奈良教育大学学術リポジトリNEAR
職業興味におよぼす教育実習の影響
著者 玉瀬 耕治
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 13
ページ 47‑52
発行年 1977‑03‑25
その他のタイトル The effects of teaching practice on vocational interests of student―teachers.
URL http://hdl.handle.net/10105/6376
職業興味におよぼす教育実習の影響
玉 瀬 耕 治**
(心理学教室)
進路指導の基礎的研究として、筆者らはこれまでに職業興味テストに関する若千の報告を行っ てきた(蝉野・玉瀬,1973;玉瀬,1975.1976)。これらの報告では、地域差、性差、年齢差、
および種々の欲求との関係がとりあげられている。本研究では、一教育大学の学生について、教育 実習によって職業興味にいかなる変化が生じるかを問題にした。一般に、職業興味は中学、高校 において比較的安定しているが(道脇,1972〕、教育大学生にとって、教育実習は将来の職業へ のいわば 啓発的経験 にあたるので、その影響は大きく、職業興味にも何らかの変動がみられ ることが期待される。本研究では、職業興味を測定するために、最近職業研究所(1972)によっ て作成された職業レディネス・テストを使用した。この検査では、8つの職業群に対する興味の 程度とそれらの職業を遂行する自信の程度、および職業興味の基礎となる3つの志向性への相対 的な強さを測定することができる。職業研究所(1974)は、この検査に関連する諸変数(性差、
年齢差、地域差、知能、職業適性、パーソナリティ、職業興味、専攻課程、および職務に対する 態度)について報告している。これらの研究によってこの検査のもつ意味はかなり明確にされて いるといえる。しかし、この検査のもっとも大きな特徴である興味と自信のずれの意味について は、まだ十分検討されているとはいえない。そこで、本研究では性格検査とも関連させて、ずれ のもっ意味についても検討することにした。
方 法
被験者および実施計画 奈良教育大学の女子学生120名を被験者として使用した。教育実習は、
付属小学校または協力小学校において3回生(小学校課程)を対象にして昭和51年9月20日から 4一週間行われた。この期間中、2回生と4回生に対する講義は開かれていない。職業レディネス
・テストは夏休み前の7月1日から19日の間に第1回目が行われ、第2回目は実習直後の10月18 日から30日の間に、それぞれ個別に行われた。第1回目の実施に際しては、心理学専攻の学生が 依頼状を持参し、目的と回答の仕方を説明した。被験者とされた2回生は全員実習を受けておら ず、4回生は全員実習を受けて1年を経過している。3回生については、2回目のテスト実施の 際・、Y−G性格検査もあわせて実施した。表1は、被験者数およびテスト実施計画をまとめたも のである。
* Tbe effects o{ teaching Practice o血・vocaセional i就erests of s減de耐一teacbers、
** Koji T刮mase(DepaI・t㎜ent of Psychology,Nara U皿i㈹rsity of E仙。ation,Nara)
一47_
材料(1)職業レディネス・テスト この検査は、A,B,Cの3検査から成り立っている。
A検査では、職業の内容を記述した39項目の質問(たとえば、動植物を扱う店につとめて、お客 に花を売ったり、小鳥を売ったりする)が設けられ、各項目に対する好みの程度を やりたい から やりたくない までの5段階で評定させる。B検査では、日常の行動や意識に関する20項
表1 被験者数およびテスト実施計画 学年 人数 7月1日〜19日
2回生 30 第1回テスト 3回生 60 ・
4回生 30 ・
9月20日〜1O月16日 10月18日〜30日
教育実習
第2回.テスト
〃
〃
目について、それぞれ3つの選択肢から自分にもっとも近いものと遠いものを1つずつ選ばせる
(たとえば、旅行しようと患いっいたら、⑦まず、予算や日程などの計画をきちんとたてる。⑦ 行きあたりばったりの旅をしようと考える、⑤いっしょに行きそうな友だちをさがす)。C検査 ではA検査と同じ項目を用い、その仕事を遂行する自信の程度を 自信がある から 自信がな い までの5段階で評定させる。このようにしてA検査では、機械・技術(I)、研究・管理(
