倭面面69第齢44鵜)
〔症例検討会〕
排尿障害と貧一血を主症状とした1症例 一幅人工腎臓について一一
日 時 昭和44年2月28日(金)
.場 所 東京女子医科大学本部講堂
(発言者)司会
泌尿器科:梅
泌尿器科受持:吉 小坂内科受持:小
第一病理:平 小坂内科:高 泌尿器科:河 小坂内科:小 第一外科:榊
文 責=吉
津 隆 田 美 喜 田 桐 玲
山 肥 三 野 南 坂 樹
原 田 聰
(受付 昭和44年5月2!日)
子教 三 子助教授 子等 手 章助教授
麿講 恥辱講 師 徳教 授 任教 授
子梅津:本日は69才,男子で排尿障害を訴え,下 腹部腫瘤,貧血を近医に指摘されて,小坂内科に 入院し,諸検査の結果手術のため泌尿器科に転科 した症例について検討したいと思います.まず泌 尿器科の受持医吉田先生に病歴などをお願いしま
す.
吉田:患者は69才の男子,主訴は体重減少,全 身倦怠感および排尿障害でございます,初診は昭 和43年7月30日,家族歴は父および兄弟の一人が 腹部腫瘍で死亡している以外に特別の事はござい ません.既往歴としては,20年来排尿障害があ
り,61才の時前立腺肥大症の診断をうけ手術をす すめられましたが放置,6年来1日20〜30回にお
よぶ頻尿を訴えております.65才の時,言語障 害,顔面神経麻痺が突然現われ,脳軟化症の診断 のもとに約40日間,日大病院に入院しておりま
Clinico一 Patholegical Conference (65)
一Supplement:
す.当時の血圧は最高150㎜㎎であったとの事で ございます.現病歴を申し上げます.昭和43年6 月頃半月で約10㎏に及ぶ体重減少を認め, 7月 初旬黒色便に気付きましたが普通便の事もありま
したので放置,7月中旬頃から身のおき場もない 程の全身倦怠感に襲われ,はなはだしい食欲不振 が加わりましたので近医を受診いたしましたとこ ろ,貧血と下腹部腫瘤を指摘されましたので直ち に小坂内科に入院,7月31日排尿障害を主訴とし て泌尿器科を受診されました.
梅津:ひきつづいて小坂内科の主治医の小田桐 先生,内科的所見をお願いします.
小田桐:小坂内科入院経過は表1,2,3,4,
図1に示しましたのでお分りいただけると患いま
す.
入院時所見:身長158cm,体重49㎏、体格中
A case complained of dysuria and anemia.
Basic matters of the artificial kidney一
一550一
表1.血液所見
30/7 3/8 8/8 26/8 9/9 7/9 24/9 1/10
ヘモグnビン9 /dl 赤 血 球 ×104
白 血 球
血小板×104 網 状赤血球
血
液
好中球 桿状核 分葉核 好酸球
好塩基球 像 リンパ球
o%
単 球 そ の 他
6.5
244 8500 23 59000
5
5.4 170 11000
5.9
209 4000
70 1 4 15 5
6 70 1 o 19 4
5.2 199
6.2 7.4
23劉 283
4300 4100 14
4 5
72 2 o 17 5
70 2 o 20 3
9.2
342 6000 12
10 352 3800 4 66400
2 29 3
55 11 出血時間=2分
凝固時間:開始6分30秒
トロンボテスト100% 終了12分 等度,栄養やや不良,顔貌浮腫状,皮膚蒼白乾 燥,脈拍78/分整,緊張良.血圧14G/go.至険浮 腫状,左側下垂を軽度に認む,右側正常.眼験結 膜高度貧血,球結膜黄疸なしt瞳孔両側正円形,
大きさ正常,対空反射迅速.舌白苔あり.口唇 チアノーゼ認めず.口腔内粘膜出血等認めず.
頚部,液窩リンパ節腫大なし.そけい部両側小豆 大〜大豆大のリンパ節2,3個触知.頚部ノンネン ザウゼソ著明.胸部,弓打聴診上異常認めず.心 臓,大きさ右界,胸骨右縁,上界,第III肋骨上,
左界,左中鎖骨線より2横指外側.心音,肺動 脈丑音充進,心尖部収縮期レバインfi度.肺肝境 界第VI肋間.腹部軽度膨隆,軽度鼓腸,肝は3横 指やや硬く触れる.脾,腎は触知し得ず.下腹部 恥骨部境界鮮明,小児頭大の腫瘤を触れ,軽い圧 痛と強く圧迫すると尿意を訴えた.下肢に浮腫は 認められず.神経学的には上肢両側ともに正常.
アキレス腱反射,膝蓋腱反射ともに左右減弱,病 的反射は認められませんでした.
入院時検査成績:血液:一般:.血色素6。59/dL 赤血球数244×104.白血球数8,500.血小板23
×104.網状赤血球59,000.血液像,好中球は桿 状核5%,分葉核71%,好酸球1%,好塩基球4
%,リンパ球15%,単球5%.出血時間2分.凝 固時間は開始6分30秒,終了12分.トロンボテス
ト100%.血清鉄47γldi.血沈1時間44㎜,2時 間90mm(表1).
尿検査:反応酸性,混油あり,比重1017,タン パク(士)糖(±),ウロビリノーゲン(十),沈渣 は白血球5〜6/1視野,赤血球1〜2/1視野,
扁平上皮1/1視野,細菌陽性,培養でStaphy16 albus 100%検出される(表2).
糞便1回虫,十二指腸虫卵を認めず.潜血反 応,ベンチジン法(+),ピラミドン法(+) (表
3).
血清反応:梅毒反応陰性,CRP 3+, ASL−0,
RAともに陰性.クームス陰性.
理化学検査:総タンパク6.49 /dl, アルブミ ン56%,γ一グロブリン21%,A/G 1,3, Na 141 mEq/L, K 6.OmEq〆L, Cl 114mEqfL,総コレス テP一ル158mg翅,リポイドP6.7mg/dl, L D H 80単位.
肝機能検査:GOT7, GPT5単位.総ビリ
ルビン0.3mg畑,クンケル10.2単位,アルカリ性 ボスファターゼ5 mg /dl, CCF (一),ルゴール(一) (表4).
腎機能検査:PSP2時間総量7%, Fishberg 濃縮試験最大1012, (他は排尿障害のため施行し
えず).
胸部レントゲン所見は,心肥大,大動脈弓軽度
一 551 一
表2.尿検査所見
30/7 8/8 12!8 25/9
反 応 酸 性 酸 性 酸 性 酸 性
iiL/iLlio . 1
混 濁
比 重
タ ン パ ク 糖 ウロピリノーゲン 沈
渣
扁平上皮
白 血 球 赤 血 肝 腎 上 皮
細 菌
1017
(十)
1/1視 5〜6/1視 1〜2/1視
10i2
Qt).
