とコンピテンシー : OECD及び文部科学省の視点か ら見た小学校の教育実践
著者 林 尚示, 元 笑予, 下島 泰子
雑誌名 東京学芸大学紀要. 総合教育科学系
巻 72
ページ 75‑84
発行年 2021‑02‑26
その他の言語のタイ トル
Educational Practices in Elementary Schools
from the Perspective of the OECD and the MEXT
URL http://hdl.handle.net/2309/166798
* 1 東京学芸大学 教育学講座 学校教育学分野(184‑8501 東京都小金井市貫井北町 4‑1‑1)
* 2 東京学芸大学 次世代教育研究推進機構(184‑8501 東京都小金井市貫井北町 4‑1‑1)
特別活動と総合的な学習の時間で育成される Agency とコンピテンシー
―― OECD 及び文部科学省の視点から見た小学校の教育実践 ――
林 尚示
* 1・元 笑予
* 2・下島 泰子
* 2学校教育学分野
(2020 年 9 月 29 日受理)
1.はじめに
本研究は, 特別活動と総合的な学習の時間で育成さ れる OECD Education 2030 の Agency とコンピテンシー を明らかにすることを目的としている。特別活動と総 合的な学習の時間と OECD との関係については,東京 学芸大学次世代教育研究推進機構で重点的に研究が進 められている。特に,筆者らは 2018 年以降,関連す る複数の論文を発表してきた。そのため,今回は,こ れまでに筆者らが公表してきた論文を再検討して,組 織研究としての現在の到達点を明らかにし,今後に向 けて課題を見出すことに取り組みたい。
再分析のためのリサーチクエスチョンは,「特別活 動で OECD Education 2030 の Agency とコンピテンシー は育成できるか。」である。この問いに答えるために,
「特別活動ではどのような Agencyとコンピテンシーが 育成できるか。」「特別活動と総合的な学習の時間の融 合活動でも Agency とコンピテンシーが育成できる か。」というサブクエスチョンを設定した。
The OECD Learning Compass 2030 では,コンピテン シーは「知識や技能の習得だけではなく,その活用を意 味している。それは, 複雑な要求に対応するための知識,
スキル,態度,価値を含む。」 ( The concept of competency implies more than just the acquisition of knowledge and skills; it involves the mobilization of knowledge, skills, attitudes and values to meet complex demands.)(OECD, 2018 p.5 )と説明している。また, Agency は,「世界に 参加する責任があり,そうすることで,人々,出来事,
状況をよりよいものにするために影響を与えることが
できるという感覚を意味している」( Agency implies a sense of responsibility to participate in the world and, in so doing, to influence people, events and circumstances for the better. )( OECD, 2018 p.4 ),と説明している。つまり,
コンピテンシーは習得と活用を含み, Agency は主体的 な感覚のことである。
再分析の対象とするのは次の論文である。「小学校 学級活動の授業を評価する方法の開発に関する研究─
特別活動の評価語分析を活用して─」 (林,杉森,布施,
元,2018), Transformative Competencies to be Nurtured in Japanese Elementary School Classroom Activities:
Analysis by the OECD Learning Compass 2030, ( Hayashi, Sugimori, Fuse & Yuan,2019),「『東京学芸大学版特別 活動評価スタンダード&シート』の教育実践への適用
─小学校の児童会活動,クラブ活動,学校行事を通し て」(林,杉森,布施,元,2019),Agency Development and Evaluation Scenes of the ‘Unit of Inquiry Learning,’ an Integrated Subject of ‘Period for Inquiry-Based Cross- Disciplinary Study’ and ‘Extracurricular Activities’: A Case Study in the ‘Unit of Inquiry Learning’ of the Tokyo Gakugei University Oizumi Elementary School, (Hayashi, Sugimori, Fuse, Yuan & Shimojima ,2020) , 「小学校の総 合的な学習の時間と特別活動での主体的に学習に取り 組む態度の育成─ OECD による生徒エージェンシー と SDGs との関連を模索する授業分析─」(林,杉森,
布施,元,下島,2020),の 6 論文である。
特別活動も総合的な学習の時間も日本の教育課程政
策で特徴的なものである。それぞれの論文は,主とし
て特別活動や総合的な学習の時間を OECD の視点から
東京学芸大学紀要 総合教育科学系 72: 75 ‑ 84,2021.
