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現代社会におけるレジャー動態 : レジャーの社会 構造的分析

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現代社会におけるレジャー動態 : レジャーの社会 構造的分析

その他のタイトル The main features and drifts of leisure in post‑industrial society : Socio‑structual analysis of leisure

著者 岡田 至雄

雑誌名 関西大学社会学部紀要

巻 12

号 2

ページ 1‑48

発行年 1981‑03‑31

URL http://hdl.handle.net/10112/00022862

(2)

ーレジャーの社会構造的分析—

至 雄

1.  レ ジ ャ ー に 対 す る 社 会 構 造 的 分 析 の 構 図 社会構造的分析の意義

産業社会への高度な科学技術の導入は, それだけではレジャーヘのインパクトとはなり得な い。科学技術の導入によって生産性が飛躍的に向上し,その結果,労働時間が短縮され,同時に賃 金水準も上昇したという現象を加味しても,それだけでレジャーを体系的に説明するにはまだ不 十分である。重要なことは,社会の基本的な諸制度(たとえば,家族制度,宗教制度,イデオロ ギー体制,政治・経済的制度など)が,科学技術の導入とその導入によって喚起された職業的・

労働的・産業的変動を媒介項としてレジャーを肯定・是認する方向にドリフトした点を見極める ことである。換言すれば,自由時間の増大と賃金水準の上昇をレジャー追求にうまく接合し,融 合する社会的要因を看過して,レジャーの本質的解明に迫ることはできない。レジャーは個人の 生のニードに単一的に符合するものではない。レジャーも,個人のニードも,一方では社会制度 によって標準化され,検閲され,また一方では社会的に操縦され,制度化されるという側面をも っている。その結果,レジャーは社会的レベルで構造化され,社会的イデオロギーに巻き込まれ ながら具現化する。このことは,レジャーの理論研究がなによりもまず社会構造的分析という視 点からアプローチされるべきことを示唆している。

表皮的に見れば,人は常に自己の生活スタイルを,エゴ的なニードや動機によって決める自由 をもっているかのように見える。しかし,現実には,このような自由を無限定,無条件に行使す

.  .  .  . 

ることは一般には許されない。この自由は,社会的にその限界と範域を線引きされた枠内での み,行使できるものである。現代の先進的資本主義諸国の顕著な特徴は,このような自由を大幅 に個人に付与することを社会的価値として強調する点にある。つまり,社会的な圧力で,その限 界や範域を狭小化するのではなくて,まさに個人責任的性格を与えつつむしろ社会的な干渉を極 小化するような方向で,自由を国民に与えているのである。にもかかわらず,個人の生活スクイ ルは,巨視的にみれば,それらのほとんどが物理的・社会的・制度的環境と無縁ではあり得ない

し,少なくともその基幹部分を社会制度や社会構造によって規制されていることは否めない。特 に私生活領域での選択の自由は,封建社会と比ぺれば爆発的に拡大したとはいえ,その濫用や誤 用は社会的に厳しくチェックされ,社会的に容認しうる範域にその行使は限定される。その意味 で,社会が容認した多種多様なメニューの中から,人は好きなものを自由に選べるというわけで ある。レジャーも例外ではない。レジャーは,そのレジャー主体(個人)のニードや動機がスト

‑ 1 ‑

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関 西 大 学 「 社 会 学 部 紀 要 」 第12巻 第2

レートに投影される前に,すでに社会的環境による諸種の制約や規制を多かれ少なかれ受けてい る。すなわち,家族,コミュニティ,全体社会など各社会単位レベルでの職業・産業構造,経済 状況,所得水準や自由時間量,技術水準•生産性,家事の合理化状況,教育制度,レジャー施設 の供給状況,資源といった社会・経済的環境要因をはじめ,諸種の文化的背景やイデオロギー的 基盤の相違がレジャー基盤を凝結し, レジャーの実践的閾値を規制し, レジャー動向を決定す る。その結果,具体的に,あるいは現象的に顕在化するレジャー・インベントリーは,社会的に 構造化・制度化・定式化されたものや,社会的に容認しうるという折紙つきのものに限られ,そ れらの中から,個人は自己のニードや動機が決め手になるような選択によって,特定のレジャー を選好するわけである。このことは,レジャーがその主体の所属する諸種のレベルの社会単位の 社会構造的要因によって強力な規制を受けながら,その規制区域内で個人のニードや動機に全面 的に依拠しつつ,純粋に個人的に決定できる生活スタイルであることを意味している。レジャー 問題にアプローチする場合,この事実を見逃してはならない。つまり,レジャー問題は動機分析 と社会構造的分析の二重枠組で分析されるべき性質のものではあるが,両者は等価同列にあるの ではなく,社会構造的分析という巨視的レベルからのアプローチが優先すべきことを,この事実 は示唆している。 ここでの重要なテーゼは,われわれがレジャー問題を解明しようとするなら ば,レジャー実態の基礎に,レジャー主体の個人的動機よりも重要な基底要因として社会構造的 要因が内蔵されているということである。(このテーゼには,個人的動機そのものが多かれ少な かれ社会構造的要因によって社会化されている点も含まれる。) このテーゼに比較的近い視座に 立脚して,レジャーの体系的な分析枠組を最初