3〜4/1視 7〜8/1視 5〜6/1視
十 1014
十
(十)
1〜2/1視 4〜5/1視 7〜2/1視 1/全視 Staphyl. albus 1000/o
十 1012
十
(十)
2〜3/1視 7〜8/1視 1〜2/1視
E. coli 900/o
ア ル カ リ
± 1015
±
(十)
1〜2/1視 12〜13/1視 1〜2/1視
表3.糞便潜血反応 表4.血清化学的検査
ペンチジソ ピラ ドソ
31/7 12/8 16/8 17/8 18/8 3/9 14/9 21/9
十
十
十
十 十
突出,軽度肺紋理増強がみられるほかに異常豫は みられない.心電図では両室肥大,心筋障害が認 められました.
現丁字で黒色便あり,出血性の貧血を疑い消化 管を中心に精査しました.食道透視では異常認め
られず.胃では胃角小蛮に壁の固さと変形が認め られたため,胃ファイバースコープ施行,生検し ましたが,慢性胃炎の所見で悪性変化は認められ ませんでした.腸管透視では,.下腹部の腫瘤をさ け,バリウムの通過が認められるほかには異常所 見ありませんでした.また外科においてロマノス
コープ施行しましたが,肛門より25cmまでは異常 認められず,内痔核が6時,12時の方向にみられ るのみでした.右そけいリンパ節摘出を行ない病 理組織学的には悪性所見は見られませんでした.
胸骨より骨髄穿刺を行ない,細胞数85,000で,
赤血球の成熟障害,白応球系の増殖のほかは悪性 所見は見られませんでした.
30/7 115/81 26/8 13/91 16/9 f 5/10
総タンパク9/dl ア・ルブミン%
γグロブリン%
AIG
Na mEq/l K 1!
CI 、ク
GOT GOT
アルカリ性 ホスファターゼ
貌ど歪・・/dl リ ポ イ ド P
総ビリルピン
ク ソ ケ ル
LDH
6.4 56 21
1.3i
141
6.Ol・ 5.7 114
7 5 5 158
6.7 O.3
80
53 23
1.1
142 12.2
6 137
6.6
53 22
Ll
彌.
1
10.154 23
1.2 7.5
53 22
1.1
142 5.81 5.9
134 109
25 13 7 136
O.3 9.2
眼底所見は両眼ともにSklerose皿, Hyperten−
sion H度(Scheie分類),白斑が認められました.
入院後,排尿回数は1日15〜20回で,尿量減 少,尿比重低く,下腹部圧迫により尿意あり,泌 尿器科を受診しております.後に泌尿器科よりご 説明いただきます.腎機能検査で前に述べました ように異常二値を示し,静脈二二孟造影を2度試 みましたが,全く腎臓は造影できず,膀胱造影も 施行しましたが,腎後性尿毒症特有の膀胱尿管逆 流現象は証明しえませんでした.内科的に諸種検 査により腎後性尿毒症と診断し,留置カテーテル
一 552 一
N.P.N.
UreaN. Hb.
fTta(Ge
150
100
50
o
2/de 15
抗生物 ペンフランSi,200m kXi ・・
几生物質ケフロ=/ ;2 注 中止
占ラソ1タ4ロ50cc+ペレストソN10 cc 輸血200cc
留置カテーテル t.x.
X,i 曾ぎ tl li XN
10 dil x
1 X N.P.N.
t
麗一一 r一_疇 U rea.N. i 一一一 X
一 1 x aj x
N N Hb,
N N.
5
N
b一.. 一凧 N
N N
ロへ
むも ノ へ
、\隔_一一./ 、\/ノ罵
へ 〆ゑ一ぜ/ 、や
避
尿量
尿 量 cc 5.000
4,000 3,000 2,000 1,000
7月8月
30日1 10 20 9月
30Bi 10 20 10目30日1 4日 図1.手術前の尿量,NPN, Urea Nと治療
と水利尿のため輸液を施行し,尿量増加と同時に 血清NPN,尿素Nの低下を認めました.貧血に 対しては鉄剤を投与しましたが貧血改善認められ ず,血清NPN,尿素N,Kの動きを観察しなが
ら輸血を行ない,貧血は徐々に改善され,血清N PN,尿素N,Kの上昇を認められぬため泌尿器 科で前立腺摘出術を行なうべく転科致しました
(図1).
梅津:ありがとうございました.以上をまとめ ますと,8年前に前立腺肥大症を指摘され,6年 来頻尿が著明となり,1日20〜30回を数え,これ は奇異性尿失禁と思われます.検査所見としては 高度の貧血と腎機能障害があります.貧血は図1 にみられるようにヘモグロビンは5.2から5.99
/dl,赤血球数は170から200万前後.腎機能につ
いてはUreaNおよびNPNの高度の上昇. PS
Pの低下がみられ,Urea ratioは70%から80%と高 く,そのほかの血清化学的検査ではKが少々高い かと思われる程度ですが,留置カテーテル設置後 は図1にみられるようにUreaNもNPN, Urea ra・
tioも目立って下降し,これと同時に尿量の著明な
増加がみられ,さらに輸血を加えることによって 一段と腎機能は改善されているということです.
貧血のために病理の方で骨髄の検査をしていた だいたようですが,平山先生に説明をお願い致し
ます.
平山:病理に提出された骨髄組織はやや乾燥ぎ みの状態であり,標本を見ても細いことが判りに
くい点が多かったのですが,造血細胞の量は写真 1のごとく大体普通でhypoplastischとは考えら れません.そして,骨髄細胞の分布状況をみます
隈
写真1.骨髄標本(弱拡大,H・E染色)写真2.骨髄(中拡大,H・E染色)
とかなり多彩であり,殊に赤芽球系の細胞が多い ことが目につきます.赤芽球系細胞の内容をみる と,核/原形質比が多く,また,原形質に対して 核の成熟度が一致しない.いわゆる成熟障害像を 示す赤芽球が多いほか,一方では同じぐらいの成 熟度を示すものでもかなりその大きさに大小があ
り,このことに大型のものが多い点,何かこの赤 芽球成熟障害が単純な鉄欠乏性貧血などのような 一つの因子の障害といった原因だけでなく,いく つかの因子がからみ合って貧血がおこってきてい
るのではないかと想像される訳です.
二二系に関してはやはり多彩な印象を受けます が,この多彩さは未熟細胞の軽度増加と成熟形の 増加が主であり(写真2),いわゆる骨髄穎粒系の 右方偏位と言った状態を示しており,感染に対す
る反応の一様式と考えます.
梅津:ありがとうございました.泌尿器科の初 診は7月31日になっておりますが,泌尿器科的検 査所見など吉田先生にお願いします.
