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自我同一性の危機と傾倒に関する領域別の分析

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

自我同一性の危機と傾倒に関する領域別の分析

著者 杉村 健, 北村 隆

雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学

巻 38

号 1

ページ 135‑151

発行年 1989‑11‑25

その他のタイトル Analysis of Crisis and Commitment in Ego‑Identity

URL http://hdl.handle.net/10105/1996

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自我同一性の危機と傾倒に関する領域別の分析

杉 村   健・北 村   隆

(奈良教育大学心理学教室) (平成元年4月26日受理)

Erikson (1959)の発達理論は人間の生涯にわたる発達を取り上げたものであるが、その中で も青年期の自我同一性の概念は特に注目されている。しかし、自我同一性の概念は臨床経験に基 づくものであり、しかも非常に抽象的であるので、その後、この概念を具体的に把握しようとす る実証的な研究が多く行われてきた。中でもMarcia (1966)の研究は、その後の実証的研究の 基礎となっている。

Marcia (1966)は、自我同一性を「同一性 対 同一性拡散」という一次元的な連続体として とらえるのではなく、危機(crisis)と傾倒(Commitment)という2つの基準の相互作用として とらえた。彼によれば、危機とは「意味のある選択肢の中からの選択に従事する青年期の一時期」

であり、傾倒とは「個人が示す個人的投資の程度」である。この2つの基準を基に、彼は青年を 4つの同‑ft地位(identity status)に分類した。

①同一性達成(Identity achievement) :すでに危機を経験し、現在傾倒している者。

②モラトリアム(Moratorium) 現在危機を経験しているが、傾倒については暖味な者(傾 倒への努力はしている)。

③早期完了(Foreclosure) :まだ危機を経験していないが、現在傾倒している者。

④同一性拡散(Identity diffusion) :危機の経験の有無に関わらず、現在傾倒していない者。

Marcia (1966)は男子大学生に、職業、政治、宗教の3領域での同一性地位面接を行い、 l司時に EI‑ISBという質問用紙を作成して全体的同一性得点を測定した。その結果、同一性達成、モラ トリアム、早期完了、同一性拡散の順で同一性得点が低くなることが見出された。このアプロー チは、自我同一性という非常に抽象的な概念を、危機と傾倒という2つの変数を用いて明確にし た点や、危機を経験し傾倒することで同一性が確立するという同一性形成の過程を明らかにして いる点で評価できよう。

その後、同一性地位の概念をより明確にするため、同一性地位と人格の変数との関係を調べた 研究が多く行われてきた.例えば、 Self‑esteemとの関係(Marcia, 1967; Marcia and Friedeman, 1970; Schenkel and Marcia, 1973)、権威主義との関係(Marcia, 1967; Marcia and Friedeman, 1970; Schenkel and Marcia, 1973)、親密性との関係(Orlofsky et al, 1973)、自立性との関係 (Waterman and Waterman, 1972)などがある。

このように、初期の研究においては人格の変数との関係を調べたものが多いが、同一性地位の 発達的変化を調べたものもいくつかある WatermanandWaterman (1971)は大学1年の男子 を対象にして、秋と春に職業とイデオロギー(政治、宗教)の領域の同一性地位を調べた。その 結果、職業、イデオロギーの領域とも、秋から春にかけて拡散の者は有意に減少し、職業の領域 のみでモラトリアムの者が有意に増加した。しかし、同一性達成から他の地位に変化する者は多 く、同一性達成が安定した最終的な地位であるとは言えなかった。

この研究の被験者が大学の4年になったとき、 Waterman etal. (1974)は同じ領域で再び同一

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杉 村   健・北 村   隆

性地位を調べた。その結果、職業の領域では同一性達成の者が有意に増加してモラトリアムの者 が減少し、イデオロギーの領域では、同一性達成の者が有意に増加して早期完了の者が減少して いることが明らかにされた。また、同一性達成から他の地位へ変化した者は少なく、より安定し た地位であることが示された。しかし、 4年生になっても13%の者は職業、イデオロギーの領域 とも同一性拡散であり、 33%の者がいずれかの領域で同一性拡散であった。この結果は、大学時 代は同一性の確立にとって重要であるが、半数近くの者は大学時代に同一性が充分に確立しない ことを示している。

