保の増大に関係していると論じられ る。借り入れの場合,負債の資産に対する比 率に上限があり,それが例えば 1/2 であり,

すでにこの上限に達しているときは,会社は 投資資金の 1/3 以上を借り入れに頼ることは できない。1ポンドの内部留保の増大があっ て,50 ペンス借り入れを増やすことが可能と なる。会社の借り入れ能力の増大は,内部留 保の増大という裏付けがなければならない。

高度に発達した資本市場を持つ経済におい て,新株発行によって市場から調達しうる資 金の大きさも借り入れと同様に,会社の内部 留保の増大に依存し,関係づけられている。

その理由は,カルドアによると,将来に関し て不確実な世界においては,収益や配当が過 去にどのように増大してきたかが,投資家の 資産選択において主要な考慮事項となるから である。一株当たりの収益と配当が増加して きている会社の株式(成長株)の株価/収益比 率は,そうでない非成長株の株価/収益比率 をかなり上回る傾向にある。ある時点で一株 当たりの収益と配当が同じでも,それがこれ まで増大してきている場合には,投資家の側 で将来においても増大するであろうという期

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待が形成され,収益と配当が一定の場合より も,株価はより高くなる。

投資家のこうした成長株に対する選好は,

カルドアの指摘によると,成長株がインフ レーションに対してより安全な投資対象と考 えられることの他に,配当とキャピタル・ゲ インとの間に存在する実効税率の差によるも のである。この差は,配当に対して課せられ る所得税と累進付加税を合せた限界税率が キャピタル・ゲインに対する税率よりも高い ということよりも,配当は受け取ると同時に 税支払いの義務が生じるが,キャピタル・ゲ インに対する税はゲインが実現したとき,典 型的にはゲインが発生して数年経たのち支払 われるということによっている。このキャピ タル・ゲインに対する課税の延期こそ,それ への対処として会社課税を必要とするという のがカルドア法人税論の要であることはすで にみてきたとおりである。

さて,成長株の株価/収益比率が非成長株 のそれよりも大きいということは,成長株は 非成長株よりも高い評価比率を持っているこ とを意味している。ここで,評価比率とは,

会社の使用資本に対する市場による会社の評 価額(市場の会社評価額)の比率,あるいは 一株当たりの純資産に対する株価の比率とし て定義される。それは,株価/収益率と資本 収益率の積によってあらわすことができる。

評価比率=市場の会社評価額 会社の使用資本

会社の一株当たり市場価値 一株当たりの純資産

株価 一株当たりの収益

× 一株当たりの収益 一株当たりの純資産

=株価/収益比率×資本収益率

この評価比率こそ,会社が株式発行によっ て資金を調達することのできる条件を決める ものである。評価比率が例えば2であるとす ると,会社は増資に対してその2倍の資金を 調達することができる。評価比率が高いほ ど,新株発行によってより多くの資金を調達 でき,資本調達の実質的な費用は小さい(す なわち,資本に要求される収益率,資本コス トは小さい)。

会社の評価比率は,資本収益率に依存して いるが,それとともに一株当たりの収益がこ れまでどれだけ増大してきたか,その増大の テンポにも依存している。一株当たりの収益 と配当がこれまで急速に増大していればいる ほど,将来の大きな増大が投資家の側で期待 され,株式の市場価値は,一株当たりの資産 と収益が同じであっても,より高いものとな る。

では,この一株当たりの収益と配当の増大 はどのような場合に可能となるのであろう か。会社が使用する資本の増大(投資)が増 資によって賄われるとき,投資収益率が高ま ればそれは可能となる。しかし,投資収益率 が一定であるとしても,投資の一部が新株発 行すなわち増資ではなくて,蓄積された内部 留保で賄われるとき,一株当たりの収益と配 当の増大が可能となる。内部留保で賄われた 投資は,一株当たりの純資産を高めることに より一株当たりの収益の増大をもたらすから である。

利潤を留保し,それを投資することによっ

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て一株当たりの収益と配当を増大することが できれば,評価比率は高くなり,新株発行に よってより多くの資金を調達することができ る。会社が投資のための資金調達を規則的に 資本市場に頼ることができるためには,その 前提として投資資金の一部は留保から賄われ るという条件が満たされていなければならな い。こうして,外部金融と内部金融は相互に 相補うものであって,決して代替的なもので はないというカルドアの主張が導かれる。