吉田=泌尿器科的所見といたしまして,両腎と もに下極が触れておりますが,それ以外特別の所 見はみられません.膀胱部は膀下3横指まで半球 状に膨隆し,全体に論叢を呈しておりますが特に 圧痛はございません.しかし強く圧迫すると尿意 を訴えます.前立腺は左葉は鷲卵大,弾力性硬,
平滑,圧痛はございません.右葉はくるみ大,扁 平,平滑で弾力性硬を呈し,両葉間溝は触知不能 でありました.自然排尿はほとんど見られません でしたので,まず導尿をこころみましたところ,
ネラトン氏カテーテル10号は楽に膀胱まで挿入す ることができました.カテーテルの挿入,抜去に 際しましては,前立腺癌を疑わせる抵抗感はみら 一554一
れません.この時の残尿は750mlであります.
膀胱鏡所見=初診時でございますが,膀胱容量 は200CC以上,後壁,上灘,側壁に肉柱形成が目 立ち,膀胱粘膜は軽度の充血があり血管の走行は やや不鮮明であります,前立腺は三角部を被うご とく膀胱内に突出しておりますために両側尿管口 は確認することができませんでした.青排出試験 は両側ともに10分以上経過しましたが排泄は認め
られませんでした.
レントゲン検査所見を申しあげますと,スライ
写真3,経静脈性腎孟撮影強化法
写真4,膀胱撮影(術前)
笛豹
写真5.尿道撮影(術前)
ドをお願いします.静脈性腎孟撮影ですが20分で 造影がみられませんでした.次のスライドをお願 いします.これは経静脈性置去撮影強化法と申し まして,造影剤100mlを5%ブドウ糖100mlに 入れまして急速に点滴静注をしたものです。良く 写っておりませんが両側ともに呼時,尿管に高度 の拡張がみられます(写真3).次のスライドをお 願いします(写真4)。これは膀胱撮影です.もう
1つお願いします。膀胱は不規則三角形で仮性憩 室が多発し,膀胱底の挙上が見られます.
尿道撮影をお願いします.これは尿道撮影でご ざいますが,後尿道の高度の延長がみられます.
(写真5)膀胱尿管逆流現象はみられません.
梅津:ありがとうございました.ただ今申し上 げました泌尿器科的検査の結果の主なことをまと めてみますと,両腎が触れること.残尿が極めて 多く,初診の時には750mlでございました.前 立腺は直腸内触診で相当大きくなっていること.
レ線写真が良くなくて,わかりにくかったかと思 いますが,膀胱底部の挙上.膀胱辺縁に多数の仮 性憩室を見ることから明らかに排尿障害があると 思われます.腎孟撮影につきましても今の写真も 感心した写真ではございませんが,尿管,腎孟と もに拡張,潮懸の拡張も見られます.こういつた 状態でその後の経過を吉田先生に少し話していた
だきます.
吉田:外来の時から自然排尿はほとんどありま せんでしたので,フオーレ氏カテーテルで持続カ テーテルといたしまして,膀胱洗浄などを行なっ ておりましたが,10月5日小坂内科から泌尿器科 へ転科致しました.引きつづいて持続カテーテ ル,膀胱洗浄を行なうとともに全身的には点滴な どを行ない一般状態良好,腎機能,貧血等は手術 に耐えるまで改善されましたので,10月24日全麻 の下に前立腺摘出術を行ないました.
梅津:続いて手術所見もお願いします.
吉田:手術はFreyerの方法で行ないました.
前立腺は三葉ともに肥大し内尿道口をふさぐよう に膀胱内に突出していますが,結節状になってお り,凹凸不平で千葉は塊状に摘出することができ ましたが,その他は結節ごとに摘出し,膀胱頚部 からちぎる様な恰好となり,出血多量となりまし たので,2時,4時,8時,10時の方向でCatgut OOで縫合止血致しましたが充分に止血できませ んでしたが,フオーレ氏カテーテルを留置した後 hot packingでかろうじて止血し得ました.周囲 に癒着なく悪性の所見は見られませんでした.手 術時の出血量は3000ml,輸血2,000ml・前立腺重 量:は359でございました.
梅津:どうもありがとうございました.この症 例はプリントに診断は書いてございますように前 立腺肥大症でございますが,著明な腎機能障害が 認められること,それが留置カテーテルを置いて 残尿を排除するこにによってどんどんと腎機能が 回復してまいりましたので,これは手術のIndik−
ationであるということで手術を行なった訳で,
摘出しました前立腺重量は359でございますが,
病理組織学的所見をまた平山先生お願い致しま
す.
平山:前立腺の組織像はごく普通の前立腺肥大 症であり(写真6),腺組織の増殖,一一部の嚢状拡 大のほか間質はfibromuscular stromaの増殖,
拡大が目立っ部分もあります.腺上皮は円柱ない し立方上皮の型を示すものが大部分で異型は認め られず,その配列の乱れもなく,所によっては乳 頭状増殖を示す部分もありますが悪性所見は認め
写真6.前立腺組織(弱拡大,H・E染色)
表5.尿所見
初診時1術前累日i二階
外 聖 画 重 タンパク
上皮細胞
赤血球
白血球円 潮 田 芝 山 尿
黄白色,軽 度の混濁,
酸性 1025
2一 3/
皿〜皿視
750cc
灘舗輪中
十(3滴,
ズルホサリ チル酸)
1/皿〜皿視 十 2一 3/1
桿菌升
十(2滴〃)
2一一 3/1
〃 少数 10−v15cc
淡黄色,
軽度混濁
十
(1滴
11 )
3 v5/ 1
〃少数 5N 8cc
写真7.前立腺(中拡大,H・E染色)
写真8.前立腺炎症部(弱拡大,H・E染色)
られません(写真7).ただ,一部の嚢腫状に拡大 した腺組織ではヘマトキシリンで青幽する穎粒状 内容を含むほか,好中球,リンパ球浸潤と上皮剥 離が著明で,慢性前立腺炎の所見が認められます
(写真8).こうした慢性炎症はあるいは前に述べ た骨髄穎粒球系の右方偏位の一つの原因となって いたのかもしれません.
梅津:ありがとうございました.続いて手術後 の経過を吉田先生.
吉田:手術終了の前から血圧の上昇が目立ち まして,麻酔科の先生から要注意を受けておりま したが,手術直後最高血圧が230㎜H9,最低が90
〜100mmH9以上となりましたので,麻酔科のご指 示によって,ヒネルギン0.5mlの筋注を行ない
ました.手術後3日間はやはり血圧上昇の傾向 が見られましたけれども,4日目から最高血圧 150〜160㎜㎏,最低血圧60〜80㎜}セぐらいにな ってまいりました.4日目夜半から汗をかいて眠
り,家族からうれっがまわらな:いという訴えがあ りまして,小坂内科のこ診察を受け,脳軟化症の 疑いでATP, Duvadilan投与を行ない次第に状 態が回復し,血圧は最高120〜140㎜Hg,最低は.
60〜80㎜H9に安定してまいりました.術後23日目 留置カテーテルを抜去致しました.1ヵ月後手術 創は完全治癒致し自然排尿は可能となり,残尿 は15ccから10cc,さらに8cc以下となるに及びま して12月中旬(術後55日目)退院致しました.退.
