第7章 監査役の企業情報開示への取り組み
1 総 説
これまで触れてきたように、大規模公開会社では会社法だけを遵守すれば よいということでは済まされない状況になっている。大規模公開会社では、
古典的な会社法の枠組みだけでなく、国民公益に直結する資本市場法すなわ ち金融商品取引法と一体となっているという意味で会社法も位置づけられる 必要がある。大規模公開会社は、金融商品取引法の「資本市場の機能の十分 な発揮による金融商品等の公正な価格形成等を図り、もって国民経済の健全 な発展および投資者の保護に資する」(金商法1条後段)という目的に資する べく、会社法上の発現として、証券市場および投資者に目を向けた運営を進 めていくべきである。その具体的な接点は、企業情報の開示(およびその共通 言語となる会計)と監査である。大規模公開会社においてこれら業務に携わる 者はこういった認識が求められる。
金融商品取引法開示は上記の位置づけからして大規模公開会社にとって最 優先すべき情報開示であるから、市場や投資者との関係において同法開示書 類のコンプライアンスが重要なものとなる。たとえば、有価証券報告書・半 期報告書・四半期報告書などによる継続開示は、投資者にとって基本的な投 資情報となるが、これらは EDINET による公衆縦覧が行われており、あら ゆる投資者が閲覧するものであるから作成に当たってはコンプライアンスに ついて慎重な姿勢が求められる。だが実際に、いくつかの上場会社において は有価証券報告書の企業情報開示に違反したことが原因で会社の屋台骨を揺 るがされ、市場および投資者に多大な迷惑をかけてしまう事例も見られ る 。他方、訂正報告書・臨時報告書・大量保有報告書などによる適時開示 は、コンプライアンスはもとより、開示要因があれば緊急の開示を要するこ とからその開示体制につき即応性が担保されていなければならない。
したがって大規模公開会社の監査役であれば、単に「(静止画面の)株主の 158
負託を受けガバナンスを担当する役員」という自覚だけでは済まされない。
上村達男教授が「商法上の情報開示に代えて、証券取引法上の情報開示制度 を商法上の問題として受け止めるべきであるから、公開株式会社の監査役監 査の対象に、有価証券報告書等の証取法情報開示が含まれることは理論上も 当然である」と述べているように 、大規模公開会社の監査役は背景に資本 市場を抱える会社であることを強く認識し、その目をもっと市場および投資 者にも向けるべきであろう。金融商品取引法の開示規制は会社法の開示規制 に比べ厳格かつ詳細であるが、大規模公開会社の運営自体に市場および投資 者そのものに対し敏感であることが求められるので、いきおい大規模公開会 社の監査役の企業情報開示への取り組みは上記のような金融商品取引法のレ ベルでなされるべきことになる。大規模公開会社の監査役は、金融商品取引 法上の企業情報開示に対しその番人となるべく公認会計士と連係して臨んで いく必要がある一方、第6章でみたように取締役会の金融商品取引法開示に 対する監督状況などについて内部統制が機能しているかどうか監視・検証が 必要になろう(第6章の2および4参照)。
なお、古くは、金融商品取引法と監査役監査の関係をめぐる法制度につい て次のような議論もあった。すなわち、①有価証券報告書において開示され る企業情報には、「企業の概況」「事業の状況」など定性的な文章による業務 関連情報と、「経理の状況」などの会計情報とがある。②後者には公認会計 士等の監査が義務付けられているものの(金融商品取引法193条の2)、前者には 制度上、監査が義務付けられていない。③こうした有価証券報告書の文章情 報に対する監査が制度上抜け落ちていることの指摘に対し、監査役としては 取締役の重要な職務執行の監査の一環として監査すべきものと主張されてき た 。現在でも、有価証券報告書における業務関連情報すなわち定性的な文 章情報の部分に対する監査が制度的に抜け落ちていることそれ自体について は様々な立法提案が考えられようが 、まずは金融商品取引法の開示に対し 監査役として当然監査すべきであるというスタンスが確認されなければなら ない。金融商品取引法においてこの種の立法手当てをするよりも、財務報告 の内部統制上の問題として会社法の実施レベルでもって取り扱うべきであ り、現状では運用に委ねるべきものと考える。
1 総 説 159
次に、会社法レベルの企業情報開示に対する監査役の取り組みも問題とな る。会社法における企業情報の開示は、もとより取締役の重要な職務執行の 一部であり、取締役の職務の執行を監査する(会社法381条1項前段)監査役と しても、企業情報開示体制等に対する監視・検証は必要不可欠であるが、後 述するように、全般にゆきわたっているとはいえない。会社法では、事業報 告およびその附属明細書に対する監査は、唯一監査役自身(およびその補助 者)が直接検証すべき監査であり(会社法436条1項、2項2号)、監査役自ら、
事業報告およびその附属明細書が法令または定款に従って会社の状況を正し く示しているどうか監査報告しなければならない(会社法施行規則129条1項2 号)。会社法上は計算書類等に対する監査と事業報告に対する監査は峻別さ れており(会社法施行規則116条3号)、監査役監査として事業報告に対する監査 がどの程度行われるのかが問題となる。事業報告の記載内容には、資金調 達・設備投資・借入金など数値情報も含まれ、会計監査人設置会社にあって は会計監査人との連係が強く求められるように思われる。なお、監査役には 計算関係書類の監査が義務付けられていることはいうまでもない(会社法436 条1項・2項、441条2項、444条4項等)。
本章では、以上のような企業情報開示に対する監査役の取り組みについて 取り上げる。会社法上の場面を扱う第5節以下では、第5章で取り上げた現 行会社法の制度説明を補足する意味で、会社計算規則および会社法施行規則 における監査役関連の重要事項を概観し、かつその問題点あるいは実務展開 のための方策等を取り上げていくことにする。
2 監査役監査基準にみる基本姿勢
企業情報の開示に対し監査役としてどのように取り組んでいくべきかにつ いては、日本監査役協会の監査役監査基準に定めがある。これを先に取り上 げておこう。
監査役監査基準38条では、取締役以下の企業情報開示体制に対し、監査役 が取り組むべき方向性を次のとおり定めている。
1項 監査役は、開示される企業情報の透明性と信頼性を確保するため 160
に、取締役が適切な情報作成および情報開示の体制を構築し、明確な情報開 示基準を制定し運用しているかを監視し検証しなければならない。
2項 監査役は、会社が開示する情報につき、会計監査人のほか担当取締 役または使用人に対しその重要事項につき説明を求めるとともに、開示され る情報に重要な誤りがなく、かつ、内容が誤解を生ぜしめるものでないかを 検証しなければならない(同条2項)。
3項 監査役は、継続企業の前提に係る事象または状況、重大な事故また は災害、重大な係争事件など、企業の健全性に重大な影響のある事項につい て、取締役が情報開示を適時適切な方法により、かつ、十分に行っているか を監視し検証しなければならない。