とはいえ,前節での議論のように,留保率 を過度に大きくし配当分配率を小さくする と,株価はかえって低下するであろう。この ようにみていくと,成長している会社にとっ て,評価比率を最大にするような最適留保率 なるものを考えることができる。その最適留 保率において,会社は内部資金・外部資金を 合わせて調達しうる資金を最大にすることが できる。

留保利潤がこれまでよりもより高い税率で 課税されることになると,留保率は最適留保 率以下となり留保利潤の蓄積は減退する。こ れは成長しようとする会社にとって,外部金 融を含めて資金調達上大きな制限を課すもの である。こうして,カルドアは,配当と留保 を差別しない現行システムの法人税から,分 配利潤軽課・留保利潤重課の法人税への移行 は,法人税の負担が同一であっても,企業投 資を抑圧することになろうと主張するのであ る。株式発行による資金調達は,内部金融に 支えられているものであって,課税によって 内部留保の増大が抑圧されるようになると,

株式発行による資金調達も支障をきたすであ ろうというのが,ここで示されたカルドアの 議論の要点であると考えることができる。

消費と貯蓄に与える効果

利潤の分配を有利とし留保を不利にする法 人税制への変更は,たとえ法人の税引き利潤 が変更前のそれと同一であっても,株主の消 費の増大をもたらす。これは,配当の増大と,

配当所得からの消費性向は,未実現のものを 含めてキャピタル・ゲインからの消費性向よ りも通常かなり高いことによる。このような 株主の消費の増大は,インフレーションを引 き起こす要因となる。政府が完全雇用政策の もと,インフレーションを防止するためには,

株主の消費増大を相殺すべく,すべての階級 の消費削減をもたらすような全般的な増税を 必要とするであろう。

インフレーション下で民間部門・政府部門 を合わせた総投資が実質的に減少すると,長 期にわたる完全雇用の維持,自然成長率に等 しい資本の成長率すなわち自然成長率に見 合った経済成長率の確保は不可能となるの で,法人税制の変更に伴い,消費抑制よるイ ンフレーション防止のための全般的増税は必 至である。この課税の高い水準は,資源配分 を歪めるような効率的でない税の増税を意味 する。こうして,政府の完全雇用政策のもと では,提案のような新しい法人税への変更は,

インフレーション対策としての全般的な増税 をもたらし,課税水準の増大を通じて,経済 効率の低下を招くと批判されるのである。こ うした経済効率の低下が,新しい法人税に対 するカルドアの批判における第三の論点であ る。この論点に付け加えて,カルドアはさら に次のように論じる。

増税による政府の経常余剰の増大(経常赤 字の減少)は民間貯蓄の減少を意味し,民間 貯蓄の減少は,法人税の改革が民間の財産保

(11)

有者(資産階級)の階級としての長期的利益 にかなうものでないことを示すものである。

完全雇用が維持されるためには,完全雇用下 で次の関係が成立していなければならない。

I+GI+GC=S+T

あるいは I+GI−S=T−GC

(I:民間投資,GI:政府投資,GC:政府消費,

S:民間貯蓄,T:税収入)

これより,I と GIと GCが一定のとき,T−GC

(政府の経常余剰)が T の増大により大き くなれば,S は小さくならねばならないこと は明らかである。民間で保有されている資産 の増加率は,政府部門を含めて一国全体の資 本の増加率(それは完全雇用が長期的に維持 されるためには一定でなければならない)に 比して,法人税の現行システムのもとでより も,より小さくなる。

したがって,経済全体の均衡を維持するた めに,政府支出の水準に比して課税の水準の 増大を必要とするいかなる変更も,そのよう な変更がない場合に比べて,民間部門保有の 資産の増加率をより小さなものとし,資産階 級の生活水準の上昇を抑えてしまう。長期的 にみれば,資産階級の生活水準は,それが保 有する資産の大きさに依存すると考えられる からである。こうして,カルドアは,配当に 関する二重課税を調整し,一見すると資産階 級の利益にかないそうな法人税改革案も,長 期的にみれば,その階級の利益に沿うもので はないと論じるのである。

このような議論に対し,そこでは新しい法 人税制を現行システムの法人税と比較すると き,税収同一すなわち会社と株主の税負担は

同一であると仮定されているが,改革の真の 狙いは,会社と株主の税負担が容易に軽減さ れ,それが増大するのを政治的に困難にする ような状況を作り出すことであるという反論 をカルドアは想定する。そして,このような 反論には何らの根拠もないことを論じる。

