英語の聴き取りに見られる傾向と習熟度に関する考察(
II
)English Learners’ Transcription Patterns as a Measure of
Proficiency (II)
數見 由紀子Kazumi, Yukiko
Abstract
This study focuses on English learners’ transcription of sentence parts that could pose difficulties to learners. Utilizing the methods introduced in Kazumi (2014), this study examines a new set of data from a different class of students. The results are consistent with those in Kazumi (2014) and support the hypothesis that the ability to hear phonetically weak parts of a sentence such as function words and word-initial weak syllables reflects the students’ overall proficiency levels. The new set of data also includes consonant sequences across the word boundary and its analysis suggests that the ability to hear such sequences reflects the students’ proficiency levels.
1. はじめに
本稿では、英語学習者の聴き取りの傾向と習熟度の相関に関する數見(2014)の考察を 基に、新たなデータを用いて行った分析・考察の結果を示す。この研究では、2014年に取 り上げた文中の相対的に弱い部分について、異なるデータを対象に再分析するとともに、
語境界を挟んだ音連続についても同様の分析を行った。いずれの場合も、当該箇所の聴き 取りの成否で試験の得点を比較すると、当該箇所の得点分を上回る差が観察され、習熟度 との相関が示唆された。
以下、2節で授業と試験の概要、3節で分析方法の概略を述べた後、4節と5節で分析の 結果を詳しく見ていく。6節では、今後の課題と可能性について展望する。
2. 授業と試験の概要
今回のデータは、2014年度に筆者が担当した授業(金沢大学共通教育科目・英語I(リ スニング))の中間試験で得られたものである。授業・試験とも、數見(2014)で対象と したものと基本的に同じ形式で行った。以下にその概要を示す。
2-1. 授業の重点
授業では、音声のみに依存しない「統合的なリスニング」に重点をおき、リスニングの イメージの転換(「音を正確に聴き取る」から「音以外の情報も活用して聴く」へ)と、リ スニングにおける語彙・文法知識の活用、想像力・推理力等の重要性に焦点をあてた。音
Forum of Language Instructors, Volume 9, 2015
から最大限の情報を得るための学習(音声面の特徴の理解)をベースに、音以外の情報を 活用する対策とその実践を組み合わせ、統合的なリスニング力の向上を目指した。
2-2. 授業の概要
授業は、テキストにBBCのニュースが収録されたSeeing the World through the News
1(D. Cheetham 他編著、2014、金星堂)を用い、ニュースの聴き取りを中心に進めた。
予習の一つとして行った書き取り課題(時間外学習)は、ここで取り上げる試験と類似の 形式で、統合的なリスニングの実践練習を主な目的としている。以下で、その概要を述べ る。(授業時の活動や小テストについては、數見(2014)を参照のこと)
書き取り課題は、音声の書き取り、トランスクリプトとの照合、考察・分析の一連の作 業からなる。音声の書き取りは、ニュース冒頭の音声(約 15 秒)をできるだけすべて書 き取る作業である。キーワードだけでなく文全体を書き取るため、音声的に弱く短い部分 も含まれ、統合的なリスニングの実践に適している。
書き取りでは、十分な時間をかけ、音以外の情報を活用する練習を行った。書き取った 内容を途中で整理して構造的な不足部分を推測したり、未知の語を辞書で探したりといっ た作業も含まれる。習熟度が相対的に低い学習者も、時間をかけて丁寧に聴くことで、潜 在的な語彙・文法の知識を引き出しやすく、文全体の復元に支障を来す可能性のある要素 についても、文構造や文脈をふまえた推測がしやすくなる。
書き取り課題と試験の形式は同じだが、二つの点で違いがある。一つは評価方法で、課 題では音を網羅的に記録していること、試験では書き取られた内容の正確さを評価した。
もう一つの違いは、課題ではカタカナや音声記号の使用を可としているのに対し、試験で はすべて英語で書き取る点である。
2-3. 試験の概要
試験は、課題と同様にニュース冒頭の音声を用いた書き取りで、中間・学期末の2回実 施した。総合点(200点満点)に占める割合は各25%(各50点)の設定である。いずれ も、授業で扱っていない(受験者にとって初聴の)ニュースを用い、辞書の使用を可とし た。試験時間は60分で、受験者は簡易プレーヤーで個別に聴く形をとった。
今回の試験では、以下のトランスクリプトの下線部を書き取り範囲とし、それ以外の部 分は答案用紙にあらかじめ印字した。
Around twelve million people now own smartphones in Britain, and many of them admit to being addicted. They’ve confessed to using them everywhere, from the dinner table to the bathroom and bedroom. Our business correspondent, Emma Simpson, reports.