上記第1項は、原則として監査役の企業情報開示への取り組みは、内部統 制の問題としてこれを捉え、開示体制が構築されているかどうかの監視・検 証することが監査役の役割として位置づけている。同項には、法令による外 部報告規制に対する取り組みはもとより、広く企業不祥事があった際のアナ ウンスメントや IR 活動情報の提供に対する事項も含まれているものと受け 止めることができる。企業不祥事の際の記者会見などでさらに状況を悪くす ることもあり、マイナス情報こそ早めに露出すべきである。小刻みにマイナ ス情報を出すようなことは一段と厳しい社会的批判を受けることになり、や がて会社の屋台骨を揺らがせる危険につながっていくであろう 。
同基準38条第2項および第3項は、とくに監査役ないしその補助者自らが 検証すべき事項と考えられる。ここでの検証の行為は、手元に判断基準とな るものがあり、それとの比較検討でもって、はじめて検証の行為が実現され るように考えられる。最低限法令による規制、加えて前章でみた実務指針と 比較してどうかという具体的な検証がなくてはならない。
また同条第2項は、各事業年度に係る事業報告等および計算関係書類にお ける開示や、金融商品取引法による開示事項を想定しているものと思われ る。検証を行うには、会社法関連については会社法施行規則および会社計算 規則との照合確認、金融商品取引法関連については有価証券報告書を形式づ ける第3号様式(開示令15条1号イ)との照合確認程度は求められるであろう。
ただ、上記基準第2項にいう「重要な誤りがなく」との文言は、「計算関係 2 監査役監査基準にみる基本姿勢 161
書類が当該株式会社の財産および損益の状況をすべての重要な点において適 正に示しているかどうかについての意見(会社計算規則122条1項2号)」には妥 当するが、事業報告において求められる監査意見には妥当しない。すなわち
「事業報告およびその附属明細書が法令または定款に従い当該株式会社の状 況を正しく示しているかどうかについての意見(会社法施行規則129条1項2 号)」には法令自体に「重要な」という限定はなく、すなわち重要性基準は 働いていないことに注意すべきであろう。
また基準38条第3項は、継続企業の前提を例にとり健全性に重大な影響の ある事項全般について、その開示対応を監視し検証するというものである。
継続企業の前提に影響を与える事項については、会計監査人も追記情報とし て会計監査報告について記載しなければならず(会社計算規則126条1項4号、
同条2項)、監査役としても、会計監査人の継続企業の前提に関する監査意見 に対しても間接的に相当性判断が求められる(会社計算規則127条2号)。もち ろん、個々の開示情報のチエックには会計監査人との連係が可能であるが、
監査役としては開示情報の全体に目を向ける必要がある。ここでは会社の状 況なり財産状況に照らしてどうかの視点が肝要であろう。例えば、主要な市 場・得意先・仕入先等の喪失、原材料・労働者等資源の不足、重要な係争事 件を抱えているなどの場合は、経営上、継続企業の前提に影響を与える兆候 といえようから、このような兆候がある場合は、会計監査人と十分な意見交 換が必要となろう。
3 金融商品取引法上の「継続開示」への取り組み
金融商品取引法上の「継続開示」は、有価証券報告書・半期報告書・四半 期報告書などの開示書類によるものである。前述のとおりこれら書類による 継続開示は、投資者にとって基本的な投資情報となる。これらは EDINET による公衆縦覧が行われており、あらゆる投資者が閲覧するものであり市場 の中心情報であるから、作成に当たってはコンプライアンスの担保が強く求 められる。その会社法上の発現として、たとえば有価証券報告書の提出に際 しては取締役会の審議が必要と考えられる。また、監査役としても取締役会
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に付議され検討される内容については何らかの形で関与しなくてはならな い。
ところが、日本監査役協会の実態調査(回答数2250社)によれば 、有価証 券報告書を「取締役会に付議している会社」は全体の38.0%であり、「付議 していない会社」は33.6%である。また、有価証券報告書の「監査を行って いる」会社は、2250社中1540社(68.4%)であり、「非財務情報(文章情報)の 監査を行った」会社が61.1%となっている。
取締役会に付議していない会社は問題であり、付議するよう監査役として 取締役と意思疎通を図る必要があろう。あるいは取締役会報告事項に止まっ ていたり、経理担当取締役と代表取締役社長の段階で処理されるような状態 にあれば、監査役としても内部統制不備の問題と捉え対応すべきである。
本節では継続開示の代表的な開示書類であり、業務関連情報もフルディス クロージャーされている総合開示書類として、有価証券報告書による継続開 示を取り上げこの開示規制を概観したうえで、業務関連情報の監査に対する 取り組みを提起しておく。
(1)金融商品取引法における有価証券報告書開示の体系
まず、有価証券報告書の体系を概観しておこう。金融商品取引法では、有 価証券の発行者である会社は、その発行有価証券が上場会社等の有価証券な どである場合は、内閣府令で定めるところにより、事業年度ごとに、当該会 社の商号、当該会社の属する企業集団および当該会社の経理の状況その他事 業の内容に関する重要な事項その他の公益または投資者保護のため必要かつ 適当なものとして内閣府令で定める事項を記載した報告書(有価証券報告書)
を、当該事業年度経過後3ヶ月以内に、内閣総理大臣に提出しなければなら ない(金融商品取引法24条1項。なお、有価証券の定義について同法2条1項各号参 照)。この開示規定が投資者の投資活動保護のためにあることはいうまでも ない(金融商品取引法1条参照)。
これを受け、企業内容等の開示に関する内閣府令(以下、「開示令」という)
15条1号イにより、有価証券発行会社が内国会社で金融商品取引法24条1項 の適用を受ける会社の場合は、有価証券報告書は「第3号様式」となる。こ
3 金融商品取引法上の「継続開示」への取り組み 163
の第3号様式によって上場会社等の有価証券報告書の記載様式が決められて いる(なお、発行市場における有価証券届出書の様式である「第2号様式」を準用して いる部分が多い)。その様式は細部にわたり、第3号様式の「記載上の注意事 項」を含めると、裁量の余地がないほどの開示規制となっている。
とくに会計情報である「財務計算に関する書類(財務書類)」に対しては、
さらに会計情報に対する規制が敷かれている。すなわち、金融商品取引法 193条では、金融商品取引法上提出される貸借対照表、損益計算書その他の
「財務計算に関する書類(財務書類)」は、内閣総理大臣が一般に公正妥当で あると認められるところに従って内閣府令で定める用語、様式および作成方 法により、これを作成しなければならない、としている。本条を受けて、内 閣府令である財務諸表等規則、連結財務諸表規則などが制定されている。な お、「財務計算に関する書類(財 務 書 類)」のうち、貸借対照表・損益計算 書・株主資本等変動計算書・キャッシュフロー計算書および附属明細表を
