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高齢者のパーソナルネットワークに関する研究—仲間関係とエンパワーメント— [ PDF

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Academic year: 2021

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(1)高齢者のパーソナルネットワークに関する研究 ―仲間関係とエンパワーメント― キーワード:高齢者教育、パーソナルネットワーク、仲間関係、エンパワーメント、自己実現 発達・社会システム専攻 小山 宏子 1、 はじめに. メントの観点から分析し、今後の高齢者教育の一助とす. 介護保険制度の導入、国際障害者年(1999)、ゴール. ることを目的とし、エンパワーメントを測るスケールの. ドプランなど高齢社会の到来をめぐる問題がクローズア. 提案をするものである。 ライフサイクルの中で高齢期. ップされ、また老後の生き方をめぐる論議も多い。一方. は「喪失の時期」と言われる。喪失に伴う危機をうまく乗. で生涯学習という言葉も市民権を得て,大学での公開講. り越え、高齢期の生活到達目標といわれる自己実現の方. 座, 社会人の再入学、 各地での生涯学習センターの設置,. 策を探ることは、今日ますます長くなりつつある高齢期. 1985 年から始まった放送大学等高齢者の学習機会は増. の生き方における重要課題である。その一つの鍵は高齢. えつつある。. 期における「人との関係性」にある。 「人との関係性」す. 高齢化の進行と生涯学習の 2 つの動向を結びつけて,. なわちパーソナルネットワークとは従来、ある個人が周. 堀薫夫は高齢者の生涯学習を「高齢者教育」と言ってい. 囲の人と結ぶ人間関係及びそこに含まれる人の総体を意. る。高齢者教育は学校教育とは異なった側面として高齢. 味するものとして用いられてきた。人は少なくとも中年. 者の特性を生かした学習援助の視点が必要である。高齢. 期までは,主に学校,職場に所属することにより、パー. 者教育の課題として以下の 2 点があげられる。1.高齢者. ソナルネットワークを形成し、変容させている。しかし. の生活歴、人生経験を学習内容へ反映させること、つま. 高齢期に入ると,組織を通じた関係は少なくなり、それ. りライフサイクルをとおして高齢期における学習と教育. までの家族,親族,地域,友人といった地縁,血縁を見. のあり方を考えること。2.高齢者の側にたった教育―高. 直しつつ,新たに自分で社会関係や人間関係を形成しな. 齢者を学習の主体として捉えること。高齢者を学習の主. おしていかなければならない。つまり,高齢期のパーソ. 体として捉える教育観は 1970 年代アメリカで芽生えた. ナルネットワークは自ら行動を起こさなければ関係構築. といわれるが、30 年たった現在、日本の高齢者教育の現. や維持が困難であることが、他の世代と大きく異なる点. 状はいまだ画一的であるように思われる。背景にあるの. である。特に「仲間関係」は最も選択性が高く,定形性. は高齢者を弱者として捉える高齢者観である。. の無い関係であるため高齢者のエンパワーメントを左右. 20 年後には現在の 40 歳代、50 歳代が高齢者になる。. する要素が大きいのではないかと推測される。. 高学歴のホワイトカラのー増大,ワープロ、パソコン等. 高齢者の学習場面について考えてみると、高齢者が学. 情報機器に習熟していること、車の運転免許取得率の向. 習に主体的に参画する促進要因として,一つには仲間関. 上という状況が伺える。このような状況を踏まえて、今. 係が考えられる。筆者は長年障害をもつ人たちに関わっ. 後の高齢者像を考えていく必要がある。. てきたが、エンパワーメントの一つとして友人をつくる. また高齢社会の問題は高齢者自身の問題であると同. 能力が,学習へ主体的に参画する促進要因となるのでは. 時に,21 世紀の担い手である現在の若い世代や子どもた. ないかということが実証されつつある。また高齢者教育. ち、中年世代等全ての世代に共通の問題である。高齢者. の効果を高めるにはその前段となる「仲間づくり」が必. 教育は、高齢者自身の教育を考えると同時に、全ての世. 要ではないかと考える。なぜならば高齢者は学習の目的. 代の教育に関わる問題でもある。. の前に「仲間」 「話し相手」を求めて学習の場に参加して. 以上の問題意識を背景とし、本研究は今後の高齢者教. いるのではないかと推察される。また高齢者の生活歴を. 育を考える前段として,高齢者がどのようなパーソナル. 重視し、高齢者を主体とした高齢者教育を効果的に実施. ネットワークの中で日常生活を営んでいるかを把握し、. するには,高齢者のエンパワーメントを把握する必要が. その一つである「仲間関係」に焦点をあて、エンパワー. あると考えるが、今のところそれがないために画一的教 1.

