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(1)

「適度に不一致」なブランド拡張戦略 : 階層ベイズ モデルによる知覚適合の再考

著者 西本 章宏

雑誌名 商学論究

巻 64

号 1

ページ 77‑95

発行年 2016‑07‑10

URL http://hdl.handle.net/10236/14856

(2)

はじめに

マーケターが、 市場に新製品を投入する方法は、 ブランド・マネジメント の観点から大きく2つある。 1つは、 新製品に対して、 新しいブランド・ネー ムを付与し、 全く新しいブランドを構築していく方法である。 もう1つは、

新製品に対して、 既存のブランド・ネームを付与し、 ブランド・ネームに埋 め込まれた、 これまでのマーケティング努力によるブランド価値の累積資産 (ブランド・エクイティ) を転移することによって、 消費者に新製品に対す

西 本 章 宏

「適度に不一致」 なブランド拡張戦略

階層ベイズモデルによる知覚適合の再考

− 77 − 要 旨

本研究では、 今日までに数多くのブランド拡張研究が蓄積されてきたに も関わらず、 実際にはその成功確率がなかなか改善されない現状を問題意 識として、 2つの新たな議論を提供することを研究の目的としている。 1 つは、 ブランド拡張戦略の成功には必要不可欠な知覚適合という概念の再 考である。 ここでは、 「適度な不一致」 という知覚適合の可能性について 議論する。 もう1つは、 より具体的な知覚適合のあり方を特定することで ある。 本研究では、 拡張元となる親ブランドと拡張された新製品の知覚適 合に 「適度な不一致」 を引き起こすための具体的なブランド認知要素を特 定することを試みる。

キーワード:ブランド拡張戦略 (Brand Extension)、 知覚適合 (Perceived Fit)、 適度な不一致 (Moderate Incongruity)、 2段階の情報 処理プロセス (Two-step Information Process)、 階層ベイズ モデル (Hierarchical Bayesian Model)

(3)

る知覚リスクを軽減させるブランド拡張戦略 (brand extension) がある (Aaker 1991)。 前者のアプローチを採用した場合、 ある事例では、 8,000万 ドルから1億5,000万ドル程度のマーケティング・コストがかかることが指 摘されている (Aaker and Keller 1990 ; Tauber 1988)。 それに対して、 後者 のアプローチは、 これまでのブランド価値の累積資産 (ブランド・エクイティ) を新製品に転移させることで、 上市の際に大幅なマーケティング・コストの 削減を見積もることができる (Keller and Aaker 1992)。 なぜならば、 すで にさまざまなマーケティング活動によってブランド価値がある程度構築され ているブランド・ネームだからこそ、 広告活動や取引コスト、 セールスプロ モーションなど、 新製品を上市させるために必要なマーケティング活動は、

全く新しいブランドを構築するほど必要とされないからである (Collins-

Dodd and Louviere 1999)。 本研究では、 市場に新製品を投入する効果的な

方法の1つとして、 ブランド拡張戦略に注目する。

本研究の第Ⅱ章では、 ブランド拡張戦略に関する代表的な先行研究を取り 上げ、 ブランド拡張研究で注目されてきた 「知覚適合」 という鍵概念につい て詳述し、 本研究の問題意識と研究の目的を示す。 第Ⅲ章では、 本研究が注 目するブランド拡張戦略として、 「適度に不一致」 なブランド拡張戦略の有 効性について詳述する。 第Ⅳ章では、 ヘアケアカテゴリーを分析対象として、

「適度に不一致」 なブランド拡張戦略を成功させるためのブランド認知要素 の特定を試みる。 そして最後に、 第Ⅴ章では、 今後の研究課題と方向性を示 して、 本研究のまとめとしたい。

問題意識と研究目的 21. ブランド拡張戦略とは

ブランド拡張戦略は、 新製品を上市させる際のマーケターの指針となる戦 略と呼ばれるほど、 効果的な市場参入の方法として採用されてきた (

Tauber

1988

)。 1980年代のアメリカでは、 上市された新製品のうち、 およそ81%が ブランド拡張戦略を採用していたという記録があるほどである。 たとえば、

(4)

