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第6章 監査役の内部統制への取り組み

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第6章 監査役の内部統制への取り組み

第6章から第9章までは、現代の監査役監査に対する個別テーマの展開を 取り上げていくことにする。個別テーマとして、内部統制への取り組み、企 業情報開示への取り組み、監査報告書のあり方といった三テーマ(以上は本 書が対象として想定している大規模公開会社の問題)、および中小会社特有の監査問 題を取り上げる。このうち本章では、内部統制と監査役の関係や実務上の取 り組みを取り扱うこととする 。

1 総 説

わが国の内部統制には、平成18年5月1日より運用が始まっている会社法 上の内部統制と、金融商品取引法上の平成20年4月1日以降から開始する事 業年度に係る財務報告から運用が始まっている内部統制とがあり、概念上の 混乱が見られるように思われる。

会社法における内部統制は、会計を含む業務全般の内部統制をその対象と している。他方、金融商品取引法上の内部統制は、有価証券報告書などの開 示に限った内部統制すなわち財務報告に関連した内部統制である。この意味 で両者には違いがある。

この違いを監査制度について敷衍すれば、会社法上の内部統制では、監査 役が主体となって会計監査人監査(自体の内部統制など)を含めた内部統制に ついて監査するのであり、金融商品取引法上の内部統制では、公認会計士が 主体となって監査役監査を含めた内部統制を監査することになる(ただし、

企業会計審議会の内部統制関連の意見書 によれば、監査役の会社機関としての独立性は 尊重されている)。つまり監査役の立場についてみると、会社法で監査をした 対象から、金融商品取引法では逆に監査されるという現象を伴う。

また、両者のアプローチの違いも混乱を招く要因といえよう。内部統制は そもそも、米国の会計監査の研究・検討の中から始まっている。その原始的 な形態は、試査(サンプリング)による会計監査の前提条件となる内部牽制シ

1 総 説 133

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ステムである。これを起点として、さらなる財務報告に対する会計監査のた めの前提条件のシステムづくりといった形で次第に拡充されていったもので ある。したがって米国の場合は、経営活動(業務全体)に対し直接的に働く 内部統制といったニュアンスではなく、財務報告の適正性を担保する会計監 査の中で内部統制が取り上げられていった。このようなアプローチによる研 究が米国の COSO報告書に集約された。同報告書は法規制によるものでは なく民間団体によるものである。ただ、業務活動の適正化の面については、

古くから別途法令による手当てがされてきた。1977年の海外不正支出防止法 により連邦証券取引所法(1934年法)が改正され、内部統制構築義務が課さ れた。また昨今では、周知のとおり SO法によりさらにガバナンス関連を軸 とした強制法が見られるようになっている。そして、これら米国の影響を直 接受けた財務報告に関する内部統制制度として、わが国では財務報告に関す る内部統制の整備・監査などが金融商品取引法において法定されていった。

他方、我が国の会社法上の内部統制は、米国の COSO報告書の影響を大 いに受けながらも、経営活動(業務全体)に対し直接関与していく内部統制 といった別個の発想で法規制されている(会社法施行規則100条1項各号参照)。 企業不祥事はそもそも業務全体のシステムから発したものであり、財務報告 も業務の一部であるからこれに限ることなく、財務報告を含めた業務全体に 関する内部統制を整備すべきといった観点からのアプローチを採っている。

上記の問題は、いずれにせよ「法形式の問題に過ぎず、会社法でも金融商 品取引法でも財務報告内部統制に対する監査の内容自体は、上場会社等の大 規模公開会社においてそう大きく異なるものでもない」とする意見 が見 られるが、なお根本的説明は欠如しているように思われる。結果として内容 が同じであるからといって、概念整理を済ませたわけではないから、内部統 制の整備や監査を運用する実務界では依然としてどこか釈然としない状態で 実務を進めることになってしまうことになる。

この点は、以下のような公開株式会社法の論理をもってくれば氷解する。

すなわち、①大規模公開会社は投資者や資本市場があってこそ成り立ってい る。②決して静止画面の株主だけを気にしていればよいというわけではな い。③むしろ目を向けるべきは資本市場であり投資者である。④その接点

134

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は、企業情報開示(およびその共通言語となる会計)や監査である。このような 関係を規制する金融商品取引法の目的が、投資者の保護および資本市場の公 平な価格形成にある(金融商品取引法1条参照)ことからも明らかである。した がって、大規模公開会社は資本市場のこうした要請を踏まえ(つまり金融商品 取引法の目的を強く意識し同法の遵守を重要課題として)事業展開していかねばなら ない。したがって、大規模公開会社における会社法上の内部統制の整備レベ ルは、金融商品取引法のレベルでなされるべきことになる。そして監査役 は、会社法上も金融商品取引法レベルの内部統制の整備につき監視・検証し ていくことになる。

しかしながら、金融商品取引法上の内部統制の整備といっても、これを実 行に移すのは会社法上のガバナンスであり 、取締役会は金融商品取引法上 の要請を確実に実行することが会社法上の「業務の適正に関する体制の整 備」となり、監査役はこの整備状況を監査することとなる。つまり、大規模 公開会社においては会社法上の発現として、取締役会は当然、金融商品取引 法の内部統制を整備することになるのであり、また監査役は当然、金融商品 取引法の内部統制の整備状況を監査することになる。このように見てくる と、むしろ会社法の内部統制も金融商品取引法の内部統制も並列的に捉えて はならないことになる。さらに、銀行法のような公的規制が課せられている 会社の内部統制は、同法の規制目的を着実に実現することが当該会社の内部 統制となるわけである。

以上を要するに、大規模公開会社における内部統制に対する監査役の取り 組みは、こうした目的や使命の下に、それぞれ展開されるべきことになる。

2 内部統制に対する監査役監査の基本的枠組み

内部統制をめぐっては学際的なアプローチも求められるであろう。実務の 実態に即した体制整備が求められると思われるからである。そこで以下で は、なるべく具体性をもたすためにも、実務界が作成した実務指針の内容を 下敷きに検討しつつ、随所にさらなる展開のための筆者なりの考え方などを 盛り込んでいくこととしたい。

2 内部統制に対する監査役監査の基本的枠組み 135

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実務界においては、平成18年後半から平成19年前半にかけて、会社法・関 連法務省令の制定に伴う実務指針が公表されてきたが、その中心は内部統制 への対応であったように思われる。とりわけ日本監査役協会が平成18年1月 に公表した『監査役監査基準』 の改訂と同年4月に公表した『内部統制シ ステムに係る監査の実施基準』 の制定は注目すべきものであり、内部統制 の実務にとって有用なものとなろう(どちらの実務指針もその内容からして、大規 模公開会社を想定して作成されたように思われる)

