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着物と浴衣の着装実態と今後の発展-中国の民族服と比較して-

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Academic year: 2021

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着物と浴衣の着装実態と今後の発展

─ 中国の民族服と比較して ─

Conscious Attitudes toward Chinese and Japanese Ethnic Costumes.

清水裕子、佐々木和也、張永春*

SHIMIZU Hiroko, SASAKI Kazuya and ZHANG Yong Chun

1.はじめに

衣服はその地域の気候や文化と深く関連して、その地域独特に形作られ、さらに変容しながら、着 用されてきた。しかしながら、近代の国際化、工業化に伴い、洋服が広まり、その地域の伝統的な衣 服は、消滅しつつある。 日本における和服や中国漢民族の中国服も然りである。日本において、衣服は歴史とともに変容し てきた。現在の和服は小袖に端を発する。室町時代の応仁の乱(1467∼1477年)を境に、貴族の肌着 であった小袖が表着化し、庶民の小袖と一元化し、日常的に着用されるようになり現在に至った。し かし明治時代以後は洋装化が進み、日常生活から和服が消えつつある。中国においても、男性用の長 衫(チョウサン)、馬褂(マーグァ)の姿はほぼ消えていった。現在着用されている民族服は、社会 情勢や外来文化の影響を受けたものである。すなわち、女性のチャイナドレスは100年弱前に改良さ れ定着してきたものである。また、2001年秋上海で開かれたAPECをきっかけに、「唐装」(チャイナ ジャケット、以後チャイナジャケットと称する)という新たな民族服が出現し、大変人気が出た。こ れらには、中国刺繍、中国特有の模様、花ボタンなど伝統的な要素が豊富に含まれている。 そこで、和服と現在着用されている中国服を比較しながら、民族服に対する意識、着用実態などを 調査し、和服の将来のあり方を考えることとした。ここで、日本においては、アイヌ民族の民族服ア ットゥシもあり、また琉球王朝時の沖縄の民族服もある。中国においても56の民族があり、それぞれ 独自の民族服が着用されている。しかしながら、すべての民族服を取り上げた調査はできないので、 今回は、占める割合が圧倒的に多い和服を日本の民族服として取り上げるとともに、中国においては 漢民族の民族服を取り上げた。

2.研究方法

調査対象として取り上げた民族服は、日本は浴衣を除く着物(以後着物と称し、浴衣も含める場合 *宇都宮大学大学院教育学研究科修了

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は以下和服と称する)と浴衣、中国はチャイナドレス、チャイナジャケット(唐裝)である。 日本の民族服については、宇都宮市において着物と浴衣に対する調査用紙、中国の民族服について は上海市においてチャイナドレスとチャイナジャケットに対する調査用紙を配布し、回答を得た。有 効回答数は、日本の調査では606、中国の調査では600である。表1に回答者の年齢構成を示した。中 国においては、60代、70代以上が少なかったので、60代以上として一つにまとめた。今回の調査対象 者はいずれの国に対しても、女性とした。これは、和服、あるいはチャイナドレスに対する着用は、 女性が圧倒的に多いためである。 調査時期は、2003年7月から8月にかけてである。 調査内容は、それぞれ民族服に対するイメージ、着装実態(着装経験、着装理由、着装しない理由、 所持率、着装場面等)、民族服に対する意識(好きか嫌いか、着てみたいか否か等)、民族服の継承、 さらに和服については改良、着崩し、将来の形等である。

3.結果および考察

3.1 民族服に対するイメージ

民族服に対するイメージについては、対となる形容語を示し、「どちらでもない」を含むそれらの 形容語の程度を5段階の評点(−2から+2)をつけて評価した。表2のイメージ欄の右の形容語を+ の評価とした。たとえば、「非常に粗野」−2、「やや粗野」−1、「どちらでもない」0、「やや優 雅」+1、「非常に優雅」+2のように点数化した。 年代別の結果を表2に、回答者全体の結果を図1に示した。 図1に示されるように、着物とチャイナドレスは「優雅」、「女性的」、「フォーマル」、「古典的」、 「窮屈」など多くのイメージを共有している。浴衣とチャイナジャケットはこれらのイメージがチャ イナドレスより弱く、さらに、浴衣は「カジュアル」、「大衆的」、「ゆったり」のイメージが強い。 「女性的」というイメージは、チャイナジャケットを除いて示されているが、チャイナジャケット 以外のこれらの民族服、とくにチャイナドレスは女性の美しさを強調するものであるためと考えられ 表1 回答者の年齢構成

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表2 民族服に対するイメージ(評点)