1984年には、 1879年にこの世ではじめてブランド・ネームが付与された

P & G

社のアイボリー (Ivory) も、 固形石鹸からシャンプーへとブランド拡 張戦略を図っている。 このように、 ブランド拡張戦略は効果的な市場参入の 方 法 と し て 、 1980 年 代 以 降 に 多 く の 企 業 で 採 用 さ れ て き た 経 緯 が あ る (Aaker 1991)。 また、 このような状況を受けて、 1990年代以降には、 ブラン ド拡張研究が1つの重要なリサーチ・ドメインとして設定され、 多くの先行 研究が蓄積されていくことになった (Keller 2002)。

新製品の市場参入の方法として注目されてきたブランド拡張戦略であるが、

本研究で注目するブランド拡張戦略とは、 当該企業にとって、 異なる製品カ テゴリーに新製品を投入する場合、 既存の製品カテゴリーで採用されていた ブランド (parent brand) のブランド・ネームを新製品に付与することで、

新製品に対する消費者の知覚リスクを軽減させる市場参入戦略のことをいう (Chen and Liu 2004 ; Muroma and Saari 1996)。

22. ブランド拡張戦略の成功要因

ブランド拡張戦略の成功要因を明らかにしようと、 今日までに多くの先行 研究が蓄積されている。 その黎明期から注目されてきた成功要因の1つが

「知覚適合 (

perceived fit

)」 であった。 本節では、 知覚適合が注目されるよ うになった契機となる2つの先行研究を取り上げ、 本研究の問題意識と目的 を導出する。

ブランド拡張研究の黎明期の代表的研究の1つに

Aaker and Keller

(

1990

) がある。 ここでは、 ブランド拡張戦略の成功要因として知覚適合が注目され、

その先行条件として、 (1) 消費者が、 記憶内に親ブランドに対してポジティ ブな信念と好ましい態度を保持していること、 そして、 (2) これらのポジティ ブな連想が、 ブランド拡張に対してポジティブな信念と好ましい態度の形成 を促進させ、 (3) ネガティブな連想は、 ブランド拡張によって転移されない、

ことが仮定された。 そして、 知覚適合という概念をデマンドサイドとサプラ イサイドの観点から、 ブランド−製品間の補完性 (

complement

) と代替性

(5)

(substitute)、 親ブランドに対する連想が拡張された製品に転移することが 可能な程度を示す転移可能性 (transfer) という3次元の主効果と交互効果 からとらえるべきであることが主張されている。

もう1つの黎明期における代表的な研究に

Park, Milberg, and Lawson

(1991) がある。 ここでは、

Aaker and Keller

(1990) を発展させ、 知覚適合 とは、 知覚されたブランド−製品間の製品属性の類似性 (similarity) とブラ ンド・コンセプト (ブランドの使用状況など) の一貫性 (consistency) の合 成関数であることを主張している (Broniarczyk and Alba 1994)。

ブランド拡張研究の黎明期における2つの代表的な先行研究を見てみると、

拡張元となる親ブランドと拡張された新製品の知覚適合がブランド拡張戦略 の成功要因として注目されていることがよくわかる。 今日においても知覚適 合は、 ブランド拡張戦略の重要な成功要因として、 多くの先行研究でさまざ まな議論がなされている (Bottomley and Doyle 1996 ; Grime, Diamantopoulos,

and Smith 2001 ; Muroma and Saari 1996 ; Sunde and Brodie 1993)。 そこで、

第1図 ブランド拡張評価のプロセス

(出典)Park, Milberg, and Lawson(1991) ブランド拡張

に対する評価

ブランド拡張 に対する 知覚適合 知覚された

製品レベルの 類似性

知覚された コンセプトの

一貫性

ブランド X のコンセプト

拡張ブランド 製品 拡張ブランド

製品 既存ブランド X

の製品

(6)

本研究では 「知覚適合」 という概念を中心に、 ブランド拡張研究が発展を遂 げてきた経緯を受けて、 2つの新たな議論を提供することを研究の目的とし たい。

1つは、 知覚適合という概念の再考である。 これまでの先行研究では、 拡 張元となる親ブランドと拡張された新製品の知覚適合の高低だけが注目され てきたが、 どの程度の知覚適合が適当であるのかについては、 一定の収束し た見解は得られていない。 本研究では、 このことに注目し、 好ましい知覚適 合の程度についての議論を提供したい。