に提示したのがキャプラン CM.Kaplan)であ る。かれは「レジャーは他の制度(institution) とは本質的には異なるが,研究方法という面か らみると同一の方法でアプローチできる」とい う立場から,同心方角分析モデル(Themodel  of the  string quartet)をレジャーの分析理 論として提示した1)。 その特色は,レジャーが 社会構成的レベル,文化的レベル,地域生態的 レベル,レジャーの構成要素レベルの4つのレ ベルからアプローチされるべきことを指摘した 点にあるが,具体的には,次項で取り扱うこと にする。

キャプラン・モデルの概要と検討

キャプランのレジャー分析の基本的図式は次

1 レジャーの分析枠組

A征服社会 B産業社会

Aエネルギー

システム'B社会体系

A個人一家族 II  B集団・副次

I文化

A条 件 B選択

D意 義 C機能

D国民社会 惟 界

' 

D象徴体系

b脱文明社会

C地域社会 リジョン

C価値体系 ''  C知識社会 M. Kaplan 1975. p. 33 

1) M. Kaplan, Leisure 1975 p. 30  

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のようなものである2)。(図 1)

この分析モデルは,レジャーがレベルIからレベルIVにいたる4層から成る同心方角の枠組で 解明されなくてはならないことを提唱している。

レベル Iはレジャーの正味に直結する基本的なレジャー構成要因に係わる分折レベル(leisure components level)で,次の4つの要素が析出される。

条件 (condition); 条件とはレジャーの選択過程,機能,意義づけなどで重要な役割を演じる条件とい う意味で,具体的には,性,年令,居住地,収入,健康状態,教育,職業・仕事の種類,自由時間 の量と構成などを指している。とりわけ自由時間の量と構成が重要である。キャプランが,この条 件という概念を,後に時間 (time)と同義に用いるのもその重要度から頷ける。

選択 (selection); 選択とはレジャーの選択に当って, 特定の活動が他の活動よりも優先的に選好され るプロセスを指し,例えば金銭的理由で銀劇よりもカード遊びを選ぶといった具合に,人は特にA 条件との絡みで状況判断の上,多くのレジャーメニューの中から特定のものを選択注文するという わけである。

機能 (function); レジャー活動はすべてレジャー主体(個人)のニードや目標との関係で選別される 活動であるから,明白な意図のもとになされる。機能とはこの本人の意図を指している。したがっ て,通常,個人の心理的動機や人生論•生活観に強く依存している。

意義 (meaning);意義とは, レジャー主体, 傍鍛者,一般社会にとってのレジャーの重要性,価値,

本質,有効性などを指し,例えば,人間的成長とか社会統制という側面からレジャーの是否を問う 場合,われわれはレジャーの意義に注目しているということになる。3)

レジャーは,これら4つの構成要素が複雑に絡み合いながら多様なパターンやスタイルを呈し つつ,ダイナミックにわれわれの生活局面に登場するものとみなされる。そして,これらの基幹 要素に直撃的インパクトを与え,レジャー様式の態様に変化をもたらす要因が,レベルII'