ところで、これまでの同一性地位の研究は、領域を無視して全体の同一性地位を測定したもの が多かったが、 Matteson (1977)は、この方法では特定の領域での同一性地位を測定できないと 批判した Mattesonは職業、政治、価値観、性役割の領域での全体的な同一性地位による分類と、

探索(Exploration '危機のこと)と傾倒の水準を領域別に測定する方法とを比較した。その結果、

同一性地位による分類よりも危機と傾倒の水準を別々に比較する方が、また、全体的な同一性地 位の測定よりも領域別に分析を行う方が、より多くの人格の変数を予測することが明らかにされ た。 Meilman (1979)は、 12、 15、 18、 21、 24歳という青年期全般にわたる男女を対象にして、

職業、政治、価値観、性(婚前交渉)の領域での危機と傾倒の水準を測定した。その結果、宗教 の領域での危機を除いて、年齢が増加するにつれてどの領域でも危機と傾倒の得点が有意に増加 することが見出された。

加藤(1983)は同一性地位を測定する尺度(同一性地位判別尺度)を作成し、男女大学生につ いて領域を込みにした全体的な同一性地位を測定している。同時に彼は、将来の仕事、宗教に対 する自分の態度、政治に対する自分の態度、自分と家族との関係、同性の友人との関係、異性の 友人との関係、男らしい生き方・女らしい生き方、勉強、自分にふさわしい趣味、自分が目指す べき生き方や価値、社会問題に対する自分の態度の11領域について、高校2年の頃、大学入学の

頃及び現在の危機と傾倒の水準を測定し、全体的な同一性との関係を調べている。しかし、全体 的同一性地位と各領域との関係をみることが主な目的であり、領域ごとの危機と傾倒の発達的な 変化については明らかにしていない。また、前述のように、危機と傾倒の発達的な変化について 調べた研究はほとんどない。

本研究の第1の目的は、後述する自由記述による予備調査の結果と加藤1983)を参考にして、

現代日本の青年にとって重要であると考えられる7つの領域(進路、政治、生き方、異性との交 際、同性の友人関係、学業、クラブ・サークル活動)を定め、各領域別に危機と傾倒の発達的な 変化を検討することである。

次に、同一性形成にとって重要である領域が、男女で異なることを示す研究がある。 Hodgson and Fisher (1979)は、男子大学生は女子大学生よりも職業、政治、宗教といった個人内

intrapersonal)の領域で危機を経験している者が多く、女性は男性より個人間(interpersonal) の領域で危機を経験している者が多いことを示した Thorbecke and Grotevant (1982)は、女 性は男性より個人間の領域で先行する者が多いという仮説を立て、友情とデートの領域について 男女高校生に面接を行った。その結果、友情の領域での危機の水準は、女性の方が男性より有意 に高く、仮説は支持された。

本研究の第2の目的は、領域別に危機と傾倒の水準の性差を分析することである。従来の研究 より、男性は個人内の領域で女性より先行する者が多く、女性は男性より個人間の領域(性に対 する態度、友情)で先行する者が多いことが示唆される。本研究で取り上げる7つの領域のうち、

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自我同一性における危機と傾倒

137

進路、政治、生き方、学業は個人内の領域であり、異性との交際、同性の友人関係、クラブ・サー クル活動は個人間の領域に相当すると考えられるので、前者の領域では男性の方が女性より危機 及び傾倒得点が多く、後者の領域では、女性の方が男性より得点が高いことが予想される。

方 法

被験者 奈良教育大学1回生99名(男性42名、女性57名)と3回生67名(男性26名、女性41名) である。 1回生の平均年齢は19歳、 3回生は21歳6カ月である。

質問紙の作成(1)危機と傾倒の定義づけ Marcia (1966)を参考にして、危機と傾倒を次の ように定義した。危機とは、意味のある選択肢の中から1つを選択しようする意志決定の時期で あり、傾倒とは、個人が示す個人的投資の程度である。無藤(1979)、 Grotevantetal. (1982)、

加藤1983)を参考にして、次のような具体的な内容を定めた。

危機については、 ①選択肢や望ましいあり方についての真剣な考察、 ②自分の考え方について の再検討、 ③両親の考え方についての疑問の体験、傾倒については、 (力自分なりの意見や関心を 持っていること、 ②積極的な取り組みである。

