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第8章 監査報告書のあり方

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第8章 監査報告書のあり方

任意情報開示の拡充

1 総 説

監査役・監査役会が作成する監査報告書(以下、会社法上の「監査報告」の語 は、文脈の関係上一部使用せざるを得ない箇所を除き使用せず、実務で多く使用されてい る「監査報告書」 を使用する)は、計算書類、事業報告、附属明細書、株主総 会参考書類などの開示書類とともに、企業情報の開示機能を有するものと考 えられてきた 。すなわち取締役が作成する開示書類は利害関係人の判断に 資するべく企業情報を開示する機能をもつが、監査役・監査役会が作成する 監査報告書は、開示書類が適法かどうかの意見を添付することによる利害関 係人に対する情報保証機能を持ち、かつ追記情報(たとえば法定のものとして会 社計算規則122条1項4号)があればそれを付加して利害関係人に伝達する機能 をもつ。したがって監査役・監査役会が作成する監査報告書は、取締役とは 一線を画した情報提供機能をもつものということができる。

ところが、記載内容や表現は実務家団体のひな型の域を超えていないとい う実態がある 。監査報告書を「もっと個性的なものにして、監査の姿を外 から見えるように」との主張が以前から行われている 。この主張は企業不 祥事において監査役や会計監査人は一体何をしていたのかとの疑問に対する 回答のひとつと思われる。当時から、多くの監査役は「監査役監査としてお よそ機能している」と認識しており 、ただ監査業務の性格上、それが外か ら見えにくいからこそ、このような疑問が生じたものと考えられる。

この主張は、日頃の監査業務を少しでも見えるように透明性なり具体性を もたすことが必要と考えられたことによるものともいえよう(昨今の文言を使 用すれば、いわゆる「見える化」である)。監査役にとって最も重要な利害関係人 への伝達手段は監査報告書であるから、監査報告書においてなるべく監査活 動を具体的に明示していくべきではないか。

とくに大規模公開会社の監査役は金融商品取引法上の開示を監査すること 196

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が当然の職務であるから、資本市場の番人として金融商品取引法上の企業情 報開示を受け止めこれを支援することが望まれる。会社法上の監査報告書に おいても、金融商品取引法開示に関する情報提供があってもよいのではない か、証券市場や投資者を念頭においた情報提供も可能のように思われる。後 述するように、たとえば、会社法開示書類と有価証券報告書とでは作成時期 にズレがあるにせよ、会社法上の監査報告書作成時点における中間報告情報 として「なお、金融商品取引法上の財務報告の内部統制の整備はこれまで適 正に行われてきている」「財務報告の内部統制の整備に対する公認会計士の 監査はこれまで適正に実施されてきている」と情報提供することも考えられ る。

本章では、こうした監査役・監査役会の監査報告書のあり方について、任 意情報開示の側面を中心に検討する。

2 ひな型をめぐる議論

(1)ひな型主義に傾斜する要因と問題点

冒頭述べたように、監査役・監査役会の監査報告書についてわが国主要企 業の9割以上の会社が日本監査役協会等のひな型を採用している。いわばひ な型主義とでもいえる運用が席捲している状況にある。ひな型主義の問題 は、監査役・監査役会の監査報告書に限った問題ではない。事業報告にして も計算書類にしても、あるいは会計監査人の会計監査報告にしても、それぞ れ関連団体等のひな型が公表されている。ここでは、監査役・監査役会の監 査報告書を例にとりながら、これらひな型主義をめぐる要因や問題点に触れ ておこう。

第1の問題は、たとえ訴訟社会の中にあるとはいえ、多くの会社が株主総 会の決議取消や株主代表訴訟が起こらないようにと保守的な立場を貫き通し てしていることにある。すなわち、企業法務の立場からは、事の前後を問わ ず法的問題が発生しないようにすることが最優先され、法律文書はとにかく 法定記載事項さえ書かれていればよく、敢えて余分なことには触れまいとす る傾向が見られる。ひな型は、あらゆる法的問題を検討して公表されるもの

2 ひな型をめぐる議論 197

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であるから、ひな型に寄りかかっていればおよそ法的問題は生じないとする 姿勢が蔓延することになる。

ただ、ひな型の中にも開示を拡充していこうとする姿勢がないわけではな い。ひな型といえば、法令で求められる事項をそのまま記載すればよいよう に思われがちであるが、そうではなく、ひな型では法的最低限にプラスアル ファした記載がなされている。例えば、取締役の職務執行に関する監査意見 は、不正行為や法令定款に違反する重大な事実があった場合のみ記載するこ とになるが(会社法施行規則129条1項3号)、このような事実がなくとも不正行 為や法令定款に違反する「重大な事実は(監査の結果)なかった」と記載する 形になっている。このほかにも法的記載事項プラスアルファの記載がなされ ている。このようにプラスアルファで記載している趣旨は、監査の信頼性の 担保または監査役としてのアカウンタビリティーの発現を考慮したことによ るものであろう。

第2の問題は、各社の監査報告書が画一的な記載内容になっていることで ある。ひな型主義が行き過ぎるあまり、ひな型に書かれている事項をそのま ま書き写し、実際に監査していないことまで記載してしまう面も少なからず あった。まずは事実を記載することが大前提である。もっともひな型自体は その前文において「監査報告は各社の監査の実状に基づいて作成するもので ある。監査役または監査役会には、会社法、会社法施行規則および会社計算 規則等に従い、監査の実態を正確に反映するように作成することが強く期待 される」旨の断りが述べられている(後掲ひな型前文1)。したがって運用上の 問題とみざるを得ないであろう。

このように各社の実状を踏まえることなくひな型の文言をそのまま使用す るといった傾向が見られたが、後述するように平成18年以降の日本監査役協 会のひな型では、脚注方式によって状況ごとに記載例の選択が可能になって いる箇所が多いので、この部分だけでも相当に画一化が解消していくように 思われる。

第3の問題は、物理的簡潔性の問題である。会社法制定前の監査報告書規 則2条には、監査報告書作成のための原則規定が置かれており、その第1項 では「その記載すべき事項ごとに監査の方法及び結果を正確に示すよう明瞭

198

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に記載しなければならない」とされ、いわゆる明瞭性の原則がうたわれてい た。また、第2項では、とくに監査の方法の概要について「監査の信頼性を 正確に判断することができるように記載しなければならない」旨定められて いた。他方、当事の(会社法制定前の)日本監査役協会のひな型の前文には、