もう1つは、 より具体的な知覚適合のあり方である。 これまでの先行研究 では、 知覚適合はブランド拡張戦略の成功には必要不可欠な要因となること から、 その一般化が追求されてきたが、 個別のケースにはどのように知覚適 合をとらえていくべきかについては、 まだまだ議論が不十分である。 本研究 では、 このことに注目し、 具体的なマーケティング・ケースを取り上げて、

知覚適合の概念をどのように応用していけばいいのかについて新たな視点の 提供を試みたい。

このような研究目的を設定するに至った経緯には、 ブランド拡張戦略の成 功確率が未だに改善されない現状がある。 知覚適合を1つの鍵概念として、

今日までに数多くのブランド拡張研究が蓄積されてきたにも関わらず、 一般 消費財 (

FMCG : Fast-moving consumer good

) カテゴリーにおいては、 ブラ ンド拡張された新製品のおよそ80%が失敗に終わっているという報告もある

(

and Sattler 2006

)。 このような状況にある1つの原因として、 本

研究では、 先述した2つの点に注目したい。

つねに市場からの競争圧力を受け続け、 新製品開発に奔走するマーケター にとって必要な情報は、 具体的にどのような知覚適合に注目し、 どのような 要素 (製品属性やブランド・コンセプトなど) を拡張させれば、 ブランド拡 張戦略を成功させることができるのか、 ということではないだろうか。 また、

すでに上市が決定している新製品に対して、 ブランド拡張戦略を適用させな ければならない状況もあるだろう。 その際に、 ブランド拡張戦略を成功させ

(7)

るためには、 どのようにブランド拡張戦略を実行すればいいのか、 というこ とが重要になってくるのではないだろうか。 このようなマーケティング状況 の想定や問題意識を設定して、 ブランド拡張戦略のあり方を具体的に提示し ている先行研究は、 筆者がレビューした限りにおいてほとんどない。 つまり、

知覚適合という鍵概念を中心に発展してきたブランド拡張研究と、 実際のブ ランド拡張戦略の実行においては、 幾分の乖離が生じているのではないかと 考えている。 次章では、 このような状況を打開する1つの視点として、 「適 度な不一致」 という知覚適合の可能性について詳述したい。

「適度に不一致」 なブランド拡張戦略

31. 「適度な不一致」 に対する消費者の情報処理

本章では、

Mandler

(1982) によって創始された 「適度な不一致 (moderate

incongruity)」 という消費者の認知状態が、 ブランド拡張戦略の成功要因と

なる知覚適合の程度を議論するうえで有益な視点を提供してくれることを示 す (図2)。

「適度な不一致」 とは、 ある対象を消費者が認知する際に引き起こす1つ の認知状態のことである。 「適度な不一致」 とは、 その対象と事前に形成さ

事前に形成された期待 (手がかりカテゴリースキーマ) 完全に一致

カテゴリー ベース処理

カテゴリー水準 認知的変化なし

適度な不一致

ピースミール モード

属性水準 認知的精緻化

完全に不一致

スキーマ 転換

カテゴリー水準 認知的変化あり 認知状態

情報処理モード

認知水準と変化

第2図 適度な不一致

(出典)Meyers-Levy and Tybout(1989), Stayman, Alden, and Smith(1992) の内容に基づき筆者作成

(8)

れた期待によって能動化するスキーマ (手がかりカテゴリースキーマ) の合 致の程度が、 「完全に一致 (extreme congruity)」 するわけでもなく、 「完全 に不一致 (extreme incongruity)」 するわけでもなく、 「適度に不一致」 する 認知状態をさす (Meyers-Levy and Tybout 1989 ; Stayman, Alden, and Smith

1992)。 「適度に不一致」 な認知状態は、 消費者の情報処理プロセスにおい

て、 認知的精緻化 (cognitive elaboration) を引き起こすことが明らかにされ ている。 認知的精緻化とは、 能動化されたスキーマに対して 「完全に不一致」

する部分のみが、 断片的かつ分析的に情報処理 (ピースミールモード) され ることによって、 最小限の認知努力により、 対象に対する認知学習が促進さ れることをいう。

