看護学生のヒヤリ・ハット体験の実態と 医療事故防止教育に対する意識
前 田 由 紀 子 * ・ 木 原 信 市 ・ 安 達 静 ・ 葛 原 綾 子 * *
A s t u d y o f r e a l i ザ a n dp r 句 v e n t i v ee d u c a t i o n o f m e d i c a l a c c i d e n t d u r i n g c l i n i c a l p r a c t i c e f o r n u r s i n g s t u d e n t s
Y u k i k o MAEDA , S h i n i c h i K 旧 館 A , S h i z u k a p . A ACHI a n d Ayako K U Z U H 銀 A
A b s t r a c t
Thep ほ p o s eo f 也 i ss t u d y w . ぉ ωcl 紅均 T t h e r e a l i t y o f m e d i c a l a c c i d e n t (MA) d u r i n g c l i n i c a l p r a c t i c e o f n u r s i n g s t u d e . n t
Ou t o f 90 s t u d e n 脂 , 66 ( 7 3 . 3 % ) e x p e r i e n c e d v a r i o u s k i n d s o f M A , and t h e r e w e r e t h e m o s t a c c i d e n t s r e l a t e d t o 仕 組 s p o r to f t h e p a t i e n t i n 也 . a t Al m o s t s t u d e n t s n o t i c e d M A by r e a c t i o n o f t h e p a t i e n t , and 54.8% o f them d i d n o t p r e s e n t e d t h e a c c i d e n t t o a 山首 v e r s i ザ t e a c h e ro r h o s p i t a l s t a f f . 83 ( 9 2 . 2 % ) s t u d e n t s l e a r n e d a b o u t M A a t a u n i v e r s i t y , b 凶 70%o f . t h e m d e f i c i e n c y i n q u a l i t y a n d t h e number o f t i m e s . f o r e d u c a t i o n a b o u t 九 a n di t was c l e a r t o e x p e c t a l e c t u r e w h i c h c o n s i s t e d o f manyMA.
はじめに
近年の医療の高度化により,他の医療職と同様に 看護師にもより高度な看護実践能力が求められるよ うになってきた.しかし, 1 9 9 9 年初頭から医療事故 が相次いで報道され, 2 0 0 2 年の看護白書
1)では,看 護職者(看護師・准看護師・助産師・保健師)が関 わっていた医療事故は 7 2 件と報告され,医療職者の 医療事故全体の 12.9% を占めるものであった.これ らの背景を受け,厚生労働省は 2002 年 4 月に医療安 全対策を医療政策の最重要課題として位置付け,医 療法施行規則を改正し,全国的レベノレで医療機関に おける安全管理体制の整備・強化を求めた.医療機 関では患者に安全な医療を提供するため事故防止対 策へのさまざまな取り組みが試行されているペ
一方,看護教育の観点から,文部科学省の「看護 学教育のあり方に関する検討会一大学における看護 実践能力の育成の充実に向けてJ ( 2 0 0 2 年) ,厚生労 働省の「看護基礎教育における技術教育のあり方に 関する検討会報告書J ( 2 0 0 2 年) ,同じく厚生労働省 の「新たな看護のあり方応関する検討会報告書 J
( 2 0 0 3 年)などの報告書が出された.これらは近年 の看護基礎教育が高度化する一方で、看護学生の基本
*熊本大学教育学部特別教科(看護)教員養成課程
**合志町役場
的な看護実践能力が不十分であるという批判に応え ようとするものでありへその内容は看護学生が看 護実践能力の質の高い看護を提供できることを目的 に臨地実習における技術教育の見直しを含め,新た な看護のあり方や看護基礎教育のあり方を問うもの となっている.しかし看護実践能力を求められる一 方で,臨地実習の場では,医療事故の頻発の影響の ためか,学生の実施できる診療上の補助は限定,縮 小されている
3)臨地実習では保健師助産師看護師 法上,無資格者である看護学生がさまざまな場面で 患者に関わることとなる.そうした中で看護の知 識・技術を修得している過程にある看護学生が,ヒ ヤリとしたりハッとする(ヒヤリ・ハット)場面を 体験することは,少なくないと考えられる.