「財務諸表」という(財務諸表等規則1条1項)。
有価証券報告書というと会計情報が中心と一般に受け止められているよう であるが、会計情報は以下のように開示情報の一部にすぎない。
有価証券報告書は、第一部「企業情報の部」と第二部「提出会社の保証会 社の情報」とに大きく分かれる。実質的な開示内容であり、かつ投資者が直 接利用するのは、第一部「企業情報の部」と思われる。
第一部「企業情報の部」は、図表Ⅶ―1のように、「第1企業の概況」「第 2事業の状況」「第3設備の状況」「第4提出会社の状況」「第5経理の状況」
などのセクションから構成されている。第5は会計に関する定型的情報すな わち財務諸表等による開示が中心であるが、これ以外の第1〜第4は、企業 グループおよび提出会社の定性的な業務関連情報である。そして有価証券報 告書では基本的に連結情報が主であり、個別(単体)情報が従となっている。
上記の内容は、前述のとおり、内国会社の有価証券報告書の記載事項とし て、開示令15条1イにより、「第3号様式」により記載される(実質的には
「第2号様式」をかなり準用している)。これら様式には「記載上の注意」が付さ れており、この「記載上の注意」が実質的規制になっている部分が多い。し たがって、「記載上の注意」まで参照しておかないと、有価証券報告書は完
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成されないのである。なお、財務諸表等規則、連結財務諸表規則などにおい ても、各財務諸表・連結財務諸表の様式が添付されており、各様式には「記 載上の注意」が付されている。
また、開示令や財務諸表等規則・連結財務諸表規則などには、ガイドライ ンも設定されているので、こちらにも配慮しなければならない。これらが複 雑に絡んで有価証券報告書の記載内容が形成されている。
図表Ⅶ―1 有価証券報告書における「第一部 企業情報」の内容
第1 企業の概況
主要な経営指標等の推移、会 社の沿革、事業の内容、関係 会社の状況、従業員の状況、
労働組合の状況など
第2 事業の状況
業績等の推移、生産受注およ び販売の状況、対処すべき課 題、リスク等の状況、経営上 の重要な契約、研究開発活動 など
「主要な経営指標等の推移」
はともかく、いずれも文章情 報が中心である。
事 業 内 容・業 績・リ ス ク 情 報・研究開発活動など、様々 な業務全般に関する定性的な 文章情報が記載される。
第3 設備の状況
設備投資の概要、主要な設備 の状況、設備の新設・除却等 の計画など
第4 提出会社の状況
株式等の状況、自己株式の取 得状況、配当政策、株価の推 移、役員の状況、コーポレー トガバナンスの状況など
第5 経理の状況
ここに損益計算書・貸借対照 表・株主資本等変動計算書・
キャッシュフロー計算書の財 務諸表および附属明細表、お よび財務諸表の注記などの補 足情報など(凍結情報につい て同様)
凍結情報が主、個別(単体)
情報が従。
会計数値を中心とした定型の 財務諸表等を介して経理の状 況が記載される。
第6 その他
これまで提出した書類や独立 監査人の監査報告書などの参 考情報が記載される。
3 金融商品取引法上の「継続開示」への取り組み 165
(2)公認会計士監査が及ばない業務関連情報
前述のとおり金融商品取引法上の有価証券報告書における開示事項のう ち、定性的な文章情報の部分に対しては公認会計士の監査が及ばないので
(金融商品取引法193条の2、財務諸表の監査証明に関する内閣府令1条参照)、監査役 としても、これらのコンプライアンスについては、とくに経理担当部署など の内部統制が働いているかどうか監視・検証すべきものと考えられる。有価 証券報告書の虚偽記載や不十分な記載は、社会的に大きな問題となる可能性 が大きくひいては会社財産を危うくさせる可能性さえあるから、業務関連情 報のコンプライアンスの担保はむしろ必須とさえいわなければならない。
金融庁が平成19年3月期に係る有価証券報告書について重点審査をした
(対象会社3,380社)結果、業務関連情報の記載内容が不十分と認められた提出 会社が多数にのぼった。とくに、配当政策については調査結果の約1割、コ ーポレートガバナンスの状況については約5割の提出会社が記載内容が不十 分とされた 。
たとえば配当政策については、配当政策に関する事項のうち、毎事業年度 における配当の回数についての基本的な方針や配当の決定機関について記載 することになっている(第3号様式・記載上の注意34a)。しかし、実際には約1 割の会社に記載がみられなかった。同様に、コーポレートガバナンスの状況 については、定款で取締役の定数または取締役の資格制限について定めてい たり、取締役の選解任の決議要件について会社法と異なる別段の定めをして いる場合は記載することになっており(第3号様式記載上の注意37→第2号様式記 載上の注意57f)、また、株主総会決議事項を取締役会で決議することができる 場合の決議事項・理由や、株主総会特別決議要件を変更した場合の内容・理 由を記載しなければならないが(第3号様式記載上の注意37→第2号様式記載上の 注意57g)、これらについては約5割の提出会社に記載がみられなかった。
上記の記載内容が不十分とされた2つの事項はいずれも、「記載上の注意」
を参照すればわかる事柄である。「第3号様式」およびその「記載上の注意」
が看過されていることの証左であろう。
たしかに、有価証券報告書作成の根拠となる法令やガイドラインは複雑に 絡んでいるが、提出会社としては第3号様式の記載上の注意や関連のガイド
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ラインまで目を配らないとならない。現実には、ディスクロージャー会社が セミナーなどを開催して周知に努めているが、すべての上場会社が承知して いるわけではないというのが現状であろう。金融商品取引法系の法令は頻繁 に改正されるので、これに対応できる体制を社内に敷いておくことが望まれ る。ところが、業務関連情報に関する実務指針はいまのところ見られない。
日本監査役協会が平成18年4月に公表した『内部統制システムに係る監査の 実施基準』(第6章参照)においても、財務報告に対する内部統制を扱っては いるが、会計情報に関する内容に終始している。そのためには、実務家団体 として日本監査役協会などで業務関連情報に係る実務指針を何らかの形で作 成することが望まれる。
現在のところは、監査役の側で(監査補助者を含む)、試行錯誤的に業務関連 情報である文章情報の開示状況を検討していくか、あるいは、内部監査部署 や経理部との連係で取り組まざるを得ないものと考えられる。
(3)注視すべき業務関連の情報