検討し,教育内容として世界共通の価値を見出そうと して検討を深めてきた。
なお,研究対象としている特別活動と総合的な学習 の時間は,日本の小学校から高等学校までの段階で実 施される教育課程の必修の内容である。高等学校につ いては,今回の教育課程改革によって,総合的な学習 の時間から総合的な探究の時間に名称変更され,探究 活動の重要性が改めて指摘された。今回の一連の研究 では,小学校段階に焦点化している。小学校段階に焦 点化したのは,日本の義務教育の初めの段階であり,
その後の児童の成長や学習に大きく影響を及ぼすと考 えたからである。日本の小学校の特別活動は,学級活 動,児童会活動,クラブ活動,学校行事で構成される。
この中で,学級担任の教師が週 1 時間,担当する学級 で実施する学級活動を中心にして検討した。その理由 は,学級活動については教師が学習指導案を作成し,
目標や内容を事前に詳細に検討するためである。対象 とする小学校は,東京学芸大学の附属小学校や,東京 都内の地理的にも平均的な多摩地域の公立小学校を選 定している。
2.文部科学省の教育政策の視点からの検討
2.1 文部科学省の学習指導要領
学習指導要領とは,文部科学省が告示する教育課程 の基準である。初等教育と中等教育についてのみ存在 する。近年では,2017 年と 2018 年に改訂された。2017 年の改訂は小学校学習指導要領と中学校学習指導要領,
2018 年の改訂は高等学校学習指導要領である。今回 の改訂のポイントは,主体的・対話的で深い学びを実 現して知識の理解の質を高めて資質・能力を育くもう としたことである。教育内容の改善事項としては,特 別活動では,自然の中での集団宿泊体験活動や職場体 験の重視がなされている。また,特別活動では,学級 経営,生徒指導,キャリア教育の充実について明記さ れている。
特別活動における「主体的・対話的で深い学び」に ついては,「主体的な学び」を,「学ぶことに興味・関 心をもち,学校生活に起因する諸課題の改善・解決や キャリア形成 の方向性と自己との関連を明確にしなが ら, 見通し をもって粘り強く 取り組み ,自己の活動を 振り返り ながら改善・解消に励むなど,活動の意義を 理解した取組」(文部科学省,2017 p.22)とした。こ こからは, OECD の Well-being に向かうキャリアの視 点や,Anticipation-Action-Reflectionによる AAR サイク ルモデルとの関連が指摘できる。「対話的な学び」を,
「 児童相互の協働,教職員や地域の人との対話 ,先哲 の考え方や資料等を手掛かりに考えたり話し合ったり することを通して,自己の考え方を 協働的 に広げ深め ていくこと」(文部科学省,2017 p.23)とした。なお,
イタリックは執筆者による。ここからは, OECD の
Co-agency とのかかわりが指摘できる。「深い学び」は,
「学びの過程の中で,各教科等の特質に応じた『見方・
考え方』を働かせながら,知識を相互に関連付けてよ り深く理解したり,情報を精査して考えを形成したり,
新たな課題を見いだして解決策を考えたり,思いや考 えを基に創造したりすることで,学んだことを深める こと」(文部科学省,2017 p.23)とした。この部分は,
OECD との関連よりも日本の教育課程改革の独自性が 指摘できる。
教育内容の改善事項としては,特別活動では,自然 の中での集団宿泊活動や職場体験の重視がなされてい る。なお,職場体験は主として中学校で実施される。
小学校における自然の中での集団宿泊活動は,これま でどおり,学校行事の中で実施される。集団宿泊活動 については,「自己の役割や 責任を果たして 生活する こと」(文部科学省,2017 p.38)が期待されている。
この部分は,OECDがトランスフォーマティブコンピ テンシー( transformative competencies )として示して いる 3 つのうち, taking responsibility と重なる。集団 宿泊活動は,具体的には,学校行事の 5 つの内容のう ち, 4 番目の「遠足・集団宿泊的行事」の内容となっ ている。具体的な活動としては,遠足,修学旅行,野 外活動,集団宿泊活動などが考えられている。
特別活動では,学級経営の充実については,学級活 動の 3 つの内容のうち(1)の「学級や学校における 生活づくりへの参画」が,日々の学級経営の充実と深 くかかわる活動である。学級活動の 3 つの内容のうち
(2)の「日常の生活や学習への適応と自己の成長及び 健康安全」は特に生徒指導との関連を図ることが重要 とされている。(文部科学省,2017 p.53)
そして学級活動の 3 つの内容のうち(3)の「一人 一人のキャリア形成と自己実現」については,キャリ ア教育の中のキャリア形成が意識されている。つまり,
学級活動は,学級経営,生徒指導,キャリア教育の時 間としての特徴を持っている。
2.2 特別活動の評価の観点
特別活動の評価の観点については, 文部科学省(2019)
が教師のために学習評価の在り方ハンドブックを公表
している。そこでは,次のように例示されている。例
示されているのは,知識・技能,思考・判断・表現,
態度の 3 観点による評価である。 よりよい生活,より よくしようとする ,の部分に OECD のトランスフォー マティブコンピテンシーの 3 つのうち新たな価値を創 造する力(creating new value)との関連が見られる。