(2011年8月4日放送のBBCのニュースより)
書き取り箇所は前半16語、後半11語、計27語だが、smartphonesを2語として採点し、
すべての語を正しく書き取った場合の得点は56点となる。試験の配点は50点だが、完璧
Forum of Language Instructors, Volume 9, 2015
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から最大限の情報を得るための学習(音声面の特徴の理解)をベースに、音以外の情報を 活用する対策とその実践を組み合わせ、統合的なリスニング力の向上を目指した。
2-2. 授業の概要
授業は、テキストにBBCのニュースが収録されたSeeing the World through the News
1(D. Cheetham 他編著、2014、金星堂)を用い、ニュースの聴き取りを中心に進めた。
予習の一つとして行った書き取り課題(時間外学習)は、ここで取り上げる試験と類似の 形式で、統合的なリスニングの実践練習を主な目的としている。以下で、その概要を述べ る。(授業時の活動や小テストについては、數見(2014)を参照のこと)
書き取り課題は、音声の書き取り、トランスクリプトとの照合、考察・分析の一連の作 業からなる。音声の書き取りは、ニュース冒頭の音声(約 15 秒)をできるだけすべて書 き取る作業である。キーワードだけでなく文全体を書き取るため、音声的に弱く短い部分 も含まれ、統合的なリスニングの実践に適している。
書き取りでは、十分な時間をかけ、音以外の情報を活用する練習を行った。書き取った 内容を途中で整理して構造的な不足部分を推測したり、未知の語を辞書で探したりといっ た作業も含まれる。習熟度が相対的に低い学習者も、時間をかけて丁寧に聴くことで、潜 在的な語彙・文法の知識を引き出しやすく、文全体の復元に支障を来す可能性のある要素 についても、文構造や文脈をふまえた推測がしやすくなる。
書き取り課題と試験の形式は同じだが、二つの点で違いがある。一つは評価方法で、課 題では音を網羅的に記録していること、試験では書き取られた内容の正確さを評価した。
もう一つの違いは、課題ではカタカナや音声記号の使用を可としているのに対し、試験で はすべて英語で書き取る点である。
2-3. 試験の概要
試験は、課題と同様にニュース冒頭の音声を用いた書き取りで、中間・学期末の2回実 施した。総合点(200点満点)に占める割合は各25%(各50点)の設定である。いずれ も、授業で扱っていない(受験者にとって初聴の)ニュースを用い、辞書の使用を可とし た。試験時間は60分で、受験者は簡易プレーヤーで個別に聴く形をとった。
今回の試験では、以下のトランスクリプトの下線部を書き取り範囲とし、それ以外の部 分は答案用紙にあらかじめ印字した。
Around twelve million people now own smartphones in Britain, and many of them admit to being addicted. They’ve confessed to using them everywhere, from the dinner table to the bathroom and bedroom. Our business correspondent, Emma Simpson, reports.
