『岡山大学法学会雑誌』第71巻第2号(2021年12月)
担保保存義務に関する一考察
― イギリス法におけるエクイティー上の義務を中心に ―
辻 博 明
1.はじめに
2.債権者の保証人に対する義務 ― イギリス法におけるエクイティー上の義務を 中心に
2 1 債権者の保証人に対する義務 ― 義務の法的構成,その性質 2 2 債権者による担保の喪失 ― 免責の要件,効果
①免責の要件 ― 帰責事由,損害の有無,担保の存在等 ②効 果 ― 免責範囲,根拠付け
2 3 債権者による一共同保証人の免責 ― 法的構成,免責の要件,効果 ①共同保証の類型 ― 合同型(jointly),連帯型(jointly and severally),個別
型(severally)
②免責の要件 ― 損害の有無,共同保証人の存在等 ③効 果 ― 免責範囲,根拠付け
2 4 免除特約 ― 免除特約の効力とその解釈の展開 3.問題点の整理・検討
3 1 債権者は,その保有する担保に対してどのような義務を負うか。その義務 の程度・範囲はどうか。特に,エクイティー上の義務はどうか。
3 2 先述のように,債権者がその保有する担保を侵害した場合,保証人は免責 されうる。この場合における保証人の免責には,複数のアプローチがあるこ とが窺える(先述2.1)。それでは,どのような法的構成がとられているか。
その法的構成は免責の要件・効果とどのような関係があるか。また,債権者 が一共同保証人の債務を免除した場合はどうか。
3 3 先述のように,債権者は,その保有する「担保」を喪失しまたは損傷した 場合,一定の要件を充足するとき,その行為に対する責任を負うことになる。
しかし実際には,債権者は,その保有する担保を喪失しまたは損傷したとし ても,その行為に対する責任を免れることができるように,「免除特約(条項)」
を設定する場合が少なくない(先述2.4)。それでは,この免除特約の効力 はどのように解されているか。「共同保証人」の1人を免責した場合はどうか。
3 4 債権者の保証人に対する義務,特に債権者のエクイティー上の義務の大枠 は,主要な判例によって形成されており,現在も影響力を有することが窺え
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る(先述2)。そこで最後に,イギリス法におけるその判例の枠組みを辿り整 理することにする。
1.はじめに
本稿において考察する担保保存義務は,「債権者」が負う義務の代表例であ る。債権者の保証人に対する義務は,「大陸法」における長年の議論(ローマ 法から特に Pothier 等の議論)を経て,フランス民法典,ドイツ民法典などの近 代法典にその明文規定が導入されるに至る。法典化された後も,判例・学説 において,債権者の義務の性質論,要件論・効果論,さらに免除特約に関す る議論の展開が見られる。そこから窺えることは,担保保存義務の議論には,
⒜その根底にある原理的部分において,「債権者の義務」の問題があるという ことである。敷衍すると,保証人に対して過大な損害を蒙らせないようにす る義務,債権者の保有する権利を保証人に譲渡する義務などが問題となる。
また,⒝解釈論上,保証人の「代位」を保全する義務と密接に関係すること が分かる(拙稿「担保保存義務に関する一考察 ― 沿革的・比較法的考察⒁」岡法68巻 2号45頁以下)。
一方,「イギリス法」においても,代位制度が見られるが,エクイティ上の 概念の中では最も古いものではないとされる。少なくとも,その創造的行為 による概念及び名称は,「フランス法」から借用したものである可能性が高い とされる(Buckland)。代位制度の起源はローマ法にあり,代位法理はイギリ スのエクイティ裁判所において確立された後,アメリカ合衆国に導入された とされる(拙稿「代位(Subrogation)に関する一考察 ― 沿革的・比較法的考察(ロー マ法・Pothier・Savigny・Buckland)― 」岡法70巻1号74頁)。
そうだとすると, イギリス法等においても,大陸法における議論(上記⒜
⒝のような議論)が見られるのではないか。保証人は,債権者が保有する担保 について権利を有するのではないか。保証人がそのような権利を有するとす れば,債権者の過失によって「担保」が喪失された場合,保証人の免責が問
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題となることがあるのではないか。保証人の免責が認められる「要件」はな にか。その要件の証明責任はだれが負うのか。免責の「効果」さらに免責の 範囲はどうか。免責は全額について認められるのか,それとも,侵害された 部分に限定されるのか。その「法的構成」はどうか。これらの要件論・効果 論は,「共同保証人」の債務を免除した場合にも妥当するのであろうか。
一方, 債権者が担保をめぐる権利について「契約上の義務」を負ってい る場合はどうか。実際に,保証を引き受ける「条件」が契約に含まれている 場合がある(法域によってその頻度・内容に微妙な違いがある。)。たとえば,債権者 が債務者に対する権利を獲得しまたは保全することが明示または黙示の契約 条件になっているような場合がある。債権者が獲得することを約束した担保 を喪失しまたは債権者がその保有する担保を解除した場合,どのような効果 が発生するのであろうか。債権者の行為によって履行のリスクが変動してい る。その法的構成,要件・効果はどうか。上記 の場合と異なるのであろう か。この法理は,共同保証をめぐる問題にも妥当するのであろうか。
また,実務においては,債権者による担保の喪失または侵害に対する責任 を免れさせる「免除特約(「条項」)」が保証契約に挿入されている場合がある
(保証人から個別に「同意」をとる場合もある。)。このようにして,債権者は,保 証人が免責されることを阻止しようとする。それでは,免除特約の趣旨・効 力はどのように解されるのか,保証人に有利に解される場合はあるのか。共 同保証をめぐる免除条項の場合,どのように解されるのであろうか。
2.債権者の保証人に対する義務 ― イギリス法におけるエクイティー 上の義務を中心に
2.1 債権者の保証人に対する義務 ― 義務の法的構成,その性質
債権者は,その保有する担保に対してどの程度・範囲の義務を負うか。こ の点について,一般論を述べることは難しい。もっとも,保証契約において 担保に関する「条件」が設定されている場合,債権者はその条件の内容によ
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って義務を負う。他方,保証人が債権者の「エクイティー上」の義務違反を 主張する場合,その義務の性質は明確ではない。実際には,合理的な配慮を する義務と表現されたり,信義則に則って行為する義務と記述される場合が あるが,その義務内容・性質は複雑な問題を有する。そこで,債権者の義務 違反が問題となる場合を辿ることにする。
まず,⒜債権者は「追加担保」を獲得する義務を負うか。債権者は,保証 人に対して,主たる債務者から追加担保を得るエクイティー上の義務を負わ ないとされる。したがって,保証人は,債権者が主たる債務者から他の担保 を獲得すべきであると主張するには,その旨の明示または黙示の条件が付さ れていなければならない。もっとも,近時の保証契約には,そのような明示 的な約定はあまり見られない。しかし,保証契約の文言から追加的担保に関 する条件が推論される場合はあるとされる。担保の獲得が保証債務の停止条 件であると解される場合である。この場合,保証人の免責が問題となる。そ れでは,担保を獲得することが保証契約の条件であると推論できる文言がな い場合はどうか。この場合,保証人がその旨の条件を主張することは一層困 難となる。それでも,そのような約定が当事者の交渉及び行為から見いださ れる場合がある。ただし,主たる債務者が追加担保を提供すると保証人が認 識していただけでは足りない。担保の獲得が保証契約の条件であるとの合意 がなければならない。