院時の腎機能検査を申し上げますと,PSPでは 開始時間16分25秒,2時間総排泄量14%,Fish−
berg濃縮試験は1017,1018,1018,尿素クリアラ ンス クレアチニンクリアランスもプリントに示 コすようで改善されております.これらの検査はな
お残尿が多少ございましたので導尿によって得た Harnで検査しております(表5,6,7,8).
膀胱鏡的所見では,膀胱容量200ml以上,肉 柱形成は見られますが,粘膜の充血はほとんどな
く,血管の走行はほとんど正常であります.膀胱 一556一
表6.血液検査成績
7/x 1 2s/x 301X 7/M 29/M 10/xt 血 色 素 量
術
10.7
.ヘマトクリット 赤 血 球 数
白 血 球 数 前
35
383 ×lo4 8,800
13.6
426×104 21,700
13.0 39 412×lo4
7,600
10.0 31.5 335×lo4
11,400 術 後
8.6
28 286×104
5,000
9.0
27
293 ×104 6,300
表7.血清化学検査
1 10/X 22/X 8/M 13/M 29/M 10!)皿
クレアチニン 術
Urea N
NPN
前1.9
os 30
2.1
56 35
1.8 61 45
1.8 61 30
術 後
2.1 41
25 32
表8.術後腎機能検査 PSP 初発時間 16 25 2時間総排泄量 14%
Fishberg,s濃縮試験
1 1017 11 1018
皿 1018 尿素クリアランス
(D CS 10.6ml/min 21.20/o @ cS 11.Oml/min 22.Oo/o
クレアチニンクリアランス ¢ 29.Oml/min
@ 32.lml/min
写真9.経静脈性腎孟撮影強化法(術後)
(注射後60分)
写真10.尿道膀胱撮影(術後)
頚部の膨隆はなく,三角部は正常,両側尿管口は 確認されました.青排泄試験は初発時間右は7分 55秒,左は28分00秒,濃青黛は1時間近くでも認 められません.
レントゲン所見,スライドお願い致します.こ れは20分のIVPでわずかながら二二の形が見え ています(写真9).その次お願いします.写真が 悪いのでございますが,先程の径静脈性腎孟撮影 強化法で裏曲の拡張が術前よりも非常に改善され ている状態が見られます.膀胱撮影では肉柱形 成,仮性憩室多発の状態は存在していますが,膀 胱底の挙上は見られません.尿道撮影では後部尿 道の延長はございません(写真10).以上でこいま
す.
梅津:ありがとうございました.今までのとこ ろをまとめてみますと,先程の繰返えしになるか
と思いますが,高度の腎機能障害と貧血があり,
下腹部腫瘤は悪性腫瘍によるものではなく,尿閉 による膀胱自身を触れたものであったこと.腎機 能については,留置カテーテルの設置により,さ らに前立腺摘出後に丁々に回復してきているとい うことであります.
前立腺の腫大自身はある程度はむしろ生理的の もので,その程度を越えた場合,病的として前立 腺肥大症と呼び,適当な時期を選んで手術を行な
う.すなわち not early but timely operation
が理想的な治療法とされております.手術後は qejuvenilation after prostatectomy と言われ ているように非常に結果のよいものであります.
この症例についてみますと,肥大した前立腺に よる膀胱頚部の閉塞からすでに膀胱の機能不全,
尿管口の機能的,器質的障害ひいては尿管の拡 張,腎孟,腎杯の拡張,腎実質の圧迫萎縮に基づ く尿毒症が起っていると考えられます.このよう に前立腺肥大症の合併症として,腎孟内圧上昇に 続く腎機能不全がおこることがおそろしいことな のです.すなわち糸球体濾過の低下,細尿管再吸 収障害によるpostrenal azotemia, nephrogenic acidosisがおこってきます.
つぎに本症の予後を左右するものとして,感染 が挙げられ,統計によりますと,腎不全よりもむ
しろ死因として高率を示すことがあげられます.
このような合併症の起る前に,そのほかの全身状 態をみて適当な時期に手術を行なうべきものであ
ります.この患者については,すでに尿毒症症状 をおこしておりましたが,留置カテーテル設置に
よって,腎機能の目立つた改善が見られましたの で手術を行なったわけであります.
つぎに本症例について主な症状であったものに 貧血があります.これは鉄剤は効果はなく,内科 で2,000mlの輸血を行なっておられますが,へ.
モグPビン値は多少上昇しております.
尿毒症の場合に,貧血が来ることはよく知られ ております.エリスロポエテ/ンの問題などある
かと思いますが,尿毒症と貧血について,内科の 高久先生ご出席でございましようか.お願い致し
ます.
高久:この症例では貧血の原因として,老令,尿 毒症,慢性の感染症等の要因が加わったものと思 われます.尿毒症ではほとんどの症例で貧血が起 ってまいります.通常貧血の起る原因としまして は,赤血球がよくできない,寿命が短くて早く壊れ る等のfact・rが色々な形で関与している事が考え られますけ ど,尿毒症の場合には赤1血球のでき方 も悪いし,又寿命も短い,すなわち生成が低下し ているのと破壊が充捌しているのと,その2っの factorが互いにかみ合って尿毒症の場合に貧血が 起こると考えられています.破壊の方を先に申し 上げますと,尿毒症の場合に患者さんの赤血球を 採ってきまして,正常の人に注射しましてもそれ 程早く壊れませんが,逆の場合にはかなり早く赤 血球が壊れます、それはisotopeによって認めら れています.したがって,その患者さんの身体の 中の状態が赤血球を早く壊わすような状態になっ ているのではないかと考えているのです,その場 合,どういう機序で早く壊わすかと言うことは非 常に難しく,よくわかっていませんが,何かの形で 腎の機能が低下して,例えばnon Pr・tein nitro−
genが上っているとか,あるいはよくわからない リン酸代謝に異常が起っている,血液の中にある ある事によって二次的に赤血球の中の代謝が障害 されて,その結果寿命が短かくなっているとい
う風に考えられています.ですからこのfactorは NPNが低くなる.例えば人工腎臓であるとか,
腹膜潅流を行ない,NPNが下り,身体の中の代 謝異常が改善されますと,当然なくなって,後で 貧血が改善してきます.次に生成が落ちる原因の 中に昔から考えられているのはやはりNPNや身 体の中の色々な代謝産物の貯溜が骨髄にtoxicに 働いて,その結果として,赤血球ができにくくな るのではないかと考えられています.この考えに 対しては完全な証明がなされていませんで,一般 的に漠然と,そういう風に考えられています.今 まで述べましたことはいずれも尿毒症の結果おこ った代謝異常が赤血球の生成を障害し,また同時
一 558 一
に赤血球の寿命を短縮させ,その結果,いわゆる 三島貧血が起こるという考えなのですが,これだ けで腎虚貧血の原因が説明できるかと言ってなお 問題があります.例えば腹膜潅流であるとか人工 腎臓を行ないまして,NPNを正常に致しますと かなり貧血が改善して来ますけど,NPNまたは 身体の中の代謝異常をほとんど完全になくして も,現実には300万程度の貧血はなお続いており ます.それでは,何故代謝異常がほとんどないの に貧血がおこっているのかということについて は,完全な解明はなされておりません./っの考 えとしましては,腎臓の中からErythropoietin という赤血球を作るホルモンができている.その ホルモンが腎臓の破壊が克進ずると生成されにく くなって赤血球ができにくくなるのではないかと いう事が考えられます.
