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価値共創の障壁分析手法 観念モデルに基づく 目次

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(1)

平成 30 年度 修士論文

首都大学東京大学院

システムデザイン研究科 博士前期課程 知能機械システム学域

学修番号 17889541

湊 省吾

指導教員 下村 芳樹 教授

平成 31 年 2 月

観念モデルに基づく

価値共創の障壁分析手法

(2)
(3)

i

目次

序論 ... 1

研究背景 ... 2

我が国における製造業の現状 ... 2

製造業のサービス化 ... 4

Service-Dominant Logic ... 6

本研究の目的 ... 9

本論文の構成 ... 10

本研究の位置づけ ... 11

はじめに ... 12

サービスの最適設計ループ ... 13

価値共創に関する研究 ... 14

Co-productionco-creation ... 14

価値創成のクラスモデル ... 15

価値共創における提供者と受給者の関係性 ... 17

価値共破壊 ... 19

価値共破壊とは ... 19

価値共破壊の要因分類 ... 19

問題設定 ... 21

おわりに ... 22

観念モデル ... 23

はじめに ... 24

モデルの構築方法 ... 25

観念モデルに用いる要素技術 ... 26

純粋理性批判 ... 26

意図の理論 ... 27

観念の全体像 ... 30

観念モデル ... 32

知覚・認知モデル ... 33

コンテキスト変容過程モデル ... 35

(4)

ii

おわりに ... 38

観念モデルに基づく価値共創の障壁分析手法 ... 39

はじめに ... 40

本手法の適用範囲 ... 41

観念モデルに基づく価値共創の障壁分析手法 ... 42

本手法の全体像 ... 42

step0:分析対象の選定 ... 43

step1:製品/サービスの使用・消費の観察と主観評価 ... 44

step2:行為主体へのヒアリング ... 44

step3:観念モデルの記述 ... 46

おわりに ... 47

事例検証 ... 48

はじめに ... 49

検証の対象事例... 50

検証方法 ... 51

事例検証 ... 53

step0:分析対象の選定 ... 53

step1:製品/サービスの使用・消費の観察と主観評価 ... 53

step2:行為主体へのヒアリング ... 57

step3:観念モデルの記述 ... 60

おわりに ... 64

考察 ... 65

はじめに ... 66

構築したモデルについて ... 67

知覚・認知モデル構築のアプローチについて ... 67

知覚・認知モデルの課題と展望 ... 67

価値共創の障壁分析手法について ... 71

有効性 ... 71

課題と展望 ... 72

事例検証に基づく考察 ... 75

提案手法の有効性 ... 75

提案手法の妥当性 ... 75

提案手法の課題と展望 ... 76

おわりに ... 79

(5)

iii

結論と展望 ... 80

結論 ... 81

展望 ... 82

参考文献 ... 83

英語文献 ... 83

日本語文献 ... 86

Web ... 89

付録 ... 90

審査会での質疑に対する回答 ... 93

研究業績 ... 98

国際会議(査読あり) ... 98

国内会議(口頭発表) ... 98

謝辞 ... 100

(6)

iv

図目次

Figure 1-1製造業と非製造業における付加価値率[財務総合政策研究所 2015] ... 3

Figure 1-2 G-DロジックとS-Dロジック:サービス観[藤川 2012] ... 6

Figure 1-3 G-DロジックとS-Dロジック:価値概念と顧客像[藤川 2012] ... 7

Figure 1-4 G-DロジックとS-Dロジックの違い[筒井 2018] ... 8

Figure 2-1 サービスの最適設計ループ[本村 2008]... 13

Figure 2-2 Co-production to Co-creation matrix [Chathoth 2013] ... 14

Figure 2-3価値創成のクラスモデル([Ueda 2008]をもとに作成) ... 15

Figure 2-4 Evolving structure of value creation classes [Kaihara 2018] ... 16

Figure 2-5サービスにおける価値共創モデル[根本 2014] ... 17

Figure 2-6サービスシステムにおける価値共破壊プロセス[Lintula 2017] ... 20

Figure 2-7本研究における価値共創を妨げる障壁 ... 21

Figure 3-1実践的推論の2層構造([ブラットマン 1994]より作成) ... 29

Figure 3-2観念の構成概念および外部環境との関係性 ... 30

Figure 3-3観念モデル ... 32

Figure 3-4知覚・認知モデル ... 33

Figure 3-5コンテキスト変容過程モデル[筒井 2019] ... 36

Figure 4-1提案手法の全体像 ... 42

Figure 4-2提案手法の各step詳細 ... 43

Figure 4-3ライフライン図 ... 45

Figure 4-4ヒアリング実施手順と質問の例 ... 46

Figure 5-1アザラシ型セラピーロボット「パロ」[Wada 2008] ... 50

Figure 5-2対象事例の概要 ... 50

Figure 5-3事例検証の流れ ... 51

Figure 5-4 step1:ハンドラーAの結果 ... 54

Figure 5-5 step1:ハンドラーBの結果 ... 55

Figure 5-6 step1:ハンドラーCの結果 ... 56

Figure 5-7 step2:ハンドラーAの結果(一部) ... 58

Figure 5-8 step2:ハンドラーCの結果(一部) ... 59

Figure 5-9 step3:ハンドラーAの結果 ... 60

Figure 5-10 step3:ハンドラーBの結果 ... 61

(7)

v

Figure 5-11 step3:ハンドラーCの結果 ... 61

Figure 5-12 step3:考察による価値共創の障壁特定の結果 ... 63

Figure 6-1知覚・認知プロセスの仮説モデル ... 69

Figure 6-2能登らによる知覚(Primary context)と認知(Secondary context)の関係性 ... 70

Figure 6-3提案手法に基づく改善設計の対象 ... 72

Figure 6-4現場におけるパロを用いたケア ... 76

(8)

vi

表目次

Table 1-1脱物質化の手法とその適用例[新井 2006] ... 4

Table 6-1新米からエキスパートへ:作業療法士の場合[吉川 2005] ... 78

(9)

1章 序論

1

序論

序論 ... 1

研究背景 ... 2

Service-Dominant Logic ... 6

本研究の目的 ... 9

本論文の構成 ... 10

(10)

1章 序論

2

研究背景

我が国における製造業の現状

我が国の経済成長において,製造業がこれまで果たしてきた役割は一貫して大きい.造 船・鉄鋼,あるいは自動車・精密機器など,時代ごとに異なる業種がリーディング産業とな ることで,経済成長を牽引し,国内に雇用機会を提供し続けてきた.しかし近年,新興国の 急速な技術力向上や地球環境問題など,製造業の事業環境は大きく変化しつつある.本項で は,特に「(1)消費者ニーズの多様化」,「(2)製造業が創出する付加価値の低下」および「(3)地球 環境問題の深刻化」の3つの観点から,我が国の製造業の概況について説明する.