『監査役監査基準』(以下、「基準」という)は、監査役監査の実務指針の基本 ともいうべきものであり、基準は法令では手当てできない部分を補うものと 理解してよいであろう(第1章3.参照)。他方、『内部統制システムに係る監 査の実施基準』(以下、「実施基準」という)は、内部統制面について監査役監査 実務の基盤となる基準の考え方をさらに敷衍したものという位置づけとな る。

なお、これら実務指針の基本的考え方ないし枠組みについて筆者の考える ところとおよそ異なるところはないが、金融商品取引法の受け止め方が不分 明な点や、監査役と他の機関との連係問題については若干付言しておくこと にしたい。後述するように、実務上は、監査役と会計監査人・内部監査部門 との連係が重要であり、これら監査担当者との連係が監査役にとって主要課 題といっても過言ではないからである。

(1)『監査役監査基準』の考え方

基準18条は、取締役の職務執行の監査について、その具体的展開を示すも のであるが、監査役は取締役が内部統制システムを適切に構築し運用してい るかを監視し検証するとある(基準18条2項2号)

同じく21条1項は、監査役の内部統制システムに係る監査として、図表Ⅵ

―1の6点が取締役会決議に基づいて取締役が整備すべき対象であることを 明示している。これは会社法施行規則100条を受け、基準化された条項であ る。

図表Ⅵ―1の6点につき監査役は取り組んでいかねばならない。まず当該 取締役会決議の内容自体あるいは実際の整備状況に対し監視・検証しなけれ

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ばならないとされる(基準21条1項)

監査役は内部統制システムに関する監査の結果について、適宜取締役また は取締役会に報告し、必要があると認めたときは、取締役または取締役会に 対し、内部統制システムの改善を助言または勧告しなければならないとされ る(同条3項)。監査役が実施した監査の結果については、監査役会に報告す る(同条6項)

また、監査役監査の実効性を確保する体制についても、内部統制の問題と して同じ21条の条項として位置づけられており、本件に関する取締役会の決 議の状況、および各取締役の当該体制の構築および運用状況について監視・

検証し、代表取締役その他の取締役との間で協議の機会をもたなければなら ないとされ(同条4項)、適切な構築、運用を怠っていると認められる場合に は、取締役または取締役会に対して、速やかにその改善を助言または勧告し なければならないとされる(同条5項)

そして、以上の詳細については、別に定める内部統制に係る実施基準によ ることがうたわれている(同条7項)

(2)『内部統制システムに係る監査の実施基準』の考え方

前述のとおり実施基準は、基準21条7項を受け、内部統制の考え方、その 検証方法等をさらに実務レベルで敷衍している。実施基準1条は、監査役が 会社の内部統制システムに関する監査(以下、「内部統制システム監査」という)

を行う際の一定の基準を定めたものである。実施基準は、図表Ⅵ―2のとお り5つの項目に章立てされている。

図表Ⅵ―1 取締役会決議に基づき整備すべき対象(監査役監査基準)

・取締役および使用人の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための 体制(基準21条1項1号)

・取締役の職務の執行に係る情報の保存および管理に関する体制(2号)

・損失の危険の管理に関する規程その他の体制(3号)

・取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制(4号)

・会社ならびにその親会社および子会社から成る企業集団における業務の適正を確保す るための体制(5号)

・監査役監査の実効性を確保するための体制(監査役側の体制。6号)

2 内部統制に対する監査役監査の基本的枠組み 137

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このように実施基準は全16条から成る実務上の行動指針ともいうべきもの である。この実施基準には前文が置かれており、制定の経緯及びその趣旨と 主要事項についての要旨が述べられている。

なお、実施基準において用いられる用語の意義については、定義規定が置 かれている(実施基準2条)。これによれば、「内部統制システム」とは、監査 役監査基準21条1項各号に定める体制を指すものとされている。第1号に定 める「法令等遵守体制」(実施基準2条1項2号)、2号に定める「情報保存管 理体制」(実施基準2条1項4号)、3号に定める「損失危険管理体制」(実施基準 2条1項3号)、4号に定める「効率性確保体制」(実施基準2条1項5号)、5号 に定める「企業集団内部統制」(実施基準2条1項6号)、6号に定める「監査 役監査の実効性確保体制」(実施基準2条1項9号)が、「内部統制システム」

として定義づけられている。

実施基準では、内部統制システム監査の対象として次の2つを定めてい る。すなわち、1つ目は「内部統制システムに係る取締役会決議の内容が相 当でないと認める事由の有無」であり、2つ目は「取締役が行う内部統制シ 図表Ⅵ―2 内部統制システムに係る監査の実施基準」の章立て

実施基準の章 規定された条文

第1章 本実施基準の目的等 1条 目的

2条 内部統制システムの定義等 第2章 内部統制システム監査の基本方針及び

方法等

3条 内部統制システム監査の対象 4条 内部統制システム監査の基本方針 5条 内部統制システムに係る取締役会決議に

関する監査

6条 内部統制システムの整備状況に関する監 査の方法

第3章 法令等遵守体制・損失危険管理体制等 の監査

7条 内部統制システムの不備への対応 8条 法令遵守体制に関する監査 9条 損失危険管理体制に関する監査 10条 情報保存管理体制に関する監査 第4章 財務報告内部統制の監査 11条 効率性確保体制に関する監査 第5章 監査役監査の実効性確保体制の監査 12条 企業集団内部統制に関する監査

13条 財務報告内部統制に関する監査 14条 補助使用人に関する事項 15条 監査役報告体制

16条 内部監査部門等との連係体制等 138

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ステムの構築及び運用(以下あわせて「整備」という)の状況における不備の有 無」である(実施基準3条)

実施基準4条では、内部統制システム監査の基本方針として次の5項目が 定められている。

ⅰ)内部統制システム監査に対する監査役の責務として、内部統制の重要性を 認識するとともに、実施基準第3条に定める事項につき監視・検証すべきこ とが規定されている(実施基準4条1項)。これは監査役の内部統制への取り 組みについて基本姿勢を定めるものといえる。

ⅱ)監査役は、内部統制の重要性に対する代表取締役等の認識及び整備に向け た取組状況・取締役会の監督状況などを、重要な着眼点として内部統制シス テム監査を行うとしている(同条2項)。これは会社の「統制環境」を重点 監査項目として定めたものである。