(2)予備調査 領域を決定し、項目作成の参考にするために予備調査を行った。危機について は、 「何かを決めるのに迷ったこと」、傾倒については、 「どのようなことに取り組んだか」とい う質問項目について、中学の頃、高校の頃、現在及び将来の4つの時期につき、各項目2つずつ、

計16の自由記述をさせた。この調査の結果、進路、政治、生き方、異性との交際、同性の友人関 係、学業、クラブ・サークル活動の7領域を決定し、それぞれの領域について質問項E]を作成す ることにした。

(3)質問項目の作成 先に述べた危機と傾倒の定義及び予備調査の結果より、危機と傾倒の具 体的な調査項目を作成した。

危機については、それぞれの領域について3項目ずつで合計21項目、傾倒については2項目ず つで合計14項目を中学3年用、高校3年用、大学生用について作成した。なお、中学3年用と高 校3年用は、 「中学3年生の頃」 「高校3年生の頃」という表現を除いてはすべて同じ内容を用い た。また、クラブ・サークル活動の領域では3年時に限定すると現実的でなくなるので、中学の 頃、高校の頃という表現を用いた。

こうして作成した質問項目を、先に述べた危機と傾倒の定義及び内容と一致しているかどうか を大学生に評定させ、その結果を参考にして修正し、最終的な質問項目を決定した。それが以下 の項目である。

1 進路 危機

1.どの進路を選ぼうか真剣に考えたことがある。

2.進路についての自分の考え方に疑問を感じ、真剣に考え直したことがある。

3.進路についての両親の考え方に非常に疑問を感じたことがある。

傾倒

1.進路に対する自分なりの明確な考え方を持っている。

2.日分の決めた進路に進むため積極的に取り組んでいる。

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危機

1.どんな政治が望ましいか真剣に考えたことがある。

2.政治についての自分の考え方に疑問を感じ、真剣に考え直したことがある。

3.政治についての両親の考え方に非常に疑問を感じたことがある。

傾倒

1.政治に対する自分なりの明確な考え方を持っている。

2.政治的な問題に大いに関心がある。

Ⅲ 生き方 危機

1.どんな生き方が望ましいか真剣に考えたことがある。

2.生き方についての自分の考え方に疑問を感じ、真剣に考え直したことがある。

3.両親の生き方に非常に疑問を感じたことがある。

傾倒

1.生き方に対する自分なりの明確な考え方を持っている。

2.日分なりに十分納得のいく生き方をしている。

Ⅳ 異性との交際 危機

1.異性とのどんな交際が望ましいか真剣に考えたことがある。

2.異性との交際についての自分の考え方に疑問を感じ、真剣に考え直したことがある。

3.異性との交際についての両親の考え方に非常に疑問を感じたことがある。

傾倒

1.異性との交際についての自分なりの明確な考え方を持っている。

2.親しく交際している異性の友人がいる。

Ⅴ 同性の友人関係 危機

1.どんな友人関係が望ましいか真剣に考えたことがある。

2.友人関係についての自分の考え方に疑問を感じ、真剣に考え直したことがある。

3.友人関係についての両親の考え方に非常に疑問を感じたことがある。

傾倒

1.友人関係についての自分なりの明確な考え方を持っている。

2.親しく交際している友人がいる。

Ⅵ 学業の領域 危機

1.学業に対する望ましい取り組み方について真剣に考えたことがある。

2.学業に対する自分の考え方に疑問を感じ、真剣に考え直したことがある。

3.学業についての両親の考え方に非常に疑問を感じたことがある。

傾倒

1.学業についての自分なりの明確な考え方を持っている。

2.学業に積極的に取り組んでいる。

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日枝同一性における危機と傾倒

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Ⅶ クラブ・サークルの領域 危機

1.どのクラブやサークルに入ろうか真剣に考えたことがある。

2.クラブやサークル活動についての自分の考え方に疑問を感じ、真剣に考え直したことがあ る。

3.クラブやサークル活動についての両親の考え方に非常に疑問を感じたことがある。

傾倒

1.クラブやサークル活動についての自分なりの明確な考え方を持っている。

2.クラブやサークル活動に積極的に取り組んでいる。

調査方法 奈良教育大学において、 1988年11月17日(主に1回生)と12月8日(主に3回生) に授業時間に実施した。記入用紙を配布し、氏名などを記入させた後、この調査の主旨や回答の 方法を説明した。回答は記入用紙の所定の欄に、 「かなり当てはまる」を4、 「少し当てはまる」