監査の方法の概要について「監査の信頼性を正確に判断できるように配慮し ながら、監査役が実際に行った監査の方法について明瞭かつ簡潔に記載しな ければならない。このひな型では、通常実施されていると思われる方法を示 している」とされていた。おそらく、ひな型でも力点が置かれていたのは、

明瞭性というよりもむしろ簡潔性であったものと思われる。

実務上は、株主宛送付される招集通知(会社法437条)の中に監査報告書が ちょうど1頁に収まるように、会計監査人の監査報告書と見開きの形で掲載 されているケースが多く、これは、他の計算書類等との量的バランスからこ のようになっているものと思われる。いきおい、スペース節約の意味での簡 潔性が優先されることになってしまい、このような配慮が監査報告書を非個 性的なものにしていることも事実である。

このような物理的制約は、電磁的開示の進展によっては大幅に解消する可 能性がある。会社法では電磁的方法による開示も既に一部認められており、

電磁的開示の方法を合理的に実施することにより紙面の物理的制約から解放 される可能性がある。

(2)ひな型主義擁護論と任意情報の開示

ここで、ひな型主義を擁護する立場について触れておこう。もとより実務 上は日常の監査役監査の足跡としていわゆる「監査調書」「監査概要書」等 がとりまとめられている。この中で個性化や詳細を表現すればよいのであっ て、有事の場合はともかく、株主宛の法定の監査報告書にいくら個性化を求 めても、所詮抽象的な表現にならざるを得ないのではないかというものであ る。あるいは、株主総会における口頭報告(法律上の定めはとくにない)の中 で、例えば監査計画中とくに力点を置いた事項などを述べるようにすれば、

監査報告としての個性はその場で発現できるのであり、法定の監査報告書は むしろ簡潔なものがよい、とする考え方もあり得る。

2 ひな型をめぐる議論 199

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上記の考え方は、監査報告書に限らず、わが国の企業法務全般についてい えることである。近時のコーポレートガバナンス論の展開からすると、この ような日本的企業風土から派生する構え方や事象そのものが批判の対象とな る。少なくとも大規模公開会社では、後に触れるように、積極的任意開示に ついての認識がもっと喚起されるべきである。換言すれば、comply  or explain の時代にあって 、ディスクロージャーの基本認識自体が社会的に 

も変化してきているのでそれなりの開示対応が求められているともいえる が、それ以上に大規模公開会社は資本市場を背景に成立しているという意識 が持たれるべきであろう。会社法のレベルでさえ、従来、間接的に開示して いた事項でも、株主に直接開示するものも増えてきている。監査報告書にお ける開示事項もその例外ではないであろう。

他方、社会からの監査に関する開示要請が具体化するほど、監査役は社会 の要請に応じて具体的業務の実績を積まざるを得なくなるのではないか。監 査役が実施した監査の方法のみならず、監査計画や重点監査事項などを具体 的かつ個性的に監査報告書に記載することによって、逆に以降の日常監査業 務が牽制され充実するという効果もあろう。

以上を要するに、監査報告書において必要最低限の紋切り型で事足りると するのか、利害関係人になるべく監査の具体的内容を知らせていくために

(さらに開示することの反射効果として開示主体自身も相応の自己規制ないし自己牽制を 伴う)、任意情報の開示をどのように行っていくのか、あるいはその程度問 題ということになろう。そのベースとしてひな型を活用することは、むしろ 思考が整理されるのでもとより好ましい(この意味で、ひな型の存在あるいはそ れを活用すること自体に問題があるわけではない)

3 監査報告書ひな型における任意開示の個別論点

日本監査役協会では、会社法等の制定に伴い、平成18年に『監査役および 監査役会の監査報告書の各種ひな型』と題するひな型を公表した(後掲資 料:平成21年4月改定「監査報告書のひな型」参照)

同ひな型には次のような類別がある。すなわち、①株主に提供する監査報 200

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告書のひな型は機関設計ごとに類別され、また②各監査役が作成する監査報 告書のひな型も機関設計ごとに類別されている(双方とも会計監査人設置会社の 場合は連結計算書類の監査も含む形)。そして、③連結計算書類の監査を別途取り 上げる会社のために、連結計算書類に対するひな型が機関設計ごとの類別に 作成されている。なお、事業報告に対する監査報告書、計算書類等に対する 監査報告書をそれぞれ別に作成することもできる(法形式上はむしろ別途作成が 原則)

これらのうち、機関設計が[取締役会+監査役会+会計監査人]の場合の 株主に提供する監査報告書のひな型は、大規模公開会社を想定したものであ り最も論点を含んでいるので、この場合のひな型(以下、単に「ひな型」とい う)を下敷きにして開示上の論点とりわけ任意的情報の開示と思われる記載 内容を扱っていくことにする。

(1) 監査の方法およびその内容」の部分

1)「監査の方法およびその内容」全体に関する事項

監査の方法およびその内容は、会社法制定前のような概要記載ではなく、

全部記載である(会社法施行規則129条1項1号、130条2項1号)。この効果は大き く、業務監査面でも会計監査面でも、ひな型自体が詳細な監査の方法および その内容を示している。

ひな型では、「さらに具体的に記載するならば、当期における特別の監査 事項がある場合、例えば、監査上の重要課題として設定し重点を置いて実施 した監査項目(重点監査項目)がある場合には、「監査役は、監査の方針、職 務の分担等を定め、○○○を重点監査項目として設定し、各監査役から…」

などと記載することが望ましい(ひな型注6)」とされている。筆者もかねて より主張していた事柄であり 、賛同できるところである。

2)諸基準への準拠に関する事項

ひな型では、「各監査役は、監査役会が定めた監査役監査の基準に準拠し

…」の文言が見られる。そして監査役会において監査役監査基準(監査役監 査規則との名称が多く使用されている)を定めていない場合には、監査役監査の 基準の部分は削除するものとされている(ひな型注9)。各社では、日本監査