(1)消費者ニーズの多様化

90 年代以降,アジアや南米各国の工業化が進み,新興国を含む多くの国が工業製品を提 供できるようになった.その流れを受け,製造業に従事する企業は,大量生産・大量販売を 前提とした製品開発・販売促進を行い,結果として,我々は高機能な製品を安価で購入でき るようになった.このようにして,我が国をはじめとする先進諸国の社会水準が飛躍的に向 上した一方で,消費者の価値観やニーズは一層多様化してきている[井原 2003; 石垣 2011]. 世の中がモノで溢れ,「十人一色」,「十人十色」から「一人十色」の時代に移り変わったこ とで,消費者は「他人と同じモノ」ではなく「他人と違うモノ」に価値を感じるようになっ た.このような時代では,従来のように不特定多数の大衆市場に重点を置くのではなく,消 費者との一対一の対応や関係に重点を置き製品開発やマーケティングを行うことが重要と なる[井原 2003].一方で,多様化する消費者ニーズに対して個別に対応することが困難で あることもまた事実であり,製造業においては,このような課題を解決するための新たな価 値提供手段が求められている.

(2)製造業が創出する付加価値の低下

近年,非製造業が創出する付加価値率は堅調に上昇しているのに対し,製造業が創出する 付加価値は,低下が起こっている(Figure1-1).ここで,付加価値率とは,売上高に占める付 加価値額の割合のことであり以下の計算式によって計算される.

付加価値率(%) =付加価値額 売上高 × 100

*付加価値額=人件費+支払利息等+動産・不動産賃借料+租税公課+営業純益

(11)

1章 序論

3

したがって,付加価値率が高い場合は,企業が新しく創造した価値の割合が大きいといえ る.戦後から90年代にかけて,製造業は他の産業と比較して高付加価値産業であった.し かし,90 年代以降,製造業が創出する付加価値率は低下傾向にあり,近年では企業が創出 する付加価値率において,非製造業が製造業を上回っている.この原因としては,ロボット 技術の発達による製造業のオートメーション化が進み,人件費がかからなくなったことが 挙げられるが,その他にも(1)に挙げた消費者ニーズの多様化や,製品のコモディティ化に よって,製造業が付加価値を創出しづらくなっていることが原因として考えられる.したが って,製造業においては,こういった現状を打開するような新たな価値創出のしくみが求め られている.

Figure 1-1製造業と非製造業における付加価値率[財務総合政策研究所 2015]

(3)地球環境問題の深刻化

近代社会を象徴する大量生産・大量消費・大量廃棄の産業構造は,我々の生活を不自 由の少ない豊かなものにした一方で,地球環境の汚染や各種資源の枯渇など様々な弊害 を生み出した[吉川1993].冨山は,これらの諸問題を根本的に解決するためには人工 物の生産形態そのものを再考する必要があると述べ,持続性社会の構築を目標とする

「ポスト大量生産パラダイム」を提唱した[Tomiyama 1997].ここでの持続性とは,

人工物の生産量を削減しながらも経済成長を維持することを指しており,これを実現す ることが製造業における大きなミッションの一つとなっている.また近年では,市民レ ベルでの環境配慮への意識の高まりから,環境側面が企業価値に与える影響が増大して おり,製造業における環境保全と経済価値の両立が重要性を増している[内山 2010]

(12)

1章 序論

4

製造業のサービス化

このような状況を打開するためのキーワードとして,近年,工業先進国の製造業では,製品 を通じて提供される「サービス」が脚光を浴びている.従来は,製品に付随するサービス(例 えば,故障相談用のコールセンター等)は無料で付加的なものという考え方が支配的であっ た.しかしながら近年では,製品を介して提供されるサービスが,製造業の収益に与えるイ ンパクトが多大なものとなっており,製造業企業がモノの製造だけではなく,サービス提供 に進出する動きが活発化している.このように,製造業がサービス中心型のビジネスに移行 することは,一般に「製造業のサービス化」と呼ばれる(例えば,[新井 2006; 藤川 2012] など).

また,製造業のサービス化を推し進める方法の一つとして,「脱物質化」が挙げられる.

脱物質化の手法とその適用例を Table 1-1 に示す[新井 2006].脱物質化の手法の一つは,

複数利用者間での「製品の共有」により,製品の生涯利用回数を増やし物質的消費を減らす ことである.公共交通機関の利用やカーシェアリング,家電のレンタル等といった,製品を 共有するようなサービスがその例にあたる.また,脱物質化のもう一つの手法として,製品 の製造から廃棄までのライフサイクル全体にわたってサービスを提供し,その価値を維持 することで製品の寿命を延ばす「生涯価値の維持」が挙げられる.エレベータ等のメンテナ ンスやコンテンツ提供によるハードウェアの価値の維持,機能販売等が生涯価値の維持の 例にあたる.

Table 1-1脱物質化の手法とその適用例[新井 2006]

脱物質化の手法 手法の細目 適用例

製品の共有 社会共有 タクシー,カーシェアリング,映画館

レンタル・リース レンタカー,家電レンタル,建機レンタル,出張パック 生涯価値の維持

メンテナンス エレベータ保守,自動車修理,エアコン清掃 コンテンツ提供 携帯電話,携帯音楽プレイヤー,家庭用ゲーム機 機能販売 レンズ付きフィルム,掃除機ロボット

また,既存研究([Gebauer 2008],[Neely 2011],[藤川 2012]など)によれば,製造 業のような非サービス業のサービス化がもたらす効果は,以下の3つに整理できる.