を3、 「あまり当てはまらない」を2、 「ほとんど当てはまらない」を1として記入させた。説明 の後、項目を読み上げ回答させた。所用時間は約20分であった。

結果と考察

危携

1回生 各項目について、 「かなり当てはまる」を4点、 「少し当てはまる」を3点、 「あまり 当てはまらない」を2点、 「ほとんど当てはまらない」を1点として得点化し、領域ごとに3項 目の合計点を出し、各被験者の危機得点とした。従って、この得点は3点から12点まで分布する。

表1は危機得点の平均とsDを示したものであり、これについて2(悼) ×3(発達) ×7(領域) の3要因分散分析を行った。なお、以下で行う2群間および単純効果の検定はすべて有意水準5 % とする。

発達の主効果がF (2,192) ‑59.18、 p<.01、 MSe‑4.21で有意であり、中学(平均5.63)

<高校(平均6.41) <現在(平均6.78)と、発達とともに危機得点が有意に増加することを示す。

領域の主効果がF (6,582) ‑67.32、 p<.01、 MSe‑4.63で有意であり、表1からわかるよう に、危機得点の平均は、進路>生き方‑友人>学業‑クラブ>異性>政治の順であり、進 路が最も高く、政治が最も低かった。

性×領域の交互作用がF (6,582) ‑2.33、 p<.05、 MSe‑4.63で有意であった。標本値で は男性の得点が高い領域と女性の得点が高い領域がみられるが、どの領域にも有意な性差は認め られなかった。

発達×領域の交互作用もF (12,1164) ‑4.04、 p<.01、 MSe‑3.51で有意であった。これ を図示したのが図1である。単純効果の検定の結果、進路と学業の領域の高校と現在の聞及び友 人と生き方の中学と高校の間を除いて、全ての領域で中学と高校、高校と現在の間に有意差があ った。図1より発達的変化の3つのパターンが読み取れる。

①学年とともに危機得点が増加する領域:政治、異性、友人。

(診中学から高校にかけて増加し、その後、変化しない領域:進路、生き方、学業。

③中学から高校にかけて減少し、その後、増加する領域:クラブ。

3回生1回生と同様に各被験者の危機得点を求めた。危機得点の平均とsDを示したものが

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杉 村   健・北 村   隆 衷1 1回生の危機得点の平均とsD

進路 政治生き方異性 友人 学業クラブ全体

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自我朴‑一一性における危機と傾倒

141

表2であり、これについて2 (性) ×3 (発達) ×7 (領域)の3要因分散分析を実施した。

その結果、発達の主効果がF (2,130) ‑88.82、 p<.01、 MSe‑3.97で有意であり、中学(辛 均5.51) <高校(平均6.34) <現在(平均7.29)と発達とともに危機得点が有意に増加して いるO領域の主効果がF (6,390) ‑30.23、 p<.01、 MSe‑4.04で有意であった.表2からわ かるように進路>友人‑学業‑生き方>クラブ‑異性>政治の順で、進路が最も高く、政 治が最も低かった。

性×領域の交互作用もF (6,390) ‑5.62、 p<.01、 MSe‑4.04で有意であった。政治の領 域では男性(平均5.37) >女性(平均4.42)、クラブの領域では女性(平均6.80) >男性(平均 5.49)で有意な性差がみられた。

発達×領域の交互作用もF (12,780) ‑7.01、 p<.01、 MSe‑2.17で有意であった。図2 に示したように、友人、クラブの中学と高校の間、学業の高校と現在の間を除いて全ての領域で 中学と高校、高校と現在の間で有意差があった.この凶より発達的変化の3つのパターンが読み WH^i