統制環境は内部統制の重要な構成要素の1つであるから、特にコンプライ アンス及びリスク管理の浸透にあたっては、トップの役割が最も重要となろ う。したがって、監査役としてもこの点は重要度の高いものとして受け止め るべきであろう。

ⅲ)監査役は、内部統制が会社及びその企業集団に想定されるリスクのうち、

会社に著しい損害を及ぼすおそれのあるリスクへの対応の可否に重点を置き 監査を行う旨が規定されている(同条3項前段)。いわゆる「リスク・アプロ ーチ」により、重要な問題点及びリスクがどこに潜んでいるのかを見つけ、

そこに重点を置き監査を行うことが基本となる。

また、内部統制の整備状況が会社に著しい損害を与えるおそれのあるリス クに対応していない場合にはそれを「不備」として、監査役は、代表取締役 等及び内部監査部門等に対して適時指摘を行い、必要に応じて代表取締役等 への助言勧告等の適切な措置を講じることとしている(同条3項後段)

ⅳ)監査役は、内部統制の実践に向けた規程類や組織体制、情報把握伝達体制 やモニタリング体制等が、ⅲ)のリスクに対応するプロセスとして機能して いるか否かにつき監視・検証するとされている(同条4項)。つまり内部統 制の各構成要素について、そのプロセス・チェックが求められているという ことができる。

ⅴ)監査役は、取締役会及び代表取締役等が適正な意思決定過程等を経たうえ で内部統制整備を行っているかについて監視・検証するとしている(同条5 項)

2 内部統制に対する監査役監査の基本的枠組み 139

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このように適正な手続が担保されているか否かをチェックすることによ り、意思決定プロセスの監査が指向されているものといえよう。意思決定の 監査については、基準19条1項にあるように、およそ経営判断原則の適用を もって検証することで足りるであろう。

3 実施基準による監査役監査の実施

実施基準では、内部統制システム監査の方法について具体的な監査の方法 を示している。以下本節では、実施基準をいくつかのグループに分け、検討 しておきたい(筆者自身の整理によるグループ化なので、表題なども実施基準とは一部 異なるものがある)

(1)内部統制システムに係る取締役会決議の監査

まず、実施基準における内部統制システムに係る取締役会決議に関する監 査についてみてみよう。取締役会決議に対する監査を行う際には、実施基準 5条1項は次の4つの視点から監視・検証するものとしている。

ⅰ)当該決議の内容が、会社法第362条4項6号及び会社法施行規則第100条1 項・3項に定める事項を網羅しているか(実施基準5条1項1号)

ⅱ)会社に著しい損害を及ぼすおそれのあるリスクに対応した内部統制のあり 方について、適切な議論がなされたうえで決議されているか(同項2号)

ⅲ)決議の内容について必要な見直しが適時適切に行われているか(同項3 号)

ⅳ)監査役が決議に関して助言勧告した指摘内容が、決議において適切に反映 されているか。反映されていない場合には正当な理由があるか(同項4号)

実施基準5条2項では、監査役は、決議内容の概要が事業報告に正確・適 切に記載されているかを検証するとする。また、監査役は、決議内容に不備 があると認める場合には、取締役会への助言勧告等の適切な措置を講じる

(同条3項前段)とし、それにもかかわらず、取締役会が正当な理由なく適切 に対処せずその結果、決議内容が相当でないと認める場合には、監査報告に その旨を指摘すべきであるとする(同条3項後段)

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いずれの場合にも、必要に応じて監査役会における審議を経ることとされ ているが、監査役としての対応は助言・勧告等から最終的に監査報告への記 載と段階的に厳しいものとなっているところが注目されよう。

(2)内部統制システムの整備状況に関する監査の方法

①内部統制システムの整備状況に関する監査

実施基準6条1項は、法令等遵守体制・損失危険管理体制等の内部統制シ ステムの各体制につき、監査役が監査活動を通じてそれぞれの重大なリスク への対応の可否を監視・検証するとしている。監査役の内部統制整備状況に 関する監査方法についての基本的な取組姿勢を規定するものである。

上記の監査方法については、具体的には図表Ⅵ―3のものが挙げられてい る。

図表Ⅵ―3の内部統制システムの整備状況に関する監査方法は、監査役自 身の監査計画を策定する段階における検討が重要であり、代表取締役等や内 部統制部門からの報告聴取等を行ううえでも、後述するように、内部監査部 門等及び会計監査人との連係等が前提になるであろう。

②内部統制システムの不備への対応

実施基準7条には、内部統制システムの不備への対応についての規定が設 けられている。具体的な対応の流れは、以下とおりである。

ⅰ)監査役は、実施した監査手続の内容、発見した不備、助言勧告を要すると 3 実施基準による監査役監査の実施 141

図表Ⅵ―3 内部統制の整備状況に関する監査方法

a 内部統制システム監査の計画の策定(実施基準6条2項)

b 会議等への出席及び代表取締役等との定期的会合等を通じた各体制の整備状況等の 把握、代表取締役等からの報告聴取(同条3項)

c 内部監査部門等からの適時適切な報告聴取、内部監査部門等が行う調査等の立会及 び追加調査等の報告聴取(同条4項)

d 内部監査部門等との連係を通じた内部統制のモニタリング機能の実効性の監視・検 証(同条5項)

e 内部統制部門に対する各体制の整備状況等についての報告聴取等(同条6項)

f 会計監査人との定期的会合等を通じた内部統制整備状況に関する会計監査人の意見 等の把握及び報告聴取(同条7項)

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判断した論拠等につき監査役会に報告する(実施基準7条1項)

ⅱ)監査役会は、上記の報告を受けてその内容を検討し、代表取締役等に対し 助言・勧告すべき事項を審議する(同条2項)

ⅲ)上記の助言・勧告にもかかわらず、代表取締役等が適切に対処せず、かつ その結果、各体制の整備状況に重大な欠陥があると認められる場合は、監査 役は必要に応じ監査役会での審議を経て監査報告にその旨を指摘する(同条 3項)。なお、監査役会での審議等は各監査役の権限行使を妨げるものでは ない(同条4項)とされ、監査役の独任制が尊重されている。

内部統制の不備に対する監査役がとるべき行動は、「不備」→「重大な欠 陥」へと指摘対象のレベルが上がる。最終的な措置として監査報告への記載 が行われることとなる。

(3)内部統制に係る個別の体制等に関する監査

①法令等遵守体制に関する監査

実施基準第8条では、監査役は、法令等遵守体制について以下の重大なリ スクへの対応の可否を重要な監査の着眼点 として監視・検証するとして いる。

ⅰ)違法行為における「トップの関与」が認められる場合のリスク(実施基準 8条1項1号)