顧客の問題解決,生活支援

現代では,顧客が求める価値は,「製品そのもの」ではなく,「製品使用を通じて得ら れる効用」へとシフトしてきている.ここでいう効用とは,顧客の日常で抱く問題の解 決や,生活の支援を指す.製造業のような非サービス業は,サービス化によって製品を 販売するだけでなく,製品を通じた顧客の問題解決,生活支援までもが可能となる.

(13)

1章 序論

5

企業の収益獲得

現代では,企業間において製品そのものを差別化することが困難となっている.この ような状況において,企業が競合他社との差別化を実現する一手段として,製品とサー ビスの統合が挙げられる[Tan 2010].また,企業は製品販売後も,サービスを継続的に 提供することで,顧客との長期的な経済関係を構築することが可能である.これにより,

顧客個人との対応に重点を置き,多様なニーズに対応することが可能になる.また,企 業は,顧客との長期的な経済関係を構築することにより,安定した収益を得ることが可 能となる[McAloone 2004].

地球環境への貢献

カーシェアリングやレンタカー,タクシーなどのようなサービスは,少ない製品や資 源で顧客の要求に対応することが可能となり,製品の大量生産と大量消費に依らない価 値提供[Tomiyama 1997]が可能となる.実際に,製造業のサービス化による,環境へ の影響の低減効果についての期待は大きく,実際の効果に関する分析が多くの研究者に よって行われている[Tukker 2004; Aurich 2006].

(14)

1章 序論

6

Service-Dominant Logic

近年,産業界やマーケティング分野では,市場で取引される価値に関する新たな世界 観であるサービスドミナントロジック(以下,S-Dロジック)[Vargo 2004][Lusch 2006]

が高い注目を集めている.S-Dロジックとは,経済的・社会的な「交換」の中核を「物 財(Goods)」から「サービス(Service)」に置き換える論理である.S-Dロジックでは,

全ての経済的・社会的活動において,物財と物財が交換されるのではなく,サービスと サービスが交換されるとする.一方,従来の経済的・社会的交換の「中核」として物財 を置く論理はグッズドミナントロジック(G-Dロジック)と呼ばれる.

藤川はG-D ロジックとS-Dロジックの概念に関する違いをFigure 1-2 のように表し ている.G-D ロジックの概念は,世の中には「物財(製品)」と「製品以外の何か(=

サービス)」があるとする概念である.これまでの経済学におけるマーケティング研究 では(例えば,[Sasser 1978],[Fitzsimmoms 2001]など),この論理体系に基づき,製品と サービスを分けて議論してきた.一方,S-Dロジックでは,サービスを「“Application of specialized knowledge and skills (competences) for the benefit of another party”(他者の便益 を生み出すための知識と技能(能力)の適用)」として定義し,経済活動を全てサービ スとして捉える.この知識や技能の適用の「過程(プロセス)」には,直接的な作用と 間接的な作用があるとされるが,前者は属人的な行為を介した「過程」を,後者は製品 を介した「過程」を指す.すなわち,S-Dロジックは,製品とサービスを区別して,製 品にのみ,もしくは,サービスにのみ当てはまる経営論理を読み解くのではなく,製品 にもサービスにも共通する経営論理の構築を目指すものである[藤川 2012].

Figure 1-2 G-DロジックとS-Dロジック:サービス観[藤川 2012]

(15)

1章 序論

7

また,S-D ロジックと G-D ロジックは,価値概念に関する世界観も異なり,藤川は

Figure 1-3のように表している.G-Dロジックでは,提供者が創った製品やサービス自

体に価値が埋め込まれており,それが市場で交換されることを通じて実現する「交換価 値」を重視する.その一方で,S-Dロジックでは,製品やサービスが使用・消費される 過程において提供者と受給者が様々なやりとりをする文脈の中で生まれる価値(使用価 値)を重視する.この使用価値は,受給者が製品やサービスを使用・消費する際に生ま れることから,受給者は提供者と共に価値を創る(価値を共創する)主体であると捉え られる.

Figure 1-3 G-DロジックとS-Dロジック:価値概念と顧客像[藤川 2012]

以上をまとめると,Figure1-4のように整理できる[筒井 2018].S-Dロジックの世界観 に基づくと,製造業が提供する製品もサービスに内包される一部に過ぎず,企業が提供 するものは本質的には全てサービスであるとされる.そして,サービスにおいては,企 業と顧客が価値を「共創」することが重要である.こうした世界観で,企業は自社の事 業活動を捉え直すことにより,新たな価値創出の方法を生み出すことが求められている.

(16)

1章 序論

8

Figure 1-4 G-DロジックとS-Dロジックの違い[筒井 2018]

Goods-Dominant Logic Service-Dominant Logic 市場における交換

の基本単位

モノ

モノ以外(サービシーズ)

モノを伴うサービス モノを伴わないサービス 価値概念と

価値創出の前提条件

交換価値(交換時に発生)

企業の「価値生産」

顧客の「価値消費」

文脈価値(使用・消費時に共創)

企業と顧客の相互作用を通じた「価値共創」

顧客の役割 価値の消費 価値の共同生産(資源の投入)

価値の評価

企業 顧客

文脈価値

価値 共創

企業 顧客

交換価値

製品サービスの利用に関する 知識・技能など

(17)

1章 序論

9

本研究の目的

以上の背景を踏まえ,本研究では

「製品/サービスにおける価値共創の実現を支援する」

ことを目指す.近年,価値共創は注目を集めているものの,その概念の広範さ,複雑さ から支援する研究は,ほとんどが理論のレベルに留まっている.そのため,価値共創を 支援するための,実用的な手法は数少ないというのが現状である.そこで本研究では,

以下2点の達成項目を設定する.

【1】価値共創における重要概念の提示

価値共創は,広範な概念であるため,行われている研究ごとに様々な価値共創の捉え 方が存在する.そのため,価値共創という概念に対する捉え方,それ自体も研究におけ る重要なポイントとなる.本研究では,先行研究を参照したうえで,価値共創における 重要概念を提示し,それに基づいた手法を構築する.

【2】実用的な価値共創の障壁分析手法の提示

前述のように,価値共創を支援するための実用的な手法は数少ない.こうした状況を 踏まえ,本研究では具体的・実践的な形で価値共創を支援することを目指す.そのため の初期研究として,現状分析という点に焦点をあて,本研究は価値共創を妨げる障壁を 分析する手法を提案する.