①年齢とともに得点が増加する領域:進路、政治、生き方、異性。

(彰中学から高校にかけて増加し、その後、変化しない領域:学業。

③中学から高校の間は変化せず、その後、増加する領域:友人、クラブ。

現在の比較 表3は1回生と3回生の現在の危機得点について平均とsDを示したものであ るO 2 (学年)×2 (悼)×7 (領域)の3要因分散分析の結果、学年の主効果がF(l,162 ‑4.03、

p<.05、 MSe‑ 14.29で有意であり、 3回生の方が1回生より危機得点が高かった。

学年×領域の交互作用もF (6,972) ‑3.60、 p<.01、 MSe‑2.76で有意であり、政治と異 性の領域において3回生の危機得点が1回生より高かった。性×領域の交互作用もF (6,972)

‑2.59、 p<.05、 MSe‑4.96で有意であり、政治の領域では男性の方が、クラブの領域では女 性の方がそれぞれ危機得点が高かった。

学年×性×領域の交互作用もF (6,972) ‑2.59、 pく.01、 MSe‑2.77で有意であった。

政治の領域で、 1回生では性差はみられないが3回生では有意な性差があり、男性の方が女性よ り危機得点が高かった。異性の領域では女性のみで有意な学年差があり、 3回生の方が1回生よ りも危機得点が有意に高かった。クラブの領域では3回生でのみ有意な性差があり、女性の方が 男性より危機得点が高かった。

考察 領域をこみにした危機得点については、 1回生、 3回生ともに中学、高校、現在と進む につれて得点が増加しており、現在の得点は3回生の方が1回生よりも有意に高い。これらの結 果は、青年期の間に中学、高校、大学と進むにつれて、自らの選択や望ましいあり方について真 剣に考え、自分や両親の意見に対して疑問を感じ、真剣に考えるようになることを示唆している。

1回生と3回生を通じて領域別の発達的変化を大きく分類すると、 ①進路と生き方、 ②政治と 異性、 (彰友人とクラブ、 ④学業の4つのパターンになる。

まず進路と生き方は、 1回生では中学から高校にかけて得点が増加するが、高校から現在では 変化しない。 3回生では、中学、高校、現在と得点が増加し、現在の得点は1回生よりも高い。

これらの結果は、進路や生き方について危機を経験する程度は、中学3年から高校3年にかけて 増加するが、大学入学後の半年くらいはあまり変化せず、 3年くらいたつと増加することを示し ている。中学3年には高校受験、高校3年には大学受験という大きな危機に直面するが、大学入 学後1年くらいは当面の危機はなく、 3年目くらいから就職という危機に直面する。そのため、

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杉 村   健・北 村   隆 表2 3回生の危機得点の平均とsD

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I刈2 領域別危機得点の発達的変化(3回生)

142

(10)

自我同一性における危機と傾倒

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143

現在における危機得点の相違が生じたのであろう。自分の進路の方向を決定する際、どのような 生き方が望ましいのかという生き方の選択を迫られる。そのため、進路と生き方が同じような発 達的変化を示したのであろう。

政治と異性の領域では、 1回生、 3回生ともに中学、高校、現在と得点が増加するが、 3回生 の高校から現在にかけての増加は1回生より著しく、現在の得点は3回生の方が1匝性より有意 に高い。これらの結果は、政治や異性との交際について危機を経験する程度は、中学3年、高校 3年、大学1臥大学3回と、青年期を通じて増加することを示す。これらの領域は全般に得点 が低いが、異性で3回生の現在の危機は、全領域の中で4番目になっているC政治の得点が低い のは現代青年の政治的な無関心の現れであり、異性の得点が低いのは社会的望ましさによるバイ アスがあるのかもしれない。 3回生で異性の危機得点が高くなるが、中学、高校の頃よりも異性 と交際する機会が増え、より危機に直面することが多くなるためであろう。

友人とクラブの領域では1回生、 3回生ともに、中学から高校では得点がやや減少するか、ま たは変化せず、高校から現在は増加している。これらの結果は、危機を経験する程度は友人関係、

クラブ・サークル活動ともに中学から高校にかけてはあまり変化しないが、高校から大学で増加 することを示す。クラブでの友人関係は学生生活においてかなりの比重を占めるものであり、そ のため友人とクラブが同じような発達的変化を示したのであろう。