教員の立場から臨地実習中の学生のヒヤリ・ハッ ト体験の分析やそれを踏まえた医療事故防止教育の 教授方法についての研究は報告されているが,医療 事故防止教育に対する学生自身の意識が明確になっ ているものはない.そこで本研究は,看護学生のヒ ヤリ・ハット体験の実態と学生からみた医療事故防 止教育に対する意識を明らかにし,医療事故防止教 育のあり方について考察することを目的とした.
研究方法 1 .調査期間
平成 1 4 年 1 0 月 1 4 日 " " ' 2 1 日 , 1 1 月 20 日 " " ' 2 6 日
ヴ
t
p同U2 . 調査対象
K 大学・短期大学部の臨地実習を経験している看 護学生 1 1 3 名.対象者には事前に研究の目的,任意 で あ る こ と な ど を 説 明 し 同 意 を 得 た . 回 収 率 は
8 . 1 4% ( 9 2 名) ,有効回答率は 7 9 . 6 % ( 9 0 名)で、あっ た.
3 . 調 査 方 法
研究者が作成した選択・自由記述式の質問紙を用 い,無記名質問紙法により留め置き法または集合調 査法で実施した.統計学的有意差はが検定で行い,
危険率 5% 以下を有意差があるとした.
4 . 調査内容
研究者で作成した以下の質問に対して,選択式お よび記述式で回答を得た.
( 1
} 学生のヒヤリ・ハット体験について
1 )体験回数, 2) 体験内容, 3) 気付いた きっかけ, 4) 原因, 5) 体験後の対応, 6) 体 験後の意識、行動の変化, 7 ) 体験後の具体的な
行動の変化
( 2 ) 学生の医療事故防止教育に対する意識について 1 )医療事故を起こす可能性, 2) 医療事故防 止教育について学んだ経験の有無, 3) 講義・指 導・助言の機会, 4 ) 教育の必要性に対する認識,
5) 教育の開始時期, 6) 講義・授業で希望する 内容
結 果
1 .看護学生のヒヤリ・ハット体験の実態
( 1 ) ヒヤリ・ハット体験の回数
ヒ ヤ リ ・ ハ ッ ト 体 験 を 有 す る 学 生 は 6 6 名
( 7 3 . 3 % ) , 体 験 の な い 学 生 は 2 4 名 ( 2 6 . 7 % ) で あ っ た . 体 験 数 が r 1 回 J の 学 生 が 2 6 名
( 3 9 .4%) ,次いで r2 回 J 、が 1 7 名 ( 2 5 . 7 % ) , r 3
回 J が 1 5 名 ( 2 2 . 7 % ) , r 4 回 J 4 名 ( 6 . 1 % ) , r 5
回以上 J 4 名 ( 6 . 1 % ) であった(図 1 ) .
6 . 1 % ( 4 名}
6 . 1
6)'( 4 名 3 9 . 4 % ( 2 6 名) ロ 1 回
・ 2 回
図 3 回 皿 4 回 図 5 回以上 2 2 . 7
略( 1 5 名)
2 5 . 7 桜 1 7 名〉
図 1 ヒヤリ・ハット体験の回数
( 2
) ヒヤリ・ハット体験の内容
ヒヤリ・ハット体験の内容は,患者の「移送」
に関連したものが 5 5 件 ( 4 4 . 0 % ) ,次いで「パイ タノレ測定・医療機器操作 J 2 3 件 ( 1 8 . 4 % ) , r 清
潔・排池ケア J1 8 件 ( 1 4 . 4 % ) , r 与薬・注射 Jll 件 ( 8 . 8 % ) , r 食 事 介 助 J 9 件 ( 7 . 2 % ) , r 関わ
り・説明に関すること J 7 件 ( 5 . 6 % ) であった (
図 2).
5 . 6 縦 7 件)
7 . 2 覧 , ( 9 件 1 . 6 % ( 2 件 4 4 .