(2) 育にならざるを得ないのではないかと思われる。以上の. 加した 1974(昭和 49)年調査と同一内容を用い,考察. ことから本研究では以下の仮説をたてる。. にあたっては一部比較検討を行った。. (1) 仲間関係をもつ高齢者はエンパワーメントが高い。 (2)仲間関係をもつ高齢者は社会活動への主体的参画. 3、各章の要約 第 1 章 高齢者をめぐる諸問題. が高い。 (3)仲間関係の場を提供すると学習参加意欲が向上す. 昭和初期から現在までを4つの時期に区分し,高齢者. る。. を取り巻く状況と社会制度の動きについて年表により整. (4)高齢者のエンパワーメントスケールがあれば、教. 理した。またライフサイクルごとに仲間関係の重要性に. 育の画一化が低減され、学習効果が向上する。. ついて述べ、高齢期については地域関係との隔絶による 孤独や孤立による自殺等心の問題の現状を述べた。. 以上について訪問面接調査及びそれに基づく事例分 第 2 章 過疎地における高齢者の生活構造調査結果. 析により実証的に考察する。なお本研究のキーワードで あるエンパワーメントについて定義づけをしておく。. 高齢者教育の一つの課題は高齢者の生活歴を学習内. 「エンパワーメント」は 1995 年北京での第 4 回世界女. 容に反映させることである。そこで高齢者の生活構造を. 性会議で注目されるようになった。エンパワーメントと. 把握するための調査を実施し、それをベースに高齢者の. いう用語は,人権問題に活用されることが多い。人権問. パーソナルネットワークを把握し仲間関係について考察. 題研究者の森田ゆりはエンパワーメントを単に「力をつ. した。調査の概要は以下のとおりである。. けること」だけではなく、大人と子ども,自分と障害者,. ・調査期間 2002 年 8 月 1 日∼8 月5日. 自分と高齢者,自分と隣人・友人などがお互いの内在す. ・調査対象者 Y村居住の 65 歳以上の一人暮し高齢者 73 名. る力をいかに発揮しうるかという「人と人との関係性」 が重要であるとしている。森田の定義を高齢者に用いる. ・有効回答者 69名(拒否2名,長期不在2名). と,高齢者のエンパワーメントとは「高齢者同士、高齢. ・調査内容 1.対象者の基本属性 2.健康度と保健活動、. 者と子ども,高齢者と友人,隣人などの相互関係を通し. 3.パーソナルネットワーク、4.社会参加、5.生きがい、. て、お互いに影響しあい、自己実現にむけ成長していく. 6.世代間交流、7.保健・福祉サービス利用状況の48. こと、またその過程」のことである。本研究では森田の. 項目. 「人との相互関係性」に重点をおいたエンパワーメント. ・調査方法 民生委員同伴による訪問面接調査. の定義を用いることとする。. 調査の結果については以下の①∼⑥にまとめた。 ①回答者 69 名。男性 15.9%(11 名) ,女性 84.1%(58. 2、研究の方法 本研究は仮説を検証する方法として1つに過疎地に. 名) 。65 歳∼74 歳の前期高齢者 46.3%(32 名) 、75. 居住する一人暮し高齢者の生活構造を把握し、その上で. 歳以上の後期高齢者 53.7%(37 名) 。最高齢者は 91. パーソナルネットワークの現状を明らかにする。2つめ. 歳女性。居住年数は 9 割が 30 年以上村に居住。一人. に仲間関係をもつ事例を分析することで、エンパワーメ. 暮し年数の最短は 2 ヶ月,最長は 43 年。男性の一人. ント促進要因を明らかにし、エンパワーメントを測るス. 暮し最長者は 15 年、女性は 43 年。. ケールを提案する。方法としては高齢者への訪問面接調. 1974 年調査は 60 歳以上の一人暮し高齢者 20 名 (男. 査とそれに基づく事例分析を行う。調査対象地としては. 性 1 名、女性 19 名)であった。一人暮し高齢者は 28. 福岡県で高齢化率第 1 位のY村を選定した。選定理由は. 年間で約 5 倍に増加しており、特に男性一人暮しの増. 都市部に比べ、多様な他者との交流がすくない地域での. 加が著しい。. 仲間関係や仲間意識を調査することで、それがより鮮明. ②子どもとの交流は8割が頻繁にあっており、2 割が疎. になると判断したためである。調査対象者は 65 歳以上. 遠である。約 7 割は1時間以内に別居子が居住して. の一人暮し高齢者である。一人暮し高齢者をみると,他. いる。. 者との関係のもちかたの個人差が明確であるため、エン. ③介護状態になった時の希望は老人福祉施設入所希望. パワーメント促進要因が明らかになると判断した。調査. 35%、子どもと同居する 22%、サービスを利用して. 項目48のうち 22 項目は筆者が調査メンバーとして参. 在宅で暮す 17%である。 2.