(2011年8月4日放送のBBCのニュースより)
書き取り箇所は前半16語、後半11語、計27語だが、smartphonesを2語として採点し、
すべての語を正しく書き取った場合の得点は56点となる。試験の配点は50点だが、完璧
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に書き取れなくても50点に達するよう、採点対象を28語(1語2点)とし、ゆとりをも たせている。
受験者は31名で、満点56点に対し、平均得点38.1点(最高得点53点)であった。數 見(2014)で対象とした試験は、満点54点(27語)で、受験者は24名、平均得点31.6 点(最高得点51点)であった。
3. 分析の方法
分析の方法は、數見(2014)で用いた方法と同様で、手順は次のとおりである。
1)分析対象とする語・要素について、聴き取りパターンごとに答案を分類
2)同一パターンを含む答案について試験の平均得点を算出し、他のパターンと比較
複数の聴き取りパターンの分布にある程度ばらつきがあれば、聴き取りに成功した受験者
(以下「正答者」)の平均得点とそれ以外の受験者の平均得点の対照が可能となる。両者の 得点差が対象となる1語分(2点)より大きい場合、当該語の聴き取りの成否と試験の他 の部分の成否が相関している可能性がある。また、試験の得点が受験者の習熟度を反映し ていると仮定した場合、当該語の聴き取りの成否が習熟度と相関していることが示唆され る。
4. 分析結果(1):機能語の弱形と語頭の弱音節
はじめに、數見(2014)で習熟度との相関が示唆された機能語の弱形と語頭の弱音節に ついて、今回の分析結果を見ていく。機能語は、冠詞、接続詞、前置詞を対象とし、語頭 の弱音節は、母音で始まる音節を対象とした。いずれも、正答者の平均得点は正答者以外 の平均得点を4点余り上回り、当該要素の聴き取りと試験の他の部分の聴き取りについて 相関が見られた。以下で詳細を見ていくことにする。
4-1. 冠詞(the)
今回の書き取り範囲には、定冠詞が2箇所(from the dinner table、to the bathroom) 含まれている。
はじめに、from the dinner tableでは、theに対応する書き取り箇所が特定できる23 名の聴き取りが、三つのパターン(定冠詞 the、不定冠詞‘a’、当該箇所の脱落)に分かれ た。パターンごとの平均得点は次のとおりである。平均得点の後のカッコ内には、該当す る人数を示す(以下同様)。
from the dinner table
the 44.1点(データ数:10)
‘a’ 36.5点(データ数:2)
脱落 35.6点(データ数:11)
英語の聴き取りに見られる傾向と習熟度に関する考察(II)
英語の聴き取りに見られる傾向と習熟度に関する考察(II)
正答者と当該箇所が脱落している受験者の人数はほぼ同じで、両者の平均得点には8.5点 の開きがあった。語数に換算すると4語超となり、正答者は、theが脱落した11名と比べ て、theの他に3語余り正答が多いことになる。なお、‘a’と書き取った受験者については、
データ数が少ないため単純には比較できないが、当該箇所が脱落したグループの平均得点 をやや上回っている。
一方、to the bathroomでは、theが母音の直後で聴き取りやすいためか、正答者が多か
った。対応する書き取り箇所が特定できる 27 名のうち、正答者は 24 名で、不定冠詞‘a’
が1名、当該箇所の脱落が2名であった。各パターンの分布が偏っているため、平均得点 の対照は省略する。
數見(2014)では、in the UKとin the economyの二つの定冠詞について、正答者と 定冠詞が脱落したグループの平均得点に、いずれも約4点の差が見られた。
in the UK
the 34.5点(データ数:14) 脱落 30.5点(データ数:6)
(數見2014, p.95より一部省略の上、引用)
in the economy
the 33.0点(データ数:13) 脱落 29.1点(データ数:9)
(數見2014, p.96より一部省略の上、引用)
今回の分析でも、正答と脱落の二つのパターンで試験の平均得点を比較すると、当該語の 2点分を大きく上回る差が見られ、數見(2014)と共通の傾向が見られた。今回の試験の 方が、得点の差がより大きくなっているが、前後の語や試験の配点など、複数の要因に起 因する可能性もあるため、その点については今後検証したい。
4-2. 接続詞(and)