上記の 2 点を達成することで,本研究は製品/サービスにおける価値共創の実現に向 けて実学的な貢献をもたらすことを目指す.

(18)

1章 序論

10

本論文の構成

本論文は,全7章から構成される.以下に,各章の概要について述べる.

1章「序論」では,製造業の現状と課題を概観し,それを踏まえたうえで,今後の 製造業にとって「サービス」が重要なキーワードになることを述べた.そしてS-Dロジ ックおよび価値共創の概要を述べ,本研究の目的を明らかにした.

2章「本研究の位置づけ」では,まず,本研究のおおまかな位置づけとしてサービ スの最適設計ループを紹介する.次に,価値共創に関する既存研究を紹介し,価値共創 の前提や社会の期待が大きいことを確認する.次に,価値共破壊に関する既存研究を紹 介し,それら既存研究における課題を明らかにしたうえで問題設定する.そして,既存 研究に基づき本研究が分析を目指す価値共創の障壁について,本研究の捉え方を明らか にする.

3章「観念モデル」では,本研究が構築した観念モデルについて述べる.まず,モ デルの構築方法を確認し,次に参照した哲学文献を紹介する.そして,観念の全体像に ついて述べた後に,構築した観念モデルについて述べる.なお,観念モデルは,知覚・

認知モデルとコンテキスト変容過程モデルという 2 つのモデルの統合により構築され ている.

4章「観念モデルに基づく価値共創の障壁分析手法」では,3章で述べた観念モデ ルを用いて価値共創の障壁を分析するための一連の流れについて述べる.ここで述べた 流れに沿って分析者が分析を行うことにより,価値共創の障壁が観念モデル上に表出し,

特定することを可能とする.

5章「事例検証」では,第4章にて提案した手法を実際のサービス事例に適用し,

その結果について述べる.

6 章「考察」では,観念モデル・提案手法・事例検証について,有効性と妥当性,

そして課題と展望という主に3点を中心に考察する.

7章「結論と展望」では,本論文の結論および展望について述べる.

(19)

2章 本研究の位置づけ

11

本研究の位置づけ

本研究の位置づけ ... 11

はじめに ... 12

サービスの最適設計ループ ... 13

価値共創に関する研究 ... 14

価値共破壊 ... 19

問題設定 ... 21

おわりに ... 22

(20)

2章 本研究の位置づけ

12

はじめに

本章では,まず,本研究のおおまかな位置づけとしてサービスの最適設計ループを紹 介する.次に,価値共創に関する既存研究を紹介し,価値共創の前提や社会の期待が大 きいことを確認する.次に,価値共破壊に関する既存研究を紹介し,それら既存研究に おける課題を明らかにしたうえで問題設定する.そして,既存研究に基づき本研究が分 析を目指す価値共創の障壁について,本研究の捉え方を明らかにする.

(21)

2章 本研究の位置づけ

13

サービスの最適設計ループ

産業技術総合研究所のサービス工学研究センターにおけるサービス工学研究では,従 来のような経験と勘のみに頼るサービスから,科学的・工学的手法によってサービスの 最適設計を行う手法が提案されている.この手法では一般に,「観測→分析→設計→適 用」というループ経ることでサービスの継続的改善が行われる(Figure2-1).観測とは,

サービスの運用にまつわる現場の情報の収集であり,一般にセンサによる計測,情報シ ステムの利用履歴の蓄積,関係者からのヒアリングやアンケート調査などの方法によっ て行われる.分析は,観測によって得られた情報を解析して人間行動やサービスプロセ スに関する知識をモデル化することであり,一般に統計処理やシミュレーションなどの 技術が用いられる.設計とは,分析に基づいてサービス提供側とサービス受容側のイン タラクションとして構成されるサービスプロセスを最適化することであり,一般に人間 行動シミュレータやサービスCADが用いられる.適用は,設計フェーズで最適化され たサービスプロセスを現場の実サービスに適用し,検証を行うことであり,一般にデー タベース構築技術やライフログの実用化技術などが用いられる.これらの科学的・工学 的手法を実際のサービス現場で実践することにより,サービスの受給者と提供者の間を 情報が循環することとなり,既存のサービスが連続的に改良される.また,ここで蓄積 された情報が活用可能な知識として再編成されて,新しいサービスの創出につながると いうイノベーションとしての側面もある[本村 2008].

本研究は,この4つの段階のうち「観測」および「分析」の実施を支援する手法を提 案する.

Figure 2-1 サービスの最適設計ループ[本村 2008]

(22)

2章 本研究の位置づけ

14

価値共創に関する研究

Co-production

co-creation

1.2 節で述べたように,提供者と受給者の相互作用により共創される価値を重視する 必要性が,S-Dロジックを中心として主張されている.この考え方は価値共創と呼ばれ,

価値共創は近年,学術界のみならず産業界においても大きく脚光を浴びている.

Chathoth らは,企業が価値共創を目指すアプローチには「co-production(共同生産)」

と「co-creation(価値共創)」の2つが存在することを主張している[Chathoth 2013].co-

productionは,企業中心の視点から,顧客を巻き込んでサービスを生産するというもの

であり,これは伝統的なG-Dロジックに基づいたアプローチである.一方,co-creation は, S-Dロジックに基づいたアプローチであり,製品/サービスの使用・消費において 提供者と受給者の相互作用プロセスによって価値創出することを目指すものである.

また,Chathothらは,Figure2-2のマトリクスを提案している.このマトリクスは,顧

客起点のカスタマイズ・企業起点のサービス革新・co-production(共同生産)・co-creation

(価値共創)の関係性を整理している.このマトリクスによると,S-Dロジックで主張 されているco-creation(価値共創)は,製品/サービスの使用・消費段階に実現されるも のであり,顧客と企業を連続体として捉えるアプローチであると主張されている.近年,

産業界では「オープンイノベーション」と呼ばれる共創に向けた取り組みが盛んに行わ れている(例えば,「NEXPERIENCE」[日立製作所 2015],「HAB-YU platform」[富士通])

が,これらは,co-production(共同生産)に向けた取り組みの一例と言える.