集団や社会の形成者 ,の部分に OECD の Co-agency との 関連が見られる。 主体的に ,の部分に OECDの Agency との関連が見られる。
図 1 特別活動の記録の例の記入例
(国立教育政策研究所,2019)
ここまでで,特別活動では Agency や Co-agency との 関連があること,3 つある OECDのトランスフォーマ ティブコンピテンシーの 2 つとの関連があることなど がわかった。なお,トランスフォーマティブコンピテ ンシーの対立とジレンマに対処する力( reconciling tensions & dilemmas )については,文部科学省の今回 の学習指導要領には直接的には含まれないOECD 独自 のコンピテンシーである。
この傾向は,文部科学省(2020)の『「指導と評価 の一体化」のための学習評価に関する参考資料【小学 校特別活動】』でも共通である。文部科学省(2020)
では「自らの学習を調整」という自己調整学習(self-
regulated learning )の考え方は導入されているものの,
緊張とジレンマへの対処としての調整力については言 及が明確ではない。
2.3 文部科学省の指導資料
文部科学省国立教育政策研究所教育課程研究セン ターでは,特別活動の指導資料,『みんなで,よりよい 学級・学校生活をつくる特別活動(小学校編)』(文部 科学省,2018)を刊行している。 みんなで ,の部分が
OECD の Co-agency とかかわる部分である。そして, よ
りよい学級・学校生活をつくる ,の部分が,OECD の トランスフォーマティブコンピテンシーの新たな価値 を創造する力というコンピテンシーとかかわる部分で ある。 みんなで, については,特別活動を通して,「 み んなで 一つのことに取り組んで,一人では味わえない 喜びを知った」などより, 「児童一人一人が自分の成長 を実感できる」(文部科学省,2018 p.5)としている。
このように,特別活動では, 集団や社会の形成者 とし
ての Co-agency が育成され, よりよく 生きる力を獲得
するといった価値の創造が意図されている。特に 3 つ ある学級活動の内容の(1)では, 「 みんなと 一緒になっ て物事を解決していくことができる学級」を目指して 学級経営の充実を図ることが, よりよい 集団の成長に 結びつくとしている。このように文部科学省の指導資 料みると,文部科学省は特別活動を通して, よりよい という表現を活用して,Agency やCo-agency を生かし た価値の創造を目指していることが明らかとなる。
2.4 これまでの研究との対応
筆者らのこれまでの研究は,3 年にわたり 5 本の論 文と図書の 1 章分として刊行してきた。それらをAgency,
Co-agency ,価値の創造,責任感の育成の視点から再
検討する。
(林 尚示)
3.研究実践の再分析
3.1 「東京学芸大学版特別活動評価スタンダード
&シート」の分析
新学習指導要領で育成が目指されている資質・能力 を特別活動の評価に活用するための評価規準例の作成 のために,中央教育審議会の資料を分析,細分化して,
「東京学芸大学版特別活動評価スタンダード」(以下,
TGU 特活スタンダード)を作成した(表 1 )。具体的 には,初めに特別活動において育成を目指す資質・能 力(知識・技能,思考力・判断力・表現力等,学びに 向かう力・人間性等)を 3 つの視点(人間関係形成,
社会参画,自己実現)に分け,それらをさらに,中央
表 1 東京学芸大学版特別活動評価スタンダード 資質・
能力別 視点別 教員の観察評価の規準
知識・
技能
人間関係 形成
他者と協働する意義がわかる。
他者と協働する方法がわかる。
社会参画 集団活動に参画する意義がわかる。
集団活動に参画する方法がわかる。
自己実現 自己の課題を発見し改善する意義がわかる。
自己の課題を発見し改善する方法がわかる。
思考力・
判断力・
表現力等
人間関係 形成
互いのよさを活かす考え方ができる。
互いに認め合うことができる。
社会参画 集団での合意形成に参加できる。
問題解決に主体的に取り組むことができる。
自己実現 自己の生活の課題を見出すことができる。
自己の生活の課題を解決することができる。
学びに 向かう力 人間性等
人間関係 形成
人間関係をよりよく構築しようとしている。
自主的・実践的に他者と関わろうとしている。
社会参画 集団生活をよりよく形成しようとしている。
集団での学びに参画しようとしている。
自己実現
自己の生き方についての考え方を深めようと している。
自己の実現を図ろうとしている。
林,他 : 特別活動と総合的な学習の時間で育成される Agency とコンピテンシー
教育審議会資料の吟味を通じて,教員の評価規準とし て 2 つの規準に区分した。例えば,知識・技能の,人 間関係形成の視点については,「他者と協働する意義 がわかる。」「他者と協働する方法がわかる。」という 規準にしている。
このように,3 つの資質・能力,3 つの視点,2 つ の規準からなる,合計 18 の評価規準を作成した。なお,
「スタンダード(標準, standard )」という用語には,
教員による相互運用のためのガイドラインという意味 をこめている。ここでは,知識・技能,思考・判断・
表現,学びに向かう力・人間性等の 3 観点による評価 である。自己実現の「自己の生き方についての考え方 を深めようとしている。」の部分に OECD のトランス フォーマティブコンピテンシーの 3 つのうち新たな価 値を創造する力( creating new value )との関連が見ら れる。「自己の実現を図ろうとしている。」の部分に
