1.概 要
米国特許法第 101 条は,米国において特許を受 けることができる発明として以下とおり規定して いる。 「第 101 条 特許を受けることができる発明 新規かつ有用な方法,機械,製造物若しくは 組成物,又はそれについての新規かつ有用な 改良を発明又は発見した者は,本法の定める 条件及び要件に従って,それについての特許 を取得することができる。」 このように,米国では「新規かつ有用な方法」 等であれば新規性及び非自明性等の他の特許要件 を満たすことを条件に幅広く特許を認めている。た だし,最高裁は方法が,自然法則,物理的現象ま たは抽象的なアイデアにすぎない場合は,保護適 格性を有さないとして特許の付与を認めていな い1)。 Cybersource 事件においては,電子商取引に おける詐欺検出方法及び装置に関する特許発明が 米国特許法第 101 条の要件を満たすか否かが問題 となった。CAFC は Bilski 最高裁事件2)の判示 事項に従い,方法クレーム及び記録媒体クレーム 共に,米国特許法第 101 条の要件を満たさないと 判断した3)。本稿では約 1 年前に下された Bilski 判決後の CAFC の保護適格性の判断について分析 する。2.背 景
(1)特許発明の内容 CyberSource 社(以下,原告という)は U.S. Patent No. 6,029,154(以下,154 特許という)の 所有者である。154 特許は「顧客と業者との間の インターネットを介したクレジットカード取引に おける詐欺検出方法及びシステム」に関する。参 考図 1 は 154 特許の代表図である。 参考図 1 における IVS(Integrated Verification System)106 における詐欺検出器(Fraud Detec-tor)210 が,インターネット取引が有効か否か を判断する。154 特許はクレジットカードを用い た取引において,詐欺を検出する際に IP アドレ スを用いるものである。具体的には,ユーザが既 に詐欺取引に使用されていた IP アドレスを通じて 大量購入した場合,詐欺と判断するアイデアで ある。 154 特許の実施例には以下の技術が開示されて いる。詐欺検出器 210 は履歴チェック(History Check)202,整合性チェック(Consistency Check)204,AVS(Automatic Verification Sys-tem)206,IIVS(Internet identification Verifi-cation System)208 からパラメータを受け取り,詐 欺を検出する。整合性チェック 204 はクレジット 情報がユーザ及び他の情報に一致するか否かを判 断する。AVS206 は公知のクレジットカード情報 の照合システムであり,郵便番号及びクレジット カード番号等を用いて認証を行うシステムである。 * 弁理士,河野特許事務所; AIPPI ソフトウエア特許 研究会メンバー海 外 情 報
Bilski 最高裁判決後の保護適格性判断手法
〜 Cybersource 事件に見る 2 段階アプローチ〜
河野 英仁
*履歴チェック 202 は対象となる取引が履歴 DB222 に記憶された情報に合致するか否かを判断する。 IIDVS208 は,他の業者により情報が追加され る DB224 を参照し,インターネットアドレスの 有効性を判断する。具体的には,IIDVS208 は, DB224 から特定のインターネットアドレスを用い て処理された一群の取引データを取得する。次い で,IIDVS208 は,取得した取引データのマップ を構築する。最後に,IIDVS208 は,構築した マップを用いて,新規クレジットカード取引が有 効であるか否かを判定する。 W1~W4 は各パラメータへの重み付けを行う。 詐欺検出器 210 は取引履歴 DB222 及び他の業者 により追加された DB224 を参照し,上述した 様々なパラメータに基づきクレジットカード情報 に対する認証を行う。 問題となったのは方法クレーム 3 及び記録媒体 のクレーム 2 である。 方法クレーム 3 の内容は以下のとおり4)。 3.インターネットを介したクレジットカー ド取引の有効性を認証する方法において, a)クレジットカード取引と一致するイン ターネットアドレスを利用する他の取引につ いての情報を取得するステップと, b)前記他の取引に基づき,クレジットカー ド番号マップを構成するステップと, c)クレジットカード取引が有効であるか否 かを決定するためにクレジットカード番号マッ プを利用するステップと を備えることを特徴とする認証方法。 クレーム 2 は所謂ボールガードクレーム(Beau-regard claim)形式である。これは,Beauは所謂ボールガードクレーム(Beau-regard 事件5)以降に名付けられ,コンピュータに特定の 処理を実行させるプログラム命令を含むコンピュー タ読み取り可能な記録媒体(例えば,ディスク, ハードドライブ,その他のデータ記憶装置)とす るクレームである。クレーム 26)は長文であるが, 参考図 1 154 特許の代表図