Figure 2-2 Co-production to Co-creation matrix [Chathoth 2013]

(23)

2章 本研究の位置づけ

15

価値創成のクラスモデル

上田らは,人工物(製品とサービスの双方を含む)の価値創成の在り様を,Figure 2- 3に示すような類型によりモデル化している[Ueda 2008].このモデルは,人工物(製 品/サービス)・提供者・受給者・人工物が置かれる環境をその構成要素とし,構成要素 間の相互作用の観点により,価値がどのように創出されるのかを形式化している.本モ デルには3つのクラスが存在し,それぞれ,クラスⅠ:提供型価値,クラスⅡ:適応型 価値,クラスⅢ:共創型価値として定義されている.

Figure 2-3価値創成のクラスモデル([Ueda 2008]をもとに作成)

クラスⅠ:提供型価値

人工物の提供者と受給者の価値が独立に明示でき,かつ環境が事前に確定できる.モ デルは閉じたシステムとして完全記述が可能.最適解探索が課題.

クラスⅡ:適応型価値

提供者と受給者の価値は明示化できるが,環境が変動し予測困難である.モデルは環 境に開いたシステム.環境変動への適応的戦略が課題.

クラスⅢ:共創型価値

提供者と受給者の価値が独立に明示できず,前者が後者の価値を事前に確定できない.

両者が強く相互作用し分離できない.主体が対象系に参入するシステム.価値共創が課 題.

大量生産型製品は典型的なクラスⅠに該当し,サービスはクラスⅢに該当する共創に よる価値創出が本質とされる.サービスにおいては,プロセスと製品が分離できないこ とから,提供者と受給者が分離して価値を生成することはない.さらに,環境やサービ

(24)

2章 本研究の位置づけ

16

スそれ自体も,サービスの場の内部で構成されることから,設計者も場に内部化される という特徴があるとしている.

また,貝原らは前述のクラスモデルに基づき,Figure2-4 に示す製品/サービスが発展 していく構造についての仮説的なモデルを提案している[Kaihara 2018].このモデルは,

製造業のこれまでの歴史と近年の動向を踏まえて構築されている.このモデルによると,

ある 1 つの製品/サービスが持続的に発展していくためには,クラスⅠ型からクラスⅡ 型,クラスⅡ型からクラスⅢ型,そして,クラスⅢ型からクラスⅠ型というように,価 値創出のしくみを転換していくことが必要とされる.

Figure 2-4 Evolving structure of value creation classes [Kaihara 2018]

クラスⅠ型からクラスⅡ型に転換するためには,例えば,製品を個々のモジュールに 分けて生産することで,製品に柔軟性・適応性を持たせることが必要とされる.クラス

Ⅱ型からクラスⅢ型に転換するためには,例えば,IoT・シェアリングプラットフォー ムなどといった技術を利用することで,提供者と受給者の協力,相互作用を促すことが 必要とされる.クラスⅢ型からクラスⅠ型に転換するためには,その製品サービスにお けるルールや制約を明確にすることで,クラスⅢという混沌とした無秩序に近い状態か らクラスⅠという明確に定義された(well-definedな)状態にすることが必要とされる.

このように,価値共創という考え方は,製品/サービスの単なる差別化の手段としてだ けではなく,ビジネスの持続性という観点からも大きく期待されている.また,現在の

(25)

2章 本研究の位置づけ

17

多くの製品/サービスは,クラスⅡ型からクラスⅢ型へ転換することが求められている とされ,その点からも価値共創を支援する研究への要請は大きなものとなっている.

価値共創における提供者と受給者の関係性

1.2節で述べたS-Dロジックにおける提供者と受給者の関係性について着目すると,

Figure1-3にも表されているように,価値は提供者(Figure1-3中の企業)と受給者(Figure1-

3中の顧客)の共創によって創られる.ここでの価値とは,製品と対価を交換すること によって生まれる交換価値だけでなく,共創や使用する過程で生まれる文脈価値等,製 品に付随する全ての価値のことを指す.また,このS-Dロジックでは受給者が提供物を 利用する事によって生まれる使用価値や様々なやり取りをする文脈の中で実現する文 脈価値が重視される.

また,根本らは価値共創をFigure2-5に示すモデルとして表現している[根本 2014].

Figure 2-5サービスにおける価値共創モデル[根本 2014]

このモデルにおいて,提供者は受給者に対し,受給者に対してコンテンツ/チャネル を通じて価値を提案する一方,受給者は生成されたサービスを利用し,自身の置かれた コンテキスト(文脈)のもとで価値を知覚する,としている.また,ここで知覚した価 値に応じて,自らのサービスとの関わり方(利用時の行動)を必要に応じて変容させる.

(26)

2章 本研究の位置づけ

18

一方で,提供者も同様に,実現された価値をもとに,必要に応じてサービスを変化させ るために提供時の行動変容を起こす.本モデルでは,サービスの利用を通じた提供者と 受給者の相互の行動変容により価値が共創されることを示している.したがって,サー ビスにおいて,提供者と受給者は価値を共創する役割を担い,双方は双方向的なやりと りをする関係性にあると言える[根本 2014].

(27)

2章 本研究の位置づけ

19

価値共破壊

価値共破壊とは

価値共創は常にポジティブに作用するばかりでなく,時に「価値共破壊」と呼ばれる ネガティブな影響を引き起こすことが指摘されており,その理論的な解明を試みる研究 が進められている.

価値共破壊を最初に主張したPléは,価値共破壊を以下のように定義する[Plé 2010].

少なくとも1つのシステムのウェルビーイング(幸福度)の低下をもたらす,サービ スシステム(個人/組織)間の相互作用プロセスである.また,ここでの相互作用とは,

サービスシステムによるリソースの統合および適用を通して起こり,直接的(人から人 へ)または間接的(商品などの装置を通して)なものがある.

そして,価値共破壊を引き起こす要因については,以下のように述べている[Plé 2010].

価値共破壊は,片方または双方のサービスシステムによる誤った資源投入によって 起こる.ここでの誤った資源投入とは,不適切あるいは期待外れの方法による資源投入 などが引き合いに出される.

このようにPléは,価値共破壊が起こる要因は,サービスシステム(個人/組織)によ る誤った資源投入にあるということを述べている.

価値共破壊の要因分類

2.4.1項で述べた価値共破壊について,要因の分類を試みる研究が進められている.