複数の弱形をもつandは、学習者にとって聴き取りが難しい語の一つである。今回の書 き取り範囲には、節と節をつなぐandが含まれている。andの書き取り箇所が特定できる 28名のうち、正答者は18名、正答者以外は10名であった。
and many of them
and 41.5点(データ数:18) and以外 35.9点(データ数:10)
and以外の内訳:
‘at’ 28.5点(データ数:2)
‘as’ 36.5点(データ数:2)
‘a’ 38.8点(データ数:4) 脱落 37.0点(データ数:2)
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正答者と当該箇所が脱落している受験者の人数はほぼ同じで、両者の平均得点には8.5点 の開きがあった。語数に換算すると4語超となり、正答者は、theが脱落した11名と比べ て、theの他に3語余り正答が多いことになる。なお、‘a’と書き取った受験者については、
データ数が少ないため単純には比較できないが、当該箇所が脱落したグループの平均得点 をやや上回っている。
一方、to the bathroomでは、theが母音の直後で聴き取りやすいためか、正答者が多か
った。対応する書き取り箇所が特定できる 27 名のうち、正答者は 24 名で、不定冠詞‘a’
が1名、当該箇所の脱落が2名であった。各パターンの分布が偏っているため、平均得点 の対照は省略する。
數見(2014)では、in the UKとin the economyの二つの定冠詞について、正答者と 定冠詞が脱落したグループの平均得点に、いずれも約4点の差が見られた。
in the UK
the 34.5点(データ数:14) 脱落 30.5点(データ数:6)
(數見2014, p.95より一部省略の上、引用)
in the economy
the 33.0点(データ数:13) 脱落 29.1点(データ数:9)
(數見2014, p.96より一部省略の上、引用)
今回の分析でも、正答と脱落の二つのパターンで試験の平均得点を比較すると、当該語の 2点分を大きく上回る差が見られ、數見(2014)と共通の傾向が見られた。今回の試験の 方が、得点の差がより大きくなっているが、前後の語や試験の配点など、複数の要因に起 因する可能性もあるため、その点については今後検証したい。
4-2. 接続詞(and)
複数の弱形をもつandは、学習者にとって聴き取りが難しい語の一つである。今回の書 き取り範囲には、節と節をつなぐandが含まれている。andの書き取り箇所が特定できる 28名のうち、正答者は18名、正答者以外は10名であった。
and many of them
and 41.5点(データ数:18) and以外 35.9点(データ数:10)
and以外の内訳:
‘at’ 28.5点(データ数:2)
‘as’ 36.5点(データ数:2)
‘a’ 38.8点(データ数:4) 脱落 37.0点(データ数:2)
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正答者と正答者以外では、平均得点に5.6 点の差が見られた。全受験者 31 名から正答者 を除いた13名(上の「and以外」の10名とandの書き取り箇所が特定できない3名)
の平均得点は33.8点で、正答者との差は7.7点とさらに大きくなる。正答以外のパターン には、当該箇所の脱落のほかに複数のパターンが見られるが、それぞれのデータ数が少な いため、個別の対照は省略する。
接続詞の聴き取りの成否は、文構造の把握に大きく影響すると考えられ、今回得られた 結果は直観的にも自然なものと言える。
4-3. 前置詞(in)
機能語であるinは、弱形で生じることが多いうえに、母音で始まることも聴き取りを難 しくする。今回の試験で、inの書き取り箇所が特定できる28名のうち、正答者は19名、
正答者以外は9名であった。
in Britain
in 41.4点(データ数:19) in以外 33.0点(データ数:9)
in以外の内訳:
‘of’ 36.0点(データ数:1)
‘im-/en-’ 28.5点(データ数:3)…語の一部としての書き取り
‘are’ 26.0点(データ数:2) 脱落 28.0点(データ数:3)
正答者と正答者以外の平均得点の差は8.4点と大きく開いている。全受験者から正答者を 除いた12名(上の「in以外」の9名とinの書き取り箇所が特定できない3名)の平均得 点は33.3点であった。ここでも、当該箇所の脱落のほか、複数の書き取りパターンが見ら れるが、データ数が少ないため、個別の対照は行わない。