II)、自然・医療(m)、対人・社会(W)、社会・芸術(V)、事務(VI)、対人・サービス
(W)、および手工・技能(V皿)の8つの職業クラスターへの職業興味が測定され、C検査では それらのクラスターへの自信が測定される。B検査では、興味や自信の基礎となる3つの志向性、
すなわち対情報関係志向(D)、対人関係志向(P)、および対物関係志向(T)が測定される。
(2)Y−G性格検査 この検査では、 120項目の質問に、 はい いいえ どちらでもない のいずれかで答えさせ、情緒安定性(D,C,I,N)、社会適応性(0,Co,Ag)、向性(
G,R,T,A,S)などに関する12の性格特性について測定することができる。
結 果
職業異味の変動 表2は各学年(回生)における第1回目の職業レディネス・テストの結果を 示したものである。この表のA検査の結果から、どの学年においても、研究・管理(II)、自然
・医療(11I)、および対人・社会(1V)の樽点が高いことがわかる。各職業クラスターごとに学 年間の差を検定した結果、比較的差の大きいlVの場合でもF(2/117)=2.66で有意でなく、学年差 のないことが明らかにされた。C検査については、A検査と同様に全学年を通してII,m,lVの 得点が高かったほかに、VIでも得点が高かった。学年差については、対人・社会(W)でF(2/117〕
=5.02となり、1%水準で有意であった。これは2回生が、3回生と4回生よりも得点が高いこ とを示している。他のクラスターにっいてはいずれも学年差はみられなかっナこ。B検査・について は、どの学年でも対情報関係志向(D)の得点が高い。Dについて学年差を検定したところ、F
(2/117)=4.91となり、1%水準で有意であった。これは3回生と4回生の間で差のあることを示し 一48一
ている。対人関係志向(P)および対物関係志向(T〕の得点については、いずれも学年差はみ
られなかった。
表3は、第2回目から第1回目のテスト得点を引いた値を示したものである。この得点で、3 回生については実習の影響が反映されてい亭とみなすことができる。この表で明らかなように、
正の値を示しているものが多く、全体として2回目のテストで得点が増えた者が多かったといえ る。これらの値について相関する一検定を行い、変動が有意であるかどうかを検討した。その結 果、2回生にっいてはどの得点も有意ではなかった。3回生については、A検査における事務(
W)と対人・サービス(V皿)の得点が有意であった。4回生については、A検査の機械・技術(
I)と事務(w)の得点が有意であった。さらに、これらの変動得点の学年差についても検定を 行ったが、A検査、B検査、C検査ともに、すべて有意ではなかった。
表2 各学年における職業レディネス・テストの平均得点と標準偏差(1回目〕
A検査(興味〕 B検査1志向性) C検査(自信〕
I111II酊一 u珊W㎜lD.PTII1mWV刊柵W
2回生103.5109.611013114.6105.79?.999,196.9
〔19.2)(19.2〕(20.O〕(18.4〕{22.3〕(19.4〕(17.1X18.4)
3回生1㎝.3110.l llO.2105,098,998,294,090.2
{19.5〕(16.1){18.2){17.5)(21.5〕{21.4〕{16.9〕{18.5〕
4回生103.5111.6111.0107.9103.4941499,495,7
{18.7〕{15,5〕(18.5〕{19.2〕(17.4〕(13,O〕(16.5〕{16.O〕
11O,0101,0 89.O
(16.2〕{17.2〕{15.7)
116,7 90,0 92.2
(17.6〕く21,9〕(17,5〕
104,8 95,3 96.O
(17.3〕(17.O〕口3.5〕
I04.O l07.9 108.4 114.9 103二0 109.l l02.3 101.6
(20.4〕(19.1〕(21.4X18.6){I7.7パ17.O〕(17.7)(16,7〕
104.8 I09.O l07.7 106,3 95.9 107,7 96,3 96.2
(23.O〕(17.9〕(20.4〕{17.5〕{17.1)(19.4){18.3〕(18.9)
98.O 106.8 106.O l00,4 97.7 104,1 92.9 100.1
{15.7〕(21.1)(I6.4〕{17.O〕(16.1〕(14.3〕(18.9〕(16.6)
