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やその概要 さらにその後の状況などを踏まえ 日本において技能実習制度が定着してい まっている原因を考察し 今後の抜本的な改革に向けての提言としたい 第一章日本における外国人労働者政策 第一節 3つの政策日本の外国人労働者受け入れに対する政策的スタンスは 1967 年に閣議決定された 第 1 次雇用対

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2017年度 一橋大学社会学部 中北浩爾ゼミナール ゼミ論文

日本の技能実習制度は変わるのか

―韓国の雇用許可制との比較から―

社会学部3年 4114018k 伊東佐和子 目次 はじめに 第一章 日本における外国人労働者政策 第一節 3つの政策 第二節 技能実習制度の概要とその問題点 第二章 韓国における外国人労働者政策 第一節 雇用許可制導入までの変遷 第二節 雇用許可制の概要とその後 第三章 雇用許可制の日本での実現可能性 おわりに はじめに 少子高齢化による労働人口減少が懸念されている中、安倍内閣は積極的に外国人受け入 れ政策を拡大している。厚生労働省によると17 年 10 月末時点の外国人雇用状況による と、外国人労働者数は約128 万人で、前年同期と比べて 18%増加した。増加は5年連続 で、伸び幅も過去最高であった前年の19%に近い結果となった。政府は高度人材に関して は受け入れに積極的だが、いわゆる単純労働者の受け入れは認めていない。しかし外国人 実習制度が事実上の単純労働者受け入れルートになっており、現実には技能実習制度や留 学生を通じて事実上の単純労働者の流入が急増している。特に技能実習制度による労働者 の受け入れは様々な問題を生じているにも関わらず、その制定から約20 年がたった今で も根本的な改正は行われていない。そこで本稿は韓国の雇用許可制を取り上げ、日本の政 策との比較を行う。韓国は地理的条件や文化的条件が日本と似ていることから政策の比較 が容易である。さらに韓国は日本の技能実習制度と同等の制度を採用していたが、それに 代わり2003 年から雇用許可制を導入している。韓国が雇用許可制の導入にいたった背景

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やその概要、さらにその後の状況などを踏まえ、日本において技能実習制度が定着してい まっている原因を考察し、今後の抜本的な改革に向けての提言としたい。 第一章 日本における外国人労働者政策 第一節 3つの政策 日本の外国人労働者受け入れに対する政策的スタンスは1967 年に閣議決定された「第 1 次雇用対策基本計画」から現在の第9次までに常に一貫しており、高度人材は積極的に受け 入れるが、単純労働者は慎重に対処する(原則として受け入れない)、というものである。 佐野(2008)によると、単純労働者として日本で働く外国人労働者は主に3つのタイプに 分けられる。第一に日系人労働者である。1990 年の改正入国管理法によって在留資格が整 備されたことにより日系人労働者が増加し、2014 年末時点で約 22 万人となっている。彼 らは主に自動車や電機産業などの集積地域、具体的には浜松市、豊田市、群馬県太田市など に作られた日系人集住地区に集まっている。第二に留学生及び就学生である。日本の在留資 格制度により「留学」もしくは「就 学」の資格が与えられ、基本的に 所属先である大学等学校機関が ある大都市に集中して居住して いる。勉学が生活の中心である が、週に28 時間までの「生活費確 保のためのアルバイト」が認めら れており、主に都市部のサービス 業に従事している。2014 年末時点 で約 21 万人が留学生として日本 に滞在しており、そのほとんどが アルバイトに従事している といわれている。第三に研修 生及び技能実習生である。一 定要件の下で「研修1 年+技 能実習2 年」を認める現在の 制度は 93 年から始まった。 主な受け入れ先は繊維、機 械、農業、食品加工、漁業、 建設業などである。従来行っ ていた「国際貢献型」の研修 生受け入れに合わせてOJ (図表3) (図表1) (図表2)