IVという外郭方角で示されている。 この外郭方角は,ーロで概括すれば社会構造的要因と称せ る。したがって,これらの社会構造的要因が変化すれば,レベル I の A•B·C·D のいづれか にあるいはすべてに影響し,その影響点を起点に,基幹要素間に変化が生じ,そのことがレジャ ーに直映するというプロセスが想定される。たとえば,社会構造的要因のいづれかのレベルで地 殻変動が生じると,それがA条件に波及し,その変化は忽ちB選択, C機能, D意義に対して漣 効果を及ぽし,レジャー・モーダルの形態の徴調整・修正・変革へと連動するというわけであ る。無論, A•B•C•D は相互に均等な掛り合いを持っているから,社会構造要因の影響が常 Aにインプットされるわけではない。たとえばBACDという累積的作用プロセスもあ るだろうし, D → C → A というラインも現われるだろう。重要なことはレベル II•ill•IV の社会 構造的要因は常にレベルI4基幹要素のゲートチェックを経てレジャー・ダイナミクスに反映 する点である。その意味で, レベル II•ill•IV はレジャーパターンに対して, レベルIを 通 じ て,直接的あるいは間接的に強大な影響力を及ぼすことになる。

2) ibid., p. 33  3) ibid., p. 35 

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関西大学『社会学部紀要』第12巻第2

レベルIIは生態学的な集住範域に関連した分析レベル (levelof clusters)で,コミュニケー ションの密度や隊形の大小により,次の4つのカテゴリーに類別される。

個人一家族 (personfamily); レジャーは家庭生活の基本的構成要素の一つである。一般にレジャー の空間単位という点からみると個人と家族は一体の存在とみなされ,両者を明白に分離することは 不可能に近い。したがって両者は同一体として扱われる。家族構成や家族の人間関係の相異が,家 庭内・外のレジャー・パターンに直結することは容易に推定できよう。

集団ー副次文化 (groupsubculture); 地域社会を基盤として派生する諸種の機能集団や仲間集団がレ ジャーに与えるインパクトは大きい。このような集団が内蔵している副次文化が,レジャー選択に 当って重要な役割を演じることは,たとえば若者のレジャー・モーダルに明示されている。

地域社会ーリジョン (communityregion); 地域社会やリジョン(メガロボリスなど)は,単なる地 理的区域ではなくて,社会心理的・文化的特性をもつユニークな地帯を意味する。そこでは,伝統

・慣習や文化を通じて,あるいは,それを根底にして提供されるレジャー施設やレジャー機会を通 じて,住民にレジャーの環礁が明示される。一般に, レジャー選択に当ってのメニューの貧弱さ を,地域計画や地域政策のレベルで処理しようと諸種の企画が立案されるように, レジャーと地城 社会との関係は非常に濃密である。

国民社会一世界 (nationalworld) ; マスメディアの発達と輸送機関の充実によって,レジャー空間は 拡大され,すべてのレジャーは国家レベルで展開されるばかりでなく,今や,マクルーハンのいう

「世界村 (worldvillage)」がレジャーの範域になろうとしている。最近では,広汎なレジャー 願望や趣向をベースにしたレジャー・スタイルが国民社会のレペルでブーム的に進行・形成される

と同時に.レジャーは世界的な速写時代に入っている。4)

生態学的・地理的な空間観念およびそれに随伴する構成メンバーの共属意識は,自由時間や休 日の増大,マスメディアによるコミュニケーション範域の質的・量的拡大,運輸網の充実とそれ に伴うサービスの徹底などの影響を受けて,形式的に旧来のイメージでは把握し切れなくなって いる。事実,現代社会のレジャーは,これら4つの生態学的カラゴリーのいづれかに一方的に偏 在するのではなく,感覚的にも社会心理的にも,あるいは文化的にもそれぞれに固有の特色を摘 出することは難かしい。現代のレジャー実態から言えることは,時空的にも,またレジャー主体 の動機や態度という点からも,レジャーはこれらの生態学的カテゴリーに満逼なく拡散し,偏在 し,特に手持ちの自由時間の量と構成によってレジャー空間の選別がなされている点である。そ の意味で,閉鎖的なコミュティを基盤にした前産業社会のレジャーパターンとは異質の生態学的 レジャー分布が特徴的である。ただし,レジャー・ニードは常に一定の空間で充足されるわけで あるから,生態学的セグメントがレジャーの分析次元として重要なレベルであることに異論はな かろう。

レベル皿は次の4つのシステムで構成される文化的レベル (culturallevel)からのアプロー チに係わるもので,特に人間の行為様式に直接かかわる重要な分析レベルである。

