体言本位 の表 現 と用言本位 の表現
『や さ しい こ とばで 日本 国 憲 法 』 を言 語 資料 と して
大 島 中 正
キ ー ワ ー ド 動 詞 的表 現 と名 詞 的 表 現 、 和 語 と漢語 、疑 問 表 現 、 パ ラ フ レーズ、
日本 国憲 法
体言本位の表現と用言本位の表現
0.は じ め に
日本 語 は、 体言 本 位 の表 現 よ り も用 言 本 位 の表 現 を この む 言 語 で あ る と いわ れ る こ とが あ る。 た とえ ば 、 外 山 滋 比 古(1972)は 、 「この 事 実 の認 識 が 問 題 の 解 決 に貢 献 す る」 と 「これ が わ か れ ば問 題 はず っ と解 決 しや す くな る」 と を例 示 し て い る。 前 者 の よ うな表 現 を 、 こ の論 文 で は、 「体 言 本 位 の 表 現 」 とよ び 、 後 者 の よ う な表 現 を 「用言 本位 の表 現 」 とよぶ こ と にす る。 類 例 を も う1っ くわ え よ う。 作 田啓 一 ・多 田 道 太 郎(1975)は 、 「生 産 の 問 題 は け っ き ょ く消費 の 問 題 と 関 連 す る」 とい う体 言 本 位 の表 現 につ い て、 「これ は ど うみ て も欧 文脈 で あ る。
わ た し た ち の伝 統 的 な 言 語 感覚 に な じま な い。 そ れ は複 雑 な内 容 が 名 詞 中心 の 抽 象 的 な 文 章 に よ って 表 現 され て い るか らで あ る。 で は、 同 じ内 容 を 日本 語 風 に い い か え れ ば ど うな るか 」 と のべ て 、 「物 を っ く る と い う こ と は、 け っ き ょ く物 を っ か う と い う こ と にか か わ る」 とい う用言 本 位 の表 現 を提 示 して い る。
この よ うな、 表 現 の レベ ル か らみ た 日本 語 ら しさ の問 題 は、 次 の諸 文 献 で もと りあ げ られ て い る。
① 玉 村 文 郎(1975)「 和語 は造 語 力 が 弱 い か」 『新 ・日本 語 講 座1現 代 日本 二九 語 の単 語 と文 字 』 汐 文 社
② 柳 父 章(1977)「 動 詞 中 心 の 日本 文 へ の翻 訳 」 『翻 訳 の世 界 』2‑4バ ベ ル ・プ レス
③ 外 山滋 比 古(1981)「 名 詞 好 き」 『日本語 の素 顔 』 中公 新 書631
体言本位の表現と用言本位の表現三〇
④ 石 綿敏 雄(1990)「 名 詞 表 現 と動 詞 表 現 」 「対 照 言 語 学』 桜 楓 社
⑤ 玉 村 文郎(1998)「 対 照 研 究 と 日本 語 学 」 「新 しい 日本語 研 究 を学 ぶ 人 の た め に 』世 界思 想 社
文 献 ① は、 和 語 の造 語 力 に つ い て の 論 考 で あ る。 「和 語 の 弱 み 」 が4項 目 に 整 理 さ れ て い るが 、 そ の第3項 目 と して、 和 語 に抽 象 的 概 念 を あ らわ す単 語 が 少 な い こ とを 指 摘 して 、 「この 抽 象 的 な 語 彙 は名 詞 類 で す か ら、 名 詞 的 表 現(例 彼 女 の 不 在 が わ た しを悲 しま せ た。)を こ の む現 代 フ ラ ンス語 は 、 動 作 名 詞 を は じ め と して、 抽 象 的 な名 詞 が た いへ ん 多 い ので す 。 しか し、 動詞 的 表 現(例 彼 女 が い な くて わ た しは悲 しか った。)を と る こと に よ って、 抽 象 名 詞 が 少 な い た め に生 じて い るス キ マ を うず め る こ とが 可 能 なわ けで す 。事 実、 日本 語 は あ き らか に後 者 の表 現 を この む言 語 で す か ら、 西 洋 の諸 言 語 と同程 度 に 抽象 語 彙 が な い か ら とい って 、 た だ ち に 日本 語 の 欠点 と指 摘 す る の は正 し くあ り ませ ん 。」 と の べ て い る。 この、表 現 の レベ ルか らみ た、 日本語 ら しさ の問 題 は、 体 言 ・用 言 とい っ た、 単 語 の文 法 的 な性 質 の問 題 で も あ り、 和 語 ・漢語 とい った語 種 に か か わ る 問 題 で もあ る。