法人税の負担の軽減を志向する保守党政権 下で,法人税の税率を現行の 40%から 30%

に単に引き下げることに,改革案のように税 率を 50%に引き上げて 30%の配当税額控除 を付け加えることよりも,大きな政治的困難 があるわけではなく,投資誘因という点から みると前者の方が後者よりも容易に受け入れ られるであろう。

他方で,労働党が政権に復帰したとすると,

労働党政権下で導入された 40%の税率の法 人税と等しい税負担の回復を図るであろう。

税負担の回復のために新しい法人税の税率を 61%に引き上げることは,投資に深刻な負の 要因を与えることとなるので,政治的に困難 であることは間違いない(6)。しかし,税負担 の回復のためには,配当税額控除を廃止すれ ばよい。法人税の税率引き下げを伴わないで 50%の税率を維持しつつ配当税額控除が廃止 されると,株主は,法人税制が変更されなかっ た場合よりも,一層悪い状況に置かれる。

カルドアは,こうして,ある法人税制の方 が,他のそれよりも,会社と株主を国家の収 奪からよりよく守ることができるという見解 には全く根拠がなく,とすれば,会社と株主 から一定の税収入を得る場合,国民全体の利 益にもっともよくかなう会社課税のシステム を選択すべきであるとして,現行システムの 法人税を擁護するのである。

(12)

改革案を支持する論拠について 次に,カルドアは,改革案を支持する議論 のいくつかを取り上げ,その当否を検討する。

改革案の支持は,いうまでもなく古典的シ ステムの現行法人税制への批判にもとづい ている。カルドアによって取り上げられる批 判は,現行システムの法人税制は配当を抑制 し,留保を促進することによって,会社の内 部金融依存を課税面からもたらしているとい う論点にかかわるものである。改革支持論 は,国民貯蓄の効率的配分という点からは,

内部金融依存は問題であって,法人税を改革 し,利潤の配当分配率を引き上げ,内部金融 依存からの脱却を促し,企業金融において株 式発行による資金調達の割合を高めるべきで あると主張する。このような議論の検討とと もに,現行システムの法人税は,外部金融に 関しても,借り入れを優遇しており,株式発 行による資金調達と借り入れによる資金調達 の選択に中立的ではないという議論も検討さ れ,さらに,租税回避のための利潤留保に対 処することの必要性をめぐる議論も取り上げ られる。

法人税と企業金融

株主に対する利潤分配を増やすことは,資 本市場での新株発行によってより多くの資金 を調達することを可能とし,国民貯蓄のより 効率的な配分をもたらすという議論に対し て,カルドアは,株主は配当所得の貯蓄部分 を新株の応募に充てるのではなく,資産運用 上の考慮にもとづいて新株に応募すると反論 する。資本市場の新株発行引き受け額は,マ クロ的にみてそのときの配当水準に依存する のではなく,また,個々の会社についても,

これまでみてきたように,会社が新株発行を 含む外部金融によって調達しうる資金の大き さは,会社の留保利潤の蓄積率に負ではなく 正の関係を持っているというのがカルドアの 見解である。

ドイツは 1953 年に,フランスは 1965 年に 一種の2税率システムあるいはインピュテー ション・システムを導入したが,両国の法人 税改革の主要な動機は,資本市場の発達を刺 激し,会社に自己金融ではなく外部からの資 金調達を促すことにあったということをカル ドアは認める。しかし,カルドアは,改革の 結果として,企業金融において外部金融の比 重が大きく変化したことを示すいかなる証拠 もないことを強調する。イギリスについて も,1958 年にそれまでの分配利潤重課の利潤 税から配当と留保を差別しない利潤税に移行 したが,それによって外部金融の比重が高く なったわけではないということも付け加え る。

高度に発達した資本市場と分配に有利で留 保を抑制する課税システムを一国経済が持っ たとしても,新規投資のための資金調達の大 部分は外部資金からではなく,留保された利 潤から賄われると考えられるならば,内部留 保依存からの脱却を促すという点から法人税 改革を支持する議論は要点を捉えたものでは ないという判断が直ちに導かれるのは当然で ある。

法人税と株式発行による資金調達

1965 年導入の法人税のような古典的シス テムを持つ法人税は,株式発行による資金 調達を社債等の借り入れによる資金調達より も相対的にみてより費用のかかるもの(more

(13)

expensive)にしており,それゆえ,借り入れ に対して不健全な刺激を与えていると批判さ れてきた。それは,いうまでもなく,会社課 税にあたり,利子は損金として認められるが,