一般に言いまして,腎性貧血では赤血球のでき 方が悪いと言うことと,赤血球の寿命が短いと言
う2つのfactorが非常にcase by caseで組合っ て貧血が起こると考えております.この例の骨髄 Smearを見ますと赤血球が多くて,しかも赤血球 のHemoglobinの合成が低下しているのではない か,すなわち一見ちよつと鉄欠乏性貧血を疑わせ
るような所見であったと思います.ただしこの症 例の場合に注目しなければならないのは,長い間 尿路感染があったのではないかと思われることで す.恐らく慢性の感染症も法例の貧血の成因の一 つのfactorと考えなくてはならないかと思いま
す.
例えば,鉢活では血清鉄砧と同時に血清の中 の鉄と結合するタンパク,iron binding protein
(iron binding capacityと言いますが)も低下して います.両方とも低下していることからも慢性の 感染症の存在が疑われます.この慢性の感染症の ために,鉄代謝にいろいろな障害をおこし,この 結果として赤血球に一見鉄不足を思わせる異常が みられたのではないかと思われます.しかしこの 場合には,感染症に伴う鉄代謝異常の結果とし て,赤血球の異常が見られたのですからこの例に 鉄を投与しても恐らくはとんど効かなかったと思 います.以上の所見を総合してこのcaseの場合
に,腎機能不全・尿毒症の場合には末期に起こる 出血等が貧血の原因ではないかと考えられます.
すなわち腎性貧血はこのように沢山のfactorが複 雑にかみ合って起って来ますから,特に1つの原 因を指摘することがcaseによってはかなりむず かしいのではないかと思われます.
梅津:どうもありがとうございました,以上の 事につきましてどなたかご質問などありませんで
しょうか.どうぞ河野先生.
河野:高久先生にお伺いしたいのでございます が,前立腺肥大症で慢性腎不全を見るような症例 における貧血の発生機序について,ただいまのご 説明で非常によく分りました.これは私が日頃思 っていることですが,testosteroneはerythropoie.
sisに促進的に働くという論文が比較的目につく のですけれども,前立腺肥大症の原因もはっきり したものではございまぜん.しかし,大体の傾向 としましてはhormonalなものがとりあげられて いるのが大勢のようでございますt尿中のtestos−
teroneは高令者になると低くなりますが, estre−
geneの方は年令と関係なく,プラトである.前 立腺肥大症の場合,同じ年令のものよりもさらに testosteroneが三値を示すと言われ,とくにKau−
fmannらはそういっております. testosteroneは 腎組織を介してerythropoiesisに促進的に働らく とすると,前立腺肥大症の場合の腎性貧血の成因 の一つにtest・steroneがからんでいると少しは考 えてよいものでしょうか.
高久:ご質問の通りだと思います.男性ホルモ ンが赤下品の生成に対し充進的に働いて,逆に女 性ホルモンが赤血球の生成に抑制的に働くと言う ことは,かなり以前より知られていまして,また それを証明するような動物実験あるいは臨床的な 観察も沢山あると思います.一番分りやすい例を 申しますと,例えば成人男子と成人女子と比べま しても大体赤血球で50万,Hemoglobinが1.09 近くの相違があることも,今の段階では恐らくそ
の男性ホルモンと女性ホルモンのホルモンの相違 であると考えられます.本例で男性ホルモンの分 泌が少なくなっているような事がおこっていると
しても,それが貧血の発現にどの程度関与してい
一 559 一
るかを知ることはむずかしいと思います.もちろ ん,ある程度関係している可能性は当然あると思 いますが.
梅津:他にございませんでしょうか.どうぞ.
小坂:2,3教えていただきたいことがありま す.後程梅津先生から問題にしていただけるよう でしたら後に回していただいて結構ですが….手 術後の腎機能障害についてのことです.前立腺肥 大症が長く存在し,これによって尿道が機械的に 圧迫され,排尿障害をおこし,それが恐らくは腎 の障害までおこしたということがもしありました
ら見せていただきたいのです.膀胱の中へ造影剤 を入れました写真です.吉田先生のお話ですと私 が聞きもらしたかも知れませんが,膀胱から尿管 の方へ逆流がなかったということですが.
梅津:さきほどお目にかけた写真では逆流は見 られません.
小坂;静脈内に造影剤を入れたものでは,腎孟 ががかなり広なって,皮質の方までかなり萎縮を 疑わせるような所見でありましたかどうか.手術 の後にクリアランスなど長く腎機能が改善しなか ったので,その辺のところは問題にしてみなくて はと思います.
梅津:術後腎機能の回復は確かに遅々としてい ます.これは後で申し上げようかと思いました
が.先程のPyelogramをもう一度お願いしま
す.写真が悪くてわかり難いと思いますが,腎陰 影は腸管内のガスのためはっきり出ておりません が,左右ともに腎杯,三二の高度の拡張が見ら れ,尿管も高度に拡張し,かっ迂曲,蛇行し,膀 胱に至っております.このような腎をあけてみま すと,腎実質の圧迫萎縮が起り菲薄になっている と考えられます.組織学的検索を行なう機会はな かったのですが,おそらくは,集合管の拡張は細 尿管に波及し,同時に上皮細胞の圧迫萎縮,退行 変性,間質の結合織増殖がおこり,糸球体は初;期 にはかなりよく保たれますがボーマン氏嚢の拡 張,遂tlこは糸球体の硝子様変性,二三化等の非可 逆的な変化が起っていると考えられます.これに加えて,高率に感染像が見られ,腎機能 の完全な回復は望めない状態にあると思われま
す.
つぎに,膀胱尿管逆流現象についてでございま すが,この写真は造影剤を注入して直ちに撮影し たものですから逆流現象はみられなかったものと 思われます.造影剤注入後時間をおいて撮影した
り(delayed cystography),排尿させながら撮影す る (voiding cystography)と排尿圧のため膀胱 尿管逆流現象が見られることが,しばしぼありま す.この症例ではその方法をとっておりませんの で見られなかったものと思います.
小坂:膀胱内圧は測ってありますでしょうか.
梅津:内圧計のいいのがありませんので,測っ ておりません.
榊原:術後一過性に高血圧が起こったのか,何 か特別にIschemieが起こったのか,あるいは前 立腺の手術のときには,いっでもそういう事があ
るのか,そういうようなことをちよつとお教え下
さい.