次に,⒝債権者が主たる債務者から「複数の担保」の設定を受けている場 合に,債権者がそれらの担保の一部のみを実行したとき,債権者は責めを負 うかが問題となる。しかし実際には,ある担保を他の担保に先だって実行す ることが保証契約の明示または黙示の条件とされていることは,通常はない。
そうだとすると,債権者の責任が問題となるのは,エクイティー上の義務違 反による場合である。たとえば,2つの担保が存在する場合に,それらを同 時に実行し配当することが適切でないようなとき,債権者がその1つの担保 を信義に則って選択し実行したとすれば,保証人はその権限が侵害されたと は主張できないとされる。したがって,このような場合,債権者は責めを負
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わない。このことから,このような場合,債権者は実行する担保を信義に則 って選択することについてのみ義務を負うことが窺える。それでは,2つの 担保が互いに独立した形態の担保である場合はどうか。このような場合,債 権者は,一方の担保を適切に実行したとしても,他方の担保の解除が不適切 であるようなときは,責めを免れることはできない。
それでは,⒞債権者が主たる債務者から担保の提供を受け,その担保を確 保するのに必要なすべての手続きを終えなかった場合はどうか(例・「登記等の 未完了」)。判例によると,債権者は,被保証債権を担保するために主たる債務 者から供された担保のすべての手続きを完了する「エクイティー上の義務」
を負うとされる。担保の優先権を確保するためには登録や通知が必要である が,その手続きに懈怠があったため紛争となった事例が多い。たとえば,動 産譲渡抵当権の登記や売買証書の登録の不履行,年金証書の登録の不履行,
エクイティー上の譲渡を有効にする通知の不履行,譲渡または売買の登録の 不履行があったような場合である。さらに,破産に陥った主たる債務者の指 示・処分が目的物たる動産に及ばないようにするためには,その動産の占有 を確保する必要があるにもかかわらず,債権者がその占有の確保を怠ったよ うな場合にも問題となる(Wulff v Jay(1872)L.R. 7Q.B.756)。なお,動産担保を 占有する義務は,担保の提供を受けた債権者の権利を確保することを目的と する義務であり,その実行のために課される義務ではないとされる。このよ うに,登記等の未完了が紛争となる事例は,債権者のエクイティー上の義務 違反が問題となることが多い。もっとも実際には,保証人がエクイティー上 免責されたのか,担保の手続完了に関する黙示の条件に違反したことにより 免責されたのかが確認できない事例がある。喪失した担保価値が保証額以上 であるような事例においては,どちらの法的構成によっても,保証人は「全 部免責」を受けることになるためである。しかし,主たる債務に担保がある という事実だけでは,担保の手続完了に関する黙示の条件があったとまでは いえない。特定の担保を獲得する契約上の義務が課されている場合にのみ,
そのような条件が付されていたと解される。したがって,そのような条件が
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付されてない場合,保証額を下回る額の担保が侵害されたときは,保証人の エクイティー上の「一部免責」が問題となる。それでは,担保権を獲得する のに必要な債権者の手続完了義務は,登記・登録義務を超えて,十分な担保 を確保する義務にまで及ぶかが問題となる。この場合に,エクイティー上の 義務を課す判例はないとされる。なお,担保の手続きが完了しなかった原因 が主たる債務者にある場合には,債権者のエクイティー上の義務は問題とな らない。
それでは,⒟債権者が有する担保を放棄しまたは無効にした場合はどうか
(「担保の放棄等」)。たとえば,債権者が譲渡抵当権を解除した場合,担保物を 主たる債務者に再譲渡した場合,担保物の第三者への移転を容認した場合,
担保の持分権を処分したような場合である。そのような場合,保証人は,担 保の価値が侵害された限りにおいて,「エクイティー上」免責される。その担 保価値は,担保の放棄の時点を基準に判定される。なお,債権者の行為によ って担保価値の侵害を受けたことの証明責任はだれが負うか。その証明は保 証人が負うことになる。もっとも実際には,担保価値の侵害について証明で きない事例がかなりあるとされる。たとえば, 債権者によって担保の解除 がなされたが,その担保に価値がなかったような場合, 債権者が担保を第 三者に譲渡したが,その後取り戻したような場合, 債権者が担保を放棄し たが,その代わりの担保を獲得したような場合である。このような場合,保 証人は,実質的に不利益を受けることはなく,担保価値の侵害はないと判定 されるからである。ただし,特定の担保を保全する「契約上」の債務がある 場合は異なる。そのような場合,その担保が無価値のときまたは保証人の利 益が侵害されないときでも,保証人は担保の解除があれば免責される。それ では,そのような担保の保全義務があると解されるのはどのような場合か。
それは,担保の獲得が第一次的な債務として課されている場合のみであると される。したがって一般的には,特定の担保を解除しない旨の合意があると 判定されることはあまりない。
それでは,⒠債権者は,担保権の「実行義務」を負うのであろうか。先述
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のように,債権者は,被保証債権を担保するために主たる債務者から供され た担保についてすべての手続きを完了するエクイティー上の義務を負うとさ れる(先述⒞)が,担保が早期に実行されていればより高額で換価できたよう な場合でも,債権者は「エクイティー上」担保権を実行する義務までは負わ ないとされる(後述3 1)。それはなぜか。まず, 保証人は,主たる債務者 がその債務を履行しない場合に,その履行をする契約上の義務を負っている。
次に, もし債権者が担保権を実行しないことを選択したとしても,保証人 は,その債務を履行し,債権者に代位して適時にその担保権を行使すれば,
担保価値の下落を回避することができると解されるからである。
それでは,担保権の実行について,債権者は一般的な注意義務を負わない としても,注意義務が問題となる場合があるのだろうか。まず, 債権者が,
「信義に反して」行為する場合,債権者に義務が課されることがあるとされ る。理論的には,保証人は債務を返済すれば,確かに求償権等の救済手段を 行使できるが,担保価値の減少を「知らない」場合があるのは事実である。
また, 保証人が担保権の実行を「明確に要求」している場合,実行義務が 存在する可能性があるとされる。保証人が担保権の実行を要求したにもかか わらず,債権者がそれを拒否したような場合である。さらに, 譲渡抵当権 者が担保物の価額が回復することを期待してその売却を遅らせる場合があ る。そのような場合でも,売却が命じられるケースがあるとされる。たとえ ば,譲渡抵当権設定者の責めが上限なく増加し続けるような場合,目的物の 売却が命じられないと,債務が増加し続けるが,売却されれば,主たる債務 がかなり減少し利息の支払が大幅に減少するようなときである。最後に,