エネルギーシステム (energysystem) ; エネルギーシステムが,社会にとって有益な物資の生産やコ ントロールの基盤となる技術体系を決定する。エネルギー源とそれを利用するに当っての技術体系 の相違が,レジャー形態に大きなインパクトとなり,レジャーキャパシティを大幅に変える。エン 4) ibid.,  p.  37 

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ジンの発明を始め,電気,エレクトロニクスが開発されたことで,前産業時代に比べて生活の技術 的構造は大幅に変った。無論,レジャースクイルやレジャー活動の質的側面も影響を受け, 特にレ ジャー用機器やレジャー施設に対する科学技術のインパクトは強烈である。

社会体系 (socialsystem) ; 社会体系とは,ここでは狭義に使われており,フォーマル・インフォーマ ルな人間関係およびその構造という意味である。エネルギー・システムが自由時間の産出およびレ ジャー手段の創造に効力をもつのに対し,社会体系は産出された時間や造出された手段の意味やそ の利用という側面に決定的なインパクトを与える。つまり社会体系内の個人の地位や役割がレジャ ー選択に鋭敏に作用するし,また逆にレジャー主体が選好したレジャーパターンが,個人の地位を 規定する。したがって,社会体系が,レベルIのレジャーの構成要素に,重大な影響を及ぼすこと にもなる。

価値体系 (valuesystem) ; 善悪・美醜の判断をしたり,葛藤する諸価値間の優先序列を判定するプ ロセスで作用する尺度・基準が価値体系である。人生の目的や目標を個人レベルで,あるいは社会 レベルで問題にする際にも必らず現われるのが,この価値体系である。レジャーと価値体系とは常 に相互規制・相互影響しながら登場する。意識するにせよしないにせよ,レジャーに付与され内面 化された価値は,客観的・科学的な価値判断に依るものではなく,社会・文化的価値によって決定 される。したがってレジャーの構成要素,とりわけ,機能や意義,さらには最終的な選択プロセス に対して,このシステムは常に決定的な役割を果す。

象徴体系 (symbolicsystem) ; ここで使われている象徴体系という概念は,社会学で一般に使用され ている概念とは異なり,特定の社会的属性(たとえば,有閑階級,キリスト教信者,など)に固有 の象徴的行為の体系を意味する。ステイタス・シンボルなどはその典例である。すなわち,レジャ ーの実質的・内在的活動機能を問題にするのではなく,外部からレジャーに特定の観念や評価を付 加しあるいは押しつけ,シンボル的意義を加工するメカニズムが社会には存在する。この傾向は身 分社会で強力であるが,民主主義の台頭はこのようなメカニズムの足場を崩し,この体系を形骸化 させつつあるけれども,特定形式のレジャーは,いまだにこのシンボリズムを払拭し切れず, 9日態 然とした威信を保っている。5)

レ ベ ルmとして指摘された文化体系は,人間の行為体系の解明に直結するものであるだけに レジャー分析に当っても非常に重要かつ不可欠の分析レベルである。このような文化体系はレジ ャーの構成要素(レベルI)を外部から,あるいはレジャー主体の内面から規制し,コントロー ルしながら,レジャー実体の基盤を社会化し,レジャーの実効支配要因となっている。このこと は,レジャーの構成要素に対して,直撃効果を及ぽす要因の中で,視覚的にみれば最も強力な役 割を文化体系が演じることを示唆している。

レベル1Vは,全体社会の社会秩序 (socialorders)の タ イ プ を 歴 史 的 に 追 跡 す る 中 で , 社 会 構成体の変動のプロセスを明らかにし,それに基づいて社会構成体を4つのタイプに類別し,そ れ ぞ れ の タ イ プ の 特 徴 と レ ジ ャ ー と の 関 係 を マ ク ロ に 分 析 す る こ と を 意 図 し て い る (levelof  constructs or level  of social  orders)。ここで分類された社会構成体の類型は,社会学的に みれば,あまり馴染みのない新造語で編成されている。

征服社会 (conquestsociety or conquest order) ; 征服社会は (1)自然の征服が重要な関心事であっ た原始社会と (2)人間による人間の征服が社会秩序の枢軸であった封建社会から成っている。征服 5) ibid.,  p.  39 

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的原始社会は自然を対象にして主たる生産活動が肉体力で営まれ,自然との関係から派生する信仰 的・宗教的キャパシティ,あるいは肉体的な力量が社会秩序の源泉であるような社会構成であるの に対し,征服的封建社会は人為的に制度化された権力構造や社会的階級が厳格に維持されつつ,生 産過程のエネルギー源が筋力であるような社会構成を指称している。