配当は損金として認められないという違いに よるものである。

会社が企業投資のために資金を株式発行で 調達しようとするとき,借り入れの場合の利 子と一定の関係を持った配当あるいは配当を カバーする収益が保証されねばならず,法人 税が課せられると株価維持のために必要とさ れる課税前の収益は大きくならざるを得な い。法人税は,株式発行による資金の調達コ スト(資本コスト−要求される収益率)を高 めるといってよい。

あるいは,法人税によって課税後の収益率 が低下すると,株式の課税後収益利回り(収 益を課税後収益としたときの株価/収益比率 の逆数)が債券の利回りと一定の関係を維持 するためには,株価は低落しなければならな い。よって,株式発行による資金調達は法人 税がない場合に比べてより困難となる。こう して,法人税は資金調達方法の選択に中立的 ではなく,借り入れという資金調達方法を有 利にするといわれてきたのである。

カルドアは,法人税の資金調達方法の選択 に与える効果として,短期的には借り入れを 促進することを認める。しかし,それは,株 式の課税後収益利回りと債券の利回りとの間 にある一定の関係が維持されているときのみ に生じる効果であって,長期的には両者の関 係は変化し,法人税の株式発行に対する抑制 効果は次第に薄れていくと論じる。それは,

法人税が新株発行を抑えるという短期的効果 が,長期的には株式の不足を招き,株価の上

昇を促し,株式の課税後収益利回りを低下さ せ,株式発行による資金調達コストを法人税 導入前の水準に引き下げるからである。

株価上昇の要因は,個人の投資家や機関投 資家の株式という投資対象に対する選好であ る。カルドアによると,彼らは,総資産のあ る最低割合を株式で保有しようとする。そう すると,もし新たな債券が新株に比してより 多く発行され,投資家の側で総資産のうち社 債で保有する比率が資産運用上望ましいと考 えられる比率を超えると,株式は債券に比し て不足していると受け取られ,株式への需要 と株価の上昇が生じ,株式の課税後収益利回 りは債券利回りに比較して以前よりも下落す ることになる。

法人税が導入されると,債券の収益利回り との関係で導入以前に成立していた株式の収 益利回りに株式の課税後収益利回りが一致す るように,株価は下落する。しかし,長期的 にみれば株価は再び上昇し,株式の課税後収 益利回りは低下して,債券の収益利回りとの 差は縮小する。株式の法人税込み収益利回り は,債券の収益利回りと法人税導入以前の関 係を回復する。

提案された法人税改革は,配当の二重課税 を調整し,法人税が株式発行による調達コス トを高めることを緩和して,借り入れに対す る刺激をなくし,資金調達方法の選択におけ る中立性を実現しようとするものであるが,

カルドアの議論によると,このような点から の法人税改革の主張は根拠がないということ

になる。古典的システムの法人税のもと

でも,長期的には,債券利回りとの関係で要 求される株式の課税後収益利回りの低下が投 資家によって受け入れられて株価は上昇し,

(14)

株価の上昇は株式発行が増えて債券発行との バランスが回復するまで続くと考えられる。

カルドアはこうして,古典的システム 法人税であっても,長期的にみると,課税に よって低下した収益でもって,法人税導入以 前と同水準の株価がもたらされるであろうと いうのである。そうであれば,古典的シス テムの法人税といえども,長期的な調整過 程を経た後では,株式による資金調達を妨げ ることはなく,株式発行を抑制して借り入れ を促進するようなことはないということにな る。この主張を支える論拠は,個人の投資家 や機関投資家の株式への強い選好である。こ のような観点から,カルドアによると,各国 における資本市場の発達の違いは,投資家の 株式投資に対する信頼性を高める制度,会社 の企業会計の強制開示とか独立の監査人によ る強制監査の有無によるものであって,会社 課税の制度の違いによって資本市場の発達が 促進あるいは阻害されるということはないと されるのである。

課税回避としての利潤留保

現行システムの法人税は課税回避のために 利潤留保を促し,その結果,複雑な課税回避 防止規定が必要となり,税務行政上の費用を 大きくしているという議論については,この 問題は非公開会社の場合にのみ生じ,それは 新しい法人税制のもとでも存続するであろう とカルドアは論じる。

もっとも,新しい制度のもとでは,課税回 避の範囲は,現行システムのもとでよりも小 さくなることは認める。個人所得課税の最高 限界税率が,30%の所得税と 55%の付加税を 合わせて 88%であるとき,提案の税制では,

