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Analytical Study on the Electromagnetic Wave Scattering by Finite Sinusoidal Gratings 永沢 通
論文の内容の要旨及び論文審査の結果の要旨
電磁波、弾性波、音波など、波動の散乱・回折問題に関する理論解析は、これまで数多く の研究者により、種々の物体について、波動論の立場から行われてきた。波動方程式で記述 される境界値問題は、一般にGreenの公式を用いて積分方程式に帰着されるため、積分方程 式論が散乱・回折理論の発展に果たした役割は極めて大きい。WienerとHopf は1931年、
ある種の特異積分方程式が複素 Fourier 変換と関数論の応用によって厳密に解きうること を示した。この積分方程式、及び彼らの確立した解法理論は、それぞれWiener-Hopf型積分 方程式、Wiener-Hopf法と呼ばれ、散乱・回折理論の進歩に重要な寄与を与えた。Wiener-Hopf 法は、Copson とSchwingerによって初めて波動散乱問題に応用され、両者は全く独立に、
有名な「Sommerfeldの半平面問題」をWiener-Hopf法によって解析し、Sommerfeldが得た 厳密解と同一の結果を得た。その後、数多くの研究者が、規範形状をもつ2次元・3次元物 体による波動散乱問題をWiener-Hopf法により解析し、散乱・回折理論は輝かしい進歩を遂 げた。Wiener-Hopf法は、波動散乱問題に対する有力な厳密解法として知られており、現在 でも多くの論文が発表され、Wiener-Hopf法に基づく解法理論は発展を続けている。
本研究では、Wiener-Hopf法が適用可能な散乱・回折問題のクラスを拡張することを目的 としており、工学的応用の観点から重要となる有限幅正弦波状格子を取り上げ、Wiener-Hopf 法を応用して平面電磁波の散乱問題を解析している。特に、著者は本研究において、非平面 境界をもつ物体による波動散乱問題を Wiener-Hopf 法により解析するための新しい解法理 論を確立している。
第1章は序論であり、波動散乱・回折問題におけるWiener-Hopf法の重要性、本研究の意 義、本論文の構成について述べている。
第2章では、有限幅正弦波状格子による平面電磁波の回折問題を、E波入射の場合につい
て、Wiener-Hopf法を用いて解析している。光・マイクロ波工学においては、格子からなる
共振器、フィルタ、結合器やレフレクタ・アンテナなど、周期構造をもつ多くのデバイスが 設計され、実用化がなされている。それゆえ、周期構造物による電磁波の散乱問題の解析は、
電磁界理論において基本的かつ重要な課題の一つである。この章で取り上げている格子の表 面は正弦状の周期的変調(コルゲーション)を受けているため、Wiener-Hopf法を直接適用 するのは困難である。そこで、コルゲーションの振幅が波長に比べて小さいものと仮定し、
格子表面上で電磁界が満足する境界条件(完全導体条件)をTaylor展開することによって、
与えられた問題を、特殊なインピーダンス境界条件をもつ有限幅平板(ストリップ)による 回折問題に置き換えている。次いで、摂動法を適用し、未知の散乱界を0次項、1次項から なる摂動級数に展開した後に散乱界のFourier変換を導入し、インピーダンス境界条件(近 似境界条件)を適用して、問題を0次、1次のWiener-Hopf方程式として定式化している。
Wiener-Hopf方程式に現れる核関数を積形式に分解し、次いで和形式の分解操作を施すこと
によって、厳密解を得ている。しかし、この解には未知関数を被積分項に持つ無限積分が含 まれているため、形式解に過ぎない。著者は、ストリップの幅が波長に比べて大きいという 条件下で無限積分に漸近展開を施し、Wiener-Hopf方程式に対する数値計算可能な高周波漸 近解を導出している。得られた結果にFourier逆変換を施すことにより、実空間における散 乱界の漸近表現を導出している。以上の解析結果に基づいて散乱遠方界に関する数値計算を