前置詞の聴き取りの成否も、前節で見た接続詞と同様、構造の把握に影響を及ぼすと考 えられる。今回の試験のandと inについて比べてみると、それぞれの正答者数と平均得 点はほぼ同じ(18名と19名、41.5点と41.4点)である。正答者のうち14名が重複して いることも、習熟度の点から見て興味深い。
4-4. 前置詞(from, to)
今回の試験には、範囲を表すfrom X to Yの形が含まれる。二つの前置詞fromとtoを 個別に見た場合、toは31名中28名が正しく書き取っており、その平均得点は39.1点で あった。正答者が大多数のため、他のパターンとの比較については省略する。
一方、fromの正答者は23名で、平均得点は39.4点であった。
from the dinner table
英語の聴き取りに見られる傾向と習熟度に関する考察(II)
英語の聴き取りに見られる傾向と習熟度に関する考察(II)
from 39.4点(データ数:23)
from以外 35.1点(データ数:8) from以外の内訳:
‘for’ 41.0点(データ数:1)
‘form’ 34.0点(データ数:2)
‘phones’ 47.0点(データ数:1)
その他 31.3点(データ数:4)…すべて[f]を別の音として書き取り
分布にやや偏りはあるが、正答者と from 以外の形で書き取った8名の平均得点には 4.3 点の差が見られる。
次に、from とtoの両方を正しく書き取っている21名を見ると、その平均得点は40.1 点で、いずれか一方のみの正答者の平均得点よりもかなり高くなっている。
from the dinner table to the bathroom and bedroom fromとtoの両方 40.1点(データ数:21)
from のみ 31.5点(データ数:2)
toのみ 36.0点(データ数:7)
ここでのfromとtoのように密接な関係にある語については、何らかの相乗効果が働くと 考えられる。from のみの正答者は少ないため、toのみの正答者と fromとto の両方を正 しく書き取っている 21 名に見られる得点の差について考えてみたい。この4点余りの差 は、仮にtoのみの正答者がfromを正答した場合を想定しても、さらに2点余りの差とな って残る。このことから、fromとtoを両方とも正答した受験者にはfrom X to Yの形が 認識できており、他の聴き取りにプラスの影響が生じている可能性が考えられる。
4-5. 弱母音で始まる語(addicted)
英語と異なるアクセントのしくみをもつ日本語の母語話者にとって、語頭の弱音節は聴 き取りにくく、「弱強」の強勢型で始まる語の第1音節が脱落する傾向がある。數見(2014) では、弱音節が子音で始まる語(suggests)を対象に、この傾向について考察し、次のよ うに述べている。
こうした[筆者注:suggest、suggests、suggestedの3通りの]活用語尾の違いによら
ず、suggest を同定した学生全体と、just として聴き取った学生の平均得点を比較する
と、前者の33.9点に対し、後者は26.0点で、8点近い開きがある。
(數見2014、p.98)
今回の試験では、書き取り範囲に、語頭の弱音節が[ə]で始まるaddictedを含め、その聴 き取り結果を分析した。聴き取りのパターンには、正答のほか、[ə]を不定冠詞として書き 取ったもの、母音が完全に脱落したものが見られた。
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from 39.4点(データ数:23)
from以外 35.1点(データ数:8) from以外の内訳:
‘for’ 41.0点(データ数:1)
‘form’ 34.0点(データ数:2)
‘phones’ 47.0点(データ数:1)
その他 31.3点(データ数:4)…すべて[f]を別の音として書き取り
分布にやや偏りはあるが、正答者と from 以外の形で書き取った8名の平均得点には 4.3 点の差が見られる。
次に、from とtoの両方を正しく書き取っている21名を見ると、その平均得点は40.1 点で、いずれか一方のみの正答者の平均得点よりもかなり高くなっている。
from the dinner table to the bathroom and bedroom fromとtoの両方 40.1点(データ数:21)
from のみ 31.5点(データ数:2)
toのみ 36.0点(データ数:7)