梅津:前立腺摘出後にいつも高血圧がおこると いうことはございません.本町につきましては,
小坂内科の渡辺助教授の診断を受けまして脳軟化 症の疑いという事でございましたのですが,何か 河野先生ご意見がありますか.
河野:前立腺摘出術,前立腺の手術後のThrom−
bosisですが,1960年,ちょっと忘れましたが,
2年か3年にゴルムセンの報告があります.前 立腺癌の手術後に,線溶現象が高率に見られるこ とがある.ところが逆にThrombosisを2例だけ 起こしたという報告があります.今年になりまし て,横浜市大から前立腺摘出後に,下腿の静脈血 栓を起こしたという報告がございまして,そうい うことで術後の止血剤の問題が非常にむつかしく なるのではないかと思います.それから線溶活性 が起これば,当然凝固機転も起こっていると思い ます.ゴルムセンの論文を読みますと,ヘパリン の抵抗性が非常に低かったと書いてあります.私 どもの症例で,こういったいわゆるアポプレキシ ー様の症状があったものですから,この場合止血 剤に女性ホルモンを使っていますので,それが何 か関係したのではないかと考えたりもしました.
榊原:私が考えたのは高血圧の方です.
一 560 一
河野:その問題も,プPスタグランデインが前 立腺に多いことなれば,関係してくるのではない
か.その辺のことについて,どなたかお教え頂け ればと思いますが.
梅津:小坂先生何かご意見はございませんか.
小坂:存じません.
梅津:それではこの問題はここで一応打ち切ら せていただきまして,あと時間が30分ぽかりござ いますが,先程小坂教授のご指摘がありましたよ
うに,腎機能の完全な回復がみられていない.恐 らくは年令的に見ましても動脈硬化もあり,腎不 全が徐々に加わっていくのではないか,警戒をし なければならない症例でございます.このような 場合,もし腎不全の進行を見た場合の対策としま
して,または内科的,外科的の急性の腎不全であ るとか,慢性の腎不全,泌尿器科的tlこは前立腺摘 出術,経尿道的前立腺切除術の後,その他の手術 後の急性腎不全をおこした場合の対策と致しまし て,腹膜潅流,人工腎臓,あるいは腎移植にと治 療の方法は移っているのが現状であると思いま す.それぞれの方法に一長一短はありましよう が,今後特に急性の腎不全の場合,あるいは今後 盛んに行われるのでありましよう腎移植の前処置 として,どうしても人工腎臓の活用がなくてはな らないものであります.不幸なことに私どもの学 校では心胆にはあると伺っていますが,私どもの 方にも設備していただきたいという気持が強うご ざいます.そのお願いをこめて,人工腎臓の基礎 的な事項につきまして河野先生に残った時間をお 話しいただきたいと思います.
河wy ;その前に,先程の小坂先生のご質問でご ざいますが,梅津先生のお答で十分でございまず けれども,逆流の問題でございますが,この症例 の場創こはレントゲン学的に証明できなかった.
しかし腎孟拡張と尿管のトーヌスが非常に落ちて いるということは,当然逆流を予想してよいので はないかと思います.そのためにdelayed cysto−
graphyとか, voiding cystographyをやれぼつカ・
まったのではないか.この場合,前立腺肥大症と いった下部尿路の器質的原因,そういった水力学
的問題,それに感染が加わる.そうするとUre−
teral hiatus,要するに尿管が膀胱に入るところに 器質的な変化が起こり,それらの結果,逆流現象 が起こる.したがって原因を除いても,そういっ た意味で急には改善されないのではないか。しか し今,申し上げたような排尿障害が先にあり,そ れに感染,尿管口の器質的変化,逆流といったお
:互にcirculus vitiosusとなってくる第一の原因を 除くことになって,長い間には改善されるのでは ないかと考えております.
人工腎臓について
先程,梅津先生がおっしゃいましたよ勤こ,人 工腎臓を買っていただきたいということが,この 症例検討会で人工腎臓について話をする第1の理 由ではないかと思います.その他に大体,大・中 病院には人工腎臓が設備されていまして,まあ学 生の常識として知っておいてもらいたいというこ ともあるのではないかと思います.そう言った意 味で,学生の今年の講義をするようなつもりでお 話し申し上げます.
1.定義:人工腎臓とは,血液を体外に誘導し て,例えば腎や肝疾患の.血液からは有害物質を,
薬物中毒患者血中からは毒物を除いたりする,
血液成分の異常を是正しながら再び体内にもどす 一つの透析装置で,かかる治療法を血液透析he−
modialysisと呼ぶ.
2.原理:透析とは2つの液の問に孔のあいた 一種の半透膜をおくと,Donnanの膜平衡の原理 にしたがった拡散現象により,濃度の高い溶液の 方から濃度の低い溶液の方に,溶質が移動するこ とである.人工腎臓は,この透析を利用して血液 を体外に導き,これを血球や血清タンパクのよう に分子の大きなものは通さない一一Ptの半透膜を隔 てて,潅流液と接するようにし,潅流液の組成を 加減して,血中から除きたいものは除き,加えた いものはこれを加え,しかる後にこの血液を他の 血管を通して,再び体内に返還するのである(図
2).
3.人工腎臓(血液透析)の歴史:腎あるいは その他の排泄経路の障害のために,種々の物質 一561一
Diply.sin7 Bb。
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図2.Principle of dialysis across a cellophane
membrane
(toxins)が体内に…蓄積した病態のあることは古 くから知られていた.
1) 透析膜と血液を体外に誘導するので抗凝固 剤がまず問題となった.1913年Abelは,かかる 病態では血液を透析(dialysis)することによっ てtoxinsを体外に除去することが有効であると いう考えから,コロジオン・チューブを透析膜と して動物実験を行ない,腎からの排泄量に相当す るサリチル酸の除去に成功し,また非タンパク窒 素(NPN)も血液から除去されることも明らか にした.この時の抗凝固剤としてはヒルから得ら れたヒルイジンを用い,Vivi−diH「usion法とよん だ.これにひきつづいて動物の腸管(Love),膀 胱膜(Van der Heyde),腹膜(Nechelei)などが 透析膜として用いられたが,多くの研究者がうち
当った問題は透析膜と抗凝固剤の2つであった.
丁度その頃Ganterは1918年に脳膜を,1923年に は腹膜を透析膜として慢性腎炎末期の尿毒症患者 に実施した.
1933年にヘパリンが純化され静注も可能とな り,1937年にThalhimerがはじめてセロファン 膜と精製ヘパリンを用い,腎摘出犬で3〜4時間 の血液透析に成功し,現在の人工腎臓の基礎が築 かれた訳である.
2)臨床的応用
第2次大戦中の1943年KolffはオランダのKa一
mpenの病院で,28才女性にrotating drum型の 人工腎臓を用いて始めて臨床例で成功を収め,そ の後1年間で15例に実施しており,尿素,尿酸,
クレアチニンなどの除去に成功し,尿毒症症状の 改善をみている.