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Tを組み合わせることで、最終的には帰国し出身国の産業振興に貢献する人材を育てるこ とを目的としている制度であり、国際貢献と労働者確保の二つの側面を併せ持つ微妙な制 度として定着している。2016 年末の時点で研修生が約 1450 名、技能実習生が約 228500 名 と、「労働者」である技能実習生の割合が研修生を大きく上回っている。なお、技能実習生 のうち約3 割にあたる約 75000 名が技能実習 2 号へ移行している(図表 1 参照)。また技 能実習のうち96.4%が団体監理型による受け入れであり、実習実施機関の 6 割以上が従業 員19 人以下の零細企業となっている。受け入れ職種は全体で 74 職種あり、機械金属関係、 建設関係、食品製造関係の順に受け入れ人数が多い(図表2 参照)。 第二節 技能実習制度の変遷とその問題点 技能実習制度の始まりは1960 年代後半まで遡る。経済の国際化に伴い多くの日本企業が 海外進出する中で、企業は現地法人や関連企業の外国人社員を日本に受け入れて技術研修 を行うようになった(宮島・鈴木、2016)。これが「研修生」の始まりである。81 年には留 学の一形態として研修のための在留資格が新設され、89 年の入管法改正に際して「研修」 という独立した在留資格が新設された。入管法上研修制度は日本の技術を途上国に移転す るという「国際貢献」であり、研修生は「労働者」として位置づけられなかった。さらに90 年の入管法改正と同年の8月の告示では、人手不足の中小企業からの要望に応える形で、従 来の「企業単独型」に加えて商工会や中小企業団体等を通して受け入れる「団体監理型」方 式が導入され、中小企業でも研修生を受け入れることが可能になった。そして93 年には 1 年間の研修終了後に、研修を 行った同じ機関において「労 働者」として技能実習を行う 制度が創設された。2000 年代 にはいって研修生の新規入国 者や技能実習への移行申請者 が急増し、違法な残業や賃金 未払い、強制貯金やパスポー トの取り上げ、不正行為隠蔽 のための強制帰国などが表出 してきた(宮島・鈴木、2016)。 このような問題がメディアに も大きく取り上げられ国会で も制度の見直しが議論される ようになった結果、2009 年に 入管法改正が行われた。同改 正では実務研修を伴わない研 (図表3) (法務省データ)

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修制度と実務研修を伴う研修・技能実習制度を分け、後者に対して在留資格「技能実習」を 新設し、受け入れ機関に対する指導・監督・支援を強化するなどの対応が行われた(図表3 参照)。さらに17 年 11 月には管理監督体制の強化と技能実習生の保護を目的に「外国人の 技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(いわゆる技能実習法)が施行 された。これにより改正された主なポイントは実習生の送り出しを希望する国との間で政 府(当局)間取り決めを順次作成すること、管理団体を許可制、実習実施者を届け出制、技 能実習計画は個々に認定制とすること、管理団体等への報告の要請や実地での検査などを 行う外国人技能実習機構(認可法人)を新設すること、通報・申告窓口と人権侵害等に対す る罰則を整備すること、「地域協議会」を設置し指導監督・連携体制を構築すること、の5 つである。さらに優良な管理団体等(法令違反がないことはもとより、技能評価試験の合格 率、指導・相談体制等について、一定の要件を満たした管理団体)に対しては、実習期間の 最大5年間の実習期間の延長、受け入れ人数枠の拡大、対象職種の拡大が認められることと なった。 このように本来の目的である「研修」の要素よりも、「労働者」としての要素の方が大き くなっているのが現状の技能実習制度である。そして本音と建前が異なることで生じる歪 みは、主に研修生の人権問題として表出し、国際的非難を浴びている。米国務省の人権取引 報告書では、技能実習制度について5 年連続で批判を受けている。2017 年 6 月発表された 最新版では、日本は人身取引撲滅のための最低基準を満たしていないが、満たす努力をして いるとして第二階層に位置するとしている。先述した2016 年に成立した技能実習法につい ては、「技能実習生を搾取から保護するために技能実習制度の監督を強化する法律」である として一定の評価を示している。一方で、技能実習制度における労働搾取を目的とする人身 取引犯罪について、「非政府組織(NGO)からの報告や申し立てにもかかわらず、政府は、 いかなる技能実習生の人身取引被害者として認知せず、また技能実習生の使用に関わった いかなる人身取引犯も人身取引犯として訴追することはなかった。」と述べ、政府の技能実 習生に対する対応に不満を示している。このように技能実習生の労働者としての人権保護 に関して、政府が十分な対応をとれていないのが現状である。 第二章 韓国における外国人労働者政策 第一節 労働許可制導入までの変遷 白井(2007)によると、韓国の外国人単純労働者受け入れ政策の過程は、政策不在の時期 (1987~1991 年)、産業研修制の時期(1991~2003 年)、雇用許可制・産業研修制並行の 時期(2003~2006 年)、雇用許可制(2007 年~)の 4 段階に分けることができるという。 ここでは同国において外国人労働者を受け入れ始めてから 2003 年に労働許可制を導入す るまでの流れをみていきたい。