産業社会 (kilowattsociety or kilowatt order) ; 原語を直訳すれば「キロワット社会」となる。キ ロワット社会とは,人間の肉体的エネルギーに依存していた従来の生産過程が,動力源とりわけ電 力に代置され,発電機,制御装置,コンピューターなどによって支配される,いわゆる機械力社会 を指称する名称で,一般に産業社会と呼ばれている概念に等しい。要するに,社会的•生産的・技 術的プロセスが機械化され,機械による秩序原理が重視される社会を指している。

知識社会 (cognosociety or cogno order) ; 知識社会とは,産業社会ー特に技術革新ーが進展するプ ロセスで,人間的条件が無視・阻害される状況が現われ,これを克服するために社会秩序の再編を 余儀なくされる段階で出現する過渡的社会構成体を指している。すなわち,人間的・審美的生活を 求めて膨大な知識を獲得し,同時に現状に対して多くの疑問が投げかけられ,産業社会の社会秩序 に対する吟味や再評価が行なわる時期に到達している社会をキャプランは知識社会と名付けたので ある。

脱文明社会 (cultivatedsociety or cultivated order) ; (原語を直訳すれば「洗練された社会」とい うことになるが, キャプランは, これは脱文明社会 (postcivilization)あるいは脱工業化社会 (postindustrial  order)にほぼ等しいと注釈しているので,ここでは脱文明社会と訳しておく。)

脱文明社会とは,工業化の発展にともなって波及的に生じる社会秩序の混迷が,体系的に是正・修 復された後,人間性の完全な実現に向けて社会的秩序が再構成され,パターン化された社会を意味 している。したがって,この脱文明社会は人間性の完全なる調和を特色とする一つのユートピアに 近い平等社会として想定されている。6)

全体社会の構成原理が,レジャー問題の本質的特徴を巨視的に考究する際に,決定的なポイン トになることはレジャー実態の歴史的経緯の中ですでに立証済である。社会構成・社会秩序の相 違がレジャーに対してどれほど強大なインパクトを果しているかは,この半世紀を顧みても明白 である。ところで,キャプランの主張で問題となるのは,かれの社会構成の類型概念の妥当性であ ろう。社会学史の中で,多くの研究者によって社会変動のプロセスについての類型概念が提起さ れ,社会構成についての諸種の類型が常識化している。たとえば,マ)レクスは生産様式を規準に して,原始共産制→奴隷制→封建制→資本主義社会→社会主義社会という 5段階の継起的社会発 展段階論を展開したし,コントは知識の発展段階を規準にして,軍国主義的社会(神学的知識)

→法律主義的社会(形而上学的知識)→産業主義的社会(実証科学的知識)という 3段階の社会発 展の構図を提示した。さらに現在非常に一般的でしかも広範に普及している社会学的概念として テンニースのゲマインシャフト→ゲゼルシャフトがある。これらに比べて,キャプランのモデル は,特殊用語という点ではユニークではあるが,その構図という面からみれば斬新さはない。特に かれ自身が, conquestsocietyGemeinschaftを,また kilowattsocietyGesellschaft をほぼ同一の概念として用いているように叫 用 語 法 と い う 点 で も 明 晰 さ を 欠 い て い る 。 む し

6) ibid.,  pp. 40 44  7) ibid.,  p.  42 

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conquestsocietyはマルクスのいう原始共産制,奴隷制,封建制を一括した概念に近く,

kilowatt societyは現代先進国にみられ, しかも一般に流用されている工業化社会, あるいは 産業社会に匹敵する概念である。また, cognosocietyは,同心方角モデルの原図ではCカテゴ リーとして指定されてはいるが,現実の各レベル間の相互関係をかれが吟味する際には,消失し ている。つまり, kilowattsocietyの発展プロセスで登場する過渡的形態であると性格づけら れてはいるが,現実には産業社会の一断面を強調した命名モデルで,工業化社会を,情報社会,

知識社会と呼ぶのに酷似している。その意味では,工業化社会を記述する際の一つの説明概念に 他ならず,他三者とは質的に異なるカテゴリーである。さらに, cultivated societyは未来社 会の予測モデルであり,かれ自身が,脱工業化社会 (postindustrialsociety)と同義に扱って いるように,脱工業化社会はキャプラン流に予測すれば, cultivatedsocietyになるというわ けであるが,これは予想の問題であって,科学的吟味には馴染まない。

