河川の大規模乱れ(第1報)
松 岡 保 正
1. ま え が き
開水路における乱流の研究は,1960年代に,精巧な測定技術の発達や電子計算横に よる統 計的処理方法の高度化に伴 って,特に徽小スケールの乱流構造の面で発展 した. しか し,石 原 ・余越(1)らのように実河川における大 スケール乱れに着 日して河川工学に結びつけ ようと す るものは殆 どなされていない.
一万,1967年のKlineらの指摘以降,実験水路において可視化や conditionalsampling により大 スケール乱れの構造を明 らかに しようとす る試み も数多 くなされ る様になってきた.
その結果, 現在では宇民 ・上野(2)らのものを始め, 大スケール乱れをかな りうま く説明でき るモデルが幾つか提唱されている. しか し, これ らはあ くまでも実験水路におけるモデルで あって,断面形状一つを とってみても実河川 とはかな り異なってお り,河川工学 と結びつけ る為には,河川乱流に関する我 々の知識は余 りに少なす ぎる.
本研究は,石原 ・余越 らに始 まる河川の大規模乱流に関す る研究を更に一歩進め ようとす るものである.実河川においては,流量変動を始や として種 々の条件が観測の度 に変 ると言 って も過言では無 く,数多 くの観測例が必要である.第一報の段階では未だ観測例を充実 さ せ るには到 っていないが, ここに一例を報告する.
2.現 地 観 測 2・1戟測地点
流速測定は東京電力信濃川電力 所の協力を得て,飯山市照岡の東 京電力照岡測水所で行なった.
現地付近の略図を図1に示す.
観測地点の上流約700mに大 きな 撃曲部が存在 してお り,直線に移 行す る地点では,観測地点あた り
と比較 してかな り小 さい断面にな っている.
また,左岸側の下流400mあた りか ら大 きな砂洲になってお り, 通常は砂利を採取 してい るため,
0 500m
図1 現地略図
*昭和56年2月一土木学会中部支部研究発表会において一部発表 本研究は広島大学工学部助手川西澄氏との共同研究である
** 土木工学科 助手
原稿受付 昭和56年9月30日
この上流から流れは大 き く右岸へ 寄 って行 っている.
観測地点の断面形状を図2に示 す.川幅は約120m.平均水深は
o c bd
流量が170t/sec時 で約1.7mであ 010 20m
り,横方向にほぼ一様であると見 図2 観 測地点杭断面図 なす事ができる.
2・2観測方法
流速の測定は, 河川の横断方向に張 られた ワイヤーに, 直径13cmの充電式 プロペラ流速 計を吊して行なった.流速計か らの出力は直流 アンプで増幅 し,バイアスをかけてデータレ
コーダーに記録 した.
流速計を吊した横方向の位置は,図2に示す.流量に よって,最大流速地点が横断方向に 移動する事を考慮 し,できるだけ最大流速地点の両側で観測する様にした.
従来 より,乱れを観測する場合は,,対象 とす る乱流場の最大乱子が10個以上通過する時間 が望 ましいとされているが,時間的な制約等か ら今回は 4時間半か ら5時間程度を目標 とし
た .
2・3 データ処理
観測に よって得 られた流速 データは, しゃ断周波数0.89Hz或いは0.089Hzの p‑パスフ ィルターを通 した後A‑ D変換 した.この時のサンプ リング周波数は,前者が2.0Hz,後者 が0.2Hzである. しゃ断周波数0.089Hz,サ ンプ リング周波数0.2Hzのものについてはデー タの個数が少な くなって しま うので, スペ ク トルはF.F.T.だけでな くM.E.M.で も求め てみた. 自己相関はスペ ク トルを 7‑ リェ変換 して求めた. また,観測中の流速変動を概観 す るため, A‑D変換 したデータを, 更に, しゃ断周波数0.002Hzの数値 フィルターに通
した後Ⅹ‑Yプロッターで描かせた.
3. 観 測 結 果
実河川において,河川の横断方向に数台の流速計を並べて長時間観測をした例は殆 ど無 く, 記録 自体が興味深いが,1981年8
月 6日の, 4チ ャンネル分につい てのみ,得 られた結果を示す.
図3は当日の流量変動記録であ る.8月4日の夕刻か ら5日にか けての雨のため‑坦増水 して,再 び基定流量に戻 ろ うとす るところ を10時か ら約5時間半観測 した.
この時の流速変動を図4に示す.
(a)が中央から左岸寄20m,P)が中 央.¢)が中央か ら左岸寄10m.(d) が中央か ら右岸寄30mである.