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韓国では80 年代から経済発展と教育水準の向上、民主化運動の中で賃金が上昇するとと もに3D 労働(Dirty, Dangerous, Difficult)の忌避減少が始まり、特に製造業において人 手不足が顕著となった結果、外国人労働者が急増した(佐野、2010)。この時期は外国人労 働者に対する受け入れ政策がなかった当時の韓国政府は国民経済に大きな影響が出ないと 判断し、「観光客」や「親戚・知人訪問」などの形で入国した朝鮮族(中国籍で韓国内に親 族をもつ人々)を中心とする外国人が不法就労することを黙認していた(白井、2007)。し かし1991 年には人手不足に苦しむ中小企業からの要求に応えるため、「産業技術研修生制 度」が導入された。同制度は海外に投資している企業を対象に、海外の子会社で雇用した労 働者に限り最長で 12 か月まで韓国内での滞在を許可するというものである。さらに 1993 年には海外への投資を行っていない中小企業にまで対象を拡大した「産業研修制度」が導入 された。これは発展途上国への産業技術協力を名目に、3D 業種の中小企業に海外から単純 技能労働者を受け入れる制度である。同制度により大企業だけでなく中小企業も外国人労 働者を「研修生」として1年間雇用できるようになり、制度を実施した94 年には 2 万人の 産業研修生が韓国内の中小企業に雇用された。しかし実質的な労働者を「研修生」と扱うこ とは多くの問題を引き起こした。劣悪な労働環境を強いられた研修生の多くは職場から離 脱し不法就労者となり、深刻な社会問題として認識されるようになった(白井、2007)。こ れらの問題に対して韓国政府はあらゆる改善策をおこなったが、2002 年末には不法就労者 数が総外国人労働者数の 80%近くに達した。産業研修制度の弊害が限界に達しているとし て専門家や各労組から同制度の廃止と雇用許可制の導入を求める声が高まっていた(白井、 2007)。さらに不法就労者問題と外国人労働者の人権の保護の同時達成のためには、雇用許 可制の導入もやむを得ないとする世論の高まりもあり、2003 年に雇用許可制が導入された のである。 ここで改めて、雇用許可制が導入された背景について整理する。佐野(2010)によると、 韓国で雇用許可制が導入された要因として5 つが挙げられるという。1 つ目は上述した通り 産業研修制度の問題点が深刻だったということである。送り出し過程が政府ではなく民間 機関やブローカーによって担われていたため不正が蔓延し、外国人労働者が負担しなけれ ばならない費用が高額であった。さらに「研修生」として扱われた労働者は低賃金を強要さ れ、労働基準法の適用や社会福祉制度から除外されていた(白井、2007)。高額な費用負担 にも関わらず劣悪な労働環境を強いられた研修生の多くは、賃金の高い仕事を求めて事業 場を離脱して不法労働化した。2002 年には産業研修生の 5~6 割(全外国人労働者のうち 80%)が不法就労者となり、深刻な社会問題となった。2 つ目は少子高齢化による労働力不 足である。韓国の合計特殊出生率は1.22 人であり、世界最低水準となっている。同時に高 齢化と高学歴化が進む中で、中小企業が担っている3D 業種では深刻な労働力不足が起きて おり、政府は外国人労働者の活用に迫られていた。3 つ目に金大中、盧武鉉大統領による「リ ベラル」政権が2 期 10 年と長期にわたって続いたことである。これらの政権は基本的に人 権重視の政権と考えられており。外国人労働者の人権に対する配慮も以前の政権に比べて