I:機械・技術、I互:研究・管理、1Il:自然・医療、lV:対人・社会、V:社会・芸術、W:事務、W 対人・サービス、W 手工・技能、D1対情報関係志向、P:対人関係志向、T:対物関係志向、カ ッコ内は標準偏差
表3 各学年における変動得点(2回目一1回目)とその有意性
II1m】VVVI棚1皿DPTInIIIWVW珊I1㎜
2回生 3回生 4回生
5.4 0.6 2.6 0.1 3.4 5.2 2.3−O.3 0.3−1.1−2.1
3.6 0.6 1.7 2.8 1.0 4.5^ 4.1^O.7 −1.3 3.O−1.6 6.8冊3.30.12.74.07.3‡一3.62.2 2.O−4.02,9
3.8 3.6 −O.7 1.5 2.5 3,O −O.5 0.3 0.5 2.2 3.l O.4 −O.4 −1.4 0.1 O.1
5.3 2,1 1.8 6.1 2.2 5.4 1,9 2.7
P<.Ol,‡p〈.05
一49一
Y−G性格検査との関係 3回生について、第1回目の職業レディネス・テストでのA検査の 合計点からC検査の合計点を引くことによって、極端にA検査の得点が高い者から15名(合計点 の差の範囲は40〜170)、C検査の得点が高い者から15名(合計点の差の範囲は土70〜一180)を選 び、Y−G検査の結果を比較した。ここではA検査の得点が高い者を興味型、C検査の得点が高 い者を自信型とよぶことにする。表4は、これらの被験者のY−G検査の平均得点と両群の差の 検定結果を示したものである。各特性ごとにみれば、気分の変化(C)のみが有意であるが、情 緒安定性に関連する抑うっ性(D)、劣等感(I)、神経質(N)はいずれも興味型の被験者に おいて得点が高・く、情緒不安定の傾向を示している。社会適応性 (O,Co,Ag)や向性(G,R,
T,A,S)に関しては一貫した差がみられない。
次に、A検査およびC検査について、第1回目から第2回目へと得点が全体的に増加または減 少した者についてY−G検査の結果を比較した。2回目の方が1回目よりも減少した場合にマイ ナスの符号をつけて、8個のクラスターのうち何個がマイナスかを調べ、マイナスの数の少ない 方から13名(増加群)、多い方から13名(減少群〕を選んだ。表5は、これらの群のY−G検査 の平均得点と差の有意性の検定結果を示したものである。この表で明らかなように、増加群の方 が減少群よりも、劣等感(I)、主観性(O)、非協調性(Co)が有意に高いといえる。また、
増加群では、D,C,I,Nがいずれも高く、情緒不安定な傾向がみられる。表6は、C検査に ついて、A検査と同じ方法で選ばれた増加群と減少群(各群13名)に関する結果を示したもので ある。表から明らかなように、ここでは一貫した群差はみられない。
表4 興味型群と自信型群のY−G検査の比較 D C I N O Co Ag G R T A S
興味型 自信型 一
12,3 13.3 9.6 9.7 8.O
1O.8 8.7 8.4 8.8 8.9
*
6.1 1O.4 10,1 11.8 8.7 8.1 11.9 6,7 10,6 12.5 9,5 10.0 8,9 11.5
*P<.05
表5 興味増加群と興味減少群のY−G検査の比較 D C I N O Co Ag G R T A S
増加群 減少群
一
12,5 12,9 10,3 10,6 11,2
10.0 9.8 6.3 8.2 7.8
** *
8.O 11,8 11,2 12.9 8.8 8,6 10.7 4,9 12.O 12.O エ1,8 10,8 10,9 12.9
*
**P<.O1, *P<=.05
山50川
表6 自信増加群と自信減少群のY−G検査の比較 D C I N O Co Ag G R T A S
増加群 12,311.78.59.18.55,810,611,810,510.89,912.2 減少群 9,912.08,410.57.97.2工2,712.112.18,211,312.6 t (すべて有意差なし)
考 察
本研究の主な結果は次のとおりである。(1)第1回目の職業レディネス・テストでは、どの学年 でもA検査およびC検査における研究・管理(II)、自然・医療(III)、および対人・社会(Wl クラスターの得点が高く、またB検査では対情報関係志向(D)の得点が高かった。(2)第1回目 から第2」回目のテストにかけて、3回生ではA検査における事務(W)と対人・サービス(W)
の得点が有意に増加し、4回生では機械・技術(I)と事務(珊)の得点が増加した。(3)A検査 の得点がC検査の得点よりも上まわる興味型の被験者は、その逆の自信型の被験者に比べてY−