さらに、 認知的精緻化がなされる 「適度に不一致」 な認知状態を想定する ためには、

Fiske and Pavelchak

(1986) や

Smith, Shoben, and Rips

(1974) に よって言及されている2段階の情報処理プロセス (two-step information

process) の仮定が必要となってくる。 1段階目の情報処理プロセスとは、

対象に対して能動化されたスキーマが、 その対象を十分に識別することがで きるものであるかを考える。 その対象を識別することに成功した場合、 消費 者は能動化されたスキーマに埋め込まれている認知要素やその連想を当該対 象に反映させる。 つまり、 カテゴリーベース処理 (

category-based process- ing

) がなされた認知状態となる。 しかし、 カテゴリーベース処理が十分に 成功しなかった場合、 つまり、 能動化されたスキーマに対して対象が 「適度 に不一致」 だった場合には、 消費者は、 ピースミールモード (

piecemeal mode

) を駆動させ、 対象を断片的かつ分析的に情報処理しようとする認知 状態となる。 すなわち、 ピースミールモードによる情報処理プロセスが駆動 する処理段階が、 2段階目の情報処理プロセスに相当する。 以上のように、

「適度に不一致」 な認知状態が発生した場合は、 2段階の情報処理プロセス が駆動することにより、 通常よりも認知的な精緻化が当該対象に対して見込 まれ、 その結果として、 当該対象に対して消費者が好ましい態度を形成する ことが期待されるのである。

(9)

32. ブランド拡張戦略における 「適度な不一致」

ここでなぜ、 ブランド拡張研究に 「適度な不一致」 という概念を適用させ るかというと、 拡張元となる親ブランド (能動化されるスキーマ) に対して 拡張された新製品 (対象) を、 消費者が情報処理するケースが想定されるか らである。 つまり、 親ブランドに対して 「適度に不一致」 なブランド拡張戦 略が構築された場合、 消費者は、 親ブランドに関するスキーマを能動化させ、

それを拡張された新製品に反映させつつも、 親ブランドに対して 「完全に不 一致」 な拡張部分については、 ピースミールモードによる情報処理を駆動さ せることが想定されるからである。

「適度に不一致」 な認知状態と2段階の情報処理プロセスをブランド拡張 研究に反映させた先行研究に

Boush and Loken

(1991) がある。

Boush and

Loken

(1991) では、 拡張されたブランドに対して知覚された典型性 (per-

ceived typicality) が、 典型的 (typical) なのか、 非典型的 (atypical) なのか、

それとも適度に典型的 (moderately typical) であるのかによって、 拡張され た新製品に対する消費者の情報処理プロセスが異なることを仮定している1)。 そして、 「適度に不一致」 なブランド拡張に相当する 「適度に典型的」 な ブランド拡張戦略によって、 ピースミールモードによる情報処理プロセスが 駆動していることを実証している。 ただし、 「適度に不一致」 なブランド拡 張戦略そのものは、 拡張された新製品に対する消費者の評価には、 直接的な 影響を及ぼしていないことも確かめられている。 当該ブランド拡張戦略に対 する消費者の発言数などから、 最も認知的精緻化がなされたことは支持され たのだが、 その結果、 拡張された新製品に対して、 消費者は最も好ましい態 度 (評価) を形成することはなかったのである (図3)。

つまり、 「適度な不一致」 という認知状態を引き起こすだけでは不十分で あり、 拡張された新製品に対して好ましい態度形成を導くためには、 知覚適 1) さらに、 拡張元である親ブランドに対しても、 ブランド拡張の幅広さ (brand breath) という仮定を置いている。 つまり、 これまで拡張されてきたカテゴリーの領域 (幅) の広狭が、 以後のブランド拡張戦略に対して知覚される典型性に影響を及ぼすことを 仮定しているのである。

(10)

合 の 程 度 に 加 え て 、 異 な っ た 視 点 が 必 要 に な っ て く る と 考 え ら れ る

(

and Sattler 2006)。 そこで、 本研究では、 知覚適合の程度に加え

て、 そのような知覚適合から消費者の好ましい態度 (評価) を引き出すため に必要な具体的な要素の特定を試みていきたい。 次章では、 「適度に不一致」

なブランド拡張戦略が、 拡張された新製品に対して好ましい態度形成を引き 起こすことを検証し、 そのような状況を形成するための具体的な要素を特定 するための分析枠組みを詳述していきたい。