為替手形の所持人(債権者)が支払いを受けるのに「必要な手続きを怠る」場 合である。そのような場合,裏書人(保証人)は免責されるとされる。
なお,これらの議論( 〜 )は,債権者のエクイティー上の義務に関する ものである。したがって,保証契約における明示または黙示の「約定」にお いて債権者に特定の担保権の実行義務を課すことは可能である(Phillips / OʼDonovan, The Modern Contract of Guatantee, 8‑055 〜 088, 3rd ed. 2016; Rowlatt on
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Principal and Surety, 9‑15, 6th ed. 2011; Andrews / Millett, Law of Guarantees, 9.43, 3rd ed. 2000; Putnam, Suretyship, 59‑60, 1981.)。
2 2 債権者による担保の喪失 ― 免責の要件,効果
①免責の要件 ― 帰責事由,損害の有無,担保の存在等
先述のように,債権者による担保の放棄等の行為によって,保証人の利益 が侵害された場合,保証人の免責が問題となる。担保の存在が保証契約にお いて必須の内容であったならば,保証人の全部免責が生じうる。しかし,担 保の存在が取引の必須の内容でなかった場合,保証人は,侵害を受けた限り において一部免責されるにすぎない(先述2 1)。
それでは, 「一部免責」が問題となる場合,どのような要件を充足する 必要があるか。⒜「故意」による放棄等の行為がある場合と「過失」による 不作為の場合に差異はない。この場合,債権者は,その担保から回収するこ とができた限りにおいて,保証人に対して責めを負う(Wulff v Jay(1871‑72)
L.R. 7Q.B.756,Polak v Everett(1875‑76)1 Q.B.D. 669 at 675,Taylor v Bank of New South Wales(1886)11 App. Cas. 596)。また,⒝保証人の「損害」が問題となる。
担保の処分によって保証人が損害を受けない場合,保証人は免責されない。
さらに,⒞「担保」の存在・属性が問題となる。保証人が内心において担保 の設定を期待して保証を引き受けたとしても,保証人のそのような認識だけ では足りない。担保が放棄されたとしても,その担保について保証人が権限 を有しない場合,保証人は免責されない。担保が価値を有しない場合も,保 証人の免責は生じない。担保が法律上当然に無効である場合,債権者はエク イティー上の義務違反に対して責めを負わない。担保の喪失または減少が生 じたが,それが債権者の制定法上の権利行使による場合,保証人は免責され ないとされる。
それでは, 「全部免責」が問題となる場合はどうか。まず,保証人が担 保の約定を明示する場合,その内容は契約上の必須条件である。しかし,こ のような条件が明示的に示されていない場合,担保の設定が停止条件であっ
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たとは直ちには推定されない。次に,担保の設定の合意が認定される場合で あっても,担保の喪失が債権者の「故意」による場合や「過失」による場合 でなければ,保証人は絶対的に免責されない(Polak v Everett(1875‑76)1 Q.B.D.
669 at 672)(Rowlatt, 9‑04〜14; Andrews / Millett, 9.42; Phillips / OʼDonovan, 8‑071〜073, 8‑083〜084,8‑089〜092; Putnam, 57‑58.)。
②効 果 ― 免責範囲,根拠付け
まず,保証契約の内容から担保の提供があると解されるような場合,保証 人は,担保付きの債務について保証責任を負うにすぎない。したがって,そ の担保が獲得されずまた獲得後に放棄された場合,保証人は絶対的に免責さ れると解される。その債務額に関係なく,「全部免責」が生じる(Polak v Everett
(1875‑76)1 Q.B.D. 669)。このように,債権者が債務者に対する担保を獲得し または保全する旨の明示または黙示の「契約」があるにもかかわらず,債権 者が獲得することを約束した担保を喪失しまたは債権者が保有する担保を解 除した場合,保証人は免責される。
それでは,保証契約において,担保の獲得及びその保全が明示または黙示 の条件になっていない場合はどうか。債権者が保証契約の担保に関する条件 に違反したことを証明できない場合でも,保証人が免責されるケースがある か。どのような根拠に基づいて免責が認められるか。その免責範囲はどうか。
実際には,そのような条件がない場合でも,債権者は,保証人のためにそれ らの担保を保全する「エクイティー上」の義務を負っていると解される場合 が少なくない。したがって,債権者の義務違反となる行為が認定される場合,
保証人は,その行為によって侵害を受けた範囲において免責される(Wulff v Jay(1871‑72)L.R. 7Q.B.756)。すなわち,この場合,「一部(pro tanto)」免責が問 題となる(Rowlatt, 9‑01〜02; Andrews / Millett, 9.41; Phillips / OʼDonovan, 8‑046〜054;
Putnam, 57‑58.)。
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2 3 債権者による一共同保証人の免責 ― 法的構成,免責の要件,効果
①共同保証の類型 ― 合同型(jointly),連帯型(jointly and severally),個別型
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実務においては,「共同保証人」,すなわち数人の保証人が債務を負う場合 が少なくない。もっとも,共同保証の形態は多様で,複数の「類型」がある とされる(イギリス法)。そうだとすると,債権者が共同保証人の1人の債務を 免除した場合,それらの類型によって,他の保証人に及ぶ免責効果が異なる 可能性がある(後述③)。それでは,どのような類型があるのだろうか。
まず, 共同保証人が同一の契約において「合同して(jointly)」債権者に 対して債務を負う場合がある。合同型は,複数の保証人が「一体」となって 1つの債務を負担する場合である。次に, 共同保証人が同一の契約におい て「連帯して(jointly and severally)」債務を負う場合がある。連帯型は,複数 の保証人が「一体的にまたは個別的に」債務を負う場合である。この場合,
債権者は,複数の保証人または1人の保証人に対して,合同してまたは個別 にその全額を請求することができる。たとえば,保証人が署名する契約書に おいて,共同保証人がほかに存在しまたは追加されると解されるような場合 である。そのような場合,保証人は,他の保証人も保証を引き受けることを 条件として責めを負っている。したがって,上記の場合,共同保証人が存在 することは「保証契約の一部」であると解される(Smith v Wood(1929)1 Ch.14)。 これに対して, 共同保証人が「個別に(severally)」責めを負う場合があ る。個別型は,複数の保証人が「個別に各自独立して」債務を負う場合であ る。この場合,それらの者は単に個別に契約しているにすぎない(Ward v National Bank of New Zealand(1883)8 App.Cas.755)。したがって,他の者が保証 契約に加わるということは契約の一部ではない(Putnam, 56‑57; Rowlatt, 9‑01〜