文 献 ② は、 ア メ リカ独 立 宣 言 の 書 き出 しの 一 節 を例 示 して、 そ の福 沢 諭 吉 に よ る訳 文 と柳 父 章 氏 の訳 文 とが 対 比 され て い る。 名詞 中心 の 直訳 調 で あ る柳 父 章 訳 よ りも、 動 詞 中 心 で 意 訳 した 福 沢 諭 吉 訳 の 方 が 、 た い て い の 日本 人 に は わ か りや す い 旨が のべ られて い る。
文 献 ③ は、 冒頭 で その 例 文 を 引用 した外 山滋 比 古(1972)を 発 展 させ た もの で、
語 種(漢 語 と大 和 こ とば)の こ とに も言 及 して い る。
文 献 ④ は、 英 語 や 中国 語 の 名 詞 的 表 現 の 実 例 を あ げ て、 日本 語 表 現 の具 体 的 で 用 言 的 な 正 確 を 指 摘 して い る。
文 献 ⑤ は、 文 献 ① と同 じ筆 者 に よ る もの で あ る。 夏 目漱 石 『三 四郎 』 に でて く る、"Pity'sakintolove."に 対 す る与 次 郎 訳 「可 哀 想 だ た 惚 れ たっ て事 よ 」 と
「あわ れ み は愛 情 と同 質 で あ る」 を例 示 して 、 与 次 郎 訳 にっ い て 「抽 象 名 詞 を そ の ま ま直 訳 す よ り は、 は るか に 分 か りや す い。 肌 で分 か る、 肚 に落 ち る妙 訳 と い
うべ きで あ ろ う」 と評 価 して い る。
以 上 、 先 行 文 献 にお け る例 示 ・言 及 を概 観 した が 、 いず れ も、 現 象 の 指 摘 に と
ど ま って い るの で はな いだ ろ うか。 体 言 本位 の表 現 と用 言 本 位 の表 現 と が ど の よ う に対 応 して い るの か は、 十 分 には わ か って い な い とい え よ う。
こ の論 文 で は、 実 例 の観 察 を お こな った 結 果、 漢語 を 中心 とす る体 言 本 位 の表 現 を和 語 を 中心 とす る用 言 本 位 の表 現 に パ ラ フ レー ズ した もの に は、 疑 問 表 現 (「疑 問 詞+〜 か」)が み いだ せ た と い う こ とを 中 心 に 報 告 す る。
1.言 語 資 料 に っ い て
この よ うな研 究 に は、同 じ事 柄 が 表現 さ れて い る複 数 の言 語 資料 が必 要 で あ る。
今 回 は、 日本 国 憲 法 の英 語 版 を、 「や さ しい 」 日本 語 で あ らた に翻 訳 した 文 献 を 言 語 資 料 とす る こ とに した。 『や さ しい こ とばで 日本 国 憲 法 』(池 田香 代 子 訳 ・ C.ダ グ ラ ス ・ラ ミス監 修 ・解説 、2002年 、 マ ガ ジ ンハ ウ ス)で あ る。
こ の文 献 は、 新 訳 条 文 が 英 文 憲 法 と対 照 で き るよ うに な って お り、 監 修 者 に よ る解 説 の あ とに付 録 と して 日本 国 憲 法 の 全 文 と英 文 憲法 とが か か げ られ て い る。
以 下 、 新 訳 条 文 を 「新 訳 」、 日本 国 憲 法 の 条 文 を 「正 文 」 とよ ぶ こ と にす る。 新 訳 条 文 は、 英 文 憲 法 の す べ て を翻 訳 した もの で は な い。 翻 訳 さ れ て い る の は、
「前 文」 と 「第1条 」 ・ 「第9条 」、 それ に 「第3章 」 ・ 「第9章 」 ・ 「第10章 」 で あ る。
この 章 の 冒 頭 で 「同 じ事 柄 」 と い っ た。 よ り正 確 に は 、 この よ う な研 究 に は
「類 義 文 」 を多 数 収 集 す る必 要 が あ る と表 現 しな けれ ば な らな い のか も しれ な い。