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行い、格子表面のコルゲーションが遠方界に与える効果について、詳細な検討を行っている。
自由空間中に無限周期構造が存在する場合、波動は一般にFloquetモードによる無限級数に 展開できる。数値計算結果によると、散乱遠方界は反射領域において、Floquetモードの0 次、+1次、及び-1次項の効果を明確に示している。これは、格子表面がもつ周期構造に よるものである。この章で得られた結果は、コルゲーションの振幅が波長に比べて小さい場 合に対し、有効である。
第3章では、第2章で取り上げた形状と同一の格子による平面電磁波の回折問題を、H波 入射の場合に関し、摂動法とWiener-Hopf法を併用した混合解法により解析している。第2 章と同様、格子表面上の完全導体条件にTaylor展開を施してインピーダンス境界条件(近 似境界条件)を導出し、これに基づいてインピーダンスストリップによる平面H波の回折問 題を、Wiener-Hopf法により解析している。第2章と同様、問題を0次と1次のWiener-Hopf 方程式として定式化し、これに積形式・和形式の分解操作を施すことによって、厳密解及び 高周波漸近解を得ている。これらの結果に基づいて散乱遠方界に関する数値計算を行い、格 子の散乱特性を詳細に考察している。また、第2章におけるE波の解析結果と比較すること により、偏波の違いが散乱特性に与える影響に関し、詳細な考察を与えている。
第4章では、第2章、第3章の問題を一般化し、同一の周期を持つ2枚の有限幅正弦波状 格子が平行に置かれた形状(正弦状コルゲーションを持つ有限幅平行平板導波管)を取り上 げ、平面E波の回折問題をWiener-Hopf法と摂動法を併用した手法により解析している。第 4章の解析は、本研究において最も重要な成果を与えるものである。この章で取り上げてい る形状は導波管領域を持つため、格子が1枚の場合(第2章、第3章)に比べ、必然的に解 法理論は複雑となる。著者は、第2章、第3章と同様、コルゲーションの振幅が波長に比べ て小さいものと仮定し、導波管表面上で電磁界が満足する完全導体条件をTaylor展開する ことによって、インピーダンス境界条件をもつ2枚のストリップによる回折問題に置き換え ている。次いで、摂動法を適用することにより、問題を0次、1次の連立Wiener-Hopf方程 式として定式化している。このWiener-Hopf方程式に積形式・和形式の分解操作を施すこと によって、厳密解を得ている。しかし、この解には未知関数を被積分項に持つ無限積分、及 び未知数を一般項に持つ無限級数が含まれているため、形式解に過ぎない。著者は、無限積 分については導波管の幅が波長に比べて大きいという条件下で高周波漸近展開を施し、無限 級数については端点条件を考慮して厳密な近似表現を導出し、これを用いて Wiener-Hopf 方程式に対する高精度の近似解を得ている。この結果にFourier逆変換を施し、散乱遠方界 の漸近表現を導出している。以上の解析結果に基づいて遠方界の数値計算を行い、2枚の有 限幅正弦波状格子の散乱特性に関し、詳細な考察を行っている。特に、この問題については 2枚の格子が導波管領域を形成しているため、導波管内部からの放射界が散乱遠方界に重要 な寄与を与えることが示されている。
第5章は結論であり、本研究において得られた成果の総括を行っている。
過去においてWiener-Hopf法を応用して解かれた散乱・回折問題の大半は平面境界に関す るものであり、非平面境界をもつ物体のWiener-Hopf解析に関する論文はほとんど存在しな い。その意味で、本研究で著者が確立した解法理論(摂動法とWiener-Hopf法を組み合わせ た混合解法)は、Wiener-Hopf法が適用可能な問題のクラスを拡張するものであり、高く評 価される。
以上の研究成果は電磁界理論、電波工学に関する研究分野に新しい見地から重要な寄与を 与えるものであり、工学上の貢献度は高いと言える。よって、著者は博士(工学)の学位を 授与される資格が十分にあるものと認める。