実証分析

41. 分析対象とデータ

本分析では、 分析対象ブランドとして、 資生堂

TSUBAKI

を採用している。

今回、 資生堂

TSUBAKI

を分析対象ブランドとして採用した理由は、 2つあ る2)。 1つは、 ブランド拡張戦略の基盤として相応しいブランド・エクイティ を構築しているブランドだからである。 資生堂

TSUBAKI

は、 2006年5月の 市場参入以来、 初年度には約50億円ものマーケティング・コミュニケーショ ン・コストを費やすなど、 今日に至るまでにかなり積極的なマーケティング

2) 本分析は、 2010年4月に実施されたものであり、 本章におけるすべての記述はその当 時の状況である。

第3図 ブランド拡張の典型性が消費者の情報処理と態度へ及ぼす影響

(出典)Boush and Loken(1991) 1

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18

20 単位:Pct.ピースミールモードによる反応

2 3 4 5 6 7

知覚されたブランド拡張の典型性

0 1

知覚されたブランド拡張の典型性 ブランド拡張に対する態度評価

2 4 6 8 10 12 14

2 3 4 5 6 7

実線 (■):製品ラインが限定的なブランド、 点線 (○):製品ラインが幅広いブランド、

点線 (△):全体

(11)

活動がなされてきたブランドである。 そして、 資生堂

TSUBAKI

は、 市場に 参入してから一貫して 「艶のある髪をつくる」 ことを1つのバリュー・プロ ポジションとして訴求してきた。 そのため、 他の高級シャンプーと比較して も、 「艶のある髪をつくる」 ブランドとして、 消費者からも支持されている (

TSUBAKI :

3

.

96

vs. PANTEN :

3

.

92

vs. ASIENCE :

3

.

79

vs. VIDAL SASSOON :

3

.

66

vs. SALA :

3

.

48

;

(4

,

495)=2

.

39

,

.

001) (図4)。 つまり、 ブランド を拡張させるために、 親ブランドとしての拡張基盤 (ブランド・エクイティ) を十分に構築しているブランドであると判断することができる。 もう1つの 理由は、 現在 (2010年4月当時) の資生堂

TSUBAKI

の製品ラインにある。

広く一般的なヘアケアカテゴリーにおいて、 2005年ごろより洗い流さないタ イプのトリートメント剤として、 アウトバストリートメントが市場ではその 盛り上がりを見せ、 各ブランドが積極的に製品ラインを設けている。 しかし、

2010年4月時点では、 資生堂

TSUBAKI

は、 アウトバストリートメントには ブランドを拡張させていない数少ないトップブランドの1つであった。 そこ で、 仮に資生堂

TSUBAKI

がアウトバストリートメントにブランド拡張する ことを想定し、 資生堂

TSUBAKI

として、 どのようにアウトバストリートメ ントをブランド拡張させるべきか、 そして、 ブランド拡張戦略を成功させる ためには、 具体的にどのような要素 (

USP : Unique Selling Proposition

) が

第4図 一元配置分散分析:「艶のある髪をつくる」 ブランド評価

3.2

縦軸:「艶のある髪をつくる」 ブランドとしての消費者評価、 横軸:ブランド (TSUBAKI :3.96vs. PANTEN :3.92vs. ASIENCE :3.79vs. VS :3.66 SALA :3.48;

(4,495)=2.39,<.001)

TSUBAKI PANTENE ASIENCE VS SALA 3.3

3.4 3.5 3.6 3.7 3.8 3.9 4

(12)

必要であるのを特定していきたい。

インターネット調査によって、 インバスヘアケアとアウトバストリートメ ント両製品の使用経験者100名 (平均年齢:25.5歳) の女性からデータを収 集した (2010年4月実施)。 収集されたデータの内容は、 資生堂