ⅱ)現場での情報等が適時適切に把握されていない結果、「組織ぐるみ」で違 法行為が広範に行われる場合のリスク(同項2号)

ⅲ)違法行為が生じそれがトップにおいて把握されたにもかかわらず、「隠蔽 行為」が行われる場合のリスク(同項3号)

監査役は、法令等遵守体制が上記のリスクへの対応の可否について、重要 な統制上の要点 を見定めたうえで判断するものとする(実施基準8条2項)。 統制上の要点の具体的な例示は、実施基準8条2項各号に掲げられているの で参照されたい(以下、実施基準第13条までの各条2項各号につき同じ)

このように見てくると、「トップの関与」「組織ぐるみ」「隠蔽行為」とい ったものが、まさに会社の継続性まで影響を与える重大リスクであり、取締 役の法的責任が追及される可能性が極めて高いため、法令等遵守体制の内部 統制の監査は監査役にとっては重点的に行うべき監査事項となろう。

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法令等遵守体制の監査についてのチェック・ポイントは、まずトップ等が 法令等遵守体制整備の重要性を認識しているか否かを確認することであろ う。そして取締役は取締役会等の意思決定及び個別業務執行において法令等 を遵守した意思決定及び業務執行を確保する体制を整備する必要がある。

取締役会等において収益確保等だけが優先策として講じられていないか、

法令等遵守の行動基準等による重要法令内容の役職員への周知徹底がなされ ているかといった点もポイントになろう。また、モニタリング部門による法 令等遵守の問題点の把握とその改善措置や法令等違反の処分規程の整備等に も目を向けるべきであろう。

実施基準には、統制上の要点として、法令等遵守体制の実効性に重要な影 響を及ぼしうる事項の取締役会等に対する定期的な報告体制の整備及び、内 部統制部門が疑念を持つ取引等についての監査役等への適時適切な伝達体制 の整備や、内部通報システム等の業務執行ラインから独立して把握されるシ ステムの整備が挙げられているが、監査役は以上のような視点を持ち、コン プライアンス体制をチェックしていくことが求められる。

②損失危険管理体制に関する監査

実施基準9条では、損失危険管理体制について、監査役は、以下の重大な リスクへの対応の可否を重要な監査の着眼点として監視・検証するとする。

ⅰ)リスク管理の基本プロセスで重大な瑕疵が生じた結果、本来回避できたは ずの著しい損害が発生するリスク(実施基準9条1項1号)

ⅱ)聖域化した事業領域が放置されることにより生じるリスク(同項2号)

ⅲ)危機管理における対応を誤ることにより生じるリスク(同項3号)

監査役は、損失危険管理体制が上記のリスクへの対応の可否について、重 要な統制上の要点を見定めたうえで判断するものとしている(実施基準9条2 項)

損失危険管理体制の監査に関する監査役としてのチェック・ポイントは、

まず、トップ等が損失危険管理体制整備の重要性を認識しているかを確認す ることである。具体的には、著しい損害を及ぼすおそれのある事象への対応 として取締役会等でリスク分析に基づく議論がなされたか、トップ等がブラ ンド毀損等会社存続に関わるリスクについて認識していたか、経営環境及び

3 実施基準による監査役監査の実施 143

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リスク要因の変化に対して適時適切に対応する体制が整備されているかを検 証することになる。

また、事業年度で重点的に取り組むべきリスク対応計画の策定、当該計画 の実行状況が定期的にレビューされる仕組みの整備、各種リスクに関する識 別等のあり方を規定した管理規程の整備、モニタリング部門による損失危険 管理の問題点の把握とその改善措置についても、チェックしていく。その 他、著しい損害を及ぼすおそれのある事業継続に関する適時適切な検討、損 失危険管理体制の実効性に重要な影響を及ぼしうる事項の取締役会等に対す る定期的な報告体制の整備、著しい損害を及ぼす事態が生じた場合の対策本 部の設置や情報伝達体制等の方針等の事前準備などは、クライシス・マネジ メントの問題となろう。

③情報保存管理体制に関する監査

実施基準10条では、監査役は、情報保存管理体制について以下の重大なリ スクへの対応の可否を重要な監査の着眼点として監視・検証するとする。

ⅰ)権利義務の基本となる契約書等が適正に作成・保存・保管されていないこ とで著しい損害が発生するリスク(実施基準10条1項1号)

ⅱ)企業競争力の観点から適正な保存管理が要求される情報、及び法令の規定 により適正な保存管理が強制される情報につき、これらが漏洩する結果著し い損害が発生するリスク(同項2号)

ⅲ)上場会社としての適正な情報開示体制が未整備の場合に生じるリスク(同 項3号)

監査役は、情報保存管理体制が上記のリスクへの対応の可否について、重 要な統制上の要点を見定めたうえで判断するとしている(実施基準10条2項)。 情報保存管理体制の監査は、トップ等の情報保存管理体制整備の重要性の 認識を確認することが、第一のチェック・ポイントとなる。

具体的には、情報保存管理規程等を有効に実施するための社内体制の整 備、取締役会議事録等が適正に記録保存される社内体制の整備、保存管理す べき文書等の管理体制の整備を挙げることができよう。

個人情報等の情報に関する法定の管理方法についての役職員等への周知徹 底や、重要情報等の適時開示等を所管する部署の正確かつ十分な開示体制の

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整備、情報保存管理規程及び職務分掌に従った管理の履行、モニタリング部 門による情報保存管理の問題点把握と改善措置等が対象となるであろう。ま た、情報保存管理の実効性に重要な影響を及ぼしうる事項の取締役会等に対 する定期的な報告体制を整備することが重要である。

④効率性確保体制に関する監査

実施基準11条では、監査役は、効率性確保体制について以下の重大なリス クへの対応の可否を重要な監査の着眼点として監視・検証するとする。

ⅰ)経営計画等が適正に行われていない、あるいは過度の管理体制が敷かれて いるなどの非効率性が著しい損害を生じさせるリスク(実施基準11条1項1 号)

ⅱ)効率性が過度に追求されている結果、会社の健全性が阻害され、著しい損 害が発生するリスク(同2号)

ⅲ)経営判断の原則の適用を受ける合理的な意思決定プロセスに不備があるこ とにより、著しい損害が発生するリスク(同3号)