(3) ④「病気で寝込んだときの看病」「相談にのる」「用事. 大別されるので、それぞれの仲間関係ごとに生活歴,回. や留守番を頼む」 「気楽な話し相手」という 4 つのサ. 答内容を中心に 11 事例を提示した。あわせて仲間関係. ポート関係ごとに、別居子を含む家族・親族、近隣,. の全くない高齢者事例を分析することで,仲間関係の乏. 友人を設定しサポートネットワークの強さをみた。. しさは他のパーソナルネットワーク全体の乏しさとも関. いずれにおいても家族が重要なサポート源になって. 連性があることをエンパワーメントの観点から明らかに. いた。 「病気で寝込んだときの看病」や「相談相手」. した。以上を通して、高齢者のエンパワーメントを測る. というサポート側に負担が強いと思われる内容につ. スケールを提案した。 11の事例を分析し、提案した. いても約 3 割が友人とのサポート関係があった。. スケールの内容は以下のとおりである。 (1)家族以外の. ⑤参加している団体,組織は老人クラブが約8割、隣. 他者との情報交換ができるか。 (2)自分を支援してくれ. 組約が 7 割。学習・教養サークル加入が 2 割弱。ち. る他者をもっているか。 (3)自分が支援する他者がいる. なみに都市部(仙台市)における調査結果と比較す. か。 (4)近隣との付き合い度 (5)所属している団体、. ると、Y村の老人クラブ,隣組の加入率は高い。. 組織の種類と数 (6)新しい集団への参加に抵抗がな. ⑥8割が生きるはりあいがあると回答し、 2割はないと. いか。 (7)いろいろなことに興味関心があるか。 (8)新. 回答していた。 生きる張り合いをなくした理由は病気. しいことに挑戦する気持ちが強いか。. や障害、年をとったからというものであった。 「生き. 以上について段階評価をおこなうものであるが、評価. がい」 となっているものの上位について尋ねてみると、. の方法は今後の課題とする。エンパワーメントを測るス. 1974 年調査で「子,孫との交流」45%を占めていた。. ケールの利用効果は学習提供者にとっては、高齢者個人. しかし、2002 年調査では「仲間、友人との交流」が. の状況、ニーズを把握することにより、高齢者個人に応. 46%に変わり、 「子,孫との交流:は 12.5%にとどま. じた学習プログラムを検討できる。高齢者自身にとって. った。. は自己診断することにより、 自分の問題点に自ら気づき,. 第 3 章 高齢者のパーソナルネットワーク. 主体的にサポートを求めることができる。. 第 2 章の調査結果をふまえ、 第1節では別居子, 近隣, 友人関係をサポートネットワークという観点から、高齢. 終章 要約と結論. 者にとっての位置付けを明らかにした。第2節では高齢. 訪問面接調査の結果は仲間関係とエンパワーメント. 者と別居子との相互交流の内容について 1974 年調査と. の観点から以下の点にまとめられる。 (1)生きがいの内. 2002 年調査の比較検討を行った。第3節では、高齢者の. 容について 1974 年調査と 2002 年調査を比較すると 「子、. 生きがいの内容が「子や孫に関すること」から「仲間と. 孫とのつながり」から「仲間関係」への変化がみられる。. の交流」へ変化していることについて調査結果を基に考. (2)高齢者の仲間関係は子どもや配偶者との別離とい. 察した。. う喪失体験を経て,新しい人間関係再構築の一つの方法. 調査結果からみると、対象者にとっては「子どもに依. と考えられる。 (3)仲間関係をもつ高齢者の近隣関係,. 存し、子どもが中心」とは言えない。要介護状況になっ. 社会参加,生きがいについてみると積極的、活動的であ. た時の希望をみると 1974 年「子どものところへ行く」. る。 (4)仲間関係のない事例は高齢者の 8 割が参加して. 50%,「老人福祉施設に入所する」10.0%であったが、2002. いる老人クラブ、隣組への参加もない。また近隣関係が. 年は「老人施設入所希望」38.5%、 「サービスを利用して. 乏しく、社会活動もない。. 在宅で暮す」17.9%と 6 割が別居子や親族に依存しない. さらに仲間関係をもつ群と孤立した群の生活歴及び. 生き方を選択している。明確に子どもと同居すると回答. 回答内容を中心に事例分析を行い、仲間関係とエンパワ. したのは 22.4%で、1974 年の約半数になっている。施. ーメントの関連性について考察し、明らかになった点は. 設入所を希望している高齢者のほとんどが、「施設で仲. 以下の 4 つである。①仲間関係をもつ群は全員生きがい. 間と暮したい」と述べていた。. をもっており、その内容は「仲間との交流」である。仲 間関係のない群はいずれも生きがいがないと回答してい. 第4章 高齢者の仲間関係とエンパワーメント. る。②組織,団体の参加状況をみると仲間関係のある群. 仲間関係と高齢者のエンパワーメントとの関連性を. は老人クラブ,隣組はじめ 2 つ以上の組織に参加してい. 事例分析により明らかにした。対象者の仲間関係は高齢. る。③仲間関係のある群は近隣関係が充分保たれている. 者大学、デイ・サービス、地域を媒体とした近隣関係に. が仲間関係のない群は近隣交流が全くない。④仲間関係 3.