先の金融庁の重点審査項目は、会社法および関連省令の制定に伴う事項や 企業再編の際の開示内容が中心となっている。これらはいわば新しい開示事 項であるからこそコンプライアンスが不十分になる可能性も高いのである が、同時に監査役の有価証券報告書の開示体制の監視・検証にも参考になる と思われるので、以下に紹介しておこう。
① 対処すべき課題について
・財務および事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針を 定めている場合、会社法施行規則127条各号[現行法では118条3号]に 掲げる事項を記載しているか。
② 経営上の重要な契約等について
・吸収合併または新設合併が行われることが業務執行を決定する機関によ り決定されている場合、吸収合併消滅会社・新設合併消滅会社となる会 社の株式1株または持分に割り当てられる吸収合併存続会社となる会社 または新設合併設立会社となる会社の株式の数または持分の内容および その算定根拠ならびに当該吸収合併または新設合併後の吸収合併存続会
3 金融商品取引法上の「継続開示」への取り組み 167
社となる会社または新設合併設立会社となる会社の資本金・事業の内容 を記載しているか。
・重要な事業の全部もしくは一部の譲渡または重要な事業の全部もしくは 一部の譲受けが行われることが、業務執行を決定する機関により決定さ れている場合、その概要について記載しているか。
・株式交換または株式移転が行われることが、業務の執行を決定する機関 により決定されている場合、株式交換完全子会社となる会社または株式 移転完全子会社となる会社の株式1株に割り当てられる株式交換完全親 会社となる会社または株式移転完全親会社となる会社の株式の数または 持分の内容および算定根拠ならびに当該株式交換および株式移転の後の 株式交換完全親会社等となる会社の資本金・事業の内容を記載している か。
・吸収分割または新設分割が行われることが、業務を決定する機関により 決定されている場合、吸収分割会社となる会社または新設分割会社とな る会社に割り当てられる吸収分割承継会社となる会社または新設分割設 立会社となる会社の株式または持分の内容およびその算定根拠ならびに 当該吸分割または新設分割語後の吸収分割承継会社となる会社または新 設分割設立会社となる会社の資本金・事業の内容を記載しているか。
③ 株式の総数等について
・会社法108条1項各号に掲げる事項について異なる定めをした内容の異 なる2以上の種類の株式を発行することとしている場合、イ株式の種類 ごとに株式の具体的な内容を欄外に記載しているか、ロ取得請求権付株 式について、取得の対価および請求期間を欄外に記載しているか、ハ取 得条項付株式について、取得の対価および取得事由を欄外に記載してい るか、ニ全部取得条項付種類株式について、取得対価の決定方法および 条件を欄外に記載しているか、ホ譲渡制限株式について、会社が譲渡を 承認したとみなす場合の条件を欄外に記載しているか、ヘ議決権制限株 式について、議決権行使事項および条件を欄外に記載しているか、ト拒 否権付株式について、種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を必 要とする事項および条件を欄外に記載しているか、チ種類株主を構成員 168
とする種類株主総会において取締役または監査役を選任する株式につい て、選任する取締役または監査役の数を欄外に記載しているか。
・ある種類の株式の内容として、会社法322条1項の規定による種類株主 総会の決議をしない旨を定款で定めている場合、欄外にその旨を記載し ているか。
・無議決権株式または議決権制限株式であるが、定款の定めにより議決権 を有することとなる株式を発行することとしている場合、欄外にその旨 およびその内容を記載しているか。
・発行する全部の株式の内容について会社法107条1項各号に規定する事 項を定めている場合、その具体的な内容を欄外に記載しているか。
④ 配当政策について
・毎事業年度における配当の回数についての基本的な方針、配当の決定機 関について記載しているか。
・配当財産が金銭以外の財産である場合、その内容を記載しているか。ま た、当該配当財産に代えて金銭を交付することを会社に対して請求する 権利を与えている場合、その内容を記載しているか。
・会社法454条5項に規定する中間配当をすることができる旨を定款で定 めている場合、その内容を記載しているか。
・当事業年度に会社法453条に規定する剰余金の配当をしている場合、当 該剰余金の配当についての株主総会または取締役会の決議年月日ならび に各決議ごとの配当金の総額および1株当たりの配当額を注記している か。
⑤ コーポレートガバナンスの状況について
・社外取締役、会計参与、社外監査役または会計監査人との間で会社法 427条1項に規定する責任限定契約を締結している場合、当該契約内容 の概要を記載しているか。
・会社法373条1項に規定する特別取締役による取締役会の決議制度を定 めている場合、その内容を記載しているか。
・定款で取締役の定数または取締役の資格制限について定め、また、取締 役の選解任の決議要件について会社法と異なる別段の定めをしている場
3 金融商品取引法上の「継続開示」への取り組み 169
合、その内容を記載しているか。
・株主総会決議事項を取締役会で決議することができるとしている場合、
その事項およびその理由を記載しているか。
・取締役会決議事項を株主総会では決議できないことを定款で定めている 場合、その事項およびその理由を記載しているか。
・株主総会の特別決議要件を変更している場合、その内容およびその理由 を記載しているか。
4 金融商品取引法上の「適時開示」への取り組み
監査役としては、金融商品取引法の開示に対し、有価証券報告書・半期報 告書・四半期報告書などによる継続開示のほか、臨時報告書、大量保有報告 書などによる「適時開示」の開示体制にも注目が必要である(なお、四半期開 示は実質的に適時開示に近い機能をもつものと考えられる)。資本参加への投資者の 自由な出入りのために流通市場があり、もっぱら短期売買を目的として市場 参加することもある。このような目的や実態面を受け止めると、適時開示の 重要性は高いものとなる。とくに臨時報告書や大量保有報告書などによる適 時情報開示は、いずれも既存の開示情報に多大な影響を与えるものや危険情 報あるいは緊急情報を提供するためのものであるから、有価証券報告書によ る継続開示よりも社会的に問題となることがある。また、臨時報告書や大量 保有報告書などの開示実務では、短時日に一連の事務作業をこなさなければ ならないので、継続開示よりも開示体制の危険度が増す。この意味では、監 査役監査にとってより注目すべきは適時開示ともいえよう。
臨時報告書や大量保有報告書などによる適時開示に対しては、迅速性およ び正確性が求められるから、開示すべき事象がいつ発生しても対応できるよ うな体制にあるかどうか監視・検証していく必要がある。
いずれにせよ適時開示情報は基本情報である有価証券報告書等による情報 を大幅に修正し影響力の大きな情報なので、むしろ適時開示情報の重要性を 訴えるべきものとも考えられる(適時情報に対する監査意見を必要とすることにつ いて今後もっと議論が行われるべきものと思われる)。