方法クレーム 3 の方法を実行するプログラム命令 を含むコンピュータ読み取り可能な記録媒体以上 のものではない。クレーム 2 の概要は以下のとお りである。 2.インターネットを通じた顧客,業者間の クレジットカード取引における詐欺を検出す るためのプログラム命令を含むコンピュータ 読み取り可能な記録媒体において, コンピュータシステムの一または複数のプロ セッサによる前記プログラム命令の実行によ り,一または複数のプロセッサに以下のス テップを実行させる; (中略) a)クレジットカード取引と一致するイン ターネットアドレスを利用する他の取引につ いての情報を取得するステップと, b)前記他の取引に基づき,クレジットカー ド番号マップを構成するステップと, c)クレジットカード取引が有効であるか否 かを決定するためにクレジットカード番号マッ プを利用するステップ。 (2)訴訟の経緯
原告は Retail Decisions, Inc.(以下,被告)に 対し,154 特許を侵害するとして,2004 年 8 月 11 日訴訟を提起した。被告は USPTO に 154 特 許に対する査定系再審査7)を請求した。地裁はこ れを受けて USPTO の審査が完了するまで審理手 続を中断した。2008 年 8 月 USPTO は 154 特許 を維持する決定をなした。その後,連邦地裁にお ける審理が再開され 2008 年 10 月 30 日,Bilski 事件において,CAFC は大法廷判決8)を下した ことから,被告は米国特許法第 101 条に基づく無 効を主張した。 地裁は,被告の主張を認め,クレーム 2 及び 3 は保護適格性を有さないと判断した。被告はこれ を不服として,2009 年に控訴した。ただし,Bil-ski 事件が最高裁に上告されたため,2010 年 10 月 28 日に最高裁判決9)が下されるまで,CAFC による審理が中断された。
3.CAFC での争点
争点:方法クレーム 3 が保護適格性を有するか否 か,方法クレーム 3 の各ステップを含む記録媒体 クレーム 2 が保護適格性を有するか否か クレーム 3 はインターネットを介したクレジッ トカード取引の有効性を認証する方法を権利化し ている。クレーム 2 はクレーム 3 と同一の方法を 実行するプログラム命令を有するコンピュータで の読み取りが可能な記録媒体を権利化している。 Bilski 最高裁判決後,このようなクレームが米国 特許法第 101 条の要件を具備するか否かが問題と なった。4.CAFC の判断
結論:クレーム 2 及び 3 は特許を受けることがで きない心理プロセスの独占を試みており,米国特 許法第 101 条の規定に基づき,無効である。 (1)Bilski 最高裁事件 方法クレームに対する保護適格性判断は Bilski 最高裁判決により明確化された。以下,Bilski 最 高裁事件について解説する。 Bilski は,ヘッジ取引に関する方法クレームに ついて権利化を試みた。本方法クレームが,米国 特許法第 101 条の規定に基づき,保護適格性を有 するか否かが争点となった。 最高裁は過去の判例により,自然法則,物理的 現象,及び,抽象的なアイデアは保護適格性を有 さないが,ビジネス方法に関する発明自体は米国 特許法による保護対象になると判示した。 さらに,方法が抽象的なアイデアをクレームし ているか否かを判断する基準として CAFC が示し た機械変換テストは有用なツールではあるが,当 該テストが唯一の基準ではないと判示した。最高 裁は,機械変換テストを唯一の基準として制限す ることは特許法の制定趣旨及び判例に反し,ま た,将来発生する新技術を保護すべく,他の判断 基準を判示することを否定した。 CAFCが判示した機械変換テスト(machine-or-transformation test)とは,方法クレームが以 下の 2 条件のいずれかを具備する場合に,米国特 許法第 101 条の要件を満たすとする判断基準であ る。 (I)クレームされた方法が特別な機械または 装置に関係していること, または (II)特別な物・もの(article)を異なる状 態または物体へ変換していること 最高裁は,Bilski のヘッジ取引に係る方法ク レームの保護適格性を否定すべく Benson 事件10) 及び Flook 事件11)を挙げた。Benson 事件にお いて,最高裁は,2 進化 10 進数(BCD)形式に あるデータを,純粋なバイナリ形式へ変換するア ルゴリズムに関する特許出願が,米国特許法第 101 条に規定する「方法」であるかどうかを検討 した。最高裁は最初に,「抽象的なアイデアにお ける法則は,基本的な真理であり,発端であり, 真意であり,これらは特許されるべきではない」 と述べた。これらは,何人にも使用させる必要が あるものであり,独占権を付与すべきではないか らである。当該アルゴリズムについて権利を付与 すれば,完全に数学的公式についての権利を先取 り(pre-empt)させることとなる。以上の理由に より,Benson 事件における発明は単なる抽象的 アイデアであり,米国特許法第 101 条に規定する 「方法」でないと判断した。 