監査役は、効率性確保体制が上記のリスクへの対応の可否について、重要 な統制上の要点を見定めたうえで判断するとしている(実施基準11条2項)。効 率性確保体制の監査の場合は、次のチェック・ポイントにより監査役監査が 行われることになると思われる。

トップ等が効率性確保と健全性確保との適正バランス等の重要性につき認 識しているかどうかを確認すること、さらに、具体的には、経営計画の策定 等が適正に決定実行等される仕組みを整備すること、達成困難な経営計画等 の設定による会社の健全性を損なう過度の効率性の追求が行われていないか をチェックする。また、トップ等が行う重要な意思決定等において経営判断 原則に適合する決定を確保する体制を整備する。

⑤企業集団内部統制に関する監査

実施基準12条では、監査役は、企業集団内部統制について以下の重大なリ スクへの対応の可否を重要な監査の着眼点として監視・検証するとしてい る。

ⅰ)重要な子会社における内部統制システムに整備の漏れが生じることによ り、著しい損害が発生するリスク(実施基準12条1項1号)

ⅱ)企業集団内での情報伝達体制が未整備である場合のリスク(同項2号)

3 実施基準による監査役監査の実施 145

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ⅲ)企業集団内での上から下への圧力による違法・不適正な行為が行われるこ とにより、著しい損害が発生するリスク(同項3号)

監査役は、企業集団内部統制が上記のリスクへの対応の可否について、重 要な統制上の要点を見定めたうえで判断するとしている(実施基準12条2項)。 企業集団内部統制の監査に対し、まず監査役としては、トップ等の企業集団 内部統制整備の重要性の認識確認を行うこととしている。企業集団全体で共 有すべき経営理念等の周知徹底とそれに沿った諸基準の遵守に向けた適切な 啓蒙活動及びモニタリングの実施、企業集団において重要位置を占める子会 社等がモニタリングの対象から除外されないようチェックすること、子会社 の内部統制整備状況をモニタリングする部門等による重要課題の問題点の把 握とその改善措置、子会社において著しい損害を及ぼす事態が生じた場合の 情報伝達体制の整備がポイントとなる。

企業グループの内部統制については、現実にどこまで及ぶかのかについて は難しい面があろう。親会社に子会社に対する指揮命令権が法定されていな いのに全社的内部統制を要求できるのかとの不安を抱えながらも、現実の実 務では、企業集団全体の問題として検討されなければならないというジレン マがある。実際に、法的責任とガバナンスについて企業集団単位で対応でき ていない現状を克服するには、企業結合法制の再検討の必要性があるのかも しれない。

現行法制においても、少なくとも、企業集団内で共通化すべき情報処理等 のシステム化、(子会社に対する達成困難な経営計画等の設定による)子会社等の健 全性を損なう過度の効率性追求、子会社を利用した不適正な行為などについ て、監査役として注視していことが現実問題として求められるのであろう。

(4)監査役監査の実効性確保体制の監査

実施基準14条から16条には、監査役監査自体の実効性確保体制に関する監 査が規定されている。各条ともに第1項で、取締役または取締役会に対して 改善を要請すべきと思われる事項を個別的に列挙したうえで、第2項で、当 該要請を取締役等が正当な理由なく適切な措置をとらない場合には、監査役 会での審議を経て、監査報告等にその旨を指摘すべきであるとしている。

146

(15)

①補助使用人に関する事項

補助使用人に関する事項で、取締役等に対し改善を要請すべき事項として 列挙されているのは、以下のとおりである(実施基準14条1項1号〜5号)

ⅰ)監査役の職務に必要な補助使用人の員数または専門性が欠けている場合

ⅱ)補助使用人が行う情報収集等の必要な行為が不当に制限されている場合

ⅲ)補助使用人に対する監査役の必要な指揮命令権が不当に制限されている場 合

ⅳ)補助使用人の人事評価等に対して監査役に同意権が付与されていない場合

ⅴ)監査役監査の実効性を妨げる特段の事情が認められる場合

補助使用人に関する事項は監査役監査の環境整備の問題であるといえる。

監査役の手足となる監査役スタッフ等の人材確保という面から、環境整備の 土台ともなる部分である。そのためのトップとの意思疎通が決め手となる。

②監査役への報告体制

監査役への報告体制について、以下の場合に取締役等に対し改善を要請す るものとしている(実施基準15条1項1号〜6号)

ⅰ)監査役が出席する必要のある会議等につき出席機会が確保されていない場 合

ⅱ)監査役が欠席する会議等につき監査役が関連資料を適時に閲覧できない場 合

ⅲ)業務執行の意思決定に関する重要な書類を監査役が適時に閲覧できない場 合

ⅳ)取締役及び内部監査部門等の監査役への定期的な報告が行われていない場 合

ⅴ)ⅳ)以外で、監査役に対して適時に報告すべき事項が報告されていない場 合

ⅵ)内部通報システムから監査役に提供されるべき情報が適時報告されない場 合

監査役への報告体制については、社内での組織運営上の問題として捉える ことができる。各種の報告制度が継続的に実施されているか否かが問題とな る。

3 実施基準による監査役監査の実施 147

(16)

4 内部監査、会計監査人との連係

大規模公開会社の経営全体の監視・検証ともなれば物理的限界がある。監 査役自身の監査体制の整備(会社法施行規則100条3項)も積極的に働きかける ほか 、内部監査や会計監査人監査との連係を通じて、監査役は自らの監視 活動と検証活動を続けていかざるを得ないであろう。

経営執行部が行う内部統制全体に対しても、監査役自ら評価を検証する部 分と、内部監査や会計監査人との連係を通じて心証形成する部分とを、複合 的に組み合わせ合理的に取り組んでいくべきである。少なくとも大規模公開 会社においてはこれが監査役監査を実施するうえでの基本姿勢となる。

前述の企業会計審議会の内部統制関連の意見書の立場も、公認会計士と監 査役等の連係を促しており、公認会計士たる「監査人は、効果的かつ効率的 な監査を実施するために、監査役または監査委員との連携[連係の文言は使 用されていない]の範囲および程度を決定しなければならない」とされてい る 。

内部監査および会計監査人との連係は、効率を上げるための協働という意 味で監査役が自ら実施する監査以上に重要である。基準17条は監査役への報 告体制等を示すものであるが、内部監査部門等との連係体制が実効的に構築 され、かつ運用されるよう、取締役または取締役会に対して体制の整備を要 請するものとしている(基準17条6項)。また、基準21条2項では、監査役と しては、自身から積極的に内部統制システムの構築・運用状況について取締 役から報告を定期的に求めるほか、内部監査部門等との連係および会計監査 人からの報告を通して、内部統制システムの状況を監視し、検証するとされ る。