人工腎臓artificial kidneyという言葉VX Kolff 以前にも使用されていたが,主として dialysis ,
uividialysis などの言葉が用いられており,
Kolffの成功以来 artificial kidney という言 葉が一般的に用いられるようになった.
3)Chronic hemodialysis一血管維持の問題 はじめは急性腎不全と薬物中毒が主体であった
が,1960年頃より慢性腎不全の治療へと拡大さ れ,それとともに頻回透析による血管維持の問題 が生じた.しかし,1962年Scribnerのsilastic te−
flon tubeの応用によって一応解決され,慢性腎 不全の積極的治療法として,腹膜潅流法や腎移植
とともに盛んに用いられるようになった.
4)現在では,費用の節減や精神的負担が問題 となり,home dialysisも行なわれている.
5)わが国では1954年渋沢らがSkeggsの改良 型を臨床的に用いたのが始まりである.
4.人工腎臓の装置
種々の型の人工腎臓が発表された,いずれも小 さく廉価で,操作が容易かつ安全であり,透析効 率が高い,disposableな十分臨床的に用いられる のを目的としている.しかし,現在広く使われて いる装置は渦巻型のK・1ffのtwin−c・il kidney と積層型または平板透析器ともいうSkeggs Leo−
nald型やKiil s dialyserの2つに分けられる.
装置
1)体外循環回路 2)黒血ポンプ
の一 k轍:甥蜘
4)透析槽 5)潅流ポンプ 6)潅流液
主体をなす透析膜としては,いろいろ研究され
一 562 一
礒
写真11.Kolff型人工腎臓
/瓢/簸譲7
B A
A=セロファン・チューブ B:ガラス線維の膜 図3.コイルの断面
・・Pマノメ心置ー
o o
Ωooo灌流液
ii
セロファンチュ ヤに挟んで巻し
iCoilの横断面一血液循環 ポ7プT−tube
Air
狽窒≠垂
s−tube
鷺流液ポンプ
■ Bass
_→ i l _
@ 動脈 欝脈
図4.コイル型模型図
ているが,現在のところ強靱性,経済性,透析性 からみて,セロファンが最も適しているとされ
る.普通300番を用い,平均直径3mμの小孔が あいており,分子量35,000以下の物質しか通過し ないとされ, (Albumin分子量は68,000)透析 膜の全面積は使用する装置によっても違うが,
7,600〜22,000cm2の間で,ちなみに健康成人の 腎の濾過面積は7,600cm2と推定されている.
一 563 一
a)Kolff型人工腎臓(写真11)
1) コイル
コイルの断面は図3のごとく,幅4c皿,長さ約 10mのセロファンチユープをガラスウール線維の 網に2列にはさみこみ,これを中央の筒の囲りに 固く巻きつけてある(図4).そして血液はセロフ ァンチユープを通して流れ,抵抗が大きいので送 血ポンプを必要とする.潅流液はコイルの軸の方 向にしたがって透析槽の底よりポンプで押上げら れ,下方より上方に向って流れる仕組になってい る.Coilは2組(twin)よりなり,この2つの セtiファンチューブはparalle1におかれ,透析面 積は19,000cm2,装置を満たすために必要な血液 は約1,200cc,血液流量は毎分200〜400cc,5
〜6時間の透析による尿素の平均除去量は709,
潅流液の流量は毎分3〜51.
後で述べるように短時間で能率をあげるとHe−
modialysis disequilibriumの問題もあり, Kolff も約5cmの単一コイルを用い,透析膜回路を短か くしても透析時間を延長すれぽ能率的に変りな く,血液の節約ともなり,また余り多数の人から の輸血は好ましくないという腎移植の立場からも 好都合であるとされている.
b)積層型(Kii1)人工腎臓(写真2),(図5)
セロファン膜の間に空隙を保持するように細溝
t
鳳
写真12.Kiil型人工腎臓
セロファン膜
//ん〆〆/ !
≒ャ樹脂板
@ 一
←
潔t 灌流液 ボンフ。
〆≒ャ樹脂板
合成樹脂板 血液
灌流
@ 液槽
嚠黷狽浮b
trap
s−tube『 セロファン膜
_ 目 __
静脈動脈
図5.積層型模型図 表9.血液透析の順序
順序装置皇尊ーレーシ・ソ(留置動静脈短絡)
@
@
@
@
@
@
@
@
体外循環回路の連結
動脈側T−tubeより生食注入 回路充填 ヘパリン1皿g/kg 灘慧∵総軍(短絡の血流確認,ヘパリン静 注)
¢一一 , ;
回路とカ=ユーレとを連絡 回路の血液循環および潅流液循 環開始(血液量100〜250cc/分)
ヘパリンユ0〜15皿9を1時間ごとに回路に 注入(動脈側より)潅流液2−3時間ご
とに交換,4〜6時間透析 透析終了
,
/ : 1
回路麟 G藷蕪抜(雛の)
を刻んだ合成樹脂板にセロファン膜を張り,これ を2板極小の隙間を生ずるように枠を挾んで合わ せたものである.そしてセPファンの内面に血液
を流し,外面に潅流液を流す. 300〜400cc/分 で流し捨てにする.透析時間は約12〜15時間.
血液透析の順序を表9に示してあるが,まず体 外循環回路を連結作製する.また透析槽内には潅 流液を入れるが,潅流液の処方は使う人によって 異なるが大同小異で,ほぼ正常人の血清の組成に
近く,
例えば,Merrill(1967)の処方例は,
NaHCO3 252.o ,t
Mg acetate 10.4 ff Glucose 250tx. 1000 m厳密には患者血中の測定可能物質を測定して調 整すべきであるが,K, Na, cl, PCO2, pH等に
よって実際には加減している.水分貯溜の著明な 症例の場合には限外濾過または,ブドウ糖などを 加えて高張潅流液を使用する.
こういった潅流液100Lを用意するが,最近で は濃縮した潅流液が適当:量の水道水と自動的に持 続的に混合されるように作ったものもある.そし てKolff型では毎分3〜5しの速度で流し,大体
2時間毎に交換する.Kiilは毎分300〜400ccを 流し捨てにする,装置の準備と平行して血管を露 出する.しかし,慢性腎不全では透析を行なう2
〜3日前に短絡を設置した方がよい(直前だと Heparinの影響で,出血,血腫を生ずることがあ
る).図6にみるように擁骨動脈と前腕皮静脈あ
大 饗 熊
k
大伏在静脈へ
v
後無骨動脈へ
一一一 一一一足肯動脈へ
oyg
血管力ニュ 一レの位置
100L中NaCl KCI
Ca acetate
584.5gm
22 .4 ff
26.4 m
一 564 一
一一O腕皮静脈へ
kNli,
1/
僥骨動脈へ 血管カテーテルの位置
図 6.