3 監査報告書ひな型における任意開示の個別論点 201

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役協会の定めた監査役監査基準を参考にして(というよりもほぼそのまま)自社 の監査役監査基準(規則)を作成しているが、この基準に準拠して監査を実 施したということになる。同基準は一般的な監査役監査を網羅しているか ら、実際にこのような記載どおり監査を実施していれば株主としても信頼で きることになろう。形式論になるかもしれないが、実際に監査役監査規則を 定めていない場合でも、「日本監査役協会が定めた監査役監査基準に準拠し て」の文言をむしろ積極的に使用すべきではないだろうか。監査の水準を保 つ意味で、必要なアイテムと思われる。ただ、本件については、後述するよ うに、民間の任意参加団体の実務指針に準拠することで法的責任が果たせる のかとの議論を誘発しよう。しかし、任意参加団体とはいえ、事実上ほとん どの主要会社をメンバーとしているのであれば、それなりの重みは当然考慮 されてよいものと思われる。「日本監査役協会が定めた監査役監査基準に準 拠して」と記載することが、ひいては、監査役監査基準で想定されている精 神なり実務が(監査役監査規則を定めていない会社の)各監査役に浸透すること につながり、かつ彼らの自己規制を促すことにつながることにもなる。

一方、ひな型では、会計監査人の職務の遂行が適正に行われることを確保 するための体制(会社計算規則131条)について、会計監査人の側で「監査に関 する品質基準」等に従って整備している旨の通知を監査役会が受けたことが 記載されている。「監査に関する品質基準」とは企業会計審議会が平成17年 に定めたものであるから、実務指針としての権威性が高いものと受け止めら れよう。同基準のほか、日本公認会計士協会の品質管理基準委員会報告書第 1号「監査事務所における品質管理」、監査基準委員会報告書第32号「監査 業務における品質管理」なども一定の適正な基準であると示唆している(ひ な型注17)

(2) 監査の結果」の部分

監査の結果は、まさに監査意見の部分であるから、法的最低限の記載をす ればよいように思われがちであるが、これに対してもひな型では任意的な情 報開示がなされている。

202

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1)業務監査全般の意見

取締役の職務の執行に関する不正の行為または法令もしくは定款に違反 する重大な事実」については、このような事項があった場合のみ、その事実 を記載することになっている(会社法施行規則129条1項3号)。しかし、ひな型 では本件についてあえて意見(いわゆる業務監査意見)を述べる形にしている。

これらについて「重大な事実は認められない」との表現である。この表現 は、取締役の職務執行につき総合的に監視し検証したが、結果として重大な 事実(すべての事実ではない)は認められなかったということである。監査役 監査の信頼性向上につながる記載である。

会社法制定前のひな型では、この業務監査意見のなお書きとして、さらに 会社法制定前の商法施行規則133条関連の事項(競業取引・利益相反取引、無償 の利益供与、非通例的取引、自己株式の取得・処分に関する事項)についてはとくに 詳細に監査を実施したがとくに指摘すべき事項はなかった旨の記載が見られ た。現在のひな型には、本件は見当たらない。おそらく会社法施行規則から この関係が削除されたことと、ひな型紙面としての物理的制約から記載しな かったのであろう。ところが、現行の監査役監査基準でも格別の条項を設け ている事項であるから(監査役監査基準22条)、「重大な事実は認められない」

の後に、なお書きとして示すべきではないだろうか。

2)内部統制システム、買収防衛策に対する意見

内部統制システムに関する取締役会決議があった場合や、財務および事業 の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針などがあった場合など は、個別に監査意見を記載することになるが(会社法施行規則129条1項5号、6 号)、これらの場合で問題があった場合は詳細な記載が開示されるべきであ り、全体として問題がなかった場合でも、一部に疑義がある場合は監査役と しての判断を開示すべきであろう。

ひな型では、「内部統制システムに関する取締役会決議の内容」を相当で ないと認める場合、その旨およびその理由を具体的に記載することが求めら れ(会社法施行規則129条1項5号)、とくに、監査役の職務を補助すべき使用人 に関する事項、取締役および使用人が監査役に報告するための体制その他の 監査役への報告に関する体制など、監査役の監査が実効的に行われることを

3 監査報告書ひな型における任意開示の個別論点 203

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確保するための体制(会社法施行規則100条3項各号)に係る取締役会決議の内 容については、監査役による実効的な監査の前提をなすものとして重要であ り、監査役が求めた補助使用人の配置が決議されていないなど何らかの問題 等が認められる場合には、積極的にその旨を記載することになる(ひな型注 22)とされている。

また、「当該内部統制システムに関する取締役の職務の執行」について、

指摘すべき事項がある場合、その旨を具体的に記載する。内部統制システム に係る取締役会決議の内容は内部統制システムの大綱を定めたものにとどま ることが多く、当該取締役会決議の内容は相当であると認められる場合で も、当該取締役会決議に基づいて担当取締役がその職務の執行の一環として 現に整備する内部統制システムの状況について、取締役の善管注意義務に反 すると認められる特段の問題等が認められる場合には、その旨を記載する

(ひな型注23)とされている。

事業報告においていわゆる買収防衛策について記載があるときは、当該事 項について監査役として意見を述べなければならない(会社法施行規則129条1 項6号)。ひな型では「会社の財務および事業の方針の決定を支配する者の在 り方に関する基本方針について指摘すべき事項は認められない」場合でも、

さらに「事業報告に記載されている会社法施行規則118条3号の各取り組み は、当該基本方針に沿ったものであり、当社の株主共同の利益を損なうもの ではなく、かつ、当社の会社役員の地位の維持を目的とするものではないと 認める」と積極的に意見表明する表現が採られている。

買収防衛策の適正さに関する監査役の判断・役割が重視されつつあること に鑑み、指摘すべき事項があれば具体的に記載することが望ましい。なお、

「会社の財務および事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方 針」や「事業報告に記載されている会社法施行規則118条3号の各取り組み」

の箇所は、事業報告における具体的な表題・頁数等に言及して記載すること も考えられる(ひな型注24)とされている。

204

(10)

4 米国監査委員会報告書からの示唆

米国の監査委員会(Audit Committee)は、取締役会の内部委員会として経 営を監視する機関であり(第4章参照)、わが国の監査役会に相当するものと 言われている。後述するように、米国監査委員会の本質はわが国の監査役会 とは(同時にわが国の委員会設置会社における監査委員会とも)本質的に異なるもの と思われるが、その報告書の開示内容については、示唆を受ける面もあるで あろう。

米国監査委員会の報告書(以下、単に「監査委員会報告書」という)は、1999年 まではニューヨーク証券取引所(New  York Securities Exchange; NYSE)など 証券取引所の自主規制によるものであって、米国証券取引委員会(Securities

 