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る。衣服が徐々にジェンダーを乗り越えつつある現在の状況を考えると、チャイナジャケットのよう な男女とも着用されるものは、今後着続けられる可能性が大きいと思われる。あるいは、浴衣のよう に「カジュアル」に「ゆったり」と、気楽に男女とも着られるものも、男女とも着続ける可能性が大 きい。 年代によるイメージの違いも若干みられるが、とくに、着物においては、60代、70代以上は他の年 齢層より、窮屈や重厚というイメージが小さい。これは、年齢層が高い方が、着物に慣れ親しんでお り、窮屈と感じないで着用でき、身近なものと認識していることを反映したものと思われる。浴衣に おいても、60代、70代以上は他の年齢層より、「カジュアル」、「軽快」というイメージが強い。若者 は浴衣を昼間も通用するタウンウエアとして認識しつつあるのに対し、年齢が高くなるとタウンウエ アというよりも着用が限られたカジュアルウエアと認識しているためと思われる。

3.2 民族服の着装実態

着装経験については、日本の民族服については選択肢を「着たことがない」、「あまり着ない」、 「時々着る」、「よく着る」としたが、中国の場合は文化大革命の10年間チャイナドレスの着装及び所 持が禁止されていたことを考慮し、選択肢を「着たことがない」、「着たことがある」とした。結果を 年代別に図2に示した。 日本の回答者は、全体として「時々着る」と「よく着る」をあわせると、着物では26.7%であるの に対し、浴衣では41.5%である。中国の民族服については、チャイナドレスでは38.0%、チャイナジ ャケットでは24.2%が「着たことがある」と回答している。 図3に所持率を年代別に示した。全体として、チャイナドレスでは35.7%、チャイナジャケットで は24.0%が「持っている」と回答しているのに対して、着物は72.8%、浴衣は81.4%が「持っている」 と回答している。とくに50代、60代、70代以上の着物所持率は100%近く、ほとんどの人が持ってい ることがわかる。このように所持率は日本の方が圧倒的に高い値を示しているが、民族服が一般的に 着用されているわけではないことが図2の結果から明らかである。 また、いずれの国においても若いほど、着物とチャイナドレスの着装や所持率が少なくなる傾向が 見られるが、浴衣については、10代20代の所持率、着装が多く見られる。チャイナジャケットは着装 や所持率の年代差がほとんどみられない。 着装理由としては、いずれの民族服ともに、「その場の雰囲気に合うから(着物52.1%、浴衣65.7%、 チャイナドレス63.6%、チャイナジャケット59.3%)」、「好きだから(着物54.6%、浴衣58.2%、チャ イナドレス48.2%、チャイナジャケット48.3%)」が多い(%は、着物と浴衣では、「時々着る」と 「よく着る」と回答したものに対する割合、チャイナドレスとチャイナジャケットでは「着たことが ある」と回答したものに対する割合)。 着用しない理由としては、着物においては、「着付けが難しい(56.4%)」、「洗濯、保管などに手間 がかかる(44.0%)」、「着付けに時間がかかる(37.5%)」、「窮屈(34.3%)」、浴衣においては「洗濯、

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保管などに手間がかかる(29.4%)」、「暑い(26.6%)」が多くあげられ、チャイナドレスとチャイナ ジャケットでは「好きだけど着用のチャンスがない(チャイナドレス,62.6%、チャイナジャケット 52.5%)」との回答が最も多い(%は、着物と浴衣では、「あまり着ない」と「着たことがない」と回 答したものに対する割合、チャイナドレスとチャイナジャケットでは「着たことがない」と回答した

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ものに対する割合)。着物がもっと着用されていくためには、取り扱いや着装の容易さに対する工夫 が必要である。 着用場面については、着物は「結婚式(85.5%)」、「伝統行事(56.6%)」、「お葬式(52.8%)」、「成 人式、卒業式などの儀式(35.8%)」が多くあげられており、浴衣は「伝統行事(90.4%)」がほとん どである(%は、「時々着る」と「よく着る」と回答したものに対する割合)。チャイナドレスについ ては「写真撮影(56.1%)」、「伝統行事(46.5%)」、「結婚式(41.2%)」、「パーティ(32.9%)」、チャ イナジャケットについては「伝統行事(59.3%)」、「写真撮影(43.4%)」が多くあげられている(% は「着たことがある」と回答したものに対する割合)。着物とチャイナドレスは「結婚式」や「伝統 行事」などフォーマルの場面で着用されている。浴衣とチャイナジャケットも「伝統行事」は多くあ げられている。ただし行事の内容は着物がお正月、お祭り、宮参り、成人式などに対し、浴衣は花火 大会、盆踊りなどと異なっている。 チャイナジャケットは「日常生活」が25.5%あげられ、他の衣服と異なり日常的な衣服として用い られている点は特筆すべきである。着物は、主として結婚式のような儀式や伝統行事に着る衣服、浴 衣は夏の花火大会や盆踊りのような伝統行事に着る服として、命脈を保つことになるのであろうが、 日常的に着る方策も考える必要がある。

3.3 民族服に対する意識

「好きか」の問いに、着物は79.7%、浴衣は83.5%、チャイナドレスは82.0%、チャイナジャケット は59.2%が「好き」と回答している。また「着てみたいか」の問いに、着物は78.2%、浴衣は79.5%、 チャイナドレスは80.8%、チャイナジャケットは68.3%が「着てみたい」と答えている。いずれに対 図3 民族服の所持率(各年代のnは表1参照)