(1)内部監査部門等との連係

基準32条においては、内部監査部門等との連係について、図表Ⅵ―4の3 点を定めている(なお、基準では4点規定されているが、4項は監査役の独任制に関す る事項であるので省略した)

148

(17)

他方、実施基準では、16条「内部監査部門等との連係体制等」として第5 章の「監査役監査の実効性確保体制の監査」の中に位置づけられている。

内部監査部門等との連係体制等に関する事項で、取締役等に対し改善を要 請すべき事項として列挙されているのは、以下のとおりである(実施基準16条 1項1号〜3号)

ⅰ)監査役と内部監査部門等との連係が実効的に行われていない場合

ⅱ)ⅰ)以外で、監査役と内部監査部門等との連係に支障が生じている場合

ⅲ)内部統制部門からの報告につき監査役の要請事項が遵守されていない場 合」

ところで、監査役が内部監査部門等と緊密な連係のもとに監査を実施する ことについて、古き時代の法的形式論ないし会社機関構造論からすると、内 部監査部門の活動は取締役の職務執行の一環であるから、経営監視機関であ る監査役と内部監査部門との「連係」は本質的にありえないはずである。し かし、現行会社法上、会社法施行規則100条3項において、監査役体制の独 立性についても経営執行者側である取締役会ないし取締役の義務として位置 づけるほか、同規則105条2項において、取締役等との意思疎通を図ること さえ規定されている。つまり、経営執行機関と経営監視機関との相互補完な らびにコミュニケーションが必要であることを法令も認めたということであ る。内部統制については、とくにこの点が強調されるべきであろう。

4 内部監査、会計監査人との連係 149

図表Ⅵ―4 内部監査部門等との連係(監査役監査基準)

・監査役は、会社の業務および財産の状況を調査、その他の監査職務の執行に当たり、内部監査 部門等と緊密な連係を保ち、効率的な監査を実施するよう努めなければならないこと(基準32 条1項)。

・監査役は、内部監査部門等からその監査計画と監査結果について定期的に報告を受け、必要に 応じて調査を求めるものとすること。また、内部監査部門等の監査結果を内部統制システムに 係る監査役監査に実効的に活用すること(同条2項)。

・監査役は取締役のほか、コンプライアンス所管部門、リスク管理所管部門、経理部門、財務部 門その他内部統制機能を所管する部署(「内部統制部門」という)から内部統制システムの整 備状況について定期的かつ随時に報告を受け、必要に応じて説明を求めなければならないこと

(同条3項)。

(18)

(2)会計監査人との連係

会計監査人との連係は、内部監査部門との連係とは同一には論じられない 面がある。

会計監査人は会社外部の独立監査人であるが、会社法上は監査役の監査に 糾合される形である。すなわち、会社法における会計監査の体制は、会計監 査人と監査役による重畳的な会計監査体制であり(会社計算規則128条2項2号、

127条2号)、会計監査人が行う各種の報告先は監査役となっており(会社法397 条、会社法計算規則131条など)、かつ会計監査人の人事(会社法340条、344条)、報 酬(会社法399条)についても監査役が関与する。したがって、制度上も監査 役と会計監査人は、より強力に連係をはかっていかねばならないものと思わ れる。

ただ、大規模公開会社においては、金融商品取引法の内部統制を正面から 受け止めるべきであり、内容的には同法の水準でなされるべきであるから、

監査役からも会計監査人に対し積極的に情報提供すべきである。ここにはお 互いの協力関係がまず優先されるのであり、実務的には指揮・命令などの上 下関係はないように思われる。

①『監査役監査基準』および『会計監査人との連携に関する実務指針』に みる方向性

基準42条2項では「監査役および監査役会は、会計監査人から監査計画の 概要を受領し、財務報告に係る内部統制に関するリスク評価等について説明 を受けるほか、監査重点項目等について説明を受け、意見交換を行わなくて はならない」とされ、会計監査人との連係において内部統制等に取り組むべ き姿勢を示している。

会計監査人との連係について、日本監査役協会では基準のほかに、会計監 査人との連係に関する実務指針として2006年5月、同協会の会計委員会名で

『会計監査人との連携に関する実務指針』を公表している(なお、同実務指針で は「連係」でなく「連携」の語が使用されている)

同連携実務指針は、主に「Ⅰ、会計監査人との連携の基本」と「Ⅱ、連携 の具体的な例示」から構成されている。Ⅰ、については、本稿でこれまで述 べてきたところと大要相違はないので省略するが、Ⅱ、には図表Ⅵ―5のよ

150

(19)

うな事項が掲げられている。

図表Ⅵ―5の aから hの中で、会計監査人と内部統制に対して取り組む べき課題については、次の箇所において記述されている。なお、hを除けば 時系列に連携の例示を示し、eないし g が年間の監査実務の流れを示すもの といえよう。

d の中から…会計監査人体制の独立性や内部統制について契約時に確認す る。

eの中から…会計監査人が行う内部統制の評価の方法および実施時期、重 要な手続の内容および実施時期について説明を受ける。

会計監査人と監査役会がそれぞれの監査方針と監査計画を示 した上で、監査の重点、リスクの認識、内部統制への関与な どについて意見交換する。

fの中から…前期からの監査上の懸案事項・指摘事項、および内部統制上 の問題点の改善状況についての説明を受け、意見交換する。

中間財務諸表に係る中間監査報告書において、不正、誤謬、

違法行為および内部統制の不備等について説明を受ける。

g の中から…前期からの監査上の懸案事項・指摘事項、および内部統制上 の問題点の改善状況ならびに当期の重点監査項目の説明を受 け、意見交換する。

会計監査人の会計監査報告について、不正、誤謬、違法行為 および内部統制に関する記載内容の説明を受ける。

図表Ⅵ―5 日本監査役協会「会計監査人との連携に関する実務指針」における例示事項 a 事前に協議すべき事項

b 連携のための会合の時期等

c 会計監査人の選任・解任・不再任時の連携の例示

d 契約更新時、または会計監査人・監査役の交代時の連携の例示 e 監査計画策定時の連携の例示

f 中間監査時の連携の例示(なお、金融商品取引法24条の4の7により、中間時な いし四半期ごとの連携となっていくであろう)

g 期末監査時の連携の例示 h 随時の連携の例示

4 内部監査、会計監査人との連係 151

(20)