03; Andrews / Millett, 9.40; Phillips / OʼDonovan, 8‑021〜028.)。
②免責の要件 ― 損害の有無,共同保証人の存在等
それでは,債権者が共同保証人の1人を免責した場合,どのような要件を 充足すれば,その効果が他の保証人に及ぶか。
岡 法(71―2)
まず,共同保証人が「合同して(jointly)」または「連帯して(jointly and severally)」責めを負う場合,保証契約は保証人全員によって履行されること が内容なっていると解される(先述① )。それにもかかわらず,債権者が共 同保証人の1人を免責したとすると,契約責任が問題となる。そこで,その 契約上の条件に違反したかどうかが問題となる。具体的には,保証契約時に おいて共同保証人が「存在」すること,または共同保証人を獲得することが 保証契約の明示または黙示の「必須の条件」となっていたことを要する。保 証人が,共同保証人が同一の債務について責めを負うと期待していただけで は足りない。
次に,共同保証人が存在する旨の明示的または黙示の約定がない場合はど うか。共同保証人が「個別に(severally)」責めを負う場合である(先述① )。 このような共同保証人の1人が免責された場合も,他の保証人に免責効果が 及ぶ。ただし,その効果は,その負担部分の権利がその免責によって侵害さ れた範囲に限られる。この場合,負担部分の権利が存在したこと及び共同保 証人の免責によってその権利が「侵害」されたことを証明しなければならな い。その「証明責任」は,保証人が負うと解される(Ward v National Bank of New Zealand(1883)8 App.Cas.755 at 766)。
なお,債権者と共同保証人の1人と間の合意が不訴求契約にとどまる場合 は,他の保証人は免責されない(Phillips / OʼDonovan, 8‑021〜028; Rowlatt, 9‑04〜
14; Andrews / Millett, 9.40〜42; Putnam, 56‑58.)。
③効 果 ― 免責範囲,根拠付け
共同保証人が「合同して(jointly)」または「連帯して(jointly and severally)」 責めを負う場合,債権者がその有する共同保証人を保全し確保することが保 証契約の「条件」となっていると解される。したがって,その場合,保証契 約は,共同保証人全員によって履行されることが契約の内容なっていると解 される。それにもかかわらず,債権者が共同保証人の1人を免責するならば,
条件が成就されなかったこととなり,債権者による契約の一部不履行により,
保証人の「全部免責」が生じる(先述① )。
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これに対して,共同保証人が「個別に(severally)」責めを負う場合,他の 者が保証契約に加わることは,保証契約の内容となっていない。保証人が個 別に契約する場合,債権者は共同保証人の1人を免責したとしても,契約違 反とはならない。それゆえ,保証人は,契約違反に基づく免責を主張するこ とはできない(先述① )。個別に責めを負う保証人の免責請求は,債権者の 契約違反によるものではなく,「エクイティー上」の負担部分の回収が侵害さ れたことに基づく。それゆえ,保証人は,その請求を根拠付けるために,保 証人が負担部分について権利を有していたこと及びその権利が不当に侵害さ れたことを証明しなければならない。この場合,一共同保証人の免責によっ て,「一部免責」が認められるにすぎない(Ward v National Bank of New Zealand
(1883)8 App.Cas.755 at 764‑766)。すなわち,保証人の求償権が侵害された限り においてのみ,免責される(Andrews / Millett, 9.40; Phillips / OʼDonovan, 8‑021〜
028; Rowlatt, 9‑01; Putnam, 56‑57.)。
2 4 免除特約 ― 免除特約の効力とその解釈の展開
先述のように,債権者は,その保有する「担保」を喪失しまたは損傷した 場合,一定の要件を充足するとき,その行為に対する責任を負うことになる
(先述2 2)。しかし実際には,債権者は,その保有する担保を喪失しまたは 損傷したとしても,その行為に対する責任を免れることができるように,「免 除特約(条項)」を設定する場合が少なくない。
免除特約には,次のような複数の「類型」が見られる。まず,⒜免除特約 において,債権者が様々な方法によって担保を処分することを正当化するも のがある。債権者による担保の放棄・修正・交換その他の「異なる」種類の 処分を「包括的に」正当化する免除特約である。しかし,そのような免除特 約が設定されていても,債権者が担保権を得るために必要なすべての手続き を終える責任を免責するためには,その内容が「明示的」に示されている必 要があるとされる。また,免除特約があった場合でも,債権者が「信義則
(bona fide)」に反した処分をしたときは,免除特約の効果は及ばないと解さ
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れる。さらに,債権者が保存義務を負う「担保の範囲」が明確でない場合が 問題となる。たとえば,当該担保には,主たる債務者から獲得した担保だけ でなく保証人から獲得した担保も含まれるのか,保証契約締結前の担保だけ でなく契約締結「後」の担保も含まれるのか,また,その担保に「保証人」
も含まれるのかどうかが明確でない場合があるからである。そのような場合,
免除特約があっても,その効果が及ばないと解される可能性がある。もっと も,この問題は,すべての担保に適用されると「明確」に記されていれば回 避できるとされる。次に,⒝近時の保証契約においては,通常,「保証人の責 任は,保証人の責任が影響を受けまたは免責されるような債権者のいかなる 行為,懈怠または不履行によっても影響を受けまたは免責されることはな い。」とする免除特約が付されているとされる(「一般的方式」)。確かに,一般 的方式の免除特約があれば,債権者による担保の解除のような場合には,保 証人が免責されることはないが,特定の行為にはその効果が及ばない可能性 がある(担保物の安価での売却等)。また,⒞保証人は,保証債務を完済しない 限り,債権者が保有する担保について権利を有しない旨が,免除特約におい て定められている場合がある。しかし,このような定めがあっても,債権者 が担保に対して負う本来の義務は否定されない。保証人は,その担保につい ての権限を有しており,債権者はその担保を侵害してはならないと解される。
これと類似するものとして,⒟「保証人は,いかなる場合においても,他の 担保の利益を請求し担保の移転を求めない。」と記されている場合がある。こ れは,一般的な条項によって,保証人のエクイティー上の権利を奪うことを 意味する。したがって,代位権を排除するのであれば,その旨についての「明 確」な文言を要するとされる。さらに,⒠免除特約には,債権者によって担 保が最高額で換価されなかった場合について定めるものがある。たとえば,
「他の担保の換価・回収において債権者に不履行または懈怠があったとして も,保証契約における担保は影響を受けない。」と定められている場合があ る。もっとも,このような特約があったとしても,債権者側に「信義則(bona fides)」に反するような行為がある場合には,その効力は及ばないとされる。
