奈良教育大学学術リポジトリNEAR
体温調節の見地からみた婦人服装の研究 −衣服型 に重点をおいて(その3)−
著者 中谷 和
雑誌名 奈良教育大学紀要. 自然科学
巻 29
号 2
ページ 113‑119
発行年 1980‑11‑25
その他のタイトル A Study of Women's Clothing from the View Point of Temperature Regulation −Putting stress on the types of clothing (Part 3)−
URL http://hdl.handle.net/10105/2419
奈良教育大学紀要 第29巻 第2号(自然)昭和55年
Bull. Nara Univ. Educ‥ Vol. 29, No. J (Nat.), 1980
体温調節の見地からみた婦人服装の研究
‑衣服型に重点をおいて(その3) ‑
中 谷 和 (被服学教室) (昭和55年4月28日受理)
A Study of Women's Clothing from the View Point of Temperature Regulation
一一Putting stress on the types of clothing (Part 3)‑
Kazu NAKATANI
(Department of Ho朔e Economics, Nara University of Education, Nara, Japan) (Received April 28, 1980)
Summary
Using three types of women's clothing with different covering area of skin surface, one tight and the others loose around the arms and neck, an experiment was conducted to investigate heat loss and heat production according to the type of clothing during the rest and walking time for an hour respectively.
Two young females served as experimental subjects.
The following results were obtained.
1. The mean skin temperature at rest was 33.3‑C in all subjects and clothing differences were negligible. When the subjects were walking, however, the difference between types of clothing was observed clear‑
ly.
2. Heat production and loss in subjects during one hour rest and one hour walking were significantly different according to the type of cloth‑
ing at least under the comfortable thermal environment.
3. Thermal insulation of three types of clothing was increased with the enlargement in covering area of skin surface at both rest and walking time.
113
114
中 谷 和
I.緒 蝣=蝣
衣服の体温調節作用は,衣服型,被服材料,被服の構成(着方)によって左右される.衣服型 の影響については,既に渡辺1),小河9)らの報告があり,安静無風時に限らず有風時にも衣服の 体温調節作用は衣服型,殊に被覆面積やゆとりの大小・開口部の在り方などで相違するという.
著者ら3)が先に行なった被覆面積の等しい密閉型と開放型の2種類の衣服を着装した場合の安 静時および歩行時における体温調節作用についての実験でも,ほぼ同様の傾向が認められた.
本報は健康を維持し,発展させ得るような衣服,すなわち,至通衣服・快適衣服を設計するた めの基礎資料を得ることを目的に,被覆面積とゆとり(空気層の厚さ)の異なる夏季日常用ワン ピースを作製し,これら3種類の婦人服を着用した場合の安静時ならびに歩行時における体温飼 節作用を比較検討したものである.
II.実 験 方 法
1974年9月と10月, 11月に環境気温21‑23‑C (蒸発による放熱作用を考慮してこの李に実施), 気湿60±5%の無風室内で,健康な女子学生(表1) 2名を波検者として,衣服型の異なる3種
の衣服を着用した時(写真)の舌下温,皮膚温,それに体熱放散と産熱の状態などを安静時と運 動時について観察した.
表1 被 検 者
(注)体表面積は高比良の式により算出した.
1)被 検 服
衣服型は日常みられる婦人の家庭着あるい は通勤着で,被麗面積とゆとりが異なるワン ピース3種類である.写貢向って左からA 輿, B型, C型とすると,被服面積は最小の A型で42%, B型で59%, C型で64%であ る.衣服の材料は木綿100%のギンガムを使 用した.
なお,実験服の組合せはワンピースとスリ
A型 B型 C型 写真 被紋服の衣服型
ップおよびパンティの計3枚であり,総着衣頑・量は
各々A型で被検者Slが150g, S2が130g,またB型ではSlが333g, SOが307g, C型 ではSlが473g, S2が437g であった.2)測定項目ならびに実験順序
実験衣着装入室 測定器具貼布
体温調節の見地からみた婦人服装の研究
表2 皮膚温測定部位
測定開始(前測定) i.環境温及び湿度 2.体重
,1‑ l‑";it ‑I.戊rAl表面温 時Vi捕集
測定終了(後測定) ‑前測定と 引続き歩行開始 同じ項目
測定開始(前測定) 測定項口は安静時と同じ
呼気採集
測定終了(後測定) 図1 実験順序
115
測定部位l 位 置
額中央眉上2cm乳腺と第4肋骨の交点 'I I即線V酬輔由下 腹側中央のへその高さ 三角筋中央点 中指末節背面
左大腿前面中央線上にて,ソケイ線と膝 蓋上端との間の下%
左下腿前面中央線にて,下腿下% (歴骨 線の外側)
左足背中央線中心
個々の実験は図1に示す順序に従って実施した.