会計監査人体制について(会社計算規則131条関係)通知を受 け、内容の説明を受ける。

このように、連携実務指針では上記の各切り口において、会計監査人から 内部統制に関する説明を求めたり意見交換を進めることを中心に内部統制に 取り組むべき姿勢を打ち出している。いうまでもなく、四半期ごとなど会計 監査人との定例会合時はもとより、随時に意見交換・情報交換できるのであ るから、内部統制の基本的要素の一つである監視活動は継続して行われるべ きであろう。

②会計監査人体制の内部統制に対する評価

会社計算規則131条によれば、会計監査人は会計監査報告の通知に際して、

次の三点を監査役(または特定監査役。以下同じ)に通知しなければならない。

a 独立性に関する事項その他監査に関する法令および規程の遵守に関す る事項

b 監査、監査に準ずる業務およびこれらに関する業務の契約の受任およ び継続の方針に関する事項

c 会計監査人の職務の遂行が適正に行われることを確保するための体制 に関するその他の事項

とくに上記 cは、会計監査人自体の内部統制体制ともいうべき事項であ る。

会社計算規則127条4号によれば、会計監査人設置会社の監査役監査報告 において、会計監査人の職務の遂行が適正に実施されることを確保するため の体制に関する事項について監査役は意見を述べなければならない。つま り、会計監査人設置会社における監査役は、会計監査人の内部統制状況その ものに対して評価を実施しなければならない立場に置かれている。

基準25条2項では、「監査役は、会計監査の適正性および信頼性を確保す るため、会計監査人が独立の立場を保持し、職業的専門家として適切な監査 を実施しているかを監視し検証する」とされている。会計監査人の独立性に 問題があれば、解任または不再任にもつながる事柄でもある。

基準26条では、会計監査人の職務の遂行が適正に行われることを確保する ために、監査役は、上記 aないし cについて会計監査人から通知を受け、

152

(21)

会計監査人が会計監査を適正に行うために必要な品質管理の基準を遵守して いるかどうか、会計監査人に対し適宜説明を求め確認を行う、とされてい る。ここに、品質管理の基準とは、企業会計審議会や日本公認会計士協会が 制定した品質管理に関する基準等をいう 。なお、前掲連携実務指針では、

期末監査の時点において、会社計算規則131条1項各号の内容説明を受ける とされているが、とくに具体的な留意事項等は示されていない。

上記品質管理基準を根拠に判断するほか、次のような視点からのアプロー チも考えられる。それは、会計監査人の独立性に関しどのような「検証」す なわち会計監査人の独立性の評価検討を具体的に行う際に、かつての法務省 令案にあった事項を参考に整理する方法である。

会社法施行規則・会社計算規則などの会社法関係法務省令が策定される以 前の公開草案(パブリックコメント)の段階では、現行会社計算規則131条に掲 げられている事項よりも多くの事項が掲げられていた 。すなわち法務省 令公開草案の『5 株式会社の監査に関する法務省令案』の20条において は、現行の会社計算規則131条には見られない次の事項が掲げられていた。

a 監査に従事する者の選任その他の人事の方針に関する事項(省令案20 条3号)

b 審査体制その他の業務の実施に関する事項(同条4号)

c 前号の規定による体制を維持するための日常的な監視活動の方針に関 する事項(同条5号)

d 前各号に掲げる事項についての責任者に関する事項(同条6号)

実際に関与する会計監査人の独立性を判断するには、上記 aから dの事 項が具体的に検証されるべきであろう。現場レベルの会計監査人の独立性に こそ焦点を当てるべきである。当該監査法人における関与社員の選出方法や 審査体制など、あるいは代表社員との係わりなどが問題となるからである。

このことは、関与する会計監査人の独立性のみならず、会計監査人体制全 体の内部統制についても妥当する。とりわけ上記 bの審査体制の状況、dの 責任者との関係などは重点的に検討すべき事柄となろう。監査役が事業年度 終了後の「監査実施報告書」を受領して会計監査人と懇談する際は、これら 事項の確認作業が行われることが望まれる。あるいは会計監査人監査の終了

4 内部監査、会計監査人との連係 153

(22)

時点の確認事項として、上記 aないし dの切り口から検証することも考え られる。

5 財務報告に関する内部統制の監査

前述のとおり、大規模公開会社においては、取締役会は当然、金融商品取 引法の内部統制を整備することが会社法上の発現となり、同様に監査役は当 然、金融商品取引法の内部統制の整備状況を監査することが会社法上の発現 となる。したがって金融商品取引法で求められる内部統制の水準が必要とい うことになろう。財務報告に関する内部統制は、企業情報開示(その共通言語 としての会計も含む)や監査といった点が資本市場や投資者との接点となるの で、とくにこのような大規模公開会社の論理が求められ、監査役が重点を置 くべき事項の最たるものになる。実施基準では、ここら辺の考え方こそ明確 に示されていないが、あえて会社法上の表現ではなくあえて「財務報告」の 語が使用されている。これらの点については、改めて次章でも取り上げるこ とにしたい。

さて、実施基準13条1項は、財務報告の監査に対し監査役が重大なリスク 対応しているか否かを監査上の着眼点として監視・検証するものとされてい る。同項では、重大なリスクとして次の三点が示されており、これらが監査 役監査の視点となる。

ⅰ)財務担当取締役が主導または関与して不適正な財務報告が行われるリスク

ⅱ)会社の経営成績や財政状況に重要な影響を及ぼす財務情報が財務担当取締 役において適時かつ適切に把握されていない結果、不適正な財務報告が組織 的にまたは反復継続して行われるリスク

ⅲ)会計監査人が関与または看過して不適正な財務報告が行われるリスク

同条2項では、重要な統制上の要点として次の5項目が挙げられ、とくに 3番目の項目については10項目が例示されている。監査役はこれら各点につ き同条第1項に定めるリスクに対応しているか判断するとされる 。

ⅰ)財務担当取締役が、会社経営において財務報告の信頼性およびその実効的 体制の整備が必要不可欠であることを認識しているか。財務報告における虚 154

(23)

偽記載が適時かつ適切に発見・予防されないリスクの重大性を理解している か。

ⅱ)財務報告を所管する部署に会計・財務に関する十分な専門性を有する者が 配置されているか。

ⅲ)日常的な監査活動を通じて監査役が把握している事項に照らして、以下の 点(なお、これらは例示であり、事業内容の特性に照らして過不足のない点に絞る ものとする)について、財務担当取締役が適切に判断・対応し、かつ会計監 査人が適正に監査を行う体制が整備されているか。