TSUBAKI

に関するブランド認知要素への評価と、 拡張先であるアウトバストリートメ ント・カテゴリーにおける一般的な認知要素に対する資生堂

TSUBAKI

とし ての評価、 拡張ブランドである資生堂

TSUBAKI

のアウトバストリートメン トに対する購買意向、 そして、 資生堂

TSUBAKI

のインバスヘアケア (親ブ ランド) とアウトバストリートメント (拡張された新製品) の知覚適合であ る。

42. 分析1:「適度に不一致」 なブランド拡張戦略に対する消費者評価 まずはじめに、 資生堂

TSUBAKI

のインバスヘアケアとアウトバストリー トメントの知覚適合に関するデータをもとに、 資生堂

TSUBAKI

がアウトバ ストリートメントへブランド拡張することに対して 「適度に不一致」 な認知 状態を形成する消費者クラスターを抽出した。 認知状態が異なる各クラスター 間のブランド拡張に対する評価には有意差があり、 ブランド拡張戦略に対す る認知状態が 「適度に不一致」 であるクラスターにおいて、 拡張された新製 品 (アウトバストリートメント) に対する評価が最も高いことを確認するこ とができた (完全一致:3

.

380

vs.

適度な不一致:3

.

667

vs.

完全不一致:

2

.

333

;

(2

,

97)=2

.

551

,

.

1) (図5)。

そこで以下では、 インバスヘアケアからアウトバストリートメントへのブ ランド拡張戦略が 「適度に不一致」 なブランド拡張戦略として成功するため には、 具体的にどのようなブランド認知要素 (

USP

) が必要になってくるの かを特定していきたい。

43. 分析2:「適度に不一致」 なブランド拡張戦略の成功要因

本分析では、 資生堂

TSUBAKI

が、 親ブランド (インバスヘアケアの資生

(13)

TSUBAKI) のバリュー・プロポジションを基盤として、 アウトバストリー

トメントへ 「適度に不一致」 なブランド拡張戦略によって成功していくため に必要なブランド認知要素 (

USP

) を特定することを試みていく。

「適度な不一致」 には、 2段階の情報処理プロセスを仮定することは、 先 述したとおりである。 つまり、 「適度に不一致」 に拡張された新製品に対す る消費者評価においても、 2段階の情報処理プロセスを仮定しなければなら ない。 そこで、 本分析では、 「適度に不一致」 なブランド拡張戦略によって 成 功 し て い く た め に 必 要 な ブ ラ ン ド 認 知 要 素 を 特 定 し て い く た め に 、

MCMC

(マルコフ連鎖モンテカルロ) 法による階層ベイズモデルによる分 析枠組みを提案する。

下層モデルには、 資生堂

TSUBAKI

のブランド拡張先であるアウトバスト リートメントに関する一般的な認知要素を束ねたベクトル が、 資生堂

TSUBAKI

のアウトバストリートメントへのブランド拡張 に対する認知状態の消費者の購買意向に 影響を与えることを仮定している。 以上より、 下層モデルは、 以下のような

第5図 一元配置分散分析:資生堂TSUBAKIのブランド拡張戦略に対する 消費者評価

2

縦軸:ブランド拡張に対する消費者評価

横軸:知覚されたブランド拡張に対する消費者の認知状態

(完全一致=3.380vs.適度な不一致=3.667vs.完全不一致=2.333;(2,97)=2.551,.1) 完全一致 適度な不一致 完全不一致

3 4

(14)

回帰方程式となる (式)。

次に、 上層モデルの説明変数の設定について詳述していきたい。 本分析で は、 「適度に不一致」 なブランド拡張戦略によって成功していくために必要 なブランド認知要素を特定し、 具体的なマーケティング・アクションの指針 を与えていきたい。 そこで、 上層モデルの説明変数には、 インバスヘアケア における資生堂

TSUBAKI

のバリュー・プロポジションである 「艶のある髪 をつくる」 というブランド認知要素 (USP) を拡張基盤となる変数として設 定する。 そうすることで、 上層モデルの説明変数 として設定された資生堂

TSUBAKI

のバリュー・プロポジション が、 アウトバス

トリートメントへの拡張に対する消費者の認知状態ごとのブランド認知 要素に拡張基盤 (親ブランドのブランド・エクイティ) として影響を与 え る 関 係 を 規 定 す る こ と が で き る 。 つ ま り 、 拡 張 基 盤 で あ る 資 生 堂