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なお,保証人が債権者による担保の処分行為に個別に「同意」する場合,
担保の喪失または侵害があっても,保証人は免責されない(Polak v Everett
(1876)1 Q.B.D. 669 at673)。この場合,保証人は,債権者の担保の処分に明示 的または黙示的に同意しなければならない。保証人が債権者の処分行為を知 っているだけでは足りない。
一方,免除特約の効果をめぐる議論は,「共同保証人」の1人を免責する場 合にも展開が見られる。債権者は,一共同保証人を免責する場合にも,その 効果が他の保証人に及ばないようにするために,「免除特約(条項)」を設定す ることが少なくない。免除特約がなければ,他の保証人がその権利を侵害さ れた限りにおいて減免される場合でも,債権者は,免除特約によって,他の 保証人に対する権利を保全できるとされる事例が見られる。また,保証人全 員が「連帯して(jointly and severally)」責めを負うことが保証契約の条件とな っているような場合においても,免除特約に同様の効果が認められる。もっ とも,債権者が他の保証人に対する権利を留保する場合,免除特約において,
債権者が他の保証人に対して権利を有することが「明確」に示されていなけ ればならないとされる。なお,免除特約(条項)がない場合でも,保証人は,
共同保証人の免除に対して個別に「同意」を与えることができる(Phillips / OʼDonovan, 8‑029〜034, 8‑093〜102; Rowlatt, 9‑24; Putnam, 57.)。
3.問題点の整理・検討
3 1 債権者は,その保有する担保に対してどのような義務を負うか。その 義務の程度・範囲はどうか。特に,エクイティー上の義務はどうか。
まず,保証契約において担保に関する「条件」が設定されている場合はど うか。先述のように,担保に関する条件が設定されている場合は,債権者は その「条件の内容」によって義務を負う。したがって,契約条項において,
特に遵守されるべき条件が明示的または黙示的に付されている場合に,債権 者がその契約条項に違反したときは,保証人は絶対的に免責される(先述2 2)。
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しかし,実際に多くの場合に問題となるのは,そのような契約条項のない 場合に,債権者は「エクイティー上」どのような義務を負うかである。保証 人が債権者のエクイティー上の義務違反を主張する場合,その義務の性質さ らにその内容・程度・範囲が争点となることが多い。エクイティー上の義務 は,合理的な配慮をする義務と表現される場合や,信義則に則って行為する 義務と説明される場合がある。しかし,次のように,事例によってその様相 は異なり複雑な問題を有する。
先述のように,⒜債権者は,保証人に対して,主たる債務者から「追加担 保」を得る義務までエクイティー上は負わないとされる。また,⒝債権者が 主たる債務者から「複数の担保」の設定を受けている場合に,債権者が一部 の担保のみを実行したとしても,保証人の権限が侵害されたと解されないケ ースがある。それは,複数の担保を同時に実行することが適切でない場合に,
一部の担保が信義に則って選択され実行されたようなケースである。これに 対して,⒞債権者は,その供された担保について,エクイティー上の「手続 完了義務」を負うとされる。実際には,登記等の未完了が紛争となる事例が 多い。また,⒟債権者が有する担保を「放棄」したような場合も,担保の価 値が侵害された限りにおいて,エクイティー上の義務が問題となりうる。し かし,⒠債権者は,担保権の「実行義務」まではエクイティー上負わないと される。担保が早期に実行されていればより高額で換価できたような場合で も,実行義務を負わないと解される。これは, 保証人は,主たる債務者が その債務を履行しない場合に,その履行をする契約上の義務を負っているこ と, 債権者が実行権を行使しない場合,保証人は,その債務を履行し,債 権者に代位して適時にその担保権を行使すれば,担保価値の下落を回避でき るとする解釈があるからである(先述2 1)。
このように,債権者は担保権実行の選択について一般的義務を負わない(上 記⒠)。したがって,債権者は,自己の判断でその実行の「時期・方法」を選 択することができる。しかし,債権者は,担保権の実行に踏み切った場合は どうか。なんらかの義務を負うのだろうか。たとえば,債権者は,その保有
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する担保の売却権を行使するような場合,保証人に対して一定の義務を負う とされる。問題は,その場合に,債権者がどの程度・範囲の義務を負うかで ある。この点について,債権者は,「合理的な注意義務」を負うとされる。そ れは,具体的にどのような義務か。債権者は,担保権の実行によって,目的 物の「適正価格」を獲得し保全する義務を負うとされる。すなわち,その「市 場価値」を獲得する義務である。この義務の本質は,「エクイティー」の法理 に基づくものである。したがって,この義務に反する場合,担保価値が「侵 害を受けた部分」についてのみ,保証人はその責任を減免される。この義務 の「証明責任」は,債権者にあると解される。債権者が売却権限を行使する 場合,一般的には,適切な競売において示された最高額の付け値に応じれば,
問題はない。債権者は,担保物の価値の増加または改善のために,その売却 をあえて延期する義務はない。担保物の市場価値の判断基準時は,その売却 の決定日ではなく,「売却日」であるとされる(Phillips / OʼDonovan, 8‑082〜087;
Rowlatt, 9‑15; Andrews / Millett, 9.43; Putnam, 59.)。
3 2 先述のように,債権者がその保有する担保を侵害した場合,保証人は 免責されうる。この場合における保証人の免責には,複数のアプローチ があることが窺える(先述2 1)。それでは,どのような法的構成がとら れているか。その法的構成は免責の要件・効果とどのような関係がある か。また,債権者が一共同保証人の債務を免除した場合はどうか。
まず, 債権者は,保証人のためにその有する担保を保全する「エクイテ ィー上の義務」を負っていると解されている(先述2 1)。債権者がこの義務 に違反した場合,保証人はその責めを減免される。保証人は,その担保価値 が侵害された限りで,すなわち「一部免責」が認められるにすぎない。これ は,エクイティー上の義務違反に基づく法的構成で,主要な判例法理を形成 している。この構成の注目すべき点は,債権者が保証契約後に獲得した「追 加担保」にも適用があることである。追加担保は保証契約の締結「後」に設 定されるため,追加担保の保全義務を債権者に課す条項(後述 )は保証契約 にはないことから,契約上の義務違反は問題とならない。そのため,このよ
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うな場合,エクイティー上の義務違反に基づく法的構成は特に重要となる。
もっとも,債権者が担保を侵害したとしても,債権者に「帰責性」のない 場合,保証人は免責されない。また,担保の処分によって保証人に「損害」