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大きかった。さらに大統領制というシステムもそれらに対する政策を策定・実施する上で有 効に働いた。4 つ目に民主化運動時代の強力なネットワークの存在である。当時、韓国の世 論は雇用許可制の導入はやむなしという立場であったが、それは深刻な社会問題となって いた不法労働者問題に対処するためだけでなく、外国人労働者の人権を保護するという観 点からのものでもあった(白井、2007)。雇用許可制の導入に前向きな世論が政権、マスコ ミ、法曹界、市民団体におけるネットワークにより増幅され国民運動となり、政策実施につ ながっていった。最後に韓国におけるグローバル・モデル指向の増大である。97 年の通貨 危機以降、韓国ではそれまでの「日本に学べ」路線からグローバル路線への転換が起こった。 これにより貿易・資本にとどまらずヒトの移動のグローバル化に関しても、国民の意識が受 け入れ容認へと変化したのである。 第二節 雇用許可制の概要とその後 雇用許可制とは、「国内で労働者を雇用できない韓国企業が政府から雇用許可書を受給し、 合法的に外国人労働者を雇用できる制度」であり、一般雇用許可制(ベトナム、フィリピン など 16 カ国政府との間で二国間協 定を締結し、韓国政府が毎年外国人 労働者の受け入れ人数枠を決めて導 入する制度)と特例雇用許可制(中国 やCIS 諸国など 11 か国の韓国系外 国人を対象とし、総在留規模で管理) に分けられる。佐野(2017)による と、この雇用許可制は4 つの基本原 則から成る。第1 に、労働市場補完 性(韓国人優先雇用)である。単純労 働者の全面的な受け入れではなく、 求人努力を行っていてもなお国内で 労働者を雇用できない韓国企業に対 して許可が与えられる。第 2 に、短 期ローテーション(定住化防止)であ る。雇用期間を3年間に限定し、単純 技能労働者の定住化防止を図ってい る。第3 に、均等待遇(差別禁止)である。外国人も韓国人と同様に、労働三権、最低賃金、 国民年金、健康保険、雇用保険、産業災害補償保険の適用を受ける。第4 に、外国人労働者 受け入れプロセスの透明化である。産業研修生制度で不正が横行した反省から、送り出し国 との間で二国間協定を締結し、雇用労働部が主管して韓国語教育から帰国までの全プロセ スを運営している。 参考:韓国の一般雇用許可制の手続き