配当には実質的に所得税の前払いと見なされ る法人税の他に個人段階で付加税が課せられ るが,留保には法人税のみが課されることを 考えると,留保によって回避できるのは現行 システムのものでのように所得税と付加税を 合わせた 85%ではなく,55%の付加税だけと なるだろうからである。

また,所有者が利潤留保で課税回避ができ るような富裕な会社は限られていることか ら,カルドアは,新しい法人税のもとで課税 回避の範囲が狭められることが,税務行政上 の利点であることを否定はしない。しかしな がら,この問題に関しては,税務行政上の利 点が,提案された改革案によってもたらされ る深刻な経済的損失と比較しうるほど重要な ものではないとし,カルドアはこのような利 点の過大評価を戒める。

二つの代替的改革案の比較

カルドアは,最後に,新しい法人税の導入 が政府によって決定された場合,その二つの 案,2税率システムあるいはインピュテー ション・システムのうち,いずれが選ばれる べきかという問題を取り上げる。カルドアの 見解は,2税率システムが二つのうちではよ り適切であるというものである。

そのもっとも基本的な理由は,2税率シス テムでは,会社課税と個人課税との分離がと もかくも維持されるからである。カルドアの 法人税論は,個人課税とはリンクしない,個 人課税から独立の法人税の主張である。改革 案をめぐる二つの選択肢のうち,それにかな うのは2税率システムであり,インピュテー ション・システムでは会社課税と個人課税が 再びリンクし,法人税が導入される以前の制

(15)

度に復帰することになる。法人税が導入され る以前は,会社の利潤には利潤税とともに所 得税が課され,会社課税のうちに所得税を含 んでいたが,インピュテーション・システム も会社課税を所得税の前払いと見る考えに立 つものである。カルドアは,法人税導入以前 の制度への復帰は最悪であるとして,イン ピュテーション・システムの採用に強く反対 する。

また,インピュテーション・システムは,

その原則通りうまく機能するとは思えないと いうことも,それに対する反対理由の一つと してあげられる。インピュテーション・シス テムでは,配当に対して個人段階ではすでに 前払いされたと見なされる所得税額を会社は 法人税として支払う義務があるが,そのよう な法人の税負担に対して外国税額控除を認め るとか,あるいは投資税額控除を認めるとい うように,この原則を掘り崩す圧力が生じる だろうことを予想するからである。この点か らは,2税率システムの方が,明らかにより 良いシステムであると判断されるのである。

国際的観点からは,二つの選択肢の各々は 他に対して一定の有利さを持っているが,イ ギリスの状況を考えると,自国政府と外国政 府との二重課税調整のための条約締結におい て,イギリスにより大きな交渉力を与える制 度を持つことが重要であるとして,2税率シ ステムをよりよいものとしている。それは,

2税率システムでは配当に対し法人税として 特別の源泉徴収税を規定しているので(7),外 国政府との間での二重課税の調整が容易とな るからである。

このように,カルドアは2税率システムを 採用することを適切としているのであるが,

それはともかくも独立の法人税という性格を 維持しており,インピュテーション・システ ムでは法人税の独立性が失われるからであ る。前節でみてきたカルドアの法人税の存在 理由をめぐる議論からすれば,後に実際に導 入されるインピュテーション・システムへの カルドアの批判は当然のことといわなければ ならない。

4.おわりに

カルドア法人税論は,個人課税とは直接リ ンクしないが,個人課税を補完・補足する独 立の法人税の主張である。そこでは,個人課 税が所得課税である場合,キャピタル・ゲイ ン課税を補完・補足する手段として税制全体 の中に,法人税が位置づけられたのである。

ところで,カルドアは個人課税のあり方と して,所得課税を望ましいものとしているわ けではない。消費を課税ベースとする税を望 ましいものとして,支出税を提唱する。もし,

個人課税が所得税から支出税に移行したとす ると,税制全体の中での会社課税の役割,法 人税の位置づけはどう変わるであろうか。会 社課税の問題は,これまでみてきたように未 分配利潤を課税上どう取り扱うかである。個 人課税が支出税であるとすると,未分配利潤 から株主が得る利益からの消費,すなわち キャピタル・ゲインからの消費が株主の消費 の一部としてもれなく補足されればよい。未 分配利潤を株主に帰属させる必要はなく,そ こからの株主の利益であるキャピタル・ゲイ ンそのものを個人段階で捉える必要もない。

したがって,個人課税である支出税を補完・

補足するものとしての会社課税の役割はな

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