また,Flook 事件において,出願人は,石油化 学製品及び精油産業において,触媒変換プロセス の間,状態を監視する方法について特許化を試み た。Flook 事件における発明は,石油化学製品及 び製油産業への適用に限定しているが,本質は数 学的アルゴリズムにある。従って,第 3 者は当該 数学的アルゴリズムを他の分野において使用する ことができる。 しかしながら最高裁は,出願に係る発明は,数 式を特定の分野(石油分野)に限定したにすぎ ず,実質的に数学的アルゴリズムを先取りするも のであり,特許出願全体として何ら特許性ある発 明を含んでいないことから,米国特許法第 101 条 に規定する「方法」に該当しないと判示した。 このように,数学的アルゴリズムの使用を,特 定分野に形式的に限定したとしても,保護適格性 を有さないと判示した。 Bilski のクレームは,ヘッジングの基本的コン セプト,または,リスクに対する保護を記載して いる。ヘッジングは,経済社会システムにおいて 古くから普及している基本的な経済プラクティス であり,経済学の入門授業においてさえ解説され ている事項である。クレームに記載したヘッジン グの概念は,Benson 事件及び Flook 事件におけ るアルゴリズムと同じく,特許されない抽象的な アイデアである。最高裁は,申立人に当該リスク ヘッジングに係る特許を認めれば,当該分野にお けるこのアプローチの使用を先取りさせることと なり,ひいては抽象的アイデアの独占を認めるこ ととなると判示した。 最高裁は以上の判例に照らし,申立人の出願に 係る発明は単なる抽象的なアイデアであり,米国 特許法第 101 条に規定する「方法」に該当しない と判断した。 (2)Cybersource 事件における方法クレームの 保護適格性 (i)機械変換テスト CAFC は本事件における方法クレーム 3 は機械 変換テストを満たさないと判断した。クレーム 3 は単に「ビジネスリスクに関連する無形のデータ を取得及び比較」しているにすぎないからであ る。クレジットカード番号及びインターネットア ドレスデータに関するデータの単なる収集及び編 成は,機械変換テストの変換要件を満たすのに十 分でなく,かつ,クレーム 3 の文言そのものは, 特定の機械により実行されることを要件としてい ないからである。 (ii)心理的プロセスの独占 CAFC は続いて,クレーム 3 が心理的なプロセ スを独占するものであるか否かを判断した。CAFC は,本事件におけるクレーム 3 の法定主題は保護 適格性を有さない心理プロセスであることは明ら
かであると述べた。クレーム 3 の全ステップは, 人間の心理において実行されるか,またはペン及 び紙を用いて実行することができると判断した。な お,クレーム 3 は特定の詐欺検出アルゴリズムに 限定しておらず,明細書にも具体的なアルゴリズ ムが記載されていない。 方法ステップ(a)についての分析 「a)クレジットカード取引と一致するインター ネットアドレスを利用する他の取引についての情 報を取得するステップ」 CAFC は既に存在するデータベースから単にイ ンターネットクレジットカード取引の記録を読む 人間により実行され得ると判断した。 方法ステップ(b)についての分析 「b)前記他の取引に基づき,クレジットカード番 号マップを構成するステップ」 CAFC は,人間が特定の IP アドレスから取得 されるクレジットカード取引リストを記述するこ とにより,「クレジットカード番号マップを構成」 することができると判断した。 方法ステップ(c)についての分析 「c)クレジットカード取引が有効であるか否かを 決定するためにクレジットカード番号マップを利 用するステップ」 CAFC は,ステップ(c)は,余りに広く記載 されすぎており,詐欺を検出するいかなる方法を も含んでおり,完全に人間の心の中で実行される 論理的な推論をも含むと判断した。 以上のとおり,クレーム 3 のステップは全て人 間の心理において実行できる。CAFC は,人を通 じてのみ実行される方法は単なる抽象的なアイデ アであり,米国特許法第 101 条における保護適格 性を有さないと結論づけた。 CAFC は,心理プロセスをクレームに記載する ということが悪いというのではなく,むしろ,完 全に人間の心理において実行される方法は,全人 類に自由であり,かつ誰にも独占的に留保されな い「科学的及び技術的作業の基本的ツール“basic tools of scientific and technological work”」を 具現化する方法だからであると述べた。 (3)装置クレーム 原告は,クレーム 2 のカテゴリーは「方法」で はなく,米国特許法第 101 条において規定されて いる「製造物」であることから,クレーム 2 はそ れ自体保護適格性を有すると主張した。 CAFC は,単にクレームのカテゴリーだけに着 目するのではなく,保護適格性に関しては,発明 の根本に着目しなければならないと述べた。