OECDの Agencyとの関連が見られる。
「TGU 特活スタンダード」をもとに,具体的な授業 を分析し評価するための「TGU 特活シート」を作成 した。これは,文部科学省の提示する特別活動で育成 すべき 3 つの資質・能力別に,時系列で子どもたちの 様子や授業の特徴をとらえることができ,さらに,そ れを人間関係形成,社会参画,自己実現の 3 つの視点 からも分類できるものである。また,授業場面の写真 又は映像を掲載できるスペースや,授業場面のトラン スクリプトを投入できるスペースも作っている。
3.2 八王子市立弐分方小学校の研究実践
2016 年 12 月から 2018 年 3 月まで,東京都の八王子 市立弐分方小学校で特別活動の実践映像を収録した。
学級活動,児童会活動,クラブ活動,学校行事全 16 活動を「TGU 特活スタンダード&シート」使用して,
分析した。全 16 の活動は「小学校学習指導要領(平 成 29 年告示)」の学級活動(1)の 2 活動,学級活動(2)
の 2 活動,学級活動(3)の 1 活動,児童会活動(1)の 3 活動,児童会活動(3)の 1 活動,クラブ活動(1)の 3 活動,クラブ活動(2)の 1 活動,学校行事(1)儀式 的行事の 2 活動,学校行事(4)遠足・集団宿泊的行事 の 1 活動である。
( 1 )学校行事(4)遠足・集団宿泊的行事の分析 図 2 は,学校行事(4)遠足・集団宿泊的行事の検証 結果の例である。この活動は,全校遠足であり,学校 近郊の公園へ徒歩で出掛け,縦割り班でのゲーム・外 遊びを行う内容であった。学校に帰着後には,縦割り 班ごとに振り返りの時間を設けている。場面 1 は,昼
食の時間である。これは集団活動に関わることを意識 しており,「TGU 特活スタンダード」の「集団活動に 参画する意義がわかる。」に対応するとした。場面 2 で は,学校に帰着直後の振り返りである。これは自己の 課題を発見し改善する意義をふまえて,集団生活をよ りよく構築しようとしている発言と見て取れ,「TGU 特活スタンダード」の「自己の生活の課題を見出すこ とができる。」, 「集団生活をよりよく形成しようとして いる。」に対応するとした。この部分は OECD のトラン スフォーマティブコンピテンシーの 3 つのうち新たな 価値を創造する力( creating new value )が見られる。よ りよいという表現を活用して,Agency や Co-agencyの 育成であると考えられる。
図 2 学校行事(4)遠足・集団宿泊的行事の検証
( 2 )学級活動(3) 「最高学年としての意識」の分析 学級活動(3) 「最高学年としての意識」 6 年生の授 業では,対立やジレンマに対処する力の場面は 1 箇所 である。これは Actionの段階である。
表 2 学級活動(3)「最高学年としての意識」6 年生の検証
AAR Photo Transcript V R T
Action
先生:どのぐらい注意 した。ああ,多いね。
児童 A:いつも言って るようにさ。
児童 B:追い越して いっちゃった。
●
Reflection
先生:残り約 1 カ月の 中でできることを,
今日の昼休みから…
できるでしょう,掃 除については。縦割 りは,来週の水曜か らもう準備ができる よね。運動推進者も 今日の昼からまたや らないといけないし ね。
● ●
グループディスカッションのときに,意見を話す場 面である。複数の意見をまとめたり,どちらも決めか ねている状態を解消したりする場面である。これは前 述のように,特別活動では,集団や社会の形成者とし
ての Co-agency が育成され,よりよく生きる力を獲得
するといった価値の創造が意図されていて,Agency の育成であると考えられる。
3.3 東京学芸大学附属大泉小学校の研究実践 東京学芸大学附属大泉小学校の総合的な学習の時間 と特別活動の融合領域「探究科」の 6 事例を分析した。
( 1 )「韓国学校交流」探究活動の分析
「韓国学校交流」(表 3 )の活動の中では,体育館で の開会の挨拶と交流では,あいさつの後で教師に指示 されることなく自ら紹介したいことを発表しているた め,総合的な学習の時間の「主体的」に相当するもの とした。
表 3 「韓国学校交流」(2 年)の分析シート
番 号
「韓国学校交流」
( 2 年)
場面説明
生徒エージェンシー 総合的な
学習の時間 特別活動
主体的 探究協働 互いのよさ 社会参画 役割責任 協働実践 自己実現
1 体育館:開会の挨拶と交流 ● ● ●
2 校庭:日本の伝統の遊び(凧 揚げ,羽根つき,けん玉等)
● ●
3 教室:日本文化紹介(お正 月,節分,浴衣着付け等)
● ● ●
4
体育館:日本の室内ゲーム
(折り紙,百人一首,こま回 し,すごろく等)
● ●
この部分は Agency の育成がみえていると考えられ る。また,交流では役割分担がなされ,グループで共 同して交流がなされているため,特別活動の「役割責 任」「協働実践」に相当している。この部分は集団や社 会の形成者としての Co-agencyの育成がみえていると 考えられる。さらに,トランスフォーマティブコンピテ ンシーの責任ある行動をとる力( taking responsibility ) の育成であると考えられる。
( 2 )「自分の生活と水との関わりを考えよう」探究活 動の分析