例えば,Lintula らは,サービスシステムにおける価値共破壊のプロセスを,Figure2- 6に示すモデルのように整理している[Lintula 2017].このモデルは,体系的な文献調査 の結果に基づいて構成されており,価値共破壊の要因を「方針」・「資源」・「知覚」とい う3つの次元によって説明している.「方針」に分類される要因としては,システム間 での目標・方針の違いが挙げられる.「資源」に分類される要因としては,資源の誤用 や資源の不足・損失が挙げられる.「知覚」に分類される要因としては,実際の行動の 不釣り合い・知覚価値の不足・価値の矛盾が挙げられる.

(28)

2章 本研究の位置づけ

20

Figure 2-6サービスシステムにおける価値共破壊プロセス[Lintula 2017]

(29)

2章 本研究の位置づけ

21

問題設定

2.4節で示したように,価値共創のネガティブな作用に関する研究が試みられており,

要因の分類を行っている研究が存在する.しかし,それらの研究はどれも理論のレベル に留まっており,価値共創の失敗,および障壁について実際に分析を行う手法は存在し ない.そこで本研究では,価値共創を妨げる障壁について具体的・実践的に分析する手 法を提案する.

手法の構築にあたって,本研究ではPléらの研究に従い,価値共創を妨げる障壁は「主 体による資源投入」にあると捉え,主体による資源投入は「主体の行為」によって構成 されるものと仮定する(Figure2-7).これにより,「主体の行為」に着目することで,行為 に潜んでいる価値共創の障壁を分析することを可能とする.

Figure 2-7本研究における価値共創を妨げる障壁

受給者 提供者

価値共創の失敗

(価値共破壊)

行為 行為行為

行為行為 行為

資源投入 資源投入

障壁 障壁

(30)

2章 本研究の位置づけ

22

おわりに

本章では,本章では,まず,本研究のおおまかな位置づけとしてサービスの最適設計 ループを紹介した.次に,価値共創に関する既存研究を紹介し,価値共創の前提や社会 の期待が大きいことを確認した.次に,価値共破壊に関する既存研究を紹介し,それら 既存研究における課題を明らかにしたうえで問題設定した.そして,既存研究に基づき 本研究が分析を目指す価値共創の障壁について,本研究の捉え方を明らかにした.

(31)

3章 観念モデル

23

観念モデル

観念モデル ... 23 はじめに ... 24 モデルの構築方法 ... 25 観念モデルに用いる要素技術 ... 26 観念の全体像 ... 30 観念モデル ... 32 おわりに ... 38

(32)

3章 観念モデル

24

はじめに

本章では,本研究が構築した観念モデルについて述べる.まず,モデルの構築方法を 確認し,次に参照した哲学文献を紹介する.そして,観念の全体像について述べた後に,

構築した観念モデルについて述べる.

なお,観念とは,プラトンに由来する語「イデア(idea)」に対する訳語であり,「何 かあるものに関するひとまとまりの意識内容」[ブリタニカ国際大百科事典]のことであ る.プラトンによれば,すべての観念は,生まれながら人間精神に潜在的に内在すると され,何か対象を認識するという条件を得て初めて現実の観念となる[ブリタニカ国際 大百科事典]とされる.本研究では,「主体の行為を導く心的状態を表す包括的概念」を 観念と呼び,それを可視化する観念モデルを提案する.このモデルにより,「主体の行 為」に着目した価値共創の障壁分析を可能とする.

(33)

3章 観念モデル

25

モデルの構築方法

「主体の行為を導く心的状態を表す包括的概念」である観念を可視化する観念モデル は,以下の方法によって構築された.

(1)行為に関する文献を調査

ここでは,まずは行為に関する様々な文献を調査した.そして,その中から特に本研 究の前提に合致する哲学分野の文献を2本抽出し,関連する文献を含めて精査した.

(2)観念の全体像を整理

ここでは,(1)の結果をもとに観念そのものを構成する概念と外部環境と観念の関係 性,および構成概念間の関係性を整理した.

(3)観念モデルを構築

ここでは,(2)の結果をもとに観念を可視化するモデルを構築した.観念モデルは,筆 者らが構築した「知覚・認知モデル」と筒井らによる「コンテキスト変容過程モデル」

という2つのモデルの統合によって構築した.

以上の方法でモデルを構築することにより,実用的かつ妥当性あるモデルの構築を目 指した.次節以降では,(1)~(3)の順に従って,結果と構築されたモデルについて述べ る.

(34)

3章 観念モデル

26

観念モデルに用いる要素技術

本節では,3.2節の(1)行為に関する文献を調査のうち,哲学分野の文献2本を関連す る文献を含めて精査した結果について述べる.

精査したのは,Kantの「純粋理性批判」[有福 2012]と,Bratmanの「意図の理論」[ブ ラットマン 1994]である.製品/サービスの使用・消費過程における価値共創では,主 体は外部環境との相互作用を通して行為を駆動していることは,先行研究(例えば2.3.3 項)からも明らかであり,この2 本はそうした本研究の前提に合致する.「純粋理性批 判」は人間の認識の構造を詳述し,「意図の理論」は人間の行為の駆動過程を詳述する ものである.

純粋理性批判

哲学における認識論の分野では,人間の認識の共通構造を提示しており,中でもKant による「純粋理性批判」[有福 2012]は,哲学史上,最大の金字塔とも言われ,多大な影 響力を持っている.

「純粋理性批判」は,「人間の認識活動から独立した存在を認める」実在論と「人間 の認識活動から独立した存在を認めない」観念論の両者を踏まえたうえで,人間の認識 構造について論じている.その要点は,以下の点である.

人間の認識は,「感性」→「悟性」→「理性」という構造によって成立する.そし て,この認識構造はアプリオリ(生得的・先験的)であり,すべての人間が備え ているものである.

感性について

感性は,受容性の能力.感官から対象の情報を受容する.

その主体が存在する,「空間」と「時間」という制約のもとで受容され,認識 の源泉となる.

悟性について

悟性は,自発性の能力.思惟・判断・認識・規則を行う.

(35)

3章 観念モデル

27

アプリオリ(生得的・先験的)な判断表によって規定される.判断表は,量・

質・関係・様相という4つのカテゴリーによって構成されている.

理性について

推理によって,統一を樹立する能力.