で は、 「類 義 文 」 と は何 で あ ろ うか。 宮 地 裕(1972)は 、 次 の よ うに概 念 規 定 を お こ な って い る。
体言本位の表現と用言本位の表現
「お な じ こと を言 う文 グル ープ と は、 同 一 の こ とが らを指 し、 か つ、 そ の こ と が らの成 立 要 因 の い くっ か を 、 表 現 と して 持 っ もの で あ る。」(中 略)や や か た く言 え ば、 「 『お な じ こ と を言 う』 文 と は、 文 と して 『同 一 指 示 対 象 (reference)』 と 『同量 要 因 表 現 』 とを 持 っ もの だ 」 と い うこ と に な る。(中 略)「 同 一 指 示対 象」 「同量 要 因 表 現 」 を持 っ と い う二 条 件 の も と に 「お な じ
こ と を言 う文 」 を、 文 に即 して 「類 義 文 」 と言 う こ と に しよ う。
=二
宮 地 裕 氏 の 「類 義 文 」 の 定 義 に み られ る 「同量 要 因 表 現 」 と い う こ と を考 慮 に い
体言本位の表現と用言本位の表現三二
れ る とな る と、 「正 文 」 と 「新 訳 」 とが 、 必 ず し も 「類 義 文 」 で あ る と は い え な くな る場 合 が あ る。 た とえ ば 、 「国 民 は、 法 律 の 定 め る と こ ろ に よ り、 納 税 の義 務 を 負 ふ 。」 と そ の新 訳 「人 び と に は、 法 律 に した が って 、 税 金 を払 う責 任 が あ りま す 。」 と は、 「類 義 文 」 で あ る と いえ る だ ろ う。 しか し、 「学 問 の 自 由 は これ を、 保 障 す る。」 と そ の新 訳 「な にを どの よ う に研 究 す るか は 、 自由 で す。」 は ど うで あ ろ うか。 す くな くと も、 正 文 中 の 「保 障 す る」 に対応 す る表現 が新 訳 中 に み い だ す こと が で き な い と い う こ とで 、 「同 量 要 因 表現 」 とい う、 「類 義 文 」 た る 要 件 を か く こ と に な る と い え る だ ろ う。 今 回 の用 例 調 査 で は、 「同 一 指 示 対 象 を 持 っ 」 と判 断 で きれ ば用例 と して収 集 す る こ とに した。理 想 のパ ラ フ レー ズ とは、
「類 義 文 」 を っ くる こ とで あ ろ うが 、 パ ラ フ レー ズ と い うい と な み は 、 必 ず し も
「類 義 文 」 を っ くる こ と を め ざ す もの で は な い の で は なか ろ うか。 表 現 を 、 あ る 聞 き手 や あ る 読 み 手 にわ か りや す くす るた め に 、 も との 表 現 よ り も、 「こ とが ら の成 立 要 因 」 が 増 減 す る こ と もあ り う るだ ろ う。
2.パ ラ フ レ ー ズ の 実 際
正 文 にお い て 、 漢語 の体 言 か らで き て い る句(「AのB」)が 、 新 訳 で は どの よ う にパ ラ フ レー ズ され て い る か。 実 例 の観 察 を お こ な い、 特 徴 的 な こ とを 記 述 し て い こ う。
今 回 の調 査 で も っと も特 徴 的 で あ っ た こ と は、 新 訳 中 の 用 例 に お い て 「疑 問詞 +〜 か」 と い う形 式 が み い だ さ れ た こ とで あ る。 この現 象 を 、 「漢 語 の体 言 か ら な る句 の疑 問表 現 へ のパ ラ フ レー実 」 と仮 称 す る。
以 下 に実 例 を 提 示 す るが 、 各 用例 文 の番 号 は、 日本 国 憲 法 の条(ま た は条 と項) を しあ す 。 ま た 、 「正 文 」 ・ 「新 訳 」 を区 別 す るた め に、 そ れ ぞ れ を 「正 」 ・
「新 」 と略 表 記 す る。
正 文 中 に漢語 の語 基 「自由」 が使 用 され て い る もの に、次 の よ う な もの が あ る。