G検査における情緒安定性に関する得点が高い(不安定)傾向がみられた。(4)第1回目から第2 回目のテストにかけて、A検査の得点が増加した被験者は減少した被験者よりもY−G検査にお ける劣等感(I)、主観性(0〕、非協調性(Co)の得点が高かった。
第1回目のテストで、A検査、C検査ともにII,11I、およびlVクラスターの得点がどの学年で も高かったことは、教育大学生の一般的な興味傾向を反映していると思われる。他の諸検査との 関連(職業研究所,1974)をあわせて考えると、研究・管理(II)の得点が高い人は、学究的傾 向が強く、自然・医療(I1I) および対人・社会(w〕の得点が高い人は、戸外での活動や人と の接触を好む傾向が強いといえる。また、C検査の1Vクラスターで学年が進むにつれて、得点が 減少していることは興味深い。これは、教職というものを次第に現実のものとして肥え、より厳
しく見るようになるためかもしれない。これに関連して、礒野・寺田(1972〕は、教育大学生が 短大生よりも小学校教師および中学校教師に対してより否定的なイメージをもっていることを実 証している。
第1回目と第2回目の変動得点から、教育実習の影響が推測できる。2回生に関しては、すべ ての得点が有意でなかったので、単に3ヵ月の期間を隔てただけではテスト得点はあまり変動し ないといえる。教育実習を受けた3回生についてはA検査の事務(VI)および対人・サービス(V皿)
クラスターの得点が上昇している。これ1声、教育実習における実務、たとえば指導案の作成など によって、事務的な仕事に慣れたこと、あるいは毎日児童と接触したことによって、児童への奉 仕的活動に興味が増したことによるのかもしれない。4回生については、変動のあることを予想
していなかったが、A検査の機械・技術(I)および事務(W)クラスターで得点が上昇した。
このことについては解釈しにくいが、1回目と2回目のテストの間で教員採用試験が行われてお り、このことが何らかの影響を与えているのかもしれない。
次に職業レディネス・テストとY−G性格検奪との関連について述べる。本研究で、職業レテ 一51一
ネス・テストのA検査とC検査の得点の差によって選ばれた興味型の被験者が、自信型の被験者 よりも情緒不安定な傾向がみられたことは注目に値する。このことは、第2回目のテストで興味 得点が増加した者が、減少した者よりもやはり情緒不安定で主観的、非協調的であったこととも 関連している。これらの結果と職業的なレディネスとの関係については、今のところ十分根拠の ある説明をしえないが、さらに他の検査によっても検討した上で結論すべきであろう。たとえば A検査とC検査の関係を、自己概念に関する現実と理想の関係(上田・相崎・玉瀬,1967)と類 似のものとして把えることができるかもしれない。
要 約
教育大学の女子の2回生30名、3回生60名、4回生30名に3ヵ月の期間を隔てて2回、職業レ ディネス・テストを実施した。テスト・再テスト間に3回生は4週間の教育実習を受け、他の学 年は実習を受けなかった。その結果、2回生では2回のテストで変動はみられず、3回生ではA
(興味)検査の事務(VI)および対人・サービス(W)クラスターで得点の増加がみられた。4 回生では機械・技術(I)および事務(V正)クラスターで得点の増加がみられた(表3)。これ らの結果が、教育実習および教員採用試験に関連づけて考察された。
引 用 文 献
藤野義一・玉瀬耕治 1973へき地における中学生の職業興味と職業観 奈良教育大学教育研究 所紀要9,99−1ω.
礒野義一・寺田路一 1972教育大学生の教職観 奈良教育大学教育研究所紀要8,95−1OO.
道脇正夫 1972職業に対する興味と自信に関する一考察 適性研究,7,30−44・
職業研究所 1972 職業レディネス・テスト手引 東京:雇用問題研究会.
職業研究所 1974 職業レディネス・テストの開発,職業レディネス・テストと関連諸変数 職 業研究所研究紀要7.
玉瀬耕治 1975職業興味と欲求 奈良教育大学教育研究所紀要11,71−75.
玉瀬耕治 1976 職業興味と欲求(2〕 奈良教育大学教育研究所紀要12,51−54、
上田敏見・相崎戦太郎・玉瀬耕治 1967非行少年と普通少年の自己概念の比較 臨床心理学研 究,6(3),164−170.
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