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(1)臨時報告書への対応
有価証券報告書を提出しなければならない会社は、発行する有価証券が外 国で行われるとき、その他公益または投資者保護のため必要かつ適当なもと して内閣府令で定める場合に該当することになった場合は、臨時報告書を遅 滞なく内閣総理大臣に提出しなければならない(金融商品取引法24条の5第4 項)。これを受けて、開示令19条2項では、内国会社の場合、第5号の3様 式により、臨時報告書を財務局長等に提出しなければならないとされてい る。
その提出を要する主な場合は以下のような場合である(紙幅の関係上、代表 的かつ簡略化したものを掲げる。詳細は開示令19条2項各号および「第5号の3様式」を 参照)。
・提出会社の親会社の異動、提出会社の特定子会社(株式交換等による完全 子会社)の異動があった場合
・提出会社の主要株主(金融商品取引法163条1項)の異動があった場合
・重要な災害があった場合(なお、開示令19条2項5号の重要性基準を参照)
・訴訟が提起され、損害賠償請求金額が一定金額になる場合(なお、開示令 19条2項6号の相当額を参照)
・提出会社に債務を負っている者および提出会社から債務の保証を受けて いる者について手形・小切手等の不渡りなどの事実があり、一定の額に 相当する売掛金・貸付金等の債権が取立不能または取立遅延のおそれが 生じた場合(なお、開示令19条2項11号の相当額を参照)
・提出会社の財政状態および経営成績に著しい影響を与える事象が発生し た場合(なお、開示令19条2項12号の相当額を参照)
以上のほか、企業再編に関する事項が提出会社や連結子会社の業務執行を 決定する機関で決定された場合、あるいは訴訟の解決、災害の解消があった 場合も臨時報告書でもって、適時の開示を行わなければならない。
これらはいずれも会社事情に詳しい内部出身の社内監査役が知悉している はずであるから、社内監査役が中心的役割を担うべきである。そして各監査 役は、①取締役会等で審議される開示事項が、開示令19条2項各号のケース に該当しないかどうか(監査役自ら検討するかどうかは別にしても)、②該当した
4 金融商品取引法上の「適時開示」への取り組み 171
場合の開示体制が整備されているかなどの点につき、経理担当役員以下に周 知徹底しておく必要があろう。また、このような場合が発生することに備え て、監査証明を作成する公認会計士との連係体制についても検討しておくこ とが望まれよう。
(2)大量保有報告書への対応
いわゆる5パーセントルールによる適時開示には厳正に対応しなければな らない。特定の者による提出会社株式の大量保有は株式市場に(株価に)多 大な影響を与えるからである。不適切な対応が大問題に発展する可能性が高 い。
株券、新株予約権付社債等の有価証券で金融商品取引所に上場されている ものの発行者である法人が発行者である対象有価証券の保有者で当該株券等 の保有割合が100分の5を超えるものは、内閣府令で定めるところにより、
株券等保有割合に関する事項、取得資金に関する事項、保有の目的その他の 内閣府令で定める事項を記載した大量保有報告書を、大量保有者となった日 から5日以内に内閣総理大臣に提出しなければならない(金融商品取引法27条 の23)。
これを受けて「株券等の大量保有の状況の開示に関する内閣府令」が制定 されている。同内閣府令により大量保有報告書の記載内容は、同府令第1号 様式により記載される。第1号様式では、提出者(大量保有者)に関し、純投 資・政策投資のほか「重要な提案行為等を行うこと」などの保有目的、重要 な提案行為等の内訳、取得資金の内容などが記載される(第1号様式第2、1
―(2)(3)(7))。また、共同保有者に関する事項として株券等の保有割合 なども記載される(同様式第3)。
さらに大量保有者は、株券保有状況通知書の作成(金融商品取引法27条の 24)、変更報告書の提出(金融商品取引法27条の25)、それに公衆縦覧(金融商品取 引法27条の28)といった手続が必要となってくるので、これら一連の条項に対 する周知確認を、経理担当取締役以下に徹底しておかないと不手際を発生さ せる可能性がある。上場会社の監査役としては、これらの手続は重要な内部 統制整備の一環として取り上げ、監視・検証すべき事項と思われる。
172
5 会社法上の計算関係書類開示に対する取り組み
決算監査」 と呼ばれる会社法上の計算関係書類の監査は、会計監査人 設置会社かどうかでその内容が大きく異なる。監査役を置いているすべての 株式会社では、監査役が計算書類、事業報告、およびこれらの附属明細書を 監査しなければならない(会社法436条1項)。他方、会計監査人設置会社で は、監査役の監査に加えて会計監査人が事業報告およびその附属明細書を除 いた計算書類およびその附属明細書の監査を実施する(同条2項1号)。
したがって、会計監査人設置会社では、監査役と会計監査人との重畳的監 査の形態となる。会計監査人設置会社の監査役は、職業専門家たる会計監査 人が一義的に行った会計監査についてその相当性を判断して監査意見を形成 し、相当と認めない場合は自らの会計監査を進める形となる(会社計算規則 127条2号、128条2項2号)。もとより、監査役が独自の会計監査を実施するこ とは推奨されるべき事柄であるが、一般には、会計監査人との連係を優先さ せた実務となっている。
さて、会社計算規則では、会計監査人のいない会社と会計監査人設置会社 とに分け、段階的な規制を行っている。さらに、監査報告については個々の 監査役と監査役会では異なる規制を行っている。これら規制について以下に 概観しておこう。
(1)会計監査人設置会社でない場合の関連規定
以下の記述では、本節の趣旨からして、大規模公開会社以外のケースも取 り上げることにする。
会社法における監査役による計算関係書類の監査については定義規定があ り、会社法における計算関係書類の監査は必ずしも会計職業専門家による監 査ばかりでなく資格のない監査役でも監査できることになっており、監査役 の能力に応じた監査でよいことになっている(会社計算規則121条2項)。
したがって、すべての株式会社の監査役による会計監査は善管注意義務の 範囲内で実施され、会計監査人に求められるような高度な会計監査でなくて
5 会社法上の計算関係書類開示に対する取り組み 173
もよいことになるが、監査の出口となる監査報告においては、最低限以下の 事項を記載しなければならない。
1)監査役の監査報告
会計監査人がいない会社の監査役は、会社計算規則122条1項により、計 算関係書類を受領したときは、次のとおり会計に関する監査報告を作成しな ければならない。
・監査役の監査の方法およびその内容(同項1号)
・計算関係書類が会社の財産および損益の状況をすべての重要な点におい て適正に表示しているかどうかの意見(同項2号)
・監査のため必要な調査ができなかったときは、その理由(同項3号)