が生じない場合,保証人は免責されない。さらに,債権者が担保を侵害した 場合でも,保証人がその担保について「権限」を有しないとき,またはその 担保に「価値」がないときは,保証人は免責されない。なお,担保物が債権 者ではなく主たる債務者によって処分されたような場合は,保証人の責任に 影響はない。その処分が債権者の同意を得てなされた場合でも,保証人の免 責は生じない。
それでは,債権者が一共同保証人の債務を免除した場合はどうか。共同保 証人が「個別に(severally)」責めを負っている場合に,その1人が免責され るとき,他の保証人は共同保証人から求償することができたその「負担部分」
についてのみ免責される。この場合,保証人の免責は,債権者が保証人の負 担部分について有する「エクイティー上」の権利を奪ったことによって根拠 付けられる(先述2 3③)。共同保証人が個別に責めを負う場合,他の者が保 証契約に加わるということは契約の内容ではない。したがって,債権者が個 別責任を負う他の保証人を免責しても,保証人は契約違反を理由に免責を請 求することはできない。
次に, 保証契約において,債権者が特定の担保を獲得し,そのための手 続きを完了し,当該担保を保全することが「条件」として付されている場合 がある(先述2 2)。このような条件の存在が証明される場合,その条件が成 就しないときは,保証人の「全責任の免責」が生じる。この場合,債権者に よる担保に関する「契約上の義務違反」が問題となる。
それでは,債権者が一共同保証人の債務を免除した場合はどうか。共同保 証人が同一の契約において「合同して(jointly)」または「連帯して(jointly and severally)」債権者に対して義務を負う場合に,債権者が共同保証人の1人を 免責するとき,他の保証人は「絶対的」に免責される。というのは,この場 合,当該一共同保証人が存在することはその保証契約の一部であるからであ
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る(先述2 3)。
さらに, 主たる債務者と債権者の合意によって,主たる債務契約の内容 が変更される場合がある。その合意によって,当該契約に含まれる担保に変 更が生じる場合,保証人に利益となるようなときを除いて,保証人はその「全 責任」を免責される。この場合,その変更によって侵害された担保価値が保 証債務額より少額であるか否かは関係しない(Andrews / Millett, 9.40〜42;
Phillips / OʼDonovan, 8‑021〜027, 8‑046〜054; Putnam, 56‑59; Rowlatt, 9‑01〜03)。 3 3 先述のように,債権者は,その保有する「担保」を喪失しまたは損傷
した場合,一定の要件を充足するとき,その行為に対する責任を負うこ とになる。しかし実際には,債権者は,その保有する担保を喪失しまた は損傷したとしても,その行為に対する責任を免れることができるよう に,「免除特約(条項)」を設定する場合が少なくない(先述2 4)。それ では,この免除特約の効力はどのように解されているか。「共同保証人」
の1人を免責した場合はどうか。
免除特約の形態は多様で,かつ,その内容は複雑である。そのため実際に は,複数の類型が見られる。先述のように,免除特約において,債権者によ る「担保」の処分行為が,たとえば担保の放棄であるというように,特定さ れているとは限らない。実際には,担保の放棄だけでなく,その修正・交換 その他様々な処分を「包括的に」正当化する方式をとるものが少なくない。
この方式と連動するように,債権者が保存義務を負う「担保の範囲」が明確 でないものが見られる。これは,近時の保証契約においては,「保証人の責任 は,保証人の責任が影響を受けまたは免責されるような債権者の『いかなる 行為,懈怠または不履行』によっても影響を受けまたは免責されることはな い。」とする方式が,実務において一般化していることと無関係ではない。ま た,「保証人は,いかなる場合においても,他の担保の利益を請求し『担保の 移転を求めない』。」と規定するものがある。さらに,「他の担保の『換価・回 収』において債権者に不履行または懈怠があったとしても,保証契約におけ る担保は影響を受けない。」と定められている場合がある(先述2 4)。
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このように,免除特約があったとしても,その内容が明確であるかどうか が第1に問題となる。免除特約の内容が「明示的」に示されている必要があ るとされる。また,その場合でも,債権者側に「信義則(bona fides)」に反す るような行為があるときは,その効力が及ばないとされる。この点は注目さ れる。さらに,免除特約があったとしても,その内容が保証人の「エクイテ ィー上の権利(例・代位権)」を排除するような場合は,直ちにその効力が及ぶ ものではない。代位権のような権限は,保証人が有する「本質的な権限」で あり,原則として,債権者はその担保を侵害してはならないと解されるから である。なお,保証人が債権者による担保の処分行為に個別に「同意」を与 えた場合も,同様の解釈がとられる方向にある。
次に,債権者が「共同保証人」の1人を免責した場合も,免除特約があれ ば,債権者は他の保証人に対して請求する権利を有するとされる。ただし,
この場合も,先述のように,債権者が他の保証人に対して権利を有すること が「明確」に示されていなければならないとされる。実際には,免除特約が あった場合でも,他の保証人は免除を受けた共同保証人に対して負担部分の 権利を有すると解されるときがある。共同保証の紛争において,無視できな い問題である。そこで,債権者は,一共同保証人の債務を免除する場合,他 の保証人に対する権利を有効に留保しようとするならば,「この免除はいかな る場合においても,他の保証人に対する債権者の権利を侵害しまたは影響を 与えることはない。」と定められるとされる。なお,保証人が一共同保証人の 免責に個別に「同意」する場合も,同様の解釈がとられる方向にある(先述 2 4)。
このように,免除特約が設定されている場合,その効力を直ちにすべて否 定するような解釈はとられていないことが窺える。免除特約の内容・特性を 考慮した上で,その有効性及び効力の及ぶ範囲が判断される方向にある(近 時の解釈)。その際,保証契約を全体として解釈し,「分別のある意味」を与え るべきであるとされる。もっとも,その場合においても,免除特約の意味を 解釈する際に不明確な部分は「保証人に有利に」解されるべきであるとされ
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る(Phillips / OʼDonovan, 8‑029〜034, 8‑093〜102)。
3 4 債権者の保証人に対する義務,特に債権者のエクイティー上の義務の 大枠は,主要な判例によって形成されており,現在も影響力を有するこ とが窺える(先述2)。そこで最後に,イギリス法におけるその判例の枠 組みを辿り整理することにする。
債権者の行為または懈怠によって担保が失われまたは行使できなくなかっ たような場合,保証人は免責されるか。この点について,判例の展開が見ら れる。
まず問題となるのは,債権者が担保を獲得しまたは保全する旨の契約がな い場合である。実際には,このような場合が一般的である。この問題に関す る先例として,Wulff v Jay 事件がある。同事件によると,債権者が債務者に 貸付を行い,その際,保証人がその債務の保証を引き受け,さらに,債務者 によって追加の担保として譲渡抵当が提供された。ところが,その目的物の 譲渡証書が登録されていなかった。そのため,その担保の設定に必要な手続 きが完了していなかった。このような場合においても,保証人は免責を主張 することができるか,また,どのような要件を充足しなければならないか,