表 4 は,4 年生の「自分の生活と水との関わりを考 えよう」の授業である。この授業では,前時までに児 童が生活における水との関わり(飲料水の安全や生活 用水の量や使い方等)について,各自で調べ学習を 行っている。
分析対象とした本時は,それらの結果をグループ学 習によって互いに発表し合う時間である。この授業か らは,発表のよい点を具体的に指摘している場面を総
合的な学習の時間の評価要素のうち「互いのよさを生 かす」要素と対応する活動として抽出した。また,特 別活動の評価要素として,グループ学習や,授業参観 者との意見交換場面を「多様な他者と協働して実践し ようとしている」要素と対応する活動として抽出した。
この部分は Agency やCo-agency の育成であると考えら れる。また, OECD のトランスフォーマティブコンピ テンシーの対立とジレンマに対処する力( reconciling tensions & dilemmas)の育成であると考えられる。
(元 笑予)
4.OECD の Education 2030 プロジェクトの 視点からの検討
東京学芸大学・次世代教育研究推進機構は 2015 年 から文部科学省機能強化経費の援助を受け,「小中学 校の教科等の授業におけるコンピテンシー(資質・能 力)の育成とその評価」に関するプロジェクトに取り 組んできた。プロジェクトは 2021 年 3 月に終了する。
2015 年度から 2017 年度までは「 OECD との共同によ る次世代対応型指導モデルの研究開発」,2018 年度か ら 2020 年度までは「OECDとの協働による次世代型コ ンピテンシー育成のための授業・評価方法開発とその 国内外への発信」の活動に関わっている。研究の枠組 みは OECD による「 Education 2030:教育とスキルの未
表 4 Analysis sheet for Let s deepen one s thoughtsand communicate them with others (4th grade)
“Let’s deepen one’s thoughts and communicate them with others” (4th grade)
Scene Explanation
PICS EA
Independent Inquiry collaboration Good qualities Social participation Roles and responsibilities Collaboration practice Self-realization
−1 1
Announcing aggressively in a group what is to be explored on their own
●
−1 2
Pointing out strong points of other group members’
presentations
●
−1 3
Introducing what has been explored to class attendees
(various others) and answering questions
●
林,他 : 特別活動と総合的な学習の時間で育成される Agency とコンピテンシー
来」事業,もう一つは,「文部科学省の新学習指導要領 による資質・能力の枠組みとその育成」である。
OECD Education 2030 の OECD ラーニング・コンパ ス(学びの羅針盤)2030,(以下ラーニング・コンパ ス)は「教育の未来に向けての望ましい未来像を描い た,進化し続ける学習の枠組み」であり,「個人の Well-being と集団(社会)のWell-being に向けた方向 性を示している」と定義されている。更に「生徒は
Well-being への道筋を見いだすためにラーニング・コ
ンパスを用いることができる」と説明されている。
東京学芸大学附属大泉小学校の「探究科」の実践に おいては OECDのBetter Life Index(以下 BLI)と国連 の提唱する SDGs を Well-being の要因として取り上げ,
Agency 及びコンピテンシー育成をみとる方法との関
連を検討した。 BLI と SDGS のそれぞれの項目を以下 に示す。
BLI においては Well-being の 11 の要因を示し,1.仕 事,2.所得,3.住居(経済的要因)4.ワーク・ライ フ・バランス,5.生活の安全,6.主観的幸福,7.健 康状態,8.市民参加,9.環境の質,10.教育,11.コ ミュニティ(生活の質に影響を与える要因)が含まれ るという(OECD Better Life Index, 2018)。
SDGs において Well-being の 11 の項目をまとめると 以下のようになる。1.貧困撲滅,2.飢餓撲滅,3.健 康・福祉,4.教育,5.ジェンダー平等,6.水と衛生,
7.持続可能なエネルギー,8.経済・雇用推進,9.イ ンフラ整備,10.国家間不平等是正,11.都市の安全・
街づくり,12.持続可能な消費と生産,13.気候変動,
14.海洋保全,15.森林保護・生物多様性,16.包括的 な社会,17.持続可能な開発へ向けたグローバル・
パートナーシップ。
BLI とSDGs が目指しているのは個人と社会のWell-
being であるが,どちらかといえば BLI では生活の質
に関わる個人の Well-being , SDGs は環境保全,貧困 撲滅,持続可能性,格差是正のような社会のWell-