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それでは2003 年に制定された雇用許可制はどのように評価されているのだろうか。上述 した4 大原則が達成されているかという視点で佐野(2017)が分析をしている。それによ ると第1 の「労働補完性の原則」では、労働者は労働力不足率が高い 3K 業種の製造業中心 に就労しているため、韓国人労働者との競争は少なく、補完的役割を果たしているという。 しかし特例雇用許可制では製造業では補完的だが、サービス業では労働市場の代替現象が 発生しているという。次に「短期ローテーションの原則」である。佐野によると、雇用許可 制が導入されたことによって不法滞在者、比率とも大幅に改善した(2017 年現在での在留 外国人を分母とした不法滞在比率は2002 年の 49%から 11%まで低下している)。しかし近 年一般雇用許可制で入国した者が、在留期間満了に伴い不法労働者化しており、その意味で 短期ローテーションの原則が揺らぎを見せているという。第 3 に「均等待遇の原則」であ る。社会保険への高い加入率や最低賃金の保障、賃金未払いの激減などからみると、外国人 労働者に対する人権被害は大幅に減少した。しかし現在でも人権侵害や差別が存在し、各人 権団体や国際団体から非難を浴びているという。第4 に「受け入れプロセス透明化の原則」 である。佐野は雇用許可制で導入された政府主導型のシームレスな受け入れプロセスの構 築により、プロセスの透明化と不正の減少に貢献しているという。外国人労働者の 7 割近 くが送り出しプロセスに対して肯定的に評価しており、さらに平均送り出し費用も2001 年 の3500 ドルから 2011 年には 927 ドルに激減しているという。 以上基本原則の観点から雇用許可制をみると、産業研修生時代と比較して、状況は大幅に 改善していると評価することができる。しかし短期ローテーションや均等待遇の原則は完 璧に運用されているとは言えず、政策自体の問題や治安悪化に対する懸念など、新たな問題 も引き起こしているという(佐野、2017)。 第三章 雇用許可制の日本での実現可能性 上述した通り韓国の雇用許可制は産業研修生制度のすべての問題点を解決したとはいえ ず、いまだ発展途上の制度である。しかし雇用許可制の導入によりあらゆる点が改善された のは事実であり、国際的な評価も高い。日本が雇用許可制と同等の制度を導入するメリット はおおいにあると考えられる。それでは具体的に日本で雇用許可制を導入するにあたり必 要となる要素、足りていない要素は何なのか。第二章でふれた韓国における雇用許可制導入 の5つの要因にあてはめて考えていきたい。 1 つ目は技能実習制度がかかえる問題である。韓国では劣悪な労働環境におかれた研修生 が逃亡して不法就労者となり、その増加が深刻な社会問題となった。それでは日本ではどう だろうか。2016 年に技能実習法が制定され、今後技能実習生の待遇は改善されていくこと が予想される。しかし米国務省の人身取引報告書にあるように、日本政府による技能実習生 に対する対応は国際的非難を浴びている。そして技能実習生の不法就労化であるが、法務省 によると2017 年1月時点で不法残留者総数は約 6 万 5000 人であり、そのうち技能実習生

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の在留資格を保持しているのは約10%にあたる。前年度と比較して 10.4 ポイント増加して おり、5 年連続の増加となってはいるものの、全体の 1 割にとどまっている。全外国人労働 者の約8 割が「研修生」の在留資格保持者であった韓国と比べると、圧倒的に低い割合であ る。以上より、日本では韓国と同様に技能実習生の人権問題は深刻であるものの、不法就労 者はそれほど大きくなく、深刻な社会問題としては認識されていないといえる。 2 つ目の少子高齢化問題である。日本が少子高齢社会であるというのはよく言われる話で あるが、今後労働人口は減っていくのであろうか。国立社会保障・人口問題研究所が2017 年に発表した「日本の将来推定人口」によると、日本の人口は年少人口と生産年齢人口が減 少していくなかで、65 歳以上の老年人口は当面増加し続ける見通しとなった。また、人口 占める65 歳以上人口の割合は 2015 年の 26.6%から 2065 年には 38.4%となる見通しが示 された。さらに2016 年の総務省「労働調査年報」によると、2065 年の労働力人口は 3946 万人となり、2016 年の 6648 万人からおよそ 4 割減少する見通しであるという。みずほ総 合研究所によると、非労働人口のうち、就職希望者全員が労働人口となった場合、2065 年 の労働職率は49.9 から 52.7%まで増加するという。しかし就職希望者の非求職理由のうち、 健康上の理由と出産・育児を除くと「適当な仕事がありそうにない」がもっとも多く、いわ ゆる3Kの仕事を彼らが進んで行うとは考えづらい。今後も少子高齢化が進み労働力人口 が減少していくと予想されているなかで、いわゆる3K 分野での外国人労働者の活用は不可 欠になっていくだろう。以上より、日本の少子高齢化並びに労働力人口の減少は韓国と同様 に深刻であるといえる。 3 つ目に外国人労働者に対する政権の立場である。韓国では人権重視の「リベラル」政権 が長期にわたって続いていた。それでは日本において長期政権を守る安倍政権は外国人労 働者政策に対しどのような立場を表明しているのであろうか。明石(2016)によると、安倍 政権の外国人政策の特徴は以下の5 つにまとめられるという。1 つ目は国家戦略特区の積極 的利用である。規制緩和を象徴するこの地区を活用することで家事支援人材、創業人材、そ してクールジャパン人材の受け入れを促進している。昨今では農業労働者の特区での受け 入れ検討課題としてあがっているという。2 つ目は「高度人材」の受け入れ促進である。2014 年の入管法改正により「高度専門職」の在留資格が新設され、安倍首相は日本版の「高度外 国人材グリーンカード」といった構想を発表しているなど、高度人材の獲得に向けた動きは 非常に活発であるという。3 つ目は労働集約型の産業・職種における働き手の促進である。 東京でのオリンピック開催が決まった2013 年の翌年には「外国人建設就労者受け入れ事業 に関する告示」が出され、「緊急かつ時限的な措置として即戦力となる外国人建設就労者の 受け入れ」が進められている。さらに、政府は技能実習制度の拡大運用、そして日系人の受 け入れ枠拡大も実行している。国内の人手不足解消の手段として外国人の受け入れを是と している点で、かつての外国人政策と大きくその趣旨を異にするスタンスになっていると いう。4 つ目は介護労働者の受け入れに対する前向きな姿勢である。そして最後に、移民政 策の否定である。現政権の移民政策についての見解を示すのが、2016 年に自民党の「労働