その免責範囲はどうかが問題となった。
Wulff v Jay 事件において,保証人がその権限を有する担保が,債権者側の
「過失」によって失われまたは適切な設定がなされなかった場合,保証人は 免責されるとし,その上で,この保証人は,失われた担保の価値の限りにお いて免責されると判断された(Wulff v Jay(1871‑72)L.R. 7Q.B.756 at 765‑766)。す なわち,債権者による担保の喪失があったような場合だけでなく,担保権の 設定に必要なすべての手続きが終わっていなかったような場合においても,
保証人は免責されるとされた。このことから,債権者による侵害が「不作為」
による場合にも,免責が問題となる場合があることが明らかとなった。また,
その免責効果は「一部免責」であることが示された。
このように,債権者が担保を獲得しまたは保全する旨の契約がない場合で も,債権者によってその担保が侵害されたときは,保証人はその受けた損失
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の限りにおいて免責される。これは,保証人が,主たる債務契約の合意によ る変更があったことまたは債権者が保証契約の担保に関する条件に違反した ことを証明できない場合でも,債権者は保証人のためにそれらの担保を保全 する「エクイティー上の義務」を負っていると解されるからである。それで は,債権者が担保の目的物を手順にしたがって売却したところ,その買主に よる代金不払いによって,保証人がその担保から得られる利益を失ったよう な場合はどうか。目的物の売却が適切な手順によりまた担保契約上の方法に よってなされる場合,保証人の責任はそれによって影響を受けないと解され る(Taylor v Bank of New South Wales (1886) 11 App.Cas.596 at 600‑603 PC)。このこ とから,債権者の行為が取引上相当であり「合理的な行為」と解される場合 には,保証人の責任の一部免責も生じないと解される。たとえば,債権者に よって目的物が取引上適切に売却された場合には,保証人の免責は認められ ないことが窺える(後記・注⑴)。
次に,担保が設定されその担保が存在することが「契約の内容」となって いた場合はどうか。そのような場合に,債権者がその担保を保証人の同意な しに放棄するとき,どのような効果が発生するか。この問題に関して,一定 の原則を示した先例とされるのが,Polak v Everett 事件である。同事件によ ると,そのような場合における債権者による処分行為は,保証人の権利の「変 更」にあたるとされる。この場合,保証人は「全部免責」を受けるとされる。
ただし,保証人が担保に関する債権者の行為を要求しまたはそれに「同意」
する場合,担保の喪失または侵害があっても,保証人は免責されないとされ る。それでは,上記のエクイティー上の義務による救済とどのような違いが あるのだろうか(免責範囲以外の違い)。たとえば,保証契約締結「後」に追加 して設定された担保が債権者によって処分された場合でも,保証人は新たに 設定された担保に対して一応権利を有する。しかし,追加担保は,保証人が 契約締結時に存在した当初の担保ではない。したがって,このような場合に は,本事件の原則は及ばないとされる。すなわち,追加担保の保全について 不履行があったような場合は,保証人の全部免責は生じない。これに対して,
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追加担保を処分したような場合においても,エクイティー上の義務違反が問 題となる可能性はある(Polak v Everett (1875‑76) 1 Q.B.D. 669 at 673‑678)。このよ うに,法的構成による微妙な違いが根底に存在することが窺える。
さてそれでは,数人の保証人が債務を負う場合,すなわち「共同保証」の 場合はどうか。先述のように,共同保証には複数の類型があり,共同保証人 が債権者に対して同一の契約において「合同して(jointly)」債務を負う場合,
共同保証人が「連帯して(jointly and severally)」債務を負う場合,さらに,共 同保証人が「個別に(severally)」責めを負う場合がある(先述2 3①)。 共同保証人が「合同して」または「連帯して」債務を負う場合に関する準 則の基礎は,Ward v National Bank of New Zealand 事件(後述)にすでに見 られたが,イギリス法において,この問題の指導的先例と考えられているの は,Smith v Wood 事件である。同事件の判旨によると,共同保証人の1人 の債務が免除されると,他の保証人の有する権利に影響があるとされ,当事 者間における「契約の変更」が実質的に生じているとされた。したがって,
その変更について同意していない保証人は免責されるとされた(後記・注⑵)。 Smith v Wood 事件によると,共同保証人が合同してまたは連帯して債務 を負う場合,保証契約の履行は共同保証人全員によってなされることが「前 提」となっていることが窺える。したがって,共同保証人全員がその契約に 留まり「一体」となって責めを負うことが,「契約の内容」となっていると解 される。それにもかかわらず,債権者が共同保証人の1人の債務を免除する 場合,共同保証人全員が連帯して責めを負うという保証契約締結時に想定さ れた他の保証人の「契約上の地位」に変更が生じる。Smith v Wood 事件は,
このような契約内容の変更がなされた場合,他の保証人がその変更に同意し ていない限り,免責される旨の法理を明確に示した点に重要な意義がある
(Smith v Wood(1929)1 Ch.14)。また,この法理は,共同保証と類似する事例 にも適用があることが窺える(例・契約外の数人の者によって担保物が供された場合 や,求償保証の場合など)。さらに,保証人は,その権利侵害のおそれがあれば,
免責を認められる可能性があると解される。これに対して,「エクイティー
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上」は,担保に保証人の「権限」が及ばない場合や,債権者の処分行為によ って保証人に「損害」が生じない場合は,保証人の免責は認められない(先 述3 2)。この点で,微妙な違いが見られる。
これに対して,共同保証人が「個別に」責めを負った場合に関する先例は,
Ward v National Bank of New Zealand 事件であるとされる。同事件の判旨 によると,共同保証人が個別に責めを負う場合,保証人全員が保証契約に加 わることは「契約の内容ではない」。この場合,共同保証人は個別に各自独立 して契約しているにすぎない。したがって,債権者が個別責任を負う他の保 証人を免責しても,契約違反とはならない。したがって,保証人は,契約違 反を理由に免責を主張することはできない。そこで,保証人は,その免責を 主張するには,債権者によってそのエクイティー上の権利を奪われたことを 主張立証しなければならない。すなわち,保証人が「負担部分」について権 利を有したことだけでなく,その権利が不当に「侵害」されたことを立証し なければならない。したがって,免責の効果は,「負担部分」に限られること
(「一部免責」)が明確にされた(Ward v National Bank of New Zealand(1883)8 App.
