︿判例研究﹀
医療行為に関する子どもの自己決定権の存否
医療 行 為 に関 す る子 ども の 自己決 定 権 の存 否 103
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須藤悦安
︿事実の概要﹀
一九七四年十二月三十日︑本件の被告である保健社会保障省(∪Φb9︒詳ヨΦ暮Oh匡①9D一芸餌口⊆G︒09巴のΦo霞一身以下
U=の○︒と記す)は︑国民医療サービスの枠内で行われる家族計画サービス提供機関の改組と担当の医師および関係者
の責務の概要を示す通達を発した︒同通達にはとくに家族計画クリニックについてのガイダンスが添付されており︑
その中の青少年に関する事柄を扱ったG項に︑以下のように記されていた︒
﹁診療時間はすべての年齢の人々にとって利用可能であるべきであるが︑青少年に対しては別個の︑より形式的で
ない診療を行うことが有用でありうる︒職員は青少年および彼らの問題を扱うことに熟練したものであるべきである︒
十六歳未満の子どもに対するカウンセリングおよび治療について広く関心がもたれている︒親の責任ならびに家族
の安定を揺るがさないよう特別な注意が要求される︒それゆえ︑本省は︑医師あるいは他の専門職員が十六歳未満の
子どもによりこれらの事柄について相談を受けるいかなる場合においても︑その医師または他の専門職員が相談の最
初の段階で︑常にその子どもを︑その親ないし後見人(または他の親に代わる地位にあるもの)を関与させるよう説
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得し︑かつ︑親の同意なしに避妊に関する助言をあたえることはきわめて異例なことであるという前提から[カウン
セリングを]すすめることを希望する︒
しかしながら︑医師と患者の間の相談内容が秘密であるということは広く受け入れられているのであり︑本省は医
師と患者がこの原則にあたえる重要性を認めている︒これは他の関係する専門職員に対しても適用のある原則である︒
十六歳未満の子どもについてこの原則を放棄することによって︑若干の子どもはまったく専門的助言を求めなくなる
ことになりかねない︒その場合︑彼らは妊娠および性病の直接的危険とともに︑安定した家族生活に対して等しく脅
威となる︑他の長期にわたる肉体的︑心理的および情緒的結果にさらされることにもなりうる︒このことは︑とりわ
け︑自分の親が例えば無関心であり︑まったく無反応(=コ﹃Φ匂Q娼○昌ω一く①)であり︑あるいはひどく混乱している
(9ωσ霞σ巴)ところの青少年について妥当するであろう︒これらの青少年のあるものは彼らの親から離れ︑地方当
局(一〇〇巴彗夢○議身)または親に代わる地位にある任意組織の保護下におかれている︒
本省は︑かかる例外的な場合においては︑いかなるカウンセリングの性質も医師あるいは関係する他の専門職員が
決定すべき事柄でなければならないということ︑および避妊を指示するか否かの決定は医師の臨床的判断(oぎ8巴
冒尉8Φ暮)に委ねられなければならないことを認識するものである︒﹂
この内容を知った原告(控訴人︑被上告人)ギリック夫人は︑ノーフォーク地方保健局(Zo見o貯﹀奉⑳鵠①巴夢
﹀二夢o憎一身)に対し︑同局の管轄下にある診療所において自分の十六歳未満の娘についてはいかなる状況においても
同夫人の同意なしに避妊に関する処置を行わない旨︑同夫人の娘が助言を求めた場合には必ずその事が同夫人に通知
される旨の保証を数回にわたって求めた︒しかし︑保健局側は前記の通達にそった回答をするのみでこの要求は受け
入れられなかったため︑同夫人は前述の通達の違法無効を求めて本訴を提起したのである︒
原告側の主張は︑本判決において多数意見を述べたスカーマン卿(ピoaの︒鉾8彗)によって要約されたところに
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よれば︑次の三点である︒
コ︑親権は︑管轄権のある裁判所により権限を附与されたのでなく︑また制定法により明示的に授権されたので
もない︑いかなる侵害ないし干渉からも保護されなければならない︒(親権の主張)
二︑十六歳未満の女子に対する避妊治療の供与は︑それ自体として犯罪行為を構成するか︑あるいはきわめて犯罪
行為に類似するため公政策に反する︒(刑法上の主張)
三︑十六歳未満の女子には︑法律上︑医療行為︑本件の個別的な脈絡においては避妊または中絶の処置に対して有
効な承諾をあたえる能力がない︒﹂
本訴は高等法院女王座部(霞σqロOo霞σOh﹂⊆ω菖oρβg①①昌ポしd80げ∪三匹8)に提起された︒一審でウルフ高等
法院裁判官(≦・○○罷﹂・)により原告敗訴の判決が言渡された後︑控訴院(○○霞けoh>薯$一)で同判決が覆されて
原告(控訴人)が勝訴し︑被告(被控訴人)である∪匡のωにより貴族院に対して上告がなされた︒