TSUBAKI

のバリュー・プロポジションを考慮しつつ、 アウトバストリート

メントへ 「適度に不一致」 なブランド拡張を実行するためには、 どのような ブランド認知要素 (USP) を与えていくべきかを特定し、 そのパフォーマン ス・ベクトルを予測することができるのである。

以上より、 「適度に不一致」 なブランド拡張戦略を成功させるために必要 なブランド認知要素 (

USP

) を特定するために、 拡張基盤である資生堂

TSUBAKI

のバリュー・プロポジションに対する消費者評価をハイパーパラ

メーターとして規定する上層モデルは、 以下のような回帰方程式となる (式)。

以上のように、 階層ベイズモデルを用いた分析枠組みによって、 「適度に 不一致」 なブランド拡張戦略を成功させるための具体的なブランド認知要素 の特定と、 そのパフォーマンスを予測していく (式)。

(15)

また各パラメーターのサンプリングに関しては、

MCMC

(マルコフ連鎖 モンテカルロ) 法によるギブスサンプリングを11,000回実行しており、 はじ めの1,000回は初期値の影響がなくなるまでの稼働検査期間として廃棄し、

その後の10,000回をサンプルとして収集している。

44. 分析結果

本節では、 「適度に不一致」 なブランド拡張戦略として成功させるための 具体的なブランド認知要素の特定と、 そのパフォーマンスについて考察をし ていく。 推定結果は、 表1のようになった。 上段が、 資生堂

TSUBAKI

がア ウトバストリートメントへブランド拡張することに対して認知状態が 「完全 に一致」 している消費者クラスターの推定結果である。 下段は、 同様に 「適 度に不一致」 な認知状態となる消費者クラスターの推定結果である。 表1よ り、 資生堂

TSUBAKI

のブランド拡張戦略に対して、 認知状態が 「完全に一 致」 している消費者は、 とくにアウトバストリートメントへブランド拡張す る際に効果的なブランド認知要素はなかった。 このことは、 ブランド拡張戦 略に対して認知状態が完全に一致していることから、 拡張された新製品 (ア ウトバストリートメント) に関する新たなブランド認知要素 (

USP

) を補完 する必要がないことを示している。

その一方で、 注目すべきは、 資生堂

TSUBAKI

のブランド拡張に対して、

認知状態が 「適度に不一致」 している消費者である。 資生堂

TSUBAKI

「適度に不一致」 なブランド拡張を成功させるためには、 「艶のある髪をつく る」 というバリュー・プロポジションを拡張基盤に、 「髪を乾燥からまもっ てくれる」 というブランド認知要素 (

USP

) を与えることができれば、 高い 確率で拡張された新製品に対して消費者評価を高めることができることを示 している (事後平均:1

.

155

, Ratio

:2

.

438)。 このことは、 「適度に不一致」

(16)

第1表推定結果:上段:完全一致、下段:適度な不一致 事後平均事後SD2.5%点Median97.5%点RatioGewekep 完全一致

切片0.8082.5054.0950.8095.7860.3220.505 少量でしっかりと髪をコート0.1660.7521.6490.1671.3400.2200.502 髪の内側に栄養成分0.8550.7600.6600.8542.3641.1250.501 ツルツル質感の髪0.1190.4500.7760.1201.0090.2640.504 サラサラ質感の髪0.2880.5880.8640.2841.4610.4900.501 しっとりとした質感の髪0.1220.7101.5100.1261.2750.1720.501 やわらかな質感の髪0.7661.4303.5800.7702.0690.5360.503 まとまった質感の髪0.0780.8481.7670.0741.5830.0920.504 乾燥から髪をまもる0.5671.4092.2110.5703.3880.4020.505 適度な不一致

切片0.5352.0474.5700.5533.5100.2610.514 少量でしっかりと髪をコート0.0800.4570.9840.0800.8210.1760.501 髪の内側に栄養成分0.5410.7020.8420.5421.9280.7710.502 ツルツル質感の髪0.0070.3470.6790.0070.7000.0200.500 サラサラ質感の髪0.6510.4820.3140.6551.5901.3520.506 しっとりとした質感の髪0.3910.5720.7440.3931.5170.6840.513 やわらかな質感の髪0.5300.8862.2750.5351.2210.5980.505 まとまった質感の髪0.9320.5482.0130.9280.1421.7010.507 乾燥から髪をまもる1.1550.4740.2121.1582.0892.4380.501 事後平均:サンプルの平均値、事後SD:サンプルの標準偏差、2.5点:サンプルをソートしたときの2.5%点、Median:サンプルの中央値、 97.5%点:サンプルをソートしたときの97.5%点、Ratio:事後平均を事後SDで除した値、Gewekep:サンプルの前半10%と後半50%で、 ラメーターの期待値が同じかどうかを仮説検定した値。