キャプランの「同心方角分析モデル」の概要について簡単に紹介してきたが,レジャーの分析 枠組として評価する時,その体系性及び構図の有効性という点で他に類をみない。すでに留意事 項として若干の問題点は指摘してきたが,かれ自身,この基本的構図を具体的な現実分析の段階 で部分的に修正しているので,この点について補足すると, (1)レベルIA条件をこれに含まれ る諸要素の中でのウェイトの大きさを加味してA時間 (time)に変更し, (2)レベル1Vは大幅に 修正し, C知識社会を抹消し, A征服的原始社会 (conquestprimitive society)  B征服的封建 社会 (conquestfeudal society)  C産業社会 (kilowattsociety)  D脱文明社会 (cultivated society)と変更している。その上で,レベル I4要素間の相互関係についての12命題,レベ I4要素とレベルII, Ill,  IVの各4要素との相互関係についての48命題を具体的に提起して いる8)。特に後者の48命題を通じて,レジャー構成に対して社会構造的要因が重要なインパクト を与え,その影響力は強大であることを加えてレジャーの説明理論にとって社会構造的分析が 不可欠であることを明示している。

レジャーがすべての人間の重要な生活スクイルとして社会的に容認されるようになるまでには 多くの年月を必要とした。 このことだけでも, 社会構造的要因の重要性が立証される。 とりわ け,現代社会のレジャーは,連続的な経済成長と産業の合理化に加えて,大衆デモクラシーの発 展を弾機にして推進された経済的・社会的環境の人間化や諸制度の民主化と密接な係わりを保ち つつ展開されてきた。その意味で,現代社会におけるレジャー動態を吟味するに当って,全体社 会の社会構造や文化体系の動向を抑えることが必須であり,不可欠となる。したがって,まず現 代社会の構造的特色をわが国の資料をベースにして実証的に吟味することから始めよう。

8) ibid., chap. 3 pp. 52 85 

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2.  脱 工 業 化 社 会 へ の ド リ フ ト と そ の 実 態 ーわが国における脱工業化への歩みー 産業・経済構造の変化

経済企画庁は「我が国経済は昭和35年頃から40年代前半まで,幾つかの不況を克服しながらも 高度経済成長を続けてきた。しかし昭和48 (1973 10月のいわゆる オイルショック を契 機として,国際的な資源の制約やその他の経済社会環境の変化等に対応して安定成長経済へと転 換しつつあり」,9)この移行のプロセスで「高度成長時代の物中心の行動・意識から,家族や心の 問題をも含めてこれからの生活の在り方を考え直す方向」10)が芽生え,「物質本位,効率本位の生 活から 精神的豊かさ や 心のゆとり"を指向する生活が形成されつつある」 11) 1973年の オイルショックを起点とする安定成長経済の幕開けにともなって国民生活に急激な変化が生起し ていることを指摘している。確かに,オイルショックを契機に,国民生活は,質的変化に向けて の地殻変動を記録することになるが,その兆しは1960年代の後期にすでにかなり明白に現われて いた。

1958年,岸内閣は新長期経済計画(昭33年度より 5カ年計画)を極大成長,生活水準の向上,

完全雇用の三大目的の実現に向けて策定し,実質上の高度成長経済へのスタートを切った。そし 2年後の19601227日池田内閣は岸内閣の基本戦略を継承しつつも,新しく「国民所得倍増 計画」(昭和36年より10カ年計画)と銘打って,国民生活の向上に向けての画期的経済政策を推 進していった。この効果は経済的側面に競面に現われた。

1 主要経済指標の推移(その1)12)

1955  1960  1965  1970  1975  1978 

実質GNP(指数 1955年 =100)  100. 0  159. 2  252. 2  437. 2  566. 1  670. 4  1人当り国民所得 (万円) 8. 0  13. 8  26. 1  55. 3  114. 8  143. 6  実質賃金指数 (製造業) 100.0  160.1  223.5  419.1  546.4  696.2 

1960年代は,岩戸景気→オリンピック景気→イザナギ景気と連続的に1968年頃まで好景気に恵 まれ, 1968年度の国民総生産(名目)は約53.3兆円に達し(世界第2位のGNP水準), 名実共 に世界経済の中で確固とした地位を獲得し,いわゆる「豊かさへの挑戦」に始動する基盤が築か れた。 GNP19601970で約2.75倍という驚異的伸び率を示し,それに対して, 1人当りの国