Exchange  Commission ; SEC)等による直接的な開示規制があったわけではな い。ところが、1999年には SEC が監査委員会報告書に対し直接の連邦法上 の開示規制を敷くことになった。これにより、監査委員会報告書は変貌を遂 げたものといえよう。

さらに、2002年の米国サーベインズ&オクスリー法(企業改革法。Sarbanes‑

Oxley Act ; SOA)の制定以降、再び監査委員会報告書に対する開示規制が本 格化していった。この過程の中に既に前述のひな型に与えた影響や、今後の 日本の監査役・監査役会の監査報告書に対しさらに示唆を与える点があるか もしれない。以下では、これらの点につき検討しておこう。

(1)1999年の

SEC

規制による開示

1999年12月、SEC は、監査委員会強化の一環として監査委員会報告書に 対する直接の開示規制を行った。これは、SEC の諮問委員会であるブルー リボン委員会 の勧告を受けて規制されたものである。

SEC はレギュレーション S―K(および S―B)のアイテム306、およびスケ ジュール14A のアイテム7(e)(3)を改正し、委任状説明書(proxy  state- ment)において監査委員会報告書を開示することを義務づけた 。監査委員 会の位置づけは取締役会内部の一委員会であるから監査委員会の報告はそれ

4 米国監査委員会報告書からの示唆 205

(11)

まで取締役会に対しなされていたが、これが直接株主に対し報告するよう変 更された 。

さらにこの改正で注目すべきは、第一に監査委員会報告書の記載内容に触 れている点と、第二に監査委員会の監視監督基準(charter)の開示を義務付 けた点である。

すなわち、第一の点は、レギュレーション S―K のアイテム306(a)が、

①会計監査済みの財務報告について監査委員会がレビューしているか、ま た、経営者と意見交換しているか、②会計監査基準書(Statement on Auditing

 

Standards; SAS)第61号に定められた意見交換の内容にしたがって、監査委 員会は会計監査人と意見交換を行っているか、③独立性に関する基準委員会

(Independence Standards Board ;IBS)の基準書第1号に定められた独立性に関 する意見交換を行っているか、⎜⎜をその内容としていることである。

第二の点は、スケジュール14A のアイテム7(e)(3)において、①会社 が作成する委任状説明書の中に、取締役会が監査委員会の監視監督基準を採 択したかどうか開示することと、②少なくとも3年に一度、委任状説明書の 附属資料として監視監督基準の開示を義務付けたことである 。そして本 件 を 受 け、NYSE が、監 視 監 督 基 準 の サ ン プ ル を 提 供 す る こ と と な っ た 。このサンプルは数種類示されており、実務としてはこれらの中から 自社に合ったものを選択し、若干の加工を行う運用となっている。その意味 では、米国においてもひな型主義が採られていないわけでもないが、選択に 幅があることに加え、判断基準の根拠が具体性をもち、明確になっている。

上記1999年 SEC の改正を織り込んだ監査委員会報告書の実際例を図Ⅷ―

1に掲げる。

図表Ⅷ―1のとおり、監査委員会報告書の特徴として、判断基準の根拠を 明確にしており、かつ、その基準は民間団体等の基準によっていることがあ げられるであろう。当事は、このように法規制や行政指導によって仔細まで 規制するのでなく、民間のガイドラインに実務の詳細を委ねる運用(best

 

practice)が主流となっていた 。会計監査人との意見交換について SAS が 作成した基準を活用していることに加え、独立性の判断基準についても IBS が作成した基準を使用している。

206

(12)

図表Ⅷ―1 2000年における(SOA制定前)A社の監査委員会報告書 監査委員会報告書

・当監査委員会は、ニューヨーク証券取引所から要請のあるとおり、全員が独立性と経 験を有する取締役によって構成される取締役会(board)の委員会であるが、以下の とおり報告する。

・監査委員会は、①法令や各種の準則に則っているか、②内部監査、外部監査の質はど うか、の視点から、会社の財務書類が適正性(integrity)を保っているかについて 監視監督(overseeing and monitoring)することを通じて、取締役会を支援してい る。

・監査委員会の役割と責任は、取締役会により採択された監視監督基準(charter)に おいて明らかにされているが、今般の委任状説明書の中に「附属資料 A」として添 付してある。

・監査委員会は、この監視監督基準を毎年見直し(review  and reassess)、改訂の要が あればその旨を適宜取締役会に対し勧告していく。

・監査委員会は、会社の財務書類作成過程全体について監視監督する責任がある。2000 年会計年度の財務報告が会計責任を満たしているかどうかの点から、監査委員会は次 の活動を行ってきた。

① 2000年9月末日までの財務報告につき、会計監査人である○○会計事務所とレビュ ーおよび意見交換(review and discuss)を行った。

② 財務報告に対する訂正勧告(conduct)や会計監査の内容につき会計監査人と意見 交換を行った。なお、この意見交換の内容は、会計監査基準書第61号によって要請 されている。

③ ○○会計事務所の独立性につき意見交換を行った。なお、この独立性は、独立性に 関する基準委員会基準書第1号によって要請されている内容である。

④ 監査委員会が適正と認めた財務報告に関連する係争事件、税務に関する事項、その 他の領域についても検討を行った。

以上、会計監査済みの財務報告、および○○会計事務所や経営者(management)と の意見交換を基礎にして、監査委員会は、取締役会に対し、SEC にファイルされるべ きアニュアルレポートにおける2000年9月末の会計監査済みの財務報告はフォーム10―

k に則っているものと認める。

監査委員会

甲 ○ ○ ○ ○ (議長)

乙 ○ ○ ○ ○ 丙 ○ ○ ○ ○

4 米国監査委員会報告書からの示唆 207

(13)

種々の監視監督に関する判断プロセスを明らかにしていることも、監査委 員会報告書の特徴といえよう。とくに、経営者との意見交換の内容に注目す べきである。しかも、全体に内部統制システム を基礎とした監視監督の プロセスを踏んでいることが注目される。米国取締役協会(National Associa- tion of Corporate Directors; NACD)の監査委員会運用ガイドブックには、「経 営者が監査委員会に提出する際の確認書」のサンプルが添付されていたが、