being の視点が強調されていると見て取れる。共通項
目としては以下の通りである。
総合的な学習の時間と特別活動が融合された「探究 科」の授業において,総合的な学習の時間と特別活動 における主体的な学習態度の形成とBLI の関連につい て授業分析した。総合的な学習の時間における「主体 的」「互いのよさをいかす」「協働探究」「社会参画」,
特別活 動における「役割分担」「協働実践」「自己実 現」の各項目と, BLI の関連性を授業内容から検討し た。例えば「水の安全」では「環境」,「情報化社会」
では「ワーク・ライフ・バランス」が該当した。
SDGs と「探究科」の授業における Agency育成との 関連では,3 つの授業分析をし,関連する項目と潜在 的な教育の要素を確認した。「韓国学校交流」は「現 代的諸課題(国際理解,情報,環境,福祉・健康)」
表 5 BLI と SDGs の共通項目
(OECD 2019 より筆者作成)
OECD Better Life Index SDGs
1. 仕事 8. 働き甲斐も経済成長も 9. 産業と技術革新の基盤を作ろう 2. 所得 1. 貧困をなくそう
2. 飢餓をゼロに
10. 人や国の不平等をなくそう 3. 住居 1. 貧困をなくそう
3. すべての人に健康と福祉を 4. ワーク・ライフ・
バランス
3. すべての人に健康と福祉を 5. ジェンダ一平等を実現しよう 8. 働き甲斐も経済成長も 5. 生活の安全 16. 平和と公正をすべての人に 6. 主観的幸福 すべての目標に関連している 7. 健康状態 3. すべての人に健康と福祉を 8. 市民参加 5. ジェンダ一平等を実現しよう 9. 環境の質 6. 安全な水と卜イレを世界中に
7. エネルギーをみんなにそしてクリーンに 12. つくる責任,使う責任
13. 気候変動に具体的な対策を 14. 海の豊かさを守ろう 15. 陸の豊かさも守ろう 10. 教育 3. すべての人に健康と福祉を
4. 高い教育をみんなに 5. ジェンダ一平等を実現しよう 11. コミュニティ 11. 住み続けられるまちづくりを
17. パー卜ナーシップで目標を達成しよう
表 6 主体的学習態度と Better Life Index の共通項目
(Journal of Engaged Pedagogy,p10,Vol.19,
No.1,2020)
Correspondence Table with Fostering an Attitude to Work on Learning and Better Life lndex
Elements that make up the perspective
Housing Income Jobs Community Education Environment Civic Health Life Safety Work-Life Not applicable
PICS
Independent ● ●
Inquiry collaboration ●
Good qualities ● ●
Social participation
EA
Roles and
responsibilities ● ● ●
Collaboration practice ● ● ● ●
Self-realization
の「国際理解」,「わらじ講習会」と「菊まつり(学校 の伝統行事)」は「学校の特色に応じた課題(地域・
伝統・文化など)に該当する。学校交流は SDGs の 10
「人や国の不平等をなくそう」等に該当し,わらじ講 習会は 12「つくる責任,使う責任」等に該当した。
「菊まつり」では火を起こして調理することが 7 「エ ネルギーをみんなにそしてクリーンに」等に該当した。
Agency 育成については,学校交流が「多様な他者と
の協働実践」,わらじ講習では総合的な学習の時間で 着目される「主体的,探究協働,互いのよさ」,特別 活動で着目される「役割責任,協働実践」が生徒エー ジェンシーとして育成が見とれた。菊まつりでは「役 割責任,協働実践」を見とることができた。
2018 年 4 月より,プロジェクトでは,OECD日本イ ノ ベ ー シ ョ ン 教 育 ネ ッ ト ワ ー ク( ISN: Innovative
Schools Network )事業との連携も推進している。 ISN
事業は主に中等教育を対象とし,国際協働によるプロ ジェクト学習を主体とした研究・実践活動を展開して いる。2020 年 8 月に海外の中高生等も参加する大規 模な生徒国際集会では「生徒国際イノベーション・
フォーラム 2020」の開催が京都で予定されていたが,
コロナ禍でオンラインによる開催となった。集会とし て開催された前回の 2018 年には「社会を変革するた めのコンピテンシー」と「生徒エージェンシー」につ いての議論がなされた。2020 年の目標は「2030 年の 未来の学校の枠組み・指標作りの第一歩として世界中 の生徒と教師で『学校のWell-being』を考え,目の前 の学校の変化の可能性と課題を明らかにすることです。
『個人の Well-being 』と『社会の Well-being 』を実現す る学校をめざします。」とされ,「未来の学校の枠組 み」と「学校の Well-being 」への視点が示された。
BLI のそれぞれの項目ごとに大学生や教師などの大 人と中高生との 5 ,6 人のグループ分けがなされ,例 えば「ワーク・ライフ・バランス」などについての現 状と課題について,2 日間かけて話し合った。コロナ 禍における休校などに関連する「休校中,あなたの学 校は生徒の学びの質や, OECD よりよい生活の指標