ここでのfromとtoのように密接な関係にある語については、何らかの相乗効果が働くと 考えられる。from のみの正答者は少ないため、toのみの正答者と from とtoの両方を正 しく書き取っている 21 名に見られる得点の差について考えてみたい。この4点余りの差 は、仮にtoのみの正答者がfromを正答した場合を想定しても、さらに2点余りの差とな って残る。このことから、fromとtoを両方とも正答した受験者にはfrom X to Yの形が 認識できており、他の聴き取りにプラスの影響が生じている可能性が考えられる。
4-5. 弱母音で始まる語(addicted)
英語と異なるアクセントのしくみをもつ日本語の母語話者にとって、語頭の弱音節は聴 き取りにくく、「弱強」の強勢型で始まる語の第1音節が脱落する傾向がある。數見(2014) では、弱音節が子音で始まる語(suggests)を対象に、この傾向について考察し、次のよ うに述べている。
こうした[筆者注:suggest、suggests、suggestedの3通りの]活用語尾の違いによら
ず、suggest を同定した学生全体と、just として聴き取った学生の平均得点を比較する
と、前者の33.9点に対し、後者は26.0点で、8点近い開きがある。
(數見2014、p.98)
今回の試験では、書き取り範囲に、語頭の弱音節が[ə]で始まるaddictedを含め、その聴 き取り結果を分析した。聴き取りのパターンには、正答のほか、[ə]を不定冠詞として書き 取ったもの、母音が完全に脱落したものが見られた。
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45 addicted
addicted 43.4点(データ数:13)
‘a’+[d]で始まる語 36.7点(データ数:7)
([ə]の脱落)[d]で始まる語 33.1点(データ数:11)
正答者13名と他の二つのパターンで聴き取ったグループには、それぞれ6.7点、10.3点 の開きがある。正答者と語頭の[ə]を書き取っている20名の平均得点は41.1点となり、[ə] が脱落した11名の平均得点と8点の差が見られる。
以上で見たとおり、數見(2014)と今回の二つの試験のいずれにおいても、語頭の弱音 節が聴き取れている受験者では、試験の得点において当該語以外に約3語分高くなってい る。
5. 分析結果(2):語境界を挟む音連続
この節では、語境界を挟む音連続について考察する。こうした音連続は、數見(2014) では分析の機会をもてなかったが、日本語の母語話者にとって聴き取りが難しいものの一 つである。
語境界を挟む子音の連続は、子音で終わる語に、子音で始まる語が続く場合に生じる。
一般に、語末の子音が無声閉鎖音の場合、この無声閉鎖音が聴き取りにくくなり、二つの 閉鎖音が連続する場合には、いずれか一方が脱落する傾向がある。
また、子音で終わる語の後に母音で始まる語が続く場合は、語境界を挟んだ子音と母音 の連続が生じ、切れ目なく発音されることが多い。筆者のこれまでの観察から、こうした 音の連続は、音節構造の異なる日本語の母語話者にとって、聴き取りを阻害する要因とな りやすい。
以下で、今回の試験に含まれる音連続について、同一子音、異なる子音、子音と母音の 順に分析結果を見ていく。
5-1. 同一子音の連続(admit to, confessed to)
今回使用したニュースには、同一子音が語境界を挟む環境が2箇所(admit to と
confessed to)含まれている。同じ子音が連続すると、語境界にかかわらず、一体化しや
すくなる。とくに閉鎖音の連続では、一つ目の音の閉鎖を維持したまま二つ目の音に移行 することが多く、無音の状態が生じるため、一方の音が認識されにくくなる。
はじめにadmit toを見ると、分布にやや偏りはあるが、正答以外では、‘admitted’ toと toの脱落の二つのパターンが見られた。
admit to
admit to 40.5点(データ数:18)
‘admitted’ to 36.6点(データ数:7) admit(toの脱落) 37.5点(データ数:2)
英語の聴き取りに見られる傾向と習熟度に関する考察(II)
英語の聴き取りに見られる傾向と習熟度に関する考察(II)
toの脱落した受験者の平均得点は、正答者18名の平均得点を3点下回っているが、デー タ数が少ないため、単純な比較は難しい。‘admitted’ toと書き取った7名については、正 答者の平均得点を3.9点下回っている。このパターンで書き取った受験者は、toの切り離 しには成功しているが、無音となるタイミングの認識がまだ発展段階にあると考えられる。
なお、‘admitted’ toの聴き取りが多かった一つの要因として、授業時のアドバイスが影響
している可能性がある。筆者は、聞こえにくい箇所が脱落するより、音を補った結果、過 剰になる方が、次のステップへつながる好ましい間違いであると伝えている。