この中に内部統制に関する報告アイテムとその内容が例示されている。例え ば経営者が次のような報告を監査委員会に提出し、他方監査委員会がこれに 対し相応の監査報告をするためには、監査委員会は必然的に経営者との意見 交換を深めなければならなくなるであろう 。すなわち、内部統制につい て「………①営業・財務マネージャーを注意深く選定し彼の能力を開発する こと、責任をそれなりに分担する組織の構造とすること、会社の方針・手続 が組織全体に理解され得るコミュニケーションをもつこと、内部統制にかか る費用対効果を検討すること、⎜⎜が内部統制制度の重要な要素である。

………②経営者は会計制度や諸手続に関し内部監査部門および会計監査人の 勧告をレビューした。これらの勧告を妥当と認めた場合は、相応に内部統制 の手続を修正してきた。」といった点にも触れており、監視監督の内容によ り具体性をもたすことが期待できよう。

(2)2003年の

SEC

規制改正による変化

2002年の SOA では、上場会社の監査委員会に対し高度な責任を求めてお り、米国1934年取引所法のセクション10A を改正した。SOA では、監査委 員会に対し以下のような事項を求めている(SOA 202, 301, 407)

・監査委員会メンバーは法令に定められた独立性を保持すべきこと

・う ち 1 人 は SEC 規 則 で 定 め ら れ た「会 計・財 務 の 専 門 家(financial  

expert)」であること

・会計監査人が監査委員会に直接コミットなり報告ができるように(in  

turn report directly)、監査委員会は会計監査人の契約・報酬それに会計監 査人監査の総合的な適正性の判断(oversight)について責任をもつこと

・会計監査人のすべての監査業務およびおよその非監査業務に対し、監査 208

(14)

委員会が事前承認すべきこと

・監査委員会は、その責任をできるだけ果たせるように、独立カウンセラ ーほかアドバイザーとの雇用契約についての権限をもつこと

・監査委員会は、会計および監査に関連して重要業務・処遇等の内部告発 に係る手続を確立すべきこと

このように、監査委員会に対し会計や監査に関する責任権限が拡充されて いる。SOA により、会計監査人監査への相当性判断、人事・契約、監査費 用の拡充等々の面からすると、監査委員会の制度は、わが国の大会社におけ る監査役監査の制度に近づいてきたように考えられる。

上記 SOA の制定を受けて、SEC は2003年4月にコンプライアンス・ルー ルを公表し、また NYSE も同年11月に上場規則を改正するなど、監査委員 会制度が一段と拡充されることとなった。

これら一連の動きにより、監査委員会報告書はどのように変化したのだろ うか。ガネーシュM.パンデット准教授らによる2005年の調査研究 によれ ば、SOA の前後では図表Ⅷ―2のような変化が見られる。

同調査研究によれば、近時の監査委員会報告書においては、以下のような 改善が見られるという 。

・SEC や NYSE に規定されているような監査委員会メンバーの独立性の 記述が2003年から2004年にかけて特に増加していること。これにより、

監査委員会の役割像が明確になる。

・監査委員会の年間開催頻度を明記した割合が増加していること。株主に 対し開催頻度を提供することで、監査委員会が勤勉に働いており、株主 の利益を守っていることを確信させることができる。

・SOA 制定前と比べて、会計監査人に対する契約・継続、報酬、そして すべての財務報告監査における総合的な監視としての役割(oversight

 

role)に対する監査委員会の責任を知らしめたこと。これにより、監査 委員会の財務報告に対する監視者としての役割(corporate watch  dog  of

  financial reporting)の基礎が形成された。

ちなみに、2007年度における B 社の実際の監査委員会報告書を図表Ⅷ―

3に掲げる。

4 米国監査委員会報告書からの示唆 209

(15)

(3)小括

米国監査委員会報告書とわが国の監査役・監査役会の監査報告書の違いを 一言でいうならば、それは前者が財務報告に対する監査証明を述べる過程で 会社業務全体の適正性を保証すること(すなわち財務報告の中に業務マターの状況 等も包含されていると考えていること)に比べ、後者は、会社業務を会計事項と 業務事項とに分け、それぞれにつき直接監査意見を述べている点が異なる。

いわば、米国監査委員会はあくまでも、連結財務諸表を中心とする財務報 告が適正であるかどうかを補強するための役割をもつ。そのプロセスの中で 内部統制を含めた業務監査面のチエックも実施するという構図である。この 点がわが国の監査役監査とは本質的に異なる点である。なお、両者とも実務 上は、監査結果にたどり着く前に、意見交換等を通じて修正すべき点は治癒 されているのが一般と思われる。この意味では、双方共に事前監査、予防監 図表Ⅷ−2 SOA前後の監査委員会報告書開示内容の変化

2003年度 2004年度 NYSE ルールによる監査委員会メンバーについての独立性

が格別に開示されている

73% 82%

監査委員会における会計・財務の専門家として、少なくとも 1人以上の個別の氏名が格別に開示されている

15 43

監査委員会が、会計監査人との契約・報酬等について責任を 負っている旨の開示が明らかに開示されている

35 47

会計監査人監査の相当性(oversight)に対し責任を負って いる旨が明らかに開示されている

69 86

非監査業務に対する事前承認または関連の方針に関する記述 が参照できるようになっている

0 59

監査委員会業務遂行のための独立カウンセラーに関する雇用 契約についての開示が含まれている

1 8

内部監査および会計監査人監査の手続に関連した従業員から の内部告発に係る手続が存在する旨開示されている

0 0

監査委員会の年間開催頻度が示されている 19 26

会計監査人の独立性が保持され、かつ、非監査業務が会計監 査人の独立性を損なっていない旨の見解に関する開示が含ま れている

17 49

210

(16)

図表Ⅷ―3 2007年における(SOA制定後)B社の監査委員会報告書 監査委員会報告書

当社の監査委員会は常設の委員会であり、4人の取締役から構成されている。各取締 役は、NYSE の要請または証券法の適用にしたがった会計・財務の経験その他資格を 満たしている。

現在の監査委員会は、監査委員会により採択され取締役会で承認され成文化された監 視監督基準(charter)の下で運営されている。なお、この監視監督基準は、本委任状 説明書の附属資料 A として所載されている。

現在の監査委員会メンバーは、甲・乙・丙・丁である。取締役会では議長である甲を SEC が定めた監査委員会の会計・財務の専門家と定めた。

当委員会は、毎年、会計監査人を選任している。

経営者は、会社の内部統制および財務報告のプロセスについて責任を持ち、また、強 化整備された内部統制の下での意見表明を行ってきた。会計監査人は次の各点につき責 任を負っている。