すなわち, ① 被検者は食後少なくとも2時間以上 経過した後に被検服を着用して実験室に入室 ② 実験室にて椅坐安静20分後,皮膚温測定用エレメン
トを身体各測定部位4) (表2)に装着 ③ 30分間 楕坐安静後,舌下温,皮膚温,体感を測定(安静暗 前測定) ④ 続いて60分間椅坐安静後,同様の項 目について測定(安静時後測定) ⑤ 安静時第1 回測定終了後, lo介後, 50分後に各々5分間呼気を 採集 ⑥ 安静時実験終了後,直ちに110歩/分の 速度で歩行を始め, 30分後に舌下温,皮膚温ならびに体重を測定(歩行時前榔定) ⑦ 1時間 歩行後に再び同様の項目について測定(歩行時後測定) ⑧ 歩行時の第1回測定終了後, lo介 後, 50分後に各々3分間呼気を採集.
3) 測定器具
舌下温の測定には婦人体温計を,体重測定には感量1 g,秤量90kgの人体用精密台秤を用い た.皮膚温は直径0.2c、m棒状受感部サーミスター温度計を皮膚に秤創帝で固定して測定した.
呼気はダグラスバッグに採集し,呼気分析はスタビライザーで行なった.
111.実験結果と考察
表3は安静90分後ならびに歩行90分後の衣服型別,状態別,被検者別の身体各部位皮膚表面温 で,表示の値はいずれも8回の実験の平均値を示している.
皮膚温を部位別にみると,いずれの衣服型においても安静時,歩行時ともに腹部の皮膚温が最 も轟く,安静時で35‑C,歩行時で34‑C前後である.全般的に躯幹部皮膚温は四肢部に比べて 高く,安静時で35±0.8‑C,歩行時では33±1.0‑C の範囲内にある.そこで,躯幹部において 最高皮膚温を示す腹部と四肢部最低皮膚温を示す下腿の皮膚温差を検べると,安静時で 蝣7‑C, 歩行時で 5‑Cと極めて大きい.
116
胸
育
腹
次に衣服型別に皮膚温(図2参照)をみる と,各部位とも温差は比較的少なく,殊に安 静時の糖,宿,腹などでは殆ど温差はない.
しかし,安静時の胸,育,下腿,足背および 歩行時の紙,胸,背でやや明確に相違がみら
れる.例えば,衿剖開口部を他より大きくし たA型は, B型, C型よりも胸と背の皮膚温 が低く, A型とB型とでは胸で約1.5‑C,育 で約3.OoCの温差が認められる.
次に安静時と歩行時の皮膚温を比較する と,衣服型の如何を問わず,歩行によって下 腿と足背の皮膚温だけが僅かに上昇し,他の すべての部位で約2 ‑3‑0cc低下した.
Walk
体温調節の見地からみた婦人服装の研究 117
図3は指先と足背を除く皮膚温測定値に按分比を乗じて算出した平均皮膚温5)と舌下温の平均 値を図示したものである.
安静時には, A, B, Cいずれの型の平均皮膚温も33.3‑Cで等しい値を示すが,歩行時にA
<B<Cの魔に僅かに高くなる.つまり,歩行時には被麗面積ならびにゆとりの大なる衣服型ほ ど平均皮膚温は高くなる傾向がみられる.この場合,安静時と歩行時の温差はA型で2.5‑C, B 型で2.OoC, C型で1 0‑Pとなり,歩行時にはA型の体熱放散がB型およびC型より著しく大き
いことがわかる.
舌下温は,いずれの状態,衣服型においても,ほぼ変動がなく37.0‑Cである.
従って,これら皮膚温および舌下温の値から環境温との温差が最小になるA型の衣服保温力 が, BならびにC型よりも歩行時には小さくなることが容易に予想できる.
なお, 1時間の安静ならびに歩 行による皮膚温の変動は各衣服型 とも僅少であったが,指先と足背 において変動は戯著であった.特 に指先は安静時に著しく降下し, 歩行時には上昇した.
表4は, 1時間の安静ならびに 歩行による体重減少量(g/hr)杏 示したものである.減少量にやや 個人差がみられるが,歩行時にお ける破検者Slの場合を除けば, 衣服型による影響はほぼみられな い.なお,ここで,被検者Slの 歩行時にみられるA<B<Cとい
表4 体 重 減 単位 g
秩
仰 ‑ ' 蝣 ・
‑ "
"
蝣 . 毒
e n c o c o G n
〜
53.7 8.339 47.6 3.546 32.6 84.1
一
⁚
̲
∴
̲ 1
̲
3.380 5.384 6.698 51.9 7.688
S.D.
表5 代 謝 量 Cal/m2/hr
B 型 I C 型
う体重減少量の増大現象を,ただ 状態、\
ちに,衣服型と関連づけて判断す ることは早計であり.統計上も有 意でない.いずれにせよ,脚部産 熱と空気の破壊による放熱の状 態,その他に被検服の表面積と幅 射による放熱との関係など,多角 的解明が必要であろう.