それ らと そ の新 訳 とを 対 照 して み よ う。
(正19)思 想 及 び 良心 の 自由 は、 これ を侵 して は な らな い。
(新19)思 想 と良心 の 自由 を侵 して は な りま せん 。
(正21)集 会 、 結社 及 び言 論 、 出版 そ の他 一 切 の 表 現 の 自 由 は、 これ を 保 障 す る。
(新21)集 会 を ひ らい た り、 団体 を つ く った りす る の は 自 由で す 。 考 え を 述 べ 、 出 版 な ど の あ らゆ る方 法 で 発 表 す る の は、 自 由で す 。
(正20‑1)信 教 の 自由 は、 何 人 に 対 して も これ を保 障 す る。
(新20‑1)す べ て の 人 は、 な にを 信 仰 して も自 由 で す。
(正23)学 問 の 自 由 は、 こ れを 保 障 す る。
(新23)な に を ど の よ うに研 究 す るか は、 自由 で す。
体言本位の表現と用言本位の表現
「自由 」 と い う語 基 は、 「健 康 」 ・ 「幸 福 」 ・ 「危 険」 等 と同 様 に、 事 物 類 の語 基 で もあ り、 様 相 類 の語 基 で もあ る。 上 の用 例 の 「〜 の 自由 」の 「自由 」 は、 補語 とな り う る 「自 由」 で あ り、 述 語 成 分 「自 由で す 」 の 「自 由」 は様 相 類 の 「自由 」 で あ ろ う。(新21)は 、 そ れ ぞれ の セ ンテ ンス を 「自由 に」 を使 用 して、 「自 由 に、
集 会 を ひ らい た り、 団 体 を つ くっ た りす る こと が で きま す 。」 ・ 「自 由 に 、 考 え を 述 べ た り、 出 版 な どの あ らゆ る方 法 で発 表 を した りす る こ と が で き ま す 。」 な
ど とパ ラ フ レー ズす る こ と もで きよ う。
わず か の用 例 か らで も、 パ ラ フ レー ズ の方 法 が一 様 で な い こ とが し られ よ う。
(正23)か ら(新23)へ のパ ラ フ レ ーズ が 、 「漢 語 の体 言 か らな る句 の疑 問表 現 へ のパ ラ フ レー ズ」 の典 型 的 な例 で あ る。 も っ と も、 「自 由 で す」 は 、 漢 語 の様 相 類 の語 基 「自由」 を そ の構 成 要 素 とす る第 二形 容 詞 で あ る。 この用 例 か ら も、 用 言 的表 現 が っ ね に和 語 成 分 に よ る と い うわ けで は な い こ とが わ か る。
(新20‑1)の 「な に を信 仰 して も 自由 で す 」 を 「な に を信 仰 す る か は、 自 由 で す 」 とパ ラ フ レー ズ す る こ と も可 能 で あ ろ う。 他 の(19)(21)も 疑 問表 現 に パ ラ フ レー ズ しう る点 で は か わ りが な い と いえ よ う。
(新20‑1)の よ うな 逆 条 件 節 「疑 問 詞+〜 て も」 を ふ くむ セ ンテ ン ス は、
(正15‑4後 半)「 選 挙人 は、 そ の選択 に関 し公 的 に も私 的 に も責任 を問 はれ な い。」 を パ ラ フ レー ズ した(新15‑4後 半)「 だ れ に投 票 して も、 公 的 に も私 的 に も、
責 任 を 問 わ れ ま せ ん 。」 に もみ い だせ る。 この(新15‑4後 半)を 「だ れ に 投 票
三三
体言本位の表現と用言本位の表現
四
す るか は 自 由 で す。 公 的 に も私 的 に も責 任 を 問 わ れ ま せ ん 。」 とパ ラフ レー ズ す る こ と もで き る。
(正24‑2)に み え る 「住 居 の選 定 」 は、(新24‑2)「 ど こ に住 む か を え らぶ こ と」 とパ ラ フ レー ズ さ れ て お り、 こ こに も疑 問表 現 が 使 用 され て い る。 お な じ 第24条 第1項 の 「配 偶者 の 選 択 」 は、 「結 婚 相 手 を え らぶ こ と」 とパ ラフ レー ズ され て い るが 、 これ も 「だ れ と結 婚 す るか を き め る こ と」 等 とパ ラ フ レー ズ す る こ とが で きよ う。