・連結財務諸表に対し独立監査人としての監査が実施されていること

・経営者の内部統制評価に対する意見

・内部統制の有効性が企業会計監視委員会(Public Company Accounting  Oversight Board ;PCAOB)の基準に合致していること 

・会計監査人の報告書がこれらの各点について触れていること

前記監視監督基準にあるとおり、当監査委員会には、上記のプロセスについて監視監 督(monitoring and overseeing)することの責任が含まれている。

当監査委員会は、監視監督基準に従い、経営者および2006年度の会計監査人と会合を 持ち、監査済の2006年12月31日における財務諸表に関する事項につき意見交換を行っ た。

本件に関し、会社代表経営者は、当監査委員会に対し、連結財務諸表が米国において 一般に受け容れられる会計基準に一致して作成されていることを伝えた。

当監査委員会は、経営者および会計監査人と連結財務諸表についてレビューをし、か つ意見交換を行った。また、PCAOB の AU380において会計監査人と意見交換すべき とされる会計監査人に関する事項についても意見交換を行った。

また当監査委員会は、会計監査基準書61号で要請されている会計監査人に関する事項 についても、会計監査人と意見交換を行っている。

また、会計監査人は独立性に関する基準委員会基準書第1号によって要請されている 開示事項を当監査委員会に提供してきた。これにより、会計監査人およびその事務所の 独立性についても意見交換できた。

当監査委員会は、会計監査人の独立性の主要な部分において非監査業務が独立性規定 と一致しているかどうかについても検討した。これらの結果、当監査委員会は、会計監 4 米国監査委員会報告書からの示唆 211

(17)

査の要素が含まれていると解すべきであろう。

報告書の記載内容の簡潔性といった点では、一見するところ監査委員会報 告書もわが国の監査報告と同様に映るかもしれない。ところが、監査委員会 の報告書は監視監督の基準、独立性等について明確な根拠を伴っていること と、その根拠を参照できる点が異なる(日本監査役協会のひな型では、監査役監査 規則を設けていない会社は、この監査実施の根拠が不明になってしまう)

また、当該会社の監視監督基準が少なくとも3年に一度は委任状説明書の 中で直接株主に開示されることにより、監査委員会の活動状況が具体的に株 主にも直接理解される仕組みにしたことは、評価されるべきであろう。わが 国でも事業報告または株主総会参考書類において、各社の監査役監査規則を 何らかの形で提供すべきものと思われる。毎回の提供が難しければ、米国の ように事業報告または株主総会参考書類において3年に一度程度、監査役監 査規則を開示することが検討されてもよい。これも難しいということであれ ば、ますます「日本監査役協会が定めた監査役監査基準に準拠し」の文言が 使用されるべきであろう。

査人が会社および経営者から独立性を保っているものと認める。

当監査委員会と経営者および会計監査人との意見交換はこの報告書で記したとおりで あるが、さらに経営者の声明および会計監査人の報告に対する当委員会のレビューをも 基礎にして当監査委員会は取締役会に報告し、取締役会は当監査委員会の報告を承認し た。

以上の点から、当社のアニュアルレポートにおける2006年12月31日現在の会計監査済 の連結財務諸表は、SEC にファイルされているとおり、フォーム10―K に則っている ものと認める。

監査委員会

甲 ○ ○ ○ ○(議長)

乙 ○ ○ ○ ○ 丙 ○ ○ ○ ○ 丁 ○ ○ ○ ○ 212

(18)

5 任意情報開示による拡充

監査報告書において監査役監査の状況を株主等に開示するためには、どの ような方法や開示内容が考えられるのか、あるいは制度的手当てが必要とな るのか、これらを模索することにしよう。監査報告書において任意的情報開 示を行うには、以下の検討が必要とされよう。すなわち、計算書類等、会計 事項に対する監査証明、取締役の業務全般に対する監査証明の中で、株主等 がとくに関心を寄せるものは何か。あるいは現行会社法および関連法務省令 に定めがなくとも、実際に投資者や株主等が必要とする監査報告事項または 監査役として開示すべき監査報告事項が今日的な情報として考えられるもの は何か。このような角度からの検討は IR 的見地からのアプローチにほかな らない。

(1)特筆すべき任意情報

監査役・監査役会が作成する監査報告書は、監査証明によって保証を与え るという意味で責任は重いものといわざるを得ない。監査報告書の開示問題 においては、責任の重圧の中で IR 的追加情報をいかに提供するかという二 律背反を抱えることになる。

このような状況下において、監査報告書における任意的情報開示のアイテ ムとしてどのような事項が考えられるのか。以前は筆者も監査報告書に内部 統制情報やリスク情報を盛り込むべしと主張していたが 、会社法および 関連法務省令ならびに平成18年の日本監査役協会のひな型によって、上記2 項目を中心に相当解決されたように思われる。

ただ、監査計画とその重点事項については、もっと積極的に開示される必 要があるであろう。「監査の姿を見せる」には、実際に行ったことを監査報 告書に具体的に記載するのが何よりも説得力をもつ。しかし、当該会社の監 査役がどのような点に力を入れてきたのかの切り口とは必ずしも一致しない のが一般である。監査活動にもまず計画があり、実施を経て、監査意見が形 成される。この意味で、監査計画は当該会社の監査の指向性を明確に反映す

5 任意情報開示による拡充 213

(19)

る。監査という仕事の性格からして、詳細な部分まですべてを開示すること がよいとは限らないが、おおまかな重点事項程度は開示してもよいのではな いだろうか。ちなみに、監査報告書の「監査の方法の概要」の個所に「各監 査役は、監査役会が定めた監査の方針に従い、中期経営方針・グループ経営 の基盤面に重点を置いて監査すべく…」と記載した例もある。

それから、不確実情報についても、引き続き検討が必要であろう。例えば 継続企業の前提に対する追記情報の記載が会計監査人に求められ(会社計算 規則126条1項4号、2項)、会計監査人監査の結果に相当性判断を行う監査役 としても無関係とはいえない。例えば、主要な市場・得意先・仕入先等の喪 失、原材料・労働者等資源の不足、重要な係争事件を抱えているなどの場合 は、経営上、継続企業の前提に影響を与える兆候といえようから、このよう な兆候がある場合は開示上、会計監査人と十分な意見交換が必要であり、監 査役・監査役会の報告書においても継続性の前提に支障をきたすような兆候 についてその度合いが深まれば、レピュテーションリスクを避ける意味でも 早めの記載が必要と考える。なお、金融商品取引法では、経営リスクに関す る継続企業の前提の開示が二段階で行われ、リスクの芽のうちから開示され る(財務諸表規則8条の27、同ガイドライン8の27―1ないし27―5参照)