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しても、回答者が民族服に対して深い愛着を示していることがわかる。チャイナジャケットは新しい ものであるためか、「好き」、「着てみたい」の回答が他の衣服に比べて低い。

3.4 民族服の継承について

着物は93.1%、浴衣は96.7%、チャイナドレスは98.2%、チャイナジャケットは88.0%が「継承して いきたい」と答えており、民族服継承に対する意識は年齢に関わらずかなり高い。新しいチャイナジ ャケットについても継承していきたいと強く考えていることが伺われる。 また、着物や浴衣については形の変化、着崩し、将来の形に関しても質問した。着物の結果を図4 に示した。その結果、「二部式改良和服」、「付け帯」、「化学素材の取り入れ」は肯定的な意見が否定 的な意見を上回っている。浴衣も同様な傾向を示したが、着物より肯定的な意見が多い。着物や浴衣 は着用、洗濯、保管などにおいて容易になる方向に進む可能性があると考えられる。一方、「着崩し」 に対しては、否定的な意見が多い。図には示していないが、とくに高年齢層になるほど着崩しに対す る抵抗感が大きい。将来の形に関しては図を省略したが、いずれも6割前後が「そのままの形(着物 62.2%、浴衣63.2%)」、4割以上が「着やすいように改良した形(着物43.2%、浴衣44.2%)」、2割前後 のものが「着崩した自由な形(着物16.0%、浴衣23.9%)」と答えている。 中国の民族服はチャイナドレスにしろ、チャイナジャケットにしろ、洋服の要素を取り入れて変化 してきた。民族服とみなされる中国風のポイント、すなわち、刺繍、模様、襟のデザイン、布製ボタ ンなどのいずれかをいくつか残して、ジェンダー、社会情勢、異文化などに対応し、形は変化してき た。とくに、2001年に出現したチャイナジャケットは民族服の変形、発展の一つの形であると思われ る。また今後もこのようなポイントを残しながら新たな民族服がでてくる可能性があると思われる。 一方、日本では着物や浴衣の形や着付け方に変化を求めていない。回答者の多くは、伝統的な民族 服に深い愛着をもつとともに、伝統的な形や着方が望ましいと考えている。3.2の最後に和服を日常 的に着る方策も考える必要があると述べたが、その方策を考えると、着装した後の形や着方が伝統的 図4 着物の変化についての意識(n=606)

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なものと変わらず、しかも着方や取り扱いがもう少し簡単なものを考える必要がある。その点、二部 式改良和服は今後のひとつのあり方と考えられる。 また、前述のように、日本では伝統的な民族服の形等に変化を許容していないので、中国のチャイ ナジャケットの出現は、直接的な参考にはならないが、日本的な染色布や文様、直線的な形という 「和」的な要素のある新たな民族服の受けいる余地が今後てでくる可能性がないともいえない。今後 は洋服とは異なる日本の民族服をもう少し広い意味でとらえることも必要だと思われる。

4.

結 語

本研究では、日本の民族服、和服(浴衣を含む)を、中国のチャイナドレス、チャイナジャケット と比較しながら、民族服に対する意識、着用実態などを調査し、和服の将来のあり方、今後の発展の 方向を探った。 その結果、以下のことが明らかとなった。 和服は多くの人が持っているが、着用は結婚式などの儀式、あるいは伝統行事のように限られた場 でしか行われていない。いわば、儀式の服となっている傾向が示され、一般的、日常的には着用され ていない。しかしながら、民族服に対しては、愛着が深く、民族服の発展と継承に期待している。 中国の民族服が、刺繍、模様、襟のデザインなど中国風のポイントをいくつか残して、現代に対応 し、形等も変わっていく傾向にあるのに対し、和服については、民族服の形の変化に対する抵抗が大 きく、大きく変化する可能性は低いと思われる。ただし、着物や浴衣の二部式改良、付け帯、化学繊 維の使用のように、見た目の違いがないところでの変化は、許容され、着用や取り扱いなどが容易に なるような改良はありえると思われる。むしろ、日常的に着用するためには、着付けの容易なものに 改良したり、洗濯、保管など管理の簡単なものにする必要がある。また、着崩しは一般的に抵抗が大 きいが、今後若者を中心に徐々に広がっていく可能性もある。 平成18年12月に改正された教育基本法では、前文の一部と教育目標の5に伝統文化に関する記述が 見られる。すなわち、「伝統や文化の尊重」、「我が国や郷土を愛する態度」などである。また、平成 20年3月の小中学校の学習指導要領改正では、中学校家庭科において「和服の基本的な着方」も扱う ことができるようになった。家庭科教育の中で民族服を取り上げ、伝統を大切にする心を育成すると ともに、ジェンダーも含めた現在社会に合わせて、民族服がどのように変化していくとよいのか、授 業の中で考えさせる必要があるだろう。 民族服が消え去っていくのではなく、人々が許容する範囲内で進化していき、われわれの生活とと もにあり、役割をもつことが望まれる。

参照

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