凶( 5 5 件)
日移送 臼パイタル測定 図清潔ケア 図与薬・注射 図食事介助 回関わり
1 4 . 4 純 ( 1 皿その他
1 8 . 4 % ( 2 3 件)
図 2 ヒヤリ・ハット体験の内容
( 3
) ヒヤリ・ハット体験に気付いたきっかけ ヒヤリ・ハット体験に気付いたきっかけとして,
「愚者の反応 J が 4 2 件 ( 3 3 . 6 % ) , r スタッフの助 言 J 3 3 件 ( 2 6 . 4 % ) , r 学生間 J 1 9 件 ( 1 5 . 2 % ) ,
「指導者・教員の助言 J 1 3 件 ( 1 0 . 4 % ) であり,
「患者の反応 J が高率であるのに対し, r スタッ フの助言 J r 指導者・教員の助言 J が低い結果と なった(図 3) .
1 4 . 4 % ( 1 8 件) 3 3 . 6 施 ( 4 2 i ' 牛)
口患者の反応
・スタッフの助言 ロ学生
ロ教員の助言
も~ ロその他
1 0 . 特 ( 1 3 件 , )
1 5 . 2 , 覧 ( 1 9 件)
2 6 . 4 % < 3 3 件)
図 3 ヒヤリ・ハット体験に気付いたきっかけ
任 ) ヒヤリ・ハット体験の原因
「注意不足 J 5 4 件 ( 3 6 , ) % 4 . r 技術不足 J 3 3 件 ( 2 2 . 3 % ) , r 確 認 不 足 J 2 9 件(1 9 . 5 % ) , r 知識不 足 J 1 6 件 ( 1 0 . 8 % ) r 患 者 の 理 解 不 足 J 9 件
( 6 . 0 % ) , r 情報伝達不足J 4 件 ( 2 . 7 % ) で、あっ た.
( 5
) ヒヤリ・ハット体験後の対応
ヒヤリ・ハット体験後の対応について「報告は 行わず,自分の中での反省にとどまった J66 件 ( 5 2 . 8 % ) が最も多く,次いで「報告した後,話 し 合 い の 場 を も ち 原 因 分 析 を 行 っ た J が 3 3 件 ( 2 6 , ) % 4 . r 報 告 の み J 2 1 件 ( 1 6 , ) % 8 . r 何もし ないJ 5 件 ( 4 . 0 % ) の I } 慎であった(図 4) .体験 数と体験後の対応との聞に相関関係はみられな かったが,体験数が多い学生ほど「報告のみ」
や , r 報告後,話し合いの場をもち原因の分析を
o o
行った」など,教員と関わる機会が多かった(図 5 ) .
16.8%(21
件)
RU内4 nEu m (
eロ ロ
B、 . , , 件
、 ‘ , ,
時T
{
民叫(
町苅
n u
aa T
回自分で反省
・報告し原因分析 図報告のみ 凹何もしない
26.4覧(33
件)
図 4 ヒヤリ・ハット体験後の対応
5
回以よ
4回
3周 2 回 1 回
O首 20弧 40略 60% 80覧 100首
図 5 ヒヤリ・ハット体験回数と体験後の対応
( 6
) ヒヤリ・ハット体験後の意識・行動の変化 ヒヤリ・ハット体験後の医療事故・医療ミスに 対する意識や行動の変化については「非常にあっ た 」 が 1 7 名 ( 2 6 . 5 % , ) r あ っ た J が 4 2 名 ( 6 5 . 6 % ) , r あまりなかった J 2 名 ( 3 . 1 % ) , r な かった J 1 名(1. 5 % ) であった.ヒヤリ・ハッ
ト体験後の対応と意識行動の変化との関連を検討 したところ報告後,話し合いの場をもち原因 の分析を行った」学生は「報告をせず,自分の中 の反省にとどまった J 学生に比べ,有意に「意 識・行動の変化Jの程度が「非常にあったJ とい
う結果が得られた ( ρ < 0 . 0 5 ) 図 ( 6 ).