ク レーム 2 及び 3 双方の基礎をなす発明は,クレ ジットカード詐欺を検出する方法であり,コン ピュータ読み取り可能な情報を記憶する製造物で はないことは明らかであることから,原告の当該 主張を退けた。 CAFC は,クレーム 2 は確かに記録媒体クレー ムフォーマットであるが,実質的に方法クレーム 3 と同内容であるため,保護適格性判断を行う際 に,クレーム 2 を方法クレームとして取り扱った。 CAFC は,記録媒体クレーム 2 を方法クレーム として分析し,機械変換テストを満たすか否か判 断した。 (i)変換テスト 原告は,クレーム 2 は,インターネットクレ ジットカード取引を示すデータの変換に言及して おり,変換テストを満たすと主張した。原告によ れば,クレーム 2 は IP アドレスまたは電子メー ルアドレス等の「インターネットアドレス」を使 用しており,インターネットアドレスを利用する インターネット取引からクレジットカード番号 「マップ」を構築していることから,データの変 換があると主張した。しかしながら,CAFC は, これは,単なるデータの操作(manipulation)ま たは再編成(reorganization)にすぎず,変換テ ストを満たさないと判断した。 (ii)機械テスト 原告は,クレーム 2 は「コンピュータ読み取り
可能な記録媒体」と記載しており,コンピュータ システムのプロセッサによってのみ実行されるソ フトウェア命令を含んでいることから,機械テス トを満たすと主張した。 CAFC は,機械の使用は,クレームの範囲にお いて意味のある限定を行っていなければならない と述べた。すなわち,「機械は,クレームされた 方法を実行させることにおいて,明確な役割を果 たさなければならない。12)」 最終的に,CAFC は,方法クレーム 3 の心理プ ロセスを実行するためのコンピュータの付随的な 使用は,クレームに十分に意味のある限定をなし ているとはいえないことから,記録媒体クレーム 2 の「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」そ れ自体は,クレーム 3 において特許できない方法 を,米国特許法第 101 条の元,保護適格性ありと することはできないと結論づけた。 CAFC は,クレーム 2 及び 3 は特許を受けるこ とができない心理的プロセスを独占しようと試み ていることから,米国特許法第 101 条の規定に基 づき,無効であると結論づけた。
5.考 察
(1)機械変換テストと心理的プロセスの独占テス トの 2 段階アプローチ Cybersource 事件において,方法クレーム 3 は心理プロセスをクレームしており,抽象的なア イデアについての独占を認めない Benson 最高裁 判決の判示事項に従い,特許が無効とされた。 Bilski 最高裁判決以降,方法クレームについては 最初に比較的判断の容易な機械変換テストが行わ れ,機械変換テストを満たさない場合,心理的プ ロセスを独占するか否かを判断する 2 段階アプロー チがとられている。今後もこの傾向が続くものと 考えられる。 (2)装置クレーム・記録媒体クレームに対する保 護適格性 クレーム 2 は記録媒体クレームであるが,実質 的に方法クレーム 3 の各ステップを記載している。 クレームのカテゴリーが記録媒体であり,かつ, 各ステップがプロセッサにより実行されると記載 されていたとしても,意味のある限定がなされて おらず,また心理プロセス自体の独占を試みるも のであることから,保護適格性を有さないと判断 された。 本事件においては方法クレームと同様の 2 段階 アプローチにより記録媒体クレームの保護適格性 が判断されたが,これは記録媒体クレーム 2 が方 法クレーム 3 と実質的に同一であったからであり, 例外的な取り扱いであると考える。装置クレー ム・記録媒体クレームに対しては,2009 内部イ ンストラクション13)に従い審査が行われるのが 大原則である。 (3)Bilski 最高裁判決後に保護適格性が争われた 他の事件SiRF Tech.事件14)及び Research Corp.事件15) においては,人間の心理において完全に実行する ことができるものではなく,心理プロセスを独占 しないことから,保護適格性を有すると判断され た。本事件とは対照的な結論となったため,以下 にこれら 2 つの事件を簡単に説明する。 (i)SiRF Tech.事件 SiRF Tech.事件においては「GPS 受信機の絶対 位置及び衛星信号の受信絶対時間を算出する方法」 の保護適格性が問題となった。SiRF Tech.事件で CAFC は,同じく 2 段階アプローチを採用した。 SiRF Tech.事件で CAFC は,機械テストを満たす と判断した上で,さらに争点となっている方法の 各種演算処理が,人間の心の中で完全に実行され るものとはいえないと述べた。CAFC は反対に, 本発明は,GPS 受信機の使用なしには実行する ことができず,保護適格性を有すると判示した。 (ii)Research 事件 Research 事件においては,「ピクセル毎にデジ タル画像を青ノイズマスクと比較することにより デジタル画像のハーフトーン画像を提供する方法」 の保護適格性が問題となった。CAFC は,当該方