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力確保に関する特命委員会」が発表した「『共生の時代』に向けた外国人労働者受け入れの 基本的考え方」である。同文書では人口減少下の日本で人手不足に陥っている介護、農業、 旅館等において、必要に応じて外国人の受け入れ条件を整えていくという積極的な外国人 労働者の活用を打ち出している一方、「移民政策とは誤解されないように」という文言が加 えられている。政府の定義する移民とは「入国の時点でいわゆる永住権を有する者」がそれ であり、現時点では入国時において外国人が永住許可を付与される可能性はない。このよう に外国人を労働者として受け入れながら、他方で移民政策を自国の政策方針としては否定 するという同政権の公式見解は、移民受け入れに対する拒絶感が強いとされる日本の「国民」 への配慮として示されているという。しかし日本で合法的に暮らす外国人の半数以上が法 的に定住・永住を認められている「移民」であり、生活者視点に親和的な「多文化共生」と いう概念も定着してきている中、政府の「国民」への配慮は現実とかけ離れているとする意 見もある。いずれにしよ、安倍政権の外国人政策は、高度人材を例外として、就労を主たる 活動とする外国人を、一時的な労働力の提供者として割り切っているといえるであろう。こ れらを踏まえた上で明石は安倍政権の外国人政策を「移民の受け入れは形式上これを認め ないが、外国人の移民化を実際は防げない」という状況を作り出しているという。そして外 国人労働者や移民の受け入れを「現代の代表的な政策課題のひとつである」とした上で、今 後も「当該政策の方向性と内容が十分な政治的支持と社会的合意を取り付けられるか」がカ ギになってくるとしている。以上より、韓国のリベラル政権ほど表向きではないものの、単 純労働者の受け入れ拡大、そして彼らの日本定住はやむを得ないという日本政府の姿勢が 感じられる。 最後に世論の意見である。グローバル・モデル指向が増大している韓国では外国人労働者 に対して比較的寛容な姿勢を見せていた。それでは日本の世論はどうだろうか。法務省入国 管理局の発表によると2017 年時点で日本に定住している外国人の数は約 238 万人となり、 過去最高となった。これは日本の総人口に占める割合の1.8%であるが、他の OECD 諸国の 割合と比べると非常に少ない。またNHK が 2017 年に行った調査によると、自国に定住す る目的で来訪する外国人が人々から仕事を奪っていると思うかどうかとたずねた結果、そ う思うと答えた日本人は15%にとどまり、調査を行った国の中で 4 番目に少なかった。次 に外国人によって自国の文化が損なわれていると思うかという質問について、そう思うと 答えた人は 16%であった。3 つ目に自国に合法的に定住する外国人が同じ権利を持つべき かという質問について、そう思うと答えた人は56%と半数を超え、各国の中で 3 番目に多 かった。最後に定住外国人が減った方がいいかという質問に対して、そう思うと答えた人は 20%であった。以上のデータを見ると、日本人は定住外国人に対して寛容なイメージを受け る。一方で、外国人に寛容な日本人が減っていることを示唆するデータもある。定住外国人 が日本人と同じ福祉や医療を受けることに賛成と答えた人は2004 年の 84%から 2014 年に は 78%に減少している。以上より日本では大きな変化はないものの、韓国同様に定住外国 人に対して前向きな姿勢になりつつあるといえる。