「第9章 」 の 名称 は 「改 正 」 で あ る。 この部 分 を 「新 訳 」 で は 「憲 法 を 変 え る には」 とパ ラ フ レー ズ して い る。 漢語 の語 基 「改 正」 は、 事 物類 の語 基 で もあ り、
動 態 類 の 語 基 で も あ る。 日本 国憲 法 の この 箇 所 で は、 南 不 二 男(1993)の い う
「題 目文 」 に な って い る。 い ま、 この 題 目文 「改正 」 を 、 漢 語 サ 変 動 詞 「改 正 す る」 を 使 用 した述 語 文 に パ ラ フ レ ー ズ して み よ う。 た とえ ば 、 「この 憲 法 を 改正 す るに は(ど うす れ ばよ いか/ど ん な手 続 きを と らな けれ ばな らない か)」 とで もパ ラ フ レー ズす る こ とがで き るだ ろ う。 こ こ に も疑 問表 現 をみ い だ す ことが で き る。
た とえ ば 、 「学 習 者 」 ・ 「教 授 者 」 ・ 「教 授 内容 」 ・ 「教 授 方 法 」 と い った漢 語 の体 言 か らな る題 目文 が あ る とす る。 それ ぞ れ 「だ れ に お しえ るか」 ・ 「だ れ が お しえ る か」 ・ 「な に を お しえ るか 」 ・ 「ど うお しえ るか」 等 とい った疑 問表 現 にパ ラ フ レー ズ で き る だ ろ う。
つ ま り、 疑 問表 現 へ のパ ラ フ レー ズ は、 複 数 の 漢 語 の語 基 か らな る合 成 語 にっ い て も可 能 な場 合 が あ る の で あ る。
芳 賀 綏(1984)に は次 の よ うな事 例 が 紹 介 され て い る。 行 商 を やめ な い老 婆 に、
青 年 レポ ー ター が そ の理 由 を き こ う と して 、 「理 由 は何 で す か ア?」 と たず ね た が 、 老 婆 に は通 じなか っ た。 そば の 人 が 「ナ ス テや って る ん だ、 って 聞 いて るん だ」 と通 訳 して くれ て 、 や っ と通 じた とい う。 お な じ疑 問表 現 で も 「理 由 は なん で す か 」 は体 言 本 位 の表 現 で あ り、 「な ぜ 、 や っ て い る の です か」 は 用 言 本 位 の 表 現 で あ る。 芳 賀 氏 は、 っ ぎの よ うに の べ る。
か っ て 柳 田 国 男 先 生 は、"円 い こと ば"で 話 す 伝 統 的 勤 労 庶 民 の知 恵 の 深 さを 高 く評 価 し、"四 角 い こ と ば"を 使 う知 識 層 に く らべ て 、 信 頼 で き る、 た しか な 人 た ち だ と され た 。"円 い こ とば"は 勤 労 生 活 に深 く根 ざ した こ と ば、"四 角 い こ
とば"は 読 み 書 きか ら入 った知 識 の こと ば、 前 者 は身 にっ い た こ とば で 後 者 は頭 の て っぺ ん に乗 った だ けの こ とば 、 と考 え られ た の だ。
「な ぜ ○ ○ す るん だ 」 は"円 い こ とば"、 「OOす る理 由 は何 か 」 は"四 角 い こ とば"に 属 す る。
以 上 、 「漢 語 の 体 言 か らな る句 ま た は複 数 の 漢 語 の語 基 か らな る合成 語 の 疑 問 表 現 へ のパ ラ フ レー ズ」 とで も よべ る現 象 に つ い て の べ て き た。 以 下 に は、 今 回 の調 査 で え られ た用 例 の う ち、 今 後 、 よ りお お くの類 例 を観 察 して記 述 を こ こ ろ み る必 要 が あ る ので は な いか とお もわ れ る例 を列 挙 して お く。
体言本位の表現と用言本位の表現
(正 前 文)諸 国民 と の協 和 に よ る成 果(と 、 … … を 確保 し、)