法はコンピュータデータ構造(例えば,デジタル 画像のピクセル及びマスクとして知られている 2 次元行列)の操作,及び,修正コンピュータデー タ構造(ハーフトーンデジタル画像)の出力を必 要としていると認定した。そして,この方法は実 際上人間の心理において完全に実行できるもので はないことから,保護適格性を有すると判示し た。なお,クレームにはプリンター,メモリ,及 びディスプレイ等のハードウェアが記載されてい たため,機械テストについては当然に満たすと判 示している。 このように,両事件とも,Cybersource 事件 と同様に,発明が人間の心理において実行される か否か,心理的プロセスを独占(capture)する ものであるか否かに着目し保護適格性を判断して いる。
6.まとめと実務上の注意点
通常,日本企業は最初に日本国特許庁に出願を 行い,当該日本国出願を基礎としてパリルートま たは PCT ルートにて米国へ特許出願を行う。そ の際日本企業が依拠するのは日本国特許実用新案 審査基準16)である。 審査基準第 VII 部第 1 章「コンピュータ・ソフ トウェア関連発明」には, 「ソフトウェアによる情報処理が,ハード ウェア資源を用いて具体的に実現されている こと17)」 を満たすよう記載することが求められている。 日本の審査基準に適合するよう請求項,明細書 及び図面を記載していれば,自ずと機械変換テス トを満たし,米国において保護適格性の拒絶理由 を受ける可能性は低減できよう。つまり,米国 USPTO は装置クレーム及び記録媒体クレームに 対しては,上述した 2009 内部インストラクショ ン,方法クレームについては 2010 内部インスト ラクション18)を用いて審査を行うところ,日本 の審査基準に適合するよう請求項を記載していれ ば米国の審査基準にも適合する可能性が高いとい える。 広い権利範囲を狙うべく,クレーム構成要件中 のハードウェアをできるだけ少なく記載すること も一つの策略である。ただしその際米国では,2 段階アプローチにより保護適格性無しとの拒絶を 受けるリスクが生じる。拒絶理由を受けた際に, 請求項に係る各ソフトウェア処理を,ハードウェ アを用いて補正できるよう実施例中に,ソフト ウェア処理がハードウェアと協調して実行される よう書き込んでおくことが極めて重要となる。 Cybersource 事件における 154 特許は,実施 例がたった 1 頁強,図面も 4 枚にすぎず,十分な 記載がなされていなかった。このことも敗因の一 つであろう。 (注) 1)Diamond v. Chakrabarty, 447 U. S. 303, 308 (1980)2)Bilski v. Kappos, 129 S. Ct. 2735 (June 1, 2009) 3)判決の全文は連邦巡回控訴裁判所のホームページか ら閲覧することができる。判決 2011 年 8 月 16 日 (http://www.cafc.uscourts.gov/images/stories/
opinions-orders/09-1358.pdf)
4)3. A method for verifying the validity of a cred-it card transaction over the Internet compris-ing the steps of:
a)obtaining information about other transactions that have utilized an Internet address that is identified with the [ ] credit card transaction; b)constructing a map of credit card numbers based upon the other transactions and;
c)utilizing the map of credit card numbers to determine if the credit card transaction is valid. 5)In reBeauregard, 53 F.3d 1583 (Fed. Cir. 1995) 6)2. A computer readable medium containing pro-gram instructions for detecting fraud in a cred-it card transaction between a consumer and a merchant over the Internet, wherein execution of the program instructions by one or more processors of a computer system causes the one or more processors to carry out the steps of: a)obtaining credit card information relating to the transactions from the consumer; and