一方、confessed toでは、confessedが書き取り範囲に含まれないため、脱落があるとす れば、必然的にtoの語頭の[t]となる。今回toが書き取れたのは1名(得点:44点)で、
それ以外の受験者では脱落し、分布に偏りが生じている。
今回考察した子音連続では、2語目がいずれも短く弱いtoであったが、条件を整えて再 度考察したい。
5-2. 異なる子音の連続(smartphones)
今回のニュースに含まれるsmartphonesは、最近は1語で綴られることが一般的だが、
もともと2語からなり、二つの要素が明らかな(透明な構造をもつ)語である。前半の要 素smartの[t]は、phonesの [f]が後続するために基本的に無音となり、聴き取りが難しく なる。
今回の試験では、[t]を聴き取った13名は、すべてsmartの正答者と一致した。[t]が脱 落した受験者は 17 名で、書き取り結果は ‘small’となっている。一方、phones の[f]は、
31名中30名が聴き取っている。
smartphones
smart 41.3点(データ数:13)
‘small’ 36.5点(データ数:17)
smartphones
phones/-phone’s/-phone 41.9点(データ数:7)
‘friends’ 38.5点(データ数:19)
[f]で始まる語 27.0点(データ数:2)
‘often’ 39.0点(データ数:2)
smartの正答者13名と‘small’と聴き取った17名の平均得点には、4.8点の差が見られた。
音声面の要因のほか、ニュースの中でキーとなる語の聴き取りにより、全体の理解度が 増す効果なども考えられるため、この点についても今後検証したい。
5-3. 子音と母音の連続(being addicted, them everywhere)
日本語の母語話者にとって、語境界を挟む子音と母音の連続は切り離しにくく、母音が
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英語の聴き取りに見られる傾向と習熟度に関する考察(II)
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toの脱落した受験者の平均得点は、正答者18名の平均得点を3点下回っているが、デー タ数が少ないため、単純な比較は難しい。‘admitted’ toと書き取った7名については、正 答者の平均得点を3.9点下回っている。このパターンで書き取った受験者は、toの切り離 しには成功しているが、無音となるタイミングの認識がまだ発展段階にあると考えられる。
なお、‘admitted’ toの聴き取りが多かった一つの要因として、授業時のアドバイスが影響
している可能性がある。筆者は、聞こえにくい箇所が脱落するより、音を補った結果、過 剰になる方が、次のステップへつながる好ましい間違いであると伝えている。
一方、confessed toでは、confessedが書き取り範囲に含まれないため、脱落があるとす れば、必然的にtoの語頭の[t]となる。今回toが書き取れたのは1名(得点:44点)で、
それ以外の受験者では脱落し、分布に偏りが生じている。
今回考察した子音連続では、2語目がいずれも短く弱いtoであったが、条件を整えて再 度考察したい。
5-2. 異なる子音の連続(smartphones)
今回のニュースに含まれるsmartphonesは、最近は1語で綴られることが一般的だが、
もともと2語からなり、二つの要素が明らかな(透明な構造をもつ)語である。前半の要 素smartの[t]は、phonesの [f]が後続するために基本的に無音となり、聴き取りが難しく なる。
今回の試験では、[t]を聴き取った13名は、すべてsmartの正答者と一致した。[t]が脱 落した受験者は 17 名で、書き取り結果は ‘small’となっている。一方、phones の[f]は、
31名中30名が聴き取っている。
smartphones
smart 41.3点(データ数:13)
‘small’ 36.5点(データ数:17)
smartphones
phones/-phone’s/-phone 41.9点(データ数:7)
‘friends’ 38.5点(データ数:19)
[f]で始まる語 27.0点(データ数:2)
‘often’ 39.0点(データ数:2)
smartの正答者13名と‘small’と聴き取った17名の平均得点には、4.8点の差が見られた。
音声面の要因のほか、ニュースの中でキーとなる語の聴き取りにより、全体の理解度が 増す効果なども考えられるため、この点についても今後検証したい。