(2)セーフハーバールール

第1節でみたように、それが経営執行側の開示であれ監査側の開示であ れ、法定記載事項にプラスした記載をすれば、それだけ情報提供したことの 責任は拡大するのではないか、積極的に情報提供したにもかかわらず、責任 追及されてしまうのは如何なものかという企業情報開示に対する全般的な問 題がある。まして、リスク情報、不確定情報の場合はどうか。さらに、これ ら企業情報に対し監査証明を出す立場では、その責任が一段と重いものと受 け止められよう。いきおい保守的立場に傾斜していくという循環を辿ること になる。

これはいわばセーフハーバールール(safe harbor rule)の問題に関連する。

ここで、任意情報の開示とセーフハーバールールとの関係について簡単に触 れておこう。

214

(20)

前述のとおり、米国 SEC の監査委員会強化の一環として監査委員会報告 書の開示拡充が行われた。その際には、開示責任に関するセーフハーバール ールの問題も議論され、その結果は、SEC レギュレーション S―K のアイ テム306(c)に反映されている(なお、関連法令として、スケジュール14A の(e)

および(v))

すなわち、アイテム306(c)は、同アイテム(a)および(b)が要求する情 報は、「委任状説明書関連の〔法的責任を伴う〕情報(soliciting material)」と も「SEC への法的登録情報」ともみなされないとする。その他アイテム306 に記載されている事柄は、スケジュール14A および14C を条件として、証券 法(the Securities Act)18条による記載責任を問われることはない。ただし、

会社がとくに法的責任を伴う情報とみなされることを求めた場合や、証券法 および取引所法(the Exchange Act)の下での閲覧書類としてフアイルされた ものについてはこの限りではないとされている。

ちなみに、本件について SEC 当局による次のようなコメントがある 。

「当局は、セーフハーバーに関する議論に応え、アイテム306を修正した。デ ィスクロージャーの要請が広がっていくことにより、監査委員会運営の手 続、あるいはその状況の開示についてより具体的な状況を示していく結果と なるであろう。〔しかしこれはセーフハーバールールの運用によって〕州会 社法下の監査委員会の善管注意義務(fiduciary duty)に対する法的責任追及 を実質的に軽減することができよう。以上の点から当局は、セーフハーバー ルールが適正かつ十分に運用されることを確信する」とし、開示要請が具体 化する程、このルールが必要であることを表明している。

このように、監査委員会報告書の記載については、たとえ SEC 規則に述 べられた記載事項に関する記載事実であっても、基本的に法的責任が軽減さ れ、また、会社側の意思によりとくに記載に関する法的責任を排除すること もできるし、正規の登録書類として取り扱わなくてもよいわけである。した がって、わが国の監査報告書のように一言一句に神経を尖らせなくともよ く、ある程度自由な内容と表現で開示することができる。

わが国会社法においてこのような制度を創設することができるだろうか。

本件については筆者の研究が十分でないのでこれ以上立ち入らないが、今後 5 任意情報開示による拡充 215

(21)

検討が進められるべき分野であろう。

(3)電磁的方法による提供および

WEB開示の拡充

会社法施行規則および会社計算規則では、事業報告・計算書類・連結計算 書類といった開示書類の電磁的記録による提供が認められている(会社法施行 規則133条3項・4項、会社計算規則133条3項・4項)。監査報告書もまた同様に、

「提供事業報告」「提供計算書類」を構成するものとしてカウントされている ので(会社法施行規則133条1項2号ロ、会社計算規則133条1項2号ロまたは3号ホ)、 このような提供が可能である。

他方、WEB 開示もある程度認められている。ちなみに、事業報告の記載 内容について、定款で定めれば、以下の事項を除き WEB 開示することがで きる(会社法施行規則133条3項1号)

① 株式会社の現況関係(会社法施行規則120条1項1号ないし8号)…主要な 事業内容、主要な営業所および工場ならびに使用人の状況、主要な借 入先・借入額、事業の経過・成果、資金調達・設備投資等々の状況、

直前三事業年度の財産および損益の状況、重要な親会社・子会社の状 況、対処すべき課題。

② 会社役員関係(会社法施行規則121条1号ないし5号および8号)…氏名、地 位・担当、報酬等、報酬等の算定方法の決定方法・内容等の概要、監 査役・監査委員の財務・会計に関する知識。

③ 株式関係(会社法施行規則122条1号関係)…保有割合の高い上位10名の 株主の氏名(名称)、保有株式数・割合。

④ 新株予約権関係(会社法施行規則123条1号、2号関係)…会社役員が新株 予約権を保有しているときは、役員の種類別の新株予約権の内容の概 要、保有する者の人数。使用人等に交付した新株予約権があるとき は、その種別ごとの新株予約権の内容の概要、交付した者の人数。

上記のとおり、事業報告開示情報の中核と思われる部分は除外事項となっ ており、WEB 開示可能な部分はあまり多くないように見えるが、そうでも ない。内部統制に関する事項、社外役員に関する事項、会社支配に関する基 本方針などは WEB 開示の対象である。いずれもコーポレートガバナンス関

216

(22)

する事項であり、これらが WEB 開示の対象となっていることは注目されよ う。ここに物理的制限から開放された開示制度の前進が見てとれる。なお、

WEB 開示する事項(上記①〜④を除く)について、監査役または監査委員が 異議を述べている場合は当該事項を開示しなければならない(会社法施行規則 133条3項2号)

IT 社会の成熟度によっては、有価証券報告書の EDINET による全面的 詳細開示のように、会社法においても WEB 開示の制限がはずされ、さらに 進展していくことが予想される(ただ、ここには金融商品取引法開示との調整問題 が存する)。経営執行側が作成する書類の WEB 開示の拡充だけでなく、監査 報告書においても任意情報の拡充を含めた WEB 開示が実務として定着して いくことを期待する。