(17)

なブランド拡張戦略を成功させるにあたっての解釈として、 「艶のある髪を つくる」 というバリュー・プロポジションを拡張基盤として、 「髪をツルツ ルの質感に仕上げてくれる」 や 「髪の内側に栄養成分を与えてくれる」 といっ た、 拡張基盤と一貫性が高いブランド認知要素 (USP) よりも、 「髪を乾燥 からまもってくれる」 ことを訴求するほうが好ましいことを示している。

今後の研究課題と方向性

本研究では、 今日までに数多くのブランド拡張研究が蓄積されてきたにも 関わらず、 実際にはその成功確率がなかなか改善されない現状を問題意識と して、 2つの新たな議論を提供することを研究の目的としてきた。 1つは、

ブランド拡張戦略の重要な成功要因となる知覚適合という概念の再考であっ た。 本研究では、 「適度な不一致」 という知覚適合の程度が、 拡張された新 製品に対する消費者の評価に効果的な影響を及ぼす可能性を実証分析におい て示すことができた。 もう1つは、 より具体的な知覚適合のあり方を特定す ることであった。 本研究では、 拡張元となる親ブランドと拡張された新製品 の知覚適合に 「適度な不一致」 を引き起こすための具体的なブランド認知要 素を特定することを試み、 個別のマーケティング・ケースを分析対象とし、

「適度な不一致」 に対する消費者の2段階の情報処理プロセスを階層ベイズ モデルに反映させ、 拡張された新製品に対してどのようなブランド認知要素 を与えてやることが 「適度に不一致」 なブランド拡張戦略を引き起こすのか を示した。

今後の研究課題としては、 どのような競争コンテクストでブランド拡張戦 略を採用していくべきかを考えることが、 ブランド拡張戦略の成功確率を高 めるための一助となることが考えられる。 本分析においても、 あくまでも資

生堂

TSUBAKI

における親ブランド (インバスヘアケア) と拡張された新製

品 (アウトバストリートメント) の関係性にのみ注目してきた。 しかし、 実 際には、 多くの競合ブランドとのマーケティング競争の中で、 ブランド拡張 戦略の採用の是非は決定される (

Klink and Smith 2001

)。 このような競争バ

(18)

イアスを考慮しなければ、 適切な市場参入の意思決定を下すことはできない。

たとえば、

Kumar

(2005) では、 ブランド拡張戦略が採用される一状況とし て、 ブランド・カウンター・エクステンションという状況があることを示し ている。 ブランド・カウンター・エクステンションとは、 カテゴリー

A

の 親ブランド

A1 のブランド・ネームを用いて、 カテゴリー B

に参入した新製

A2 に対して、 カテゴリー B

の親ブランド

B1 がカテゴリー A

に新製品

B2 を投入するといった状況のことである。 実際に本分析で用いた資生堂

TSUBAKI

の場合も、 2006年3月に上市された親ブランド (ヘアケアカテゴ

リー) に対して、 2007年9月に

P & G

社が競合ブランド (h & s) を発売し ている。 さらに

h & s

は、 2008年4月にヘッドスパ・カテゴリーに拡張され た新製品を投入したが、 そこに資生堂

TSUBAKI

は2010年3月に同様の新製 品をブランド拡張戦略によって投入するといった構図となっている。 このよ うに競争のコンテクストを考慮すれば、 より適切な市場参入の意思決定とし てのブランド拡張戦略を描くことができるのではないだろうか。 以上、 今後 の研究課題と方向性を示したところで、 本研究のまとめとしたい。

(筆者は関西学院大学商学部准教授)

<付記>

本研究は、 JSPS科研費 (若手研究 (B) 課題番号:16K17202) の助成を受けたもので ある。

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参照

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