・追記情報(同項4号)
・監査報告を作成した日(同項5号)
上記4号の追記情報とは、継続企業の前提に係る事項、正当な理由による 会計方針の変更、重要な偶発事象、重要な後発事象に関する事項であり、監 査役の判断に関して説明を要する必要がある事項または計算関係書類の内容 のうち強調する必要のある事項である(同条2項)。
上記2号には重要性原則が働いているが、前述の「監査」の定義のほか、
責任論の観点から、また、監査役が会計監査を実施するに際して例えば「相 当程度の知見を有しているかどうか(会社法施行規則121条8号)」など資格問題 の議論から設けられたものと思われる。
監査報告の通知期限等については、会社計算規則130条に定められている。
なお、通知等の窓口担当者として、特定監査役と特定取締役が定められてい る(その定義について会社計算規則130条4項、5項参照)。
2)監査役会の監査報告
監査役会設置会社の場合、個々の監査役が作成した監査役監査報告に基づ いて、監査役会としての監査役会監査報告を作成しなければならない(会社 計算規則123条)。したがって、監査役会設置会社の場合は、会計監査について 二種類の監査報告が作成されることになるが、実務上は一通にまとめられて いる。
監査役監査報告と監査役会監査報告の内容が異なる場合は、少数意見を付 174
記できることになっている(同条2項)。
監査報告の作成にあたり最低1回以上の監査役会の審議が必要である(同 条3項)。
監査役会の監査報告の内容として、会社計算規則123条2項は、次の事項 を挙げている。
会社計算規則122条1項の第2号から第4号に掲げる事項(同項1号)
監査役および監査役会の監査の方法およびその内容(同項2号)
監査役会監査報告を作成した日(同項3号)
3)臨時計算書類の監査
以上は、各事業年度に係る計算書類の監査であるが、監査役は臨時計算書 類すなわち臨時決算日における貸借対照表および当該期間の損益計算書につ いても監査を実施しなければならない(会社法441条2項)。
臨時計算書類とは、臨時決算日における貸借対照表および事業年度初日か ら臨時決算日までの損益計算書をいうが(会社法441条1項)、剰余金の分配可 能額の算定に影響するので(会社法461条2項、会社計算規則156条、157条)、監査 役はこの観点から監査を進めていくべきであろう。
(2)会計監査人設置会社の場合の関連規定 1)会計監査人の会計監査報告
本節の趣旨からして、会計監査人の場合についても触れる。
会計監査人は、会社外部の独立監査人として、監査役とともに計算関係書 類の監査を実施し、会計監査報告(会計監査人の監査報告については「会計」の二 文字が付されている)を作成する(会社法396条1項)。会計監査人は、自らの監 査を実施するに当たり、公正不偏の態度、独立性の保持をしながらも、取締 役・会計参与・使用人等との意思疎通を図り、情報の収集、監査環境の整備 に努めるものとされている(会社法施行規則110条2項)。
他方、会社法および関連法務省令の制定に当たっては、内部統制のあり方 がひとつの柱とされたことにも注目しなければならない。内部統制の整備 は、会社ばかりでなく、会計監査人の監査体制自体にも求められている。内 部統制は、会計事項というよりもむしろ業務全体に関わるものであるが、会
5 会社法上の計算関係書類開示に対する取り組み 175
計監査人に係わる事項のひとつとして会社計算規則に置かれている。会社計 算規則131条は、会計監査人の監査体制が適切に維持されるべく次の事項を 定めている。
・会計監査人の独立性に関する事項その他監査に関する法令・規程の遵守 に関する事項(同条1号)。
・監査、監査に準ずる業務およびこれらに関する業務の契約の受任および 継続の方針に関する事項(同条2号)。
・会計監査人の職務の遂行が適正に行われることを確保するための体制に 関するその他の事項(同条3号)
このような自らの内部統制の確保あるいは経営執行部との意思疎通・環境 整備を踏まえたうえで、会計監査人は監査を実施し、作成した会計監査報告 を特定監査役および特定取締役に通知しなければならない(会社計算規則130 条)。
会計監査人による会計監査報告の内容は次のとおりである(会社計算規則 126条1項)。
・会計監査人の監査の方法および内容(同項1号)
・計算関係書類が会社の財産および損益の状況をすべての重要な点におい て適正に表示しているかどうかについての意見があるときは、意見の区 分に応じた事項を記載する(同項2号)。
イ 無限定適正意見の場合、監査の対象となった計算関係書類が一般に 公正妥当と認められる企業会計の慣行に準拠して、計算関係書類に 係る期間の財産および損益の状況をすべての重要な点において適正 に表示していると認められる旨。
ロ 除外事項を付した限定付適正意見の場合、監査の対象となった計算 関係書類が除外事項を除き一般に公正妥当と認められる企業会計の 慣行に準拠して、計算関係書類に係る期間の財産および損益の状況 をすべての重要な点において適正に表示していると認められる旨な らびに除外事項。
ハ 不適正意見の場合、監査の対象となった計算関係書類が不適正であ る旨およびその理由。
176
・前号の意見がない場合は、その旨およびその理由(同項3号)。
・追記情報(同項4号)。なお、追記情報とは継続企業の前提に係る事項、
正当な理由による会計方針の変更、重要な偶発事象、重要な後発事象な どで、会計監査人の判断に関して説明を付す事項または計算関係書類の 内容のうち強調する必要がある事項である(同条2項)。
・会計監査報告を作成した日(同条1項5号)。
上記のとおり、会計監査人が作成する会計監査報告における監査意見につ いては、有価証券報告書における監査意見と同様に監査意見の内容を無限定 適正意見・除外事項を付した限定付適正意見・不適正意見・意見差し控えの パーターンが明定されている(同条1項2号)点に注目したい。また、過年度 修正についても会計監査報告を作成することになっている(同条3項)。
なお、会計監査人の無限定適正意見は、剰余金の配当にも関連する。すな わち、会計監査人設置会社において剰余金の配当を取締役会で定めることが できることを定款で定めた場合でも(会社法459条1項)、その効力を有するた めには、最終事業年度に係る計算書類が法令・定款に従い財産・損益の状況 を正しく示しているものでなければならず(同条2項)、会計監査人の無限定 適正意見は、これらの状況をすべての重要な点において適正に表示している と認められる旨の意見(会社計算規則126条1項2号イ)となり、会社法459条2 項の要件となるからである(会社計算規則155条1号)。
2)監査役の監査報告
会計監査人設置会社の場合も、監査役の監査報告内容と監査役会の監査報 告内容に分かれて規制されている。
会計監査人設置会社の監査役は、計算関係書類および会計監査人の会計監 査報告を受領したときは、会社計算規則127条により、次に掲げる事項を内 容とする監査報告を作成しなければならない。
・監査役の監査の方法およびその内容(同条1号)