values of plurality of parameters, in combination with information that identifies the consumer, and that may provide an indication whether the credit card transaction is fraudulent,
wherein each value among the plurality of parameters is weighted in the verifying step according to an importance, as determined by the merchant, of that value to the credit card transaction, so as to provide the merchant with a quantifiable indication of whether the credit card transaction is fraudulent,
wherein execution of the program instructions by one or more processors of a computer system causes that one or more processors to carry out the further steps of;
[a] obtaining information about other transactions that have utilized an Internet address that is identified with the credit card transaction;
[b] constructing a map of credit card numbers based upon the other transactions; and
[c] utilizing the map of credit card numbers to determine if the credit card transaction is valid. 7)なお,USPTO における査定系再審査では本事件の
争点である保護適格性(米国特許法第101 条)は争 われていない。
8)In re Bilski, 545 F.3d 943 (Fed. Cir. 2008) (en banc)
9)Bilski v. Kappos, 130 S. Ct. 3218 (2010) 10)Gottschalk v. Benson, 409 U. S. 63, 70 (1972) 11)Parker v. Flook, 437 U. S. 584, 588?589 (1978) 12)SiRF Tech., Inc. v. Int’l Trade Comm’n, 601
F.3d 1319, 1333 (Fed. Cir. 2010) 13)http://pub.bna.com/ptcj/PTO101Guidelines Aug24.pdf http://pub.bna.com/ptcj/PTO101FlowchartAug24. pdf http://pub.bna.com/ptcj/PTO101FlowchartBilski Aug24.pdf
14)SiRF Tech., Inc. v. Int’l Trade Comm’n, 601
F.3d 1319, 1333 (Fed. Cir. 2010)
15)Research Corp. Techs. v. Microsoft Corp., 627 F.3d 859 (Fed. Cir. 2010) 16)特許実用新案審査基準第VII 部第1 章「コンピュー タ・ソフトウェア関連発明」 17)「ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源 を用いて具体的に実現されている」とは,ソフト ウェアがコンピュータに読み込まれることにより, ソフトウェアとハードウェア資源とが協働した具体 的手段によって,使用目的に応じた情報の演算又は 加工を実現することにより,使用目的に応じた特有 の情報処理装置(機械)又はその動作方法が構築さ れることをいう。 そして,上記使用目的に応じた特有の情報処理 装置(機械)又はその動作方法は「自然法則を利 用した技術的思想の創作」ということができるか ら,「ソフトウェアによる情報処理が,ハードウェ ア資源を用いて具体的に実現されている」場合に は,当該ソフトウェアは「自然法則を利用した技 術的思想の創作」である。特許実用新案審査基準 第 VII 部第 1 章「コンピュータ・ソフトウェア関連 発明」P11-P12 18)http://www.uspto.gov/patents/law/exam/bil ski_guidance_27jul2010.pdf (原稿受領日 平成 23 年 11 月 27 日)