(BLI)に基づいた Well-beingをどのように保障しまし たか?」などという質問もなされた。
これまで特別活動や総合的な学習の時間では個人の Well-being と社会の Well-being の観点から Agency やコ ンピテンシーの育成を検討してきたが,国際交流活動 のような現代的諸課題や,伝統文化の継承など学校独 自の課題に取り組むことは「学校の Well-being 」にも つながると考えられる。
今後は BLI と SDGs に基づいた生徒の Well-being か
ら学校の Well-beingを目指すことにより,Agency とコ
ンピテンシーを多角的に伸ばすことが期待される。
(下島泰子)
5.まとめ
本研究では,今日的視点から特別活動と総合的な学 習の時間で育成される Agencyとコンピテンシーを明 らかにするために, OECD 及び文部科学省の視点から 見た小学校の教育実践を再分析した。6 つの研究を縦 断的に比較することで,個別の論文作成時には気付か なかった次の 3 点について新たな気付きがあった。
1 点は,特別活動と総合的な学習の時間でトランス フォーマティブコンピテンシーが育成されていること が明らかになった。八王子市立弐分方小学校の学校行 事では,新たな価値を創造する力( creating new value ) が見られた。八王子市立弐分方小学校では,学校行事 や学級活動で,Agency やCo-agency の育成も図られて いた。東京学芸大学附属大泉小学校で,特別活動と総 合的な学習の時間の融合活動として実施されている探 究活動でも,トランスフォーマティブコンピテンシー が育成され, Agency や Co-agency の育成も図られてい た。
2 点は, OECD が生徒の学習のゴールとしている
Well-being は国連の SDGs と関連していることが明ら
かになり,個人と社会のWell-being が東京学芸大学附 属大泉小学校の探究活動で実践されていることが明ら かとなった。
3 点は, OECD 日本イノベーション教育ネットワー
図 3 Future School(日本イノベーション教育ネットワーク,協力 OECD,2020)
林,他 : 特別活動と総合的な学習の時間で育成される Agency とコンピテンシー
クで目指されている「学校の Well-being」が,特別活 動や総合的な学習の時間の指導と関連することが示唆 された。
なお,具体的に特別活動でどのように社会的Well-
being の達成をめざし,総合的な学習の時間で個人的
Well-being の達成を目指しつつ,「学校の Well-being」
を実現するかということは今後の課題として残された。
(林 尚示)
謝辞
本研究は,東京学芸大学「日本における次世代対応 型教育モデルの研究開発」(文部科学省機能強化経費
(機能強化促進分)における「OECDとの共同による 次世代指導モデルの研究開発プロジェクト」の研究成 果の一部である。ご協力いただきました八王子市立弐 分方小学校,東京学芸大学附属大泉小学校の校長先生,
副校長先生,教諭の皆様,および関係者の皆様に心よ り感謝申し上げます。
参考文献
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林尚示,杉森伸吉,布施梓,元笑予(2018)「小学校学級活動 の授業を評価する方法の開発に関する研究─特別活動の 評価語分析を活用して─」,『教育実践学研究』21,109 120。
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*1 Tokyo Gakugei University (4‑1‑1 Nukuikita-machi, Koganei-shi, Tokyo, 184‑8501, Japan)
*2 Research Organization for Next-Generation Education, Tokyo Gakugei University (4‑1‑1 Nukuikita-machi, Koganei-shi, Tokyo, 184‑8501, Japan)
特別活動と総合的な学習の時間で育成される Agency とコンピテンシー
―― OECD 及び文部科学省の視点から見た小学校の教育実践 ――
Educational Practices in Elementary Schools from the Perspective of the OECD and the MEXT
林 尚示
* 1・元 笑予
* 2・下島 泰子
* 2HAYASHI Masami, YUAN Xiaoyu and SHIMOJIMA Yasuko
学校教育学分野
Abstract
This study re-analyzed educational practices in elementary schools from the perspectives of the OECD and the Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology (MEXT) to clarify the agency and competency to be developed in Extracurricular Activities and Period for Inquiry-Based Cross-Disciplinary Study from a current perspective.