・会計監査人の監査の方法または結果を相当でないと認めたときは、その 旨およびその理由(会計監査人から会計監査報告を受領していない場合は受領し ていない旨)(同条2号)
・会計監査人の会計監査報告の内容となっているものを除く重要な後発事 5 会社法上の計算関係書類開示に対する取り組み 177
象(同条3号)
・会計監査人の職務の遂行が適正に実施されることを確保するための体制 に関する事項(同条4号)
・監査のため必要な調査ができなかったときは、その旨およびその理由
(同条5号)
・監査報告を作成した日(同条6号)
上記4号の体制に関する事項が注目される。昨今の粉飾事件を教訓に、会 計監査人は自らの職務が適正に行われるような取り組みなり仕組みを構築し ているかどうか監査役に通知する義務がある(会社計算規則131条参照)ので、
監査役としてこれに関する事項を開示することがねらいである。
3)監査役会の監査報告
会計監査人設置会社でかつ監査役会設置会社の場合、監査役会の監査報告 の内容は、次のとおり会社計算規則128条に定められている。
監査役および監査役会の監査の方法およびその内容(同条1号)
会社計算規則127条の第2号から第5号までに掲げる事項(同条2号)
監査役会監査報告を作成した日(同条3号)
少数意見の付記(同条2項)、最低1回以上の監査役会審議(同条3項)など については、会計監査人を設置していない会社の場合と同様である。
4)臨時計算書類および連結計算書類の監査
以上は各事業年度に係る計算書類等の監査であるが、会計監査人設置会社 においては、会計監査人および監査役は、臨時計算書類の監査(会社法441条 2項)も、連結計算書類の監査(会社法444条4項)も実施しなければならな い。
会計監査人設置会社の場合は、前述のとおり、臨時計算書類は剰余金の配 当に関係してくるので、この観点から会計監査人との連係を進めていくべき であろう。
また、会計監査人設置会社のみが連結計算書類を作成でき、他方、有価証 券報告書作成会社かつ大会社では作成が強制されるのであり(会社法444条1 項、3項)、会計監査人の監査意見が剰余金の配当を取締役会だけで決定する ことの要件となるので(会社法459条2項、会社計算規則155条)、臨時計算書類お
178
よび連結計算書類に対しては監査役としても会計監査人との連係を通じて厳 正な監査を実施すべきである。
(3)会計監査人設置会社における監査役の取り組み
会計監査人設置会社では、前述のとおり重畳的な会計監査体制となってお り、会計監査人設置会社の監査役は、職業専門家たる会計監査人が第一義的 に行った会計監査についてその相当性を判断し監査意見を形成し、相当でな いと認めたときは自らの会計監査を進める形となる(会社計算規則127条2号、
監査役監査基準29条2項・3項)。少なくとも現行法では第6章でみたように、
この見地から会計監査人との連係が重要なものとなる。
ここで、会計監査人監査の相当性判断の問題に敷衍しておこう。そもそも 会計専門知識が求められていない監査役がなぜ会計職業専門家の監査が相当 であるかどうか判断できるのかとの議論は避けて通れないであろう。会社法 では、会計の素人である監査役による会計監査のために、あえて会計監査の 定義を行っているが(会社計算規則121条2項)、同項の後段の部分はどちらか というと中小会社向けの内容に思われる。この議論も、公開株式会社法の論 理をもってくることで氷解することになる。
平成19年に日本取締役協会・金融資本市場委員会が公表した『公開会社法 要綱案(第11案)』によれば、「公開会社の会計監査は、金融商品取引法の定 めるところによる(2.04)。公開会社の会計監査は、公認会計士または監査法 人のみが行うこととし、監査役または監査委員会はこれを行わないこととす る。このことは、これらの機関が公認会計士・監査法人による監査を評価 し、その人事に係わり、内部統制の水準を評価する等の業務報告(財務諸表 の適正・不適正意見そのものではない)の作成を行うことと矛盾するものではな い(コメント3)」としている。また、「監査役会又は監査委員会は、公認会計 士・監査法人の選任及び解任、公認会計士・監査法人の職務の状況のチエッ ク、内部統制体制のレビュー及び内部監査機能の確保のチエック等を行う
(3.14)」ものとしている。大規模公開会社であれば、このような法制にした ほうが、無理がない。現行会社法では、すでに会計監査人の内部統制につい て評価検討することになっているのであるから(会社計算規則127条4号)、こ
5 会社法上の計算関係書類開示に対する取り組み 179
れで十分であり、別途、直接的に会計監査人監査の相当性判断まで求める必 要はないように思われる。
さて、監査役監査基準42条では、会計監査人との連係について以下のよう に規定されている。これらは、会計事項を直接に監査役自らが検証するよう なものではない。
監査役および監査役会は、会計監査人と定期的に会合をもつなど、緊密な 連係を保ち、積極的に意見および情報の交換を行い、効率的な監査を実施す るよう努めなければならない(同条1項)。
監査役および監査役会は、会計監査人から監査計画の概要を受領し、財務 報告に係る内部統制に関するリスク評価等について報告を受けるほか、監査 重点項目等について説明を受け、意見交換を行わなければならない(同条2 項)。
監査役は、必要に応じて会計監査人の往査および監査講評に立ち会うほ か、会計監査人に対し監査の実施経過について、適宜報告を求めることがで きる(同条3項)。
会計監査人から取締役の職務の執行に関して不正の行為または法令もしく は定款に違反する重大な事実がある旨の報告を監査役会において受けた場合 には、審議のうえ、監査役は必要な調査を行い、取締役に対して助言または 勧告を行うなど、必要な措置を講じなければならない(同条4項)。
監査役は、業務監査の過程において知り得た情報のうち、会計監査人の監 査の参考となる情報または会計監査人の監査に影響を及ぼすと認められる事 項について会計監査人に情報を提供するなど、会計監査人との情報の共有に 努める(同条5項)。
さらに日本監査役協会では、監査役監査基準のほかに、会計監査人との連 係に関する実務指針として2006年5月、同協会の会計委員会名で『会計監査 人との連携に関する実務指針』を公表している(なお、同実務指針では「連係」
でなく「連携」の語が使用されている)。
同連携実務指針では、第6章でも触れたように、時系列に沿ったいくつか の例示が掲げられている。そして期末監査時においては、以下①〜 の例示 が示されている 。
180
① 会計監査人の監査の実施状況の説明を受ける。その際、当初の監査計 画との相違点とその理由についても説明を受ける。
② 前期からの監査上の懸案事項・指摘事項および内部統制上の問題点の 改善状況ならびに当期の重点監査項目の説明を受け、意見交換する。
③ 決算処理方法について説明を受け、意見交換する。例えば、貸倒懸念 債権の分類・見積算定、棚卸資産の評価減、有価証券の減損処理、固 定資産の減損会計、退職給付債務の割引率、繰延税金資産の回収可能 性等について、決算処理方針や見積の妥当性はどうか。