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おわりに 以上韓国の雇用許可制をとりあげ、日本におけるその実現可能性について考察をした。韓 国が雇用許可制を導入するにいたった 5 つの要因のうち、その多くは日本でも既に発生し ているといえる。足りない要素を上げるとすれば、それは「技能実習制度の深刻な社会問題 化」と「外国人労働者の人権保護に対する世論の支持とそれを増幅させるネットワークの存 在」といえるだろう。制度が変わるために必要なことは、物事を良い方向に「変えよう」と いう人々の「意志」と、「変えざるを得ない」という必然性である。韓国では研修生の不法 就労化が深刻な社会問題となったため、制度の変革が絶対的に必要であった。さらにそれに 外国人労働者の人権保護という観点が加わり、雇用許可制が導入されたのであろう。対して、 日本にはその「必然性」も「意志」もないのではないか。本稿では外国人労働者、特に技能 実習生に対して世論は比較的寛容なイメージを抱いていると述べた。しかし、それはあくま で外国人労働者が深刻な社会問題なっていないからである。日本国内で技能実習生のおか れた劣悪な労働環境や不十分な制度に対して、国民がどれほど関心を持っているのだろう か。外国人労働者の人権保護のための市民運動がどれほど行われているのかなどは今回分 析できなかったが、筆者の実感としてそのような世論の動きを感じることはない。むしろ、 技能実習生による犯罪や逃亡、不法滞在など、彼らの負の側面ばかりをメディアが取り上げ、 国民の不信感をあおろうとしている印象を受ける。今後政府が外国人労働者の受け入れを 拡大しようとしている以上、彼らの労働条件の改善と正当な権利付与は不可欠である。政府 の政策改善を願うだけでなく、我々国民が現状に対して問題意識を持ち、同等の権利を持つ 労働者として外国人労働者を認識していくことが必要である。 参考文献 明石純一「安倍政権の外国人政策」『大原社会問題研究所雑誌』No700、2017 年、12-19 頁。 佐野孝治「韓国の『雇用許可制』と外国人労働者の現況」『福島大学地域創造』第26 巻、第 1 号、2014 年、7859-7878 頁。 佐野孝治「韓国の『雇用許可制』にみる日本へのインプリケーション」『日本政策金融公庫 論集』第36 号、2017 年、77-90 頁。 佐野哲(2008)「日本とアジアにおける外国人単純労働者の受け入れ政策」『経営志林』第 45 巻、3 号、2008 年、37-52 頁。 白井京「韓国の外国人労働政策と関連法制」『外国の立法231』2007 年、31-50 頁。 堀江奈保子「少子高齢化で労働力人口は4 割減」みずほ総合研究所、2017 年 5 月 31 日、 https://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/insight/pl170531.pdf、2018 年 2 月28日参照 宮橋強、鈴木恵理子『外国人労働者受け入れを問う』岩波書店、2016 年 村田ひろ子「国への愛着と対外国人意識の関係」『放送研究と調査』2017 年、58-70 頁。

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「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(平成29 年 10 月末現在)」厚生労働省、2018 年 1 月26 日、http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000192073.html、2018 年 2 月 28日参 照。 「技能実習制度の現状」法務省、 http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11800000-Shokugyounouryokukaihatsukyoku/0000174642.pdf、2018 年 2 月 28日参照。 「技能実習法による新しい技能実習制度について」法務省、 http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri05_00014.html、 2018 年 2 月 28 日参照。 「本邦における不法在留者数について(平成29 年 1 月 1 日現在)」法務省、2017 年 3 月 3 日、http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri04_00066.html、 2018 年 2 月 28 日参照。

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