Cas.755, at 765‑766)。
【注】アメリカ法の推移・主な変化(判例・制定法・学説)
以下では,上記(本文)のイギリス法における議論との「類似点・相違点」を中心に,ア メリカ法における議論のポイントのみを記すことにする。
⑴ アメリカの金融実務においても,債権者がその保有する重要な「担保」を自らの行為 によって侵害する場合があるとされる。債権者が担保を放棄する場合がその典型例であ る。そのような場合,保証人の責任はどのようになるか。保証人は免責されるか。免責 されるとすれば,どの範囲で免責されるか。このような問題は,次のように,アメリカ 法においても議論の展開が見られる。
まず,債権者がその担保を侵害する場合,保証人はその担保が有する価値の限りにお いて免責されるとする解釈が展開されている。なぜ全部免責ではなく一部免責なのか。
この点について,保証人は「代位権」を有しているが,もし担保の放棄等によって代位
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権が侵害されると,保証人はその担保価値が侵害された限りにおいて「不利益」を受け ることになる。したがって,保証人はその不利益を受けた限りにおいて免責されると解 される。なお,アメリカ法においても,保証人の代位権の本質は「エクイティー上」の 権利であると位置付けられており,それゆえ,保証契約の締結「後」に担保が獲得され た場合においても,また保証人がその担保の存在を知らなかった場合においても認めら れるとされる。このように,免責効果は「一部免責」にとどまるとする解釈を中心に議 論が展開されている(一般論)(イギリス法との類似点と微妙な相違)。
次に,債権者が保有する「担保」は,質権,譲渡抵当権だけでなく,Lien(先取特権
的・留置権的権利)その他の財産上の利益も含まれると解される。ただし,債権者による
代位権の侵害は,「実質的な侵害」がなければならないとされる。したがって,債権者が 担保の一部を放棄したとしても,債権者が保有する他の部分で十分な場合は,保証人は 免責されない。また,担保の「差替え」がなされた場合,保証人は,放棄された担保と 差し替えられた担保とのその価値の「差額」の限りにおいてのみ免責される。これに対 して,債権者が放棄した担保が価値を有しないような場合は,保証人は免責されない。
しかし,債権者がその「過失」によって担保を侵害した場合も,担保の放棄と同様の効 果を有すると解されるようになる。それでは,債権者は保証人に対してどのような「義 務」を負うと解されるか。この点について,債権者は分別のある通常の取引当事者に求 められる程度の合理的な義務を負うとされ,したがって,債権者が「信義則」に基づい て行為する場合は,その責めを負うことはないと解されるようになる。それゆえ,担保 の侵害が債権者の単なる「不作為」による場合は,保証人は原則として免責されないと 解された。たとえば,債権者が単に担保権の実行を怠ったような場合がそうである。そ の理由として,保証人は,その債務を弁済し債権者の権利に代位しその担保権を行使す れば,その不利益を自力で回避できるとする主張が見られた。しかし,債務の弁済期が 到来する前または保証人が担保の存在を知る前において,保証人が自衛することはでき ないのではないかという議論が生じる。この点について,そのような場合には,債権者 に担保の保全に合理的な配慮を課しても不当ではないとする主張及び事例が見られるよ うになる。さらに,債権者が担保の「登記等」を怠るような場合は,保証人はそれによ って受けた損失の限りにおいて免責されると解されるようになる(要件論の推移・義務内
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容(概要))。
さらに,債権者がその担保を侵害する場合,先述のように,保証人はその担保が有す る価値の限りにおいて免責されると解されており,免責効果は「一部免責」にとどまる。
担保の時的範囲の議論と連動して,債権者が保証契約締結時にすでに存在した担保を放 棄した場合と契約締結後に獲得された担保を放棄した場合とを区別して免責範囲を判断 する先例がある(例・Polak v. Everett 事件(イギリス判例(先述・本文)))。これに対して,
保証人にその実損害以上の免責を認めることは公正でないとの主張が見られるようにな る。もっとも,債権者による担保の保有が保証を引き受ける「明示的な条件」とされて いる場合に,その担保が放棄されたようなときは,保証人に完全な免責が生じるとされ る。なお,保証人が担保の放棄に「同意」している場合は,その放棄について反論する ことはできないとされ,その同意の有無は取引慣行から推定できると解されるようにな る(効果論の推移(概要))(Simpson, Handbook on the Suretyship, §74,1950; Williston, A Treatise on the Law of Contracts, §§1232‑1234,vol.2 3d ed. 1959)。
このような議論を受けて,さらに近時の判例等が展開されており,その主な内容がリ ステイトメントにおいて採択され(Restatement Third, Suretyship and Guaranty,§42,1996), UCC3‑605において明文化され,統一される方向にある(Alces, The Law of Suretyship and Guaranty,§7:13, 2016)。
⑵ 先述(本文)のように,イギリス法においては,「共同保証人」が「合同して(jointly)」 または「連帯して(jointly and severally)」債務を負う場合において,債権者が共同保証人 の1人の債務を免除すれば,他の保証人は免責されると解されている。それでは,アメ リカ法においてはどのように解されていたか,現在はどのように解されているか。
判例の流れを遡ると,合同してまたは連帯して責めを負う共同保証人の1人の債務が 免除された場合,他の保証人は完全に免責されると解する方向にあった。しかし,その 法的根拠に対して,複数の批判的見解が見られた。まず,この問題の本質は,債権者に よる共同保証人のエクイティー上の「負担部分・求償権・代位権」の侵害にあるとする 主張である。すなわち,共同保証人の負担部分及び代位をめぐる権利は,その同意なし に「剥奪」できる性質の権利ではないとする主張である。また,「保証」は,債権者が保 有する「担保」の1つであり,債権者による担保の解除によって保証人は「一部免除」