理性は,感性と悟性によって基礎づけられた我々の認識を統一する(認識を 編成し,体系的連関をもたらす).

仮象(その人の認識内容)を生み出す推理を行う.したがって仮象は,実在 的な客観ではなく,主観によって生まれるものである.

ここで行われる推理の様式は,3 種類である.それは,定言的理性推理・仮 言的理性推理・選言的理性推理と呼ばれる.

魂・世界・神といったものは,この理性の能力によって演繹されたものであ る.

以上をまとめると,人間の認識は,主観的な条件でのみ成立しており,世界は主観に よる構成物だと考えることで,初めて客観的認識が成立する,つまり,対象に認識が従 うのではなく,認識のほうに対象が従う,ということが述べられている.

意図の理論

哲学研究分野では,「意図」を我々の「心」と「行為」を特徴付ける中心的な概念に 位置付け,これにより自分自身と他人の理解を試みる.Bratmanはこのような「心と行 為を意図によって特徴付ける」プロセスを体系的に理解するために,意図の理論を提案 している[ブラットマン 1994].本理論において,意図は,「人間がある目標を達成す るために実践的推論を行って計画を選択し,その計画を実行するとき,中心的な役割を 果たす心的状態」と定義されている.

「意図」概念の特徴を以下に示す.

(1) 意図は事情に応じて再考可能ではあるが,概して安定している.

(2) 意図は実践的推論を導き,またその「結論」である.

(3) 意図は行為をコントロールする.つまり,(ほかに特別の事情がない限り) 意図 は行為として発現し,行為を導く.

(36)

3章 観念モデル

28

(4) 意図は,「整合性」,「一貫性」という制約のもとにあり,また実践的推論がこうし た制約のもとになされるようにする.つまり,意図は可能な選択を限定し,「目 的-手段」に関する推論を制約する.

(5) 意図は,各人の,そして他人とのさまざまな行為の「調整」において重要な役割 を果たす.そのことによってまた意図は,各人の,そして他人との「より大きな 意図」の調整における要因となる.

意図という概念は,「行為として実現されるべきである」という文法に従っている.

それゆえ,不可能とわかっていることをする意図をもつことはできない.また,単にほ かの信念や意図と矛盾しないという意味での「整合性」という規範性に服しただけのも のでもない.それは,中核的な意図を核として厳密な意味ではないが何らかの論証的な 関係に立つという意味での「一貫性」といった制約に服することによってある種の「構 造」をもっている.

上記の考えを基に,Bratmanは,合理的な主体がとる実践的推論の2層構造を提案し ている(Figure3-1).第1層では,意図の「一貫性」の働きにより,主体が予め形成した 意図を実現しようとした場合に,これから解決されるべき問題を課す.例えば,「図書 館に行く」という予めの意図を形成した場合,図書館に行くための手段を特定する必要 が生じた場合,「代替可能な対立する手段(バス、自動車、タクシー etc…)」について 熟慮する.次に,意図の「整合性」の働きにより,「一貫性」の働きによって課された 問題に対する解決策を制約する.例えば,「自動車を家族のために家に置いていく」と いう予めの意図をもっていた場合,「図書館へ自動車で行く」という選択肢は,許容可 能ではないと判断され,行為の選択肢から排除される.このように第1層では,意図の 働きにより,適切さという基準を設けることで,考慮される選択肢の許容可能性につい てのフィルターを与える.

そして,第2層では,意図のフィルターを通して得られた行為の選択肢に賛成・反対 する欲求-信念理由により,それぞれの選択肢を比較考慮する.このように,意図は,

欲求-信念と並んで考慮される行為の理由ではないとされている.意図は,そもそも行 為の選択肢として考慮するべきか否かに対してある種の理由を与える心的状態であり,

欲求-信念によって比較考慮する際の背景的枠組みとなる.

(37)

3章 観念モデル

29

Figure 3-1実践的推論の2層構造([ブラットマン 1994]より作成)

予めの意図と計画(一貫性)

解決するべき問題を課す(器)

予めの意図と計画(整合性)×信念 許容可能な選択肢を制約

(フィルター)

欲求-信念理由

関連していて、許容可能な選択肢について 熟慮される際、考量される要件

予めの

意図 意図

選択肢

A 選択肢 B 選択肢

C

選択肢 C

選択肢 A

背景的 比較考量 枠組み

(38)

3章 観念モデル

30

観念の全体像

本節では,3.2節の(2)観念の全体像を整理の結果について述べる.ここでは,主体は 外部環境との相互作用を通して行為を駆動しているという本研究の前提から,観念は,

外部環境の影響を受けるものとして捉え,観念そのものの構成概念と外部環境との関係 性を整理した.

本研究では,「主体の行為を導く心的状態を表す包括的概念」を観念と呼び,観念の 構成概念および外部環境との関係性をFigure3-2 として定義する.主体が感官から五感 情報を受容することを入力行動,運動器官を伴った意図的な行動を行うことを出力行動

(行為)と呼ぶ.製品/サービスの使用・消費過程では,提供者と受給者というそれぞれ の主体がこの入力行動・出力行動(行為)を介して外部環境と相互作用することで価値 を創出している.図中の矢印は全て入出力,長方形は変換器(推論機構・変容)の役割 を担っており,円は導入した観念の構成概念を指す.この認識および行為駆動の構造は,

全ての人間がアプリオリ(生得的・先験的)に備えるものである.

Figure 3-2観念の構成概念および外部環境との関係性

観念は,「知覚・認知システム」と「行為システム」という 2 つのシステムによって 構成される.「知覚・認知システム」は, 入力行動から受容した情報に対し意味づけを 行う役割を担っており,「行為システム」は,推論によって意図的に出力行動(行為)

観念(主体の心的状態)

主体の外部環境 信念

目標 行為

候補

変容

出力 行動 (行為)

知覚 認知

入力 行動

知覚・認知システム

行為システム

意図 推論機構

推論機構

推論機構 推論機構 推論機構 行為 推論機構

選択肢 推論機構

(39)

3章 観念モデル

31

を駆動する役割を担っている.そして,この2つのシステムは,互いに双方向的な影響 関係を持つ.以下では,この両者のはたらきについて,「ペンを重しとして使う」とい う例を用いながら具体的に説明する.