動脈 静脈 擾骨
Yt?{{〈ft,,一,.ag S.一一t一,( /k}
図7.テフロソカニェーレ略図
t
図8.Double lumen catheter
るいは正中静脈の手関節の掌側部位,後脛骨動脈 や足背動脈と下腿の大伏在静脈の末梢で足関節の 部位を用い,慢性腎不全の長;期透析の問題から,
主として用いられるのはSilastic tegon cannula Systemを作る方法である(図7).これは急性腎不 全の場合も,1回の透析で効果がみられないこと
もあるので,急性腎不全でも適用される.
このほかに2種になったカテーテルを大伏在静 脈より,下空静脈内に入れて,下方の孔から採1血 し,中枢側の開口部から体内へかえすDouble lu−
men catheter法があり,血管露出が1ヵ所ですむ という事で,主として乳幼児へ適用されるが,手 術的な問題や危険性という点で,現在は余り広く 用いられていない(図9).
またCiminOらの方法は経皮的に太い針を刺し てカテーテルを動脈にも静脈にも入れるようとす る方法で,最近問題になっているのは擁骨動脈と 近くの静脈との間に直接血管の吻合を作ってお
き,人工腎臓を回すときに経皮的に針を刺すだけ ですましうる方法も行なわれている.
血管露出が終了する前にヘパリンを1mg/kg静 注し,約10分後にカニェーレーションを行なう.
ヘパリンは1時問毎に10〜15mgを回路に動脈側よ り注入する.
Somm(1968)によると最初に5伽gを投与しその 後毎分O.3mgを持…続点滴することにより凝固時間
をcheckしないでも良いという.また投与された ヘパリンは腎以外で除去されるともいっている.
5.透析中の注意事項
1)常識的な事ではあるが,無菌的操作に注意.
すべきで,腎不全殊に急性腎不全で重篤な患者で は感染の危険がとくに多いことは留意すべきであ
る.
2)開始時にとくに注意すべきはKolffでは透 析開始時に透析回路に血液が多少貯溜し,内圧が 高まって静脈側に流れ出すので,患者側ではout−
putがinputよりも大きくなり,脱血の傾向とな る,したがって動脈側T−tubeから生食水を流 し,静脈側においてairtrapの流れがよくなって から動脈側を流し始めれば安全である.また透析 開始時に低流:量で回転し,全身状態に応じて漸次 増量しながら装置の至適流量を保持する.
3)血液が順調に回り始めれば,その後の事故 はほとんどないが,
(a)透析液の温度(39℃)
(b)セロファン膜の破損
(c)カニェーレとの継目からの血液の洩れ (d)流量:
に気をつけ,急性腎不全例では一定時間毎に血.
液化学的変化をみる.
6.透析中の合併症
1) 脈拍増加,血圧の動揺,不整脈などで,経 時的にECGをみる.急性腎不全では循環不全の 状態のものが多いのでとくに注意する。
i)状態のよい患者では経過中に血圧上昇をみ、
ることがあり,その度が強いときは脳出.血を起す ので血流量を減じ,降圧剤を投与する.
ii)上述のほかにr掌た逆にセロブァン膜に伸 展性があるために過剰の血液が入って血圧が下る
こともある.
iiり不整脈,血液の化学的異常が急速に是正す るために起こるといわれる.
これらの変化が著しいときは,透析を中止して 輸血,輸液,強心剤などを投与する.
2)ヘパリンを使用するので,出血傾向のある ものはもちろん,ないものでも歯齪出血,鼻出血,
消化管出血を起こすことがある.外傷や手術後で 全身にヘパリンを投与する場合はとくに注意を要
02 CO2 i
隈
pt) L
熊タ謬
諸
多静脈
t
ポンプ 図9.
動脈一
Regional heparinization
し,Sommの報告にもあるが凝固時間を一応check しつつヘパリンを投与する.またこのためにreg ional heparinizationといって体外循環系だけに ヘパリンを投与する方法で,血管から体外に出た 直後にヘパリンを注入し,体内へかえる直前に硫 酸プロタミンで中和するわけである(図9).
3) ロ匠気や嘔吐もしぼしぼみられ,汁物の気道:
への吸込みの危険もあり,前もって胃を空虚にし たり,吸引器や蘇生器を用意したり,オピスタン や小量のクPt一ルプnマジン,プリンペランなど を投与する.
4) セロファン膜に白血球や血小板が付着する ために,一時頃に血中のそれらが減少することが ある.骨髄が正常ならぼ何でもないが,白血球減 少症のある例には考慮しなけれぽならない。
5)時に悪寒や,透析後4〜6時問で発熱する 例がある.感染のためでなく,血球破壊のためかも
しれないといわれている.
6) 血管にカニューレを入れた部分に感染を起 こすこともある.
7) Hemodialysis Disequi}ibrium 末期の慢性尿毒症の長期透析は i)重症状態からの脱却期と ii)維持期に分けられ
主として前者にみられるがあまり強力な透析で,
急速に血液化学の是正をはかると臨床症状が悪化
することがある.
すなわち1)最初は倦怠,頭痛,ねむけ,ろう ぼいなどが増悪し,
2) さらに,重症例では血圧,脈拍数,呼吸数 が増加し,
3)最悪の場合には心停止や肺水腫をきたし死
亡する.
これらの症候群の血中尿素値が非常に高いとき に重篤で透析終了24時間後まで続く.
Kennedyら(1962)はLiquor中のUrea除去
が血中よりも遅れるために,Liquorと血中の Ureaの異常な濃度勾配であろうと言い, Rosenら(1968)は透析開始前の血中Ureaの濃度に比例
し,LiquorからのUrea除去の遅延はLiquor
と血漿のosmolality gradient(滲透圧勾配)の 変化と関連があるという.そしてLiqUOr中に水 が入る結果,これらの症状は頭蓋内圧の上昇によ るといい,また透析はLiquorと血液間の尿酸,クレアチニン,無機P,CO2の不均衡をも招来す るという.それ故に透析は生化学的均衡が軽度の 時に,短期間で休止期を短かくすることで,予防 できるとされている.
7.透析終了後の処置
透析終了時ifこは血流量を漸減し,急激な体外循 環停止は肥しむべきである.
1)水分の補給
透析第1日目には,しぼしぽ乏尿をきたすが,
24時間尿量に500ccを加えた量を投与すれぽ大過 ない.もちろん,一旦利尿期に入った時には機を 逸せず補液して,水分不足によるショックを防が ねぽならない.
2)栄養の補給
基本的栄養素も透析とともに除かれるので,い わゆるdeficiency syndromeを起こすことがあ る.透析前には普通高カロリーの炭水化物と脂肪 は与えられていたわけであるから,必要量だけは 投与すべきである.タンパク質は,慢性腎不全で タンパク質損失が著しい場合,とくに長期透析な どでは体重0.59ぐらいは与える.もちろんビタ
ミン類は充分に投与するし,また細胞の破壊を防 ぎ,BUNの上昇を抑えるためにanabolic steroid 一566一