表5は安静時と歩行時における 代謝量6> (Cal/m2/hr)で, 8回 の測定の平均値と標準偏差を示し ている.安静時も歩行時も個人差 は僅少で,衣服型による代謝鼻の 差も軽度である.僅かにC型が, 安静暗,歩行時ともにA型やB型 よりも少ないが,衣服型による相
X ; S.D. S.D.
安静時一歩行時
Si 76.56
1
S2 i 93.10
j
5.332 45.28
::::鵠7.356 8.20470.8 86.1:
表6 衣服の保温力 単位 clo
‑ 、朗fォJ
i:諒ヾh̲.、、、、検、一、、
A 型
^B
」
一s
JIJl
「Ⅹ6 3
0 0
1 1 3 16 13 30 0
0.500 1.30
7 4
1 9
1 0
0 0
7 0
‑ I " O J
O 0
l ウ 一S S
歩行時
0.1340.68 0.1400.50
118
中 谷 和
達は有意でない.しかし,同一衣服型における安静時と歩行時の代謝量には頗著な差がみられ, 歩行時には安静時のA型で約1.97倍, B型で約1.90倍, C型で約1.94倍となり, A型が他の衣服 型より増え方が大であった.
表6は皮膚温,舌下温,体重減少量などの測定結果から着衣全体の保温力7>8> (Clo unit)杏 次式によって求めたもので,表示の値は8回の測定の平均値である.
5.55 (Ts‑Ta) A
M‑0.58E+0.83ォ<^d一甲+些堅)̲
lヽJCL‑‑‑‑ ‑la
1'▲ 】 i V'〉)W 3
clo単位であらわした衣服の保温力 Ts :手,頭部,足を除く平均皮膚温(‑C) TA :環境気温(‑C)
A :体表面積(m*)
M :酸素消費量から求められた総代謝量(kg‑Cal/hr)
0.58E :着衣した被検者の連続的体重測定から概算した蒸発による放熱量(kg‑Cal/hr) O :着衣していない時の被検者の体議(kg)
0. 83 身体の平均比熱(kg‑Cal/kg/‑C) dTR :直腸温の降下度(oC/hr)
・4Ts 平均皮膚温の降下度(oC/hr)
5.55 総抵抗kg‑Cal/m2/hr/‑Cをclo単位に換算するための係数 Ia :衣服表面空気層の保温力(clo単位)
Iaは次の式から概算した.
Ia=
0.61(去+O.iv盲 (翠)
Ⅴ :気流(cm/秒)
T :気温の絶対温度(273+‑C)
(clo単位)
この実験では気流を一応,安静時は10cm/秒,歩行時は150cm/秒と仮定して安静時Ia‑0.826 clo,歩行時Ia‑0.34cloを算出した.
衣服の保温力(Iol)は安静時にも歩行時にも,被検者Slで,かなり明確に衣服型による差が 認められる.被検者S2では,安静時,歩行時ともにB型が最大値を示したが, SlではA<B<
C型の順を示し,被覆面積の大小と同一傾向がみられた.なお,歩行時clo値の安静時clo値に 対する割合はA型で約32%, B型で約40%, C型で約38%となり,同一衣服着用時には歩行時の 衣服保温力が安静時のA型で約y3に減少し,他の衣服型よりも減少率が僅かに大きいことが確認
SEB9
以上のことから,日常生活に必要な健康で快適な衣服を設計する場合,あるいは快適な着衣の 恒常状態を維持しようとする場合に考慮すべき重要なことは,歩行時に衣服内換気を促進させ, 体熱放散を増大させ得るような,変形・着装自在な衣服を考案,作製し,着用するということで
ある.具体的には,安静時にB型もしくはC型程度の衣服型のものであれば,動作・活動時には,
A型あるいはさらに開口部を拡大した衣服に変形できるような衣服であることが望ましい.
体温調節の見地からみた婦人服装の研究 119
IV.結 論
被覆面積とゆとりの異なる夏用婦人ワンピース3種類を作製し, 2人の女子学生に着用させ, 外気温21‑23‑Cの快適環境下における安静時と歩行時における体熱産生と放散の状態,および, 保温作用を比較検討して次の結果を得た.
1)安静時の平均皮膚温では,衣服型の相違による差は全くみられず,ほぼ33.3‑Cの快適域に あったが,歩行時には,その差がかなり顕著であった.
2)体熱放散,産熱の状態の衣服型による相違は,環境気温21‑23‑Cという快適温度条件下の ため,安静時,歩行時ともに極めて小であった.
3) 3種類の衣服のclo値は安静時,歩行時ともに被覆面積およびゆとりの大きい衣服ほど,大 きい値を示した.これは,安静時に限らず歩行時においても衣服型が体温調節に著しく影響する ことを立証している.
以上の事実から,安静時にはclo値が大で,運動時にはclo値が低くなるような,つまり,体 温調節が自在に出来る快適衣服・理想的な衣服追求の手がかりと資料が得られた.
i^^^^^^^^HuU