The research question for the re-analysis was “Can the agency and competencies of OECD Education 2030 be developed in Extracurricular Activities and Period for Inquiry-Based Cross-Disciplinary Study?” The research question for the reanalysis was “Can Extracurricular Activities and Period for Inquiry-Based Cross-Disciplinary Study develop OECD Education 2030 agency and competency?” In order to answer this question, the research question is “Can the agencies and competencies of OECD Education 2030 be developed in Extracurricular Activities?” Can Extracurricular Activities develop agency and competency? In order to answer this question, the question is: “What kinds of agency and competencies can be developed in Extracurricular Activities?” In order to answer this question, the sub-questions “What kind of agency and competency can be developed in Extracurricular Activities?” The longitudinal comparison of the six papers revealed three new findings that authors had not noticed when authors wrote the individual papers.
The first was that transformative competencies were being developed in Extracurricular Activities and Period for Inquiry- Based Cross-Disciplinary Study. In the school events at Nibukata Elementary School, the competency of creating new value was being fostered. Agency and co-agency were also fostered in school events and classroom activities at Nibukata Elementary School. At Oizumi Elementary School, transformative competencies were also fostered, and agency and co- agency were also fostered in inquiry activities that are conducted as a fusion of Extracurricular Activities and Period for Inquiry-Based Cross-Disciplinary Study at Tokyo Gakugei University Oizumi Elementary School.
The second point is that well-being, which is the goal of OECD, is related to the United Nations SDGs, and the well-being of individuals and society is practiced in the inquiry activities at Oizumi Elementary School, Tokyo Gakugei University.
The third point was that the “School Well-being” aimed at by the OECD-Japan Network for Innovation Education is
related to the teaching of Extracurricular Activities and Inquiry-Based Cross-Disciplinary Study.
Department of School Education, Tokyo Gakugei University, 4-1-1 Nukuikita-machi, Koganei-shi, Tokyo 184-8501, Japan
要旨 : 本研究では,今日的視点から特別活動と総合的な学習の時間で育成される