(4)小括

以上を要するに、監査役・監査役会監査報告書の今日的役割として次の点 が期待されるであろう。第1に、任意情報として利害関係者が関心をもつア イテム(監査報告書上も開示することによって安心感を与えるもの、たとえば金融商品 取引法上のアイテム、あるいは無償の利益供与、非通例的取引などの記載)については 積極的に記載していく姿勢が望まれる。第2に、実際に行った監査の足跡を なるべく具体的に記載することが望まれる。第3に、監査証明を行ったプロ セスがより具体的で、監査計画に掲げる重点監査事項が示され、かつ根拠性 を具備した内容とすべきである。この代替として、監査役監査基準に関する 記述がせめて記載されることが望まれる。

とりわけ上記第1の点は重要である。法的枠内での情報提供にとどまら ず、任意情報の開示を積極的にしていこうとする姿勢に変化すべき時期にき ているのではないだろうか。社会からの開示要請は今後とも高まっていくも のと思われ、とくに金融商品取引法の開示を背負った大規模公開会社の監査 役は、会社法上の職務の発現としても、金融商品取引法の開示を支援し、同 法開示の番人として積極的に関与していくべきであろう。

金融商品取引法の EDINET 開示と同様に、会社法開示も電磁的開示が進 展していくように予想される。会社法開示書類も日常的に会社法上の(静止

5 任意情報開示による拡充 217

(23)

画面の)利害関係人のみならず広く投資者一般からも覗かれることになって いくであろう。そうすると、会社法上の監査役・監査役会の監査報告書にお いて、金融商品取引法上の情報に関連した話題を中間報告的な情報として提 供することも意味のあるものとなる。たとえば、会社法開示書類と有価証券 報告書とでは作成時期にズレがあるにせよ(否、ズレがあるからこそというべき である。本来は一致していることが望ましい)、会社法上の監査役・監査役会の監 査報告書作成時点における中間報告情報として、「なお、金融商品取引法上 の財務報告の内部統制の整備はこれまで適正に行われてきている」「財務報 告の内部統制の整備に対する公認会計士の監査はこれまで適正に実施されて きている」と情報提供することも考えられる。なお、形式上は中間報告と表 現せざるを得ないが、会社法上の監査役・監査役会の監査報告書作成時には 事実上、財務報告の内部統制の整備に対する公認会計士の監査は終了してい るであろう。こうすることにより、定時株主総会の前後から有価証券報告書 提出時までの間、投資者は安心情報として、会社法上作成される監査役・監 査役会の監査報告書を通じた金融商品取引法絡みの情報を利用することがで きる。

このように大規模公開会社であれば、資本提供者の実体は投資者であるか ら、会社法の発現であっても、金融商品取引法レベルで投資者を満足させる 情報提供が監査報告書の開示に添えられてもよいように思われる。同時に、

任意情報の開示は情報提供者たる監査役自身の自己規制(開示をするのだから 相応のしっかりした監査が必要との意識)を醸成することにもつながる。

[注]

(1) 会計監査人の場合も会社法にいう「会計監査報告」ではなく、「独立監査人の監査 報告書」の文言が使用されている。日本公認会計士協会の監査・保証実務委員会報告 75号「監査報告書に関する実務指針(2007.12)」2.全般的事項参照。

(2) 稲葉威雄『改正会社法』金融財政事情研究会(1982年)335頁参照。

(3) やや古い調査であるが、実務の運用をみるとその9割以上が日本監査役協会のひな 型を採用している。「監査役会の運営と株主総会アンケート調査結果(1996年)」監査 役379号23頁参照。

(4) 日本監査役協会企業法制委員会「企業法制の将来に関する中間報告について」の

「提言5」監査役428号18頁は、「監査の姿を外から見えるようにする工夫(たとえば、

218

(24)

監査報告書をもっと個性的なものにするなど)が必要である」と主張している。

(5) 当時の日本監査役協会の調査「コーポレートガバナンスについての意識調査(2000 年)」によれば、自分自身が監査役として機能していると思うか、との問いに対し、

「十分機能している自信がある」が9.4%、「ほぼ機能している」が57.9%、「機能して いるかどうか自信が持てない」が26.5%、「機能していない」は3.4%であった。

(6) 関孝哉「アカウンタビリティー時代の監査役」監査役519号(206年)3頁参照。

(7) 佐藤敏昭「監査役会監査報告書の開示機能」酒巻俊雄先生古稀記念『21世紀の企業 法制』商事法務(2003年)424頁。

(8) IRA M.Millstein 弁護士を委員長とするコミッションで、NYSE や NASD などの 関係者で構成されていた。なお、「ブルーリボン委員会」の呼称は、固有名詞ではな く、権威ある知識人によって検討される委員会の一般的総称である。井上輝一「米国 諮問委員会の監査委員会に関する報告と勧告⎜⎜ SEC 等の諮問委員会(ブルーリボ ン委員会)報告書」商事法務1525号61頁参照。

(9) See, Federal Register/vol. 64, No. 250. at 73393‑73394.

(10) 神田秀樹「米国におけるコーポレート・ガバナンスの最新状況」監査役437号20頁。

酒巻俊雄「社外取締役と社外監査役の機能」ジュリ1050号139頁は、このように「監 査委員会が事実上も慣行上も独立の機関として機能する傾向が続いてきている」と指 摘する。

(11) See, NACD “Report and Recommendations of the Blue Ribbon Committee on Improving the Effectiveness of Corporate Audit Committees”(1999). at 55‑71. 

(12) NYSE Publication Appendix C “Sample Audit Committee Charters”http://

www.nyse.Com/content/publications/NT0000AE66.html

(13) See, NACD “Report of the NACD Blue Ribbon commission on Audit Commit- tees―A  Practice Guide”(2000). at 53‑55.

(14) 内部統制のシステムについては、米国のトレッドウエイ委 員 会 に よ る 報 告 書

“Internal Control Integrated Framework”(COSO;Committee  sponsoring Orga- nization of the Treadway Commission 報告書と呼ばれている)が1992年に公表され てから後、現代監査理論の基礎となっている。

(15) Ibid. op. cit. (11)at 54.

(16) Ganesh M. Pandit, Vijaya Subrahmanyam, and Grace M.Conway“Audit Com- mittee Reports Before and After Sarbanes‑Oxley―A study of Companies Listed on the NYSE”2005‑1005, CPA  journal, at 44. 

(17) Ibid. op cit. (16)at 45.

(18) 佐藤・前掲注(7)424〜426頁。

(19) Ibid. op. cit. (9)at 73395.

5 任意情報開示による拡充 219

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