監査役は、事前に担当部署からも説明を受けて、取締役と会計監査 人の意見が相違している場合は、処理方針決定前に十分な意見交換を する。
④ 剰余金の配当等は、法定の分配可能額を超えていないことを確認す る。
⑤ 会計監査人の監査報告書について、次の事項を含む記載内容の説明を 受ける。
イ 監査意見
ロ 継続企業の前提に関する事項
ハ 不正、誤謬、違法行為および内部統制の不備
ニ 重要性にない未修正の事項とそれについての監査人の判断 ホ 重要な後発事象の内容と決算への影響
ヘ 追記情報に関する事項
⑥ 会計監査人の職務遂行に関する次の事項の通知を受け、内容の説明を 求める。
イ 独立性に関する事項、その他監査に関する法令・規程の遵守に関 する事項
ロ 監査、監査に準ずる業務、およびこれらに関する業務の契約の受 任および継続の方針に関する事項
ハ 会計監査人の職務執行が適正に行われることを確保するための体 制に関するその他の事項
これらの事項については、監査役(会)の監査報告にその内容を記載 5 会社法上の計算関係書類開示に対する取り組み 181
しなければならないので、十分な説明を受ける。
⑦ 会計監査人の意見表明についての、監査法人の審査体制および審査の 状況とその結果の説明を受ける。
⑧ 会計監査人の相当性判断に必要なその他の事項について説明を受け る。例えば、監査基準への準拠状況、試査の範囲や選定の基準など。
⑨ 監査役の監査の実施状況および具体的事項について、会計監査人の監 査の参考となる情報を提供する。
有価証券報告書について、会計監査の説明を受け、財務情報以外の記 載事項についても意見を交換する。
上記①および②は最も基本的な連係内容であるから、最低限実施する必要 があろう。
上記③の内容は、いわば比較的新しい会計基準から規制されたものであ り、ややこの内容は専門的すぎるように思われる。両者間である程度の双方 向の議論が必要と思われるが、会計の知見のない監査役には要求水準が高い ものといえよう。
上記④は、財産の保護につながるものであるから、監査役ができるだけ自 ら実施すべき事項である(なお、会社計算規則第2編第3章の純資産に関する規定は 読み込む必要があろう)。
上記⑤は、具体的内容を伴ったものであり、とくにロおよびハは重要に思 われる。
上記⑥および⑦については、第6章で述べたとおりである。
上記⑧および⑨は、相当性判断の具体的根拠となる材料であるから、必ず 監査役側で書面にしておくことが必要となろう。
以上を要するに、現行法制下では、上場会社等(公開会社かつ大会社)の会 社法上の開示監査においては、監査役による会計監査人監査に対する相当性 判断および両者の連係が柱となる。大規模公開会社の会計監査においては、
会計監査人による監査が主力とはいえ、連係の過程で話題となる計算関係書 類の開示に関する会社計算規則の内容(会社計算規則第3編)程度は、およそ どのような規定になっているのか監査役として把握しておくべきであろう。
182
6 会社法上の事業報告開示に対する取り組み
事業報告は会社の業務関連情報を開示する書類であり、会計監査人監査が 及ばない事項であるから(会社法436条2項2号。会社法施行規則116条3号)、企業 情報開示に対する監査として、監査役自身ないしその補助者が集中的に取り 組むべき事項である。ただ、業務関連情報とはいっても数値による表現がか なり多く登場するので、必要に応じ、会計監査人と連係をはかるべきであろ う(監査役監査基準23条参照)。
以下、会社法上の事業報告に関する開示規定と監査規定を下敷きにして、
検討することにする。
(1)事業報告の開示内容に関する規定
事業報告は、会社情報のうち業務関連の情報を提供するものであるから、
計算書類のように会計基準ないし関連法令の規制による定型的な数値情報で はなく、文章を中心に随所に数値が織り込まれる定性的な文章情報の形をと る。
事業報告の開示内容は、会社法施行規則において段階的に規制されてい る。第一段階はすべての株式会社に共通するものである。なお、会社法施行 規則118条3号の事項は主に上場会社等を想定したものであるが、形式とし ては、会社の区分や会社機関の状況に関係なく、あらゆる株式会社が会社支 配等に関する方針を決定した場合の開示を規制している。第二段階において 公開会社(会社法2条5号にいう株式の譲渡制限をしていない会社。以下、本稿で使用 している「大規模公開会社」の語との違いを明示するため該当条文を付す)が開示拡充 する特則を設け、さらに社外役員を設けている場合の特則を設けている。第 三段階では会計参与や会計監査人を設置している会社の特則を設けている。
会社法施行規則118条以下では、事業報告の開示事項について以下のよう な規制が敷かれている(なお、会計参与設置会社の場合については省略する)。 1)すべての株式会社に共通する記載事項
すべての株式会社に共通する事業報告における開示事項は、①「株式会社 6 会社法上の事業報告開示に対する取り組み 183
の状況に関する重要な事項(会社法施行規則118条1号)」と②「業務の適正性を 確保するための体制(同条2号)」、それに、主に上場会社を想定したもので あるが③会社支配に関する方針を決定した場合は基本方針や取り組み内容が 開示される(同条3号)。
①の「状況」については会計事項も考えられるところであるが、会計事項 については計算書類等にまわされる(会社法施行規則116条)。
②の事項はいわゆる内部統制に関する事項であり、会社法348条3項4号、
362条4項6号、などを受けて規定されたものである。大会社(会社法2条6 号)や公開会社(会社法2条5号)でなくても、内部統制の体制整備について 定めを行った会社であれば、事業報告に記載しなければならない。なお、③ の会社支配に関する方針等についても同様であるが、③については別途後述 する。
2)公開会社(会社法2条5号)における追加記載事項
2)―1 公開会社(会社法2条5号)における全般的記載事項
公開会社においては、上記①のほか、以下の事項が追加開示される(会社 法施行規則119条)。なお、大会社であっても公開会社でなければ、これらは記 載する必要はないが、現実には一部上場会社並みに大きな影響力を持つ株式 会社が存する。なお、このような会社はたとえ株主が閉鎖的な状態であって も、それなりの開示が必要に思われる。
A 株式会社の現況に関する事項(同条1号)
B 株式会社の会社役員に関する事項(同条2号)
C 株式会社の株式に関する事項(同条3号)
D 株式会社の新株予約権等に関する事項(同条4号)
2)―2 公開会社(会社法2条5号)の現況に関する事項
上記2)―1における A の公開会社の現況については、会社法施行規則 120条1項で、さらに詳細な開示事項を定めている。類型別に整理すると以 下のとおりである。
・事業内容等…主要な事業内容、主要な営業所・工場・使用人の状況、主 要な借入先、事業の経過・成果(以上1号ないし4号)
・資金調達・設備投資等の状況…当該営業年度の資金調達、設備投資等 184