6 12 18 24
T的
図3 流量変動記録
河川の大規模乱れ (第1報)
nU0000'一■一10q▼●一●一lIn▼
(S/N)]17UD1山) I)0く一lU亡一〇〇9〇一8■1000
(S/≡]‑JUO1山> aLnaLI)nUl∧UれU99‑一,‑le(U
(S/N)^トlUO」山)
0.501.OOI.502.002.503.003.504.004.505.005.506.80
TIME(HOUR)
(a)
0.50 ).00 ).502.002.503.00 3.50 4.00 1.50 5.00 5.50 6.00
TIME(HOUR)
O))
▼
0.50I.8O1.502.002.503.DO3.534.0こI4.505.C95.50 6.6O
TIME(HOuR)
(C)
LrlhULn0l.⊃998UOU700OOO
(S/LJ)^トlUD1山)
0.50 I.00 I.502.002.50 3.00 3.50 4.00 4.50 5.00 5.50 6.OO
TIMErHOUR)
(a) 図4 流速変動記録
35
こuS/〜N'AITS孟RA9213Nu こ山S/zH)こTSN3PA92JuN1
I.OxIOi
I.OAJOI
I.0'10?
I.Ox10l 1.OX10‑7
1.OxlO)
I.DlLO1
1.8xlOt
FREQUENCT(HZ)
(o)
図5 ェネルギースペ クトル密度
FREQUENCTfHZ) (a)
河川の大規模乱れ (第1報) 37
流速計の鉛直方向の位置は, 観測終了時で,(a)が1.54m, 0))が1.35mJ(o)が1.48m,(d) が1.75mである.河床は砂磯 であ り20cm〜30cm程度 の厚 さが有 る と推察 され る.
図5は, .も と のデータを 0.89Hzの p‑パス フィルタ ーに通 した後,サンプ リソグ 周波数2.0HzでA‑D変換 し, 32768個 の データ を 用 い て
FFT に よ、り求めた も の で あ る.
この結果を見 ると,河川乱 流場の2重構造性が明瞭に伺 える.また,中間乱子領域に おける‑5/3剰則を適用 して ェネルギー逸散率を求め ると‑, 大俸o.10cm2/sec8か ら0.18 cm2/seC3とな り,余越(a)が宇 治川で求めた値 と比較す ると, い くらか小 さい値 となってい る.
水平乱流場におけ る最大乱 子をェネルギースペ ク トルの ピークか ら求めると,(a),脚, (o),(d)の順でそれぞれ川幅の!
26倍,21.6倍,22.6倍,19.5 倍になる.
次に,図6に 自己相関関数 を示す.既にエネルギ‑スペ ク トル密度の図か ら明 らかで はあるが・ 与こで もラグタイ
ムの小 さい所で相関が急減 し, その後は緩やかに漸減す ると い う典型的な2重構造のパタ ーンが見 られ る.
2点間の流速の相互相関を 図7に 示す. 相互相関 に は
≡1・00
■〔 I
0.00 1000.OD TAU(See)
(a)
≡1.00 ト・■
:▼り
ヨ1.00
■・‑
U
≡1.00 トー
l」】
1000.00 T^U(SEC)
仲)
)
1000.00 め)
1000.00
1人∪(SEC) (a) 図6 自己相関
‑2000.00 ‑loo°.00
TAUISEC) 0.00 IDOO.00 2000.00 7‑ 1
‑2000.00 ‑】OOO.00
1人UfSEC) 0.00 1000.00 2000.00 7‑ 2
‑2000.00 ‑loo°.00
TAUtSEC) 0.DO l800.00 20〔30.00 図7 相互相関 7‑ 3
河川の大鋭模乱れ (第1報) 39 0.089Hzの T2‑パスフィル ターを通過させたデータを用いた.
7‑ 1は0))と(a)の相関, 7‑ 2は0))と(o)の相関, 7‑ 3は脚 と(d)の相関である.7‑ 1, 7‑ 2か らすると左岸寄のほ うが中央 より数分進んでいる.一方,右岸寄 と中央の位相差は 余 り無い様である.
4.あ と が き
実河川における流れは, まえが きで も触れた様に,観測す る度に異なると言 っても過言で はない.本研究は未だ緒についたばか りで観測例 も少な く,河川乱流 として普遍的な結論を 述べ るには到 らず,観測結果の一例を報告するに とどめた.
得 られた結果の うち,水平最大乱子のスケールは殆 ど川幅の20倍前後に分布 してお り,余 越の唱える10倍の倍になってい る. このあた りも,今後の研究を通 じて究明 して行かねばな らない.また,流量変動に起因す るものや,主流位置の変動に よるものを如何に して乱流 と 区別するかについても考え方を確立する必要が有る.
末筆なが ら,本研究を進めるにあた り適切な考御教示を賜わ った広島大学工学部余越正一 郎教授,お よび信州大学工学部富所五郎講師に感謝の意を表する. また,観測にあた り施設 面,人員面で御協力いただいた東京電力信濃川電力所の方々,データ解析に御尽力いただい た広島大学工学部大学院生繁山信治君に感謝の意を表する.
参 考 文 献
(1)石原安雄 ・余越正一郎 :河川の乱流構造に関する一考察,京郷大学防災研究所年報,第13号B, pp.323‑‑331,1970.
(2)宇民 正 ・上野鉄男 :可視化法による大スケール乱れに関する研究(2),京都大学防災研究所年報, 第20号B‑ 2,pp.331‑354,1977.
(3)余越正一郎 :河川の大規模乱れ'京都大学防災研究所年報,第10号B,pp.199‑206,1967.