学業では1回生、 3回生ともに、中学から高校にかけて得点が増加するが、その後は変化せず、

現在の得点の間にも差がない。これらの結果は、中学3年から高校3年にかけては危機を経験す る程度が増加するが、大学に入ってからは増加しないことを示す。中学、高校では進路の決定に あたり学業について真剣に考えるが、大学入学後は中学、高校ほどには学業が将来と直接には結 びつかないので、得点が増加しないのであろう。

(11)

144

杉 村   健・北 村   隆

次に、領域別の性差は3回生のみで認められ、政治で男性の方が女性より得点が高く、クラブ では女性の方が男性より得点が高かった。この結果は、男性は個人内の領域(進路、政治、生き 方)で、女性は個人間の領域(友人、異性、クラブ)で得点が高いという当初の仮説を一部分実

証するものである。

以上のように、危機得点を領域別にみると4つの発達的変化のパターンが見出され、領域をこ みにした全体的な得点では見出せなかった発達的変化の特徴が浮き彫りにされた。従って、自我 同一性の発達や性差の分析を行うには、全体的な得点や同一性地位よりも、領域別の得点を用い

るのが望ましい。

傾倒

1回生 項目ごとに4点から1点で点数化し、領域ごとに2項目の合計を出し、各被験者の傾 倒得点とした。従って、この得点は最低2点から最高8点まで分布する。表4は傾倒得点の平均 とsDを示したものであり、これに2(悼) ×3(発達) ×7(領域)の3要因分散分析を実施した。

その結果、発達の主効果がF (2,194) ‑18.08、 p<.01、 MSe‑2.66で有意であり、中学(辛 均4.81) <高校(平均5.24) ‑現在(平均5.29)と、中学から高校にかけて得点が増加するが、

その後は変化しないことを示している。領域の主効果がF (6,582) ‑78.1 、 pく.01、 MSe‑

3.58で有意であった。表4からわかるように、友人>進路‑クラブ‑生き方‑学業>異性

>政治の順で傾倒得点は低くなり、友人が最も高く政治が最も低い領域であった。

性×発達の交互作用がF (2,194) ‑3.20、 p<.05、 MSe‑2.66で有意であり、中学では女 性の傾倒得点が男性より高いが、高校と現在では有意な性差はなかった。

性×領域の交互作用がF (6,582) ‑2.96、 ♪<.05、 MSe‑3.58で有意であった。標本値で は男性の得点が高い領域と女性の得点が高い領域がみられるが、どの領域にも有意な性差は認め られなかった。

発達×領域の交互作用がF (12,1164) ‑8.05、 p<.01、 MSe‑1.41で有意であったO図3 からわかるように、学業とクラブの中学と高校の間、友人、生き方、クラブの高校と現在の間を 除いては、全ての領域で中学と高校の間、高校と現在の間に有意差が認められた。この図から発 達的変化の5つのパターンが読み取れる。

(力年齢とともに傾倒得点が増加する領域:政治、異性。

②中学から高校にかけて増加し、その後、変化しない領域:生き方、友人。

③中学から高校にかけて増加し、その後、減少する領域:進路。

④中学から現在にかけて変化しない領域:クラブ。

⑤中学から高校にかけては変化せず、その後、減少する領域:学業。

3回生1回生と同様に各被験者の傾倒得点を求めた。表5は各被験者の平均とsDを示した ものであり、これについて2(性) ×3(発達) ×7(領域)の分散分析を実施した。

発達の主効果がF (2,130) ‑21.17、 pく.01、 MSe‑2.94で有意であり、中学(平均4.83)

<高校(平均5.10) <現在(平均5.57)と、年齢とともに傾倒得点が有意に増加している。領 域の主効果もF (6,390) ‑30.93、 p<.01、 MSe‑3.50で有意であった。表5からわかるよう に、友人>クラブ>進路>学業‑生き方>異性>政治の順で傾倒得点が低くなっており、

友人が最も高く政治が最も低かった。

性×発達の交互作用がF (6,390) ‑2.53、 p<.05、 MSe‑3.50で有意であり、政治の領域 で、男性(平均4.47) >女性(平均3.38)と有意な性差が認められた。

(12)

自我同一性における危機と傾倒

145

表4 1回生の傾倒得点の平均とSD

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図3 領域別傾倒得点の発達的変化(1回生)

参照

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