(4) ・仙台市健康福祉事業団 1996『豊齢化社会づくり基礎調. はストレス緩衝材としての役割を果たしており、エンパ ワーメント促進要因となっている。⑤仲間関係はボラン. 査報告』. ティア活動など社会活動への動機づけになっている。 6、主要参考文献 ・嵯峨座春夫 2001『少子高齢化社会と子ども達』中央法. 以上の結果から仮説1、仲間関係をもつ高齢者はエン パワーメントが高い、仮説2、仲間関係をもつ高齢者は. 規出版 ・嵯峨座春夫 1993『エイジングの人間科学』早稲田大学. 社会活動等への主体的参画が高いといえる。仮説3、仲 間作りの場を提供すると学習参加意欲が向上することに. 出版局. ついてである。ここでいう学習とは知識習得のみをさす. ・堀薫夫 1999『教育老年学の構想』培風館. のではなく、生活上の全てが成人の学びである。事例分. ・森田ゆり 1998『エンパワーメントと人権』開放出版社. 析では高齢者大学、デイ・サービス、近隣関係を仲間関. ・東京都老人総合研究所 1993「ソーシャルサポートを中. 係の例として提示したが、 高齢者が選択できる学習の場、. 心にみた一人暮し高齢者の生活実態」. 選択メニューは多いほど高齢者のニーズに対応でき,多 くの高齢者が参加できる。選択メニューのひとつである 高齢者大学についてみると「学ぶ」という前に「仲間」 を求めて参加する高齢者が多いことが面接の結果から明 らかになった。このことから高齢者のニーズに則した仲 間作りの場を提供すれば、 学習参加の意欲は向上できる。 4つめの仮説については日本におけるエンパワーメント 研究は現在実践論中心でスケールについては研究がなさ れておらず、本研究では訪問面接調査の結果と事例分析 を基にエンパワーメントを測るスケールの提案を行った。 本研究をとおして高齢者にとっては別居子等家族の 位置付けを相対化しうるパーソナルネットワークの広が り、特に仲間関係をもつことは高齢者のエンパワーメン トを高め、高齢期のアイデンティティ基盤維持の一つの 重要な要因になるといえる。 4、今後の課題 ①本研究ではエンパワーメントを測るスケールの内容を 提案した。段階評価の方法及び内容検討は今後の課題 とする。 ②本研究で明らかにした結果はY村居住の一人暮し高齢 者に限定したものである。次の機会には都市部に居住 する高齢者の生活構造を調査し、比較検討することに より、仲間関係とエンパワーメントの関連性をみたい。 5、主要引用文献 ・福岡県精神衛生センター1974「農山村の過疎化と老人 の精神衛生」 ・三浦文夫 1999『図説高齢者白書』全国社会福祉協議会 内閣府 2001『高齢社会白書』 ・野口祐二 1991「高齢者のソーシャルサポート:その概 念と測定」 『社会老年学』NO34 4.

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参照

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