(新 前 文)す べ て の 国 ぐに と平 和 に力 を あ わ せ 、 そ の 成 果 を(手 に入 れ よ う、)
(正97)人 類 の 多 年 に わ た る 自 由獲 得 の努 力 の 成 果 で あ って 、 (新97)人 類 が 自由 を も とあ、 長 い あ いだ た たか って え た成 果 で す。
(正 前 文)恒 久 の平 和 を祈 念 し、
(新 前 文)平 和 が い っ まで もっつ くこ と を強 く望 み ます 。
(正9)正 義 と秩 序 を 基 調 とす る国 際平 和 を
(新9)世 界 じ ゅうの 国 が 、 正 義 と秩 序 を も とに した、 平 和 な関 係 にな る こ とを 。
(正25)す べ て 国 民 は健 康 で 文 化 的 な最 低 限度 の生 活 を営 む権 利 を有 す る。
(新25)す くな くと も これ だ け は、 とい う レベ ル の、 健 康 で文 化 的 な生 活 を い と な む こと は、 す べ て の 人 の権 利 で す。
三五
(正96‑2)憲 法 改正 にっ いて 前 項 の 承認 を経 た と きは 、 (新96‑2)こ れ で い い と され た改 正 条 項 は 、
体言本位の表現と用言本位の表現
最 初 の2組 に お け る新 訳 は、 連 体 修 飾成 分 に コ ンデ ンス され た内 容 を、 用 言 本 位 の表 現 に ほ ぐそ うと した もの で あ り、次 の2組 の新 訳 は、 句(「 恒 久 の 平 和 」) や合 成 語(「 国 際 平 和 」)に コ ンデ ン ス され た 内容 を、 用 言 本 位 の表 現 に ほ ぐそ う と した もので あ る。 最 後 の2組 も、 新 訳 に お い て用 言 本 位 の表 現 にパ ラ フ レー ズ さ れ て い る点 で は他 の もの と同様 で あ る が、 引 用 節(「 す くな く と も これ だ け は (と い う)」 ・ 「これ で い い(と)」)が 使 用 さ れ て い る点 に注 目す べ きか とお もわ れ る。25条 の新 訳 中 の 引用 節 に は、 「(すくな く と も これ だ け は)必 要 だ/欠 か せ な い/ゆ ず れ な い」 と い っ た用 言 の 述語 成 分 を お ぎな い うるで あ ろ う。
3.お わ り に
単 語 の 文 法 的 な性 質 と単 語 の 文 体 的 な性 質 とが か らん だ問 題 を と り あ げ た。 体 言 か 用 言 か とい う も問 題 で もあ り、 漢語 か和 語 か とい う問題 で も あ る。 今 回 は、
体 言 本 位 の表 現 か ら用 言 本 位 の 表 現 へ のパ ラ フ レー ズ と い う観 点 か ら この 問 題 に 接 近 した 。
第2章 で 、 芳 賀 綏 氏 の こ とば を 引 用 した が、 鶴 見 俊 輔(1976)も 、 た とえ ば 、 次 の よ う に柳 田 国 男 の か ん が え に言 及 して い る。
柳 田 国 男 は、 明 治 の学術 語 づ く りが 主 と して 抽 象 名 詞 の 新 造 に専 念 した こ とに 不 満 を もち 、 日本 の常 民 の 日常 の経 験 か らは じめて 日常 の 言 葉 に す で に あ る造 語 法 を とお して 学 問 の言 葉 をっ くる道 をす す め た。 この 理 想 は、 柳 田 の 著 作 に あ らわ れ た か ぎ りで は、 形 容 詞 ・動 詞 に重 き をお いて学 問 を の べ る
とい う道 す じを と った 。
三六
漢語 を軸 と した 体言 本 位 の表 現 は、 簡 潔 で あ るが 、 わ か り に くい とい わ れ る こ とが お お い。 和 語 を軸 と した用 言 本 位 の表 現 は、 わ か りや す い とい わ れ るが 、冗 漫 で あ る との批 判 も生 じ る。 簡 潔 さ ・冗 漫 さ は と もか くと して 、 表現 の わ か りや す さ ・わ か りに くさ は、 な に ゆ え 生 じる の で あ ろ う か。 冒 頭 で言 及 し た柳 父 章