イ 売上・原価の実在性と期間配分の適切性、棚卸資産の実在性、各種引 当金計上の妥当性、税効果会計の妥当性、減損会計の妥当性、ヘッジ 会計の妥当性、オフバランス事項その他重要な会計処理の適正性 ロ 重要な会計方針の変更の妥当性

ハ 資本取引、損益取引における重要な契約の妥当性 ニ 重要な資産の取得・処分等の妥当性

ホ 資金運用の妥当性(デリバティブ取引を含む)

ヘ 財務報告に重要な影響を及ぼす IT 全般統制・情報システムの整備状 況

ト 会計基準や制度の改正等への対応 チ 剰余金処分に関する方針の妥当性

リ 連結の範囲および持分法適用会社の範囲の妥当性

ヌ 連結決算に重要な影響を及ぼす企業集団内の会社に関する上記各事項 の適正な会計処理

ⅳ)開示すべき財務情報が迅速かつ網羅的に収集され、法令に従い適時に正確 かつ十分に開示される体制が整備されているか。

ⅴ)会社の経営成績や財務状況に重要な影響を及ぼす可能性が高いと認められ る事項について、財務担当取締役と会計監査人との間で適切に情報が共有さ れているか。会計監査人の会社からの独立性が疑われる特段の関係が形成さ れていないか。その他会計監査人の職務の遂行が適正に行われていることを 確保するための体制が整備されているか。

同条3項では、監査役は、会計監査人に対し、財務報告内部統制における 第1項に定める重大なリスクへの対応状況その他財務報告内部統制の実効性 に重要な影響を及ぼすおそれがあると認められる事項について、適時かつ適 切に監査役または監査役会に報告するよう要請し、情報の共有に努める、と

5 財務報告に関する内部統制の監査 155

(24)

している。

同条4項では、監査役は、財務担当取締役と会計監査人との間で、監査の 方法または会計処理等について意見が異なった場合には、財務担当取締役お よび会計監査人に対し、適時に監査役または監査役会に報告するよう要請す るものとしている。

同条5項では、監査役は本条(実施基準13条)に定める監査の方法その他会 社法に定める監査活動を通じて、財務報告内部統制が第1項に定める重大な リスクに対応していないと判断した場合には、必要に応じ監査役会における 審議を経て、その旨を財務担当取締役に対して適時かつ適切に指摘し、必要 な改善を求めるとともに、会計監査人に対して必要な情報を提供する。会計 監査人が当該情報の内容につき適正に会計監査を行っていないと認める場合 には、監査役は、会計監査人の監査の方法または結果が相当でないと認める 旨およびその理由を監査報告において記載するものとしている。

以上のように、財務報告内部統制については、実施基準の他の箇所より も、監査役のとるべき行動が具体的に明示されているように思われる。最終 的に監査報告において積極的に相当でない場合の処置まで述べられている点 が注目される。

[注]

(1) 本章の内容は、山本一範教授との共著「内部統制と監査役監査の役割」蟹江章編著

『監査学会リサーチシリーズ・新会社法におけるコーポレートガバナンスと監査』同 文館(2008年)を下敷きにしてまとめたものであるが、執筆当時は専ら会社法の観点 から論述していた。同論稿では、大規模公開会社の監査役として担うべきものは何か といった視点がほとんどなかった。本章では筆者が山本教授の了解を得て、公開株式 会社法の論理を踏まえた全面的な加筆修正を行っている。

(2) 企業会計審議会が2007年2月に公表した『財務報告に係る内部統制の評価及び監査 の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の設定につい て(意見書)』では、基準4.において「監査役または監査委員会は、取締役及び執 行役の職務の執行に対する監査の一環として、独立した立場から、内部統制の整備・

運用状況を監視・検証する役割と責任を有している」とし、金融商品取引法上におい ても、監査役等の会社機関としての独立性を強調している。

(3) 日本監査役協会『内部統制システムに係る監査の実施基準』前文Ⅱ.7監査役526 号(2007年)46頁のほか、同趣旨のものとして、八田進二「内部統制報告制度に果た 156

(25)

す監査役の使命」監査役523号(2007年)3頁参照。

(4) 上村達男・金児昭『株式会社はどこへ行くのか』日本経済新聞出版社(2007年)

244頁〜245頁、上村達男「内部統制に関する諸問題」株式実務88号(2009年)26〜27 頁参照。

(5) 日本監査役協会『監査役監査基準』商事法務1797号(2007年)12頁以下参照。

(6) 日本監査役協会『内部統制システムに係る監査の実施基準』監査役526号(2007年)

45頁以下参照。

(7) 武井一浩「『内部統制監査役監査基準』の解説〔下〕」商事法務1799号(2007年)68 頁。監査の着眼点とは、監査対象となる体制について、どのような基準・切り口で評 価を行い、監査見を形成するのかを指すとされる。

(8) 前掲・武井(注7)68頁。統制上の要点とは、内部統制の具体的な仕組み・プロセ スにおいて重要と思われるチェック・ポイントを指している。

(9)山本一範「監査役設置会社における内部統制⎜⎜会社法施行規則100条3項に関する 体制の事例分析⎜⎜」税経通信62巻1号(2007年)41頁以下参照。

(10) 前掲(注2)の基準3.(7)参照。

(11) たとえば、企業会計審議会が2005年10月に公表した『監査に関する品質管理基準 等』や日本公認会計士協会・品質管理基準委員会報告書『監査事務所における品質管 理』、監査基準委員会報告書『監査業務における品質管理』など参照。なお、公認会 計士法46条の9の2第1項の定めによって、日本公認会計士協会・監査審査会による 品質管理レビューが実施される。このレビューは同協会が2007年6月に策定した『公 認会計士・監査審査会の実施する検査に関する基本方針』に基づいて実施される。

(12) 詳細は、商事法務1750号(2005年)107頁以下参照。

(13) 実施基準13条2項において例示された10項目が、あくまでも例示であり事業内容の 特性に照らして絞り込むとの説明があるにしても、一般の監査役にとってやや専門的 すぎるのではないかと危惧される。例示は単に切り口の参考にすぎないものと理解す べきであろうか。そうであれば、当該会社の事業内容の特性を考慮してどのように絞 り込むのかについては、会計監査人と打合せ調整すべき重要な点となろう。あるいは 監査役側の監査環境・体制整備の問題として、会計に通暁した監査役補助者を据える べきものと捉えることもできよう。

5 財務報告に関する内部統制の監査 157

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