報告し原因分析
報告のみ -非常にあった
ロあった 自分で反省
ホp<O.05
図 6 体験後の対応と意識行動の変化 (
7
) ヒヤリ・ハット体験後の具体的な行動の変化 体験した学生に体験後の具体的な行動の変化の 内容を自由記述で記載してもらった.その結果,
3 2 名の学生から回答が得られ確認をするよう
‑59‑
になった Jが 1 7 名 ( 4 . 1 5 % ) ,次いで「注意する ようになった J 1 0 名 ( 2 , 4 ) % 4 . r 同じ間違いをし なくなった J 4 名 ( 9 . 8 % ) , r 技術の修得 J 2 名 ( 4 . 9 % ) ,その他に「スタッフの手本を見てから ケアを行うようになったJ 1 名 ( 2 .4%)などで あった.
2 . 医療事故防止教育に対する意識
( 1 ) 自分が医療事故・ミスを起こす可能性
「自分も医療事故・ミスを起こす可能性がある と思うか」という質問に対して, 4 1 名 ( 4 5 . 6 % ) の学生が「非常に思うj, 4 9 名 ( 5 4 .4%)が「思
う J と回答し, r 思わない J r どちらともいえな い」と回答したものはいなかった.ヒヤリ・ハッ
ト体験の有無との有意な関連'性はみられなかった.
ヒヤリ・ハット体験の有無に関わらず,学生全員 が自分にも医療事故・医療ミスを起こす可能性が あると危倶じていることが分かつた.
( 2 ) 医療事故について学んだ経験と講義・指導・
助言の機会
医療事故について学んだ経験が「ある j と回答 した学生は 8 3 名 ( 9 2 . 2 % ) , r ない」と回答したも のは 3 名 ( 3 . 3 % ) で、あった.しかし r 講義・指 導・助言の機会」について「十分である J と回答 したものは,わずか 1 名 0.2%) , r どちらかと
いえば十分である j が 2 3 名 ( 2 7 . 7 % ) で、あった.
一 方 も っ と 機 会 が 欲 し い J 4 6 名 ( 5 5 % ) . 4 ,
「不十分である J 1 3 名(1 5 . 7 % ) であり,全体の 7 割の学生が医療事故を学ぶ機会について不足し ていると認識していることが明らかになった.
( 3
) 医療事故防止教育の必要性
教育の必要性については「非常に必要」が 4 4 名 ( 4 . 8 9 % ) , r 必要Jが 4 5 名 ( 5 0 . 0 % ) であり, r ど ちらかといえば必要ない j と回答した 1 名以外す べての学生が必要性を感じていた.
任 ) 医療事故防止教育の開始時期
教 育 の 開 始 時 期 は 「 入 学 時 か ら 」 が 4 4 名 ( 4 8 . 9 % ) , r 臨 地 実 習 開 始 前 か ら 」 が 4 3 名 ( 4 7 . 8 % ) , r 臨地実習中から」が 3 名 ( 3 . 3 % ) で あった.
( 5
) 医療事故防止教育に関する講義・授業で希望 する内容
具 体 的 な 講 義 ・ 授 業 の 内 容 と し て 7 1 名
( 7 8 . 9 % ) の学生が「医療従事者の体験談・講演
を聞くj, 6 1 名 ( 6 7 . 8 % ) が「病院の具体的な取
り組みを聞く」を挙げた.次いで「被害者の話を
聞く J 4 6 名 ( 5 1 1 . , ) % r 事故事例の分析・研究を
行う J 4 3 名 ( 4 7 . 8 % ) , r 法的責任について学ぶ j
3 8 名 ( 4 2 . 2 % ) で、あった(図 7 ) .
78.9(7¥名'16} 78.961' 医療従事者の体験限・鴎演を聞く
病院の具体的な取り組みを聞く 被害者の鋸を間〈
87.8縦6¥名)
事故事例の分続・研究
四引[時叫】3
法的責任について学ぶ