知覚・認知システムでは,まず,外部環境の情報を入力行動によって受容する.この 入力行動とは感官によって外部環境の情報を受容する行動であり,例えば「見る」とい う行動が挙げられる. そして,そこで受容した情報が,知覚である.ここでは,情報 を受容するのと同時に直感が供給され,物そのものの存在を同定するはたらきや形・色 の識別などが行われる.例えば,「対象物がある,その対象には留め具がついている,

先端が細い」というものが知覚である.次に,その知覚内容に推論機構を経ることで意 味づけが行われ,認知となる.ここでは,行為システムにおける心的状態である目標,

行為候補,行為選択肢,意図,信念の影響を受ける.例えば,「重しを探す」という目 標や「重しを見つける」という意図,「重しは,転がらないものでなければいけない」

という信念を持っている場合には,ペンに対して「重しとして使える」という認知が形 成される.一方で,「キャッチボールをする」という目標や「ボールを探す」という意 図,「ボールの形状は球」という信念を持っている場合には,ペンに対して「ボールで はない」という認知が形成される.

行為システムでは,目標から行為候補,行為選択肢が形成され,行為選択肢から意図 が形成され,この意図をもとに出力行動が引き起こされる.この心的状態の遷移は,全 て主体による推論機構のはたらきによって起こり,信念(主体の知識や価値観),およ び知覚・認知システムのはたらきの結果である認知の影響を受ける.例えば,「重しを 探す」という目標から「重しを見つける」「重しを持ってきてもらう」という行為候補,

行為選択肢が形成される.次に,「重しを見つける」という行為選択肢のもと,「重しと は,紙を風で飛ばなくするものだ」という信念と,ペンに対する「重しとして使える」

という認知の影響を受けて「ペンを重しとして置く」という意図が形成される.そして,

その意図のもとで最終的な実行の判断を経て,出力行動として「ペンを重しとして置く」

という行為が引き起こされる.また,目標と信念は,認知の影響を受けて形成・更新さ れる構造を持っている.例えば,「風で紙が飛びそうだ」という認知の影響により「重 しを探す」という目標が形成されたり,「次回は重しを持参する」という新しい信念が 形成されたりする.このようにして,認知の影響を受けてもともと保持していた目標や 信念の書き換えが起こる.

(40)

3章 観念モデル

32

観念モデル

本節では,3.2 節の(3)観念モデルを構築の結果とモデルについて述べる.ここでは,

3.4節で定義した観念の全体像をもとに,観念のモデルを構築した.

構築した観念モデルをFigure3-3に示す.本モデルは,「主体の行為を導く心的状態を 表す包括的概念」である観念と,実際の行為の様相を記述する.観念の記述部分は,知 覚・認知システムおよび行為システムの2層構造で構成し,筆者らが構築した「知覚・

認知モデル」[湊 2018]と,筒井らによる「コンテキスト変容過程モデル」[筒井 2019]と いう2つのモデルの統合により構築した.

Figure 3-3観念モデル

観念モデルの記述は,以下の手順で行われる.

(1)主体による行為とその行為の様相の記述 (2)知覚・認知システムと行為システムの記述

目標 主体が達成したい目標・解決すべき課題

(予めの意図や願望)

機会探索 目標達成のために有用な機会の認知や 解決すべき課題 手段・方法 課題を解決する際の手段についての

知識や認知 行為候補 目標を達成する上で考えられる

行為の候補 フィルタ 非現実的な行為候補を棄却する基準

(予めの意図や信念)

行為選択肢 実際に取りうる行為の候補目標を達成する上で 熟慮の基準 行為選択肢の合理性を担保し選定する基準,

選択肢を支持する信念と願望 意図 主体が実践することを意思決定した行為

実行判断 意図を実践する上で必要な環境や 資源に対する知識と認知

行為 分析対象とする行為

心的状態 心的状態の記述観点 記述欄

知覚 ある対象の属性情報や直感内容感官によって受容した

認知 ある対象に対する

思惟・判断・解釈の結果

製品/サービス

製品/サービス 提供者

提供者 受給者

受給者 環境

環境

・・・・・

・・・・・

B

A 知覚・認知システム

行為システム

・・・・・

・・・・・

・・・・・

・・・・・

・・・・・

・・・・・

→A

・・・・・

・・・・・

→B

・・・・・

・・・・・

・・・・・

・・・・・

・・・・・

・・・・・

(41)

3章 観念モデル

33

この手順で記述することにより,ある行為を基点として,その行為を導く心的状態の記 述を可能とする.(2)知覚・認知システムと行為システムの記述 では,心的状態のそれ ぞれの各記述観点に対応するノードに内容を添えて記述する.なお,知覚・認知システ ムと行為システムの双方向的な関係は,記述内容に付す目印によりその対応を表現する.

以下では,「知覚・認知モデル」と「コンテキスト変容過程モデル」それぞれについ て詳細に述べる.

知覚・認知モデル

筆者らは,哲学分野で認識論の基本文献とされているKantの「純粋理性批判」[有福 2012]の内容を参照し,知覚・認知モデルを構築した(Figure3-4).本モデルは,観念のう ち,知覚・認知システム部分を可視化するモデルであり,行為システムにおける行為を 駆動する概念(BDI)の影響を受けて,主体が行った知覚・認知の結果を可視化する.

本研究において,知覚とは「感官によってある対象の情報を受容し,直感を供給するこ と」,認知とは「知覚した情報に対して意味づけを行うこと」であるとそれぞれ定義す る.知覚した対象に対し,主体が意味づけを行うことで,その対象への認知内容が形成 される.

Figure 3-4知覚・認知モデル

Environment

Provider

Product/Service

Receiver

Environment

Provider

Product/Service

Receiver

Perception

Cognition

Intentional action System(BDI)

:Belief, Desire, Intention which affects cognition

:Result of cognition to objects

Result of cognition to relationship between objects

:Relation which is a factor of cognition

:Attribute information or intuition content about objects

:Intuition content about relationship between objects

Figure 1-4 G-D ロジックと S-D ロジックの違い[筒井  2018]
Figure 2-2 Co-production to Co-creation matrix [Chathoth 2013]
Figure 2-4 Evolving structure of value creation classes [Kaihara 2018]
Figure 2-6 サービスシステムにおける価値共破壊プロセス[Lintula 2017]
+2

参照

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