原審における判決は三人の控訴院裁判官(田蒔Φさ聞o×鴇国く㊦互σqTい●と・)全員一致で控訴人の主張を支持する
ものであるが︑とくにパーカー控訴院裁判官は次のように述べて︑従来のイギリス法の立場を明らかにしている︒
﹁最終的に︑[法の]現状は私の見解においては次のようなものである︒O親ないし後見人が︑親ないし後見人と
して自分が監護をする子どもに関して︑一群の権利を有するということは明瞭に確立されている︒⇔例外的な場合を
除いて︑制定法により︑かかる諸権利は放棄または譲渡されえない︒㊨かかる諸権利は︑子どもが自分の時間を過ご
すその態様および場所を統制すべき権利を含む︒四それらの諸権利は︑子供の利益のために親権を凌駕すべき裁判所
の権利の制約を受けつつ︑裁判所により実行されることとなる︒㈲裁判所に訴え︑あるいは特定の制定法上の権能な
いし例外にしたがう以外の方法で︑裁判所以外の何人かが︑親権に干渉することができることを示唆するいかなる種
類の先例もまったく存在しない︒㈲その年齢未満では子どもが監護あるいは養育に関して自分自身のために何らかの
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有効な承諾をあたえ︑あるいは何らかの有効な決定をすることが法律問題としてできないところのある年齢が存する
ことは明瞭に承認されている︒㈲先例はこの年齢が︑ともあれ人身保護令状の目的のためには︑女子の場合十六歳で
あり︑男子の場合は十四歳であることを指し示している︒⑳女子に関する限り︑刑法の規定は︑国会が性交渉の問題
における十六歳未満の女子の承諾は無効であるという見解を採用してきたことを示している︒
以上に照らして︑私は︑法律上の問題として十六歳未満の女子は︑現在考慮している領域における︑承諾がない場
合には民事上あるいは刑事上の暴行を構成するであろうところのいかなる事柄についても有効な承諾をあたえること
ができないのであり︑さらにまた︑医師が親の同意を求めることを有効に禁ずることはできない︑と結論するのであ
る︒
さらに私は︑十六歳未満の女子に避妊の措置をするよう助言し︑あるいはかような女子に対し︑親の認識および同
意なしに︑避妊ないし中絶の処置を行ういかなる医師も︑結局同意を不必要とするような緊急の事態における場合を
除いて︑親ないし後見人の法律上の権利を侵害するものと結論する︒緊急事態における場合を除いて︑医師が本来ふ
むべき手順は︑親の同意を求め︑あるいは裁判所に申し立てることなのである︒
私は︑十六歳という年齢が︑その年齢未満では︑現在考慮している二つの分野において︑女子が何らの有効な承諾
の もあたえることができず︑かつ︑何らの有効な決定もなしえないところの年齢であるべきか否かについての見解を何
ら表明するものではない︒私は︑法律上︑それが現在のところかような年齢であるという見解を表明するにすぎない
のである︒﹂(傍点筆者)
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︿判旨﹀
上告認容
一︑本上告は三対二(多数意見フレイザー卿︑スヵーマン卿︑ブリッジ卿︑少数意見ブランドン卿︑テンプルマン
卿)の小差ながら貴族院において認容された︒多数意見を代表すると考えられるスカーマン卿は︑本件における問題
が比較的最近になって現われてきたものであり︑本件はこの法分野における法の発展の出発点であって結論ではない
ことを断ったうえで︑被上告人より提出された前述の三点の主張を摘示し︑さらに本件で多少問題となった手続に関
する点︑すなわち︑被上告人の娘が何ら避妊の助言・治療を受けた事実がないにもかかわらず︑問題の通達が違法.
無効である旨の確認を通常の民事訴訟で求めることができるか否かという点に関して肯定の意見を示した後に︑同通
達について次のように述べる︒
﹁同通達が︑一定の状況において︑十六歳未満の女子に対し親ないし後見人の認識および同意なしに避妊を処方す
ることを医師に許可していることには何ら疑いがない(本意見において私は﹃親﹄という語を﹃後見人﹄を含むもの
として用いることとする)︒しかしながら︑その文面は︑医師がそうすることを正当化するところの(﹃通常でない﹄
とか﹃例外的な﹄と様々に記述されている)状況については明瞭でないのである︒本院はそれが制定法であるかのよ
うに同ガイドラインを解釈しないように︑あるいはそれを判決について相当するような仕方で分析することのないよ
うにさえ︑注意を払わなければならない︒問われるべき問題は︑医師が自分の両親の認識ないし同意なしに避妊治療
を求める十六歳未満の女子に直面した場合に︑その医師が自分に提示されたガイドラインをどのように理解するであ
ろうか︑というものなのである︒
医師は自分をその女子の両親(またはその一方)と相談させるべく︑当該女子を説得するよう努めることが自分の
義務であることを認識するであろう︒彼女が拒否する場合には︑その医師(あるいは当該女子が相談をしに行ったカ