5-3. 子音と母音の連続(being addicted, them everywhere)
日本語の母語話者にとって、語境界を挟む子音と母音の連続は切り離しにくく、母音が
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脱落する傾向も見られる。今回の書き取り範囲には、語境界を挟む子音と母音の連続が4 箇所(下線部分)含まれている。
1)smartphones in Britain 2)many of them admit 3)being addicted
4)using them everywhere
初めの2例(smartphones in、them admit)では、上で見たとおり、受験者の大多数が
inとadmitを正しく(もしくは母音で始まる形で)書き取っており、母音の脱落はほとん
ど起きていない。子音については、smartphonesではややばらつきがあるが、themでは 29 名が正答し、2 名が‘reason’として子音を捉えている。これらの例では、子音と母音の 聴き取り自体はほぼ成功していると言える。
一方、後の2例(being addictedとthem everywhere)では、前者で母音の脱落、後者 で語境界のずれが見られた。
まず、上でも見たbeing addictedでは、母音が脱落していない20名の平均得点は41.1 点であった。このうち、16名(addictedの正答者13名中9名と‘a’+[d]で始まる語として 書き取った7名全員)は、-ing形または[n]終わる語として、直前の子音を捉えている。こ の16名の平均得点は40.7点であった。
being addicted
addicted/‘a’+[d]で始まる語 41.1点(データ数:20)
うち直前に-ingまたは[n] 40.7点(データ数:16)
([ə]の脱落)[d]で始まる語 33.1点(データ数:11)
母音が聴き取れている20名と母音が脱落した11名の平均得点には、8点(関係する2語 を除いても、さらに2語相当)の開きが見られる。
また、them everywhereでは、themの正答者は1名のみであったが、子音と母音の切
り離しについては、次のような分布となった。
them everywhere
everywhereまたはevery- 39.9点(データ数:23)
うちeverywhere 42.1点(データ数:16)
[m]または[n]で始まる語 34.1点(データ数:7)
この例では、母音に強勢があるため、脱落はほとんど起きていないが、7 名で語の境界に ずれが生じている。themの[m]とeverywhereの語頭の母音が接続し、[m]または[n]で始 まる語として書き取った7名と、切り離しに成功した23名の平均得点には、5.8点(関連 する2語を除いても、さらに1語相当)の差が見られた。
英語の聴き取りに見られる傾向と習熟度に関する考察(II)
Forum of Language Instructors, Volume 9, 2015
6. 今後の展望と課題
以上で見たように、數見(2014)で示唆された機能語や語頭の弱音節の聴き取りと習熟 度に関する仮説が、今回のデータからも支持された。また、新たに分析した、語境界を挟 む音連続についても、習熟度との相関が示唆された。今回取り上げた要素や語にはいずれ も音声の情報が少ない部分が含まれ、その聴き取りのためには、一定の習熟度に達するこ と(統合的なリスニングができること)が必要となると考えられる。なお、この考察は、
試験の得点に受験者の習熟度が反映されているという前提に立っているが、今後、授業外 の試験等でこの点について検証したい。
今回の試験の得点は、正答した語の得点の和として表れるが、複数の語の聴き取りの成 否が連動している可能性もある。語と語だけでなく、様々な要因の相互作用によるスパイ ラル効果(たとえば、ある語が聴き取れれば文脈や文構造が推測しやすく、文脈や文構造 が把握できればさらに聴きやすくなるといった効果)が働いていると考えられる。こうし た関係についても、今後、具体的に探っていきたい。そのためには、答案に至るプロセス に関する受験者への聞き取り調査や個々の語の聴き取りパターンのデータ化・相関の分析 なども検討したい。
<参考・引用文献>
數見由紀子(2014)「英語の聴き取りに見られる傾向と習熟度に関する一考察」、
『外国語教育フォーラム』(金沢大学外国語教育研究センター紀要)第8号、pp.91-99
Forum of Language Instructors, Volume 9, 2015