(1977)は 、 次 の よ うに の べ て い る。
しか し、 日本 文 の基 本 的 な構 造 は、 名 詞 中 心 の 形 に はな り切 れ な い。 翻 訳
日本 文 の形 成 は、 同時 に至 る所 に無 理 を と もな った 。 そ の 第一 は、 私 た ち の こと ば の構 成 の 運 動 の 自然 な 流 れ に逆 らうよ うな構 文 で あ る、 と私 は考 え る。
こ とば の構 成 の運 動 とは、 す なわ ち私 た ちの 頭 脳 の 働 きで あ る。 思 考 そ の も の で あ る。
た い へ ん お お きな 問 題 に ゆ き っ くよ うで は あ るが 、 この 論 文 で こ ころ み は じめ た よ うな、 実 例 を パ ラ フ レー ズ の型 と い う観 点 か ら分 類 し整 理 す る とい う仕 事 を っ み か さ ね て ゆ きた い とお も う。
体言本位の表現と用言本位の表現
(注)
(1)作 田 啓 一 ・多 田 道 太郎(1975)『 動 詞 人 間 学 』195頁 。 (2)玉 村 文 郎(1975)の142頁 〜143頁 か ら引 用 。 (3)玉 村 文 郎(1998)の22頁 か ら引用 。
(4)宮 地 裕(1979)『 新 版 文 論 』 の170頁 お よ び172頁 か ら引 用 。 (5)漢 語 の 語 基 にっ い て は 、 野 村雅 昭(2000)に よ る。
(6)芳 賀 綏(1984)の47頁 か ら引 用。
(7)鶴 見 俊 輔(1992)の216頁 〜217頁 か ら引用 。 (8)柳 父 章(1979)の45頁 か ら引 用。
【参考文献】
石 綿 敏 雄 ・高 田誠(1990)「 対 照 言 語 学 』 桜 楓 社
作 田 啓 一 ・多 田道 太 郎(1975)『 動 詞 人 間 学 』 講 談 社 現 代 新 書 講 談 社
玉 村 文 郎(1975)「 和 語 は造語 力 が 弱 い か」 『新 ・日本 語 講 座1現 代 日本 語 の 単 語 と文 字 』 汐 文 社
(1998)『 新 しい 日本 語 研 究 を学 ぶ 人 の た め に 』 世 界 思 想 社
鶴 見 俊 輔(1976)「 日本 語 と 日本 文 化 」 『岩 波講 座 日本 語1日 本 語 と国語 学 』 岩 波 書 店 (1992)『 鶴 見 俊 輔集3記 号 論 集 』 筑 摩 書 房
外 山滋 比 古(1972)「 日本 語 の論 理 」 『月 刊 言 語 』1‑2大 修 館 書 店
三七
体言本位の表現と用言本位の表現
(1973)『 日本 語 の論 理 』 中公 叢 書 中 央 公 論 社 (1981)『 日本 語 の素 顔 』 中公 新 書 中 央 公 論 社
野 村 雅 昭(2000)「 漢 語 」 『別 冊 国 文 学 現 代 日本 語 必 携 』53学 燈 社 芳 賀 綏(1979)「 日本 人 の表 現 心 理 』 中 公 叢 書 中 央 公 論 社
(1984)「 こと ば の ひ び き、語 感 の調 和 は くず れ る か」 『国 文 学 解 釈 と教 材 の研 究 』 29‑6学 燈 社
(1998)『 日本 語 の社 会心 理 』 人 間 の 科 学 社 南 不 二 男(1993)『 現 代 日本 語 文法 の輪 郭 』 大 修 館 書 店
宮 地 裕(1979)『 新 版 文 論 』 明治 書 院(宮 地 裕(1972)「 類 義 文 に つ い て」 『語 文 』30も 収 録 され て い る。)
柳 父 章(1979)「 比較 日本語 論 』 バ ベ ル ・プ レス(柳 父章(1977)「 動 詞 中心 の 日本 文 へ の翻 訳 」r翻 訳 の世 界 』2‑4も 収 録 され て い る。)
付 記 こ の論 文 は、 平 成14年 度 科 学 研 究 費 補 助 金 に よ る 基 盤 研 究(C)(2)(課 題 番 号:
13680362、 課 題:中 国語 ・朝 鮮 語 話 者 の 日本 語 漢 語 語 彙 の 学 習 を支 援 す る ため の 基 礎 的研 究 、 研 究 代 表 者:大 島中 正)の 成 果 の一 部 で あ る。
八