9)経企庁国民生活政策課編「これからの生活と自由時間」 1977p.  10)同害p.11 

11)同書p.12 

12)資料:国民生活研究所編「国民生活統計年報」,経済企画庁調査局編「経済要覧」,経済企画庁編「国民 生活白書」,労働省編「労働白書」をベースにして表1 4は作成した。

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民所得も19601970の10年間に約4倍に急増した。つまり国民の所得水準は池田内閣の予定年数 を大幅に縮小する急騰振りを示し,1960年から1975年にいたる15年間に5年毎に倍増を繰り返す,

いわば等比級数的増大をしたことになる。実質賃金をみても19601970の10年間に約2.6倍に急 上昇している。その間, 1960年に一世帯当りの年間平均実収入が約50万円であったものが, 1968 年には105万円強となり初めて100万円の大台に達する。実質GNPと実質賃金とがほぼ正比例し てレベルアップしたのに対し, 1人当りの国民所得の伸びはそれよりも急勾配で上昇して行った のである。(表 1)

このような経済の高度成長と工業化の発展過程で,産業構造や労働の生産性や労働条件にも大 きな変化が現われてくる。

2主要経済指標の推移(その2)12)

1955  1960  1965  1970  1975  1978 

産業構造(就業者比率) 第1次産業従事者 41. 0  32.7  24.7  17.4  12.8  11. 7  第2 II  23.5  29.1  32.3  35.2  35.2  34.4  第3 II  35.5  38.2  43.0  47.4  51. 9  53.8  労働生産性(製造業)指数 1955=100 100  160.1  223.5  419.1  546.4  696.2  月間実労働時間(単位:時間) 194.8  202.7  192.9  186.6  172.0  175.2  月 間 出 勤 日 数 ( 単 位 : 日 ) 23.8  24.1  23.6  22.9  21. 7  21. 9  1955年の時点で就業者比率が4割強で他を凌駕していた第一次産業就業者は, 1965年に到って 約25彩に減少し,第二次産業就業者,第三次産業就業者の両者に追い抜かれ, 1970年は遂にその 就業者比率は20彩を割る。つまり, 1960年以降第1次産業就業者比率は続減傾向をたどり,それ と反比例するかのように第3次産業の就業者比率は続騰するという,いわゆる産業構造の変貌が 歴然とし,高度工業化,あるいは脱工業化の傾向が明白になってくる。また技術革新や諸種の産 業合理化運動の効果が産業の内部構造にも現われてくる。

1960年頃から漸く本格化してくるコンビュークー利用に依存する産業合理化は, 1963年に流行 をみた情報産業論にその方向性と指針が暗示されており,この線に沿って, 1964年わが国のコン ピューター利用は1,400台にも達し,僅か5年間で30倍近い増大をみる。そして, コンビュータ ー利用への傾斜は, 1967年代の情報革命論の活発化に連動しつつ,諸種の情報産業の台頭につな がり,一気に情報化社会への突進力を強めていった。コンビュークーに代表される諸種の技術革 新は,経済力の集中,規模の大型化,工業への集中,資本の集中,企業間競争の激化といった産 業優先の方向性を保持しつつ,一方では労働の生産性を向上させ,他方では労働条件の改善をも たらし,労働環境を好転させた。労働生産性は(製造業の場合) 1955年を基準にしてみると, 19 65年には約2 1970年には約4 1978年には約7倍となり,特に196519705年間の伸び は驚異的で 1.9倍近い激増を示した。この時期の労働の生産性(製造業の場合)がいかに驚異的

12)資料:同書

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(11)

関西大学「社会学部紀要』第12巻第2

であったかは,他の先進国の状況を見ればよくわかる。このような生産性の向上に符合して,月 間実労働時間や月間出勤日数も1960年をヒ°ークに経年的に低減傾向を辿り,他方では1965年より 週休2日制の導入が始まる。週休2日制はその後修正指数曲線を辿りながら普及し, 1973年その 普及率は適用労働者を基準にした場合50%を超えるにいたった。これに加えて, 1970年代の後半 に入ると大企業を中心にして夏期休暇などの長期休暇制度が採用され始め,労働時間に対する施 策は飛躍的に改善されていく(表2)

このような諸種の変化に呼応して消費生活のパターンにも新しい傾向が芽生える。

3 国民生活指標の推移13)

1955  1960  1965  1970  1975  1978  消費水準の推移 (1955=100とする指数) 100  123.0  160.0  210.9  252.6  264.5  家計支出(構成比) エンゲル係数 44.5  38.8  36.3  32.5  30.0  30.2  雑費支出量 32.2  34.4  37.4  42.1  45.9  46.7  家計消費支出(都市全世帯:単位:万円) 2.3  3.1  5.2  8.3  16.0  20.5  生活時間(週当り構成比) 生活必需時間 39.8  38.9  40.9  40.7 

拘 束 時 間 38.5  36.7  35.0  32.9  自 由 時 間 21. 7  24.4  24.1  26.5 

すでに1959年度の経済白書は「消費革命」を確認しているが,個人消費が活発化するのに極め て強力な触媒となった割賦販売法の公布 (1961年)を契機にして消費力は急騰し,消費生活の量 的レベルアップが進行する。まず消費水準は19551970でほぽ,倍増する。そして,1965年には家 計支出の中で,エンゲル係数が雑費(教養娯楽費,交際費などが主軸で,この中には耐久消費財 支出は含まれていない)支出比率を下回り,形式的には消費生活のレベルアップ現象が顕著にな る。世帯当りの家計消費支出も 19601970で約2.7倍となり消費力も強化された(表3)1960 年代は白黒テレビ,電気洗濯機,電気冷蔵庫が生活必需品化した時期であり,その普及率はいづ れも 9割に達し,(白黒テレビ90.Z;lる,電気冷蔵庫89.1%,電気洗濯機91.4%, 19702月現在)

特に東京オリンピック (1964年)から日本万国博 (1970年)までの間に,新3 Cブーム (car, color TVセット, cooler)を始め多くの家庭電化製品,耐久消費財,ィンスタント食品が旺盛 な大衆の消費意欲と相侯って,幅広く普及し,いわゆる大型消費や大衆消費社会の素地が築かれ て行った。そして,同時に大衆の消費生活は多様化と平準化の様相を呈してきた。消費生活の平 準化は,一方で実収入の階層格差の縮小,また他方で諸種の割賦やローンの制度の普及を媒介要 因としつつ促進されていくが,実収入の格差縮小は,例えば年間収入 5分位階級別家計収入の推 移に明示されている。その実態によれば, 1960年を基準にして1970年の収入の伸びをみると,実 収入平均は約2.75倍と大幅に上昇し,とりわけ下層(第 1階級)では約4倍,上層 (V階級)では 2倍強となり,伸び率の下高上低現象が著るしい。このことを視角を変えてみると, 1960年に

13)資料:同書

表 4 年間収入 5 分位階級別家計収入の推移(勤労者世帯,年平均 1 カ月当り:円) 1 4 )  
表 1 生活意識についての特徴(その 2) ⑥  充実感を感じる生活内容(%) ⑦  あなたの生きがい(彩) 家 族 団 ら ん 4 4 . 5  仕事に打ち込む 3 4
図 3 脱工業化社会への移行に伴う社会的様式の強調点の転換 I  工業化社会の強調点 I  脱工業化社会の強調点 文 化 的 価 値 疇 主 義 自己実現 自己統制 自己表現 自主独立 相互依存 忍 苦 力 歓 喜 力 組 織 的 原 理 機械論的形式 有機的形式 競争的関係 協力的関係 分離•区別された目標 連結された目標 完全に私有物とみなされる個人の資力 社会的資源ともみなされる個人の資力 社会生態学的戦略 危機に敏感(対処) 危機を予期 特定の処置 包括的な処置 同意を要求 参加を要求 短期的企画視
表 1 2 仕事と余暇についての考え方 仕 事 一 余 暇 観 ( % ) 仕事一本に打ち込んでおり余暇のことは考えていない 仕事中は人一倍仕事に打ち込み仕事を終ると人一倍余暇を活用する 仕事は人並みにやり,仕事が終るとゆっくり余暇を楽しむ 仕事も能率よくやるが,余暇を楽しむことをより重くみている I  1 9 6 6 13 24 44 13  1 9 7 2  1 9 7 7 10  8 26 27 49 52 10 10  余暇開発センター「余暇ハンドブック」 1 9 7 7 年版より 1 9 6 6

参照

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